ざっくり!コレクション   作:S16

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前作『赤城ブチギレ!鎮守府崩壊の危機』の続きとなっているので、そちらも合わせてお楽しみ頂けたら幸いです。


赤城食堂へようこそ!

 「この頃龍驤は調子がいいよな」

 鎮守府の会議室で、提督と龍驤、長門が作戦会議を行っている。最近では何かしらこの3人で話をするのがすっかり定着してしまっていた。

 

 「この頃っていう言い方は止めて欲しいけどな。普段は調子悪いみたいな言い方されたら気分悪いわ」

 提督にどうだとばかり言い返すと、龍驤は調子の悪い胸を張って見せた。

 「調子がいいのは良いことだが、慢心はよくないぞ。どんなに錬度の高い艦娘でも、一瞬の油断が命取りになるのだからな」

 長門が龍驤に言う。

 

 「何事も謙虚さというのは必要なんだ、例えばその胸の…」

 長門が何か余計な事を言いかけたところで、部屋にノックの音が響いた。

 

 

 「失礼します」

 加賀は部屋に入ると、提督の方へと近づいていく。

 「赤城さんが、定食屋の店長になったみたいです」

 入るなり珍妙な事を言うので、3人は思わず顔を見合わせてしまう。

 

 「え?加賀、何?」

 提督が聞き返す。

 「赤城さんが店長になったので、みんなの食欲を満たしてあげたいと言っているんです。すみませんが、来てもらえないでしょうか」

 唐突すぎる誘いに、ただただ動揺してしまう。

 

 「赤城は料理というより、食事というイメージしか無いのだが…」

 長門が正直な感想を口にする。

 「自分の食欲を満たすのも相手の食欲を満たすのも、要は一緒だと赤城さんは言うの」

 「ん?どういう意味なん?」

 今度は龍驤が加賀に質問する。

 「とにかく、来てもらえないかしら。早く来てもらえないと、腕も味も、食堂も錆びると赤城さんは言っているから」

 「そんなサイレントヒルみたいな展開は嫌やな…」

3人は渋々といった形で腰を上げると、加賀の後についていった。

 

 

 「いらっしゃいませ!」

 店に入ると、明るくはきはきとした声で赤城が近づいてくる。普段の弓道着と違い、ウェイトレス姿をしているのが何とも新鮮な感じである。

 

 「4名様でしょうか。おタバコはお吸いになられますか?」

 「いや…、禁煙席で…」

 「こちらの奥のお席へどうぞ!」

 赤城は案内を済ませると、厨房の奥へと戻ってしまった。

 「意外にもちゃんとやっているようやな…」

 言われるがまま、4人はテーブルに座る。

 

 「こちらがメニューになります」

 赤城がそれぞれにメニューを渡すと、水の入ったコップをテーブルに手際よく並べていく。

 「とりあえず、何か頼もうか…」

 言いながらメニューを広げるが、項目を見るなり全員の動きが止まってしまう。メニューにはただ一言、『赤城スペシャル』とだけ書かれていたからだ。

 

 「赤城、これは一体…?」

 提督が尋ねると、待ってましたと言わんばかりに赤城が答える。

 「そちらは当店のおすすめメニュー、何が届くか分からない、特別料理になります!」

 とりあえず、赤城がしょうも無い事を思い付きでやっている事だけは分かった。

 

 

 「例えばカレーを注文して、ラーメンが運ばれてきたら誰だって文句を言いますよね。でも、赤城スペシャルを頼んでスパゲティが運ばれてきても、文句を言う人は誰もいないんですよ。ああ、スペシャルってそういう事なんだなって。むしろ運ばれてくる間の、何が届くか分からないドキドキとワクワク感が美味しさのスパイスになるんです」

 拳を握りしめて、赤城が力説する。

 

 「食事っていうのは予想がついた時点である意味負けなんですね。寿司屋に行ったのにハンバーグが注文出来たらビックリするでしょう。あれ?これはあるか…」

 言うと、少し恥ずかしそうに俯いた。

 「とにかく、何が届くかは頼んでみるまで分からない。でも食べたら何でも美味しい。それが赤城スペシャルなんです!」

 そこまで言うと、赤城はどうだと言わんばかりに胸を張って見せた。

 

 「ちょっと面白そうやな」

 早くも龍驤が乗せられてしまったようだ。

 「確かに、何が届くか分からないというのは斬新な発想かもしれないな」

 長門もそれに同調する。

 

 「まあ、何が届くかは私にも分からないんですけどね」

 せっかく話がまとまりかけた時、赤城が台無しになるような事を口にした。

 「え?」

 思わず4人は赤城の顔を見る。

 

 「まだ何を作るとか考えてないですし、材料もそんなに冷蔵庫の中に入ってません。それだけはさっき見て来たから確かなんですけど」

 「………」

 「料理もそんなに得意な方ではないです」

 「………」

 「とりあえず注文を聞いてもいいですか?」

 赤城の強引な進行に、4人は顔を見合わせてしまう。

 

 「注文も何も、メニューには赤城スペシャルしかないんやけど…」

 「はい、かしこまりました!ご注文の方、繰り返させて頂きます。全員赤城スペシャルですね!?」

 有無を言わさぬ赤城スマイルに圧倒されてしまい、4人はただただ頷くばかりであった。

 

 

 店に入って30分以上経つが、一向に料理が運ばれてくる様子が無い。

 「遅いな…」

 4人の意見を代表するように、龍驤が呟いた。

 

 「見たところ料理も一人でやっているようだし、その分時間がかかっているのではないか?」

 長門が赤城を気遣うような事を言う。

 「そんなにお腹が空いているわけでもないけど、いくらなんでも待たせすぎだな。龍驤、悪いけど様子を見てきてくれるか?」

 「ちゃんとできてんのか心配やな…」

 提督に言われ、龍驤は厨房へと向かった。

 

 

 「何してんのや赤城!ちょっと!提督!みんな!早く来て!」

 しばらくすると厨房の方から、龍驤の叫び声が聞こえてきた。

 「何だ!?どうかしたか!」

 全員が急いで厨房に駆けつけると、そこにはエプロンを身に着けた赤城が、テーブルに座って定食を食べている姿があった。

 

 

 「え?どういう事なん?何で赤城が飯食ってんの?」

 龍驤が咎めるような口調で言う。赤城は不思議そうな顔で龍驤を見ると、皿に盛りつけてある豚カツを口の中に入れた。

 「食うたらアカンって言うてんねん!」

 ツッコみを受けると、赤城はやれやれといった風にナプキンで口を拭い、龍驤に向き直った。

 

 「定食屋に入って、さあご飯を食べようって時に空腹でフラフラな店員が出てきたら一体どう思いますか?」

 赤城が全員を諭すように言う。

 

 「食事っていうのは自分だけ満腹になっても、心は満たされていないんです。料理を提供する側がいて、初めて食事というものが成り立つわけですから」

 真面目な顔をしているが、言っている意味が分からない。

 

 「お腹が空いている人が他人を満腹にしようなんておかしな話です。私が満腹になって初めてあなた達を、本当の意味でお腹いっぱいにすることが出来るんです。みんなで満腹になりましょう。言うなれば、今私が食べているのは全てあなた達のためです。逆に言うと、あなた達が私に食事を強いているんですよ、今」

 ここまで言わないと分からないですかね、と言わんばかりに鼻を鳴らすと、赤城は再び定食に手を付け始めた。

 

 「すみませんけど、まだ準備に時間がかかるので席に戻って貰えますか」

 赤城は定食から目を離さないまま言う。4人はあまりの理不尽さに、言葉を失ってしまった。

 

 

 「お待たせしました。赤城スペシャルになります」

 テーブルに戻って無言のまま待っていると、赤城が厨房から姿を現した。提督にはお茶碗に半分入ったご飯、長門には食いかけの豚カツ、龍驤にはキャベツの千切り、加賀には味噌汁が入っているのであろうお椀が並べられていく。

 

 「それではごゆっくりお楽しみください」

 「ちょっと待って!」

 そのまま戻ろうとする赤城を龍驤が呼び止める。

 

 「明らかにこれ、一人分の定食を4人に分けただけやん。しかもこんなに食い散らかされた状態で」

 龍驤の抗議を聞きながら、加賀はとりあえずお椀の蓋を開けてみる。中に何も入ってないのが分かると、思わず吹き出してしまった。

 

 「散々人を待たせといて、自分の食べ残しを食わそうとして、しかもそれがスペシャルですって、言ってることメチャクチャやで」

 「お待たせしてしまい、大変申し訳ございません」

 赤城が深々と頭を下げる。

 

 「こんなもん全然スペシャルちゃうやろ!」

 龍驤が言うと、赤城は眉をひそめる。

 「加賀さん。ごめん、ちょっと…」

 唐突に赤城に呼ばれ、加賀が戸惑いながらもテーブルから離れる。赤城が加賀に耳打ちしているのを見て、龍驤はまたこのパターンやと言いたげにため息をついた。

 

 「何が悪いのか全く分からないって赤城さんは言っています」

 「………」

 何が悪いというか、逆に何が良いと思ったんだろう。3人の心は一つになった。赤城はさらに耳打ちを続ける。

 

 「悪いけど商売の邪魔だから4人には帰って欲しいって…えっ!私もなの!?」

 驚いて加賀は赤城を振り向くが、赤城は神妙な顔つきのまま目線を合わせようとはしなかった。

 

 

 「赤城、ありがとう」

 突然の提督の言葉に、全員が驚いたように振り返る。

 「やり方は不器用だが、赤城なりに俺たちを喜ばせてくれようとしているのは分かるよ。前回の事で負い目を感じているんなら、気にしなくていい」

 提督の言葉に、長門はハッとしたような顔をみせた。

 

 「何か変だと思っていたら、そんな事だったのか」

 言いながら、長門は豚カツを一切れ口に入れる。

 「うん、美味しい。料理が苦手な割には、頑張って作ってくれたんだな」

 長門が赤城に笑顔を向ける。

 

 「みんな本当にお人よしやで。まあ、赤城が料理を作るって所で、ある程度予想はできてはいたんやけどな」

 龍驤は頭を掻きながら言う。

 

 「そういえば、赤城さんが誰かのために料理を作るなんて言い出したのは、私の知る限りではこれが初めてだったわね」

 加賀が赤城と向き合う。

 

 「実際に料理を食べられなかったのは少し残念ではあるのだけれど、気持ちは伝わったわ。あなたの言葉を借りるなら、確かに心は満たされた」

 加賀は赤城と目を合わせると、

 「ありがとう」

 にっこりと微笑んだ。

 

 

 「ごめんなさい皆さん。私、みんなのためにできる事と言えば、こんな事しか思いつかなくって…。結局我慢できなくて、ほとんど食べてしまったんですけど…」

 やっている事は本当にメチャクチャだが、食いしん坊の赤城の事を考えると、不思議と微笑ましく思える。

 「料理なんてする必要なかったんですね!」

 今のは絶対に言って欲しくなかった。

 

 「えへへ!私、安心したら、何だかお腹が減ってきちゃいました!」

 一体何を言い出すんだろう。そもそも、ついさっきまで食べていたではないか。全員の顔色が曇る。

 

 「すみません」

 赤城が提督に言う。

 「チョコレートパフェ下さい!」

 「お前が注文するんかい!」

 

 龍驤の渾身のツッコミは鎮守府中に響き渡り、浜風がちょっとビクッてなった。

 

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