やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
7月も終わり、夏休みも残り3週間程度となった今日、俺は隣にパンダのパンさんを置いてゲームに没頭しているがさっきから隣からの殺気でヤバいヤバい。
ぬいぐるみから殺気を感じるとか俺もうヤバくね?
雪ノ下に渡そうと思っても俺が外出しないので遭遇するはずもなく、小町にも聞いたが今回俺があてたタイプはお気に召さなかったらしく、さらにはカマクラにまで威嚇される始末。
そんなわけで俺のゲームの観客になってもらっているのだ。
「ん?」
その時、パンさんにひっかけていたスマホが震えているのに気付き、画面だけを見てみると見覚えのない番号から電話が来ていたので無視した。
これでいい。知らないアドレス・番号からの連絡などはすべて無視するに限る。ソースは俺。スマホに変えたばかりの時に知らない番号から電話が来ていたので何となく出たが最後、メンヘラっぽい女性から延々と電話が来るようになってしまったのだ。まぁ、何とか着拒したけど。
「今度はメール……☆静 静……」
一発で相手が分かったこともあってかとりあえずゲームを中断し、メール受信ボックスを開き、送られてきたメールを見てみると俺の予想通り、平塚先生からだったが内容をろくに見ないままスマホをテーブルに戻した。
これでいい。知り合いからのメールなど無視していればいいのだ。あとは夜遅くにごっめ~ん、携帯の電源切れてた~とか送っておけばいい。ソースは俺。委員会で組んだ女子と仕方なくメールアドレスを交換し、翌日の委員会についてメールを送ったらそれが帰ってきた。滅びろ。
「…………は?」
直後、スマホがガタガタ数秒間継続して震え始め、次々にメールが送られてくると同時に着信までもがどんどん入ってきた。
え、なにこれ。どこの着信アリ?
そのガタガタは1分ほどで止まったがあまりの衝撃に思わずスマホを手に取り、画面を確認すると全部が平塚先生からだった。
『平塚静です。メール見たら返してください……奉仕部の夏休み中のことに関してなのですぐに、出来れば今すぐにメールを返してくれると助かります……もしかしてまだ寝てますか(笑)。比企谷君、あまり長時間のゲームは体によくありませんよ 電話に出て 電話でろ』
「な、なんの陰陽師メール?」
そのあまりの長文さに恐怖を抱きながらメールをさかのぼっていくと全てが共通して夏休み中に奉仕部でボランティア活動をするからそれに参加しろという内容だった。
敢えて言おう……断る!
ただでさえ俺の夏休みゲームパラダイスは壊されかけているんだ。こんな長期間家を出ることなどあってたまるものか。夏休みはゲームのためにある物なんだよ。もう頼むから夏休みじゃなくてゲーム休みにしてくれねえ?
その時、ドタドタと足音が聞こえたかと思えばリビングの扉が勢い良く開かれ、下着の上から俺のおさがりのTシャツを着ただけの小町が入ってきて冷蔵庫からよく冷えた麦茶を一気に飲み干した。
「ぷっはー! やっと勉強終わったぁぁ~」
「おめでとさん」
小町はカマクラにキスの嵐を降らせながら肉球をプニプニする。
俺がやったら平気で猫パンチしてくるくせに小町がやったらなんであんな幸せそうな笑みを浮かべて甘んじて受け入れてるわけ? 俺猫にも嫌われてるの?
「ねえ、お兄ちゃん」
「お?」
「小町は凄く頑張って勉強を終わらせました」
「そうだな。読書感想文も終わったんだし、良かったじゃん」
「そうそう……なので小町にはご褒美が必要なのです」
お前はOLか。自分が頑張ったからご褒美を与えるなんてデブまっしぐらの行動じゃないか。何かを達成したら美味しいものをご褒美として与え、また頑張ったら与える。そのままデブ街道まっしぐらコースだな。
「あ、そう。食べ物以外にしておけよ。デブになるから」
「なのでお兄ちゃんは小町と千葉に行かなきゃいけないのです」
「なんかすげえ飛距離のジャンプしたぞ。鳥人間コンテストに鳥が参加するくらいぶっちぎりのな」
そう言うが小町は脹れっ面を浮かべ、俺をジトーっと睨み付けてくる。
どうやら俺にはNOという選択肢は内容だがそんなもの新たに作り出せばいいことであり、強制イベントではないので俺は喜んで回避しよう。
「小町だけで行って来いよ。俺ゲームで忙しいから」
「…………」
「小町?」
ゲームに集中していると突然、小町が何も言わずに俺の背中に抱き付いてきた。
後ろを振り返り、小町の様子を見るが顔を背中にうずめているので顔までは見えないがどこかその雰囲気は悲しそうなものに感じた。
「……小町、お兄ちゃんと旅行……行きたいな」
「……なんでまた」
「だって今行かないと……お兄ちゃん、ずっと家の中にいると思うし小町も受験生だから」
小町は来年、総武高校を受ける受験生だ。自ずと勉強が中心の生活へとシフトしていき、今の様にテレビを見せろなどという言い合いはできなくなるだろう。
その前に楽しい思い出を作っておこうというわけか…………はぁ。
心の中でため息をつき、セーブしてからPF3の電源を落とし、後ろを向いて小町の頭を優しく撫でた。
「分かったよ。行く……今回だけだからな」
「いぇぇーい! じゃあ動きやすい恰好に着替えてね!」
さっきまでの悲しそうな雰囲気はどこへ消えたのか、まるで服を脱ぐかのように鮮やかに雰囲気を払拭し、満面の笑みを浮かべて小町は部屋へと帰っていく。
……嫌な予感がする。
とりあえず適当にTシャツを着てジーパンを履き、靴下も履いてPFPお出かけセットを袋に詰め込んでいると二つの大きなカバンを持った小町がリビングに入ってその二つを床に置いた。
…………この短時間でこの二つを用意できるか?
置かれたカバンは膨れ上がるほど荷物が入れられており、チャックに至っては完全に閉まり切らずに少し開いている始末だ。とりあえずそこにパンダのパンさんをどうにかして詰め込む。
「じゃ出発進行!」
「……はぁ」
2人のカバンとお出かけセットを担ぎ、家を出て鍵を閉め、歩きで駅へと向かう。
何でこういう思い物を持つときって男子が率先して持たなきゃいけないって言う愚かな風習があるんだろうな。別に細身の女子は良いとしてもがたいのでかい女子に対しても適用するところが分からん。
明らかに俺よりも力がある女子がでかいものを見てあんたもってっと言われた時はモンスター以外に始めて殺意に近いものを抱いたな。いやお前が持てよって。
「お兄ちゃん、またゲームもってきてる」
「良いだろ。ていうかお前スマホをゲーム以外に何使ってるんだよ」
「何ってもちろん小町は受験生なので勉強アプリを入れてるよ。あ、あと日記にお兄ちゃんのゲームオタクっぷりを書き残したり。あ、今の小町的にポイント高い!」
「どこがだ。俺からすればダダ下がりだ」
「ていうかお兄ちゃんゲームアプリ入れすぎ。ほとんどゲームじゃん」
「はぁ? スマホなんてゲームアプリ入れて何ぼだろ。あれはゲーム機98%、残りがその他だぞ」
そう言うと小町は肩をすくめ、ため息をつく。
事実、俺はどれだけレビューで不評されていようが好評だろうが無料のアプリは大体、ダウンロードして一通り遊ぶと続けるか否かを選ぶ。結局、残ったのはダウンロードした全体の68%くらいだけど。
まあ俺の主なゲーム機はPFPとPF3だからな。
「でもお兄ちゃんほんと飽きないよね。小町なんてゲームしてないよ?」
昔は小町もやっていたのだがすべて卒業し、全て俺に引き継がれたのである。まあその原因は同じ日に買ったのに俺がその日にクリアしたせいだけど。
あのころはよく母親も小町に貸してあげなさいとか言ってたけどもう言わなくなったよな。
そんなことを思いながら片手でスマホゲームをしつつ歩いていると駅に到着し、改札口へ行こうとすると小町に服の袖をクイクイっと引っ張られた。
「お兄ちゃんこっちこっち」
「は? 千葉行くんだから電車だろ。違うのか?」
俺の問いに答えないまま小町がバスロータリーの近くへ向かうので俺もそれに付いていくと前方にワンボックスカーが止まっているのが見え、それにもたれ掛っている黒いサングラスをかけ、裾を結んだ黒いTシャツ、デニムのホットパンツ、靴は登山靴のようなスニーカーをはいた女性がいた。
その女性は俺の方を見るとサングラスを外した。
「…………あ、ヤバい。俺なんか調子が悪いから帰るわ」
「まぁ、待て。比企谷」
後ろを向いた瞬間に肩をガシッと掴まれ、恐る恐る後ろを振り返ると黒い笑みを浮かべた平塚先生が指をパキポキと鳴らしている。
「な、何故ここにいるのでしょうか」
「メール見てないのか。奉仕部の合宿に行くのだよ。ボランティアという名のな。以前のこともあるのであらゆる手を使って君の妹さんに連絡をつけたのだよ」
いったいどういう経路をとれば小町のメルアドに到着するのですかね。
「ヒッキー遅いし」
聞き覚えのある声が聞こえ、ため息をつきながら振り返ると雪ノ下と由比ヶ浜がコンビニの袋を持って立っていた。
奉仕部の活動で行くんだからこいつらがいて当たり前か……でもなんで小町も呼んだんだ?
「結衣さん! やっはろ~!」
「小町ちゃん! やっはろ~!」
小町は由比ヶ浜と手をつなぎ、ブンブンと振り合う。
「雪乃さんもやっはろ~!」
「やっ……こんにちは、小町さん」
「お前らいつ交流したんだよ。ていうかその挨拶アホっぽいからやめろ」
マジでいつから由比ヶ浜と小町は名前を呼ぶ間柄になったんだ……ハァ、これもリア充の特性なのかね……でもよく考えたらこいつら一回会ってるよな。お礼に来た時に。
「小町も呼んでくれてうれしいです!」
「あたしもゆきのんに呼ばれたんだけど小町ちゃんも呼ぼうってことになったんだ!」
「そうなんですかー! 雪乃さんありがとうございます! 大好き!」
突然の告白に雪ノ下が一瞬たじろぐ。
「…………あれを制御できる人が必要でしょう」
「おい。俺は暴走チップを搭載したマシーンか。どこの獣化だ」
「小町も早くあれを引き継がせたいんですけどね~」
3人して俺をジトーっとみてくるな。もう少しでモテ期かと勘違いしちまうところだろうが……ま、そんなことはないんだけどな。
「暑いんで早く行きましょうよ」
「まぁまて。あと一人くるんだ」
一人? 誰が来るんだよ。ていうか俺超帰りたいんですけど。
「八幡!」
前言撤回。俺はこの時のために小町に呼ばれたのだろう。
触れたものを一瞬で浄化し、傷を癒してくれるシャイニングスマイルを辺りにふりまきながら戸塚彩加は少し汗をかいて俺に向かって小走りでやってくる。
「あっ! 戸塚さんやっはろ~!」
「やっはろ~!」
「だからお前らどこで交流してんの? ねえ、お兄ちゃんの知らないところで友達増やすの辞めてくんない? お兄ちゃん哀しくて泣いちゃうよ」
俺の小言など無視して小町はきゃぴきゃぴと戸塚と触れ合う。
「全員そろったな」
「全員? 一応、聞きますが材木座は?」
奉仕部に何らかの関係がある小町と戸塚が呼ばれたと言う事は一応、関係がある材木座も呼ばれていてもおかしくはないんだがな。
「彼も一応読んだのだが激闘がどうの締め切りがどうのコミケがどうのとで断られた」
「…………あー! 俺も今日からランキングイベントが始まるから帰らなきゃー! じゃあ先生ー! さよ」
「バイスクロー!」
「ヘブン!」
頭に手を叩き付けられると同時にわしづかみにされ、無理やり前を向かされると大魔王サタンが目の前にいた。
「行くぞ」
「……ひゃい」