やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ!   作:kue

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第七十九話

 チョコ作りが始まってからというもの、俺は窓際でただボーっと雪ノ下達がチョコを作っている様子を眺めていたが隣にはニコニコと笑みを浮かべている陽乃さんの姿がある。

 いったいこの人は何に笑みを浮かべているんだろうか。

 

「ねえ、比企谷君」

「なんでしょうか」

「雪乃ちゃんさ、誰にチョコあげると思う?」

「知りませんよ。あいつが誰にチョコ渡すかなんて」

「またまた~……期待しているくせにさ」

 そんな底冷えする声が耳元で囁かれる。

「君はいつまで自分に対して嘘をつき続けるのかな? お姉さんは勘のいいガキは嫌いだけど嘘をつき続けるガキはもっと嫌いだな」

「自分の胸に手を当ててもう一度言ってみてください」

 

 わざとらしく自分の胸に手を当てるとすぐに首をひねる。

 別に雪ノ下が誰のためにチョコレートを渡そうが俺にとってはどうでもいいことであって俺はただ単に今日ここに来たのは味見役なだけだ。

 雪ノ下からチョコを貰うために来たんじゃない。

 

「そう言えばね~。雪乃ちゃんって隼人にチョコ渡したことあるんだよね~」

 

 わざとらしくそんな大きめの声で言うと周囲の空気が一瞬にして凍り付く。

 特に葉山グループの三浦・一色が雪ノ下の方を見て雪ノ下は鬱陶しそうな面倒くさそうな表情をしながらもチョコを作り続ける。

 

「そうだったね。陽乃さんも一緒にくれた奴だ」

 

 葉山のその一言によって再び元の温度を取り戻した空気が流れ始め、三浦と一色も雪ノ下に視線を送るのを止めてチョコ作りに集中するが陽乃さんだけは面白くなさそうな表情を浮かべ、冷たい目で葉山を見る。

 陽乃さんの中で葉山の評価が最悪レベルにまで下がった証拠であると同時に少しだけこの人のことが分かった気がする。

 この人はこの空間の色合いや温度が変わるのを楽しんでいるんじゃなくて葉山と雪ノ下、この二人の反応を楽しんでいるだけだ。

 そのほかの連中の事なんて眼中にすらない。

 文化祭の時だって相模を扇動して会議の場をグチャグチャにしたように見えるがそうじゃない。

 あの時の雪ノ下の表情や行動といった物を楽しんでいたんだ。

 そう考えるとある程度の筋は通ることになるがそれと同時に何故かイラつきも出てくる。

 もう俺だってバカじゃないし、俺自身が抱いている感情についてだって答えは出しているけどそれを明確に理解してしまえば今までの物が全部崩れ去ってしまいそうで怖いのかもしれない。

 俺は本物が欲しいと言った。

 その癖にいざ、すぐ近くに本物が見えれば恐れをなして逃げ出してしまう。

 俺はなんて骨なしチキン野郎なんだろうか。

 結局、こういう事なんだろう。

 今まで無かったものを得ようとすればそう言った類の感情を抱いてしまうのはある意味致し方が無いことだろうし、それが当たり前なんだろう。

 だとしても俺は……弱すぎる。

 

 

 

 

 ――――――☆――――――

 キッチンタイマーが次々と鳴り響き、テーブルの上にチョコが置かれていくと室内にチョコレートのほんのり甘い香りが漂う。

 結局、あれ以降は陽乃さんは目立った行動はしなかったけどどこか嵐の前兆のような静けさだったので嫌な予感のような物がするが考え過ぎだろうか。

 三浦の焼いたチョコを一口食べ、じっくりと味見をする雪ノ下。

 そしてそれをはらはらした感情を抑えきれていない様子で見ている三浦。

 

「良いと思うわ」

「そ、そっか……は、隼人も味見してくれる?」

「あぁ、喜んで」

 

 まぁ、どうせ葉山のことだからこういう形で開かれたことの真意は察しているだろう。

 ポケットからPFPを取り出し、電源をつけようとしたその時、視界にチョコが差し出され、顔を上げてみると少し恥ずかしそうな顔をしている雪ノ下が立っていた。

 

「こ、これの味見をお願いできるかしら? 貴方はそれしかできないのだから……べ、別にこれが……その……バレンタインのチョコという訳ではないのだけれど」

「お、おう」

 なんだこの中途半端なツンデレは……まぁ、でもやっぱり完璧超人の雪ノ下が作ったチョコだ。

 正直、そこら辺に売っている適当なチョコよりもうまいと思う。

「ど、どうかしら」

「あぁ、美味しい。やっぱお前料理上手いな」

「そうかしら。女性として料理が美味いに越したことはないわ」

 

 雪ノ下さんや。それを目をパチクリさせて気まずそうにしている由比ヶ浜お嬢様に言ってやんな。

 一息つきたいのか雪ノ下は俺の隣に座る。

 

「今回は恙なく行ったようね」

「これが恙なく行かなかったらうちの学校は問題だぞ」

「それもそうね…………ねえ、八幡」

「なんだ、雪乃」

「あれ? 二人ともいつから名前で呼び合うようになったの?」

 

 それは純然たる疑問なのか、それとも他の意味合いなのか。

 葉山は真実を知っているとしてもそれ以外の連中はただ単に俺達が付き合っているという作り物の事実しか知らないので恐らく、彼女は知らなかったのか。みたいな感じにしか見えないだろうが真実を知っている方からすればどちらなのか分からない。

 

「何々!? いつからそんな関係になったの雪乃ちゃん」

「別に姉さんには関係ないでしょう」

「教えてよ~。妹の恋愛事情って気になるし~」

 

 獲物を見つけたと言わんばかりの勢いと攻撃を用いて雪ノ下をつつきはじめる。

 しまったな。完全に失敗だった。

 陽乃さんの前では付き合っているふりはしない方が……だとしたら他の連中に対しては逆におかしく見えるからそこから彼女が気付く恐れもある。

 つまり詰んでいたんだ。俺達は彼女が来た時からすでに。

 

「良かったね、雪乃ちゃん……本物が手に入って」

 そんな底冷えする声が聞こえた瞬間、雪ノ下の手が俺の手を軽く掴んだ。

「っし。じゃあ片付けるか。陽乃さんも手伝ってくださいよ」

「え~」

「冗談です。雪乃」

「え、えぇ」

 彼女の手を軽く引っ張り、片付けに入ることで何とか彼女から離れる。

「なんだ? もう終わったのか」

「おっ。静ちゃん」

「そう呼んでくれるな、陽乃」

 

 陽乃さんは新たな獲物というかそっちの方に興味が映ったのかチラッと俺達の方を見て部屋に入ってきた平塚先生の下へと向かう。

 ある意味助かったというか……。

 

「お前は随分暇なんだな」

「そう? ある程度のお金を持っていて頭がいい大学生は皆暇なんだよ? あ、今度静ちゃんとも一緒にお酒飲んだりしてお話ししたいな。積もる話もあるし」

「そうだな……本当に積もる話があれば酒無しでも一日中、話しを聞いてやろう」

 

 そう言った瞬間、陽乃さんの肩がピクッと動くと同時にまるでマルチモードをしている際に回線がパンクしかけて一瞬、フリーズするかのように彼女の全ての動きが停まり、その瞳にもさっきまでの色は感じられないがそんな状態はクスリという笑い声とともに一瞬にして消え去る。

 交錯するその視線の真意は俺達には分からない。

 恐らく、実妹である雪ノ下ですら見えない何かを平塚先生は見ているんだと思う。

 完璧に隙間なく包んでいる強化外骨格に出来たほんの少しの隙間から見えているのか、それとも先生の目にはそんなもの隠すものですらないのかは分からない。

 ただ先生と陽乃さん。

 この二人の関係は俺達では絶対に構築できないものだと思う。

 俺と雪ノ下、由比ヶ浜と雪ノ下と言った関係を平塚先生が構築できない様に。

 ……こう思っているという事は既に俺は彼女たちと構築した関係は特別なものだと思っていることか……別におかしなことじゃないし、気づいていたことだ。

 今までバグと称していた物を取り込んだんだ。

 見て見ぬふりをするのは無理な話だ。

 

「先輩~。お疲れ様でした」

「今日は俺は何もしてねえよ。雪乃だ」

「味見役お疲れ魔様でした。先輩がチョコ食べてる姿、なんか彼女から貰えてニヤニヤしている顔に見えてちょっとというかかなりどんびきました」

「褒めるか貶すかどっちかにしろよ。で、俺達は後何を片付ければいい」

「あ、もう後のことは生徒会がしておきますよ。先輩たちはどちらかというと生徒会を手伝ってくださったのであとのことは任せてください」

「まぁ、一色さんがそう言うのなら」

「はい! 今日はお疲れ様でした」

 そんなわけで俺達は一足先にカバンを持って教室から出て行った。




ようやくかけた。
けど終着点はどうしようか。ん~……何も考えてねえ。

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