「では織斑、篠ノ之。模擬戦をやってみろ」
織斑先生の声によって呼ばれた二人は前に出る。僕はといえば、怪我のおかげでしばらく見学。あー…ブランク空いちゃったなぁ……。
「はあ……」
「どうしたイアン?退屈か?」
ラウラさんが声を掛けてくれる。
「そりゃそうですよ…ここしばらくずっとこのままですよ?僕だって、そりゃ戦いたいわけではないですけど、ブランク空くのはもっと嫌ですから…」
「ふん、生身でも戦えるように鍛えておかないからそういうことになるのだ」
「そ、そんなこと言われても睡眠薬入れられてたんじゃどうしようも……」
「そこがたるんでいる。それでもなんとかしなくちゃならないだろう」
くっ……ラウラさんが正論を言っている、だと?
「……なんか失礼なこと考えたか?」
「イエ、ナニモ」
「ほう、そうか」
ふう、納得してくれ……、
ガンッ!
「ったぁっ!」
殴られた頭を涙目で摩った。
「ふん、馬鹿め」
ガンッ!
「んなっ!?」
「ほう、見学の者にちょっかいを出すほど動きたいかボーデヴィッヒ」
いつの間にか織斑先生が腕を組んで立っている。涙目になりながら頭を摩るラウラさん。
「き、教官!今のはこいつが……」
「それほど元気があるなら今から走り込みでもして来い。ISを着けて第二アリーナを10周」
「そ、そんな……!」
「いいから行け」
そのままトボトボと歩くラウラさん。僕のことをすごい形相で睨んでいる。すごく怖いので目を逸らしてしまった。昼休みは早目にご飯食べて逃げよう。
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昼休み。僕は食堂で一人、ラーメンを啜る。うん、辺りにラウラさんの気配無シ。我、食事二没頭ス……、
「うわっ……」
ついついそんな声が出た。ラーメンに卵が入っている。いつもは姉ちゃんに食べてもらってたから忘れてたよ……やっぱり一人で食べるんじゃなかったなぁ……。ひょっとして、これがなくなって初めて気付くということなのだろうか。絶対違う。第一、姉ちゃんは亡くなってない。
まぁそんなことはさておき、しばらく困った顔をしていると、声が掛かった。
「なんだ、食えないのか卵」
「え?は、はい。少しにが……てで………」
ラウラさんだった。手にはおそらく日替わり定食であろう、天ぷら定食の乗ったトレーが握られている。
「なら私が食べてやろう。ほらよこせ」
「え?は、はい」
で、ちょこんと隣に座る。僕は蓮華に卵を乗せると、ラウラさんに手渡す。が、受けとらないラウラさん。
「食べさせろ」
「へ?で、でも熱いですよ?」
「いいから。食べさせろ」
「わ、分かりましたよ。じゃあ、あーん……」
と、口元に卵を運んだ。少し顔を赤らめながらもあんっと食べるラウラさん。
「むっ、ラーメンというのも…なかなか……」
「美味しいですよね。僕はラーメン大好きです。ラウラさんは天ぷらですか?」
「あぁ、和食というのに興味が出た」
「僕も天ぷらは好きです。でも和食はちょっと…煮物とか苦手です」
「あの良さが分からんとは…ガキだな」
「ら、ラウラさんには言われたくないですよ!」
なんて話しながら食事を続ける。どうやらビクビクしているのは僕だけで、さっきのことなんてラウラさんは忘れているようだった。僕は安心して麺を啜る。
「それで、先ほどの仕返しがまだだったな」
啜った麺を吹き出してしまった。
「や、あれは僕は……」
「だが、お前だけ罰を受けないのは少し納得がいかん。そんなわけで、明日買い物に付き合え」
「へっ?」
「なんだ?」
そ、そんなことでいいの?いやそれで許してくれるなら僕としては助かるんだけど。
「それでラウラさんが許してくれるならいいですけど…で、何を買うんですか?」
「実は、私の部隊の者からアニメのDVDが送られてきてな。戦争アニメなのだが…それが気に入って調べてみれば『ガンプラ』なるものが流行っているそうではないか。だから買いに行こうと思ってな」
ら、ラウラさんがガンプラ……頭部と胴体を繋ぐ大切なパーツが折れて泣き叫ぶ未来しか見えない……。
「そ、そうですか。分かりました」
「では、次の土曜日に寮の前に集合だ」
そんなわけで、買い物の待ち合わせである。
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土曜日。僕は待ち合わせ場所である寮の前へ向かう途中で眼鏡の女の人とばったり出会った。
「…………………」
「…………………」
しばらく見つめ合うこと数秒。向こうがバッとベルトを出した。
「変身」
『変身』
カブトムシの形をした何かをベルトにくっ付ける。その瞬間、女の人をライダースーツが包み込んでいく様に見える。
「キャストオフ……」
『キャスト、オフ』
そうベルトから音が鳴ると、そのまま顔、胴や肩、腕脚のパーツが吹き飛び、最後に顔の角が上に上がっていく様に見えた。こちらに幻覚まで見せるとは、中々に完璧に近いモーションだ。
だが、こちらも負けてない。この前、買ってもらったウルトラ兄弟変身アイテムセットの一つを毎日必ず一つ持ち歩いている。その内の一つを私服の胸ポケットから取り出して目に当てた。
これだけの仕草かもしれない。だが、これだけの仕草であるからこそ、手の角度や変身の速度を問われるのだ。これは完璧だろうと思いつつ、ウルトラアイ越しに女の人を見ると、ゴミを見る目で見られていた。
え?どういうこと?なんか変だったかな……。
「ウルトラマンは、ダメ……」
「へ?」
「あんなのただのデッカいタイツ叔父さん…仮面ライダーの方がデザインも強さもヒーロー度も高い……」
今の言い草にはイラっとした。
「なにを言ってるんですか?ウルトラマンの良さが分からないとは……仮面ライダーも確かにカッコイイし、等身大であるだけ、リアリティを感じるのも分かりますが、最近の仮面ライダーはライダーしてません。車だの電車だのロケットだのに逃げ、挙げ句の果てには魔法使いですよ。それに、最初のライダーは武器など使わず、多対一が基本だったのに、今では敵は怪人どころかライダーだ。ライダー同士の戦いなんて一般人から見たら仲間割れにしか見えませんよね?」
「そう……?それでもそれは一部のライダーでしょう…。大半のライダーはキチンと正義のために戦っているわ……それに比べてウルトラマンは何?メビウスほ地球でレオと修行してたわね。迷惑極まりないんじゃない……?」
「うっ……でもそれは人類のために……」
「それなら宇宙でやればいいのじゃないかしら……?」
「ひうっ……」
「はい論破…お疲れ様……」
で、その女の子は去ってしまった。僕はしばらく項垂れるしかなかった。が、後ろからラウラさんにドロップキックされた。
「遅い馬鹿者!」