やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
ヒーターの会計を済ませた俺達は少し腹も減っていたこともあったので休憩というなの小昼食をとるために1つ下のフロアにあるカフェに入り、何を頼むかメニューを見ている最中だ。
にしても…………会話なさすぎるだろ俺達……普段から他人と会話しない様に生きてるから仕方がないっちゃ仕方がないが改めて由比ヶ浜が仲介役にいるかいないかでここまで会話の盛り上がりに影響を及ぼすとは……恐ろまじ、由比ヶ浜結衣。
メニューも決まり、店員を呼んでそれを注文する。
「ねえ、八幡」
「あ?」
「小町さんは元気かしら」
「あぁ、元気だよ。受験勉強で疲れてはいるけど」
この前に至ってはカマクラにブツブツ文句言ってたからな。流石に猫に文句を言う小町を見たときは少し恐怖を感じたけど。
「お待たせしました。フレンチトーストセットカップルVerです」
「「……は?」」
店員さんがそう言いながらテーブルの上に置いたものを見つつ、同じセリフを同時に呟くと店員さんの方が不思議そうな顔をしながら俺たちの方を見てくる。
いや確かに頼んだものはあってる……ただカップルVerってなんだ。なんでフレンチトーストがハート形に盛り付けられているんだ。なんで雪ノ下と俺が頼んだレモンティーが大きなコップに2本ストローが刺さっている状態なんだ? それとなんでストローが途中でハートの形を描いて俺たちの方に呑み口を向けているんだ? それとなんで細いチョコ棒が添えられているんでしょうかねぇ。
「え、えっとメニューはあっておりますが」
「……じゃなくて何故にカップルVer?」
「あぁ。本日はカップルデーと題しましてお越しいただいたカップルの皆様に2人で楽しんでいただけるようにアレンジしたメニューをお出しする日なんです」
いや、笑みを浮かべながらそんなことを言われましても。
「外に置いてありますメニュー板でご案内させてもらっていたのですが」
「あ、あぁ大丈夫です」
そう言うとようやく安心したのか店員さんはホッと肩を降ろすと笑みを浮かべてごゆっくり~と言いながら奥の方へと消えていくが俺達の間の気まずい空気は消えない。それどころかエンハンスがかかっている。
ほんと、最近カップルに間違えられるよな……学校で付き合っているふりをしているとは言っても流石に外で間違えられると恥ずかしい。
「…………え、えっとどうやって食う?」
「そ、そうね…………半分に切りましょう」
そんなわけでナイフでハート型のフレンチトーストを縦に半分に切ろうとした瞬間、雪ノ下に手を掴まれた。
「……あ、あの雪乃?」
「そ、そこは……横じゃないかしら」
頬を赤くしながらそう言われ、なんとなく察しがついたので横に半分に切り、空皿に雪ノ下の分を取り、手元にその皿を置く。
と、そこで気づいた。なんでナイフとフォークが1セットないんだ。
どこをどう探しても1セットしか見当たらず、周りの客を見てみるとどこもかしこもはい、あ~んで彼氏、もしくは彼女に食べさせている。
「「…………」」
その様子を見て2人して顔を赤くし、俯いてしまう。
「と、とりあえずこれで食えよ。俺は手で食うから」
「そ、そうしたら貴方の手が汚れるじゃない」
「ナプキンで拭けばいいだろ」
そう言い、ナプキンを探すがなんとそれもない。
いったいどこまで徹底して俺達を苛めに来てるんですかねぇ……デスマッチかよ。
「ま、まぁとりあえず使えよ」
そう言い、フレンチトーストを手で取ろうとしたその時、ふと鼻の近くから甘い臭いがしたので顔を上げてみると頬を赤く染めた雪ノ下がフォークでフレンチトーストを刺し、俺の近くに持ってきていた。
「…………あ、あの雪乃?」
「は、早くしてくれないかしら」
そう言われ、窓に映る顔の赤い自分を見ながらパクッと頬張ると甘いフレンチトーストが10倍増しくらいに甘く感じた。
甘すぎる……これ砂糖振りすぎじゃねえの。
そんなのを2回ほど繰り返し、フレンチトーストを食い終わった俺たちの顔はもうまっかっかだ。
まぁ、レモンティーに関してはそんなに恥ずかしくはならなかったのでこれは余裕でクリアできた……さて、残るは何故か一本だけ用意された細いチョコ棒。
チラッとさっきのカップルの方を見てみると恥ずかしそうにしながらもチョコ棒を左右それぞれ咥え、それを食べながら徐々に近づいていき、最後は恥ずかしすぎて見れなかった。
「これはあげるわ」
「あ、あぁ。じゃあ遠慮なくっ!?」
俺が片方を軽くくわえた瞬間、雪ノ下が身を乗り出してきてガブっともう半分を噛んだ。
その距離、目と鼻の先どころか鼻と鼻が当たった距離だ。
「食べ終わったことだし、学校に戻りましょうか」
「え、ちょおい! 俺持ち!?」
そう言い、スタスタと歩いていく雪ノ下の顔は横からちらっと見えただけだけど少し赤く、そしてどこか笑っているようにも見えた気がした。
俺はドクドクと鼓動を上げ続けている心臓を感じながらも雪ノ下の後を追いかけるべく、慌てて会計を済まし、2つのヒーターをもって店を出た。
ようやく隣に追いつき、顔を見てみるがさっきの表情はなかった。
「ご馳走さま、八幡」
「あ、あぁ」
「それと…………面白かったわよ、顔」
「……うるせぇ」
クスッと笑いながらそう言う雪ノ下に俺は恥ずかしさのあまり頭をガシガシかきながらそう言い返し、学校までの道のりをゆっくりと歩いていった。
その日の晩、俺は炬燵にこもってPFPをカチャカチャやっているが外の冷たく強い風によってカタカタ震える窓を見てようやく夜も遅いのだと気付いた。
両親は決算処理で何やら問題が発生したらしく、帰る時間はかなり遅くなるとさっき電話できたので誰にも邪魔されずにゲームをできる訳だが高校入試が近くなっている我が妹・小町の邪魔にならないべく、音の大きなPF3は止め、PFPをしているわけである。
ちなみに我が愛猫・カマクラ殿も炬燵に体を半分入れて眠りこくっている。
猫は良いよなぁ。どんなブサイクでもブサカワというジャンルがある以上、のけ者にされる心配はないし、おばあちゃんおじいちゃんから餌はくれるしでくいっぱぐれる心配もないし……羨ましい。
その時、カマクラの耳がピンと立ち、ドアをの方を向いたと同時にリビングの扉がガチャっと開かれ、俺のおさがりジャージを着た小町がリビングに入ってきた。
時間的にはもう受験生は寝た方が良い時間だ。
「お前まだ起きてたのかよ。早く寝ないと生活リズム壊れて明日辛いぞ~」
「分かってる。でもなんか変な時間にウトウトしちゃって今超眼が冴えてる」
あ~あるある。夜ベッドの上でうとうとして今にも寝そうってときに物音がしてそれで完璧に目が覚めて、その日は寝れなかったってことあるな。
「お兄ちゃんお腹減ったー」
「冷蔵庫……ってそういえばなんも無かったな」
「そーなの。だからなんか買いに行こう!」
「こんな時間に1人でお外出ちゃいけません」
「1人じゃなきゃいいんでしょ?」
そう言う小町の顔が俺の視界にドアップで入ってくる。
どうやら俺について来いと言っているらしく、数秒ほど見つめ合うが大きくため息をついて炬燵から出て、PFPもスリープモードにしてテーブルの上に置き、コートを着て真夜中の町に出た。
流石にこんな時間ともなると風は身を切るように冷たいし、足元は見えづらい。
「さむーい! 超さむーい!」
「そうだなー。寒いなー」
俺がそう言った瞬間、腕の辺りにドンと衝撃が走るとともに温かみが生まれた。
「これなら温かいねお兄ちゃん。あ、今の小町的にポイント高い!」
「高くねえよ…………で、お前どうなんだよ」
「どうも何も頑張ってるよ。お兄ちゃんと同じ高校に行きたいもん! あ、今のも」
「ポイント制度禁止」
そう言うとウーッと小さく唸ってくる。
小町の受験が終われば俺も2年から3年へと進級し、半年も経てばいやでも受験の空気を吸わされ、勉強に集中することになるだろう。
そうなると今のような奉仕部中心の生活は影を潜め、やがてはあの部室を去ることになる。
もう雪ノ下が入れてくれる紅茶の匂いはなくなるかもしれない、由比ヶ浜の元気な声もなくなり、俺のPFPのガチャガチャと音を立てる音もなくなるだろう。
でも…………あの関係は無くなるとは思えないんだよなぁ~。
姿形を変え、これからこの先死ぬまでの人生のなかでずっと残り続けるだろう。由比ヶ浜が欲した関係、俺が欲した本物、そして雪ノ下が欲した物……それらは姿形を変えてずっと俺たちの傍にある。小町も。
「小町」
「んー?」
「高校で待ってるぞ」
「…………うん」
今のこの生活が消えるのであれば……三浦が葉山との関係を残したいと思ったように俺も消えて無くなるその日まで傍らのこいつとあいつらと一緒にこの星空を眺めることにしよう。
とりあえず次の11巻が出るまで更新はストップです。