次はもう少し早くできるようにしたいと思います
サーヴァントらが拠点としている廃工場に帰還してきたばかりのディムをミュランは、おかしなものを見たように口の端を吊り上げながら見ていた。
何物も寄せ付けさせまいとする黒く、頑なな感情を言葉に表したような険悪な雰囲気を纏わせている彼…
こうなった原因は想像するに難くないが、肝心の理由の方は数刻ぐらい推察してみたがどうにも分からない。
やはり直接本人の口から聞いたほうが手っ取り早いだろう。ミュランは彼の隣にスッと座り込み訊ねてみる。
「えらく不機嫌ねディム」
「ああ、かなりな…ったく期待外れもいいところだ。前より強くなってるどころか弱くなってやがった」
「--弱くなってた…?」
ディムの言うあいつが誰を指しているのかはミュランにも理解できる。
だが、弱くなっているとは一体どういうことなのか
「あまりに弱くて拍子抜けしちまったんだが、ちと面白い奴らが出てきてな」
「………誰かしら」
「覚えてんだろ、俺たちとほぼ同一の存在でありながら敵対し楯突いた奴ら…ファンガイアを」
「何ですって…彼らがどうして…まだ生き残りがいたとでもいうの」
「まあそんなとこだろうな。ともかく俺はまだしばらく好きにさせてもらうわ、あいつらならまだこのイラつきをどうにかしてくれそうだからな」
先とは異なり少し嬉々たる表情になったディムは立ち上がり場を離れていく。
自由気ままな態度を見せた彼を気にする余裕もないミュランは自らのこめかみに指先を添えて思考にふける。
(一体、何がどうなっているのかしら…)
かつて自分たちサーヴァントを掃討したシャインの弱体化と全滅したと思っていたファンガイアの生存
この二つの点についてはさしものミュランにも答えが出せず一人悩んでいた。
『ガア!ガア!』
「!これは…」
困惑の色を浮かべていた時、ミュランの前にある一羽のカラスが飛んで来た。
不意に視界の中央に飛び込んだため一瞬たじろいだものの、そのカラスが彼女にとって重要な意味を成すものであると認識を完了し終えると、それを腕にのせ静かに目を閉じる。
(援軍を……派遣する……)
それはサーヴァントが有事の際に遠方にいる仲間に連絡をするためのカラスである。
そしてそれがもたらした内容はこちらの戦力増強を意味するものであった。
全容を十全に把握したミュランはわずかに自信ありげな笑みを綻ばせた。
「誰が来るのかまでは分からないけどこれがこちらに有利に動くのは間違いない。大抵の不確定要素ぐらい、どうにかなるわ」
静かな闇の中呟いたミュランを破損している屋根の合間から漏れた、月の神秘的な輝きが照らした。
道路を走行している数多くの車やオートバイ。
その内の一つにはワタルと次狼にラモンそして力の4人が乗っている車があった。
「それにしてもびっくりしたよ。ワタルが買い物したいなんて言うなんて」
「たまにはいいかと思って、僕ら全員で買い物する機会なんてそうないんだし」
「そう、いいことだ」
普段滅多に4人揃って買い物などしないだろうと、ワタルが提案した為に今回彼らは外出したのだ。
とは言っても特に珍しいものを購入したわけでもなく、日用品を補充するぐらいだったのだが気晴らしにはなったようで皆満足気な様子
……神妙な面持ちで車を走らせている次狼を除いて
(シャイン…今頃になって姿を見せるとはなんのつもりだ?)
買い物がつまらなかったのではない。
彼にとっても珍しく大変貴重な時間を過ごし、内心悪くはなかったが今は既に思考を切り替えていた。
頭の中には昨日対峙したシャインの姿がちらついており、それが彼を苛立たせる。
--俺たちを裏切り、仲間内で最も信頼の置けた友を殺めた
全身を切り刻まれ、貫かれ、焼き尽くされ、むざむざ散っていく
命からがら残った自分たちを己の総てを振り絞り、若くして生涯を終えた友であり長であった存在。
彼らはもういないし、もう会えもしない。
(どんなに清廉潔白な事情があったとしても俺は許さん。俺たちから数多くの仲間を奪った貴様は断じて!)
次に目の前に現れたら確実に息の根を止めてやる。
誰に何と言われようと決して揺るがない意志を心に決めたところで、車の運転に意識を切り替えるとしばらくしてある違和感を感じた。
「渋滞か?さっきから前の車がまったく動かないんだが」
「本当だ。おかしいな、普段はこんなに混んでないのに…!」
ラモンもまた車が織り成す長蛇の列をいぶかしむ。
すると彼らが搭乗する車よりも遥か前方に位置するコンビニに停まっていた車が、何の前触れもなく爆発し、膨れ上がる煙の中から青い碧眼をしたハサミムシの怪物がのろのろとした足取りで現れた。
「「うわああああああ!ば、化け物…!!」」
「あれは!?」
「ちっ!こんなところにまで」
噂で聞いていたとはいえども実際に怪物を目にし戸惑うワタルを余所に次狼は奥歯を噛み締めていた。
「ラモン、力。俺があれを食い止めてる間にワタルを連れて逃げろ」
「何を言うんですか次狼も一緒に」
「俺の心配は無用だ、それよりも早くいけ」
「わかった」
「放してください!ラモン、力!」
「気を付けて次狼」
「すまない ワタル」
自身を置き去りにして逃げろと言い放つ次狼にワタルは苦言を呈す。
しかしラモンと力が腕を掴んだまま走り出したために距離をどんどん離れ、ついに声が逃げ惑う人々の悲鳴も相まって次狼の耳に届かなくなってしまう。
彼らの離脱を認めた次狼は冷徹に光らせた瞳を宿しつつ、気高く青き狼に姿を変える。
シャインともサーヴァントとも違う異質な存在、ファンガイア
その数少ない生き残りのウルフェン族であるガルルだ
縦列する車を伝ってハサミムシの怪物ことエアウィグサーヴァントに先制の拳を叩き付ける。
「うおっらぁ!」
駆け出した勢いも加わっていたのもあって、横に大きく転がったエアウィグサーヴァント。
だがダメージ自体はそう深刻ではなかったようで、ピンピンとしている。
むしろ余計な邪魔をしたガルルに憤っているかのような素振りを見せていた。
「ふん、あの単細胞の生み出した虫けらか。本来俺の役目ではないがそんな悠長なことを言ってる場合じゃないか…すぐに八つ裂きにしてやる」
そう言葉を吐き捨てると身軽さを活かした近接戦闘を展開する。
どんなナイフよりも細く鋭い爪と蹴りを中心としたスタイル。
そのような戦い方をするガルルにエアウィグサーヴァントは最初こそ奮闘していたものの、次第に防戦一方となりつつある。
エアウィグサーヴァントとて弱くはない。これでも並大抵実力の相手なら終始優位に立てる部類に含まれるだろう。
だが
言わばエアウィグサーヴァントは|己の親と戦っているに等しい状況なのだ。
-子が親に勝てぬのは自然界において自明の理
このまま続けばエアウィグサーヴァントの敗北は必然だろう……このまま続けばの話だが
『…ギィオアア』
「そろそろ終わりにするか」
「おっと、そいつはさせねえ」
突如として響き渡る第三者の声
その声が最後まで言葉を終えるよりも前にガルルは横に飛び退き、つい先までいた空間を切り裂く大剣をやり過ごす。
体勢を整えるのと同時に割り込んで来た攻撃者の名を忌々しげな口調で告げる。
「随分とまた遅いご登場だな…ディム」
「本当はもうちっと様子見する予定だったんだが、潰されたんじゃ意味ないんでな」
それに、とディムは己が得物である大剣の先端をガルルの眼前に向け、歓喜の表情でこう付け加える。
「俺もただじっと突っ立ってんのは退屈なんでな。シャインも来ねえし退屈しのぎに相手してもらうぜ」
「いいだろう、丁度体が温まってきたところだ。退屈しのぎで終わらせてやる」
「面白れえそう来なくちゃなあ!」
ディムの大剣から繰り出される覇気にも似た斬撃に対しガルルも得意とする拳で応戦する。
それらが接触した途端に2者の中間地点から強力な風圧が発生し散らばっていた車の残骸や道路の破片が銃弾のように飛び散る。
「-ッ、く、おおッ」
痛覚に頬を歪ませたのはガルルの方だった。
金属面を諸に叩き付けられた右手を抑えるガルルに、ディムは逃すまいと自身の武器を翻し横一文字に軌道を描く。
…一切のブレがなく完璧過ぎる綺麗な直線
このまま行けばガルルの体はまさしく真っ二つになるだろう
だが逆を言えば、ブレがないからこそその描く先は読みやすく反応さえできれば防御はそう難解な話ではない。
「むうん!」
それを裏付けるようにガルルは左腕と半身の間で受け止め、空いている右手で拳を作り猛烈なパンチの連打を繰り出す。
「うおららららららぁぁぁ!」
速く、強く、的確に狙いを定めたパンチの応酬。
まるで蒼き腕が幾つもあるのではないかと錯覚させる程にキレがある。
しかしガルルのターンはこれで終わりではない。
一際大きくパンチを放ち続けざまに蹴りで大剣を地面にめり込ませ、くるりと一回転。
今度は別の足を用いてディムの顔面に回し蹴りを食らわす。
「どうだ…!?」
静かに地面に足裏を付けたガルルは連続攻撃の成果を確認すべく後ろを振り返ると……彼の期待を著しく裏付けるものがあった
「おーおー、思ったよりかはやるな」
「なん……だと……?」
まるで何事もなかったかのように首を回すディム。
その自身が想像していた結果とあまりにかけ離れた反応を見たガルルの思考はたちまち驚愕に支配された。
持つ力を惜しみなく振り絞った攻撃。つまり本気や全力といっても差し支えない火力だったはず…
が、それはてんで無意味であるとまざまざと見せられているのだから、彼の驚愕は何ら間違っていないごく自然のものであろう。
それを知ってか知らずかディムは人差し指で首筋を掻きながらガルルを嘲笑い、攻勢に転ずる。
「今ので終わりか?んじゃ今度は俺のターンだ……っと!」
地表を踏み鳴らし跳躍すると猛々しい狼の頭上を軽々と飛び越えるディム。
背後を捕られたガルルは振り向き様に左肩から右脇腹にかけて一筋の斬撃を浴びた。
堪らず呻き声を漏らすが地には倒れ伏さず反撃を試みるべく一直線に右ストレートを決めるも、彼が身に付けている鎧が誇る防御力が邪魔をした影響でダメージはあまりない様子だ。
ありとあらゆる攻撃パターンを用いても倒せぬ敵にガルルの頬から冷や汗垂れ始め、焦りを感じつつあった。
「くそが!何故こうも差が違う!」
「わからねえか、いやわかるはずだぜ永らく俺らと戦ってたお前には。人間の恐怖、恨み、蔑み…そんな負の感情が俺たちサーヴァントを強くするってな」
(ちぃ、そういやそんな能力があったな……)
それを聞いたガルルはようやく合点がいった。-エアウィグサーヴァント
あれが人々の心に恐怖を植え付けそのせいでディムは昨日よりも格段に力を上昇させたのだと
(こうなったら…
敵の急激な戦闘力上昇のカラクリが分かったところで今この場を切り抜ける切り札は今手元にはなく、頼りになる味方もいない。
もはや詰んでいるに等しかった
「その様子だと手詰まりか、もうちょいもつと思ってたんだが……まあいいすぐに殺してやるか」
緩やかに歩み寄り距離を縮めるディムを前にガルルはろくな抵抗もせずただ呆然と黙認していた。
完全なる戦意喪失
ディムはそれを悟るとガルルの首元に重量のある得物を置き、準備を終える。
「最後に言いてえことはあるか?」
「ない。さっさと殺せ」
「あいよ。んじゃ望み通り殺ってやるよ!!」
ガルルは大剣が自分の首を刈り取るのを全てを諦めた冷えきった目で見ていることしかできぬまま、死を迎えた………はずだった 。予期せぬ乱入者が間に割って入るまでは
〈シャイニングチャージ!〉
「ソイヤァァァァァァ!!」
「うおっと!?」
シャインフェルスソウルによる必殺キックシャイニーキックでの妨害で、ディムは横っ飛びガルルは窮地を脱した。
たった今戦場に参戦したシャインはガルルを見るとすぐに彼の安否を確認する。
その行為が癪に触ったのかガルルはシャインに食いかかるような勢いで詰め寄った。
「大丈夫ですか?」
「お前、何で俺を助けた!」
「何でって、あのまま放っておくわけにはいかなかったし」
「俺はお前に攻撃を仕掛けたんだぞ何故そんな奴を守った!」
何の説明もなしに襲いかかった者を助ける彼の真意が理解できなかった。
自分はラモンたちと唐突に彼を襲撃し海へと沈めた、そんな相手の死に際に遭遇すれば、助けようなどと発想はそうそう出てこない。よほど聖人君子でない限りは
そんな考えを抱いていたからこそ彼の介入はガルルには理解不能だった。
「まあ襲われたのははっきり言っていい気はしませんでしたよ。でも見捨てていい理由にはならないし、見捨てたくもない」
「見返りは何だ?」
「理由を教えてください。いきなり攻撃してきたのには何かしらの
「お前……」
「いててて今のは効いたなぁ」
緊張感のない暢気な声色で起き上がるディム。
その仕草からはキックによる支障はないようで、攻撃者であるシャインは声を荒げた。
「そんな!まともに入ったはずだ」
「キックに問題はなかった、完全に攻撃が入るぎりぎりの瞬間にバックステップでダメージを軽減したんだ」
呟かれたガルルの言葉にシャインは仮面の奥で奥歯を噛むと同時に咄嗟の不意打ちに軽傷で済ますディムの戦闘技術に悔しいながらも称賛する。
「あの防御力を攻略するにはどうすれば…」
「少しお前一人で持ちこたえろ1分で充分だ」
「…分かりました」
「すんなりと信じるんだな俺の言葉を、少しは疑うなりなんなりしたらどうだ」
「なんとなくですけど悪い人じゃないってのは分かりますから」
「根拠は」
「ありません。あえていうなら直感です」
てんで答えになってない答えだ。
だが言葉に重みがある。やましい思惑もなく自分自身に純粋な感情から出たからこその重さ
その重さが自分に向けられた信頼であるのだとガルルは敏感に感じ取っていた。
「お前みたいな奴はいずれ馬鹿を見る……が、そういう馬鹿は嫌いじゃない利己的で他者を利用しようとする
「ありがとうございます…じゃあ任せてください。1分と言わず3分は稼いでみせますよ」
「ふん、言ってろ」
「おい、ぼけっとしてねえであいつを追え!」
『ギィ、ギギィ』
軽口を言い合いながらも口元に微笑を浮かべるとガルルは後方へと走り出す。
それをさせまいとディムは今の今まで傍観に徹していたエアウィグサーヴァントが主の命を受けて動き出し、その進軍を止めようとしたシャインの行く手をディムが阻む。
「させっかよ!」
「く、ううう……おおおおっ!」
巨大な刃をレグルスクローで防ぎ衝突の振動を体全体を使って耐えると、両腕を押し上げ大剣を浮かしがら空きになった腹に蹴りを3、4発見舞う。
しかしやはり効果は薄くケロっとした様子で次の初動に入る。
「前よりかは腕っぷしが上がったが俺を倒すにはまだまだ足りねえな」
「防御力も攻撃力も高いって洒落にならないんだけど」
弱音のように捉えられる言葉を口走るが敗北を認めたわけではなく、それどころかますます動きに磨きがかかっている。
手早く中央のメダルをポセイドンのメダルに変えトリアイナを呼び出し、豪快に地面を踏み切り大剣とつばぜり合いを展開した。
「はあああ!」
「いいねえ、盛り上がってきた。もっと楽しもうぜこの戦いの空気を」
「そんな気はない!」
〈シャイニングチャージ!〉
「そいつは残念だな-おらああああああ!」
水流を帯びた槍と禍々しい黒緑の光を纏いし大剣の一閃が中間で炸裂。
瞬間、爆発が巻き起こりその余波でディムは大きく道路を磨り減らす程の勢いで足を引き摺り、シャインに関しては放置されていた赤い車のボンネットに背中からぶつかった。
疲労した体に無理を言わせて2人は2本の足で立ち再び相対すべく片足をやや後ろに下げた時、空を裂く速度でエアウィグサーヴァントが転がり込んでくる。
2者が吹き飛んだ元の方角へと視線を移すと、何らかのベルトを装着している男性の姿があった。
「待たせたなシャイン。いや、涙奏キラ」
「あなたは次狼さん!え、も、もしかしてあの青い狼って…」
「細かい説明は後だまずはこいつらをぶちのめすぞ」
出会って間もない知り合いのそのまた知り合いが人間ではないと知り困惑するシャイン。
しかし次狼はこの状況でそんなことをいちいち話している余裕はなく、上着の内ポケットから白いメダルを抜きシャインに投げ渡す。
「くれてやる使え」
危なげなく投擲されたそれをキャッチしシャインはそれを確かめると目を丸くしていたが、次狼に促されるとすぐにメダルを入れ変える。
ただしそれ1枚のみではなく、最初から所持していたレグルスのメダルと昨日入手した同じ白メダルもベルトに挿入して
次狼もシャインの真横に並び立つとナックルに似た形状の武器を掌に押し当て、ベルトにセットした。
準備を終えた彼らは頷き合うと正面を見つめ変身を行う。
〈レディ-〉
「「変身!」」
〈フィストオン〉
〈ユニコーン!レグルス!スレイプニル!…ユーユーユー、ユーレニル!〉
ディムとエアウィグサーヴァントの眼前に新たに現れたるは2人の白き戦士。
次狼が変身したのは機械的な装甲が特徴でシャインやスカイライダーとは違い、複眼はほとんど閉じきっており
どこか聖職者を思わせる意匠をしている。名をイクサと言う
片やシャインはこれまでは配色がバラバラだったのに対し、全体の色が白で統一されている姿。
頭部には気品に溢れたユニコーンの一本角、腕部には変わらぬレグルスの爪、そして脚部は北欧神話においてかつて主神オーディンの愛馬とされたスレイプニルの脚。
それらを合わせ持った聖なる獣がこの場に君臨した。
「さて、これまで好き勝手やってくれた分はきっちりと礼を返さないとな」
「溜まるに溜まった鬱憤を利子つけて返してやりましょう!」
イクサとシャイン・ユーレニルソウル。
この2人のコンビによる共闘がもたらす結末は果たして最良はたまたか最悪か
前書きにも書きましたが次回はもっと早くに投稿できるようにしたいです