やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
「……やろ」
「……いいぞ」
そう言うと留美は隣に座り、PFPを起動させる。
「持ってきてたのか。なんでしないんだよ」
「だってゲーム禁止だし」
おっと、それは俺のせいだったな。留美、すまない。
「何やる。お前の緊クエやるか」
「……うん」
通信集会所へと入るとルミルミというプレイヤーが双剣を担いで集会所で待っていた。
そのプレイヤーの前に立って〇ボタンを押すとプレイヤーのステータスが表示される。
ほぅ。ここまで育てるとはこいつも玄人レベルに入りかけるところにいるといったところだが俺からすればまだまだ甘い。装備のレベルはカンストしてないし、能力値も適当に振り過ぎだ。
「……神八……うそ」
「何がだよ。鶴見留美」
「な、名前でいい」
さっきまでのぶっきらぼうな言い方はどこかへ消え、何故かしおらしく、年相応の言い方になった。
よく分からんがまぁ、関係ないか。
「留美、お前何で行く」
「え、えっと双剣で行こうかなって」
「双剣ね。悪くないチョイスだな。この緊クエのボスは足元攻撃してたら結構転げ落ちるし、攻撃もしやすいけどその分、相手の攻撃も当たりやすい。まあ、鬼神化すれば関係なしにぶち込めるけどこの防具のレベルじゃその作戦もあまりお勧めしないな……仕方ない。今回はサポートに回るか」
そう言い、一度集会所を抜けてホームに戻り、ソルジャーからガンナーへと切り替え、全種類の弾丸をカンスト状態までアイテムBOXにぶち込み、もう一度集会所へと向かう。
「…………こ、このガンナー装備って全てのクエストをガンナーで最高難易度でクリアした際に貰えるやつ」
「簡単だぞ? 一カ月でやった。とりあえずクエスト貼れよ」
「う、うん」
少し待っていると雪ノ下に肩をチョンチョンと叩かれる。
「なんだよ」
「……貴方、自分がやることは」
「忘れてねえよ……まあ、見てろって」
そう言うと画面にクエスト募集が表示され、参加するを押すと自動的にクエスト画面へと向かう。
「なあ、留美」
「なに……えっと」
「八幡でいい」
「八幡」
「ん。お前さ……今の現状どう思ってんだよ」
ボスまで向かう途中でそう話しかけるが留美の口からは話されず、チャット機能を使って俺の画面に表示される。
……どうでもいい……か。どうでもよかったら今にも泣きそうな顔しないだろ。
チャット機能を使い、留美へメッセージを送ったと同時にボスがいるエリアに侵入し、BGMが壮大なものへと変わってボスの咆哮が聞こえてくる。
「留美。お前は回復とか考えずに斬りまくれ」
「う、うん」
留美からかなり離れた場所に立ち、周辺にいる雑魚を蹴散らしてからボスに弾丸を撃ち込みつつ、留美の体力も見ていく。
留美の体力が半分を切ったところで回復弾レベル4を二発連射して充てると一気に体力が全開とまではいかないが7割ほどにまで回復した。
「す、凄い」
「そのままダメージ気にせずに切り捲れ。あ、でもちゃんと攻撃は避けろよ」
留美がボスを至近距離から切裂いていき、俺が遠距離からボスに弾丸を打ち込んでいく。
留美の体力が半分を切りかけたら回復弾を打ち込んで回復させ、ボスが飛び立とうとすれば翼を中心に拡散弾を打ち込み、地上に叩き落す。
チラッと留美を見てみると初めて会った時の陰鬱な表情ではなく、楽しいという感情を顔全体に表している笑みを浮かべている。
………………雪ノ下や葉山はこの方法を嫌うだろうが今回は俺の独断と偏見で行く。
ボスの動きを見て麻痺弾を数発連続で打ち込んでやるとボスの動きが止まり、感電しているように電気を発しながらビクビクと痙攣する。
「叩き込むぞ」
「うん!」
ボスが痺れて動けないでいる間に持っている弾丸を全て消費する勢いで放っていく。
留美が最後の一撃をボスに打ち込んだ瞬間、アングルが全体を映すように変わり、クエスト完了を俺たちに知らせた。
「やった! 倒せた」
「剥ぎ剥ぎ」
「あ、ずるい」
そう言いながらも留美の顔には笑みは消えていない。
クエストが終了し、報酬とリザルト画面が画面に表示され、その数秒後に暗転した。
「ふぅ……なんか疲れた」
「かっかっか。この程度でつかれるとはまだ子供よのう」
「ていうかレベルも武装もカンストしてる八幡の方がおかしいと思う」
「ふん…………で、答えはどうなんだよ」
「…………どうにかしたい」
ポツポツと紡ぎだすように発せられた留美の言葉の節々には悲しみが込められていた。
「でももう無理……みんな助けてくれないし、先生だって何とかするって言って何もしてくれないし」
それは考えているだけだ。自分が苛められたことがないからどうすればいいか分からない。でも他教室の先生に行ってしまえば自分のクラスにいじめがあることがばれてしまう。そして結局、自分で考えるか分からないという堂々巡りをしているだけだ。まぁ、無理に突っ込んでかき回すバカな教師に比べたらマシだけど。
「俺たちがそのいじめを消すことはできない」
そう言うと一層、留美の悲しみが増幅し、顔を俯かせる。
「……でもお前がいじめを消すことはできる」
「え?」
「逃げればいい。ゲームに」
そう言うと今まで黙っていた雪ノ下が何か言いたそうな顔をするがこっちには来ない。
「…………でも」
「良いんだよ別に。逃げたって……全員が全員、いじめに勝てるほど強くねえんだ。ゲームに逃げてそれに没頭してあいつらのことを頭の中から消せば自然と消える。ソースは俺」
ゲームに逃げることに抵抗感があるのか留美は首をうんとは動かさない。
「苛めなんて外の連中がどうにかして解決できるものじゃない……自分でどうにかするしかないんだよ」
「っっっ…………」
「俺はゲームに逃げた……留美、お前はどうするんだ。ちなみに真っ向からぶつかった場合、あいつになる」
「私は…………」
留美は雪ノ下と俺を交互に見ながら考える。
次の動き方次第で人生そのものが大きく変わると言っても良い。ゲームに逃げれば俺みたいになり、何物にも逃げずに真っ向から向かえば雪ノ下の様になる。完成予想図はもう目の前にある。
後はそのどちらを手に入れるかだ。それを決めるのは俺達じゃない。留美だ。
「私は…………」
留美は俺の手にそっと手を伸ばし、あと少しといったところまで伸ばしたのはいいがそこで手を止めた。
「…………八幡。私…………逃げない」
「…………」
「逃げずにみんなと話す。自分で何とかする。だって……自分でどうにかするしかないんでしょ?」
「…………そうか。だったら俺のやれることは無い。雪ノ下先生に相手を論破する術でも教えてもらえよ」
そう言い、PFPに視線を落とすと俺の横から留美は去り、雪ノ下のもとへと向かう。
少し戸惑った様子を浮かべていたが川の傍に二人で座り、話しを始めたところで俺は持ってきていたイヤホンをPFPに刺し、周りの音をカットする。
苛めはなくすことはできない。人間が人間でいる限り、争いが消えないのと同じように人間が人間を止めない限りいじめはなくならない。だから遭遇した時にそいつでなんとかしなければならない。
外部の人間が手を加えてはいけない。これは鉄則だ。手を加えるのではなく、被害者に助言をする。
苛めは当人がどうにかしなければ永遠に解決することは無いんだ……永遠にな。もしも当人が逃げを選択するのであれば不登校や引きこもりとなり、逃げを選択しないのであれば留美の様になる。
俺は前者を引いた。だからこうなった…………俺には強さがなかったんだ。
その時、視界の上の方に2人の靴が見え、顔を上げた。
「終わったわ…………今から行くらしいわ」
「そうか…………ま、頑張れ」
そう言いながら頭を優しくポンポンしてやると恥ずかしいの顔を赤くして俺の手を軽く払い、ゆっくりと、しかし強く歩いていく。
俺達もその後ろを付いていく。
どうやら既に休憩時間に入っているらしく、ビジターハウスの前に留美の班員がいた。
俺達は遠目に見ながら留美たちがビジターハウスへ入っていくのを確認し、ビジターハウスへ入ろうとするがふと雪ノ下の姿を見て思った。
「お前、その格好でいいのか」
「あら、パレオは結ぶ位置を変えればワンピースとしても使えるのよ」
そう言いながら結び目をゆるくし、位置を高くしてもう一度結ぶと少し肩を大きく出しているワンピースに変わった。
パレオ、マジパねえ。
そんなことを思いながらビジターハウスへと入ると食堂に留美たちの姿を見つけ、ドアの間に張り付き、中の会話を耳を立てて聞く。
「なんか用? 私たちまだ遊びたいんだけど」
「だよね~。留美は1人でいいじゃん。どうせ誰もいないんだし」
「…………ねえ、なんで私を苛めるの」
意を決し、留美がそう言うと思わぬ反撃にメンバーは驚くがすぐに平静を取り戻す。
「はぁ? 別に苛めてないじゃん。遊びだよ遊び。ね?」
「うん。遊び遊び」
「……筆箱捨てたり、上履き捨てたりするのが遊びなの? 仁美の上履きなくなった時、皆で犯人捜しして犯人のこと口々にひどいって言ってたじゃん。貴方達もその犯人と同じだよね」
……何故か留美の論破してる様が異様に雪ノ下に見えて仕方がない。
「それとこれは」
「違わないよね。同じだよね。私の筆箱がゴミ箱から見つかった時笑ってたよね」
「だ、だって留美がはぶったから」
「そうだね……じゃあ、みんな同じだね。皆もはぶってたもんね。私も悪いし皆も悪い……じゃあ、なんで私の時だけ苛めるの? みんなの時はすぐになくなったのに」
留美の的確な抉りにより、何も言えないメンバーは下を俯く。
マジで雪ノ下さんの論破術ぱねえっす。
「みんなで先生に謝りに行こうよ。ハブってご免なさいって」
留美がそう言うとメンバーたちの表情が凍り付き、肩をびくつかせる。
もうすでに精神的な成長が始まっているとはいえ、まだ小学生である彼女たちにとっては先生という存在は鬼のように怖い存在らしい。
「それでハブった子たち皆にも謝りに行こうよ。私もみんなも悪いんだから」
「な、何言ってんの鶴見。こんなのただの遊びじゃん。何マジになってんの?」
強がりを見せるがどう見てもその顔には恐怖の色が見える。
「遊びだったら人のもの勝手に捨てていいの? 人の上履き隠していいの?」
「も、もういこ皆!」
1人の声で全員が出口へと向かってきたので俺達は曲がり角に姿を隠し、そいつらがいなくなったのを確認してから教室に入ると留美が残っていた。
「よくできたわね」
「お前の論破術俺にも教えてくれよ」
「嫌よ。貴方に教えたら善からぬことに悪用するでしょうし」
うわぉ。犯罪者予備軍ありがとうございます!
「…………八幡」
俺の名を呼んだかと思えば留美は俺に抱き付いてきた。
「お、おい…………」
離そうとするが留美の肩が小刻みに震えているのが見え、離そうにも離せず、留美が落ち着くまでその頭を優しく撫でつづけた。