『β班が裏口につきました。α班は突入を開始してください』
その言葉とともに、俺を含めた強襲科の5人は静かに建物に入る。
小型ビルのロビーの周囲を5人で各自警戒し、誰もいない、何もないことを確認する。
全員が一度アイコンタクトを取り、そのまま小さく頷く。
そのまま、1階をひと部屋ひと部屋、椅子の下からトイレの中、天井裏まで調べれる箇所を調べて回る。
20分ほど調べ、特になにもないとわかったら次の階へ。
そう繰り返して5階にまで上がる。
「この次の階はもう屋上だ。本当にいるのか?」
と、俺がインカムに向かってボヤくと、中空知さんが少し黙ったあとに言う。
「屋上から7名の足音が聞こえます。各自、銃を持っているようです」
「狙撃班に何とかしてもらえないのか?」
「残念ながら、周囲の建物が低いため、狙撃班には各出入口を見張ってもらっています。」
そうなると、狙撃班の援護もなしに、こちらより人数の多い敵を制圧することになるのだ。厄介である。さらに、敵の熟練度や連携精度などの情報もないので、こちらとしては不安が募るばかりである。
屋上に続く階段を昇る前に、俺以外の4人に俺は言っておく。
「とりあえず、中距離にいるやつは俺に任せてくれ。代わりに、近距離のやつは頼む」
俺が言うと、各自頷いた。
屋上に続く階段や扉にトラップが仕掛けられていないかを確認して、俺たちは扉の両脇に銃やナイフを構えてしゃがむ。
「フラッシュグレネード、準備。炸裂後、俺が最初に出る。それで一番長距離にいる対象の銃を落とす。あとの4人は、突入した順に斜め、横と制圧を頼む」
「対象が一番奥に固まっていた場合は?」
「臨機応変に対応してくれ。俺は本来作戦参謀には向いてないんだ」
「了解。なんとかするよ」
そう言ってそいつは手の銃を軽く鳴らした。
「よし、カウント10。9……8……7……」
カウントする俺の喉がみるみるうちに乾いていく。
自分の声すら少し遠く聞こえる。
「6……5……4……」
フラッシュグレネードを持った奴がピンを引き抜く。
頭が一瞬白くなり、そして、するべきことだけが浮き彫りになって浮かんだ。
「3……2……1……」
制圧する。
「GO!」
その言葉とともに、ドアを小さくひらけ、フラッシュグレネードが投げ込まれる。
投げ込んだ本人はすぐにドアの反対方向を向く。すると、ドアの向こうから真昼と間違えるほどの光が見える。
その瞬間、俺はドアを思い切り開け、M2008を右手に、ラーマM82を左手に突入する。
屋上にいた7人の対象はバラバラな場所に立っていて、銃を持っていない方の手で目を抑えて、悶えているように見えた。
真正面20mほどの距離にいた男が手に持っていたトカレフをM2008で撃ち落とす。
後方から突入してきた2人は俺の左右にいる対象の手に握られた銃を正確に撃ち落とす。
その間に俺は、M2008の薬室を開き、ラーマM82を手に持ったまま(当然トリガーから指は離しながら)中指と薬指で223rem弾の空薬莢を出し、それを離すとともにホルダーに入っている予備の弾薬に手を伸ばす。
さらに後ろから突入してきた2人が屋上の端、扉の死角の方へ走る。死角にいる対象にはフラッシュグレネードが効いていない可能性があるためだ。
223remが薬室に入れられたのを確認してから、俺は右手を上に振る。
振り閉じる僅かな間に、左手を右手と交差させるようにラーマM82で右脇にいた対象の銃に発砲する。
その対象の銃が手から飛び、その男が手を抑えるのを確認してから、片手間にハンマーを上げていたM2008で正面にいた対象の銃に狙いを定める。
だが、その対象は目が見えないなりにか銃口をこちらに向けていた。
それを見て、俺は狙う場所を若干変える。フレームから、銃口へ。
「チェック」
M2008が火を噴き、ほぼ同時に、対象の銃――サタデーナイトスペシャルであろう、名も無き自動拳銃も火を噴く。
発砲音の中に、甲高い金属音が響き、俺の右腕が跳ね上がる。そのまま左手のラーマM82で対象の銃に狙いをつける。
距離は約10m。これなら外すことはない。
「メイト!」
ラーマM82の引き金を引き、比較的軽い反動を受け流す。
対象の手の銃が宙を舞い、地面に落ちる。
後ろを見ると、死角に隠れていた2人を最後に突入した2人が取り押さえ、俺のすぐあとに突入した2人も既に3人を取り押さえていた。
俺の正面にいた2人も、手の銃を飛ばされ、驚きで尻餅をついた体勢のままこちらを見ている。正確には、俺の持っているラーマM82を見ている。
「制圧完了」
屋上の制圧時間、およそ20秒。