咲夜は激怒した。必ずあの盗人紛いの魔女を叩きのめさねばと思った。
彼女の眼前には、笑い転げる魔理沙の姿があった。彼女が爆笑する理由は、少し前まで遡る。
* * *
生い茂る木の葉の隙間から日が漏れ、幻想的な風景を見せる魔法の森。そんな森の小道を歩く美鈴の頭には、子猫もとい咲夜が座っている。
魔理沙宅へきのこを取りに行くため来ているのだが、咲夜自身ここへ来るのは久々なので、少々迷い気味である。
「確かこのあたりの筈なんだけど」
辺りを見回す咲夜。
「お? 美鈴じゃねえか。珍しい」
突如上空から声をかけられ、見上げると、そこには箒に跨った魔女、魔理沙がいた。
「昨日ぶりね。突然だけど、きのこを分けてもらえるかしら」
地上に降りてくる彼女に咲夜が喋りかけると、彼女は驚きながら訳を聞く。そして、一通り説明し終わると、彼女は笑い出したのだ。
「アハハハ! 咲夜が、猫に」
「ちょっと、笑い事じゃないんだけど」
ひたすら笑い続ける彼女に、段々と怒りが溜まる咲夜。しかし、彼女は現在の姿では、何もできない。
「美鈴。悪いけど、私の代わりにあの魔女を黙らせてくれないかしら」
「わかりました! お任せを!」
咲夜が降りると、美鈴は構えをとる。その姿に魔理沙も【ミニ八卦路】を取り出す。
「美鈴と弾幕勝負をするのも久々だな」
「この前のようには行きませんよ?」
風が吹き、森がざわめく。枝を離れた木の葉が舞い、2人の間に落ちた。
先に動いたのは、魔理沙だ。横に移動しながらレーザーを繰り出す。それを全て避けながら、弾幕を張る美鈴。彼女の弾幕は7色に輝き、彼魔理沙を襲う。その美しさに一瞬心を奪われる彼女だが、既のところで避けた。が、その目の前には美鈴。とっさに腕をクロスさせ、蹴りの衝撃に耐えるが、体術では彼女が上だ。気づいた時には魔理沙の体は、近くの草むらまで吹き飛ばされていた。
「イテテ。やってくれるぜ」
すぐさま体制を整え、間合いを取りつつ牽制の弾幕を張る。そして、ある程度下がったところで、ミニ八卦炉を構えスペルカードの宣言をした。
「恋符! マスタースパーク!」
ミニ八卦路から放たれる極太のレーザーが美鈴を捉える。しかし、魔理沙は不思議に思う。確かにレーザーは美鈴を捉えた筈だが、手応えが全くと言っていいほど無いのだ。
「虹符、彩虹の風鈴!」
上空からのスペルカード宣言に、彼女はとっさに木の陰に飛び込んだ。美鈴はマスタースパークが当たる直前に空へ飛んでいたのだ。そして今は、7色の弾幕が先程までとは、比べ物にならない量で魔理沙を襲う。しかし、彼女もこれまで何度も弾幕勝負を勝ち抜いてきた百戦錬磨の魔法使い、この程度では負けるはずもなく、次々と弾幕の隙間を縫うように駆け抜ける。
「やるじゃねえか」
「それはどうも」
スペルカードが終了したのを見計らって、再び攻勢に出る。
平行線。勝負はどちらに傾くでもなく、両者は1歩も引かず、お互いの精神を削り合う。大地だけでなく、空をも縦横無尽に動き回り、四方八方から襲い来る弾幕を避ける。それはまるで2人がダンスを踊っているかのようだった。
「これで決める! 魔砲、ファイナルスパーク!!」
「負けません! 熾撃、大鵬墜撃拳!!」
2つのスペルカードが衝突し、凄まじい光を放つ。轟音と突風がその力の大きさを物語る。木々が揺れ、森の動物が驚く。咲夜は息のするのも忘れて、2人の勝負の行方を見守った。
そして、その全てが収まった時、そこには膝をつく魔理沙と、拳を構えた状態の美鈴。そう、美鈴が勝ったのだ。
* * *
「いやー、まいったぜ」
「久々にいい運動になりました」
現在彼女達3人は、魔理沙宅にいる。
魔理沙は服についた煤を払うと、彼女が魔術で使うためのきのこが、大量に入っている戸棚をあさっている。ちなみに種類分けはされておらず、毒々しいものから綺麗な模様のものまで、色々と混ぜられている。
「そう言えば、どうして湖の真ん中に猫が迷いこんだのかしら?」
「そうですよね」
猫の侵入路は未だにわかっていない。初めこそ、美鈴が勝手に連れてきたのだと思っていたが、彼女はそれを否定している。
「あなた知らないかしら?」
「……私は知らないぜ?」
昨日は館でパーティーがあった為、誰かが持ち込んできた可能性もある。となると戻った際、その子猫を飼い主の元に戻さなければいけない。しかし、肝心の飼い主が誰かわからなければ、どう仕様もないのだ。
「……飼い主が出てくるまで、紅魔館で飼っておけば?」
魔理沙の妙な間が少し気になるものの、猫の世話は美鈴に任せておけば大丈夫なので、「それもそうね」と咲夜は返す。魔理沙が「そういや霊夢が、昨日美鈴に見せるために子猫連れてたよな。絶対あれだろ。でも、元々神社に捨てられた野良だったし、美鈴に世話を頼むつもりだったからいいか」等と考えているのはつゆ知らず。
魔理沙はようやく目当てのきのこを見つけたようで、紫色の斑模様の付いた、毒々しいきのこを手渡す。これを食べるのは少々気が引ける。だが、パチュリーならきっと見た目もどうにかしてくれるだろうと、希望を抱き受け取り、館への帰路についた。
* * *
「パチュリー様、きのこを持ってきました」
「ちょうど他の準備も終わったところよ」
図書館に行くと、大釜をかき混ぜているパチュリーと、それを興味深そうに見つめるフランの姿があった。フランは咲夜を見つけると、懐からあるものを取り出し、彼女の目の前で振る。
「あ、あの、妹様それは?」
「猫じゃらしって言うんだって」
「いえ、名前ではなくて、なぜそれを振るのですか? 私は人間ですよ?」
だが、その言葉とは裏腹に、彼女の瞳は目の前で動く猫じゃらしを追っていた。そして。
「おお、食いついた!」
次の瞬間、彼女の前足が猫じゃらしを叩く。どうやら猫の本能的なものが残っているようだ。自分の行動に気づいた彼女は頬を赤らめる。
「出来たわよ」
調合が終わったパチュリーが、紫色の液体が入ったコップを渡す。その毒々しさに飲むのを戸惑う咲夜。恐る恐る飲んでみると、それは驚くことに『全く感覚が無い』。まるで空気を口に貯めているかのように感じだ。
「始まったわね」
突如、彼女の体が強く光だし、その眩しさに全員が目を瞑る。
光が収まったとき、そこにはぺたんと座る咲夜と、その腕の中には1匹の子猫が寝ていた。
「元に戻ったようね」
「ありがとうございます」
こうして、紅魔館の猫事件は幕を閉じた。
ちなみに子猫は美鈴が世話をし、頭に乗っかった子猫が、彼女の居眠りを阻止する姿が見られたという。