神綺と夢子が私達と一緒に生活(と、言っても半ば強引に居座っている形だけれども)を始めてから結構経つ。
神綺に初めて胸を揉まれた時に彼女が予想した私とお姉様がこの空間を大きくしていると言うのは的確であったみたいで、その事を意識してから目が覚める度にはっきりとこの空間が広くなっているのが分かるレベルになっていた。それでもまだ小学校にあるようなプールより少し広いくらいの広さしかない。そしてこの空間には4人いて4人とも空間の端っこの一画を自分の陣地にしてしまったから少し暇になってしまった。
そこで私は記録する物が無いけれど、他の3人を観察する事にした。
まず誰を観察するか迷ったけれどとりあえず夢子を観察する事にした。この隠れる場所が無い空間で私はとにかく気づかれないようにと思いながら姿勢を低くしながら近付く。ある程度近付いた私は片膝立ちをし、両手の人差し指と親指で四角形を作ってから、その四角形の中に夢子を収めて観察を始めた。
夢子は暇そうに欠伸をしながらその場に座っていた。ボケーとしていると思ったらいきなり顔を赤めて首を横に振ってはまたボケーと上を見始めた。
もみあげのそばに三つ編みがある以外、姿が私と同じ夢子が恋する女の子みたいな動作をしていると少し背筋がゾッとする。一体誰に対して淡い恋心を抱いているんだろうと考えていると、夢子はいきなりハッとしてからキョロキョロ周りを見渡していた。
夢子は視線に気がついたと言わんばかりの反応をしているけれど、こんな何も無いところでこんなふざけた格好で観察をしている私に気がつかないのは何故なのだろう。
しばらくしてからやっと私の存在に気がついたのかニコッと笑ってから立ち上がって私のところまで来た。
「……夢月は何してるの?」
「暇だから……観察してた……」
「何時から……私の事見てた?」
「……秘密」
そう言うと夢子は頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にしてその場から動かなくなってしまった。この子はもう私と違った個性があるからこの先楽しみだなと思いながら夢子を放置してお姉様の元へ忍び足で近付く。
ある程度近付いたら片膝立ちでお姉様を観察し始めた。パッと見た感じ、お姉様は胡座をかきながら指を床にこすっている。定期的に指を顔の近くまで持って行って確認しているところを見ると爪を削っているのかも。
お姉様もやっぱり女の子っぽい部分があるんだと頷いて感心していると、お姉様は上手く削れないのかどんどん手の動きを早めていく。
だんだんイライラしてきているのが目に見えて分かるから私はその場から2、3歩下がると、とうとう我慢の限界がきたのかお姉様は立ち上がって自分の羽を毟り始めた。何時もなら側にいる私が八つ当たりを受けていたけれど、近くに誰もいない時はどうするのかが気になった。
「死ねこのクソ野郎!!」
そう言ってお姉様は右腕を掲げると、手の平に丸くて赤色に光る球体が現われ、お姉様はそれを神綺が陣取っている場所に向けて思いっきり投げた。
やっぱりお姉様にも不思議な力があるんだと少し羨ましく思っていると、赤色の球がすごいスピードで戻ってきてお姉様の顔にぶつかった。後ろに倒れたお姉様に近付いて顔の前で手を振ってみても反応が無いから気絶しちゃったのだろう。
伸びてるお姉様をとりあえず端に寄せてから最後の一人、神綺のところにゆっくり向かう。お姉様の突然の攻撃にすぐさま反撃できたって事は何かすごい事をしているのかなと期待していると、神綺の声が聞こえてきた。何と言っているのかわからないけれど、近づけば近付くほどそれは大きくなって行き、嫌な予感がした私は冷や汗がダラダラ流れていた。
そして私の嫌な予感は的中していた。私の目に入った神綺は……私が口で説明したくないような破廉恥な事をしていた。それを見て私は観察をするなんて目標を捨てて気が付けば怒鳴っていた。
「何やってるのこの変態!!」
「んっ……何ってナニよ」
「そんなの見たら分かる!でもいくら暇だからってなんでそんな事を堂々とやれるわけ!?」
「別に私がオナニーをしてたって良いじゃない……それよりも夢月ちゃんって無口な子だと思ってたけどちゃんと話してくれるのね」
「はうっ!?えっと……その……」
「一人でするのもマンネリなのよねぇ……ちょっと私とエクスタシー感じてみない?」
普段あまり喋らない私が怒鳴っていた事に自分でも驚いていると、その隙に神綺は私の前に立って私の肩をしっかり握っていた。
「夢月ちゃんって本当美味しそう……味見して良いかしら」
薬をやっていると思えるほど目が血走っている神綺が顔を少し近づけてくるのがとても怖い。そして私は恐怖のあまり身体が震えて動けないでいた。
「震えちゃって可愛い……大丈夫すぐに気持ち良くなるから」
「嫌……来ないで……」
私の貞操はこんな最悪な感じで奪われるのかと思えば色々と諦めがついて私は目を強く瞑ってこれからこの変態に与えられる未知の感覚を待った。けれど何時まで経ってもそれは来なかった。不思議に思って目を開けてみると、目の前には白目を剥いた神綺の顔があった。
「きゃぁぁぁ!?」
「これで……大丈夫……」
私が悲鳴をあげると神綺の後ろから夢子の声がした。どうやら夢子が私を救ってくれたみたい。
「助けてくれたの……?」
「……夢月は私に名前をくれた。これはその御返し……」
夢子は気絶している神綺を私から離して乱暴に地面に寝かせていたけれど、私にはその動作が照れ隠しをしている風に見えた。私はそんな夢子にイタズラをしたくなって後ろから抱き付いて耳元でただ「ありがとう」と伝えた。密着しているから感じる彼女の心臓の音の高鳴りを確認してから私は頭を撫でて夢子から離れた。
私が離れた瞬間に夢子はその場から消えたので驚いて周りを見渡すと何故か夢子はもう自分の陣地で体育座りをしながら両手で顔を隠していた。
私は今回の観察で様々な事が分かったような気がした。全員が不思議な力を持っていて、きっと私にもそれがあるんじゃないかって事。神綺は手を出さない方が良いレベルの変態だって事。お姉様にも一応女の子らしいところがある事。夢子はもう私とは全く違う存在になっている事。そして私の中で何か変化が起きている事。
これらの事が分かっただけでも観察した甲斐がある。だけど……
「記録するもの……欲しかった……」