「いきなり倒れたりしたから私驚いちゃったんだよ?大丈夫?」
俺を起こした裸の少女は一度ホッと息をついてからペラペラと喋り始めた。しかし如何にも知り合いみたいに話しているけれど俺はこの少女が誰か分からない。
「……誰?」
「嘘……こんなにも妹想いなお姉ちゃんの私の事を忘れちゃったの?酷い!いくらなんでもそんな冗談は優しい私でも許さないわ!」
「俺は……」
男だってと身体を起こして何時ものように続けようとしたけれど、何故か裸の自分の身体が目に入った瞬間に声が出なくなる。
なんと胸が男のそれでは無くなっていた。慌てて自分の股間を触ってみるとあれも無い。
「何してるの?欲求不満?」
「無い……なんで……なんで無いの」
「貴女は私と一緒にこの空間に産まれた時から女の子だったでしょ?もしかして寝ぼけてる?」
もしもーしと彼女が俺の耳元で言うと、ふと気を失う前の記憶が蘇る。早苗に自分の名前を告げようとした瞬間に……
「いや……」
「どうしたの?」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
そうだ俺は何かに轢かれて死んだんだ。ならここは何?この少女は誰?まさか死者の魂を天に連れて行く天使?
「お前なんかに……連れて行かれてたまるか!」
俺は目の前の少女を殴り飛ばした。こいつに連れて行かれると自分の存在が無くなってしまうと考えただけでとても怖くなったから。
「……え?」
先ほど殴った事で少し落ち着いてみると違和感を感じた。確かに思いっきり殴ったけれど、なんで少女はこの小屋のような空間の壁にめり込んでいるのだろう?
落ち着いてみればみるほど自分の身体に今まで無かった力を感じる様な気がする。
「むーげーつー?」
これならやれるとガッツポーズをしているとめり込んだ壁からあの天使が青筋を立てた状態で現れた。
「ちょっとおいたが過ぎるんじゃないかしら?」
「今の俺ならやれる!!」
調子に乗った俺は彼女に向かって走り、拳を振りかぶった。
「はい幻月お姉ちゃんに自分の自己紹介をしてみようか」
数分後、ボコボコにされて全身青痣だらけの俺は土下座をさせられている上に、彼女に頭を踏まれていた。
「俺は……」
「わ、た、し、でしょ?」
「わ、私は幻月お姉様に忠誠を誓う……」
「誓わなくてよろしい」
「お、お姉様に歯向かわない良い子な妹の夢月です……」
「それでよろしい」
何か気に入らなければ足に力を込めていく幻月お姉様は天使なんかじゃない。絶対に天使の姿をした悪魔だ。
「糞っ……」
「何よ文句があるの?」
「痛い痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさい!」
とうとう床がミシミシ言い始めたので必死に謝ると気が済んだのかお姉様は一息ついた後に踏むのをやめて、しゃがんでから俺……私の顔を優しく手であげた。
「ごめんなさい。ちょっとカッとしちゃったの」
ちょっとカッとしただけでここまでやるのかと心の中でツッコムとお姉様はあははと苦笑いをしていた。
「それにしても……本当に私の事とか分からないの?」
「……うん」
「まるで人が変わっちゃったみたいね……まあそれでも夢月は夢月だし、私は今まで通り接するだけよ」
「……ありがとう」
土下座をしていた私は普通に座ると寒気を感じてくしゃみをしてしまった。よくよく考えてみたらずっと裸だから身体が冷える。
「お姉様。服は無いの……?」
「ふく?何それ?」
「今まで寒い時……どうしてたの?」
「身体を動かせば温まるでしょ?」
脳筋かと一瞬思うと何かを察したのかお姉様は頬を膨らませた。
「今失礼な事考えたでしょ?」
「そんな事……ない」
「じゃあ脳筋って何?」
「脳みそが筋肉でできてるって意味」
「ふーん……さっぱり分からないわ」
俺……私は何故かこんな非日常を受け入れつつあった。今までコンプレックスだった男なのに女っぽい感じも何故か女性になってしまったからもう無い。もしも今までみたいなイジメてくる奴がいて面白くも無い生活を変えられるなら、いっそこの悪魔の妹、「夢月」として生きていくのも良いかも。
「なんか今の夢月ってちょっかいを出すと反応が面白いかも……」
訂正。今お姉様がふと呟いた言葉でお……私はイジメられるのだけは逃れられないかもしれない。