まどマギとヨルムンガンドの短編クロスオーバーです。
魔女がどうこう、ヨルムンガンド計画どうこうという話ではなく、ほむらとある武器商人の対話みたいな感じとなります。
ほむらが何度も駆け抜けたループのひとつの特異点だと思ってください。
少しでも楽しんでくれれば幸いです。
暁美ほむらは今自分の身に何が起こったのか理解出来なかった。
何回かのループで何度も行ったまどかがいる学校への編入。まどかとの再会。巴マミの死。近づきつつある次のターニングポイント。
今は既に黄昏時。夕日により赤く染まった見慣れた風景の中、家路を歩いていた時にそれは起こった。
背後から車のエンジン音が近づいてくる。自分が今歩いているのは車道と歩道がはっきりと分かれた道だ。特に避ける必要も慌てる心配もない。
そう思っている内に自分の横の車道を白のバンが通過した。バンが通過した際に生じた風に髪が少し靡いたが押さえるほどでもない。
自分の横を通り過ぎたバンへ自然と視線が向いたその瞬間。
自分の顔の下半分に圧迫感。
自分の上半身に拘束感。
自身の体全体に衝撃と浮遊感。
それらが全て同時に起こった。
突然のことに意識が漂白する。
その間にも体全体の拘束感は強まり、浮遊感は疾走感へと変わっていく。
自分の体が自分の意思と関係なく動かされている感覚に意識は一気に覚醒した。
そうしている内に先程の白いバンはランニングのスピードまで減速しており、側面のスライド式ドアもいつの間にか開いていた。
誘拐。
その言葉が彼女の頭を横切った瞬間、声を上げ拘束された体を全力で動かそうとした。
が、ソレよりも早く自分の体はバンの中へと放り込まれてしまった。
自分が中に運ばれると同時にドアは閉まり、バンは再び加速を始めた。
ここに来て漸く顔の圧迫感・・・自分を押さえていた手が外された。
「アナタたッ!?」
声を出そうとしたら今度は顔全体に何かを被せられ、視界と声が封じられた。そうしている内に座席に押し倒され、両手を後ろに回され、足も押さえられ、其々が直に縛り上げられてしまう。
(なんなのよ、この手際の良さは!?)
自分が捕まって一分あったかどうかの早業だった。
「こんばんわ、子猫ちゃん」
(女の人?)
拘束したにも関わらず、いまだに自分の上から動かない自分を誘拐した人物が声を掛けてきた。そこで漸くほむらは自分を攫った人物が女性だと知った。
「少しあなたに聞きたいことがあってね、ちょっとウチのボスの所まで来てもらうわね」
それだけ言って彼女は口を閉ざした。それからバンの中はエンジン音と走行音以外は一切の無音となった。
ほむらは必死に現状を考えた。
自分が誘拐された事。
ほむらには自分が誘拐される理由は察していた。
自分が各所から盗み出した数多の武器弾薬。
攻撃力を持たない自分を補うためにどうしても必要な数多の武器。
だが、ほむらはだからこそ解らなかった。
自分が盗み出した際の証拠は一切残っていない筈。残っていたとしても自分を特定できるものは無い。
何より、自分は今まで一度もこのような事を経験したことが無い。
何故、今、ここで、このような事が起こってしまったのか。
暁美ほむらは今自分の身に何が起こったのか理解出来なかった。
どれほどの時間が流れたのか、閉ざされた視界と無言の時間がほむらの体内時計をあやふやにしていく。彼女を攫った女性もいまだにほむらの上から動こうとしない。
ほむらも口を完全に閉ざされていたわけではなかったので、最初は有らん限りの質問をした。
あなた達は何?
何が目的なの?
今すぐ帰して!
どんなに声を上げても誘拐犯達は一切口を開こうとしない。まるでこの場にほむらなど居ないという様な徹底的な無視。
ほむらは今叫ぶことを止め無言に徹している。だが、少しでも情報を得るために全神経を聴覚と触覚の二つに向けている。
(さっきまで普通のアスファルトの道路を走っていたのに、3分位かしら?その辺りから無舗装の道を走り出してる。それもさっきから坂を上ったり降りたりの繰り返し。今山道を走っているのかしら?)
そこまで考えてほむらは自分の現状を見つめ直す。
(さっき女の人は、ボスの所まで来てもらうといった。つまり、直に私をどうこうするつもりは無いという事。もし今山道を走っているなら、周りには民家やそういった類のものは無い可能性が高いわね)
だとしたら運がよければ脱出できる。
ほむらはそう判断した。
拘束が解ければその瞬間にも自分なら脱出はできる。彼らも何時までも自分を拘束しているとは思えない。足の拘束でも解ければその時がチャンスだ。
ひとつ問題があるとすれば。
(ちょっと酔ってきたわね・・・)
前後不覚の状態で長時間車に乗り続けて来た性で気分が悪くなってきた。
後三十分は持つだろうが、それまでに車が止まって欲しいとほむらは願った。
車はそれから20分程で停車した。
それからシートベルトが外れる音。ドアが開く音。人が降りる音が重奏する。そんな中、ほむらは自分の身体が再び浮き上がる感覚を感じた。
(目的地に着いたのね。でも拘束は一切外さず、そのまま運び出してる)
運ばれ方は感覚から自分を両肩で担ぎ込み、両の腕で自分の手と足を押さえ込む感じで運ばれている。
徹底している。自分を「荷物」ではなく、いつでも抵抗してくる「人間」として扱い、可能な限り抵抗する手段を封じて対応している。
最初のときから感じたが、この誘拐犯達はチンピラなのではなく、間違い無くその手のプロだと感じさせられる。
そうしている内にほむらを運んでいる人物の足音は土を踏む音からコンクリートの道を歩く音に変化した。それに合わせ、自分達の背後で重厚な金属が軋む音が響きとそれがぶつかる音が響いた。
(鉄扉?音はかなり大きかった。ここは倉庫か何か?)
ほむらがそう考えているうちに動きに変化が起こった。
ほむらを運んでいた人物は歩くのを止め、ほむらを下ろし、椅子に座らせた。そしてほむらの背後に回り最後の仕上げを行う。その感触にほむらは唖然とした。
(片腕ごとに手錠!?私の両手両足縛っておいて、更に椅子に縛り付けられてる!何処まで徹底する気なのよ!?)
そうしているうちに自分の頭に覆いかぶさっている袋が外された。
袋の中の暗闇に慣れていたほむらの瞳は突然の光に痛みを感じ、反射で瞼を強く閉ざした。そして、瞼の裏から来る光に瞳が直になれ、徐々に瞳を開けていく。
ぼやける視界の焦点が漸く外界を認識し、像を結びだしたとき、それを待っていたかほむらの前に座っている人物が声を掛けた。
「こんばんわ、お嬢さん」
その声は若い男であり、ほむらは目の前の人物の容姿に驚いた。
(外人?)
その男の印象は白だった。
来ているのはダークグレーのスーツに白いワイシャツ、青のネクタイ。町を歩けば必ず目に入るような普通のビジネススーツの姿。だが、それを着ている容姿は普通じゃなかった。
白い肌、白い髪、青い瞳、日本人よりも鋭く高い鼻。町を歩けば、特にこの日本では間違いなく目立ち誰もが振り返るような美男子だ。だが、それよりも印象に感じるのは彼が纏う雰囲気だった。
白を連想される彼の容姿は決して病弱という訳ではなく、むしろ白刃のナイフのような鋭さがあった。
なによりも彼の目。口元は笑っているが、彼の目は強い意思が湛えられており、それが彼から弱さを連想するものを払拭していた。
男は驚いた表情を浮かべるほむらを見ながら自己紹介を始めた。
「僕はキャスパー・ヘクマティアル、武器商人だ。君に聞きたい事があってね。少し手荒な歓迎になってしまったが、どうか答えてくれないかなお嬢さん」
男・・・キャスパーはそういってフフーフと鼻で笑った。