やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
炬燵=HUMAN EATERだと俺は思う。傍から見ればただ単に遠赤外線を発する装置を積んだテーブルに布団を被せているようにしか見えないだろうが中に足を入れてみればあら不思議。まるで毒沼に何の装備もなしに踏み込んだかのように俺の真面目HPが1ずつ減っていくのだ。それもどこのポイズンファラオだよ! って突っ込みたくなるくらいの速度でだ。あれエリア奪っておいて最後列のマスに設置したら破壊する術がほとんどないもんな。そこに毒パネルも入れて見ろ。赤き剣士FZでさえ、ノーダメージで勝てるわ! そんな状態以上になってしまっている俺は炬燵に下半身を入れ、横になりながらPF3をしている。
その時、俺の足に柔らかい感触が触れた。
「小町だろ」
「ピンポーン! お兄ちゃんの足ってあったかいし」
そう言って小町は勉強しながら俺の足に自分の足を絡ませて来る。
「お前勉強しながら炬燵に入るのはよくないぞ? そのままウトウト寝るからな」
「ゲームしてるお兄ちゃんの方がよっぽどよくないって小町思うな」
「馬鹿言っちゃいけねえ。炬燵+ゲームは常識だぞ?」
そう言うと小町はハァとため息をつくと炬燵の中からカマクラを取り出し、ウリウリとシャーペンの蓋の方で快楽部位を刺激するとカマクラは幸せそうな表情をしつつ、小町の足に乗り、ごめん寝しだす。
なんかごめん寝スタイルって緊張感が全くない時に起こるんだってな。
「ただいまー」
「あ、お母さんお帰り」
「お帰り。親父は?」
「さー?」
ひでぇ。それが愛した男を心配する嫁かよ……まぁ、もう何十年と一緒にいたらどうでもよくなるか。
「あ、そうだ。八幡、あんたパーティーバーレル予約しといて。あとケーキも」
「はぁ? なんで俺? 俺クリスマスランキングで忙しいんだけど」
「はぁ? あんたケーブルぶち抜くぞ」
「すみませんお母様。ふざけたこと言って済みません。だからケーブルを抜こうとしないでぇぇぇぇ!」
ケーブルを掴んでいるおカンに思わず炬燵から抜け出して土下座をすると許してくれたのかケーブルを離し、仕事が入っているであろうカバンを部屋へと運んでいく。
「あ、ごめん。今お金ないからあんたのお小遣いから出しといて。あとで渡すから」
「えいえい」
近くに置いてあるスマホを手に取り、あらかじめ登録しておいた番号に電話を掛けると元気のいい店員の声が向こう側から響き、パーティーバーレルの予約の旨を伝えると住所と電話番号を聞かれ、最後に名前を伝えると完成予定日を知らされ、そこで電話を切った。
「それくらいなら私やるのに……ていうか電話しながら足でコントローラー捌かないでよお兄ちゃん」
「別にいいだろ。お前は受験生なんだから勉強頑張れ」
そう言うと小町は嫌そうに頬をふくらます。
「受験生に頑張れはダメなんだって」
「じゃあなんていえばいいんだよ」
「そこは愛してるって言わなきゃ」
「愛してる。だから小町勉強やれ」
そう言うと小町から座布団を投げつけられ、思いっきり顔面に直撃した。
翌日の放課後、俺は珍しく教室に残ってゲームをしていた。
会合が始まる時間までまだ少し時間が残っているためだ。
海浜側と総武高校側のテンションの差は主催者側と協賛側という立場もあるだろうが大きな要因はまだ一色が他の生徒会メンバーとの距離感を取りあぐねていると言う事だろう。一色の周りに同学年のメンバーが少ないと言う事もあって声をかけにくい。それはメンバーも同じだ。だからそこで話をスムーズにできなくなり、どうしても不協和音が出てしまう。
もちろんそれを消すようには努力しているんだろうがそれも空回りしているのだろう。
「博士。これ似合いますか?」
「フォルテ! ってえ、海老名さん」
またもやオタク故に突っ込んでしまい、慌てて振り返るとそこにはグヘヘヘといけない笑みを浮かべている海老名さんの姿があった。
「フォル×コサもありだよね!」
「さ、さぁ?」
「つーかヒキオ最近、結衣となんかあったわけ?」
「由比ヶ浜と? 別に何もないけど」
そう言うが三浦はどこか俺を疑っているのか眉間に皺を寄せて俺を睨み付けてくる。
「なんもなかったら結衣、あんたの方ずっと見ないんだけど」
「…………別に何もねえって」
「でもヒキタニ君、部活行ってないの? 今だって」
「まあ、俺奉仕部辞めたし」
PFPしながら海老名さんの喋っているのを遮って言うとそれ以上何も俺に追求せずに海老名さんも三浦も教室から出ていった。
もう教室には俺しか残っていない。
それから少ししたときに顔を上げてみると壁にかけられている時計がいい具合の時間帯を示していたのでPFPを閉じ、駐輪場で自転車に乗り、コミュニティセンターへと向かう。
結局のところ、俺は奉仕部にいて変わったと思い込んでいたんだ。でもふたを開けてみれば変わっているはずもなく、むしろ酷くなっている。
駐輪場に自転車を止め、入り口に向かって歩いている時に後ろから衝撃が来た。
「せーんぱい」
振り返ると背中あたりに一色いろはの姿が。
うわぁ、あざといな……なんか策略ありきの抱き付きって感じしかしない。小町なら抱きしめてやるのに何故か一色を見ていると抱きしめる気にもならん。
「先輩、反応なしってひどいです~」
「お前のあざといし……今日もか……ほれ」
「ほぇ?」
そう言いながら一色が持っていたペットボトルやらがいっぱい入ったコンビニの袋を取って持ってやると一瞬呆けたような表情をするがすぐに頬に手を当ててほほ笑む。
「うわぁ。あざと」
「素ですよ、先輩」
どっちが素だかさっぱり分からん……別にいいや。
荷物を持ち、昨日と同じ部屋に入ると海浜側の連中がガヤガヤ喋っている横で総武高校の連中が1つに集まってまるでお通夜の様に一言も声を発さずに座っている。
分かる分かる。2人組で話し合ってくださいって言われたらこうなるよな。特に学期初めの知らない人と組んだ時とか。
「あ、いろはちゃん」
「お疲れ様ですー」
どうやら俺達が最後だったらしく、俺達が座ったのを確認すると玉縄が立ち上がって号令をかけた。
まず最初に俺達が作成して提出した議事録を見て疲れ目なのか眉間を摘み、少ししたところで口を開いた。
「まだちょっと固まってないから昨日のブレストの続きと行こうか」
ちょっとどころかまだ液体にすらなってないんですがねぇ。議事録だって抽象的かつ箇条書きみたいなことし書けなかったし。
「もっと派手なこととかしたいよね」
「あ、それあるある!」
折本は俄然やる気満々の様子で前のめりになりながら賛同するとマックブックエアをいじっていた玉縄がそれを聞いて何かに気づいたのかハッとした表情を浮かべる。
「……確かに少し小さいことばかり考えてたかもしれないな」
クリスマスイベントで決まっているのは日時と場所、それと小さい子やデイサービスを利用しているお年寄り向けのボランティア活動と言う事くらいであり、何をやるかなどの具体的なものは全くと言っていいほど決まっていない。
「もっと規模を大きくしてみよう」
「ちょっと待て。これ以上規模をデカくしても」
「ダメだよ。ブレストでは他の人が出した意見を否定しちゃいけないんだ。時間的問題、人数的問題ならどうやって対応していくか。そうやって議論を広げていくんだ」
玉縄はそう言うとそこからさらに議論を広げ、地域コミュニティを入れるだの近くの高校をさらに入れるなどと話し合っていくが無限に膨らんでいく風船の様に膨らんでいく。
だが風船には限度がある。膨らみすぎたら破裂する。明らかに今回のイベントという受け皿を考えた場合の入れるものの大きさを考えていない。ダメだこりゃ……ゲームでも全体強化していっても最終的には広げ過ぎて結局は一点集中型の強化にシフトするんだ。
でもこれ以上、話しを大きくするわけにはいかない。
「高校なんて他に入れたら今以上に話がでかくなるだけだろ」
「それが良いんだよ。多種多様な意見を」
「今更、他の高校の連中がやる気をもってしてくれるとも思わないだろ? それに俺達と同じ高校生をここにいれても結局は似たような意見も出てくるだろうし」
「……たしかにそうだね……だったら小学生や保育園なんてどうかな」
…………なんかもうこいつと会議すんの疲れてきた。
「確かに高校生だと考えることも似てしまうかもだね。でも小学生だと幼さがまだ残ってるからそこをポイントにお年寄りたちの癒しにもなると思うんだ。どうかな」
他の連中からは特に否定意見も出ず、玉縄の中で決定事項となったのか満足げな表情で俺たちの今後の指示をぶつけてくる。
「小学校のアポイントとネゴシエーションはこっちでやるよ。総武高校さんにはその後の対応をお願いできるかな」
笑みを浮かべながら一色にそう言うが当の一色は首を縦に振らない。
これを受け入れれば確実に俺たちの仕事が増えるだけだろう。その点で一色は躊躇し、今の状態につながっているんだろう。
「……はい! 分かりました!」
少し考えて結局、受け入れてしまった。
「ていうかこの大ホールでキャパ足りるのか? デイサービスの人だって何人来るか分からないんだし、小学生だって手伝ってもらってはい終了ってわけにはいかんだろ」
「そこも確認だね。他の連絡事項についても話し合えればなおいいよ。小学生については参加人数を決めて話し合うよ」
結局、あちらさんがデイサービスに連絡し、こっちが保育園、そしてそのうえで小学校へと連絡することとなったのでどうにか大ホールに入り切る程度の人数で済んだらしい。
際限なく出てくる人間と対面なんてしたくないし。
一色は俺を含めた総武高校のメンバーを一カ所に集める。
「えっと、私的には仕事を分配したいんですよね~。議事録を作る人と保育園に行く人に分けたいんですが」
「そこは普通、会長のお前が保育園だろ」
俺の発言にメンバーは小さく頷き、一色はえーっとでも言いたそうな表情で見てくるが渋々、承知したらしく携帯を取り出して連絡を取り始めた。
多分、保育園に事前にアポを取るんだろう。流石にいきなり押しかけて話をするのも気が引ける。
それよりも…………ハァ。会議は何回か出てるから慣れてるつもりだったんだがなんか疲れるわ。
椅子に座り、ダラーっと四肢を伸ばす。
文実の時も体実の時もかなりの数の会議はしたはずなのになぜか参加してから2回目のこの会議はどこか前の2つに比べて疲労感が貯まっているように感じる。
なんで疲れるんだろうか…………やってることは大体同じなんだけどな。
その時、小さく手をあげて折本がこっちに向かってくる。
「ねえ、比企谷って生徒会とかしてたっけ? なんか随分慣れてない?」
「してない。こういう会議は何回か出席してるし」
「へ~。珍しい」
確かに珍しい。中学の時はそんな会議の存在すら知らなかったのにな。
「じゃあなんで手伝ってんの?」
「まぁ、頼まれたし」
一色を生徒会長にするように仕向けたのは俺だし、手伝うって言ってしまったしな。
「ねえねえ」
「なんだよ」
「この前の女子2人のどっちかと付き合ってんの?」
思わず俺は蹴りを入れてやろうかと思い、足を上げるがそんな度胸があるはずもなく、降ろしてしまう。
こいつはいったい何を言ってるんだか……俺があの2人のどちらかと付き合うはずがない…………そんな関係になるほど親しくもないはずだし……そもそももう奉仕部を辞めた時点で関係は無くなったはずだ。
しかし、頭の中でチラチラと彼女の顔がちらつく。
「……んなわけねえだろ」
「そうなんだ」
「ゲームしかしないってお前も知ってるくせに」
「そうなんだけどさ。なんか比企谷を見る目がそう言う系に見えたというか空気がそう言う系だったというか」
何を言っているんだこいつは。いつの間にエアーリーダーって言うアプリをダウンロードしたの? ていうかそんなアプリがあるなら俺が欲しいわ!
「ほら、女の子って恋愛とかに敏感じゃん」
「知らねえよ」
「……まぁ、あんたは鈍いよね」
「は? なんて?」
「別に」
最後の言葉が聞こえず、聞き返すが折本はプイッと俺から顔を逸らして元の場所へと戻っていき、それと同時にアポを取り終えたらしい一色が戻ってきた。
…………なんなんだよ。