やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
冬休みも開け、学校も通常運営が始まったある日の朝。俺はいつもの様に自転車をコギコギし、学校へ向かっていた。冬休みって休みじゃないよな。どちらかといえば年越し前だから休みでいいやって感じだよな。夏休みとか春休みとかは休みって思えるのに冬休みだけは思えない。
そんな下らないことを考えながら駐輪スペースに自転車を停め、ペタペタと歩いていると一瞬後ろからジトッとした懐かしい視線を感じ、後ろを振り返ると普通に友達と喋っている女子2人がいた。
…………自意識過剰乙。煩悩退散煩悩退散。
頭の中から邪念を振り払い、下駄箱から上履きを取り出し、履き替えるがまたさっきと似たような視線を感じ、チラッと後ろを見てみるが何ら変わりはない。
……あ、そっか。俺、今まで奉仕部関係の連中としか会ってないから視線を勘違いしたんだ。なーんだ。俺のおバカさん☆!
頭の中でキラリンウインク横ピースをしながら階段を上がっていき、教室の中に入るとあけおめ~やことよろ~などの言葉が交差している。
リア充共の隙間を縫うように通っていき、自分の席についていつものようにイヤホンとPFPを準備し、今日はバトルシティ3をする。
クリスマス限定武装のステ振りは既に終わったからあとはこれを実践でどう使うかだよな。クリスマス限定とあって武器のステータスは低めだ。しかも振ったらキラキラ光る演出がかかるし……だがこれでストーリーのボスを倒すという仕事が出来た。
せっせとボス攻略のためにミッションを受けようと思ったが左端に表示されている時間がもうすぐ先生が来る時間を指示していたので仕方なく、俺はPFPをカバンにしまった。
もう1月も1周目が終わったな~……はぁ。もうすぐ3年か……いや、まあ3年になってもゲームは変わらずやるけどさ。私立文系を専願する俺にとって正直、センター試験など受けずに私立の一般入試を本チャンにしてその前に推薦入試をいくつか受けるって言うのがベストストーリーなんだよな。国立文系にするとほとんどセンターで数学いるし……俺、数学確立分野以外出来る気がしない。
外と中の気温が違うせいか窓が曇っている。
その曇りは手で拭えばすぐに取れる…………こんな学生生活の思い出もいつか簡単に拭われるのだろうか。
全ての授業が終わり、帰りのHRも終わり、すでに教室には何人かしか残っていない。
ちなみに俺は由比ヶ浜が話し終わるのをただひたすらPFPをしながら待っているが一向に終わる気配が見えるどころか会話のテンションは上がっていく。
「海老名はどっちにすんの?」
「私は文系かな」
「結衣は?」
「あたしも文系かな」
どうやらいつもの葉山グループの連中は進路希望調査票に関して話しているらしい。
クラス替えのない国際教養科を除けば文系・理系かでクラスが大きく変わり、今まで一年間一緒に暮らしてきたメンバーとはほとんど合わなくなるだろう。だがそこで有利なのはボッチだ。ボッチは誰かに左右されることもなく文理を決めることができる。まぁ、理系行くやつなんてほとんどいないけどな。理系やる奴は俺達とは少し頭の構造が違うんだろう。
「優美子は?」
くいっと眼鏡を上げて海老名さんが尋ねると三浦は気だるげに金髪の髪を指でクルクル巻きながら調査票を睨み付け、うーんと考え始めた。
明らかに理系じゃないだろ……いや、でもあーしさんが数学バリバリ解いてたら……なんかそれはそれで格好いいな。ここのXに代入して~とかいって眼鏡をくいっとあげるとか……ないな。
「戸部、あんたは?」
「俺? 俺はまだ決めてねーけど暗記できねーから理系にすっかも」
「はぁ?」
戸部の言葉に三浦はバカにし腐った表情を浮かべる。
戸部が理系……似合わねえ。いや似あう似合わないの問題じゃねえんだけどなんか戸部が理系とかなんか考えられないな。それこそ由比ヶ浜が理系を選択するくらいに。
「あんたが理系とかもうちょっと考えたら?」
「そうだぞー。理系は単位とりにくいって言うぞー」
「俺らと一緒に文系選んで遊ぼうぜー」
「あーマジかー! じゃあ文系にすっかな」
早いなおい。仮にも人生の岐路だぞ。まぁ、お調子者の戸部だからあんまりそんなこと考えないか……ゲーム制作会社って実はあんまり資格とかいらないんだよな。取っておくに越したことは無いけどどちらかというと他の奴らがとらないような資格があると食いつきが良いらしい。ていうか履歴書にゲーム大会の優勝回数とか書いてたら食いつくかな……あ、あと海外展開しているならTOEICとかもいるらしいし……まぁ、単語は全部覚えてるから英語の点数は常にいいけど。
にしても……珍しく葉山が話に参加しないな。いつもなら相槌とか打つのに今日はボケーっとしてるというか……まぁ、どうでもいいや。
「隼人はどっちにすんのー? あーし、隼人と一緒にしよっかなー」
流石は恋する女王。自分の人生を恋心1つで決めようとしておるぞ。それはそれで凄いよな……ていうかどんだけ葉山のこと好きなんだよ……なんかふられたらヤンデレになりそうだよな……ヤンデレ女王化……怖いな。
「……進路は人に聞いてもな。自分のことなんだし自分で決めないとな」
「え、あ、う、うん」
思わぬ返答が帰ってきたのか三浦は戸惑いの表情を浮かべ、金髪を指でクルクルする。
確かに正論っちゃ正論っていうかもうど真ん中正論なんだが葉山にしては珍しい人を突き放す解答だな。大体はそれに乗ってそれを広げていくのに。
「あ。優美子あの噂聞く?」
ほんと噂好きだよな、この学校の連中って……結局、2年生に神八がいるということがこの前の通信対戦で判明してしまったしな。まぁ、今のところは1年坊主どもは一応の良心が働いているのか特定しには来てないけど……出来ればこのまま卒業したいもんだがな。来年は小町も入ってくるし、神八の妹とか言われたら確実にあいつ泣くだろ……それで親父とオカンにボコボコにされるとね……それだけは何としても避けねば。
にしてもバトルシティ3はやはり面白いな。ストーリーモードはストーリーモードで面白いがなんといってもオンライン対戦が熱い。ちなみに俺は今、全世界を手中に収めるべく旅をしている。それぞれの国の最強プレイヤーをぶっ潰すのだ……グフフフ。見ていろ、まだ見ぬ敵よ。
その時、視界の端に誰かが立っているのが見え、そっちの方を向くとカバンを持った由比ヶ浜が立っていたので俺もPFPをスリープモードに切り替え、カバンを担いで立ち上がる。
「ヒキタニ君ヒキタニ君」
「ん?」
扉に手をかけた瞬間に海老名さんに呼ばれ、そっちを向く。
「ヒキタニ君って雪ノ下さんと付き合ってるってほんと?」
直後、教室の空気がフリーズした。
不幸中の幸いは俺たち以外に既に教室には誰もいないと言う事だろうか。
「「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
由比ヶ浜と俺の叫びがフルシンクロし、教室に木霊する。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒッキー! そ、そ、そ、それってほほほほほ本当なの!?」
「お、落ち着け」
今までにないくらいの勢いで由比ヶ浜に詰め寄られるが少し離し、落ち着かせる。
な、な、ななんでそんな噂が……そうか。朝のあのネットリとした視線は勘違いなんかじゃなくてそんなうわさが流れてるからだったのか。
「あ、それあーしも聞いた。ていうかそれただの噂っしょ」
「でも文化祭の時にヒキタニ君の自転車の後ろに乗って一緒に帰ってるの見たって言ってるし」
「え、マジ? 俺聞いたのはディスティニーランドで2人で一緒にいたってやつだけど」
「あ、それはちげぇよ。だって俺らと一緒に行ったし。なー隼人君」
「あぁ。ディスティニーランドは俺たち皆で行ったから違うな」
後者は由比ヶ浜達という証言者がいるからいい。問題は前者だ……あの時は雪ノ下が風邪でフラフラだったから後ろに乗せて帰っただけなんだけど言っても信じちゃくれんだろう……ていうかなんで俺みたいなヒキニク野郎と雪ノ下みたいな完璧超人との間にそんなうわさが出来んだよ。
「由比ヶ浜、行こうぜ」
「あ、うん。またね!」
教室から出た瞬間、朝に感じた視線を感じたがどうやらネットリとした表現は俺の間違いのようでネットリではなくサラサラなのだがそこに興味関心がふんだんにかけられている感じだ。
雪ノ下さんと付き合ってるんだって! うっそー!? そんなのあり得ないでしょ! っていう感じか?
「ヒ、ヒッキーゆきのんと付き合ってないよね?」
「付き合ってない。一番傍にいんのにそれくらいわかるだろ」
「そうなんだけどさ……なんか最近、ゆきのんとヒッキーの距離が近いというか」
否定しようとしたが頭の中で心当たりがあるシーンがいくつも頭の中で同時に再生され始めた。
普通は看病のためつっても女子の家に泊まらないよな……ていうか普通は後ろから抱きしめられないよな……ふつうは電車の中でキ、キスが出来そうな距離になったら怒るよな……いやいやいや。
悶々としているといつの間にか部室の前に到着した。
……これほど緊張するのもおかしな話だよな。
「やっはろー!」
いつものように元気よく声をあげながら部室に入るといつものように文庫本を読んでいる雪ノ下と何故か生徒会長一色いろはが座っていた。
「なんでお前がいるんだよ。仕事サボるな」
「サボってませーん。この時期は何もないんですよ~」
「あっそ」
いつもの定位置に座り、PFPの電源を入れる。
「ていうか先輩なんで初詣に呼んでくれなかったんですかー」
「は? 何で知ってんの」
「雪ノ下先輩から聞きました~。先輩がいると言う事は葉山先輩も」
「いねえよ。ていうかなんで俺いるところにあいつがいるんだよ」
「だって先輩仲良しですし~」
仲良しってあの程度で仲良しって言うなら今頃俺の周りは友達だらけで幸せライフだな……いや待てよ。友達が多いからって幸せってわけじゃないしな。
「そう言えばヒッキー葉山君とよく話すよね。体育でも」
「あれはたまたまあいつが傍にいたからだろ」
「先輩ズルイです~」
そう言いながら一色は俺の肩の辺りをポカポカ叩いてくる。
ずるいってこいつサッカー部のマネージャーだしいつも会うじゃん。
「あ、そういえばやっぱり先輩そうだったんじゃないですか~」
「は? 何の話だよ」
「も~。雪ノ下先輩と付き合ってるじゃないですかって話です~」
手元が狂い、俺はPFPを落としかけて空中で鷲掴みにし、雪ノ下は驚きのあまり足が上に上がり、手から文庫本が離れるが抜群の運動神経で空中で文庫本を鷲掴みにする。
「い、い、一色さん」
「はい?」
「それはどんな冗談かしら?」
「隠さなくていいですよ~。今先輩たちが付き合ってるって噂ですよ~」
雪ノ下はそっと本を閉じ、一色の方を見る。するとその鋭い眼光に一瞬で一色はやられ、まるで蛇に睨まれた蛙の様に動かなくなってしまった。
「一色さん」
「は、はいぃ」
「そんな笑えない冗談は嫌いよ」
「わ、私が言いだしたんじゃないんですよ~。今この噂で持ち切りなんですぅ」
もう最後らへんは声がしぼみ過ぎてほとんど聞こえなかった。
「そう…………」
それ以降、雪ノ下は一言話さずに文庫本を読み続け、一色もそれ以上はその話題に触れず、由比ヶ浜とキャッキャウフフな会話をし、俺は俺でPFPをひたすらし続けていた。
「あ、そうだ。久しぶりにお悩みメール見ようよ」
そう言い、埃が被っているパソコンを机の上に置き、電源をつけると起動音が鳴り響く。
もう少しましな世代のパソコン位備品にあるだろうに……まぁ、色々と俺達には分からない事情があるんだろうけどさ……OSアップデートしてもクソ遅いし。
「あ、一件来てる」
場所を移動し、ノーパソの前に位置を変えると確かにNEWマークがついており、ダブルクリックしてそれを開くと相手はあの女王・yumiko☆からだった。
「みんな文理選択はどうやって決めてんの……だって」
「あ、それ私も気になります。実際どっちがいいんですか?」
「どっちつっても所詮は将来、付きたい仕事がある奴はそれを参考にして決めれば良いし、まだ将来があやふやな奴は好きな教科がある方に行けばいいんじゃねえの?」
「うわっ。先輩って意外に頭いいんですね」
「今お前うわっつったよな? 先輩とか思ってねえよな」
「そうね。数学36点、物理24点、化学45点。前のテストでも相変わらず理系科目は砂粒みたいなものだけれど文系科目は全て満点だったものね」
これもゲームの賜物よ。ゲームをしているがゆえに記憶力が強化され、今は一度教科書で見たり、聞いたりしたものはほとんど頭の中に残るというまさにセーブデータのようなものよ。
「やっぱり雪ノ下先輩って比企谷先輩のこときゅう、ごめんなさい」
凄まじい眼力で睨み付けられた一色は俺の後ろに隠れた。
あざとい……こうやって世の男どもに勘違いをさせていくのだな。しかも顔に出ないからこれまた小悪魔だ。ちなみに小町は顔に出まくりだから一瞬で見破れる。
「そう言えば葉山先輩はどっちに決めたんですか?」
「ん~。隼人君もう調査票出しちゃったからな~……あ、もしかして優美子」
「でしょうね~。葉山先輩と同じクラスになりたいんですよきっと!」
例年3年次のクラス編成は文系7クラス、理系3クラスになっていることが多く、同じクラスになるには運も必要だがそもそも文理が違えば同じクラスになることは無いし、しかもクラスがある階も2階と1階で全く異なるから恋する乙女からすれば死活問題に等しい。だからお悩み相談であわよくば聞き出す、最低でもどっちかの推測がたてればと思っているんだろう。
「でも文理選択はいわば人生を決めるようなもの……それを恋心だけで決めるものなのかしら」
「恋は盲目って言う位だからそういうこともあるんじゃねえの?」
「……つまりあなたの様に何においてもゲームを優先させるようなものかしら」
「そんなもんだ」
何今の例え、超分かりやすい。
「ん~。そろそろ帰ろっと。先輩、お邪魔しました~」
そう言い、一色は去っていく。
「三浦さんの依頼はどうしましょうか」
「ん~。このくらいだったらいいんじゃないかな? 文理選択を聞くなんてすぐに終わるだろうし」
「比企谷君は?」
「どうでもいい。由比ヶ浜達がやるって言うなら俺も手伝うけど」
「分かったわ。では奉仕部で承ると言う事で」
にしても……何であんな噂が出るかねぇ。普通に考えて不釣り合いにもほどがあるだろ……でもなんか嫌じゃないんだよな。いや、俺はの話しで雪ノ下の話は別だけど……なんかおかしい。