デート・ア・ライブ error bugs   作:warabe

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デート・ア・ライブ最新刊に触発されて投稿。
前回の投稿は質が低かったので書き直す予定。


第九話 やがて異物は舞台へと上がる

 木枯らしがテムズ川をさざめかせ、夕方の日差しが水面でキラキラと光る。ハロウィンの仮装をした若者たちが夜を待てずにはしゃいでいる頃、にぎやかな街頭とは対照的に静寂に包まれた場所もあった。ロンドン市内にある大手企業オフィスビルの一室。そこではスーツに身を包んだ東洋人の青年が上司のデスクとチェアを無断使用し、持参したノートパソコンを弄っていた。

 

 

「“Virus plagues national gas plant!(国営ガス生産プラント、ウイルスに襲撃される!)" 暇つぶしに作ったウイルスが世間を騒がすことになるとは……。片手間、製作時間三十分の粗製乱造したあれでシステムが止まるとか他人事ながら大丈夫かコイツら? あ~それにしてもCEOのデスクチェア、とっても快適。オレのとこもこの椅子にしよう、そうしよう。でも退屈だ」

 

 

 マイペースに独り言を続ける青年の言に従うならば、彼の座っている椅子はCEOのものである。社内トップの人物の椅子である。他者に見られれば何らかの処分は免れない蛮行である。そんなCEOどころか神も恐れず(そもそも信じていないが)自由に振る舞っている青年の名は紅坂円錐という。何故彼がここにいるのかというと

 

 

「早く来ないかな~CEO。このままでは待ちくたびれて退屈のあまり適当に選んだ企業のホームページを改ざんしてしまいそうだ」

 

 

 当のCEO、サー・アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットの執務室で円錐は部屋の主は来るのを待っていた。日本に設置した研究施設での成果を報告するため渡英したはいいが、約束の時間より1時間早く本社に到着してしまった円錐は暇を持て余し、ネットの大手ニュースサイトを閲覧中だ。

 

 彼の見ている記事は英国の天然ガス生産プラントが施設の制御システムが<Hello world and good bye forever!>ウイルスなる未知の悪性プログラムによりダウンさせられ、操業を停止させられたことを報じていた。犯人は言うまでも無く、本来はウェストコットしか座れない椅子でふんぞり返っている馬鹿だ。

 

 

「そうだ! この話題のウイルス、記事を掲載しているマスコミにプレゼントしよう!」

 

 

 退屈しのぎのためパソコンのキーボードを叩き始める円錐だったが、それから数分後に部屋の扉が開いた。

 

 

「待たせたねエンスイ、日本からよく来てくれた」

 

「直ちにそこから退きなさいエンスイ。そこはアイクだけが座ることを許された席です」

 

 

 室内へと入ってきたのは銀髪の男性とノルディックブロンドの少女。DEM社のCEOたるウェストコットとその懐刀であるエレン・M・メイザースだ。勝手に自分の椅子を占拠している円錐の姿にウェストコットは苦笑し、エレンはこめかみに青筋を浮かべて激怒。そんな上司たちの姿を認めると円錐はノートパソコンを閉じて、椅子から立ち上がった。

 

 

「お久しぶりですCEO。人の使っている椅子があるとどうしても座ってみたくなるんですよねぇ。執行部長はそんなに怒らないで下さい、貴女の椅子のクッションをブーブークッションに換えたことに比べれば些細なことだ」

 

 

 まったく悪いと思っていない様子で、円錐は謝るどころか自らが行った更なる悪事を告白した。彼のやらかした悪戯で既に被害を受けていたエレンは納得がいったという様子でレイザーブレイド <カレドヴルフ> を展開、その刃がことの下手人へと向けられる。

 

 

「や・は・り・アレは貴方の仕業でしたか……。今すぐカレドヴルフの錆にしてさしあげます」

 

「フハハハ。そっちこそオレがわざわざヨークシャーの喫茶店で買ってきた特上イチゴケーキを冷蔵庫から失敬して食っただろうに」

 

「ちっとも上司の言うことを聞かずに問題行動を繰り返す部下がいまして。そのストレス発散にはちょうど良いのですよ……!」

 

「どこにそんな不心得者がいるのやら? 苦労が絶えないようだから、もうストレスが溜まらないようにしてやる。召されるがいい!」

 

 

 円錐も自身のレイザーブレイド <ヴァイパーティル> を展開、エレンと睨みあってどちらともなく「ガルルル……」と互いに威嚇を始めた。上司と部下の争いというより、ムキになった子供同士のケンカである。ガラス製のテーブルを挟んで向かい合わせになっているソファに座っていたウェストコットは、最早恒例行事となってしまったその光景に軽い頭痛を覚えながらも、それを制止すべく二人に声をかけた。

 

 

「喧嘩をするなら用件を済ませてからにしてくれたまえ。君たちは二人揃うと途端に童心へと還ってしまうようだが……」

 

 

普段は酷薄な笑みを絶やさないDEMの支配者も、この時ばかりは口元がやや引き攣っていた。さらに目線でソファへと座るようにと促す。その声音に若干の疲れが見えるのは、決して気のせいではないだろう。

 

 

「……」

「……」

 

 

円錐とエレンは思わずハッとしたように一瞬硬直、咳払いをしてからガラス製のテーブルを挟んで向かい合わせになっているソファへと座った。エレンはウェストコットの隣、円錐はその向かい。

 

 

「では君の報告を聞こうか、エンスイ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「この間制作された企画書に『アシュクロフト』なんて銘打ってあったのでまさかとは思いましたが、エドガーは本当にアルテミシアありきで計画を進めました。彼女のように有能な魔術師を喪うことだけは避けたかったのですが……」

 

 

 円錐がまとめた資料に目を通しながら、ウェストコットとエレンは彼の説明に耳をかたむけていた。彼らの間にあるガラス製テーブルの上ではティーカップに淹れられた紅茶が三つ湯気を立て、執務室に茶葉の香りが漂わせる。

 

「結果としてエドガー率いる顕現装置開発部は新型のCR‐ユニットを製造することと引き換えに、SSSの誇るトップエース、アルテミシア・ベル・アシュクロフト氏を脳死状態に追い込みました。ここまではCEOと執行部長も把握していますね?」

 

「君から貰っている報告書で読んだとも。エドガーの私に対する敵愾心は買うが、有能な魔術師を使い捨ててしまうのはいただけないな」

 

「あれは魔術師としても、執行部の長としても、許容しがたい愚行でした。何よりアイクの創り上げたDEMを簒奪しようなどと、思い上がりも甚だしい」

 

 

 彼らが話題にしているのはウェストコット、円錐に対して激しい憎悪を抱き、謀反を企てている男の近況についてである。その男、DEM社専務取締役エドガー・F・キャロルは新型のCR‐ユニットを開発し、その高い戦闘能力を以ってウェストコットたちを物理的に排除しようと目論んでいる。そのために優れた魔術師であるアルテミシア・ベル・アシュクロフトを騙して彼女の脳内情報を奪って、<アシュクロフト>というCR‐ユニットを造り上げた。新型と言えば聞こえはいいが、やったことは「ハイスペックなパソコンを分解してそのパーツを流用すれば同じようなスペックが出せる!」というのに似たカット&ペースト。実のところ技術的な革新は無い。

 

 

「もっとも実験自体は非常に興味深いものだったのでそのまま続行させました。優れた魔術師の脳内情報を機械に転写することで、そのスペックを反映した顕現装置を造りだそうという試み。エドガーは脳内情報をコピーするのではなく吸い出してしまったのでアルテミシアが植物状態の憂き目を見ていますが……発想は革新的だったと言えるでしょう」

 

「アルテミシアのように優秀な魔術師を喪うというロスと釣り合うとは到底思えませんが」

 

「執行部長の言うとおりさ。出来上がるCR‐ユニットを装備した魔術師たちと、アルテミシア個人の戦力を比べた場合、明らかに後者に軍配が上がる。収支計算はマイナスだ」

 

 

 こうして彼らが話していることからも窺えるように、エドガーの動向は筒抜けだった。円錐が彼の脳に細工を施し、彼の見聞きしたものを映像記録の形で24時間送信するようにされているからだ。

 

『この五つのCR‐ユニットで私は奴をCEOの座から引きずり下ろす! そして我が盟友ウィルキンズを殺した罪をあの東洋人に贖わせてやる!』

 

円錐たちの情報端末に自らの言動が逐一表示されているとは露とも知らず、エドガーは現在進行形でウェストコットたちへの恨み言を垂れ流していたがそれはさておき。

 

 

「で、ここからが最新の報告なのですが、エドガーの馬鹿が今自分で言った通り、製造される<アシュクロフト>シリーズのCR‐ユニットは5台。いずれも随意領域の阻害、随意領域の透過などといった特殊能力を付与されたものに仕上がりそうです。日常的に執行部長にしごかれている身から言わせてもらえばまったく無意味な小細工ではありますが、まぁ型破りな試みには違いないです」

 

 

 そう言って紅茶に口をつけ、お茶請けのビスケットを齧る円錐だったが、堪らずと言った様子でくつくつと笑うウェストコットに首をかしげる。

 

 

「なんか変なこと言いましたっけオレ?」

 

「貴方が変なのはいつものことでは?」

 

「なんか言ったか執行部長」

 

「いいえ別に?」

 

 

 視線で火花を散らせそうな睨みあいを始める円錐とエレンだったが、ウェストコットは構わずその笑みの理由を言った。

 

 

「型破り。エドガーに先んじて一年前に自分の脳で(・・・・・・・・・)、同じ実験を行った君がそれを言うかね、

エンスイ? 珍しく私やエレンに実験の協力を求めてきた時は何事かと思ったが」

 

「脳内情報を吸い出してコピーした後、それを元通りに戻す。こればかりは自分一人ではできませんからね。材料(脳内情報)の質がイマイチなので、結果は芳しくありませんでしたが」

 

 

 <アシュクロフト>製作に用いるべくエドガーが考案した手法を盗み取った円錐は、あろうことか自分を実験台に、アルテミシアが廃人にされるより一年以上前に自身の脳内情報を用いた顕現装置を完成させていた。一度脳内を空っぽにする以上、彼一人で行える実験では無く、珍しくウェストコットとエレンの助力を求めたことが彼らを驚かせたのだ。

 

 

「そう卑下することも無いさ。あれは君にしか使えない専用機になってしまったが、君の戦闘能力をアデプタス・ナンバーに相応しい域までに押し上げた。十分な成果だと言えるだろう」

 

「オレ以外の人間が全く使えないどころか、常にオレと接続していないと稼働しない欠陥機ですけどね」

 

 

 ウェストコットの賛辞に円錐はかぶりを振ってため息をつく。円錐の脳内情報から製作された顕現装置<クイーンオブハーツ>は彼の魔力出力を増幅することに特化している。いわば機械による円錐の脳のコピーなので、彼の脳機能や演算能力を拡張することができるのだ。もっとも基になった脳内情報の持ち主の人格が影響しているのか、<アシュクロフト>シリーズのように誰もが使える汎用性は皆無で、円錐以外が使っても稼働すらしない欠陥機となっていた。アルテミシアは誰からも好かれる心優しい少女であり、円錐は誰をも愚弄する人格破綻者であることを考慮すれば当然の帰結かもしれないが。

 

半年前に<ナイトメア>時崎狂三の分身体を圧倒してみせた彼専用のCR-ユニット、<シュピーゲル>はこの<クイーンオブハーツ>を搭載している機体である。随意領域を劇的に強化する機能があったからこそ、分身体とはいえ精霊と張り合う戦闘能力を発揮できていたのだ。円錐自身は随意領域の操作に長けてはいるものの、その魔力出力は凡庸極まりない。

 

 

「できることならば他の魔術師でも同じ実験を試してみたかったのですが、基になる脳内情報が凡庸だと低スペックの機体になることが分かりましたからね。それと、吸い出した脳内情報を持ち主に戻せば脳死状態から回復することを立証できたのも成果と言えますかね?」

 

 

 円錐はそう言いつつ、二つ目のビスケットに手を伸ばそうとし、それが消えていることに気づく。口の端にビスケットの欠片をくっつけてモグモグしている執行部長は見なかったことにして、彼はその顔にとびっきり歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

「やろうと思えばアルテミシアを今すぐにでも復活させられますが……エドガーの悪あがきをもっと楽しんでいたいので、<アシュクロフト>シリーズはもうしばらく放置します。道化がのた打ち回ってわめき散らす喜劇、その舞台はまだ始まってすらいないのですから!」

 

 

 部下の狂気じみた笑いに負けず劣らず見た者の背筋を凍らせる冷笑をウェストコットも浮かべる。

 

 

「君の書いた脚本通りにエドガーが動くならそれも良し、それから外れて我々の想像を超えた動きをするならそれも面白い。楽しみにしているよ」

 

「アイク、私としてはあまりそういった反乱分子を放置しておきたくないのですが?」

 

 

 自身に歯向かうものを好ましく思うウェストコットの悪癖をエレンが見とがめて嗜めるも、彼はさして気にも留めない。むしろエレンにこう言った。

 

 

「例え何が起ころうとも君がいる限り、それは脅威たりえない。そうだろう、エレン。人類最強の魔術師よ」

 

「当然です。アイクに仇為すものは何であれ私の剣が切り払います」

 

 

 絶対の自信をもってそれに応えるエレン。彼女の存在意義はウェストコットの剣であり盾だ。

確かな信頼と志で結ばれている彼らを見て少し羨ましそうな表情をした円錐は冗談半分に尋ねた。

 

 

「オレに通り名を付けるとしたらどんなになるかな、人類最強の執行部長さん?」

 

「人類最狂の研究者がいいところでしょう。それよりも、貴方の進めていた監視網の設立はどうなっていますか?」

 

「つつがなく極めて順調だ。オレが経営しているレストランチェーンのマスコット人形は観測機器の塊である以上、チェーン展開と並行してDEMの監視網は着々と広がりつつある。空間震が多発している天宮市への出店を特に重視して、いずれは日本支社から市内全域を監視できるようにするつもりだ」

 

 

 円錐の経営するレストランチェーン、「ワンダーガーデン」は顕現装置を使用した新しい食感や味の料理で圧倒的な人気を博しており、彼の懐を潤すと同時に監視網の拡大を可能たらしめる。

エレンの質問に答えた円錐は、ポットから自分のカップに新しい紅茶を注ぎながら携帯端末で国営放送のニュースサイトを閲覧し始めた。

 

 その一面には「<Hello world and good bye forever!>ウイルス、今度は大手ニュースサイトを完全破壊!」という速報が載っている。なんでもそのサイトの運営会社の保有するコンピューターが軒並み初期化されたらしい。そしてその犯人はその記事を読みながら、自分で淹れた紅茶を美味しそうに啜った。

 

 ウェストコットたちが来る前に円錐が面白半分に行っていたサイバー攻撃は、彼らが室内に入ってくる数秒前に完了していた。被害を受けた企業のデジタルデータを完全破壊する凶悪ウイルスは

またしても世間を大いに騒がせることになる。

 

 

 

<原作開始まであと半年>

 

 

 




もう一話、番外編をはさんだ後、原作へと入ります。
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