「ねえ夢月ちゃん。気がついたら寝ちゃってたみたいなんだけど寝る前の記憶があやふやなの。私が何をしてたか知らない?」
「新手のセクハラ……私に話し掛けないで……」
観察を終えてから暫く経つと、神綺は頭を摩りながら目を覚まして私に話しかけてきた。本当に分かっていないのかワザとやっているのかが分からない変態だから、よく覚えていないけれど触らぬ何かがほにゃららってことわざがあるように話し掛けないで欲しい。
「……何やってるの変態」
「やっぱり覚えてるじゃないこの変態!」
「私は夢月ちゃんの口からオナニーって単語を聞きたかっただけよ」
「なんで私がオ、オ、オ……」
「んー?夢月ちゃんはなんて言おうとしているのかしらー?」
カッとしてまた声を荒げてしまったけど、ニヤニヤしている神綺を見ていると恥ずかしくなってくる。私は口をゴニョゴニョさせてはっきり言わないくらいしかできなかった。
「……ニなんて言わなきゃいけないの」
「なんて言ったのか神綺ちゃん聞こえなーい」
「なんで私がオナニーなんて言わなきゃいけないの!!」
今まで出したことも無い程大きな声を出して私は神綺の頬を叩いた。肩で息をしながら神綺を見ると何故かニンマリしているから気持ち悪い。
「夢月ちゃんはツンデレだからこれも愛の形だって私は分かってる……むしろ気持ち良い……」
「もう出て行ってよこの変態!」
私は神綺のお腹をつま先で蹴ってから自分が陣取っているところへ戻った。自分でもなんでこんなに怒っているのかが分からない。元から下ネタは好きではなかったけど人に手を出すなんて事は今まで無かった。
そんな自分の変化に戸惑いながら私は自分の陣地で体育座りをして、そのまま眠りについた。
◇
「……あれ?」
私は目を開けると真っ暗な空間でふわふわ浮いていた。さっき眠りについたからきっと夢の中なのかなって思いながら身体を動かそうとしたけれども、身体はピクリとも動かない。
「……なんで動かないの」
「落ち着いて……前に進めって強く思って」
「……誰?何処にいるの?」
「そんな事は良いから私が言ったとおりにやって」
何処かで聞いた事があるような声の言うとおりに私は心の中で前に進めと叫んだ。すると身体はゆっくりと前に進み始めた。止まれと思えばその場に停止して下がれと思えば後ろに下がった。
「なかなか飲み込みが早いわね」
「……誰?」
声がする方に振り向くと、そこには夢子がいた。いや、私が作った三つ編みがないから夢子じゃない。
「私が誰か分からないって顔をしているわね」
「……私の偽物?」
「それは私が一番貴女に言ってやりたい言葉。そんなんじゃ無くて私は夢月よ」
「違う……私が夢月」
「違わないわよ。私も夢月で貴女も夢月よ」
この夢月と名乗る私と同じ容姿の女性の言っている意味が分からなくて首を傾げてクエスチョンマークを頭の上に出していると彼女はため息をついた。
「じゃあこう言えば分かる?私は貴女が夢月になる前の夢月なの」
「……あー!!」
やっと意味が分かった私は手をポンと叩いた。忘れていたけれど俺は夢月と言う人物になってしまっていたから夢月を名乗っていたんだった。
「それで……夢月はどうしたの?」
「貴女が結構大変な目にあっているなって思ったから助けてあげようと思っただけよ。それと何時も通りの話し方で良いのよ?」
「無理……人と話す時は……」
「コミュ障って本当面倒臭いわね」
「うるさい!!」
またやってしまったと思って口に手を当てていると、夢月は俺を見てクスクス笑っていた。
「やっぱり戻ってきているわね」
「戻る……?」
「そう。ほら、幻月お姉ちゃんってカッとしたらすぐに暴れたりしない?」
「確かにする……それが何……?」
「私と幻月お姉ちゃんは双子の姉妹。そして私も幻月お姉ちゃんみたいなところがあるのよ。まあ私の方がもう少し感情のコントロールができているけど」
「じゃあ戻ってるって……」
恐る恐る夢月の顔を見ると彼女はにっこり笑って頷いていた。それを見て俺は大きなため息をついてからその場で膝を抱えて丸くなった。
「いきなりどうしたのよ」
「俺はこのまま消えて行くんだって思ったら何か悲しくて……」
「大丈夫。私は貴女が消えないようにする為に夢の中に出てきたんだから」
「……夢月は俺を救う理由なんてないでしょ?」
「私は貴女の事を知りたいのよ。それに死ぬ程暇だったのに貴女のおかげで色々な楽しみも増えたし。これが私が貴女を助ける理由よ。文句ある?」
「嫌……ないよ……」
「じゃあ決まりね」
ウインクをした夢月は私の前に移動して両腕を広げたけれど、私はどうすればいいのか分からなくてただふわふわ丸まって浮いているだけだった。
「私を受け入れればいいのよ」
「……どうやって?」
「知らないわよ。自分で考えなさい」
やっぱりお姉様の妹なんだなって思い苦笑いをしながら膝を抱えている腕を解く。受け入れ方をよく分かっていなくて悩んでいると、以前見たアニメのワンシーンが頭の中を横切った。俺は腹を括って顔から火が出そうになりながら夢月をしっかり抱き締めてからキスをした。
「んっ……これが貴女なりの受け入れ方なのね。よく分からないけど胸がドキドキするわ」
「……この後はどうすればいいの?」
「後は意識が戻るのを待ちなさい」
「分かった……」
こっちはすっごく恥ずかしかったのに夢月はなんともなさそうにしているのが悔しくてモヤモヤしていると彼女は一度咳払いをしてきてから話を始める。
「意識が戻るのまでに何個かヒントをあげる」
「ヒント?」
「貴女や幻月お姉ちゃん、神綺に夢子がいる空間はとっても不安定……まるで夢幻のように。そして私と幻月お姉ちゃんは二人で一人。さあ、貴女は私からの素敵なヒントの意味が分かる?」
ワザと遠回しに言っているから意味が分からない。かつての俺なら。
「今の俺なら何と無く分かる。この俺……私、夢月の能力は……」