次の日、教室についた俺はまたクラス内で畏怖を含んだ、むしろ半分ほど畏怖を込められた視線を受ける。
至極面倒なので、挨拶すらせずに自分の席に向かう。
「おぅおぅ、今日は昨日よりすごい視線じゃないか」
「そうだな……」
話しかけてくる太樹にもあまり元気に反応できない。
柑那の出してきた条件は、3ヶ月以内にもう1丁、M2008を買う人がいれば、俺のカスタムパーツ代をタダにしてくれるというのだ。
『1人程度』と思えればどれだけ楽だろうか。
M2008は、いくら射撃がうまかろうと、どれだけ威力が高かろうと、どれだけ精度がよかろうと、1発撃てば隙だらけになる。
場合によっては一瞬の隙が文字通り命取りになる武偵に人気がないのは当然だ。
それに、中・遠距離は狙撃科がいれば十二分にカバーできる。本来、この銃の出番はない。
それでも、俺は好きだからこそ、もの好きだからこそ、この銃を買ったのだ。
俺は机に頬杖をついて、問いかけてみる。
「なぁ、太樹」
「うん?」
「お前ってさ、シングルショットピストルをどう思う?」
「急にどうしたんだ……?」
「どうもしてねーよ。とりあえず答えろ」
「精度はいいんだろうが、1発だけっていうのがネックだよな」
この通りの反応である。
買う人なんていないだろう。
「んー、なるほどな」
と、太樹が何かわかったようにニヤニヤと笑いかけてくる。
いや、実際に分かったのだろう。だから俺もそうわかった上で問いかける。
「お前ならもうなんとなくわかっただろ?」
「あぁ。噂は本当ってことか」
太樹のその一言で、クラスの視線がまたこちらを向く。
だが、その視線には『やっぱりか』という風な感情が紛れ込んでいる。事実が元になっている噂の精度が増すのは武偵校では一般の学校よりも数倍早い。一部の奴は既にわかっていたようだ。
「まぁ、不利な条件をふっかけたんだ。Aランクの武偵でも、相手に不利な条件を出せば勝てるってことだよ」
「それが、シングルショットピストル……か?」
「ご名答」
俺は呆れながら、そして柑那に言われたとおり『宣伝として』M2008を懐から出す。
「これを使った」
それを机の上に置くと、クラス内の視線に少し困惑のようなものが混じる。有名どころのシングルショットピストルではないからだろう。『有名どころ』というのは、トンプソン・コンテンダーやトンプソン・アンコールなどである。こちらも同じくシングルショットピストルで、銃身の換装などが可能。そしてその独特の形から、知名度はある。
だが、M2008は言った通り、マイナーだ。柑那のGun誌を読んでいる奴くらいしか知らないだろう。
「で、この銃でどんな条件をふっかけたんだ?」
「50m先のサークルターゲットに5発。その合計点数。時間制限はなしで、姿勢は自由」
「結果は?」
「神崎は38点。さすがSランクだよ」
「違う違う」
太樹は笑いながら手をひらひらと振る。そして、その振っていた手で急にこちらを指差し、言う。
「お前の、だよ」
「……言わなきゃダメか?」
「うん」
太樹は完全に聞き出す気満々のようだ。
さて、これを答えれば後戻りは出来ない。答えてしまえば、勝ったという事実はより強固になり、少なからず周りから反応が返ってくるだろう。
「……48点だ。取ろうと思えば、50点も、いけただろう」
俺のその一言に、クラス内がざわついた。
その中で太樹はにやりと笑う。
「シングルショットピストルってのも、そう考えると悪くないのかもな」
「精度の良さだけで考えれば、中距離を確実にカバーできるのが強みだ。精度の悪いハンドガンで中距離から撃って誰かが死んだなんて、笑い話にできないからな」
「ま、射撃の腕がよくて、変な体勢でも撃てるお前だからこそ、言えることか」
「まぁ、な」
変な姿勢で撃っている自覚はないのだが、何人にも言われているから変な姿勢なのだろう。
「おはよー、コースケ!」
と、クラスの扉が勢いよく開いたと思うと、香織が教室に元気よく(毎度のことだが)入ってきた。
「おう、香織。おはよう。今日は普通に歩いてきたのか?」
「うん。いっつも木に登るのはいいんだけど、木で肌が擦れて痛いし、パンツ見られそうで恥ずかしいもん」
「そうか。今度からは普通に来いよ?」
俺がそう言うと、香織は右手を上げ「あぃ、さー!」と答えた。
香織の登場により、クラスにはいつもの空気が戻りつつあった。
その時、俺の携帯が震えた。
ポケットからだし、メールの内容を見てみると、
『依頼情報:――』
その言葉から始まり、内容を要約すると、俺を含めたA・Sランク武偵直々に捕まえて欲しい情報屋がいるそうだ。
「面倒だ……」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
本当に面倒だと、そう思った。