生存戦争記録 Before the battleship girl   作:ИСКУССТВО

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はじめまして。ペンネームを見て「何て読むんだよ」と思った方も多いと思うので一応。あれで「イスクストヴォ」と読みます。ロシア語で芸術家の意味です。
私自身も呉鎮守府提督ですが、何故か今回「艦娘以前」の戦争が書きたいと思い、ジャーナリストのルポという形で深海棲艦との戦争を書いてみることのしました。
稚拙な文章ではありますが、読んでいただければ幸いです。


序 歴史のどこかにいる貴方へ

第五の天使がラッパを吹いた。すると、一つの星が天から地上へ落ちて来るのが見えた。この星に、底なしの淵に通じる穴を開く鍵が与えられ、 それが底なしの淵の穴を開くと、大きなかまどから出るような煙が穴から立ち上り、太陽も空も穴からの煙のために暗くなった。 そして、煙の中から、いなごの群れが地上へ出て来た。このいなごには、地に住むさそりが持っているような力が与えられた。いなごは、地の草やどんな青物も、またどんな木も損なってはならないが、ただ、額に神の刻印を押されていない人には害を加えてもよい、と言い渡された。殺してはいけないが、五か月の間、苦しめることは許されたのである。いなごが与える苦痛は、さそりが人を刺したときの苦痛のようであった。この人々は、その期間、死にたいと思っても死ぬことができず、切に死を望んでも、死の方が逃げて行く。

 

新約聖書 ヨハネによる黙示録 第9章

 

 

 

古来より人は海を恐れて生きてきた。世界の神話や伝承を見ればそれは一目瞭然だ。リヴァイアサン、クラーケン、ポセイドン、その名を挙げていけばきりが無い。まだ現代のように科学が発展しておらず、調査もままならなかった時代より人類は、未知の支配する海に恐怖し、同時に敬った。

思えば先の、いや現在進行形で起こっているこの戦争も、始まりは海だった。

今、私はその「海」を前にしている。「奴ら」と人類の生存をかけた戦争の最前線ともいえる海の。

 

「奴ら」の呼び方は各国で異なる。英語圏ならDeeper(深き者)、ロシア・ユーラシアではэмиссар(使者)、中国では异物(異物)という具合だ。この国、日本で奴らは「深海棲艦」の名を与えられていた。深海に生息する艦、という意味だそうだ。

私は今、国連軍所属日本特務海軍横須賀鎮守府にいる。「奴ら」、つまり深海棲艦との戦争の日本本土における最前線基地であり、まさに国防の要。ここに詰めているのは屈強な特殊部隊の男達や無数の軍艦ではない。いや、軍艦ではあるが、「彼女」達を一目見て誰が軍艦などと言えるのだろう。

「艦娘」。Battleship girl。18の国、50以上の研究機関が共同開発した人類最後の希望。開発過程は最高機密として決して公表されない兵器。だがそれは兵器というにはほど遠い、どうみても人間の「少女」にしか見えない者たち。先程私は第六駆逐隊の駆逐艦の一人を取材していたが、その姿はどう見てもまだ年端の行かぬ少女のそれだ。今年で10歳になる私の娘の友人と言われたとしても違和感はない。

我々はかつて、「奴ら」との戦争において自らの非力を痛感した。ヒトが火を手にして以来忘れていた、他の生物に蹂躙される恐怖を思い出した。故に我々は、「奴ら」との戦争のために彼女達を使役している。自分達が二度と、直接「奴ら」の姿を見ずに済むために。

彼女達が実戦投入されたばかりの頃こそは「あれは兵器ではなく人間だ」「彼女達にも戦わない権利がある」と訴えた人権団体も少なくなかった。だがその声も、時が経つにつれほとんど聞こえなくなっている。今、艦娘による戦闘行為を非難する者などほとんどいない。私達は彼女達をただの兵器として見ることができるほどに、倫理観を失いつつあるのだろうか。

勘違いしないで欲しいが、私は決して艦娘の戦闘行為に反対しているわけではない。いやむしろ、自分の娘や息子があの忌々しいデビルフィッシュ共を前にして戦わなくて済むのなら、喜んで彼女達の戦争を支持しよう。恐らくこの本を今手に取っている貴方も、そんな考えを持っている一人ではないだろうか。それで当然だ。「奴ら」との戦争は、人類からあまりに多くを奪いすぎた。

総死者24億8900万人。91ヶ国の政府崩壊。長期的な貨幣機能の停止。そして共通の敵を前にしても続いた人間同士の戦争。法と秩序、近代民主主義、国境の無化。ホワイトハウスが爆撃の雨にさらされ、ビックベンが要塞となり、クレムリンが火に包まれ、紫禁城が核の炎に消えた世界。

 

 

現在、戦争は艦娘と「奴ら」との戦争に移行しつつある。確かにアフリカやウェストロシア、新アジア共同連合などの一部地域においては未だ人間が銃を持ち「奴ら」と戦闘を行っているが、IWCO(国際戦争継続機構)によるドローン兵器や艦娘の貸与は着実に進んでおり、この戦争における完全「無人」化は時間の問題だと思われる。

だからこそ、私は今のうちに記録しておきたかった。人類が艦娘を手に入れる以前、「奴ら」とどのように戦ったのかを。

人は忘れやすい生き物だ。恐らくはあと10年しないうちに、この戦争の完全無人化は完了する。人は「奴ら」との戦争を過去のものとし、自分達の日常の外に置くことになるだろう。そうなった時、一体誰があの戦争を語ることができるというのか。それを危惧し、私は今これを書いている。

私の今回の著作は、50年後、100年後、200年後、今の「生存戦争」が教科書の1ページに過ぎなくなった世界で暮らす者達に向けた記録である。今回私は各国で艦娘以前の戦争を戦った者達に取材し、それをここに記述した。軍関係者はもちろんのこと、民間人にも可能な限り取材したつもりだ。ページの都合上省かざるを得なかった体験談も一つや二つではない。私個人としては「艦娘以前の戦争記録」として本著をそれなりの出来だと勝手に陶酔しているが、これを読了した後に不満の残る読者もいるはずだ。それについてはここであらかじめ謝罪しておく。

 

 

さて、私の一人語りが長くなってもよくない。これは人類の、ある一時期における闘争の記録だ。私の闘争の記録ではない。

最後に、「奴ら」が歴史の一遍に過ぎなくなった世界に住む者達へ。忘れるな。「奴ら」は海の底で、貴方達を殺しつくすことを永久に夢見ている。「奴ら」の脅威を、決して忘れないでほしい。




まずはここまで読んでくださった皆様に謝辞を。
最初に書いた通り、この話に艦娘は登場しません。(この後語り手のジャーナリストがかつて海自隊員だった提督を訪ねる回を書くつもりなのでその時には出るかもしれませんが)
艦娘が出てくる前に人類が深海棲艦とどうやって戦ってたのか。艦これを始めたときからの謎でした。当然公式設定でその辺のことについては書かれてなかったので、結構独自解釈で進めるつもりです。ご了承ください。
次話も出来る限り早く投稿できればと思っています。それでは今回はこの辺で。
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