デート・ア・ライブ error bugs   作:warabe

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大分前回の投稿から間隔が空いてしまいましたが更新です。


第八話 時よ止まれ、お前は下らない!

「避けなきゃ死ぬぞ、気をつけろ!?」

 

「くぅっ……!」

 

 CR-ユニット・シュピーゲルを装備した紅坂円錐は、ふざけた口調で喋りながらも全く油断せず、標的に対精霊徹甲弾を雨あられと撃ち込んでいた。

 

 戦場になっているのは英国の巨石群遺跡があった場所。世界遺産を瓦礫の山に変えつつある砲撃を時崎狂三は死に物狂いで避ける。掠っただけで霊装の一部が消し飛んだことから、精霊が誇る絶対の鎧である霊装をも紙のように引き裂く威力を持っていることは明らかだった。

 

 つい先ほどまでは円錐と狂三は拳銃やライフルで撃ち合いをしており、互いにそれなりのダメージを与えつつも身体能力で勝る狂三が優勢だったのだが、埒が明かないと見た円錐が機関砲を持ち出してから戦況がひっくり返った。砲弾の雨が容赦なく降り注ぐ光景を見た崇宮真那は絶句する。

 

「どうしてアイツは、あんな楽しそうに引き金を引けるのです……!?」

 

 彼女を動揺させたのは楽しそうに機関砲を乱射する同僚の笑い。真那はその戦場から200mほど離れた空中で待機していたが、そこからでも壊れゆく遺跡と逃げまどう彼女の宿敵、時崎狂三の姿が窺えた。どちらかが死ぬかもしれない状況が、相手を傷つけることが、この上なく愉しい。円錐の顔にはそう書いてある。

 

「(何故アイツは笑っていられるのでやがりますか!? 私がどれだけの覚悟を持って毎回彼女を、ナイトメアを殺していると……!)」

 

 そこには真那が常に苛まれている、敵の命を奪うことに対する躊躇いや、その死を背負うような責任感は微塵も感じられない。例え相手が最悪の精霊《ナイトメア》であっても彼にとってはオモチャにすぎないかのようだ。

 

 もっとも真那が殺害しているのはあくまで狂三の分身であって本体ではないのだが、そのことを彼女は知らされていない。それを知っていながら円錐が真那に真実を教えないのは彼女の心を壊し、戦闘機械のような兵士にするため。だから彼女が声に出さず胸中で上げ続けている悲鳴のことを仮に知っていたとしても円錐はそれを笑い飛ばしただろう。彼がやりたいのは眼前の獲物をねじ伏せること、ただただそれだけに尽きるのだ。円錐は狂三に向かって徹甲弾を撃ちこみつつ笑いかけた。その口の端に浮かんでいるのは嘲りの嗤い。

 

 

「どうした!? 人を殺し回っている癖に自分が死ぬ覚悟は無いのか時崎狂三!」

 相手を愚弄しながらも彼が砲撃の手は緩めることはない。肉体的なまたは精神的な痛みで相手の顔がゆがむのを楽しんでいる。

 

「聞いてくれ、おまえをハチの巣にするために次から次へと弾丸を補給し続けるオレの手間暇がすごいんだ!」

 

「なら、撃つのをお止めになっては!」

 

「そっちこそさっきから逃げ惑うばかりじゃないか。さっさと被弾しろ、そして解剖させろ! オレの気は短いからさぁ急げ!」

 

 

 半ば怒鳴るようにして狂三が言ったことは、円錐に黙殺された。DEM執行部、アデプタスナンバー13の称号を持つマッドサイエンティストにとって、検体が叫んでいようと暴れていようと大差は無い。喧しいなら黙るまで電流を流すし、暴れているなら薬物で屈服させる。実験室でのロジックがそのまま戦場でも適用されているのだ。逃げる生体サンプルは殺してでも確保するまで。砲撃は続行される。弾丸は円錐が操作するドローンで彼の手元へと届けられ続けているため弾切れは起こりえない。

 

 

「あまりわたくしを甘く見ないで下さいまし!」

 

「ちょこまかとまるで死体に沸くハエだな!」

 

「このっ……!」

 

 

 それでも狂三は精霊の身体能力をもって逃げに徹することで、どうにか砲撃をしのいでいた。ここにいる彼女は分身、死んでしまったとしても本体に影響はないのだが、円錐についての情報を持ちかえらなくてはと踏ん張っている。今彼女がやっているのは時間稼ぎ。他の分身体たちが3人ほど周囲の陰に潜んでおり、彼女らが離脱できるまで注意をひきつけることが目的だ。

 

 2年前彼女たちが仕留めそこなった人物、紅坂円錐について彼女らが知っていることはほとんど無い。危険性や異常性こそ感じ取れたが、どのような手口で戦いに出て来るかは全くの未知数。こちらを積極的に狙ってきている以上、少しでもその情報が欲しいしそれは多い方が良い。

 

 

「……どうして、こんなことに」

 

 

 一方で本来ならばこの場で狂三と戦っていたはずの真那はどうしてこのような状況になったか思い返していた。

 

 昨日のこと。執行部が《ナイトメア》の行動パターンから次の出現場所と時間を割り出し、そこを真那が強襲する手筈を整えていた時。そこへ円錐が乱入してきたのだ。それも執行部の会議室ドアを蹴り開けながら。随意領域で強化された脚力で放たれた蹴りは、蝶番をもげさせてドアをかっとばし、さらに飛んだ先にいた哀れな新入り隊員をドアの下敷きにして失神させた。

 

 

「今度のナイトメア討伐にはオレも付いていこう」

 

「……何をしやがりますか、この、アホ!」

 

「ぐぼぁっ」

 

 

 ドアの下敷きになっていた隊員を助けた真那はとりあえず円錐の頭を無言で蹴り飛ばした。見事な跳び蹴りである。今度は円錐が壁にめり込むことになったが誰も彼の心配はしない。何故なら次の瞬間にはケロリとして円錐はまたマイペースに喋りだすからだ。

 

 

「おいおい、痛いじゃないか! ちょっと手より先に足が出たくらいで大げさな!」

 

「ドアくらいまともに開けやがってくださいこの馬鹿! それに、正気でやがりますか円錐?

これは実戦であって模擬戦とは違うんですよ。いくらアンタでも《ナイトメア》の相手は荷がおめーと思いますが……?」

 

 

 アデプタスナンバーのいわば番外である13の数字を――13は縁起が悪いことからそれまで存在しなかったが――冠している円錐の実力は凡百の魔術師を遥かに超えている。それは確かだ。しかし例え執行部長のエレンと模擬戦でいいところまでいける実力があっても、精霊討伐任務をこれまでこなしたことがない彼に不安の目が向くのも仕方の無いことである。人間を相手にするのと精霊を相手にするのは違うのだ。それでも円錐の自信ありげな表情は変わらない。

 

 

「なに、ちょっとしたリベンジだよ。第二支部ごと潰されかけた仕返しさ。あの時は逃げるより他に為す術がなかったが、今は違う」

 

 

 新しく作ったと思しきレイザーブレイドの柄を手で弄りながら言葉を続ける。それは従来型のノーペインのそれと比べるとやや形状が異なっていた。

 

 

「なによりも精霊の生体データ、あわよくば生体サンプルを手に入れる絶好の機会だ」

 

「アンタらしい理由ですけど、命の保証はねーですよ」

 

「心配無用だ。オレを誰だと思っている?」

 

「はいはい、アンタは色々と拗らせた馬鹿でやがります」

 

「そう、だね……ふふっ」

 

 

 とにかくこうして円錐が作戦に参加することはなし崩し的に決まったのだった。……もしその場にエレンがいたらきっと真那の発言を否定しただろう。円錐の逸脱ぶりは「馬鹿」などとそんな生易しいものではないのだと。真那は円錐に少し痛い目を見させてそれから自分が助けに入ればいいというくらいに思っていたのだが。

 

 結果的に真那はまだ十数回しか狂三の分身を殺していない(それも多大な罪悪感と苦痛をもっている)自分と、何百何千という実験体を容赦なく愉しんで殺してきた殺戮者との精神性の違いをありありと見せつけられることになり、そして冒頭のように心を壊されそうなショックを受けた。

 

 さて、円錐は砲撃を続けていたがふとその手を止めた。それを見とめた狂三はすかさず自身の両手にある短銃で攻撃するもその銃弾は空中でとんぼ返りした円錐に避けられる。ふと狂三は疑問に思った。――そもそも何故砲撃が突然止んだ?

 

 

「ようやく弾切れですの? 手が止まっていますわよ」

 

「いや、的当てゲームに飽きたから近接戦闘に切り換えようかと」

 

「っ!? 馬鹿にするのもいい加減にしてくださいまし!」

 

 

 カマをかけてきた狂三への返事はとんでもなくふざけていた。「ゲーム」に「飽きた」。敵への侮辱、その最たるもの。彼女が怒るのも当然だが、円錐は挑発などではなく本気で言っていることに狂三は気づくべきだった。

 

 円錐は機関砲を背中のユニットに引っ掛け、レイザーブレイド・ヴァイパーテイルを取り出し構えた。円錐専用のこれは通常型のノーペインと比べ展開される刀身が30㎝と短く、直径は4㎝の極太。パッと見なんの役に立つのかわからない奇妙な武器だ。常識的に考えてリーチが短い欠陥武器に見えるがしかし狂三はそれに大きな不安を覚え、それを隠すように円錐を挑発した。

 

「そのような不格好な武器でなにをするつもりですの人間?」

 

「いやいや、この形にはちゃんと理由があるんだよ。少なくともお前の積み上げた犠牲者の死体の山よりはよっぽど美しいフォルムだとも、悪夢の精霊さん?」

 

「貴方が……貴方がそれを言いますの!?」

 

 

 崩れ落ちて燃え上がるDEM日本第二支部の光景が今でも狂三の脳裏に焼き付いていた。無意味な殺戮。ただ目の前の男、紅坂円錐の自己満足を満たすためだけに消費された命。それは数えきれないほどの人を喰らって最悪の精霊と呼ばれた彼女でも許容できない非道であった。しかし激昂してしまったことが致命的な隙を作ってしまった。

 

 

「――足元注意」

 

「え……?」

 

「動きが止まった、もう一丁」

 

 

気づくと狂三の両足は切断されていた。続けざまに両腕も切り株のようになった付け根だけを残して切断。それらの傷口からは血が噴き出す。極限まで細くワイヤーのように伸ばされたレイザーブレイドが狂三の両手足を斬り飛ばしたのだ。ダメ押しとばかりに彼女の胸元を刃の先端が貫く。

 

 異様に太かった刀身は最初から水あめのように引き伸ばされることを前提に構築されたもの。鞭のようにしなって、絹糸のように細く、そしてノーペインに勝る切れ味を誇るそれは一年前本社会議室で円錐が行ったことを実戦でやるとどうなるかを如実に示していた。四肢を切り落とされたまらず地面へと落下した狂三は何が起こったかも分からないままそこで息を引き取ろうとしていたが。

 

 

「カハッ……。いっ、たい、なに、が、ギャアアアアア!?」

 

 

 その胴体を金属製の槍が貫通する。生体データ収集のための電極だ。しかも殺害された後すぐに霧散してしまう分身体の形状をある程度保存する機能もついている。そして手元の情報端末を見ながら円錐は呟いた。

 

 

「こいつも分身体か。道理で天使も何も使ってこないと思った。まぁデータはきっちり取らせてもらうがな?」

 

 

 離れて事態を見ていた真那が後に語ったところによると、円錐は仕留めた《ナイトメア》の死体をまるでお菓子の包みでも開くかのような気安さで切り開いて解体し、その中身を確かめていたそうだ。もっとも見ていられたのは最初の数分だけで、後はただただ目を瞑って他の隊員たちが来るのを待って、真那は震えていたらしい。

 

 溢れ出る血が怖かったのではない。意外と色鮮やかな内臓にえずいてもいない。さっきまで人だった死体を完全にモノとして弄ぶ円錐に恐怖したのだと。後から来た隊員たちも顔の色を失って、まだ解剖にいそしむ円錐を置いて真那と共に撤収してしまった。

 

 そして半時間後、その野外解剖実験を終えた円錐はどこかに向けて声を上げた。

 

 

「今日はこのサンプルからある程度データが取れたからこれで撤収するが――そのあたりに隠れているのだろうコピーども?」

 

「「「(なっ……!)」」」

 

 

「最初からいるのは分かっていた。どうせ中身はどのコピーも同じだろうからあの一体を血祭りに上げたに過ぎん」

 

 

 円錐は近くの物影から強い警戒心と殺意が感じ取れるのを確認して続ける。

 

 

「どうした、隠れて怯えて震えて逃げ惑うのか殺人鬼? そんな年頃の少女みたいな感情がおまえに残っているとは驚きだ!」

 

 

 どこまでも相手を愚弄するスタンスを崩さず円錐は先ほど解体した分身体の臓物をその影へと投げつけた。

 

 

「苦痛の表情を浮かべて早く殺せと言わんばかりに睨んでくるあたり本物と変わらなかったな。この通り臓物すら本物と同じ形だろう! ・・・・・・だが、やはり分身体ではダメだ。本体でなければオレの求めるデータは採れない」

 

 

 円錐は足を振り上げて分身体の頭だったモノを踏みつぶした。飛び散る血液や脳髄が地面を汚す。彼の口にする冒瀆的な言葉の端々には、新しいおもちゃにはしゃぐ子供のような喜色が滲む。

 

 

「ああ、今ここでオレを殺そうとか思うなよ? 貴様らでは犬死するだけだから張り合うなら本体で来い。そう、次は本体の方を頂く」

 

 

 飛んで逃げようとしていた分身体の上半身をいつの間にか構えていた機関砲で吹き飛ばす。

 

 

「オレは狙いを定めた相手を絶対に逃がさない。これは脅しではなく純然たる事実だ。時崎狂三、最悪であるがゆえに孤立無援。数の利はこちらに有る」

 

 

 今度は後ろを向いてそこの影から現れていた分身体にヴァイパーテイルを巻きつけ、そのまま一気に刃を引く。分身体がバラバラに切り裂かれた。

 

 

「そこにいる生き残り一体、このオレの宣戦布告を本体に伝えて来い。地の果てまで追いかけてやる。骨の髄まで恐怖を刻んでやる。一時も気の休まることの無い悪夢を君に、ってね」

 

 

 そこまで言うと円錐はどこかへと飛び去ってしまった。今のところは彼の気が済んだということだろう。円錐が身にまとうCR-ユニット《シュピーゲル(悪戯)》、それの名が示す通り彼にとっての悪戯で狂三の分身体たちは一人を残して全員惨殺されたのだった。

 

 

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ただ一人生き残った分身体から報告を受けた本体の時崎狂三は怒りから震える声で誓った。

 

「わたくしたちを愚弄したこと、いつか必ず後悔させてあげますわ」

 

いつか必ず、命を弄ぶあの男に、明確な死を突きつける。

それは本来の悲願に加えもう一つ、狂三にとって譲れない目的ができた瞬間だった。

 

 

<原作開始まであと1年>

 

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