今回から2,3話程、若干昭和テイストが入っております。
ではどうぞ
クモサーヴァントが街で暴挙の限りを尽くしたその翌日。
現場周辺には黄色いテープで立ち入りが禁止され、見張りには数人の警察官が直立不動の姿勢で立っていた。
そして捜査員の刑事たちは破壊された住居や蜘蛛の糸が付いたまま横転している車を見て、息を飲むしかなくなる。
まさに惨状と言っても差し支えない程の被害。
彼らは気味の悪いものを感じながら捜査活動を開始する。
「酷いですね。こんなにメチャクチャになってかなりの犠牲者も怪我人も出て」
「まあ、起きてしまったことは今どうしようもない。俺たちに出来るのはこれ以上の被害を出さないためにも事件の真相を解明することだけだ」
「は、はい!」
新米刑事の発言を受けて先輩である男が彼を奮起させた。
10年近くのこの道一筋のベテラン警察官--芦河ショウイチも手掛かりを見つけるべく、捜査を始める。
十数分作業をするが特にこれと言った収穫はなく、ショウイチはため息を着く。
「こうなれば被害者から話を聞くしかないか」
口ではそう言ったものの、現状かなり難易度の高い問題だ。
被害者は皆事件のおかげで恐怖を植え付けられ、まともに会話するのも厳しい状態。
このまま何も目新しい成果がなければ被害者の精神状態が安定するまで待つしかない。
規制線の外に出たショウイチが何も出来ないもどかしさに壁を殴りつけていると、その背に声を掛ける者がいた。
「あまりやり過ぎると壁が壊れるぞ」
「…お前は俺の心配じゃなくて壁の心配をするのか」
「ああ。お前はそんなにヤワではないからな」
「それ、誉めてないよな」
「誉めてるぞ?」
ショウイチが振り返るとそこにいたのは三十代前半の柔らかい雰囲気を纏った男。
ショウイチの十年来の友であり、この街で【天堂屋】というおでん店を営んでいる天堂ソウジだ。
警察官ではない彼がこの場にいるのか、などといった疑問は抱くだけ無駄だとショウイチは悟った。
目の前の相手には普通は通じない……というよりも、普通ではあり得ないことを平然とやってのける男だから。
その一言に尽きる。
「で、どうなんだ?」
「無駄にでかい蜘蛛の糸や瓦礫に車が転がってるのを除けば、特に変わったものはない」
「そうか」
それだけショウイチに聞くとソウジは若干間を置き、ある提案を投げ出す。
「そろそろ昼飯の時間だろう。うちで食べないか?」
「ああ。助かる」
ショウイチはその提案を受け入れた。
事件に関して何も言わずにいてくれる彼の配慮を感じ取ったからこそ、その好意には素直に甘えるのが礼儀だと思ったからだ。
そのままたわいもない会話をしながら歩くこと十数分。
いかにも和風な外観の建物に着く。
ここが天堂ソウジの家であり、おでん屋を営む天堂屋だ。
「ちょっと待て」
「ん?どうした」
ソウジがさっそく店の引き戸に手を掛けようとしたのを寸前で止める。
なんなんだろうかとソウジは気になり、首だけをショウイチの方に動かす。
「今日はお前んとこのあの人はいるのか?」
「おばあちゃんのことか。今はちょっとばかり野暮用があって店にはいないが、それがどうかしたのか?」
「いや別にどうってわけじゃないんだがな。あの人がいるとどうも落ち着かなくてな」
なるほど、とソウジは合点いったと言いたげに苦笑していた。
彼のおばあちゃんは厳格な人柄で、食事中は黙って熱いうちに食すのが天堂屋のルールとされている程。
ソウジ曰く厳しいけど優しい部分が大半を占めているらしいが、ショウイチとしては昼食の時間くらいは肩の荷を降ろしたいところ。
しかし今回はその心配はないと言うことでショウイチは安堵し、その様子を確認したソウジが開けかけた引き戸を完全に開けると……彼らの共通の知り合いがいた。
「お兄ちゃんお帰り。あ、ショウイチさんおはようございます」
「おはようございますショウイチさん。それと、お邪魔してますソウジさん」
「ただいまマユ。キラくんもおはよう、ゆっくりしていってくれ」
カウンターの中にいるソウジの妹、マユと向き合うように座っておでんを食べているキだ。
ソウジはカウンターに入りマユの手伝いをし、ショウイチも軽く返事を返しキラの隣の席に座る。
座ってすぐにおでんが出されるが、ここのおでんは普通とは少しばかり違う。
卵とがんも、大根しかネタがないのだ。
メジャーなこんにゃくやはんぺんなどは1つとしてない独特さ。
なんでも家族3人がそれぞれ好きな具材を入れた特別なおでんらしい。
最初に見た時はショウイチもキラも何故この3種類だけなのか?
これは本当に美味いのだろうか?
などと思うところがあったものの、食べてみると他をいとも容易く凌ぐ旨さで何も文句が出てこなかったのを彼らはよく覚えている。
「ところで、お前仕事は休みなのか?」
「確かにいつもはこの時間は風心館にいるんじゃなかったか」
「はい。今日は休みをもらったんです」
「そうだ!キラさん。お兄ちゃんとショウイチさんにも聞いてみたら」
「そうだね。あの、この子に見覚えありますか?」
そう言いながらキラが取り出したのは1枚の写真。
昨日浜辺で倒れていた女の子の写真だ。
ショウイチとソウジも一時動かしていた手を止め、写真を凝視する。
「俺は知らないな。ソウジ、お前はどうだ」
「悪いが俺にも心当たりはないな。すまない」
「そうですか。昨日浜辺で倒れてた女の子なんですけど、記憶がないみたいで知ってる人がいればって思ったんですけど」
「私もこんな感じの子見たことなくて、ここに来る前にカズマさんのところにも行ったらしいんだけどカズマさんも知らないって」
ショウイチとソウジ、マユにも面識がないと言われ、キラは心の中で落胆した。
ここに来る前に警備会社BOARDにも立ち寄ったのだが、やはり社長の剣立カズマも社員も知らずとのことで。
他にも朝早くから聞いて回っていたのだが、たいした成果を挙げられないまま昼になってしまったのだ。
「そうまでして誰も知らないとなると別の街の住人か最悪、外国の住人の可能性もあるぞ」
卵を割り箸で半分にし口に放り込みながら、意見を出すショウイチ。
おばあちゃんに見つかりでもしたらお叱りがくることは確実だろう。
そんなことを思いながらキラもマユもソウジも、可能性としては有り得ると多少同意する部分があった。
「一応戻ったら捜索願いが出されているか見てみるが」
「ありがとうございます。僕も食べ終わったらシンジさんにも聞いてみます」
「大変だな。お互いに」
「そう…ですね」
はあ、と静かに息を吐きながらショウイチとキラは脱力する。
2人とも理由は異なれど昨日の騒ぎのおかげで精神も肉体も枯れ果てる一歩手前。
ソウジとマユにも疲れているのだろうというのが見て取れるくらいに。
彼らからの視線を感じながら、ふとキラの右腕は無意識にポケットの中に入れている4枚のメダルを掴む。
(そういえばこのメダルのこともよくわからないんだよな)
あの時は違和感や不安の類いを一切感じず、ただできると一種の確信があった。
どう戦えばいいか
どのメダルがどういった特性を持つかも
すべてわかっていた。
まるで最初から自分の所有物であったかのように。
それにわからないのはもう1つある。
7人の仲間を目覚めさせろと言った不思議な声。7人の仲間とは誰を指すのか、何故7人なのかと気になる点が多く、謎だらけだ。
(わからないことだらけだな)
それらのことを、思案していた時だった。
何かを感じ取り、いきなりキラが焦燥の色を顔に浮かべて立ち上がったのは。
「どうかしたか?」
「御手洗いならそこだが」
突然の行動にショウイチは驚くが、その彼とは対象的にソウジはトイレに行きたくなったのだろうかと首を傾げていたが
キラはそれに返答することなく、険しい表情で天堂屋を駆け出した。
「どうしたんだろうキラさん?」
「ふむ。なにやら慌ただしい様子だったが」
マユもソウジも程度の差はあれど困惑し、キラが座っていた席を見る。
ショウイチは特に気に止めていなかったのかおしぼりで顔を拭いていると、彼の携帯が鳴り始めていた。
着信画面を見て電話を掛けてきた相手の名前を確認すると、渋々といった仕草で通話ボタンを押す。
「もしもし、なんだ八代。……なに?わかったすぐ行く」
「仕事か?」
「ああ。ったくろくに飯を食う時間すら俺にはないのか!」
「あ、ショウイチ」
制服のボタンを締めながらショウイチは後ろを振り向く。
いつの間にか目の前に移動していた、ソウジが笑顔で手のひらをこちらに見せている。
その意味がわからずショウイチは率直に彼に聞く。
「何だその手は」
「--無線飲食を…警察がしていいと思っているのか?」
あ、とショウイチは自分が食べたおでんの代金を出していないことに気付いた。
速く言えとショウイチは思ったが、ソウジも彼に限って無線飲食をするとは思っていなかったのだろう
平然と笑顔を保っていた。
「悪かった今払う」
「頼むぞ。2人分な」
「そう急かすな……2人分?」
そこでショウイチは財布から目を離し、相手の顔を凝視する。
自分が食べたのは一杯のみで、払うのは1人分の代金で十分なはず。
顔に出ていたのかあるいは考えていることを読み取ったのか、ソウジはある席を指差す。
--ついさっきまでキラがいた席を
「キラくんが代金を払わずにどこかへ行ってしまったからな」
「…待て。それはその、つまり、あいつの分の金も俺が払えと、そう言いたいのか」
「仕方ないだろう。俺が払えない以上、お前しかいないんだ」
ソウジの言葉は間違いなく正論だ。
経営者が客の代金を肩代わりするなど聞いたことがない。
いや店によってはあるのだろうが、ここは違う。
おばあちゃんという名の、最大にして最強の
この理論によりソウジとマユが金を支払うのは不可能。
つまりどうあっても最終的には、今キラの知り合いで金を払える人間はショウイチだけ。
結果、疲労回復どころか精神と財布の中身がすり減っただけになってしまったショウイチ。
いち早くその点を察していたマユは、そんな彼を不憫に思いながら皿洗いに勤しんでいた。
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キラがある感覚に従って向かった場所は取り壊しが決まっており、人っこ1人すらいないマンション。
夜に肝試しでもしたらそれなりの雰囲気はありそうだ。
だが昼である今幽霊など出るはずもない。
空いている非常口から入り、階段を上がっていく。
コツコツと靴の乾いた音が無人のマンションに反響する。
階段を登って行くにつれて妙な感覚も強くなっていく。
そして--
「来る」
言うが否や上りかけた階段を飛び降りると、カメレオンを模した怪物がその姿を見せた。
『ガァァァ』
カメレオンサーヴァント、そう言うべき存在はキラを視界に入れると敵意を表し腕を震わせる。
キラも戦闘態勢に入っておりベルトにメダルを挿入し、リーダーを構えた。
〈フェニックス!レグルス!アビス!……フェルス・フェルス・フェルッス!〉
変身を終えると同時にシャインはカメレオンサーヴァントに突っ込み、別の窓ガラスの破片と一緒に地面に落ちる。
シャインは足から着地し、背中から着地したため衝撃が体を伝達しているはずが平然と立ち上がるカメレオンサーヴァントに相対。
幾度となく拳と蹴りがぶつかり、互いに的確なダメージを与えていく。
どうやら近接戦闘は互角……そう考えたシャインは一時カメレオンサーヴァントから距離を取り真ん中のレグルスのメダルを変えた。
〈フェニックス!ポセイドン!アビス!〉
3又の槍--トリアイナを手に、カメレオンサーヴァントに突きを入れる。
『グ…ゥ』
「はあっ!」
カメレオンサーヴァントが仕返しに殴り掛かるも、シャインは相手の拳をトリアイナの柄で受け止め、アビスレッグによる水の蹴りを叩き込む。
大きくよろめくカメレオンサーヴァントだが、このままただやられっぱなしではない。
口から出した長い舌でシャインの胴を絡めとり、近くの電柱に投げ飛ばす。
「くそ…ん?」
苦悶の声を出しながらシャインが正面を見ると、ある変化があった。
カメレオンサーヴァントの姿が消えているのだ。
逃げたのかと思った瞬間、背後からの強力な攻撃を受け膝を付く。
(高速で動いている?いや、カメレオンに近い姿をしていたから…消えているのか!)
見えなければ攻撃を当てられるはずもなく、何かしらの手段で相手の姿を認識しなければ一方的にやられてしまう。
この状況を打開する方法をシャインは理由はわからないが知っていた。
赤いフェニックスを模した頭部--フェニックスヘッドの能力を利用して自分の周りを見る。
すると赤い風景の中にある1点が、白くなっている部分を発見する。
その部分目掛けてシャインはトリアイナを投擲し、腹にそれが刺さったカメレオンサーヴァントが視認できるようになった。
すかさずシャインは最初の形態に戻り必殺の一撃を決める。
〈シャイニングチャージ!〉
「おりゃゃゃゃゃ!!」
高く跳躍し、赤・白・青の光を纏った右足から放たれた強烈な蹴り--シャイニーキックを身に浴びたカメレオンサーヴァントは爆発。
戦闘を終え一呼吸してから、妙に数多くの視線を感じたシャインは背後を振り返る。
それは、街の人たちのものであった。
性別も年齢も職業も関係なく全員が全員、シャインを見ていた。
今の戦闘を巻き込まれないように見ていたのだろう、彼らは数メートル程離れていた。
怖い思いをさせてしまったと、シャインはどうにかしてこの場を明るくしようと考えるも
彼らから感じられる雰囲気は、とても穏やかなものではない。
接客をすることが多い彼でも、自分に向けられている視線はめったに見ない。
むしろ見ないことの方が多いのがほとんどだろう。
まるで
シャインがその様子を疑問に思い、一歩踏み出して訊ねようとすると
「ひ、ひい!?来るな!この化け物め!」
「……え」
先頭にいた男性の拒絶の意思を示す言葉。
シャインは反射的に立ち止まる。
しかしシャインの行動とは真逆に、男性の言葉が火種となり他の者たちもそれぞれの感情に従って叫ぶ。
「「消えろ!この怪物が!!」」
「「お前らのせいで街がめちゃくちゃだ!!」」
「「この街から出ていけ!」」
「「私たちの平和な暮らしを返して!!」」
恐れ、怒り、悲しみ、憎しみ、そういった負の感情をぶつけられたシャインはこの事態を理解することができず、ただ立ち尽くす。
それも仕方のないことだろう。
カメレオンサーヴァントを倒した彼は街を守った者なのだから。責められる理由はどこにもない
だが罵倒する彼らの勢いは止まることを知らず、よりエスカレートしていく。
仕舞いには、とうとう石や金属を投げつけてくる者も現れた。
(なんで……?)
その思いだけで頭の中や心の中は埋め尽くされた。
シャインはこの場にいるのが耐えられなくなり彼らから逃げるように、走り出した。
やり場のない感情で唇を噛み締めながら、とにかく彼らから逃れることだけを考えて
ただひたすら
如何でしたでしょうか?
別に主人公をいじめたいわけではありません。
ただ、シリアスをぶちこみたいだけなんだ!!