約数百年前。重なる開発によって資源の尽きかけた地球で、
人類は「究極のエネルギー発生システムにして夢の永久機関」の開発を試みた。
科学者たちが出した結論は至ってシンプルだが非科学的だった。
「人間の心から生まれる感情の力を特殊な収集装置によって回収。
それをエネルギーに変換する事で発電機大量に用いる事で、人が生きている限り無限のエネルギーを生み出す事ができる」というものだ。
しかし、流石は各国の名のある学者が提唱しただけある。
この計画は、ヨーロッパで実現したのを皮切りに数十年という短い歳月で成功を収めた。
現在の地球は地下深くに埋め込まれた巨大発電機により、
全人類が生活するのに十分なエネルギーを製造する事ができるようになっている。
しかし、この手の話には想定外の問題も付きものだ。
それはシステムの維持に必要な 人間の心のエネルギーが、
「デュエルモンスターズをやっている時に最も安定する」と言うとんでもない結果が出た事であった。
それを機に世界の需要と供給のバランスは一転。
昨今では就職や進学をするにしてもデュエルの腕が重要となっており、
それに伴ったデュエリストの育成とレベルを底上げするために創設された機関まで生まれている。
それほどになるまで、デュエルは単なるエンターテインメントから一気に社会現象まで急成長したのである。
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上、下、左、右。全てがコンクリートに囲まれている部屋の中で一人。
見た目を遥かに凌駕する強度を持つアクリルの壁越しに、機械室の体の男と対峙する。
部屋を出るための条件は一つだけ。あの男を倒すこと。
広い部屋の中には何もなく、唯一の出口は男の背後にしか存在しない。
不知火遊良(しらぬい ゆら)は、男の無表情な顔を見据えつつ考えた。
「(俺は世界中のデュエリストと挑戦したいだけだったんだがな。
何で、こんな事になっちまったんだか…)」
露骨な溜息を吐いていると、天井から男の声が聞こえてきた。
『遊良』
視線を上に向けると天井には監視カメラと集音マイク、そして小型のスピーカーが設置されている。
男の声はそのスピーカーからだ。
『いいかね?最後にもう1度だけ言っておくぞ。
その男は我々が作り上げた対人用デュエルロボットだ。
一応、AIは一般的なデュエリストと同じレベルでプログラミングしている。
とはいえ、素人なら苦戦する事には変わりはない』
「わかってるっての。だから俺はコイツに倒されないような召喚法を持ったんだろ?」
遊良は聞き飽きたと言わんばかりの反応をスピーカーの主に向けた。
スピーカーの先に居る男の名前は、灰原敦(はいばら あつし)。
壮年期を遥かに通り過ぎてはいるものの、
WDFこと全世界のデュエル事情を担う世界デュエル基金の現役のシステム班チーフである。
『そうだ。君に与えた召喚法はシンクロ召喚。
エクシーズ召喚ほど出せるモンスターの柔軟性はない。
しかし、君が手に入れたモンスターなら、彼と十分戦う事ができるはずだ』
デュエルモンスターズの歴史は古い。
デュエルモンスターズを、生みの親であるペガサス・J・クロフォードが生み出した当時、
存在する特殊な召喚法はアドバンス、儀式、融合の3種類のみだったらしい。
その後は中でも融合が独自の進化を遂げ、
それによるゲームバランスの崩壊を防ぐためにシンクロ召喚やエクシーズ召喚が登場。
更に儀式やアドバンス召喚も強化され、ようやく様々な召喚方法が
最近になって日の目を浴びるようになってきたのだ。
『遊良、君が文句を言いたい気持ちはわかる。
でも君はデュエストの身体検査で、サイコデュエリストだという事がわかってしまった。
周りの人に危険を及ぼす可能性がある以上、君は普通の暮らしをする事は出来ないんだ』
サイコデュエリストというのは、
最近になって現れたデュエルに関係した超常現象を引き起こす能力持ったデュエリストの総称だ。
簡単に言うなら超能力デュエリストといった所だろう。
しかし、その出所は全く不明で「永久機関の副作用」「某国の人体実験」など
様々な憶測や都市伝説が世に出回っているのが現状である。
能力を制御できれば多くの人間を救える半面、制御できなければデュエルのダメージをそのまま相手に伝え負傷させてしまう。
またサイコデュエリストによる犯罪事件も僅かながら起きており、それ故に人々から忌み嫌われているデュエリストなのである。
そして、遊良もそのサイコデュエリストの一人であった。
しかし、最初にそれを聞いた時、遊良は耳を疑った。
今までそんな力など一度も発現しなかったからだ。
だが今まで何もなくても未来に発現する事もあり、一概にないとは言い切れないらしい。
何より遊良なんかよりも遥かに頭のいい研究者にそう言われた以上、信じるしかないのだ。
そのためWDFは遊良を親元から引き取り、独自のカリキュラムを教える事でサイコパワーの制御。
そしてサイコデュエリストとしての生き方を教育してきたのだ。
「だーから、わかってるっての。
そんな俺たちが就ける仕事なんざ暴漢の鎮静や治安維持局の支援ぐれえだ。
で、今日はその実力を測るための試験として、こいつをスクラップにしろって事なんだろ?」
遊良は自分用に作られた特注のデュエルディスクを器用に指で回しながら、
スピーカーの向こうに居る敦に話しかける。
『うむ。残念だが ここも厳しい世界でな。常に足切りを行わなければならないのだ。
基金や組織に有益とならない人材は切り捨てろ。と上部からの命令でな』
敦の口調は嘆きに似たものを感じさせた。
恐らく、今まで何度もデュエリスト達に無慈悲な宣告をしてきた前例があるのだろう。
「だったら本気でやんねえとな。ジジイ!ちゃんとカメラ回しとけよ!」
そう言うと遊良はデュエルディスクを腕にかざす。
すると、ディスクは小気味良い音を立てながら装着された。
『わかっている。遊良、健闘を祈るぞ』
スピーカーから聞こえる 敦の声がブツッという音を最後に止まる。
それと同時に、眼の前の男がピクリと反応した。どうやら、敦が電源を入れた様だった。
更に遊良の利き腕と反対の腕につけたディスクが起動音と共に光り輝く。
「ひっさびさのデュエルだ、血が騒ぐぜ!覚悟しろよ!?デュエル!」
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決着がつくのは意外と速かった。
「バトルだ!《神獣王バルバロス》を攻撃!『バークアウト・ストーム』!」
遊良のモンスターから放たれた一撃が、バルバロスの巨躯を貫く。
そして超過ダメージがデュエルロボットのライフを根こそぎ奪っていった。
デュエルロボLP:1200-1500=0
「ギ、ギギギ、ギジ、ギ…」
ライフが0になった途端、ロボットは全身から力が抜けたかの様にその場に崩れ落ちた。
「ちっ。意外としぶとかったな…」
遊良は大きく息を吐くと脱力する。久しぶりのデュエルは黒星だった。
こちらも早々にライフを半分失ったが、それ以降は危なげなく相手を追い詰め、
無事に相手を倒す事に成功したのである。
『よく頑張ったな。合格だよ、遊良』
スピーカーから再び敦の声が聞こえると、
遊良はこのデュエルは最初から敦達に監視されていたのを思い出す。
「ざっと、こんなもんだっての。舐めんなよジジイ」
度重なるジジイ扱いに起こるそぶりも見せず、敦は遊良に労いの言葉をかけた。
『ああ、本当によくやった。心配は杞憂だったようだね。
それで早速だが、君に伝えたい事があるんだ。
麻衣ちゃんと一緒に私のオフィスに来てくれるか?』
「あ?麻衣と?」
首をかしげる遊良に対して敦が説明する。
『デュエルロボットを撃破した事で、君はWDFの一員として正式に認められた。
だから、これから君の配属先を伝えたいんだ』
「成程な。わかった」
遊良は頷くと、開いたドアを通り抜け廊下に出て、敦のオフィスに向かった。
「ったく、飯ぐらい食わせてから呼べよ。ジジイめ…」
左右共に似たような廊下が続く場所を歩きつつ、そんな悪態を吐いていると。
「遊良くん」
背後から女性の声が聞こえてきた。
反射的に振り向くと、そこに立っていたのは一人の少女。
遊良と同じ訓練用の服を着ており、整った顔は大人しそうな表情を浮かべている。
「お、麻衣。丁度良い所で会った。ジジイがオフィスに来いって言ってたぞ」
「もしかして、さっき敦さんから言われたのかな?
ボクの方でも敦さんから、遊良くんと一緒に来てって言われてきたんだ」
彼女の名は榛名麻衣。遊良と同じサイコデュエリスト。
遊良とは同じ時期にWDFに入り、かれこれ半年の付き合いになる。
元々遊良も麻衣も人と積極的に関わり合う性格ではないのだが、
とある訓練時にタッグデュエルでコンビを組んでから、
ことあるごとに雑談や食事を共にするようになっていた。
「なら、話は早いか…。飯も食ってねえし、さっさと行こうぜ」
「そうだね。ボクもお腹減っちゃった」
遊良と麻衣は互いに頷きあうと、敦のいるオフィスへと足を向かった。
これから先に何が待っているかなど考えもせずに。
皆さんはじめまして。
野良デュエリストの空です。
今回、このような拙いSSをみて頂きありがとうございました。
これからも少しずつ精進していきますので、どうか生ぬるい目で見守って頂ければ幸いです。