さて、状況をまとめよう。俺はただ普通にラーマM82を撃っていただけなのに、いつの間にかSランク武偵に射撃勝負を申し込まれていた。何を言いたいのか分からねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった。
大体あっているから、自分でツッコミを入れるということはしない。何か違う気もするが気にしない。
ともかく、いきなり神崎に勝負を申し込まれた。そして俺はそんな面倒なことはしたくない。だからこそ、一言で単純明快に答える。
「断る」
「理由は?」
「やりたくない。面倒くさい。勝てる気がしない」
俺がそう矢継ぎ早に答える。すると、
「やりなさい。風穴開けるわよ?」
スカートの中のガバメントを見せてくる。
『センセー、ここに脅迫をしてくる恐ろしい生徒がいまーす』
と、言いたくなる衝動を必死に抑えながら、俺はそれでも言い返す。
「それでも断る。何が悲しくて負け戦を挑まねばならんのだ。負けるとわかっていて逃げれるなら俺は迷わず逃げ出すよ」
「そう、それは長生きをしそうね。だけど――」
神崎は俺に人差し指を向けて言う。
「あたしたちは武偵なの。たとえ絶望的な状況でも、戦わなきゃいけない時があるの」
「それは今じゃない。だから俺は戦わない」
「そんな風に言って逃げるの?」
「あぁ。死ぬのも怖いし、負けるのも怖い。弱虫と言いたければ言うがいいさ」
どうせ昔言われて慣れてるんだ。今更言われたところで……。
「どうしてそこまで頑なに拒むの? あんたには才能があるのに」
「注目されるのが嫌でね。面倒だからな」
俺がそう返すと、神崎は「そう」とだけ言う。やっと諦めてくれたのだろうか。
「それでも、あえて言うわ。あたしと勝負しなさい」
「どうしてそこまで俺にこだわる? Aランク武偵は腐る程いる。俺より射撃が上手い奴も腐る程いるだろう?」
俺がそう言うと、神崎は首を横に振る。
「あんたの腕は、少なくともあたしの知る中では上の方でも、最高じゃないわ。でもね――」
「あんな体勢で撃って、での話。ちゃんと構えて撃ったらどうなるか、見てみたいの」
なんだか、えらく買われているようだ。しかも、この様子だとなかなか離れないだろう。逆に勝負してやったほうが早い気がする。だから、俺はため息をつきながら言ってやる。
「一回だけだ。お前の願いを一回だけ聞いてやる。それ以上は何も求めてくるな。いいな?」
俺がそう言うと、神崎はその顔を満足そうな笑顔に変えた。
「わかったわ。じゃあ、もう一度言うわ。あたしと射撃勝負をしなさい」
「はいはい。分かりましたよっと」
場所は変わって屋外射撃場。ここは立ち射ちはもちろん、伏せ撃ちも可能な射撃場だ。俺がこっちのほうがいいと言ったら普通に変えてくれた。
「で、勝負の方法だけど」
「あぁ。どうするんだ?」
「あんたが決めなさい」
なんということを言い出すのだろうか、この子は。
「なんで俺なんだ?」
「理由は二つ。あたしのほうがランクが上だから。もう一つはあたしが頼んだ側(クライアント)だから。贅沢は言わないわ」
Sランク武偵っていうのは、やはりプライドのようなものもあるのだろうか。このあたりは礼儀正しい。
「そうか……。じゃあ、銃を変えるのは、いいか?」
「その懐に入っている銃のことかしら? 別に構わないわ」
流石に、武偵で気づかないわけがない。左右をある程度整えて、余裕があるように多少細工した防弾制服越しにでも、膨らみ方に違和感を感じるのだろう。
「あぁ。これを使わせてもらう。で、勝負の仕方だが……」
そう言ってチラと人型ではない、サークルターゲットの紙を見る。
「50m先のサークルターゲットを5発撃つ。その合計点で競う。これでいいか?」
俺がそう言うと、神崎は少し訝しげな顔をして、
「あんた、運に任せるつもり? そんな距離普通のハンドガンじゃあバラケがすごいわよ? 私のガバメントでも不安になるのに」
そう言ってくる。たしかにそうだろう。俺の持っているラーマM82じゃあ勝負を捨てているようなものだ。だが、
「運に任せはしないさ。むしろ、コイツだと任せようがないからな」
俺は懐の物を引っ張り出す。
その大きさに、神崎が目を見開く。
「その銃は……何?」
「フリーダムアームズM2008。シングルショットピストルだ。マイナーなモデルだから、知らなくても無理はないんじゃないか?」
「なるほど……」
神崎は納得したような顔になる。
シングルショットピストルは、自動拳銃やリボルバーとは違い、余計な機構を一切廃した拳銃だ。そのため精度はかなりのものだ。さらに、俺の指定した競技方法では時間は問われない。よって、シングルショットピストルの弱点であるリロードを急ぐ必要もない。
「で、条件はそれでいいの?」
「あぁ。そっちからの追加条件はなしにしてくれよ? 流石にこいつでクイックリロードなんてしても時間がかかりすぎるんだ」
「わかってるわよ。そういうことはする気もないわ。与えられた状況でベストを尽くすのが武偵だからね」
「そうかい。まぁ、構えは好きにどうぞ。両手片手、伏せだろうとなんでもいい。せっかくの屋外射撃場だしな。ついでに、レディーファーストだ。お先にどうぞ」
「わかったわ」
そう言って、神崎はレーンに入っていく。
「アリア先輩に勝負を挑んでもらえるなんて、羨ましい……」
いつの間にかすぐ横に間宮が来ていた。
「お前にとっては羨ましいのかもしれないけどな、俺にとっては面倒だ」
「先輩は何でそんなに面倒くさがるんですか? 本来なら喜ぶものだと思いますが……」
「価値観とか、幸福感は人によって変わるもんだ」
「そうですか……」
そんな、なんでも無いような会話をしている間に神崎がレーンから出てきた。
「38点だったわ。やっぱりかなりバラけるわね」
「そうか……。それでも案外当たるもんだな」
「20mなら全部10点を取れたわ。……なんて話は無しね。これが私の結果よ」
そう言ってターゲットサイトを見せてくる。とは言え、この距離は普通のハンドガンにしてはそこそこ当てていた。
「ま、次は俺か……」
「後ろからじっくり見せてもらうわよ」
「どうぞごゆっくり。ただし、あんまり期待はするなよ」
感想とか、評価とか、もらえると、ウレシイナー。