教室に入ると、騒がしかった教室が一瞬静まり返り、すべての視線が俺の方を向く。
「あー、えーっと、おはよう、諸君」
気まずい。おふざけではなった言葉も、あまり意味をなしていない。
いつもこうだ。俺を見ると、たいていの奴がこんなふうな反応をする。一般中学出身者でAランクというのがそれほどに珍しいものなのだろうか。
そんな気まずい空気の中、
「おーぅ、康介。おはよう。今朝は香織は一緒じゃないのか?」
なんとも空気を読まないやつが俺の名を呼ぶ。むしろそれが嬉しいのだが。
俺はその声の主――谷口 太樹の隣の席に座りながら言う。
「寝坊だろう。今頃、寮の俺の部屋のソファで居眠りしてるさ」
俺がそう返すと太樹は椅子を大きく揺らしながら大げさに立ち上がり、上半身をのけ反らして、
「ま、まさかお前、やったの――」
「やるわけないだろう、バカ」
そんな自殺行為をするわけないだろう。香織は深夜アニメをよく見ながらも、そっち方面についての知識は皆無。軽くネタを振れば『このハレンチやろー!』と右ストレートが飛んでくるほど純情だ。純情だ。殴っては来るが。
「そ、そうだよなー。じゃあ、なんでソファなんだ?」
「あぁ、それは朝から起こしに来てくれたからだ。深夜番組でそういうのが普通って学んだらしい」
「普通じゃないのか?」
素で首をかしげる太樹を見て俺はため息をつく。
「普通なわけないだろう。そんなことがこの世界であったとしてもこんな年齢までは続かないよ。なにより、武偵校でそんなことを期待するんじゃない」
「ちぇーっ、つまんねーの」
「お前は中学生のガキか」
「HAHAHA、俺の精神年齢は小学生並だ!」
「……」
俺は何も言えず、手を額に当てて首を振った。
それから数分間、他愛のない話を太樹としていたら、朝のHRが始まった。担任の先生が出席簿を確認していう最中、
「ん? 今日は香織は休みか……。康介、何か聞いてないか?」
「何故俺なんですか……」
「いや、なんだかんだで一番知っているだろうし」
「知りませんよ。多分寝ぼうでしょ――」
「こぉぉぉぉすけぇぇぇぇぇ!!」
どこからともなく聞こえ始めた怒りのこもった叫び。
「ん? 香織どこから来たんだろう……」
廊下を走る音は聞こえないし、屋上から来るのは時間の無駄。もしそうだとしても、聞こえてくる場所がおかしい。
そう思っていたら、廊下に何かが着地する音が聞こえ、そのまま教室のドアが勢いよく開く。
そこに立っていたのは……。言わずもがな香織である。が、その髪は乱れ、息もかなり上がっている。
「お、香織はギリギリセーフにしておいてやろ……」
「コースケの」
先生の言葉を遮って香織は跳ぶ。机どころか、人の頭を超えて。俺の方に向かって。
「バカアアアアアア!」
そして、そのままどこぞの仮面をしたバイク乗りが放つ必殺キックのポーズで突っ込んでくる。要するに、ラ●ダーキックというやつだ。
ついでに、その足は俺の頭の方を向いている。なので、俺は首を右に傾ける。そして、思ったことをそのまま言ってやる。
「パンツ、丸見えだぞ」
「あぁ!? 外した! んでもって見られたぁ!」
と、香織が焦って空中で俺の方を見てくる。さて、香織は見ていないが俺が避けたその先にあるのは、
「ぬおおお!?」
太樹の頭である。
不意の攻撃に太樹は避けきれず、モロに顔面にキックをもらう。
「ご、ごめーん! 大樹くん、だいじょうぶ!?」
「おーい、たいきー、大丈夫かー?」
と、俺と香織が顔面に綺麗な靴跡のついた太樹に声をかける。
「う、うぅ。蹴られ際になにか白いロマンあふれるものが見えた気が……」
とまで言った瞬間、太樹は香織に蹴り飛ばされていた。