「世の中不公平というのはよく聞く話だが、果たして『運』というものが本当に存在するのか。それを検証するために今回、山城・雪風にそれぞれ、不幸艦・幸運艦を代表してもらい、5番勝負に挑んでもらう」
提督が司会役を務め、龍驤はその助手役である。企画ものらしく、二人とも手にはマイクを握っていた。
「ルールをざっくり説明すると、それぞれ2分の1の確率で勝敗が決まるようなゲームを5つ用意しているで」
「それぞれ両極端な異名を持つ艦娘が会ってしまえば、一体何が起こってしまうのか。俺たちはある意味、歴史的な瞬間に立ち会おうとしているのかもしれない。」
「その糞みたいな煽りは、何の歴史にも残らんやろうけどな」
龍驤は、思ったことをハッキリと口にする艦娘のようだ。
「それに、そもそもの話やけどなぁ…」
龍驤は、言いにくそうに口ごもる。
「何だ、どうかしたのか?」
「企画にケチつけるようであれやけど、どっちが不幸とか幸運とか、そんなもの気にする方がどうかしとると、ウチは思うで」
「龍驤はそういうの、信じないんだ」
「運が良かったっていうのは、要するにタイミングが良かったって事やろ。普段の努力が無ければ、実るもんも実らんと思うしな」
「なるほど。つまり、山城は普段の努力が足りてないって事か」
「いや、それは違うで」
龍驤はきっぱりと否定する。
「山城はつまらない事に囚われすぎな所があるんや。本当は実力があるくせに、それが原因で発揮出せずにいる。山城には今回の対決を元に、自信をつけて欲しいな」
話を聞きながら、提督がうんうんと頷く。
「正直な話、雪風の圧勝で終わるだろうと考えていたが、龍驤の話を聞いている内に、山城の勝利もあり得ない事では無いような気がしてきたな」
「初めから決めつけてたら、見えるもんも見えへんようになるで。勝負は最後まで、何が起こるか分からんからな」
「龍驤の言うとおりかもしれないな。じゃあさっそく、二人には登場してもらうことにしよう。どうぞ!」
提督の合図に合わせて扉が開き、雪風、山城が部屋に入ってくる。
「よろしくお願いします!」
雪風が、ピョコンとお辞儀をする。
「呼んでくれて、ありがとうございます」
山城もそれに続く。
「二人には今日、いろんな勝負をしてもらう事になっているけど、意気込みを聞かせてもらってもいいかな」
提督が聞くと、雪風が元気よく答える。
「雪風は勝負とか、あんまり得意じゃないですけど、楽しくやれたらいいなって思います!」
雪風が山城に対して、ニッコリと笑顔を見せる。
「私は最近嫌なことがあったので、気晴らしになればいいかな、という思いでいます。今日はよろしくね、雪風ちゃん」
山城も、雪風に対して微笑んで見せた。
「じゃあ、まずは幸運艦である雪風の話を聞いてみようか。最近何か、ラッキーだった事って、あったかな?」
「えーっとね、この前、間宮さんの所でアイスを買ったんですけど、当たりだって、もう一本もらったんです!私、食べすぎちゃったんですけど、本当においしくって!」
エへへ!と、雪風が幸せそうに微笑む。
「うわぁ、雪風良かったねぇ。ほのぼのとした話をありがとう。今度は、山城。さっき嫌なことがあったって聞いてけど、何か変わったことでもあったのか?」
提督が山城に尋ねるも、言いにくそうに俯いてしまう。
「山城?嫌だったら、別に無理しなくても…」
「○イプされたんです」
「山城!?」
「8人がかりで、私、怖くて声も出せなくって…」
「山城…、ほら、今は子供も聞いてることだし…」
「子供…、そうね、お腹の子のためにも、私がしっかりしなくちゃいけないものね」
「そういう意味じゃなくって…、龍驤なんか、ビックリし過ぎて固まってるから…」
提督の横で、龍驤は目を剥き、微動だにしない。
「や…、山城…」
龍驤が、おずおずと声をかける。
それを見た山城は、ようやくはっとした様子で、言った。
「ごめんなさい、私ったら!今日はせっかくみんなで一緒に楽しもうと思って来てるのに!」
「そうだぞ山城、相談があればいくらでも聞くから、せめて今ぐらい楽しんでもいいんじゃないか。つらい事があったんなら、尚更だ。」
龍驤も提督に続く。
「ウチで良ければ、いつでも力になるからな!」
雪風は終始、わけが分からないといった様子でポカンとしていたが、何とか企画を進行する事にした。
「二人にはまず、席についてもらうことになるが、どちらか一方にはブーブークッションが仕掛けられている」
「運良くそれの無い方の席に着いたら勝ち、という事やな」
「席を決める順番は特に決めていないが、どうする?山城から行くか?」
山城は首を振る。
「いいえ、私は後から決めさせてもらいます」
「分かった。じゃあ、雪風。右の席と左の席、どっちを選ぶ?」
「右にします!」
雪風が元気よく答える。
「そしたら、雪風が右、山城が左に…」
「ちょっと待ってください!」
山城が流れを遮るようにして声を上げた。
「何や、山城?」
龍驤が尋ねると、山城は自信たっぷりに答える。
「私には、作戦があるんです。言うまでもなく、雪風ちゃんは幸運艦。普通の運だめしなら、不運艦の私が勝てるはずがない。しかし、確率が2分の1の勝負とあらば、話は別です。じゃんけんで後出しが必ず勝つように、雪風ちゃんの選ぶものを後から奪ってしまえば、私が負けることは無いんです!」
自分に自信の無い事を、自信たっぷりに言ってのける悲しさと、子供から選択権を奪うという大人気の無さが相まって、龍驤は何とも言えない気分になった。
「山城はあんなこと言っているが…、雪風はどうだ?」
提督が雪風に確認する。
「は、はい。私は別に、大丈夫ですけど…」
それを聞いて、山城が小さくガッツポーズを作る。
「雪風ちゃんもそう言ってくれている事ですし、私が右の席、雪風ちゃんが左の席という事で、宜しいですね?」
山城が提督に尋ねる。既に勝利を確信しているような、ふてぶてしさがあった。
「雪風がそれでいいなら…。それでは二人とも、選択が終わったという事で。龍驤の合図で、一気に腰を下ろしてもらうぞ」
「じゃあいくで!せーのっ!」
二人が同時に席に着くと、ブウッ、と山城の方から音が鳴った。
「一回戦は、雪風の勝利だ!」
「わあい!雪風、やりました!」
雪風は万歳のポーズをとる。
「山城は、雪風の選択を奪ってしまうことで、逆に負けてしまったな」
「昔話の意地悪ばあさんみたいな結末やで。妙な小細工せんと、自分の分は自分で選んでいたら良かったのに…、なあ、山城」
龍驤が声をかけるも、山城は座ったままの態勢から動こうとしない。
「山城…?」
提督が声をかけると、山城が小さく、答える。
「浣腸もされたんです」
「山城!?」
「ブウッて音が鳴るたびに、男たちがゲラゲラ笑って…。私、本当に恥ずかしくって…」
「え?浣腸って、あの浣腸なん?どうしてそんな事までされるん?」
「聞くな!龍驤!山城も、話はそこまでにするんだ」
提督が急いで話を終わらせようとするが、
「カンチョーって嫌ですよね!」
よりによって雪風が話を広げてしまった。
「え…、雪風…さん?」
思わず提督が聞き返す。
「島風ちゃんが私によく、カンチョーしてくるので困ってるんです!痛いからやめてって言っても、島風ちゃん聞いてくれなくて…」
我が鎮守府の駆逐艦隊は、平和そうで何よりだった。
「青汁、一気飲み対決!」
割と大声を上げたことに対し、特に拍手があるわけでもなく、思わぬ静寂が返ってきたため、龍驤は少し恥ずかしそうに提督を睨む。対して提督は、そんな龍驤を気に留めることもなく、ルールの説明を始める。
「2回戦はこの、コップに入っているジュースを飲んでもらうが、どちらか一方は青汁となっている」
「もちろん、青汁に当たってしまった方の負けやで」
「さっそく始めようか、どうする?今度は山城から選ぶか?」
提督が話を振ると、
「はい!私!私は左のコップが良いと思います!」
食い気味で山城が主張した。
「そうか、それなら左を山城に…」
「なので、左のコップを、雪風ちゃんに飲んで欲しいと思います!」
山城が、話の繋がらない事を言う。
「それって、どういう…?」
「私が選んだという事に、意味があるんですよ。先程は雪風ちゃんの幸運にあやかろうとして失敗しましたが、今回は私の不幸を、逆に利用しようという作戦ですね」
それを聞いて、龍驤が頭を抱える。
「どこまで後ろ向きなんや、山城…」
そんな龍驤の気持ちをよそに、山城は今度こそ負けはしないという風に、ドヤ顔をして見せた。
「2人とも、コップは行き届いたみたいだな」
「一気に飲んでや!せーのっ!」
龍驤の合図に、二人が勢いよくコップを傾けた。
「ああああ!」と、山城が悲痛の叫びを上げる。
「勝者、雪風!」
提督が、雪風の右腕を高々と上げて見せる。
「甘~いキウイジュースでした!ブツブツした食感もあって、美味しいです!」
雪風が、ニコニコと笑顔を見せる。
「山城は自分の選んだんをそのまま飲んどけば良かったのになあ…」
龍驤がため息をつく。
「残念だったな山城。でもまあ、まだ2回戦目だし、これから勝てば良いだけの話で…山城?」
山城は、悲しそうな表情で俯いている。
「山城、ごめん、苦すぎたか?水持ってこようか?」
提督が駆け寄ると、山城がぽつりと呟く。
「ちょうど、こんな味だったわ」
「山城!?」
「苦くて、飲めないって…。でも飲み込まないと満足しないって、私の髪の毛を乱暴に引っ張って…」
「山城!そんな事言っちゃ、駄目だ!」
提督が慌てて話を止めようとするが、龍驤が、え!?と、びっくりしたように反応する。
「犯人にも青汁飲まされたん?浣腸の事といい、変なことする奴やな…」
「山城さん、大丈夫ですか?」
心配して山城の元へ、龍驤と雪風が駆け寄る。
その姿を見て提督は、二人にはいつまでも、純粋なままでいて欲しいと思った。
「3回戦は、どちらか一方にワサビがたっぷりと入れられた、お寿司を食べてもらう」
「ネタはどっちもマグロになってるから、勝負が好みで分かれないようになってるで。もちろん、ワサビ入りのお寿司を食べてしまった方の負けや!」
提督と龍驤の説明が終わると、
「私はどっちでも良いです」
山城が無表情のまま言った。
「すっかりテンションが下がってしまったようやな…」
龍驤が少し心配そうに山城を見る。
「雪風ちゃんは幸運艦だもの。2分の1の勝負だからって、初めから私に勝てる可能性なんてなかったんだわ。だって私は…」
「山城!」
言いかけたところで、龍驤が声を上げる。
「山城が勝たれへん理由は、そういう所やと思うで。何でも自分の不幸のせいにして」
山城が驚いたような顔をして、龍驤を見る。
「先の大戦で、戦艦山城がどんな結末やったかは、ウチもよく知っとる。これ以上ないってくらい不幸やったと思うで。でも、今のあんたは艦娘山城や」
真剣さが伝わったのか、山城は言い返そうとしない。
「そりゃあ、過去に囚われるなって言うほうが無理や。実際、ウチらの体はこんなわけ分からんもんになってもうて、戦いの日々を送っているわけやし」
龍驤が、両腕で自分の両肩を抱く。
「戦争の事、完全に立ち直ってるわけやない。だってウチは。いや、だからこそ私は、こんな…!」
龍驤が言いかけて、やめる。山城には何か感づいたものがあったらしく、目を見開いている。
「…誰かて、コンプレックスぐらいは持っとるやろ。ウチだって加賀とか赤城には、ライバル意識みたいなのがあるし…」
龍驤は深いため息をつくと、
「あ、ライバル意識と言っても、胸の大きさの事じゃないけどな」
にっこりと、山城に笑顔を見せた。
山城は一瞬、キョトンという顔をしたが、思わず吹き出してしまう。
「まあ、不幸みたいなんは、誰かしら抱えとるっちゅうわけや。不幸を自分だけのものにして、言い訳に使うのはズルいと思うで」
自分で言ってて恥ずかしくなってきてしまったのか、龍驤はくるりと背を向けて、行ってしまう。
「龍驤ちゃん…、私は、本当は…」
山城には龍驤が眩しく見え、ただただ背中を目で追う事しかできなかった。
結局、寿司は雪風に選択してもらった。それぞれテーブルの上に配っていく。
「二人とも準備はええか?それでは、どうぞ!」
龍驤の合図に合わせて、二人がマグロ一貫を一気に頬張る。
「かっ、辛い!!辛いれす!!」
雪風がわたわたと手を振り、つらそうにしている。
「おおっと!という事は、山城の勝利だ!」
「やったな!山城!」
龍驤が振り返ると、
「早く…!水、お水を…」
そこには涙目で訴える、山城の姿があった。
「どういう事なんだ龍驤。寿司はお前が準備してくれたんじゃなかったのか」
「提督、ごめん…。どっちかにしかワサビを入れたつもりはなかったんやけど…」
「珍しいな、龍驤がミスをするなんて…。分かった、次からは気を付けてくれよ」
「本当にごめんな」
話を終えると、提督が山城と雪風の元に駆け寄る。
「スマンな、二人とも」
勝負は一時中断して、山城と雪風には休憩してもらっていた。
「こっちの手違いだったみたいだ。今の勝負は、悪いけど引き分けにさせてくれ」
「分かりました…。う~、まだヒリヒリしてます~」
雪風が、べえっと舌を出して見せる。
「私も…辛いのは結構得意だったつもりでいたのだけれど…」
どうやらどちらにも、相当量のワサビが入っていたようだ。
「勝負はいよいよ大詰め。4回戦は、このホットプレートを使って勝負をしてもらう」
「二人にはプレートに手を入れてもらうで。熱を持ったプレートに当たった方が負けというわけや」
龍驤の説明を聞くと、雪風がおずおずと、疑問を口にする。
「あの…、それって危険なんじゃ…?」
当然、その質問は想定済みだ。代わりに提督が答える。
「もちろん、火傷をしない程度の温度に設定してある。万が一のために、バケツも用意しているしな」
それは大破しても大丈夫!という意味にもとれるのだが。二人はバケツに対して絶対的な信頼を置いているようで、それなら、と勝負を了承してくれた。
「今ホットプレートに電源を入れたから、温まるまで少し待ってくれるか」
両方ともにコンセントは差し込まれている状態であり、電源がついているかは見えないように細工がしてある。
「じゃあ次は、どうする?また雪風からいくか?」
「うわ~、いくらバケツがあるとはいえ、自分から手を入れるっていうのは、やっぱり怖いですね…」
提督が促すも、雪風はなかなか決めようとしない。それならばと、山城に決めてもらおうとした時に、龍驤が叫んだ。
「提督!あれ!火!火が!」
龍驤の指さす方向を見ると、ホットプレートが黒い煙を吐き出し、出火していた。
「まずい!龍驤は急いでバケツを!俺はコンセントを抜いてくる!」
提督と龍驤が急いで処理をしたため、大事には至らなかったものの、一歩間違えば火事が起きていた。
「どうして急に故障なんか…」
あまりにもトラブルが続いたために、急きょ企画は中止することになる。そのまま解散するのはあまりにも後味が悪かったため、みんなで食堂へと行くことにした。もちろん、全て提督の奢りである。
気を利かせてくれたのか、山城が先に行って、席をとってくれていた。この時間帯はいつもすいているため、そんな事はする必要が無いと一度は断ったのだが、山城は頑なに主張を曲げなかった。もしかすると、龍驤のために、何かしたかったのかもしれない。
全員で食事をしている中、提督が少し、神妙な顔つきで言う。
「実は、寿司に誰かが手を加えている所をしている所を見たという艦娘がいるんだ」
「え…、それって、どういう…?」
思わず、龍驤が口を挟む。
「ホットプレートも、2つ同時に故障するなんて偶然は、あり得るはずがない。私には誰かが、細工をしていたとしか…」
店員が近づいてきたので、提督は一旦、話すのを中断する。
「お飲み物のおかわり、お持ちしま…きゃあ!」
店員が水を注ぎ足そうとポットを傾けると、何かに足を引っ掛けてしまったのか、テーブルに水をこぼしてしまう。
「大変申し訳ありません!すぐに拭くものをお持ちします!」
ぱたぱたと、慌てて厨房に戻っていく。
「とりあえず、おしぼりで拭いておこうか…」
提督が手を伸ばした瞬間、がしゃん、という鋭い衝撃音が店内に響く。その場にいた全員が反射的にのけ反り、目を瞑る。
「…っ!」
恐る恐る目を開けると、天井にあった照明が落下し、テーブルの上で粉々に割れていた。もしこれが直撃していたら…。考えただけでもぞっとする。
「みんな、平気だったか?」
提督が辺りを見回すと、山城が右手を押さえてうずくまっている。破片で切ってしまったようで、ぼたり、ぼたりと手の隙間から鮮血が落ちていくのが見えた。
「山城!大丈夫か!」
急いで提督が山城に駆け寄る。
「少し深そうだな…、待ってろ、すぐに止血するから」
安心させようと、顔を覗き込む。山城は、笑うとも泣くともつかぬ顔で、瞳だけを油のようにぎらつかせていた。
「私は、本当に…」
ねっとりとした口調で言いながらも、山城は提督から視線を外そうとしない。
「大丈夫か、傷が痛むのか?」
提督の問いに、山城はゆっくりと首を振り、
「怪我をしてしまって、私は本当に不幸ですよね」
にっこり、と微笑んで見せた。