やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ!   作:kue

63 / 80
第六十三話

 翌日の土曜日の朝、俺は朝っぱらからゲームをしつつ、集合時間までゆったりとゲームをしていた。

「お兄ちゃん良いな~。ディスティニーランドに行けるなんて」

「バーカ。遊びじゃねえよ。取材だ取材」

 クリスマスイベントで何をやるかについてはまだ全く決めておらず、万人受けしそうなものを見つけに行こうというわけでディスティニーランドに行くことになったわけだ。

 小町はもちろん受験生なので自宅で待機だ。

「あ、それとお兄ちゃん」

 出発時間の10分前になったのでPF3を片付けて行く準備をしている時に小町に話しかけられ、後ろを振り返ると何故か腰に手を置いて俺の方を見ていた。

「小町とのお約束条項。今日くらいは女の子に優しくすること!」

「はぁ? なんで」

「いいからいいから。女の子の反応をちゃんと見るんだよ。アトラクションの方を見てたら行きたいのって声をかけてそのまま連れ込むの」

 強引なナンパ野郎じゃねえか。

「と・に・か・く! 気を配ること!」

「へいへい。じゃ、行ってくるわ」

「お土産よろ!」

 適当に手を振って返事をし、自転車に跨って集合場所である舞浜駅へと向かうべく、最寄駅へと向かう。

 舞浜駅は電車で20分ほどだが駅の造りからしてもうディスティニーランド一色になっているらしく事前調べでは時計の形がキャラクターだったり発車の際の音が関連曲だったりするらしい。

 駐輪場に自転車を止め、舞浜駅に止まる電車に乗り、20分をPFPで潰す。この前の一色の依頼で募集した神八こと俺と通信できる権利みたいなで募集した人数が5人のところ10倍ほど来てしまった。面倒だったから適当に選んで通信したけど……ふっ。やはり全員可愛いのう。玄人クラスにさえ到達していない連中ばかりだった。

 その全ての様子を動画で挙げると意外と好評だったみたいで定期的にやってくれと言われてしまった。

 まぁ、定期的にはしねえけど……あれか。

 窓の外に視線をやるとディスティニーリゾートが見え、周りのカップルたちは色めき立つ。

 できれば皆で言ってきてくださいって言おうとしたが合同を辞めにした俺が行かないわけにもいかず、結局朝の6時に起きて準備したもんだ。

 目的の舞浜駅に到着し、改札を出て周囲を見渡す。

 確か改札出てすぐの場所って聞いたけど……

「ヒッキー!」

 そっちの方を向くと案内板の前に2人が立っていた。

「やっはろー!」

「その挨拶外でもしてんのかよ」

「まあね」

「一色は?」

「いろはちゃんはあそこ」

 指さされた場所を向くと駅の近くにあるコンビニから一色、そしてその後ろから葉山、海老名さん、三浦、戸部の4人も出てくるのが見え、思わず顔を背けた。

 まだ葉山は分かる。明らかに一色は恋する乙女だからな……何で海老名さんも三浦も戸部もいるんだ……うぅ! さ、寒気が。また海老名XXに絡まれる!

「なんであいつらがいるんだよ」

「も、元々遊ぶ予定だったからついでに呼んじゃった」

「呼んじゃったじゃねえよ……明らかに面倒見れる面子じゃねえだろ」

「だ、大丈夫! 見れる!」

「別にいいんじゃないかしら。私たちと関わることはあまりないのだし」

 それは暗に別行動とるからいいじゃないって言ってるようなもんだぞ。

 まぁでも取材とかの手伝いしてくれそうだし別に…………。

 突然、後ろから殺気ならぬ腐気を感じ、恐る恐る後ろを見ると眼鏡の縁をキラーンと輝かせている海老名さんがフヘヘヘッと嫌な笑みを浮かべながら立っていた。

「は、早く! 早くハヤハチの続きをぉぉぉぉ!」

「バ、バリア! バリア張ってるもんね!」

 腕をクロスさせてそう言うが海老名さんは怯まない。

「ハヤハチにバリア効きませーん!」

「そんなこともあろうかとナビカスならぬ比企谷カスタマイザーでサイトバッチ入れてるし」

「ブルームンレイ!」

「ぐはぁ!」

 どんだけ強力な弾丸なんだよ、ハヤハチ。ていうかこのネタ通じるんかい。

「んだヒキニクじゃん」

「いやいや、優美子ヒキニクじゃなくてヒキタニ君だし! 超受けるわー」

 どっちも違うわボケ。

「そろそろ行きましょうか」

 一色の一声で入場ゲート近くで何故か年間パスポートを持っている雪ノ下以外は当日券を買い、中へ入るが写真がどうのとか言い出し、パークの人がそれぞれの順番で撮影していく。

 男子だけ、女子だけ、三浦と一色と葉山、由比ヶ浜と雪ノ下だけなど細かいパターンで。

「ハーイ。じゃ次はそこの男の子の腕に抱き付いちゃおっか!」

 パークの人がそう言った瞬間、何故か海老名さんが鼻血を噴き出すがそれを無視していると右腕に雪ノ下が抱き付き、左腕に由比ヶ浜が抱き付いた。

「お、おい。抱き付かなくても握れば」

「両手に花だねー! ……ちっ」

 おい。今シャッター音と同時に舌打ちしただろ。舌打ちしたいのは俺だ、バカ野郎。ていうかなんでこの2人は何のためらいもなく抱き付くのでしょうか。

 そのまま先へ進むとようやく園内に出て、すぐ目の前に大きなクリスマスツリーが立っている。

 これ、クリスマスダンジョンだったら真っ先にロケランぶちかましてぶっ飛ばす奴いるよな……いや、まあ俺なんだけどさ。なんか撃ちたくなるよな。

 とはいっても取材で来ているので適当にクリスマスっぽい部分を写すようにカメラでパシャパシャ取っていく。

 近場のアトラクションから乗っていくがそこでも三浦vs一色の構図は変わることなく、その間に時々ぶち込まれている戸部の立ち位置がかなり可哀想だ。

 クリスマス前とあってかなり人が多く、少し方向を間違えるだけで見失いそうだ。

 今日のコースは一色が考えてくれたらしく、待ち時間なども細かく考えられており、どこでファストパスを取るだのここでアトラクションに乗って時間を稼ぐだのかなり事細かに決められている。

 それに従ってアトラクションに乗りつつ、イベントの参考になるかもしれない部分を写真に収めていく。

「次、パンさん行こうか」

 乗り場から降り、予定表を見ている由比ヶ浜の指示通り、パンさんのアトラクションへと向かうが雪ノ下の姿が見当たらず、後ろを見ると少しフラフラとしながら歩いている。

「おい、大丈夫かよ」

「え、ええ。少し人混みに当てられただけよ」

「……迷いそうだな」

 クリスマスと言う事もあって周りは人、人、人。

 その時、手が軽く握られ、ドキッとしながら振り返ると雪ノ下が軽く俺の手を握っていたが本人もそんな気はなかったらしいのか少し驚いた表情をしている。

「…………何してんの」

「あ、貴方が手を動かすからよ」

「え、俺の所為ってヤバ」

「ちょ、比企谷君」

 前の方を歩いている由比ヶ浜達の姿が見えなくなりかけていたので慌てて雪ノ下の手を握り、人を避けながら小走りで追いかけ、どうにかして合流できた。

 危ね。こんなところで迷ったら合流するのは骨が折れる。

「……ひ、比企谷君」

「ん?」

「そ、その……手」

 そう言われ、手を見てさっき雪ノ下の手を握ったのを思い出し、慌てて手を放す。

「……わ、悪い」

「べ、別に……仕方のないことだもの」

 そう言い、雪ノ下はそそくさと由比ヶ浜の隣へと歩いていく。

 その後姿を見る俺の心臓は大きく鼓動を打ち続けていた。

「あ、あそこじゃない?」

 パンさんのバンブーファイトなる年中やっているアトラクションに乗るべく、列に並ぶ。どうやらジェットコースターのようなものではなくわー綺麗だね~とか言う系のアトラクションらしい。

 そして俺たちの順番が来てライドに乗り込むが1つ、不満がある。

「なんで俺が雪ノ下と由比ヶ浜の間なんだ」

「えーいいじゃん」

 いえね。俺は良いんですよ別に……戸部のこと考えてやれよ。一色と三浦に弾かれて全く知らない人とパンさんに乗っちゃってるじゃねえか。しかもそれが海老名さんの隣ならまだいい。知らない人が間に入ってるからね。戸部、笑顔だけど泣いてるし。

「綺麗だねヒッキー」

「そーだねー」

「静かに」

 ピシャッと雪ノ下に言われ、俺達は渋々黙る。

 チラッと雪ノ下の表情を見るとどの景色も見逃すわけにはいけねえとでも言いたいかの様に周囲180度をくまなく観察している。

 アトラクション一つでここまで集中できるお前がすげえよ。

 パンさんワールドは5分ほどで終わり、ライドから降りて出口を出ると妙に雪ノ下の雰囲気がつやつやしているように見えて仕方がない。

 さっきまで人混みに当てられてたやつの顔じゃねえよ。

「ヒッキー。そう言えば小町ちゃんのお土産いいの? あそこにパンさんグッズあるけど」

「……まぁ、とりあえず見に行くか」

「パンさんか……優美子はどうする?」

「あーしパス」

「というか昼飯超混むから並んだ方がよくね?」

「それもそうだな……ヒキタニ君、後で合流しよう」

「あぁ、悪いな」

 葉山が行けば三浦も一色もそれに付いていき、海老名さんは特にパンさんには興味がないのか2人と同じように葉山の方へと向かい、俺達はパンさんグッズが多数置かれている店へと入る。

 右を見てもパンさん、左を見てもパンさん、上下を見てももちろんパンさんだらけだ。

「じゃ、小町さんのお土産を選びましょうか」

「あぁ、頼む」

 とりあえずパンさんの権威である雪ノ下についていくとぬいぐるみコーナーで立ち止まり、何体かを観察しながらたまに手に取ったりしつつ、選定していく。

 そこまで本気出さなくてもいいんだが……。

 ふと視界に何かのキャラクターのなのか犬耳と猫耳のカチューシャが目に入り、何故かは知らんが猫耳を雪ノ下に、犬耳を由比ヶ浜にポフッと乗せてやった。

「ヒ、ヒッキー?」

「……比企谷君?」

「…………似合うな」

 カチューシャをつけた2人を見ながらボソッとそう言うと一様に2人は顔を赤くし、プイッと俺から視線を逸らす。なんか俺言っちゃいけない事でも言ったか?

「ね、ねえ比企谷君。こういうのはどうかしら」

 雪ノ下が持っている山ほどのパンさんのぬいぐるみの中から小町が喜びそうなのを適当に選び、会計を済ませて店を出るがまだ2人は猫耳と犬耳のカチューシャをしていた。

「買ったのか?」

「ま、まあね。どう?」

「良いんじゃねえの。お前サブレ飼ってるし」

 そう言うと由比ヶ浜は緩み切った笑みを浮かべながら犬耳のカチューシャを撫でる。

「…………」

「良いんじゃねえの、お前も。お前そう言うの滅多にしないだろうし」

「そ、そう……」

 雪ノ下は由比ヶ浜程表情を変えることは無いが頬を赤くし、猫耳を撫でた。

 ふむ。小町から気を遣えと言われたがこんなものでいいのだろうか……今まで他人のことなんてほとんど考えてこなかったから何が正解かは分からんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜にもなると臨海部に位置しているこの場所はとても寒い。

 パレードが始まる前にもう一つ乗っていこうというわけでアトラクションへ向かって歩いているが来た時と比べて疲れがたまっているのか歩く速度はみんなして遅い。

 海老名さんと由比ヶ浜はさっきからキャッキャキャッキャしているが体力に自信がないこと間違いなしの俺、雪ノ下は2人して集団の後ろに位置し、一色と三浦も少し疲れ気味だ。ていうか運動している葉山とか戸部も疲れてる様子なのに何であの2人は疲れてないんでしょうかねぇ。

 その時、一色が戸部を呼びつけ、コソコソと作戦会議をすると一瞬、戸部は嫌そうな顔をするが一色の真剣なまなざしに押されたのか襟足をワシャワシャさせ、一色と共に葉山達がいる先頭へと向かった。

 ふと後ろを見るとしんどそうに歩いている雪ノ下の姿が。

「大丈夫か?」

「ええ、まだ大丈夫っ」

「おい!」

 疲れているのかあげたつもりの足があまり上がっておらず、ブーツのつま先の方が地面に引っかかり、そのまま前のめりに倒れていくのを慌てて抱きかかえようとするが俺の両手はちょうど雪ノ下の両脇の所をうまく通り抜けていき、傍から見れば抱きしめるような格好で受け止めてしまい、正真正銘抱きしめてしまった。

 初めて女の子を抱きしめたと言う事からか、もしくは雪ノ下を抱きしめたと言う事からかさっきから向こうに聞こえてるんじゃないかと思うくらいに心臓が鼓動を打つ。

 …………なんか…………うん……。

「あ、あの……比企谷君?」

「え……あ、悪い」

 少し抱きしめていたのか今にも消えそうな雪ノ下の声でようやく我に返り、慌てて雪ノ下を離すが心臓は相も変わらず鼓動を打ち続け、まともに雪ノ下を見れない。

 な、なんだよこれ…………やっぱおかしいわ、俺。

「……い、行きましょうか」

「あ、あぁそうだな」

 雪ノ下に言われ、歩き出そうとするがパレード用の進路確保のためかパークの職員らしき人たちがロープで進行方向を制限していた。

「……どうしましょう」

「行く場所は分かってんだし、あとで合流できるだろ。一応電話しとくか」

 連絡帳を開き、データブレイカーと表示されている由比ヶ浜の番号をタッチして通話をかけるがこの園内の騒音のせいなのか気づいていないらしく、7コールした後に留守番サービスに移行したので切った。

「聞こえてないみたいだし、遠回りしていくか」

「そうね」

 迷うであろう雪ノ下を前にし、俺は少し後ろを歩く。

 夜になると煌々とライトアップされたアトラクションを撮影しようと多くの人でごった返し、中々思うように進めない。

 ふと雪ノ下がある方向を見て立ち止まったので俺もそちらの方向を見るとパンダのパンさんのぬいぐるみがカゴに入れられており、黒い帽子を被っているパークのキャストさんが何やら客を集めようと叫んでいる。

「今しか手に入らないパンダのパンさんですよー! 欲しい方がいれば大きく手を上げてくださーい! 私と勝負をして勝てたら差し上げます!」

 …………なんかすんげぇ集中力発揮してるな。

 雪ノ下の両目は既にパンダのパンさんをロックオンしており、動く気配はない。

「欲しいのか」

「べ、別に欲しくは…………」

 否定しようとする雪ノ下の後ろに核ミサイルのボタンを押すか押さないかで必死に悩んでいるアメリカ大統領の姿が見えた気がした。こいつどんだけ悩んでんだよ。

「勝ちゃいいんだろ。勝ちゃ」

「勝てるの?」

「俺を誰だと思っているんだ? ゲームに関しては最強の男だぜ?」

「おっ! そこのカップルこちらへ!」

 カ、カップル……ま、まぁ2人でいればそんな間違いもされるわな。

「彼女さんにプレゼントするのかな?」

「はぁ。まぁ」

「いいねー! 拍手!」

 なんで大阪のあそこも千葉のここもキャストさんたちはみんな一様にハイテンションなんだろうか。そして何故それに付き合うのだろうか……やっぱりキャストさんのハイテンション差に引っ張られるのか?

「では彼氏さんにやってもらうのはこちら! 間違い探しゲーム!」

 そう言いながら目の前に出されたのはどう見ても同じ形をしているパンさんのぬいぐるみ。

「1か所だけ間違いがあります! それを1分以内に見つけたらこのぬいぐるみをプレゼントします! では彼氏さん! 準備は良いですか!?」

「は、はぁ」

「ではスタート!」

 中腰になり、置かれている2つのパンダのパンさんのぬいぐるみをくまなく見ていくが特に違いらしい違いは見えない。世界の闇を見てきたような仄暗い目、全てを切り裂く鋭い爪、鋭い牙……まさか背中とかにあるシールの違いとかか? 

 2体をもって後ろを向かせてみるがシールは貼られていない。

「あと30秒!」

 これは意外と難しいな…………ん?

 ふと、顔を上げてキャストのお兄さんを見るとどこか違和感を感じ、ぬいぐるみではなくキャストのお兄さんの方に視線を集中させる。

 なんか怪しい……キャスト共通の服、靴、イヤホン、茶色の帽子…………あ……いや、でも……まぁパンさんに間違いがあるなんて言ってないしいけるか。

 間違いを見つけ、手を上げるとグイッとマイクを近づけられる。

「さあ、どこが違うでしょう!」

「お兄さんが被ってる帽子。さっきは黒だったのに茶色になってる」

 そう答えた瞬間、あらかじめスタンバイしていたのかあらゆるところからキャストさんが出てきてクラッカーを鳴らし、拍手をする。それにつられてか周囲で見守っていた人たちからも拍手が出てくる。

「おめでとうございます! 見破ったお兄さんにはこの限定パンダのパンさんをプレゼントしまーす!」

 パンダのパンさんをキャストのお兄さんから受け取るとさらに大きな拍手が送られてくる。

 拍手を受けながらパンダのパンさんを待っていて雪ノ下に手渡すとお調子者が指笛を鳴らす。

 とりあえずこっぱずかしいのでそのままその場を離れ、由比ヶ浜達との合流場所へと向かう。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。