リアルが何かと忙しく遅れてしまいました。
特撮大好きさんには許可を頂いていますが主要人物の過去を断片的にでありますが盛り込んでいます。
特撮大好きさんの作品『仮面ライダー☆ブレイズ』と異なる可能性もありますので、パラレルとして見てくだされば助かります
初めて会った時の印象ははっきり言ってよく覚えていない。
仮面ライダーになる前のアタシ世間一般の女子高生が望む恋愛には疎かったし、そもそも恋心という感情すら知らなかった。
『離して!やめてよ!』
『うっせんだよ黙ってさっさと財布よこせよ。あんだろ、うちら昨日あんたにバイト代入ったの知ってんだよ。なあ伊久美』
『どうせ貢ぐ男もいねえんだからいいだろ?』
それ以前にアタシは高校のクラスメイトや友だちからイジメを受けていた。
もちろん初めからそうだったわけではない。
仲の良い友だちと帰りにゲームセンターに通ったりバイト先でも休憩がてら、最近のおしゃれなんかについて談笑することもあった。
けれどもある時を境にアタシの高校生活は変わってしまった。
『-おい聞いてんのかよ
化け物。そうアタシは人間ではなく化け物なのだ。
イジメを受けるようになった数ヶ月前から、アタシには普通ではないエスパーじみた能力が目覚めていた。
能力を持っていると自覚したのはゴミ箱の近くに散乱していた空き缶を触れることなく、それとなく目を向けただけで凹ませられたことからだ。
その時は何かの間違いだと気に留めないように意識してできた。
でもそれからアタシのエスパー能力は激しさを増していった。
ドラム缶を衝撃波で吹き飛ばしたり、他人の財布の中身を透視できたり、面識のない学校の女子が前に事故で腕を骨折していたことが何故かわかったり、とにかく今までできなかったことができるようになった。
それでようやく気付いた。
アタシは
途端に自分が怖くなって、だから極力人と関わるのを避けた。
下手に怪しまれないように学校だけは通い続けたけど、 口数も減り積極的にクラスメイトとの会話に参加しなくなったアタシは、次第にクラスでも学校でも孤立していった。
そうなってもアタシは構わなかった。
周りに超能力を持ってるなんて知られたら何をされるかたまったものじゃない。
そう強がっていたアタシに変わらずに友だちとして接してくれたのは、天下谷 伊久美。
高校でできた最初の友だちで同じくらいに活発な彼女は荒んだアタシにとっては、砂漠の中のオアシスのようだった。
伊久美がいれば大丈夫。どんなに暗い闇夜でも伊久美が微笑みを向けてくれればたちまち夜明けが来る。
そうアタシは信じていた。
そう、信じていた……はずだった
『それでね昨日隆くんがね』
『何それ馬鹿みたい、そんなことやったの。隆も子どもね』
冷えきった2月の学校からの帰り道にそれは起こった。
アタシと伊久美はいつものように他愛のない会話で帰宅時間を過ごしていた。
それがアタシの至福の時間だった。
もうアタシにはこれぐらいしか幸せと言えるものがなかったから。
『わあああああ!!』
けれどその幸せにも終わりの鐘が響いた。
宝石店からたらふく金品をせしめた強盗がナイフで通行人を払いのけこちらへ逃げてきたのだ。
『未来ちゃん、あれ…』
『逃げるよ!伊久美』
アタシは伊久美の手を掴んで走りだそうとした。
が、ついていないことに下は低温で凍結した道路で伊久美は足を取られてこけてしまった。
そして強盗は逃亡の邪魔になる伊久美を手にかけようとした。
『このくそガキ、どけえええええ!』
『ひぃ、きゃあああああ!』
『伊久美ぃぃぃぃ!』
アタシに迷いはなかった。
友だちを助けたい、ただその一心でアタシは超能力を使ってしまった。
人目に触れぬよう禁じてきた忌まわしい力を。
強盗はトラックにでも衝突したかのように弾かれ数十メートルは離れた建物の壁に激突し、動かなくなった。
助かった、安心しきったアタシは伊久美に駆け寄りいつも通りの声色で慰めてあげようとした。
でも
『-こ、来ないで!』
伊久美は体を小刻みに震わせてアタシの手を払った。
何故そうされたのか一瞬わからなかったけれど、ひとつだけこの時のアタシにもはっきりわかっていたことがあった。
伊久美の震えは寒さによるものではなくアタシを恐れていたのだと。
それに次に目にしたアタシを見る伊久美の瞳はもうさっきとは180°一変していた。
温かい親友の眼差しから、醜いモンスターを憎む冷たい刃の眼差しに。
『う、うわあああああ!!』
耐えきれなくなったアタシは全力で伊久美の前から逃げ出した。
それからのことはよく覚えていない。
とにかく逃げたかった。親友から拒絶されるのが嫌で怖くて泣きたかった。
それから丁度2ヶ月が過ぎた頃
その頃にはアタシの超能力は周りに知れ渡り気味悪がられた。
それだけならまだしもアタシが抵抗できないのをいいことにバイトで稼いだ金を奪われたり、制服を破かれたりやりたい放題されていた。
学校には味方は一人としてもういなくなった。
親友の伊久美もあの事件以来アタシを毛嫌いし、イジメを加える側に回ってしまった。
アタシは唯一の拠り所を失い生きる意味を失っていたのだ。
大我と初めて会ったのはそんな時の夜の帰り道のこと。
独りぼっちで明かりの少ない路地を歩いていたアタシの前に、げてもの染みたクラゲのような怪物がどことなく現れた。
『…な、何よ…』
『お前は人間ではない。人はただ人であればいい』
人語を話す怪物にますます恐怖に駆り立てられたアタシはそこから動けなかった。
頭は逃げろと警告してくれているのに、体が言うことを聞いてくれない。
例えればそんな感じだった。
『い、嫌…こ、来ないで…来ないでよ!』
無駄だとわかっていても拒むように声の限り叫んだが当然怪物が聞き入れてくれるはずもなく、アタシは完全に諦めていた。
『やめろ!』
そこに青い仮面の戦士が怪物とアタシの間に割り込み怪物を殴り飛ばした。
状況が飲み込めず唖然としていたアタシに、その仮面の戦士は怪物の猛攻を巧にやり過ごしながら告げてきた。
『逃げて!』
『だ、誰…あなた』
『早く!チェンジ、オーズ!』
問いに答えることなく仮面の戦士はアタシにそう返し怪物に向き直る。
強い語気に圧倒されたアタシは恐怖も相まって言われるがままにそこから走り出した。助けてくれた仮面の戦士が無事であるようにと祈りながら
その翌日教壇に立った担任から告げられたのはアタシのクラスに転校生が来るという話だった。
もっともその話を至極真面目に聞いていたかと今言われれば、十中八九『NO』だ。
当時の環境を踏まえればそんな心の余裕などあるはずもない。
『チャイムが鳴ったぞ。はい席について、えー…今日からこのクラスに新しい生徒が転入してくることになった。みんな仲良くするように、では入って来なさい』
『はじめまして士道大我と言います』
シワひとつない真新しく制服に身を覆った男子転校生。彼こそが士道大我であり、これが初めて互いに顔を合わせた対面だった。
自己紹介を聞いたクラスの皆はおおはしゃぎ。
特に女子はストライクゾーンに見事入ったのが、多数いたのか甲高い悲鳴ともとれる歓喜に魅了されていた。
クラスの女子たちとは対照的にアタシは露程に関心も興味も持てなかった。
-自分は化け物だから
そう壁を作って周囲を隔絶していたから
一週間が経ち、クラスは男女問わず大我を皆比較的短時間で新しい仲間として受け入れていた。
当たり前だけどその輪にアタシはいない。
『はあ、もう何だか疲れちゃったな…色々』
-いっそのこと消えてしまいたいぐらい
豪雨の下恒例となった独りぼっちの帰宅中、アタシは傘で雨から身を守りながらそう呟きを漏らした。
横を通り過ぎる相合い傘をしたカップルの親しげな雰囲気がより気を沈ませる。
『君同じクラスの人だよね?』
真後ろから声をかけてきたのはまさしく士道大我その人。
『1人なの?あ、俺は士道大我。君の名前よかったら教えてくれない?』
『悪いけどアタシナンパ男には興味ないから』
『そんなんじゃないよ。ただ同じクラスメイトとしてこれから仲良くなろうと』
『あ、そ。なら他を当たれば?アタシはお断りだから。あんたと仲良くなんの』
『俺、君になんか悪いことしたかな…?』
『そう思う心当たりがあるなら今後一切アタシに関わらないで欲しいわね』
我ながら八つ当たりに等しい暴言だとこの時も自覚していた。
けれどこれぐらいでも言わなければ、親しくなってしまえばまた伊久美の再来が到来してしまう。
もうあんな目を見たくはなかった。
それだから大我を遠ざけようとした。なのに
『ブワアア…』
また前に出くわしたのと同じような怪物が目の前に現れた。
今度は黒と赤、2体のカラスのような異形だった。
『嘘、またなの…?なんで、どうして!?なんでアタシばっかり!』
『逃げて!』
言葉にならない声を出し怯えているアタシを守るように躍り出た大我は、学校の指定バックから取り出したベルトを巻き付け変身した。
『変身!』
『Kamen Ride BRAIZ!』
『え…』
またもやアタシは言葉を失った。
ただの転校生だと思っていた男子が以前自分を助けてくれた、青い仮面の戦士に姿を変えたから。
その青い戦士は数の差をもろともせず2体のカラスを追い詰めていく。
『まとめて片付けてやる、チェンジ、ファイズ!』
『START UP!』
歩道橋から突き落とした怪物たちを見下ろす青い戦士はアタシの視界から消え、代わりに赤い円錐形のエネルギーが複数怪物たちを包囲し、その体に突き刺さる。
『3、2、1、TIMEOUT REFORMATION』
先までいなかったはずの青い戦士が再び歩道橋に姿を現すと同時に怪物たちは道路上で爆発し、燃えクズになる。
青い戦士はベルトを外すと大我の姿に戻りアタシに駆け寄ってきた。
『大丈夫?怪我とかしてない?』
悪意のない笑みを見せて差し伸べられた手。
無意識にそれを握ろうとしたことに気付いたアタシは慌てて手の甲で払う。
『なんで…なんで助けたのよ!』
『なんでって、放っておけなかったから。あのままだったら君は-』
『死んでたって言いたいの!?なら大歓迎よ、どうせアタシなんかが死んだって誰も困りゃしない!アタシにはこの世界で生きる意味なんてないの!…もう構わないで!』
『ちょ、君!』
分け目も振らずアタシは大我の肩にぶつかりながらも一目散に逃げた。
もうたくさんだ。
どうして自分ばかりが、どうして自分だけがこんな目にあうのか
自覚していないだけで何か神様に見放されるような大罪でも犯してしまったのだろうか
もう自分が分からなくなっていた。
☆
「それが俺が未来と初めて会った時のことです」
キラは落ち着ける場所で話そうと風心館のリビングへ帰宅し、大我の過去を本人の口から聞いていた。
彼は住んでいた平和な世界と親しい者たちを別世界から侵略してきた怪人軍団の手によって失い、彼自身も危ないところを駆けつけた15人の仮面ライダーに救われブレイズの力を手にいれた。
そして数知れない平行世界を自在に渡る力をも手にいれた大我は世界を守るために戦っている旅の途中で、未来と出会ったとのこと。
「俺が未来の世界に来た時には、未来はアギトの力に目覚めたせいで怪人だけじゃなく周りからもいじめを受けてたんです」
「アギト?」
「ある世界の特定の人間が持つ力…いわゆる超能力みたいなものです。その超能力を持つ人間を狙う怪人に未来も狙われていたんです。それに人の方からも色々……」
大我が最後まで言わなかった理由をキラはすぐさま見抜き、彼が言わんとした続きにもおおよその見当がついた。
人は自らとは違う生き物、素性を知らない生き物を過剰に恐れ、関わらない範囲外へと追いやろうとする。
そのためなら手段も過程もそれがどんな結果を生むかさえも、考えようとしない。
似たような目には自分もあったことがある。
だが自分の場合は間もなく出会った先輩の助言と直後の戦闘で解消された。最低限己個人としての話だが
未来はもっと深刻で受けた傷は相当なものだろう。
「そっか。だから君は守りたいんだ…未来ちゃんを悲しませないように」
「ええ、また大切な人をなくすのは何が何でもしたくないですから。でも俺はわかってなかった。未来のことを…守ってあげたい人のことをわかってなかった、わかってたつもりで勝手にひとり納得してたんだ」
大切なモノを失うのはもう嫌だ。
だからこそ手の届くところにいる人だけは守りとおすと、与えられた力に誓った。
なのに最も身近にいた未来を理解できず守れないとは、ここまで馬鹿らしい話はない。
「きっと許せなかったんだと思うよ…」
「そう…ですよね、俺のこと」
「違う違う、そうじゃなくて」
違うと言い切るキラに視線を落としていた大我は弾かれたように彼を見上げる。
言葉の真意を探ろうとする大我の眼差しを一身に受け止めつつキラは語った。
「大我に守りたいものがあるように未来ちゃんにも守りたいものあって力もある。でも力が足らなくて守ることができずに誰か助けられるそんな自分を許せなかったんだと思う…僕もしょちゅうそういうこと思ったことあるから」
「キラさんもですか?」
「他の仮面ライダーの先輩たちや谷藤さんにいつも助けられてその度に思った。けどすぐそんな暗い考えはやめた。それが今の自分なんだしできることを全力でやるしかないんだって。僕が力不足を他の誰かが補ってくれて他の誰かの力不足を僕が補う…それが一番いいんだと思うな」
誰しも足りないところはあるしそれは悪いことではない。
一人でできないなら誰かに力を貸してもらえばできるかもしれない。
無力が罪などという絶対はないのだから。
「そうだぜ、それに協力してくれる相手がいるのは別の強みだぜ。そういう強さは簡単には手に入れられないしな」
キラに続くように話に割り込んできたのはサトシだった。
会話に参加したことに関しては二人とも気に触らなかったが、一つどうしても訊ねなければならないと衝動に駆られる問題があるのだ。
「あの、谷藤さん…?人を探してたんですよね?何だってそんなボロボロになってるんですか…」
額や頬からは流血し、上着とズボンはところどころ切り口があり中身の生地が外にはみ出している。
どこで何をしたらそうなるのか、キラは当然として初対面の大我もサトシの惨状には疑問しか浮かばなかった。
「あーこれか?未来っー子に頼まれたろ?だから俺タイガを探してたんだよ。そしたらよ動物園にいてさ」
(動…物園…?)
「見つけたはいいけど興奮してたらしくて暴れだしてさ。こりゃ退くわけにはいかねーって思ってな、そのまま一騎討ちになって…結果このザマだ。悪いなタイガを連れ戻せなくて、けど場所はわかってんだ今度は必ず勝ってあの子に会わせてやっから安心しな」
(あ、あー…大体わかってきたぞ)
大方『
そんなものだから『たいが』という名前の動物園の虎か何かを探している『たいが』と間違えて、乱闘し敗北した。
ぶったまげた発想力と我ながら卑下したいところだが人生の大半を海外で暮らしていたら、そういう勘違いも起こりうるのだろうと無理矢理納得しようとキラはそれ以上この件に触れるのをやめた。
「もう探さなくて平気ですよ、大我はここにいますから」
「見つけたのか…まさかそいつがそうなのか?」
「はい俺が士道大我です」
「おう、谷藤サトシ呼び捨てで構わねえからな。なーんだ『たいが』って人間のことだったのか早とちりしちまった」
随分壮大な早とちりだったがそれはともかく、サトシも戻ってきたことで次にするべき行動に移れる。
「キラさん、サトシさん、未来を探すのを手伝ってくれませんか」
「わかった」
「うしっ、今度こそちゃんと見つけて二人を会わせてやっからやっからな!」
意気揚々と飛び出したサトシに並んで行く大我であったが、ふとキラが思い出したように彼の背中に言った。
「そうだ。今更言うのもなんだけど僕のこと呼び捨てで呼んでくれないかな」
「え、でも」
「年は僕のほうが上だけど仮面ライダーとしては大我のほうが年上でしょ?立場的には五分五分なわけだからさ」
言われてみればそうだ。
年齢的にはキラが一つ、ライダーとしてのキャリアは大我が一つ、それぞれ上だ。
「じゃあ…改めてよろしくキラ」
「よろしく大我。じゃあ、いこうか…」
コラボ回は次回で終わり…かもしれない