IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第2話「ともだち」

 

 

―――一夏達がIS学園に入学する前のある日…。

 

 

 

 

「ふんふ~ん♪ふんふんふ~ん♪」

 

そこは奇妙な空間であった。部屋は薄暗く詳細不明な機材で埋め尽くされ地面を埋めつくすケーブルはまるで木々の根っこ。そんな不思議空間に響くのは若い女性の鼻歌とキーボードの叩く音のみ。キーボードをまるで楽器のようにタイピングして歌う女性の名は篠ノ之 束。ISの開発者である。

 

ぱらりろぱらりらぺろ~♪

 

「お?きたきた~♪」

 

まるで電話が鳴ると予想していたかのように独特な着信音を鳴らす携帯を見てにんまりと笑みを浮かべる束。その独特な着信音を鳴らす携帯をダイブしながら手に掴むと、すかさず携帯を開くと耳に当てた。

 

「もすもす~終日♪待ってたよ~♪ち~ちゃん♪」

 

『…まるで私が電話を掛けて来ると予測していたみたいだな』

 

電話の相手は織斑千冬であった。篠ノ之 束と織斑 千冬。その出会いは小学生から始まり。以来ずっと同じ学校同じクラスという。切っても切れない腐れ縁の仲である。まぁ、切れなくしているのは束本人が色々と細工をしているからであるのだが…。

 

「愛で繋がってるから…って待って待ってぇ!切らないでぇ~!」

 

受話器から電話を切ろうとする気配に気付き慌てて引き止めようとする束。二人の電話での会話はいつもこんな感じだ。

 

『気色の悪い事を言うからだ』

 

「もう、照れ屋さん♪…まってまってぇ!ちーちゃぁん!」

 

『…はぁ、まぁいい。今日は二つ頼みたい事が合って電話を掛けた』

 

「んん~?何かな何かな?ちーちゃんの頼みなら何だって聞いちゃうよ~?」

 

実際に篠ノ之 束に不可能は無いのだろう。ISを生み出した誰も匹敵する事が出来ないその頭脳。その気になれば世界だって征服できるかもしれない。だからこそ世界各国は篠ノ之 束を必死で探しており、自分達で保護したいと企んでいるのだ。

 

『クローン計画とやらに関わっていたクリス・オリヴィアの安否を知りたい。此方で調べても戸籍が抹消されていて調べようが無くてな』

 

「お安い御用だよ~。ちょちょいのちょ~いっと~!」

 

軽いノリで返事をすると、束は軍のデータベースを楽々とハッキングしてしまう。その掛かった時間は僅か3秒。軍のセキュリティーは涙目である。幾ら天才でも限度を超えている。

 

「ん~…残念だけどその人死んじゃってるよ?ギリシャに住んでたみたいだけど」

 

『…そうか』

 

「二つ目は~?」

 

人が死んだと言うのに軽い気持ちで次の話題に移る。束にとって千冬を入れた3人以外は興味の対象外で死のうが生きようがどうでも良い事なのだ。先程、残念と口にしてはいたがあれも本心ではないのだろう。

 

『ああ、実は直して貰いたい機体があってな…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話「ともだち」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑 一夏

 

 

「あー……」

 

まずい。耐えられん…。

 

一時間目のIS基礎理論授業が終わって今は休み時間。なのだが、この教室内の異様な雰囲気の所為で俺は気が休まる事が無く。今にもその重圧で押しつぶされそうだ…。しかも世界でニュースになった所為で廊下には俺の姿を見る為に他のクラスからも新入生や在校生が詰めかけている。本当に動物園の動物の気分だ。これはSHRも時よりもひどい…。

 

そりゃ、女子高に男子が入学してきたと聞けば好奇心が湧くのは当然なのだろうが休み時間もこれだと本当に身が持たない。誰か助けてくれる人物はいないのだろうか?居ないだろうなぁ…。

 

「…ちょっと良いか」

「え?」

 

助けを求めていた所に、空気を呼んだかのように話し掛けてくる女性の声。俺は慌てて顔を上げると、そこに居たのはあれだけ我関せずの態度を取っていた六年ぶりの再会になる幼馴染の篠ノ之 箒だった。

六年も経つが髪型は今も昔も変わらずのポニーテール。雰囲気も昔のまま。いや、六年前よりも更に鋭さを増したようにも思える。例えるなら日本刀の様だ。

 

「廊下で…は無理だな」

 

廊下を見れば女子で埋め尽くされており、視線も気になって落ちついて話も出来そうに無い。とりあえず人の目が無く落ちつける場所が俺としては好ましい。もっとも、此処以上に人の目がある場所なんてそうそう無いだろうが…。

 

「早くしろ」

「お、おう」

 

自分について来いと言わんばかりに廊下へ出て行ってしまう箒。そして箒がやって来ると廊下に居た女子達一斉にざあっと道を空ける。まるでその光景はモーゼの海渡りだ。

 

まぁ、そんなこんなで移動に苦労せず屋上にやって来れた俺と箒。屋上は授業を挟む短い休憩もあってか、人の姿は見られなかった。勿論俺達の後を付いて来て屋上の入口には教室の時同様に女子達で溢れていたが。まぁ、教室よりは幾倍もマシだろう。

 

しかし屋上にやって来たは良いのだが、話し掛けて来た箒は一向に話し掛けて来ようとしない。屋上まで連れて来て置いて何も話さないとはどう言う事なんだ?あの場から抜け出せただけでも俺は助かるがこれはこれで辛いぞ。

 

「そういえば」

「何だ?」

 

何時までも無言でいるのも気まずいのでふと思い出した事もあり俺から話を切り出す。

 

「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」

「………」

 

俺の言葉を聞いて顔を赤らめる箒。いかん。どうやら気に障る様な事を言ってしまったみたいだ。何か表情が険しい…。

 

「何でそんな事知ってるんだ」

「何でって新聞で見たし…」

「な、なんで新聞なんか見てるんだっ!」

 

何を言ってるんだ箒は。意味が分からないし言っている事が無茶苦茶過ぎる。まさかこんな所まで連れて来られて新聞読むな何て言われるとは思わなかった。まぁ、無茶苦茶言われたが相変わらずの男っぽさに安心した。元気そうでなによりだ。

 

「まぁ、その、何だ…」

 

まずこれは言っておくべきだろう。久々にあったのにまだ済ませて無いし。

 

「何だっ!?」

 

少しは落ち着け…。

 

「久しぶり。六年ぶりだけど、箒ってすぐ分かったぞ」

 

漸くこの言葉を言う事が出来た。拙宅再会したのに挨拶無しは寂しいもんな。

 

「え…」

「ほら、髪型一緒だし」

 

やはり箒にはポニーテールが良く似合う。サムライってイメージだし。

 

「よ、良くも覚えているものだな…」

「いや、忘れないだろ。幼馴染の事くらい」

「………」

 

ギロリ!

 

いや、そこで睨む。怒る。不機嫌になる!?

 

キーンコーンカーンコーン…。

 

どうやら休憩時間も終わりらしい。二時間目を告げるチャイムにそれまで入口を埋めつくしていた女子達も授業に遅れる訳にもいかないので自然に教室へと戻っていく。

 

「さて、俺達も戻る…あれ?」

 

戻るか。と言い掛けた所で俺は屋上の片隅に視線が止まり。言い掛けていた言葉も疑問へと変わる。

 

「どうした?」

「いや…あれ」

 

俺は視線を先を指差す。指された場所にはあの千冬姉に瓜二つの少女。ミコト・オリヴィアがチャイムが鳴ったと言うのに教室に戻ろうともせず空を眺めている姿があった…。

 

「あいつは…」

 

やはり箒も気になるのだろう。箒も千冬姉とは小さい頃からの付き合いだ。それに箒の姉である束さんは千冬姉に親友でもある。気にならない方がおかしいだろう。

 

「あいつ、チャイムが鳴ったのに戻ろうとしないみたいだけど。大丈夫か?」

 

流石に入学式、SHR、そして授業までその日の内に3回遅刻したなんて笑い事じゃ済まされないぞ。千冬姉もそろそろ堪忍袋の緒が切れるかもしれない。唯でさえ怒って無いのが不思議なくらいなのだから。

 

「声掛けた方が良いよな?やっぱり…」

「え、あ、ああ…そうだな…」

 

気が進まないのか、箒から返ってきた返事はハッキリしない物だった。まぁ、気持ちは分かる。身内にそっくりな人に出逢ったんだ。戸惑うのも無理は無い。俺だってそうだ。

でもだからって放置する訳にもいかない。という訳で急いでオリヴィアの居る場所に掛けて行き話し掛けてみた。

 

「お~い!オリヴィア!もう授業始まるぞ~!」

「…?」

 

声を掛けられたオリヴィアはこちらに気付くと視線を空から外し俺達の方を見て不思議そうな表情を浮かべる。

 

…いかん。やっぱり何度見ても千冬姉にしか見えない。

 

ぽわわんとした雰囲気は本人とは全くの別人なのだが。やはり顔立ちは本人その物で身内である俺には何度見ても戸惑ってしまい。今、感じているこの何とも言え無い気分は慣れそうに無い。

 

「…じぃ~」

 

また見つめられてるよ…。

 

SHRの時もそうだったが何故この子は俺をこんなに興味深そうに見つめるんだ?いや、他の女子も眺めてはいたがこの子の送って来る視線は他の女子の好奇心で向けて来る視線とは何か違う様な気がする

 

「やっぱり…ちがう…」

 

まただ。一体何が違うって言うんだ?

 

「違うって…何がだよ?」

「『私達』と少しちがう…」

 

…私達?

 

わ、分からん。この子が何を言いたいのか全く分からん。言葉が足りなさ過ぎる。

 

ちらっ…。

 

「………」

 

箒に視線を送るが箒も何を言っているのか分からない様子で唯首を左右に振るだけ。困り果てた俺はとりあえず授業が始める事を伝える事にした。

 

「ええっと…とりあえず教室に戻ろうぜ?授業が始めるし」

「?」

 

いや、そんな不思議そうにされても困るんだが…。

 

話題を切り替え様としたが返って来たのは首を傾げて不思議そうにしているオリヴィアの表情のみ。そして俺は確信した。この少女は千冬姉でとは別人であると。何故なら千冬姉がこんなに可愛い仕草をする訳が無い。俺の姉がこんなに可愛いワケが無い!

 

「一夏。今何を考えた…?」

「イヤ、ナニモカンガエテナイゾ…?」

 

隣にある物凄いオーラを感じてだらだらを汗を流しながら俺は必死に誤魔化す。あれ?隣を見ていないのに鬼の姿が脳内に映ってルゾ?

 

「と、とにかく!早く教室に戻ろうぜ?千冬姉…じゃなくて、織斑先生にまた叩かれるぞ?今度は割と本気で…」

 

唯でさえ出席簿で叩かれるのは痛いのだ。それに千冬姉の怒りが加わればまさに鬼に金棒状態になる訳で。…ん?何か違うか?

 

「?…どうして?」

「どうしてって…授業があるからだろ?勉強するために学校来てる訳だし」

 

まぁ、授業の大半を理解できていない俺が言うのも何なんだが…。

 

「…勉強?」

「そうだな。勉強だ」

「勉強…学問や技芸を学ぶこと。学習する事」

「え?まぁ、そうだな。それで間違って無いと思う」

 

勉強の意味なんて普段普通に使っている言葉だから考えた事は無かったが、オリヴィアが今言った事で間違いないだろう。

 

「ん…なら、必要ない」

「え?」

「全部おぼえてる」

「ええ゛!?」

 

今何と言いましたかこの子は!?全部と言うのは学校で習う事全部と言う意味か!?一時間目の基礎知識でさえ俺には意味不明だったと言うのに全部覚えてるだと!?

 

アホの子っぽい雰囲気を漂わせていると言うのにこのギャップ。俺は自分の耳を疑い慌てて箒の方を見るが箒も俺同様に目を丸くしていた。

 

「専用機を持っている事から優秀なのだろうとは思ってはいたが…」

 

専用機持ちって凄いんだなぁ…。

 

箒の言葉にほへぇ~と息を漏らすと自分が入学した学校の凄さを改めて思い知らされる。超エリート校の名は伊達じゃない。俺なんてISの事が無ければこんな学校に入学出来る筈が無いのだ。成績なんてあんまり良い方でも無いし。

しかし、だからと言って授業を受けなくて良いと言う事にはならないだろう。此処は学校で俺達はこの学校の生徒だ。ならこの学校のルールに従う義務がある。

 

「でも、サボりはいけないだろ?」

「?…サボリ?」

「サボタージュの略だな」

「破壊活動…してない」

 

…うん。言葉って難しいね。鎖国状態の俺の頭に国際化が訪れるのは当分先になりそうだ。

 

「学生の本分は学業だ。学業を怠るなんて事はあってはならない。違うか?オリヴィア」

 

おお!そうだ箒!もっと言ってやれ!

 

「?」

 

しかし言われた本人は理解していない表情で首を傾げるばかり。そんな様子を見て箒は疲れたように溜息を吐く。小さく『まるで姉と会話している気分だ』と呟いていた様な気もするが聞かなかったと事にしておこう。

 

「はぁ…では問うが。お前は何のためにこの学園に来たんだ?」

「…ともだち」

「む?」

「友達?」

 

ぽつりと呟かれたその言葉に俺と箒はきょとんとしてしまう。まさか此処で『友達』と言う単語が出て来るとは俺も箒も思わなかったのだ。

 

「クリスに友達をつくって来いって言われたから…」

 

クリスというのが誰かは知らないがきっとオリヴィアの家族か何かなのだろう。海外では兄妹でも呼び捨てにする所もあるらしいし。

 

「学校はともだちを作るところってクリスが言ってた…」

「むぅ…」

「友達を作る所、か…間違ってはいないよな。うん」

 

まるで小学生に対して教える様な内容だが間違っては無いだろう。一人ぼっちの学園生活なんて最悪としか言いようが無い。一人で学園生活を送った所で思い出なんて一つも作れないのだから。

 

「互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人」

 

さっきの勉強の事もそうだけど。まるで辞書に書いてる事をそのまんま声に出しただけみたいな言い方をしてるな。まるで知識をそのまんま暗記してるみたいだ。

 

「…よくわからない」

「え?いま自分で意味言ったじゃんか」

「…フルフル」

 

あ~…どうも会話が噛み合っていない様な気がする。何て言うか互いの主観と言う物が違うのかもしれない。

 

「良く分からないのに友達が欲しいのか?」

「ん…コクリ」

 

子供の好奇心みたいなもんか?

 

「なら、俺がオリヴィアの友達になってやるよ。俺も箒も友達だ」

「…ともだち?」

「ああ!」

「なっ!?一夏!?私は一言も!」

「良いだろ?別に友達になるくらい」

「し、しかしだな!」

 

箒はちらちらとオリヴィアの方を見る。

 

ああ、成程。やっぱ千冬姉に似てるから気になるんだな?

 

俺もまったく気にならないって訳じゃないが、実際に話してみて千冬姉とまったく違うってのは分かった。それに、外見で人を判断したらいけない事だろ?

 

「じゃあ、改めて自己紹介するな!俺は織斑 一夏!よろしくなオリヴィア!」

「…だから勝手に話を進めるな「ほら、箒も自己紹介しろよ」~~~~っ!…篠ノ之 箒だ!」

「…ミコト・オリヴィア」

「じゃあ、ミコトだな!よろしくな!」

「ん…イチカ」

「あ~もうっ!勝手にしろっ!」

 

ははは、何照れてんだよ箒の奴。

 

顔を紅く染めてぷいっとそっぽを向く箒。相変わらず素直じゃないな箒の奴は。

 

「それじゃあ友達も出来た事だし、教室に戻ろうぜ?」

「ん」

 

満足そうに頷くミコト。表情はあいかわらずの無表情で読み取り辛い物ではあったが、何となくだその表情は笑っている様に俺には見えた。

 

「んじゃ急ぐぞ!大遅刻だ!」

「コクリ」

「こ、こら!一夏!て、ててて手!手を引っ張るなっ!?」

 

箒とミコトの手を引いて俺は走り出す。箒が何か大声で叫んでいるみたいだったが俺は気にせず走る。だってもう授業は半分くらい終わってる頃だしこれ以上遅れると本当にサボりになるだろ?流石に入学初日でそれはまずい。俺は唯でさえ授業について行けてないんだからサボリなんてする余裕は無いんだ。

 

そう言う訳で俺は全力で走る。遅刻はもうどうしようもないが走って教室に飛び込めば誠意は伝わる筈!駄目な時は道に迷いましたって謝ろう!

 

そんな事を願って俺達は教室に飛び込む。そして、そんな俺達を待っていたのは…。

 

「入学初日でサボりとは良い度胸だな。グランド100周今直ぐ行って来い!授業を遅れた分は放課後補習だからな!」

 

鬼の様な形相の織斑先生だったとさ…。

 

「「ば、馬鹿なっ!?」」

 

「…オワタ」

 

入学初日に3人揃って補習が確定。

 

ちーん…。

 

 

 

 

 

 

「んだぁ~…しぬぅ~…」

 

二時間目が終わり休み時間になると同時に俺は自分の机にぐてーっと倒れ込む。まさか入学初日でグランドを100周走らされるとも思いもしなかった。箒も流石に堪えているみたいで眠そうにしてるしミコトなんてもう死ぬ寸前の状態だ。…てか大丈夫かミコト!?真っ白に…って、これは元からか。口から魂が出てるぞ!?

 

「ちょっとよろしくて?」

 

何だこんな時に!?今はミコトの一大事なんだぞっ!?

 

死にかけ(?)のミコトを見て慌てて駈け寄ろうとした俺を邪魔するように誰かが声を掛けて来る。俺は振り返るとそこに立っていたのはロールのかかった綺麗な金髪で白人特有のブルーの瞳をした女子だった。ややつり上がった状態の瞳で『私は偉いんですよ』的なオーラを全開に出して俺を見ているソレは、今時の女子をそのまんまに体現しているかのようだ。

今の世の中、ISを使えると理由だけで女性が優遇される。まぁ、優遇されるだけなら構わない。大昔の男が偉いという考えが逆になって再来しただけなのだから。しかし、その優遇の度が過ぎてしまったのが今の現状だ。女=偉いの構図が一般的な認識になり。男の立場が完全に奴隷、労働力になってしまっている。町中ですれ違っただけの女にパシリをさせられる男の姿も珍しくは無い。

 

まぁ、身に纏っている気品から察するに、実際に良いところの身分なのだろう。俺には関係の無い事だが。

 

「訊いてます?お返事は?」

「訊いてるけど…どう言う用件だ?」

 

前の席のミコトを気にしつつそう答えると、声を掛けて来た女子はかなりわざとらしい声を上げる。

 

「まぁ!なんですの、そのお返事。わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「…」

 

あ~めんどくせぇ…。

 

ISが使えるからってそんなに偉いのか?確かに今現在、国の抑止力の要となっているのはISだ。だからIS操縦者は偉い。そしてISを使えるのは女性しか使えない。だからといって全ての女性が偉いというのは可笑しいだろう。偉いのはIS操縦者であって女性では無い。そして仮に操縦者であったとしてもだ。限度と言う物がある。

 

「悪いな。俺、君の事知らないし」

 

自己紹介で名乗っていたのかもしれないが、あの時俺は余裕もなかったし千冬姉やミコトの事で頭が一杯で他人の自己紹介なんて聞いてなんていなかった。だから目の前の女子の名前も当然知らない。

しかしその答えがよろしく無かったらしい。それを聞いた途端、目の前の女子の目が更につり上がり目を細めると、男を見下したような口調で話を続ける。

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試次席のわたくしを!?」

 

次席かよ。いや、次席も凄いけどさ。何か微妙だな…。

 

代表候補生と言う聞きなれぬ肩書がどんなものか気になったが次席の方に気がいってしまって訊ねる事はしなかった。

 

「次席かよ」

 

oh…我が口は何を口に出してくれやがるのか。しまったと俺は慌てて口を塞ぐが時既に遅し。

 

「な、なんですって…?」

 

あ~…やっぱりまずかったか。かなり怒ってるよ。

 

低い声で呟きぷるぷると拳を震わすセシリア。顔に影が落ちている所為で今どんな表情をしているかまったく把握出来ないが。まぁ、表情が見えなくても彼女から溢れ出る怒りオーラでお怒りなのは余裕で分かる。

 

「本来なら…本来なら!わたくしが主席になる筈でしたのに!それなのに!」

 

いや、悔しいのは分かるけどさ。認めようよ現実を。凄いと思うぞ?次席なんて大したもんだよまったく。頭の悪い俺には真似できない事だよ。

 

「そちらの方さえ居なければわたくしが主席でしたのに!」

「そちらの方?」

「そこでのびているオリヴィアさんの事ですわ!」

 

『ええええええええええええええ!?』

 

セシリアの声が大きかったためか教室にいた全員が衝撃の事実に驚きの声を上がった。勿論、その中に俺も含まれている。

 

ナンダッテ…?

 

ミコトが主席?HAHAHAHA!おもしろい事を言うなセシリアは。ミコトが主席な訳無いじゃないか。ほら、箒だって信じられないって顔してるだろ?きっとあれだよ。何かの間違いだよ。それか同じクラスにオリヴィアって名字の子が居るに違いない。うん、きっとそうだ。アハハハハ…。

 

「ヘー凄い奴がいたもんダナ。それで?そのオリヴィアって子は何処に居るんダ?」

「貴方の前に居るでしょう!?」

「ハハハハ…何言ってるんダヨ?こいつはミコトだぞ?」

「ミコト・『オリヴィア』さんでしょう!?貴方こそ何を言ってらっしゃいますの!?」

 

凄い剣幕だ。これ以上怒らせる前に俺も現実から逃避するのはやめておこう。

 

「えっと……マジで?」

「さっきからそう言っているでしょうに!」

 

そうか。マジなのか。と言う事は屋上でミコトが言ってたのも本当なんだな。すげぇなミコト。疑ってごめん。

 

当の本人は疲れで眠っているが心の中で謝っておく。

 

「そうか…でもそれはミコトの実力だろ?悔しいのは分かるけどさ、さっきの言い方はどうかと思うぞ?」

 

まるでそれはミコトが居なかった方が良いみたいな言い方で気に喰わない。そんなに嫌なら別の学校に行けば良いだろう。IS学習を組み入れている学校は世界各地にあるだろうに。

 

「…ふんっ、まぁ良いですわ。代表候補生でも無いオリヴィアさんと比べるのも馬鹿馬鹿しいですし」

「だからその言い方を止めろって言ってるだろ。さっきから代表候補生代表候補生って…そんなにそれが偉いのかよ?」

 

寝ている本人の目の前で悪口言いやがって。ふざけるんじゃねぇよ。嫌いなんだよ。そう言うの…。

 

「国家代表IS操縦者、その候補生として選出されるエリートが偉くないとでも言いますの?」

 

成程、代表候補生ってのはそう言う物なのか。言われてみればそのまんまだな。でも、だからどうしたんだ?それがミコトと何の関係がある?何も関係が無いじゃないか。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡…幸運なのよ。お分かりかしら?」

「分からないな。俺はお前と同じクラスになっても別に幸運でも何でもねぇし。寧ろ『友達』のミコトと一緒のクラスになれた事の方が100倍は嬉しいね」

「…何ですって?」

 

どうやら聞こえていなかったらしい。ならもう一度顔をひきつかせている代表候補生のセシリアに言ってやろう。

 

「聞こえなかったのか?俺はお前よりミコトと一緒のクラスの方が嬉しいって言ったんだ」

「んな!?なななななななっ!?」

 

白い肌を真っ赤にしてあまりの怒りで言葉にならないといった様子のセシリアを見て俺はニヤリと笑みを浮かべる。ははっ、友達を馬鹿にした奴を言い負かす事が出来て胸がスッとしたぜ。口喧嘩で女相手に勝つ事が出来るなんて俺もやれば出来るもんだな。

 

「一夏。いい過ぎだ」

「箒?」

 

今まで此方の様子を見ているだけだった箒が此方にやって来て仲裁に入って来る。何だよ?まさか箒はあっちの味方をするつもりなのか?

 

「友の悪口を言われて怒るのは無理もないが少し冷静になれ。初日で問題を起こすのは不味いだろう?」

 

箒にそう言われた瞬間。千冬姉の顔が脳裏に過ぎった。そうだ。もし俺が問題を起こせば千冬姉に迷惑が掛かるんだ…。

 

「そうだけど…」

「…まぁ、ミコトは私の『友人』でもある。不快に思わないでも無い。…しかし代表候補生殿。確かにお前は候補生に選ばれる程のエリートだが、それを言うのならミコトも専用機を持つエリートになる訳だがどうだろうか?」

「ぐっ…」

 

おお、箒の援護攻撃だ。

 

「エリート同士、互いに認め合い、競い合い、高め合うのがエリートらしい対応なのではないか?」

「っ…そうですわね。その通りですわ」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて箒の言葉に同意するセシリア。此処まで言われて反論すれば自らの立場を危うくするのが分かっているのだろう。俺もこれ以上は絡むつもりはない。

 

キーンコーンカーンコーン…。

 

すると、そこに空気を呼んだかのように鳴り響く三時間目の開始を告げるチャイム。それを聞いてほっと胸を撫で下ろす教室に居た女子一同。なんて言うか皆には悪い事をしたな。全然休めなかったろうな。すまん…。

 

「ふんっ…」

 

鼻を鳴らして不機嫌な表情のまま自分の席に戻っていくセシリアに俺はやれやれと溜息を吐く。こりゃ、面倒な因縁を付けたれたかもな…。

 

「全員席に着け。授業を始めるぞ」

 

全員が席に座り終わった頃にタイミングを合わせたかのように千冬姉と山田先生が教室に入って来た。

 

さて、気を取り直して勉学に励みますか。

 

「すぅ…すぅ…」

 

…とりあえずミコトを起こそう。三時間目が居眠りとかそろそろ本気で笑えないから。千冬姉が修羅になっちまう。

 

 

 

 

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

一、二時間目とは違い三時間目は山田先生では無く千冬姉が教卓の前に立つ様にして授業を始まる。まぁ、担任は千冬姉何だし何ら不思議ではないか。一、二時間目を山田先生に任せたのは経験を積ませる為とかじゃないだろうか?だって色々とテンパる事が多いし…。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

思い出したように聞きなれない言葉を口にする千冬姉。クラス対抗?何だ?もう体育祭か何かか?随分と早いなIS学園。

 

「クラス代表者と言うのはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…まぁ、クラス長だな。ちなみに対抗戦は、入学時点で各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間は変更は無いからそのつもりで」

 

…うん。何を言っているのかチンプンカンプンだ。事前知識0の俺はまったく会話の内容に理解出来ず置いてけぼり状態。教室中がざわざわと騒がしいが何か重要な事らしい。何だか責任重大そうだぞ?選ばれた奴はご愁傷さまである。

 

「はいっ!織斑君が良いと思います!」

 

…はい?

 

「では候補者は織斑一夏…他に居ないか?自薦他薦は問わないぞ」

 

いやいやいや!?何勝手に俺が候補者に上がってるんだ!?

 

「ちょっと待った!俺はやらな―――」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟しろ」

 

いやいやいやいや!?本人の意思も大事だろ!?何これ!?最近こんなのばっかなんですが!?

 

IS学園に強制入学させられて今度はクラス長?冗談じゃない。俺の自由と意思は何処へ消え―――。

 

「待って下さい!納得いきませんわ!」

 

バンッと机を叩いて立ち上がったのは、俺とミコトに因縁を付けて来たセシリアなんとか?名字の方は忘れたがこの際なんでも良い。あいつの事はあまり好きにはなれないが今の状況を何とかしてくれるのならどんな奴でもどんとこいだ。

 

「その様な選出は認められません!大体、クラス代表が男なんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

そうだそうだ!…って、ちょっと待て。今何か酷い事言われなかったか?

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこの様な島国までISの修練来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!」

 

サーカスって…俺は猿扱いかよ。て言うかイギリスだって島国だろうが。

 

「いいですか!?クラス代表には実力があるものがなるべき、そして、それは国にも選ばれた代表候補生であるわたくしですわ!」

 

普通此処まで行ったら頭にのぼった血も下がるもんだが、どうやらアイツは違うらしい。それどころかますますヒートアップし始めている。クラス代表になんてなりたくは無いがここまで言われるとちょっと癪だ…。

 

「大体、文化として後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

 

あ…駄目だ。堪えられそうにない。

 

何かプッチンと頭の中で切れた様な音がした。もう何て言うかミコトの件もあって色々と我慢の限界だ。

 

「イギリスだって大してお国自慢はないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ…!?」

「何だよ?言い返せないのか?はっ他人の国の事笑えないじゃないか」

 

「あっ、あっ、あなたねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

顔を真っ赤にして何を言い出すかと思えばそんなことかよまったく…。

 

「先に侮辱してきたのはそっちだろ?」

「決闘ですわ!」

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい。で?勝負の内容は?」

「此処はIS学園だと言う事をお忘れではなくて?」

 

成程…ISを使っての勝負か。セシリアの言う事は間違ってない。寧ろ道理と言っても良いだろう。

 

「わかった。じゃあ勝負のISで「少しお待ちなさいな」…何だよ?」

「イギリス代表候補生のわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会。なら、オリヴィアさんもこの決闘に参加して貰いましょう」

「ちょっと待てよ。ミコトは関係無いだろ」

「大ありですわ。同じクラスに専用機持ちが二人。どちらがISで優れているか証明させなければなりませんわ」

 

それはお前の都合だろ…。

 

どうやらまださっきの事で根に持っているらしい。まったく、これだからプライドの高い人間は…。それもセシリアは典型的な今時の女子だから更に手に負えない。

 

「別に誰が代表になろうとどうでも良いが。オリヴィアは誰にも推薦されていないぞ?」

 

そうだ。千冬姉の言う通りミコトは誰にも推薦されていないし自ら立候補した訳でも無い。ならこの決闘に参加する義務なんてミコトは無いんだ。

 

「あっ、じゃあ私がオリヴィアさんを推薦します!私としてはオリヴィアさんの方が気になってたし!」

「あ~!わたしもわたしも~!」

 

ちょっ!?空気読んでくれそこの女子!?

 

「ふむ。これで問題は無くなったな。それではオリヴィアとオルコットの勝負は三日後の木曜。織斑は一週間後の月曜。第三アリーナで行う。各自それぞれ用意をしておくように」

「ちょっ!?待ってくれ千冬姉!」

 

パァンッ!

 

いっつ~~…。

 

「織斑先生と呼べ。自薦他薦は問わんと何度言わせるんだ。馬鹿者」

「で、でも!ミコトはどちらかと言えば巻き込まれただけで…ほら!ミコトも何か言ってやれ!」

「…ぐ~…」

 

がたたっ。女子全員が一斉にずっこける。

 

ってうお~いっ!?

 

「さっきから何の反応も無いと思ったら寝てたんかいっ!?」

 

パシ~ンッ!

 

「……おぉ?」

 

俺にツッコミを入れられ目を覚ましてむくりと起き上がるミコト。きょろきょろと辺りを見回して状況を自分なりに把握しているのだろう暫く考え込むような仕草を見せて口を開く。

 

「…おひるごはん?」

「いやまだ二時間目だから!?」

 

まさかそんな言葉が来るとは俺も予想外だよ。

 

「はぁ…オリヴィア。三日後にオルコットと模擬戦をして貰う。良いな?」

「…んコクリ」

 

寝ぼけた表情で頷くミコト。あれは絶対理解していない。断言できる。

 

「うむ。それでは授業を始める」

 

ぱんっと手を叩いて話を締める千冬姉。俺の反論の余地も無く。決闘は決まってしまった…。

 

ミコトの奴、大丈夫なのか?いやそれよりも俺の方が大丈夫なのか?ISの操縦なんて入試の時が最初で最後だってのに…。

 

対戦まで後一週間の猶予がある。それまで基礎をマスターしておかなければ。その為に、とりあえず俺は基礎知識を身につけるべく授業に集中するのであった…。

 

まぁ…何とかなるだろ。たぶん。

 

 

 


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