活動報告にも書きましたが留年危機でした。ですが……乗り越えたああああ!!!
助かりました。これで執筆活動ができます。
では、どうぞ!
SAO開始から一ヶ月で、5000人が死んだ。
この事実ははっきり言うが信じられない。つまり5万人のうち、その十分の一の5000人がたった一ヶ月で死んでしまったのだ。単純計算でいけば、10ヶ月で全員が死んでしまうことになる。
主な死因は、自殺である。茅場の宣告を信じずにいた者がありもしない持論を建てて、アインクラッド外周から飛び降り自殺したのである。気持ちはわかる。死ねば切り離されてもしかしたら現実へと戻れると思う気持ちは。実際に死んだやつが生きているかはわからない。でも、少なくともこのゲームを解放する人物が減ってしまったことには変わりはない。
あとはモンスターとの戦闘だ。ポリゴンで作られたモンスターといえども、滲み出る殺意だけは隠せない。そのため恐怖し、為せぬがままに殺される。
こうして5000人もののプレイヤーが退場していったのだった。この世界からのみの退場であったことを祈るだけである。
だが、5000人の死亡者が出てしまった事実は皆の心を曇らせた。何故なら……未だに第一層を突破できていない中死にすぎたからである。このままでは、永遠にゲームクリアできないのではないか。そういった不安と絶望の声が始まりの街を包み込んだ。
この状況を打破する一つの情報が舞い込んだ。
第一層の小さな街、トールバーナにて初めての第一層の攻略会議が行われることである。
***
「はぁーい、ではそろそろ第一層の攻略会議、始めさせてもらおうかな」
第一層の街、トールバーナの広間にて、一人の男が中央にてパンパンと手を叩きながら叫んだ。聴衆ーーーまたは、現時点でのトッププレイヤー、攻略組とも言えるーーーは彼を取り囲むようにして、彼の言葉を聞いている。そのなかには、スキンヘッドのプレイヤーもいて、ある種の恐怖を俺に植え付けたのは内緒の話である。
その中に、俺と紅莉栖とダルがいた。
何故俺たちがここにいるか。別に俺たちはこの世界を救おうなどという英雄じみた志は持ってはいない。ただ、気になっていることが俺にはある。そう、ベータテスターとそれ以外との確執だ。
ベータテスターは、初めからこのゲームに関する知識を予め持っている。そのアドバンテージを活かしてスタートダッシュをかましたものが少なくなく、なんの情報も持っていないプレイヤーを置き去りにしていってしまった。それによってプレイヤーの差が激しくなったり、情報不足で死んでしまったものだっている。
この場には、俺を含めたベータテスターも紛れていると予想できる。つまりーーーベータテスターに対する糾弾が起こる可能性があるのである。
これにより、今後のベータテスターの立場も決められる。この第一層の攻略会議では、ボス攻略の進歩と同時に、ベータテスターの格付けも行われるというのだ。だから、この会議に出席し、ボス戦に挑む意味があるのである。
一応俺と紅莉栖とダルは第一層のボスに挑めるくらいのレベルにはなっている。紅莉栖やダルは情報係ではあるが、強くなくては情報を集められないことから、彼らも戦闘職に就いている。レベルは当然俺の方が上だが、十分なものだ。
「俺の名前はディアベル、職業は……気持ち的にナイトやってます!」
中央で檄を飛ばしている人物、ディアベルは明るい声で自己紹介をした。それを聞いていた聴衆は朗らかな笑い声をあげる。この攻略会議を開いたのも、このディアベルという男だった。
彼の容姿は一言で言うならばイケメンだ。流れるようなウェーブのかかった爽やかな青髪、整った顔、ハキハキとした声は、まさにリーダーと呼ぶにふさわしい人物だ。このような人間は早々いないであろう。
ただ……俺は何故か既視感を覚えていた。この、完璧なリーダーシップを張れるしゃべり方、青色の髪、ディアベルという名前に。そうだ、かつてどこかで……。
記憶の発掘に耽っていると、ダルと紅莉栖の嫌味ったらしい声が聞こえた。
「同じリーダーでもディアベル氏の方が滑らないギャグを言ってない件について」
「同感ね。どっかの痛々しい中二病のリーダーさんとは、天と地ほどに違うわね」
そこのピザオタと天才HENTAI少女が何か言っている。俺は反射的に言い返していた。
「黙れお前たち! あんなやつ、俺の右腕の力があれば……」
「はいはい中二乙」
「どっかのリーダー()がなんかいってるわね」
うるさいと一喝した俺は周囲の痛々しい視線を貰い、首を縮める。ディアベルは俺の方をちらりと見て、声のトーンを落として新たなる情報を言った。雰囲気が変わったのを聴衆は察し、真剣な表情へとなる。
「昨日、俺たちのパーティーがボス部屋を見つけた」
ディアベルの報告におおっとどよめきが起こる。今までボス部屋まで攻略したものがいなかった。1ヶ月かけて漸くマッピングが終了という事実に落胆しながらも、デスゲーム解放に向けての第一歩を踏み込んだことを認識する。
「俺たちはこの第一層のボスを倒し、第二層に到達して、始まりの街で待っている皆に伝えなくちゃならない! それが俺たちトッププレイヤーの義務だ。そうだろ、みんな!」
ディアベルの演説に耳を傾けた聴衆は、それに対し惜しみ無い拍手を送る。中には口笛を吹き出すものまで現れた。彼のカリスマ性の高さが窺える一瞬だった。俺も認めざるを得ない。紅莉栖やダルも拍手を送っている以上、俺より上の人間だと認めなくてはならないだろう。
敗北を喫した俺は若干恨みの籠った目線を送りつけ、ディアベルを見る。聴衆をなだめた彼は、両手を広げて叫んだ。
「ボスに挑むにはまず6人パーティー×8のレイドを組まなくてはならない。ということでまずは6人パーティを組んでくれ」
ディアベルの指示が入ると、早速パーティー決めが始まった。俺は早速紅莉栖たちのもとへと向かい、彼らにパーティー申請をした。パーティーの組み方はすでに教えてある。すると、紅莉栖こと《Chris》、ダルこと《DaSH》がパーティーメンバーリストに浮かび上がった。他にもメンバーは必要だが、生憎近くにはもうパーティーを組み終えたプレイヤーしかいない。まあそれはそれで、ラボメンのみのパーティーでも良いのだが。
「栗御飯ではないのか、クリスティーナよ」
俺はからかうようにいった。紅莉栖は厳しく冷たい視線で俺を照射する。
「あのコテハンを使うわけがないだろ」
「なるほど、確かに@ちゃんねらーだとばれてしまいかねないからな。仕方がないな」
「うるさい」
紅莉栖は俺につかみかかってくる勢いで凄んできたので、俺はこれ以上言うのをやめた。
ダルのアバター名もかなり不可解なものがある。俺はダルに尋ねた。
「ダルよ。なんだこのDaSHというのは?」
ダルは、一瞬戸惑った顔をしながらも、俺の質問内容と意図を理解し、答えた。
「ああ、ツイぽで使用しているハンドルネームだお」
「なんか意味でもあるのか?」
「いや特にねぇよ。ただネトゲでリアルネームは不味いからっつーのがある。牧瀬氏も栗御飯にすればよかったと思われ」
「うっさい、橋田のHENTAI!」
「あの……良ければ俺たちと組んでくれませんか?」
俺たちが口論していると、一人の少年の声が聞こえた。俺たちはぴたと話すのをやめ、そちらを振り向く。
そこには、予想通り、少年の姿があった。そのとなりには、フードを被った人間もいた。
少年の方の容姿は、ずいぶんと整っていて、女顔と一言で言える。肉はあまりなく、若干細めなところもまさに女らしさを出している。ただ、それを必死に覆い隠そうとしているのか、瞳は若干鋭くなっている。
一方、赤いフードを来ている方の人間は、性別がよくわからない。ただ、全身から放たれる警戒のオーラは凄まじい。まるで、初対面の時の紅莉栖のようだ。女性か男性か分からないのでなおさら話しかけづらい。
「組むって、パーティーをか?」
「はい」
少年の方が受け答えをする。俺は紅莉栖やダルをみて目線で意見を求めた。すると二人とも、別にいいよと首肯で返す。
「構わん。俺たちはあぶれものだからな。仲間になれ」
「助かる」
少年は、俺のパーティ加入申請欄を見つめ、指をそっと突き出してYesを押した。瞬間、二人の名前が新たにパーティーメンバー表示に現れた。名前はーーー。
「《Kirito》に《Asuna》か。どっちがキリトで、どっちがアスナなんだ?」
まあおおよそ予想はついているが、間違えては困るので聞いておく。
「俺がキリト、でこっちのフード被っているのがアスナだ」
少年ーーーキリトの紹介を受けたフードの人間はなおもオーラを変えていない。むしろピクッと僅かに顔を動かしている。やはり見知らぬ男どもと一緒にいるのは嫌なのだろうか。
だが、そんな嫌悪感を押し殺してフード人間はボソッと自己紹介をした。
「……アスナです、よろしく」
声を聞いた瞬間、俺はやはりなと感じた。この人は女性だ。顔を隠したがるのも、わかる気がする。彼女は怯えているのだ。言い寄られたり、変な扱いを受けたり、差別を受けることを。俺は紅莉栖と彼女を重ね合わせてみる。余りに似ているため苦笑し掛けた。
紅莉栖も彼女と自分が似ているという考えに至ったらしくーーー俺とは違うアプローチだとは思うがーーー親近感が湧いたようで、アスナに声をかけていた。
「よろしくねアスナさん。私はクリスよ」
紅莉栖が自己紹介をしたので俺もそれに倣う。
「俺はキョウマだ。正しくは、鳳凰院凶真だがな」
「中二乙」
「うるさい! 大体お前の名前は何て呼べばいいのだ?」
DaSHなぞ、俺たちもわからないが、俺たちはどうにかなる。だが初対面の二人はなんと呼べばいいかわからないだろう。
「ああ、これは¨ダル・ザ・スーパーハッカー¨の略だお」
「だお?」
どうやらアスナは語尾に¨お¨をつけるしゃべり方を知らないらしい。まあ当然だ。@ちゃんねる自体を知らない人間などかなりいる。それは当然驚愕しても可笑しくないだろう。しかもダルは平気でそれを使うから困る。
「名前が長い! ダルでいい! それにねらー言葉を使うんじゃない!」
「ふひひ、さーせん。とりま僕はダル。よろしく」
恐らく彼にいい印象を持つことは、キリトやアスナにはゲームクリアよりも不可能かもしれない。俺はそう思った。
俺たちが下らない会話をしている途中、ディアベルはパンパンと手を叩いて注意を引く。俺たちは途端に口をつぐみ、ディアベルへと向き直った。
「よし、じゃあパーティーを組み終わったな。それじゃあ早速会議をーーー」
「ちょう待ってんかー!」
突然、喧しい声がディアベルの言葉を遮った。皆の視線がその声の主に向けられる。容姿は逆光でよく見えない。体格は中くらいで、髪は剣山のごとく鋭く、逆立っている。背には片手剣が吊らされており、防具は継ぎ接ぎの金属鎧の軽装である。その片手剣は第一層で手に入る強力な武器、《アニールブレード》であることから、攻略する集団としてのステータスは充たしていると言えるだろう。無論俺もそれをいち早く入手している。
闖入した男はディアベルの元へと向かい、聴衆へと顔を向けた。その顔は、誰かに怒りの感情をぶつけたいという、荒々しい感情に溢れていた。それが誰に対してなのかは、大体予想がつく。
「ワイはキバオウってもんや。ボスの攻略前に、言わせて貰いたいことがある。この中に、今まで死んだ5000人に詫びなアカン奴等がおるはずやで!」
キバオウは、殺意に近い目付きをしながら聴衆を見回す。聴衆は若干不安げな顔をしながらも、何か悟っていた。
ディアベルもキバオウの言葉の深い意味を理解したようで、キバオウに問う。
「キバオウさん、貴方の言っている¨奴等¨とはすなわち、元ベータテスターたちのことかな?」
ディアベルが発した¨元ベータテスター¨という言葉にキバオウは深い憎しみを見せるようにそうやと叫ぶ。
「ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まった瞬間、初心者を置いて始まりの街を去ったんや! 旨い狩り場や旨いクエストを自分一人で独占して、どんどん強うなったんや! そのせいで情報不足になった初心者は、死んでいったんや! ベータ上がりどもが情報を独占しなければ、5000人も死なずにすんだんや! 今この場で、ベータ上がりどもは土下座して、アイテムやコル、情報など残らず吐き出して貰わんとーーーパーティーメンバーとして命を預けられんし、預かれん!!」
キバオウの長ったらしい演説を聞いていた聴衆はしんと静まった。その中で、俺は一人葛藤していた。いや、衝動を抑えていたというべきか。
ーーーなんなんだこいつは!? 元ベータテスター=人殺しだと!? 冗談にもほどがある……!!
俺はそう叫びたかった。そして論破し、殴り倒してやりたかった。俺は、ラボメンたちを見捨てなかった。自分一人で勝手にいかなかった。だというのに、こいつはそれを否定するのか?
確かにそういったことをしてしまったプレイヤーだっていたかもしれない。そういうプレイヤーに糾弾するのは分かる。だが、そんなことをしていない人間まで批判の対象にするだと? ふざけるな。たかだかくじで当たった人間をさらしあげるつもりなのか? だとしたらこいつこそ攻略組の害悪だ。こんなことをしてはボス攻略も遅れてしまう。だから俺も何か言わなくてはーーー。
俺が言葉を探している間にも、キバオウの目線は張り巡らされている。俺はキバオウから目をそらし、論を練っていたのだが。
突然隣の席から、紅莉栖が立ち上がった。
「ちょっと良いかしら」
「なんや?」
キバオウは威圧するように紅莉栖を見る。恐らく彼女をベータテスターだと睨んでいるのだろう。だが、紅莉栖はその程度の威圧では怯まないことくらい俺はわかっている。
「貴方はこういいたいのかしら? ベータテスターは人殺しだ。だからその責任として謝罪し、弁償しろってところ?」
紅莉栖の物言いに少しキバオウはたじろぎながらも、そうやと肯定した。その隙を突くように紅莉栖は言葉を畳み掛ける。
「だとしたら、これはなんなのかしら?」
紅莉栖はポケットから何かを取り出した。それは小さな本だった。ガイドブックといっても差し支えないだろう。表紙には、情報と書かれてある。これだけで、紅莉栖の言いたいことがわかった。
「この本はね、第一層で無料で配布されている本なのよ。あなたももらったでしょ?」
「もろたで。それがどうしたんや?」
「これ、ベータテスターが作ったのよ」
「そんな証拠がどこにあるんや! ベータテスターが作った証拠が!!」
喚くキバオウに対し、表情一つ変えず紅莉栖は返す。肝はやはり据わっているのだろう。
「貴方、この本良く見てみなさいよ。裏表紙に小さく書かれているでしょう? ¨この本の情報は、ベータテストの時とは違う場合があります¨って。ということは、この本の情報はベータテストの時の情報、すなわちベータテスターが書いた本ということよ」
「ぐっ……女の癖に生意気やな……そこまでいうっちゅーことは、ジブンはベータテスターってことやろ!?」
紅莉栖の論理展開に、キバオウはなにも言い返せなくなった。その挙げ句には、ありもしない根拠で紅莉栖を罵倒し始めている。ただ、紅莉栖は冷静に受け流し、更なるカウンターを浴びせた。
「どうしてその発想に行き着くのかしら? 貴方の思考回路は短絡的すぎるわ。まだ中二病を患っているバカを相手していた方がましね。ベータテスター取り締まっている俺TUEEE的なこと考えているって、どこの中学生よ」
「ワイは中学生なんかじゃないわい!!」
これはもうだめだ。完全に踊らされている。ここで降参しておいた方が身のためだと俺は助言したいが、それはできないし、したくない。というか、この男を擁護する気にはなれない。
「あらそうごめんなさい。ま、とにかく適当な根拠を持ち出して論をたてるほど愚かなことはないわね。ま、貴方がまともな論理をたててきたらいつでも相手になってあげるわよ。ディアベルさんすみませんね、こんな長ったらしい話しちゃって」
微かに笑った紅莉栖の言葉にディアベルは片頬をあげるだけしか出来なかった。キバオウは絶句し、項垂れてその場を離れた。完全論破された彼にとってかなりのトラウマとなるであろう。紅莉栖はにこやかに笑ってその場に座り、会議を続けてくださいと促した。
その後、ボスの名前が¨イルファング・ザ・コボルトロード¨であること、取り巻きの¨ルインコボルト・センチネル¨が現れること、俺たちのパーティーはセンチネルを倒すこと、が伝えられて会議は終了した。
「ほら、岡部。帰るわよ」
「先にいっててくれ。ちょっと確かめたいことがあるんだ」
「そ、分かったわ。早く来なさいよね」
紅莉栖はそういうと、さっさと帰っていってしまった。俺は背中を見送り、視線を広間へと戻す。
ぞろぞろと他の攻略組のメンバーが帰っていく中、俺は座りながらディアベルの方を見ていた。この既視感は間違いない。この男を俺は昔見たのだ。話すらしたと思う。お前はまさか……。
その視線に気づいたのかーーーディアベルは意味のあるような視線を俺に返したのだった。
確信した俺は視線に導かれるように立ち上がり、ディアベルの元へと、歩み寄った。彼は今、他のパーティーメンバーと話を終えたところだ。ディアベルも俺に気づき、目線を合わせーーーにこやかに言った。
「久しぶりだな、キョウマ!」
「ああ、久しぶりだ。ディアベル」
思い出した。俺に手を差し出して笑っているディアベルは俺の友であり、仲間であり……。
ベータテスター、でもあった。俺と同じ、憎まれものであった。
用語解説です。
・DaSH……¨ダル・ザ・スーパーハッカー¨のイニシャル。ツイぽや@ちゃんねるで使われるコテハンである。
5pb製作のゲーム、¨ロボティクスノーツ¨にてこのハンドルネームが登場した。
・ツイぽ……世界中の友達(=フォロワー)に呟きを送ったりできるSNS。
元ネタはtwitter。
・5000人……web版での1ヶ月間の死亡者人数は、5000人である。ただ、さすがに死にすぎだと作者は思う。文庫版の1万人プレイヤーのうちの2000人の方がしっくり来る。
次回は、第一層の攻略前に色々なキャラの視点にそって書いていきます。
では、感想お気に入りお待ちしております。