Steins;Gate 観測者の仮想世界   作:アズマオウ

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さて、これからがひとまずの山、いや、山への道の最初となっていきます。
お気に入りが減少してきてへこみそうですが、頑張ります。
まあ、山場そのⅠが始まりますのでどうか待っていてください。ゆうてしばらくは原作沿いですがw

それでは投下します。あと今回ためしに、なんとなく文章をシュタゲっぽい感じにしてみました。わずかですが。


因縁のホワイトシャドー

 月日は流れ、2014年10月になった。

 2月辺りから、異常現象などが起こり続け、俺の脳を覗いたなどという戯れ言を抜かす変な声も聞こえてくるようになった。熱に似た倦怠感や激しい痛みも現れ、疲れてくるようになった。

 だが、神が救ってくれたのか、今では普通に生活できる。それらの現象は3月になると嘘のように消え失せ、何も起こらなくなっていた。

 いつしか俺は、今までの出来事が偶然なんだと思い始めた。きっとあれは錯覚なんだと。何でもなかったんだと。紅莉栖たちの意見だってきっと考えすぎなんだと。

 俺は思っていた。

 

 でも、それは後に取り返しのつかないことへと繋がっていた。その間に悪魔が牙を磨いでいたことなど、思いもしなかった……。

 

 

 

***

 

 

「ん……んぅ……」

 

 朝日が昇り、窓から淡い光が差していく。心地いいまどろみが俺を閉じ込めていて、なかなか布団から脱出できずにいる。時刻は目をつむっていても表示されているので起きなければいけないというのは分かっている。でも、起きられない。

 半年以上前あたりから起こっていた異常な現象に妨げられた安らぎの時を取り戻せたことにいまだに安堵しているのか、それとも単に、人間の三大欲求に全力で従っているに過ぎないのか。

 と、その時だった。

 

「ハーイオカリーン~~!! おはよう!!」

 

 ガバッと音がした。同時に、俺を包む天国の布が消え去っていき、ヒヤッとした寒さが俺を新たに覆っていく。仕方がなく、俺は目を開けた。開く視界には、誰かがいた。

 俺はゆっくりと体を起こして誰がいるか確認した。そこにいるのは、まゆりだった。満面の笑みを浮かべながら布団を握っている。こいつがすべての元凶か……。

 

「ん……あぁ、おはよう……」

 

 俺は眠気眼でまゆりを見る。はっきりと見えないが、ずいぶんと元気そうだ。俺は毎回疑問に思う。なぜこいつは早く起きても眠そうにしていないんだ? 中学校の時にあいつは朝練があったのだが、眠そうな顔をしたことは一度もなかった。

 とりあえず起きることにしてベッドからはいずり出て下に降りていく。まゆりも俺の後ろについてくる。どうやら俺が最後だったらしい。ラボの長として自覚が足りないなとひとり苦笑しながら朝飯の場所へと向かうことにした。今日はどこかのカフェで外食することになっていると、まゆりから聞いた。

 下に降りると、俺とまゆり以外のラボメンがすでにそろっていて、それぞれ挨拶を交わして外へと出る。

 目的地のカフェは徒歩5分の距離で、何回か来たことはある。オープンな印象があって、窓は空いている。コーヒーのにおいが漂い、香ばしいパンの香りが鼻を刺激する。とは言うけれど、味はまあまあというレベルにとどまるもので、実用性だけが取り柄な店。俺はそう評価している。

 いつもの馴染んでいる端っこの大テーブルに陣取り、NPCウェイトレスにそれぞれ好みのセットを頼む。種類は10くらいあり、オーソドックスなサンドイッチセットや卵サンドとかはもちろん、お好み焼きサンドとか、マヨネーズサンドなど、人を選びそうな特殊なものまである。俺はなじみのある卵セットにした。

 ウェイトレスがかしこまりましたと静かに去っていくと、皆が談笑に浸り始めた。その中でダルが手に持っている新聞を開いて読み始めた(新聞とはいっても現実でいうPDFファイルみたいなもの)。隣に座る俺はダルに尋ねる。

 

「何か目新しい情報はないか?」

「ん? ああ、まあそんなにいいものはないお。せいぜい攻略情報が載っているとか、某有名な殺人ギルドの元メンバーが捕まったとかその程度の奴だけど既存の情報だから価値ないすわ。つか、閃光の虹エロ画像ないとか泣けてくるんですが」

 

 彼女持ちがそんなこと言うなよ。

 こいつのHENTAI思考には辟易させられる。まったくぶれないところだけはすごいとは思うけれどいい加減何股もかけるのは止めた方がいいと思う。

 

「二次元じゃあるまいし何を言っているんだお前は。彼女持ちだろうが」

「それはそれ。これはこれ。僕はフリーダムなんでね」

「由紀さんが泣いてるぞ……。ところでお前は今日出掛けるのか?」

「僕はまあこれから情報屋と約束あるけど、オカリン今日はどっかでかけるん?」

「ああ、今日は50層あたりで物色でもしようと思ってる。お前も誘おうとしたのだがな」

「ああ、《アルゲード》か。迷うなよ? 僕は迷子はお断りなのだぜ、美少女は別だけど」

 

 ダルは若干心配するように言った。

 アインクラッドの中間地点である第50層の主街区《アルゲード》は迷路のような街、いや、雑踏だ。正確に道を把握している人物はろくにいないだろう。俺も初めて来たときは迷子になったものだ。

 

「フン、この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が道に迷うなどあるはずないだろ。灰色の脳細胞を持つこの俺ならば、アルゲードの街など容易に移動できる」

「ハイハイ、マッドマッド」

 

 ダルに適当に流されて俺は食事に向きなおる。すると、目の前には静かにパンをかじっている指圧師がいた。ずいぶんと眠そうだった。頭は不安定に上下に揺れている。

 

「指圧師よ、ずいぶんと眠そうではないか?」

「……昨日寝るの遅かったから」

「どうしてだ?」

 

 指圧師はなおも眠そうに目を細めながらも、か細い声を絞り出すように答えた。

 

「武器、作ってたの。岡部君の……」

「お、俺のか?」

 

 間抜けな声が思わず出てしまった。指圧師はこくっとゆっくりうなずく。

 

「きっと……似合う、はず……。もうすぐ、完成……するから……」

「あんまり急がなくていいからな。疲れたならちゃんと休めよ」

 

 わかったと、小さい声で答えながらトーストを再びかじった。

 武器か……。

 俺は新たにできる武器について考えた。今使っている片手剣も悪くはないが、そろそろ更新したいとも考えていた。ありがたい話だ。近いうちに第74層の攻略会議も行われるため、グッドタイミングだろう。

 

 

 現在は2014年10月下旬。最前線は第74層。残る層は、26層。

 ゲーム開始から実に約2年が経とうとしていた。

 2年という歳月が与えた現状は、人々はデスゲームに対する恐怖心が薄れていき、それがいつしか普通になってきた、という事実だった。殺人ギルドだの、卑劣な殺人方法などはあったけれど、それらに対する記憶も薄れていった。情報が出回り、攻略も順調に進んでいるからであろう。人々はいつかは出られるという希望を捨てることなく、今日も安心して生きていける。だから、俺たちは普通にいられるのだ。

 けれど、この一か月は俺を、ラボメンを、SAOというゲームの運命を大きく動かすことになることを、知る由は一切なかった。

 そんな未来を予測できない人類の一人である俺は、卵サンドをかじった。

 

 

 

 

***

 

 

 朝食をとったあと、俺たちはそれぞれ別れた。ダルはアルゴとの約束があるとのことで最前線へと飛び、指圧師は武器製作のために自分専用の鍛冶屋へと籠り、フェイリスはメイクイーンに向かい、ルカ子はフィールドにてレベルあげ、紅莉栖は知り合いの女性プレイヤーと遊びにいくらしい。

 俺はダルに言った通り、50層にて物色している訳なのだがーーー。

 

「わぁー……すっごく混んでるね、オカリン」

 

 隣にまゆりがいた。

 

「……何故お前がここにいるんだ?」

「んー? だって今日はオカリンと出掛けたかったからー」

「とはいってもコスのグッズとかはここにはないぞ?」

 

 俺がふざけてそういうと、まゆりは嘘と云わんばかりに驚愕した。

 

「ええっ、そうなのオカリン!? そうだったら早く言ってよ……」

 

 ……あるわけないから言う必要がないと思ったのだ。

 そんな考えを持っているのはお前だけだ。

 が、一方でまゆりらしいとも思った。この極限状態であるはずのSAOの中でもまゆりは自我を揺るがすことはない。ここにはコスプレグッズなどがないのにも関わらず、コスプレについて聞いてくる。恐らくまゆりの心は、未だに遥か彼方に置き去りにしてきた現実世界にあるのだ。逆に言えば、俺たちはこの世界にすっかり馴染んできてしまった、といえる。

 

「じゃあオカリンは何しに来たの?」

 

 まゆりが尋ねる。俺はにやっと微笑み、大袈裟に叫ぶように答えた。いわゆる、鳳凰院凶真モードだ。

 

「まゆりよ、いい質問だ。アイザックニュートンと同等のIQを持つこの鳳凰院凶真がこの地に、アルゲードに降り立ったのはすなわち―――闇に隠されし秘宝(シークレット・トレジャー)を追い求めるためである! これは、世界を混沌へと導くために必要な行為なのだ」

「要するに、骨董品なんだね~」

 

 ……空気を読めこのお花畑女。

 俺は溜め息をつき、まゆりを見た。まゆりはえへへと無邪気に笑う。だから俺も文句を言う気にはなれなかった。

 こいつの笑顔には力があると本気で思っている。俺の《リーディング・シュタイナー》やフェイリスの《チェシャ猫の微笑(チェシャー・ブレイク)》のように、まゆりにも何かあるのではないかと思っている。証拠にも、あんなに非論理的な存在を嫌い、相手にしなかった紅莉栖が、まさに非論理の塊であるまゆりとかけがえのない友人関係になれたという実例がある。だから、彼女の笑顔には人を笑顔にさせ、邪心を追い払う性質があるのではないかと俺は思ったのだ。

 

「とにかくだ、俺は秘宝を探しに出掛けるが、俺の側にいろよ。何故ならお前は俺の人質だからな」

 

 そして、この街は馬鹿みたいに入り組んでいるからな。俺はその一言を暗に付け加えた。

 アルケードという街は、迷路のように幾つにも道が別れている。この街に来た人の殆どが迷子になった経験があり、煮え湯を飲まされたであろう。俺もその一人だ。

 まゆりはここに来たのが始めてだ。だから絶対迷ってしまう。俺は彼女の手を繋いだ。

 

「うん、わかったー」

「よし、ではいくぞ」

 

 俺はそういって歩き始めた。

 現在俺たちがいるところは転移門前の広場だ。そこから少し歩くと露店通りになる。ここでたまにお宝が眠っている場合がある。けれど見たところそんなにいいものが揃っているわけではなかったので何も買わずにその場を過ぎていった。まゆり曰く、コミマの午後みたいだね、だそうだ(人気グッズや人気作家、人気カップリングキャラの同人誌が売り切れている状態の中でお宝を探す状態らしい)。

 さらにそこから数分歩くと、小さな店がちらほらと構えてある商店街に着く。俺はとある店を目当てにここに来た。俺はまっすぐ足を向け、ドアノブを捻った。

 

「よぉ、いらっしゃい」

 

 軽快なベルの音と共に店主のバリトンボイスが飛んでくる。その度に俺は何故か戦慄してしまう。声と体格が似ているからだ、現実世界の未来ガジェット研究所のオーナーに。

 

「あれ、てんちょーさん? でも、なんか黒いよ? それにブラウン管は?」

「不思議なお客さんだな。確かに俺は店長だが、ブラウン管なんていう古臭いものには興味ねえな」

 

 ミスターブラウンが聞いたら殺されるか、いや、逆に返り討ちか? それとも凄まじいリアルファイトが起こるのか……? この場にミスターブラウンがいないのが残念だ。

 まゆりのフォローに回るため、俺はこの店長に説明した。

 

「ああ、こいつは俺の幼馴染みで、初めてこの街に来たんです、エギルさん。現実にあなたに似たブラウン管好きのオタクがいてそう言ってしまったんです」

 

 俺の必死の説明に、店長・エギルは大胆に笑った。器のでかさは絶対にエギルの方が上だ。

 

「で、あのミスターブラウンに似た人がエギルだ。以前攻略組として俺は一緒に戦ったんだ」

「へぇ~~そうなんだー! 強そうだねぇ」

「ありがとな。名前は何て言うんだ?」

「まゆしぃです」

「ま、まゆしぃ……だと? 変わった名前だな」

 

 エギルは若干驚いている。分からない気もしなくはない。まゆしぃなどという痛々しい名前は普通では聞かないからだ。俺は幼馴染みとしてすっかり慣れてきてしまったけれど、最初の方は恥ずかしくて、辞めさせようとしたがどうも上手くいかず諦めた次第だ。

 俺はごほんと咳き込んでウィンドウを呼び出す。エギルも俺へと視線を移し、目の色を変えた。あれは商売をする気の目だ。俺はウィンドウを繰りながら次々にアイテムをポップアップしていく。カエルの肉、布切れ、皮等が山積みにされていく様を、まゆりがほけーと見ている間に俺は予想金額を叩き出した。これらのアイテムは入手はできるが、そこまで落ちぶれた品ではないはず。だからせいぜい5000コル程度は稼げる。そう予想した。

 

「では、エギルよ。買い取りを頼む」

「攻略組で一度戦ったんだ、しっかり見てやるよ」

 

 エギルからの頼もしい言葉を聞いた俺は、少しはなれたところでまゆりと待つことにした。まゆりは俺の方を向いて口を開く。

 

「ねえねえオカリン。エギルさんとどうやって知り合ったの?」

「最初の第1層攻略の時だ。俺たちはあぶれ組だったけれどきちんと面倒を見てくれたんだ。そのお陰で俺たちは助かったわけだ。最も、本業は戦闘じゃなくて商売なのだがな」

「へぇ~~。いい人なんだね」

「少なくとも、ミスターブラウンよりはな」

 

 俺は苦笑しながら答えた。すると、エギルはふうと溜め息を吐いて、俺をカウンターに呼んだ。

 

「おう、終わったぜ」

「それで買い取り価格は……?」

 

 5000と俺は予想しているが、果たしてどうなるだろう。もしたくさん稼げたらあれの足しにでも―――。

 

「500コルだ」

「…………は?」

「 聞こえなかったみてえだな。500コルだ」

「いやいやいや」

 

 500コル……5000じゃなくて、500?

 いくらなんでもおかしいだろ。殆どが結構な額するやつなんだぞ……?

 

「いくらなんでも安すぎるでしょう? 第一この“剣士の布切れ”なんて相場一枚400コルなのに4枚あって500オーバーしてないってどういう―――」

 

 ここで俺の口は動きを止めた。何故なら凄みのある目で見られた、いや、睨まれたからだ。

 殺されると感じた俺は後退り、まゆりを促して店を出ようとした。

 

「また頼むぜ、キョウマ」

 

 もう二度と来るものか。

 恨みのこもった目線で獰猛に笑う店主を睨み、外へと出た。

 

 

 

***

 

 

「……やはり納得がいかんぞ!!」

 

 俺は店の外にて叫んだ。そのせいで周りのプレイヤーたちが一斉にこちらを振り返る。

 

「何が納得いかないの?」

 

 まゆりは手元にあるから揚げ―――に似た何か―――を食べながら尋ねる。

 

「さっきの店の買い取り金額だ。はっきり言うが、あれはミスターブラウンよりもケチだ。ずっと器が小さいぞ!!」

「そーなんだ。でも、オカリンが欲張りすぎなんじゃないかな?」

「これでも譲歩したほうだ」

 

 事実である。せめて1000はほしいところなのに。

 俺は先ほどのエギルとのやり取りにまったく納得がいっていなかった。まゆりと今広場にて軽い昼食をとっているが、俺は食べていない。買わなくてはならないものがあるから、節約しなくてはならないのだ。その目標金額に近づけようと先ほどエギルの店にていらないアイテムを売却したのだが、500ではまるで足しにならない。

 

「ねえねえオカリン、少し食べる?」

 

 まゆりは、小さな爪楊枝を差し出した。俺はかぶりを振っていらないと伝える。

 

「えー? でもおなかすいちゃうよ?」

「ラボにおやつはいくらでもある。それで我慢すればいい話だ。節約して、アイテムを買わねばならないからな」

 

 そういうと、まゆりは引き下がった。何かを察したような顔をして。

 

「それってクリスちゃんへのプレゼント?」

「何故分かったのだ……」

 

 完全に見破られた。本当に何度も思うが、妙なところでこいつは鋭いんだよな。

 まゆりはなおも笑顔を崩さずに答えた。

 

「まゆしぃはオカリンの人質だから、何でも分かるのです」

 

 まゆりはそういうと、唐揚げを口に入れた。人質といっても俺の考えた下らない設定だが、逆に俺がまゆりの人質なのではと思う。それほどまゆりは俺のことを熟知している。俺がまゆりのことを知っている以上に。

 俺は鼻で小さく笑い、まゆりの唐揚げが無事に喉を通ったタイミングを狙って言った。

 

「悪いが、もう一度戻るぞ。交渉再開だ」

「うーん、でもまゆしぃ的には難しいと思うけどなー」

「不可能を可能にするのが、狂気のマッドサイエンティストだ。俺にできないことなど、あるわけがないだろう」

 

 自信ありげに俺は言ったが、本当は自信のかけらもない。だが、それでも行かねばならない。

 俺たちは立ち上がり、先程の店へと戻ろうと歩き始めた。広場から狭い路地へと入ろうとしたその時だった。

 

「わわっ!?」

 

 まゆりが悲鳴をあげた。ドンと鈍い音が聞こえ、俺は振り向く。すると、まゆりが地面に倒れていた。

 

「おい、どうしたまゆりっ!?」

 

 俺はまゆりのもとへと近寄り、体を支える。まゆりは少し痛そうに俺を見て苦笑いする。

 恐らくまゆりは倒されたのだろう。俺は直感的に判断し、他所を向いた。すると、1つの人影が見えた。恐らくそいつが倒したのだろう。しかもすみませんの一言もない。俺は立ち上がり、腕をつかんだ。

 掴まれた人物は俺を見る。目があった。その瞬間、俺はドキッとする。まず顔があまりに細い。無駄な肉は一切取り除かれていて、双眸は冷徹なほどに細い。紅莉栖の普段の冷たい目線とはベクトルが違う怖さを覚えるほどに、細い。今にも睨み殺しそうな、そんな勢いだった。

 服装も変わっていた。白の長い裾のロングコートに灰色の長ズボン、さらに腰には装飾が派手な両手剣が帯びられている。これはまさか、血盟騎士団のメンバーか? しかし、あんなに薄気味悪い男なんて攻略のときに見たことはないのだが……。

 射抜かれそうな視線をどうにか受け止めながら俺は威圧するように声をかけた。

 

「そこの貴様、いたいけな少女にぶつかっておいて謝罪も何もないとはどういうつもりだ?」

 

 まあいくら怖い男でもぶつかったら謝るくらいの常識は持ち合わせているはずだ。証拠に紅莉栖がいる。そう思っていたのだが。

 

「ああ? うるっせえよ」

 

 予想外の反応が来た。

 悪いのはお前の方だろ。俺は反射的に言い返していた。

 

「何を苛立っているかは知らないが、まずは謝罪してもらおうか」

「だからなんでお前に謝罪しなきゃいけねえんだよ」

「誰も俺に謝罪しろとはいってない。そこでお前が倒した女に謝れと言っているのだ」

「はぁ!? ぶつかっておいて何で俺が謝るんだよ? 大体栄光ある血盟騎士団が通ったら、道を譲るのが常識だろうが」

 

 そんな常識があるのかよ。

 俺は頭が痛くなってきた。少なくともお前のような不幸面か人気者の閃光アスナに限る話だ。さっさと離れておくべきだった。

 

「下らん常識よりも世間一般に通ずる常識を身に付けるべきだな。自称栄光ある血盟騎士団員よ」

「何だと……? どうでもいい雑魚がふざけたこと抜かすな!! お前らは俺たちのような攻略ギルドのお陰で安全が保証されてんだよ!! だったら俺たちに敬意を示すのが普通だろ!!」

「少なくともお前のような奴に敬意を示したくはないな。第一この少女は攻略組ではないけれど俺は攻略組だ。その気になればお前たちのギルドの長にお前の不手際を告発することだって出来る。今のうちに止めておくんだな」

「ヤれるもんならヤってみろよ!! このバカが!!」

 

 やむを得ないと俺が思い、まゆりを引き連れて行こうとしたその時だった。

 

「止めろクラディール!!」

 

 路地の奥から一人の男が叫んだ。服装は絡んできた男と同じ血盟騎士団の制服をしている。一瞬だが、絡んだ男が舌打ちしたのが聞こえる。

 

「何だよ?」

 

 クラディールと呼ばれた男は、駆け寄った男に威圧するように睨み付けた。しかしまるで動じていない。俺は素直に凄いと思った。

 

「何だよじゃない。一般プレイヤーに絡むのは止めろ。団長に告発するぞクラディール」

「……チッ。分かったよ」

 

 クラディールは再び舌打ちをする。今度はわざとらしく大きくかます。そして俺をジロッと睨んで広場へと消えていった。

 俺はひとつ溜め息をつき、地べたにいるまゆりに手を伸ばした。

 

「大丈夫か?」

 

 俺が声をかけるとまゆりはにっこり笑ってうんと答える。俺の手を握り立ち上がったまゆりはえへへと微笑み、やがて手を離した。

 

「でもさっきの人少し怖かったね……」

 

 ちょっとひきつっていたけれど。

 

「あんな奴のことは気にするな。では行くぞ」

 

 そう言って俺はまゆりを促し、目的地へと向かった。

 最後に睨まれたときのあの憎悪に近い目つきのことを脳裏で思い浮かべながら……。

 

 

 

 




用語解説はありません。

さて、クラディールが登場しました。彼と迎える結末が、のちに少しだけ影響にします。

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