「ただいまぁ……」
神崎達と別れ、さっさと家に帰った俺は、無気力にドアを開けた。
陽は完全に落ち、少し前に点き始めたであろう灯りが東京の夜景を作っていた。
ついでに、俺にルームメイトはいない。普通は相部屋になるべき人が1人はいるのだが、それがいない。誰も彼も逃げていくのだ。
理由はおそらく……、
「おかえりなさい、康介。お風呂にする? ご飯にする? それとも、わ・た・し?」
こいつのせいだろう。
「毎度変わらずにツッコミどころが満載だが、一つ一つ聞いていこう。なんで俺の部屋にいる?」
「幼馴染だから、とーぜんじゃん」
「どうやって入った?」
「最近ピッキングに慣れてきたからねー」
「今のセリフはなんだ?」
「金髪で少しちっさいふわふわの服着た人に教えてもらったー」
「むしろ今まで知らなかったことに驚きだ……」
それに、普通は風呂と飯の順番は逆ではなかろうか。
「え? コースケは知ってたの? まさか……二番煎じだった!?」
「やられるわけなかろう。中学時代のクラスの男子共の会話を耳に挟んだだけだ。そんな夢のようなシュチュエーションはそうそう訪れない」
たった今俺の前に訪れているが。
そして、予想通り香織はニンマリと笑う。
「ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち? 嬉しいの? やっぱり夢のようなシュチュエーションって言うんなら嬉しいんでしょ?」
俺は頭に手を当ててため息をついた。
風呂と飯の意味は理解しているのだろうが、一番最後の意味を理解はしていないのだろう……。だが、それにツッコミを入れるほど俺は命知らずじゃない。
「いや、あんまり嬉しくない」
「えー」
「とりあえず、お前にはいろいろ足りない。そして、俺にはそれを教えるつもりはない。教えたらロクなことにならんからな」
「ぶーぶー」
口を数字の3のようにしながら駄々をこねるが、俺はもうツッコミを入れない。入れてはいけないと思う。
「ともかく、飯を頼んでいいか? さすがにこの時間だからな」
「あぃ、さー!」
と、香織が手を上に挙げて返事をしたあと、キッチンの方へ走っていった。歩き程度の速度で。
俺はソファーに腰を下ろし、テレビの電源を入れる。
流れ出したニュースは特に何もなく、チャンネルを変えても、これといって目を引く番組もない。
一通りチャンネルを変え終えたが、結局見るものもなく電源を落とした。
すると、タイミングよく香織が料理を持ってきた。
「えらく早かったな……」
「コースケが帰ってくるまでにつくちゃったからね。あっためて持ってきたんだよ」
「そうか……。いつもありがとな」
「気にしなーい。気にしなーい」
そう言って香織がテーブルに料理を置いていくので、俺はソファから立ち上がり、テーブルに移動する。
晩御飯はごくごく普通のカレーライスと、簡単なサラダ。それに更に簡素なスープだった。
俺でも作れないでもないメニューだが、味は香織の方が圧倒的に上だろう。なにより、自分で作らずに済むというのが嬉しい。
「さっきの発言を一部撤回しよう。飯を作ってくれてあるのは、やっぱり嬉しい」
「シュチュエーションは嬉しくないんだね」
「言ったろ。いろいろ足りないって」
俺は笑いながらそう言って、目の前の料理に向かって手を合わせる。
「いただきます」
飯を食い終わり、飯の間に香織が準備してくれていた風呂に浸かり、そしてベッドの上。
眠気もなく、電灯をつけたまま天井を見ていた。
ついでに、香織にはさすがに帰ってもらった。幼馴染とは言え香織と一緒に寝ることはなかったので、香織も普通に帰っていった。
やることがないので、そろそろ電気を消して無理やり寝ようかと思ったとき、携帯電話から特に変更もしていない着信音が鳴り響く。
おおかた香織だろうと思いながら携帯を開き通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「やぁ、康介君。君の彼女は元気かい?」
「元気だな。相変わらず。変な知識をどんどん仕入れて俺で実践しようとしてくるよ」
「そうか」
「で、なんの用だ?」
篠山柑那(しのやまかんな)――装備科所属の第二学年。銃器の知識に偏りなく、どこかブッ飛んだ改造をする装備科の中の数少ない常識人。俺のフリーダムアームズM2008も彼女から仕入れた品だったりする。
「明日、時間はあるか?」
「あぁ。特に問題なく。いつも射撃場に篭るだけしな」
「そうか。ところで、M2008の調子はどうだい?」
「特に問題なく。反動がきついのは相変わらずで、30発も撃てば腕が痛くなるよ」
「へぇ……」
電話越しで彼女がニヤリと笑ったような気がした。
「とりあえず、明日だな。わかった」
「あぁ。それじゃ、また明日」
その言葉のすぐあとに、電話は切れた。
携帯電話を閉じ、ベッドから立ち上がる。
部屋の電気を消し、ベッドに戻る。その際に出窓にタイマーをセットした携帯を置いて布団に潜り込む。
薄暗い部屋の中、2つの二段ベッドがあるが、そのうち1つに俺が入っている以外、誰もいない。すぐ横のベッドの1段目には制服が乱雑にかかり、それ以外には何もない。
「ルームメイトって、どんな感じなんだろうな……」
俺はそう言いながら目を閉じた。
投稿が遅いのは、デフォルトだったり……。
篠山柑那(しのやまかんな)さんは、市木富嶽さんの『グラウンド・ゼロ<U.O.S.S>』に出てくる人です。是非ともそちらの方も~。