「しかし、来るなら来るで誰か一人くらい事前に連絡くれよ」
呆れれたように一夏さんが言った。だが、篠ノ之さんと凰さんはまったく悪びれる様子なく返す。
「仕方ないだろう、今朝になってヒマになったのだから」
「そうよ。それとも何?いきなりこられると困るわけ?エロいものでも隠す?」
お昼ご飯のざるそばを啜りながら言う二人を僕は呆れた目で眺めるが、篠ノ之さんに夏祭りの時以来、とても嫌われているので視線を外す。
「わ、わたくしは、ケーキ屋さんに寄っていて忙しかったので」
「ご、ごめんね。うっかりしちゃってて」
姉ちゃんはそれっぽい言い訳をして、シャルさんは多分正直に言ったか、テキトーに答えた。
「私はお前に会いにきたのではない。私の嫁に会いに来たのだ」
うわあ、ラウラさんはストレートだなぁ。
「ところで午後はどうする?みんな室内っつーか、うちの中がいいんだよな?」
一夏さんが言うと、全員が頷いた。
「ま、お茶でも入れるからちょっと待っててくれ」
「僕も手伝いますね」
「そうか?サンキューなイアン。じゃあ机の上頼む」
「はーい」
ラウラさん以外は多分、一夏さんに会いに来てるんだから、僕は裏方に回るのが正しい選択だろう。なにより、僕は泊めさせてもらってる身だ。手伝わないわけにはいかない。で、みんなの食器を重ねて、流しへ出す。
「なんか、新婚さんみたいだねあの二人……」
おい、今言ったの誰だ。男同士で新婚はないでしょ。
「あの、僕全部やっとくので、一夏さんは休んでてください」
「なんでだ?」
「や、あの…ほ、ほら、あっちの人たちは多分、一夏さんに会いに来たんですし、僕は昨日からここにいますから」
そこまで言ったらオデコをデコピンされた。
「って!」
「バカだなイアン。何度も言うけど、お前は気を遣わなくていいんだよ。悪い所だぞ?気を遣い過ぎだ」
「で、でも…歳下ですから……」
「歳下だからこそ気を遣うな。ただでさえ普通じゃない環境で暮らしてるんだから。歳上にめいいっぱい甘えとけ」
「…………」
「ま、気持ちは嬉しいけどな」
と、言いながら頭を撫でてくれる。
「分かりました……」
「そうショボくれんな。俺は洗い物しとくから、みんなにお茶出してやってくれ」
「はい」
言われて僕は冷蔵庫の中を開けた。中にはビールが五本くらい入っていた。うわあ…織斑先生ェ……。
「と、これがお茶か」
ゴポポポポとお茶をコップに注いで、おぼんにのせて運んだ。
「あの、お茶入れましたけど……」
言いながらみんなの前にコップを一つずつ置く。
「すまないな。イアン」
「いえ」
で、一夏さんが戻って来て、みんなくつろぐ。
「それで、この後はどうしたもんかな。うちはあんまりみんなで遊べるものとかないぞ」
「まー、そういうだろつと思って、あたしが用意してきてあげたわよ。はい」
凰さんが紙袋を出して、中にはトランプや花札、モノポリー、人生ゲームなどのボードゲームやらカードゲームが溢れていた。
「おー。そういや鈴はこういうの好きだったな」
「そりゃそうよ。勝てるもん」
この人は勝てないと好きになれないのか…。
「じゃあ、これで遊ぶとするか。みんなは希望とかあるか?」
「あら、日本のゲーム以外にもありますのね」
「あ、これやったことある。材木買うゲームだよね」
「ほく、これが日本の札遊びか。なかなかにミヤビだな。今度、帰国するときには部隊に土産として買っていくとしよう」
と、周りが話し合う中、篠ノ之さんが言った。
「私は将棋がいいのだが、あれは二人でし……」
「あっ!僕、将棋やってみたいです!」
「なに?」
ギロッと睨んでくる篠ノ之さん。思いっきりビビりながらも僕は一応返事した。
「や、あの……一回でいいからやって見たかったんですよ。ジャパニーズチェス」
「私はお前なんかとやっても……」
「やってみればいいんじゃないか?」
篠ノ之さんの言葉を遮って一夏さんが言った。
「なら、ルールはあたしが教えてあげる」
凰さんも僕の頭を撫でながら言う。この人の撫で癖は多分治らないので諦めた。
「ま、待て。私が相手をするのか?」
「別にいいだろう箒。そうケチケチするな」
「そうですわ。わたくしの弟の頼みですわよ?」
「大人気ないよ箒」
ラウラさん、姉ちゃん、シャルさんにも言われて、ウッと詰まる篠ノ之さん。
「わ、分かった。その代わり、手加減はしないからな」
「はい!ありがとうございます!」
「とりあえず、駒の動き方だけ教えてあげるわね」
そんなわけで、僕の人生初の将棋が始まった。
(ふんっ。初心者など、軽く捻って一夏に良いところを見せてやる)
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数十分後、部屋の隅で膝を抱える篠ノ之さんの姿があった。
「すごいわね……本当に初心者?」
「完膚なきまでに叩き潰しましたわ…」
「俺、将棋とかあんま詳しくないんだけど、これ飛車落ちっていうのか?」
「さあ、私も詳しくないから分からん……。ただ、箒の残りの駒が歩兵七枚、金一枚、桂馬二枚、これはなんと読むか分からんが……」
「香車な」
「香車一枚になるまで袋叩きにするとは……」
五人が言葉を発するたびに篠ノ之さんの体がビクンッと震える。いかん、フォローしなくては。
「あの、篠ノ之さん。て、手加減してくれたんですよね!」
「やる前に手加減なしと言った……」
「く、口ではなんとでも言えますよ!」
「実際、叩き潰すつもりだった……」
「今日は調子が悪かったとか!」
「一夏のざるそばを食べて調子が悪くなるものか」
うっ……なんか逆に傷付けてしまったかもしれない。助けを求めて後ろの人達の方を向く。が、
一夏さん→視線を逸らして苦笑い
姉ちゃん→視線を逸らしてため息をつく
凰さん→気まずげに携帯を弄る
シャルさん→から欠伸で誤魔化す
ラウラさん→もはや、別の遊び道具に夢中
ど、どいつもこいつも……と、思ったらラウラさんが「あっ」と声を上げた。
「これは我がドイツのゲームじゃないか?」
取り出したのはバルバロッサというボードゲーム。突破口はこれだ!
「じ、じゃあそれやりますか?みんなで遊べる物の方がいいですし!」
「そ、そうだね!僕もそれやってみたかったんだ!」
よし、シャルさんが乗った!から欠伸してた癖に!
「じゃ、やるか。箒もやろうぜ」
トドメは一夏さんの一言。これなら、
「…………グスッ、やる」
いよっしゃあぁぁぁぁっっっ‼︎‼︎‼︎心の中で全力ガッツポーズ。と、思ったら僕の目の前に立ちはだかる篠ノ之さん。
「いつか、いつか必ずお前を倒すからな」
宣戦布告された。まぁそんなわけで、そのバルバロッサである。ルールは粘土でなんか作って当てて行くゲームだそうだ。そんなわけでみんなで粘土をこねる。うーん……なにを作るか、好きな物を作ればいいんだろうけど……。
「できたっ」
「それじゃ、スタートね」
シャルさんからサイコロを振り、ゲームが開始される。
「えーと、一、二、三、と」
「あ、宝石を得ましたわ」
「私は……質問マスか。よし、ではイアン。覚悟しろ」
まるで決闘にでも挑むかのように篠ノ之さんは僕に指を指す。
「は、はい……」
まぁ、どーせこうなると思ってめちゃくちゃ完璧に作ったんだけどね。しかも誰でも分かる物。どんっと目の前に置いた。その瞬間、沈黙。
「えーっと……」
苦し紛れに声を出す篠ノ之さん。
「それは生き物か?」
「違います」
「人が身につける物?」
「いえ、選ばれた人間のみが着けられる物ですね」
「……特撮関係か?」
「そうです」
「分かった。仮面ライダーの変身ベルトだ」
「正解です!」
「まぁ最初から検討はついてたがな……」
なぜか全員ため息をつく。なんで?もしかしてヘタクソだったかな……。ちなみに、シャルさんは馬、篠ノ之さんは井戸を作っていた。で、問題はラウラさんと姉ちゃん。いや姉ちゃんのは僕は分かってるんだけど…超下手くそ。
「ラウラさん、なんですかこれ?」
「なに、分からんのか?嫁失格だぞ」
「すいません。で、なんなんですか?」
「山だ」
「山田?」
「違う」
「じゃあYAMADA?」
「違う。山、だ」
その瞬間、一夏さんが立ち上がる。
「待て待て待て!山はそんなにとんがってないだろ!刺す気か!?」
「ふんっ。貴様にはわかるまい。エベレストなどはこんなもんだろう」
「それならエベレストに特定しねーとわかんねーって!」
「エベレスト以外にもこういう山はある」
スゲェなこの人…超自信満々に腕組んでるよ。
「ま、まあ。ラウラ、正解されなかったから減点ね。それで、セシリアのは?」
まとめるように凰さんが言った。
「あら。誰にもわからないのかしら?」
「分かるよ。どーせイギリスでしょ」
「流石!わたくしの弟ですわ!」
姉ちゃんに感動されるが全然嬉しくない。そりゃこれだけ一緒に暮らしてりゃわかるって。僕を抱き締める姉ちゃんをみんなは憐れみの目で見た後、凰さんが気を取り直したように言った。
「ま、まあこれで大体ルールは分かったでしょ!じゃお、次からはあたしと一夏も入って全員でやるわよ!」
で、そのまま第二戦と進む。てわ、時刻が四時を過ぎたところで、唐突に予測外の人物がやってきた。
「なんだ、賑やかだと思ったらお前達か」
織斑先生だ。
「千冬姉、おかえり」
「ああ、ただいま」
一夏さんはすぐに立ち上がり、織斑先生の側に行く。
「昼は食べた?まだなら何か作るけど、リクエストある?」
「バカ、何時だと思っている。さすがに食べたぞ」
「そっか。あ、お茶でもいれようか?熱いのと冷たいの、どっちがいい?」
「そうだな。外から戻ったばかりだし、冷たいものでも……」
と、そこまで言ったところで織斑先生はとある視線に気が付いた。篠ノ之さんと姉ちゃんと凰さんの視線だ。あーそっかそっか。羨ましいのね。
「………いや、いい。すぐにまた出る。仕事だ」
「え?そうなんだ。朝にイアンと一緒に作ったコーヒーゼリー、そろそろ食べれるのに」
「また今度もらうさ。イアンもすまないな」
「あ、いえ。全然気にしないでください」
そのまま居間から出て行ってしまった。
「……あんた、相変わらず千冬さんにべったりね」
凰さんが複雑そうな顔で言った。
「え?そうか?普通だろ。姉弟なんだし」
「いやいや、なんか専業主婦みたいでしたよ」
「イアンの言えたことではありませんわ。いつの間にか世界中のほとんどの料理が出来るほどの女子力になってる癖に」
「そういえば、イアンて料理上手だよね」
「そうだな。それに寮では常に部屋も綺麗だし、専業主婦としては完璧だろう」
なんて話す中、篠ノ之さんと凰さんだけなぜか変な汗を流している。と、思ったらガチャッと織斑先生が入って来た。
「イアン」
「は、はい!」
「付いて来い」
「………へ?」
「IS関係の話だ」
「は、はあ……」
「安心しろ。そんなに遅くならんし、遅くなるようならまた泊まっていけ」
「じ、じゃあ……皆さん失礼します」
そのまま織斑先生と二人で家を出た。
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着いた先はIS学園。ではなくどっかのバー。
「あの、織斑先生……?」
「今日は千冬さんと呼べ」
「ち、千冬さん……僕、未成年なんですけど……」
「すまないな。少し愚痴に付き合え」
僕の理解が追い付かない内にバーの中へ。中には山田先生がいた。
「あ、織斑先生〜…と、イアンくん!?未成年がこんな所に来ちゃ……」
「酒は飲まさん。それなら問題ないかマスター?」
「えぇ。コーヒーでよろしいですか?」
「……………あっ、はいお願いします」
自分に聞かれた問いだと気付くのに少し時間が掛かった。で、山田先生、千冬さん、僕と席に着く。
「どうされたんですか?今日はお休みだったので実家に帰省されてたんじゃ…」
「そうしたかったんだが…家に女子がいてな」
「女子?おおー、もしかして織斑くんのですか?」
「ああ、そうだ。というかいつもの面々だ。そこからこいつだけ連れて来た」
「専用機持ち、七人ですかぁ。戦争が起こせる戦力ですね」
「冗談にならないぞ、それは」
本当に冗談にならねぇ……。
「ていうかイアンくんだけ連れて来ちゃってよかったんですか?」
「あっ、僕は大丈夫です。ていうか、IS関連の話をここでするんですか?」
「お前はどこまで純粋なんだ。それは嘘だ、言っただろう。愚痴に付き合えと」
え、まさか…そんな事のために引き抜かれたの?
「まぁまぁ、イアンくん。歳上の美人さんと誘われて一緒にいられるんですから」
山田先生にそう言われてしまったら頷くしかない。僕はコーヒーを一口飲んだ。
「苦っ!」
「おっと、ブラックは飲めませんでしたか。すぐに、お取り換えしますね」
「ふんっ。本当にガキだな」
マスターに会釈しつつ、一言多い隣の千冬さんを睨む。が、気付かなかったようで、千冬さんは本題に入る。
「先月のな、臨海学校があっただろう?」
「あ、はい……」
「もちろん覚えてますよ。色々ありましたからね」
「まあ、福音事件のことは置いておいて。そのだな、あの時に少し私は余計なことを言ってしまってな」
「………と言いますと?」
山田先生って聞き上手なのかなぁ。と、思ってチラッと見てみると全然違った。ただ興味津々なだけだった。が、それも分かる気がする。普段、あれだけハッキリと堂々とした人がここまで歯切れの悪い感じで話すことなのだから相当なのだろう。
「イアン、一日目の夜は覚えてるか?」
「は、はい。僕が一夏さんにマッサージしてもらった日ですよね」
「ああ、あの後お前はすぐに寝てしまっただろう」
「えーっと……はい。眠かったので」
「その時にな、明らかに一夏に惚れてると思われる連中は分かるな?」
「えっと…篠ノ之さん、姉ちゃ…姉、凰さん、シャルロットさんですよね?」
「一人多いが…まぁいいか。そいつらにな」
「はい」
「一夏はやらんぞと言ってしまった」
「「…………はい?」」
僕と山田先生の声がハモった。きょとんとして思わず聞き返してしまった。
「いや、その……違うんだ。別にあいつがどうとかそういうのではなくだな、なんというか……弟は姉のものだろう?」
「はい。僕は少なくとも二十歳過ぎるまでは姉ちゃんのものです」
「堂々とシスコン宣言はやめろ。と、とにかくだな、私はなにもおかしな意味で言ったわけではない。しかし、どうにも………女子連中がな、私をライバル視したせいで動きづらくなったようでなぁ……」
「あー…見てて分かりますそれ」
思わず共感してしまった。なんだ、そういうことだったのか。先生にとってはちょっと困らせてやろうくらいのつもりだったんだろうなぁ。
「えっと、織斑先生は一夏くんが女子と付き合うのには賛成なんですか?」
山田先生が聞いた。
「それは賛成だ。そもそもあいつの人生だ好きにすればいい」
「じゃあいいじゃないですか」
「いや、よくない」
えぇ〜…と、思わず突っ込んでしまった。多分、山田先生も同じだろう。
「いや、よくないというか、変な女に引っ掛からないか気掛かりだ。あいつは女を見る目がないからな」
「つまり、心配なんですね?」
「いや、心配はしていない」
「いや今気がかりって言ったじゃないですか」
思わず突っ込んでしまった。が、今回はアイアンクローされる事もなかった。で、山田先生がまた聞く。
「じゃあなにがそんなに心配なんですか?」
「あー……どう言えばいいか自分でもよくわらんな」
で、おかわりを頼む千冬さん。
「まぁとにかく、今日家を出てきたのはそれが理由だな。十代の女子がうちに押しかけて来たんだ。それを私が邪魔するわけにはいかない」
「あの、千冬さん。僕男なんですけど……」
「男の邪魔をしないとは言ってない」
な、なんだそれは……まぁ別にいいけど。すると、山田先生がクスッと笑った。
「織斑先生って、一夏くんと似てますね。優しさに境界線がない所とか」
「なにぃ?真耶、お前も男を見る目がないな」
「いやそっくりですよ。あと不器用なところとか」
「お、イアンくん分かってますねー」
クッとなぜか歯噛みする千冬さん。
「今日は朝までお付き合いしますよ」
「そういう台詞は自分の男に言ってやれ」
「とりあえず、目の前の人より男前の人を見つけたら考えます」
「ならイアンはどうだ。一夏の話だと、料理も出来て掃除も出来て洗濯も出来るそうだ」
「それはむしろ女性の必須スキルですよね。それに、私だってある程度は出来ますから」
なんて飲みながら話す二人。そっか、千冬さんもなんだかんだ言って大概ブラコンなんだろうなぁ……。
この後、潰れた千冬さんを僕と山田先生は二人でおぶって一夏さんの家に持ち帰った。
夏休み長ぇ……すいません。あと1〜2話くらい夏休みです(気分によってはやらない)。飽きたとかもういいとか思うかもしれませんが、我慢してください。