デート・ア・ライブ error bugs 作:warabe
第一話 休日炎上
4月9日。各所で桜の花が咲き乱れ、あちらこちらの学校が入学式を間近に控えている頃。
天宮市の学生たちは春休み最後のこの日をそれぞれ思い思いに過ごしていた。
妹の部屋を掃除している最中にいかがわ……もとい、奇ッ怪な本を多数発見し呆然としている少年。
自宅から学校のデータベースに不正アクセスし、想い人と同じクラスになれたか確認している少女。
カフェで集まり談笑している仲良し三人娘。
ギャルゲーに興じながら、己がモテない男子ランキングトップランカーであることを忘れようとしている少年。
若干おかしな行動をしている人物が混じっていた気がしなくもないが、ともあれ少年少女たちは休日を満喫中。ところで天宮市内には彼らとさして変わらない年齢でありながら職場で働いている少女もいた。場所は陸上自衛隊天宮市内基地。
その少女とはミルドレット・F・藤村14歳、自衛隊AST(対精霊部隊Anti Spirit Team)所属の若手エンジニアである。空間の地震とも呼ばれる空間震を引き起こす精霊を排除すべく戦う魔術師たちの剣にして盾、CR(コンバット・リアライザ)-ユニットを整備するのが彼女の仕事だ。ちなみに階級は二等陸曹である。
昼休みを除けば朝の九時から午後の二時過ぎまでたて続けにCR-ユニットのメンテナンスに明け暮れていた彼女は息抜きがてら、今日非番の同僚に電話をかけていた。
「ミリィさんが苦心して、つ・い・に、手に入れましたよー『例の物』! オリガミのとこに郵送されるよう手配しといたんでー」
『……ようやく! 感謝する』
「効き目抜群、飲ませるだけで誰でも彼でもケダモノお猿さんですよー。それでそれでぇ、オリガミは誰とハッスルするんですかー?」
『……万全を期すためそれは言えない。子供が出来たら報告する』
「きゃー、アツアツー、オリガミのスケベ―! エンダァァァー! そのジュッテームの名前をミリィさんに教え……」
ブツッと音を立てて通話は終了。ミルドレットことミリィが絡んでくるのを見越した上で通話相手は電話を切ったのだ。事実、ミリィは酔っぱらい親父のごとく絡む気満々だった。というより花も恥じらう14歳の乙女が同僚にアダルトなイケナイお薬を融通するのはいかがなものか。
「オリガミのいけず~。ミリィさんに教えてくれたっていいじゃないですか~」
通話が一方的に切られ、ミリィはため息をつく。彼女の同僚である鳶一折紙は他者との関わりを必要最小限に留める傾向があるのでそのことはさほど気にはならないが、それでもちょっと面白くなかった。なにしろ精力ざ……お薬を手に入れるのに結構骨を折ったのだ。折紙の意中の相手を知るくらい良いではないか。
休憩時間もそろそろ終わりということで、身体を伸ばしながらミリィは自分の持ち場へと戻ろうとしたのだが。CR―ユニットのハンガーへと向かおうとする彼女の前に、物陰から一人の青年が現れた。
「オレのパソコンで媚薬なんて注文してくれたことについて、何か弁明はあるかい馬鹿弟子?」
「し、師匠ッー!? いつからそこにー!?」
「最初からだが? ついさっきイギリス本社から戻ってきたんだが、弟子が電話中なので話が終わるまで待っていたのさ」
ニコニコ笑いつつもこめかみに青筋を浮かべたDEM所属のマッドサイエンティスト、紅坂円錐がそこにいた。ミリィにとってはCR-ユニット整備について教えを受けている師匠であり、同じDEM本社からの出向社員でもある彼の目は全く笑っておらず、それがことさらに恐怖を誘った。彼がそこまで怒り狂う理由にも心当たりがあり過ぎるほどにあるミリィは後ずさる。……捕まったら殺される!
「さてミリィ、DEM社が支給するパソコンはセキュリティのため、定期的に閲覧・アクセス履歴がチェックされているのはお前も知っているな? それでだな、お前の使った裏通販サイトへのアクセス歴が執行部長サマの目に留まったわけだ!」
「ソ、ソレハ災難デシタネー」
「そうそう、その火消しに数日とられたよー。ははははは」
「大変デシタネーアハハハ」
普段から円錐と中傷合戦やら取っ組み合いの喧嘩やらをしている執行部長エレン・M・メイザースは当然、鬼の首を取ったようにこの閲覧履歴をネタにして円錐のあらぬ噂をばらまいた。曰く女に飢えたケダモノ、変態、SMプレイが大好き、バカアホオタンコナス、等々。いいようにおちょくられた円錐の怒りは推して知るべしだった。なんか後ろに紅蓮のオーラが漂っているように見えるくらい怒り狂っている師匠に睨まれた弟子は涙目になっている。
「だからお前をシバこうと思う。覚悟はできているよな?」
「ミリィは急用を思い出したので早退します~!?」
慌てて逃げようとするミリィだったが、随意領域で強化したと思わしき凄まじい跳躍で円錐は彼女の前に降り立ち逃げ道を塞ぐ。それはさながらRPGのダンジョンにて待ち受けるフロアボスのごとく。ボス戦からは逃走できず闘争あるのみだと思わず下らないことを考えて現実逃避を始めるくらいにミリィは追いつめられていた。
「逃がすと思うか?」
ゆらり、と近寄るその姿はまさしくホラー映画で犠牲者を追いつめる怪人。蒼白になっていたミリィの顔面がそれを握り潰さんばかりの力で掴まれる。円錐のアイアンクロー! こうかはばつぐんだ!
「ギャー!? ミリィさんのカワイイ顔をどうする気ですかー!?」
「執行部長には後で思う存分たっぷりと仕返しするけど、まず元凶であるお前に痛い目を見てもらうと思ってね?」
ミルドレット殺すべし、慈悲は無い。満面の笑みで死刑宣告をしてきた師匠に、自身の命運が尽きたことを悟った少女は最後の命乞いをした。
「し、師匠ッ、堪忍でー!?」
「安心しろ、すぐに何も感じなくなる!」
「ピギャ~!? ゴフッ」
あまりの痛みにミリィはたまらず失神。めのまえがまっくらになった。上司のパソコン経由でイケナイお薬を注文した14歳の少女と、彼女に物理的制裁を加えた大人気ない24歳の円錐。これが天下のDEMからの出向社員たちだとは誰も思わないだろう。いや思いたくないと言ったほうが正確か。現に側を通りかかったASTの隊員が何人かいたが、円錐にアイアンクローをされているミリィを見た彼らは何も見なかったことにして立ち去った。天才と馬鹿は紙一重であることの好例である。
逃げるようにして去っていく職場の同僚たちを何人かそうして見送った円錐は、気絶したミリィをようやく解放して彼女をベンチの上に横たえた。ちなみにこれが男だったらダストシュートに頭から突っ込んでいるところである。
「……調子が狂うな、全く」
眼を回してダウンしているミリィを横目に円錐は呟く。どうにも彼はこの耳年増で生意気な少女を扱いかねていた。普段なら面倒な相手はさっさと洗脳するなり改造するなりして始末してしまうのだが、純粋に彼の技術力を評価して尊敬の念を向けてくるミリィにはそうすることが憚られた。円錐自身を始めとする魑魅魍魎が跋扈して、権謀術数を巡らすDEM本社と異なり、良くも悪くも正直で(特にエロ方面に)純粋なミリィ相手に過激な手段を使う必要が見出せなかったのもある。とにかく苦手だ。
「……戻るか」
「またミリィがなんかやらかして、アンタが大人気なく暴れたってところかしら紅坂?」
「そういう貴女こそ、こんなところで油を売っていていいのかな日下部燎子隊長?」
何かを振り払うようにかぶりを振って歩き出そうとする円錐だったが、それをASTにおける円錐の上司である女性が呼び止めた。それに彼は面倒くさげに嫌味で返す。
「お生憎様、ついさっき先月の支出報告書を仕上げてノルマを終わらせたところよ。他の隊員には辛辣なのに、相変わらずミリィには甘いわね」
いつの間にやら毛布を掛けられ、おでこに湿布を貼られてベンチの上で寝ているミリィを見た燎子が言う。ミリィ当人が未だ失神状態で、燎子以外の隊員が全員見て見ぬふりをしていたことから、処置をしたのは円錐以外にいなかった。
「……ムチの後のアメをくれてやっただけだ」
「そう。ミリィはアンタみたいな危険人物のどこが良いのかしらね」
「その危険人物を恐れるどころか、書類整理を押し付けた貴女も相当だよ」
「お蔭様で私は一息つくことが出来たけどね」
CR―ユニットの整備師として着任したその翌日に、書類の山と格闘させられたことを円錐はよく覚えていた。その大半がミリィの処理するはずだったもので、「師匠なら弟子の不始末の責任をとれ」と燎子に言われてやらされたのだった。燎子いわく何か雰囲気が胡散臭いから刺激してみたとのこと。結果としてブチ切れて罵詈雑言を吐いてしまった円錐は猫かぶりに失敗。本社にいる時と変わらぬ口調で喋っていた。
具体的なことを知られているわけではないのに、自分のことを警戒してくる燎子のことも円錐は苦手だ。DEM本社の腹にドス黒い欲望を抱えた連中よりも、燎子の方が厄介に感じられるのが何故なのか分からず不愉快でもある。話題に上がっている弟子に負けず劣らず、円錐が面倒だと思っている相手だ。
「ミリィが懐いている理由? オレが知りたい。貴女の言うところの危険人物で変態で、発酵が進み過ぎてシュールストレミング並みに悪臭を放つ、味がおかしくなった味噌であるオレに、こいつが懐く理由とかオレの技術力しか思い当たらない」
「危険人物、以外はアンタの被害妄想だと思うけど……」
二年ほど前にDEMロンドン本社で円錐の技術力に感服したミリィが弟子入りを頼み込み、それを鬱陶しげに断る彼を根負けさせるまで頼み続けたため、二人は一年前からCR‐ユニット整備の師弟関係にある。
そして半年ほど前に円錐がDEMから天宮市のASTへと出向してきてからは、今日のようなお仕置きの光景がAST天宮市基地での日常になりつつあった。ちなみにロンドン本社だとこれがエレンと円錐の取っ組み合いの喧嘩が恒例行事となっている。中にはどっちが勝つか賭けの対象にする社員までいるとか。
片や苦虫を潰した顔で、片や生暖かい目線で互いにガンを飛ばしていた二人だったが、ビーッ! ビーッ! と基地内に警報が鳴りだすと表情を引き締めた。
「出番だぞ隊長殿」
「アンタに言われなくとも分かってるわよ。霊力反応と場所の解析は?」
「もう済んだ。今回お出ましの精霊は《プリンセス》、予測される出現場所はマップに表示させた。さて、手強い相手だが大丈夫か?」
「……ホントに能力は高いから性質が悪いわね」
ASTのものだけでなく、街中に設置した自前の観測機器から得た情報で円錐はこれから出現する精霊の識別とその出現場所を割り出していた。ものの数分で愛用のタブレット型端末からその解析結果を司令室へと送信し終えた円錐の手際にやや呆れている燎子をよそに彼はその場を後にした。
「さぁて、CEO達の悲願よりなによりも先に――オレの知的好奇心を満たすために協力してもらおうか《プリンセス》?」
基地内にある自室へと向かう円錐のその呟きを、聞いた者はいなかった。
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<原作開始>