IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第10話「ミコトの放課後」

 

 

 

「では、今日はこのあたりでおわる事にしましょう」

「お、おう…」

 

ぜぇぜぇと息をを切らして大の字になって倒れている俺に対して、セシリアは汗一つ掻かずにけろりとした表情で俺を見下ろしてそう告げる。流石は代表候補生…っと言うとでも思ったか!3対1とか苛め以外何でもないだろうがっ!

ミコトの一言が原因で行われる事となった特訓と言う名の地獄。3対1での模擬戦闘。しかもその内二人は代表候補生。これを苛めと言わずして何と言うのだろう。

 

「ふん。鍛えてないからそうなるのだ」

「同じく。アンタもっとしっかりしなさいよ」

「ふぅ…まったくですわね。これでは先が思いやられますわ」

 

蔑む様に見下してくる箒とニヤニヤ笑っている鈴、そして呆れたように溜息を吐くセシリアに寄ってたかってフルボッコにした奴が何を言うかと言ってやりたい。が、今の俺には立つ気力さえ残っていない。しばらくはこうして空でも眺めていよう…。

 

「どうした?さっさとピットに戻るぞ」

「俺はもう少しこうしてるよ」

 

ISの補助がある状態でこれだ。今、展開解除すれば恐らくその瞬間に身体に掛かる疲労で倒れてしまうだろう。しばらくこうして居た方が自分の身のためだ。

 

「その…大丈夫か?」

 

流石にやり過ぎたと思ったのか、箒が気まずそうに訊ねてくる。その気遣いをもっと早くしてれたら…。

 

「少し休憩すれば大丈夫だ。先に戻っててくれ」

 

男としてのプライドか少し見栄を張ってみる。正直大丈夫じゃないが模擬戦では良いとこ無しだったのでこれ位の見栄を張らないと男としての立場が無い。

 

「む、そうか…」

「では、お先に失礼しますわ」

 

そう一言言い残していくと、箒とセシリアはピットへと戻っていった。戻る途中、箒が此方をちらちらと心配そうに振り向いて来るのでとりあえず笑って心配するなと手をひらひらさせる。そんなに心配するなら最初からあんな事しなきゃいいのにな…。

 

しかし、他の二人は行ってしまったというのに何故か未だピットに戻ろうとしない鈴。どうしたのかと不思議に思い鈴と、鈴の専用機である『甲龍』を見上げる。セシリアの専用機であるブルー・ティアーズ同様。第三世代のIS。ブルー・ティアーズとは違って俺と同じ接近戦特化の機体らしい。まぁ、クラス対抗で戦うからまだ隠し玉があるんだろうけど。

 

「ふふっ、強がっちゃって。アンタらしいわ」

 

しゃがんで俺の顔を覗きこむと、面白そうにつんつんと俺の頬をつついてくる。止めろ擽ったい。

 

「分かってるなら気を利かして戻ってくれればいいのによ」

「馬鹿。立てないアンタを放って置ける訳無いでしょうが。途中で倒れられたら目覚めが悪いじゃない」

「…いや、その言い方はまるで俺が死ぬみたいに聞こえるぞ?」

「あははは♪」

「いや笑い事じゃないって!?」

「んまぁ、本当にヤバくなったらISが独自で判断して機能停止するでしょ」

「なんだ。脅かすなよ…」

「基礎知識でしょうが」

 

ぺしんと叩かれる。面目無い。知りませんでした…。

 

「「………」」

 

俺と鈴は無言で日が落ちて暗くなり始めている空を見上げる。特訓で火照った身体に冷たい風が心地良い。こうしてると、剣道に明け暮れていた子供の頃を思い出すなぁ…。

 

あの頃は俺の方が強かったのに、今じゃ箒の方が格段に上だもんな。はははっ…。

 

「…ねぇ、一つ聞いて良い?」

「ん?」

 

先程までのあっけらかんとした軽い雰囲気とは違い、急に鈴は真剣な表情へと変貌する。その表情は感情があまり感じられず、鈴と数年間一緒に遊んで過ごした中で一度も見た事の無い俺の知らない表情で、冷たくて、まるで仮面を被っている様だった…。

 

「お昼ではあれ以上空気を悪くしたくなかったから聞かなかったけどさ。本当にあのチビっ子の事千冬さんから何も聞いてないの?」

 

チビっ子…ミコトの事か。

 

「またその話か。いい加減にしてくれよ」

 

気分の良いものではない。友達の事を疑われるのも疑うのも。そして、その疑っている人物が友達なら尚更だ。

 

「偶然とは思えないのよ。アンタの居る、しかも千冬さんが担当するクラスに千冬さんにそっくりなアイツが居る。しかも此処はIS学園…」

「…」

「アタシも一応軍に所属してるからさ。機密に触れないにしても世界各国の噂を耳にしたりする訳。その中には正直胸糞悪い話もあるわ。非合法な人体実験とかね」

 

だからなんだって言うんだ。それがミコトに何の関係がある?止めてくれ。これ以上は…。

唯でさえ疲れているんだ。疲れの所為で苛立ちやすい。久しぶりに再会した幼馴染を怒って怒鳴りたくなんてないんだ。だから、それ以上はやめてくれ。

 

「もしかしたら―――」

「鈴」

「…何?」

「怒るぞ」

 

しん…とこの場が静まり返る。

 

「…………分かった。もう言わない」

 

怒気の籠ったその声に、鈴は口を閉ざしそれ以上は何も言わなくなる。俺も鈴に目を合わせない。唯、空を見上げるだけだ。アイツが、ミコトが大好きなこの空を…。

気にならないと言えば嘘になる。千冬姉と個人でも関係を持っているミコト。何か俺達に言えない秘密があるのは確かなのだろう。でも…。

 

―――…ともだち。

 

ふと、ミコトの顔が思い浮かんだ。頭が良いのに何も知らないミコト。何を考えてるか分からないけど、突然の行動に驚かされる事もあるけど、アイツは自分らしく生きてるだけなんだ。何者にも縛られず、ありのままの自分で…。

 

関係無い。関係無いんだよ。鈴。

 

ミコトは俺の、俺達の友達なんだ。知らない事は沢山あるかもしれないけど、そんなの関係無い。友達だって事だけで十分なんだ。

 

「ミコトと話してみろよ。鈴」

「え?」

 

話せば分かる。ミコトは千冬姉じゃないって。それに、きっと話せばお前も―――。

 

「友達になれるからさ。きっと」

「友達、か…正直苦手なのよね。あの子」

「千冬姉にそっくりだからか?」

 

鈴は本当に千冬姉が苦手だからな。どうしてかは知らんが。

 

「それもあるけど…まぁ、可愛いっちゃ可愛いけど?こう、苛めたくなるって言うか抱きしめたくなると言うか」

 

何かを引っ張る様なジェスチャーを見せる鈴。おいおい…。またセシリアと喧嘩するつもりか?

何だかんだ言ってセシリアはミコトにたいして過保護だ。口では自分は保護者じゃないとか、あまり面倒掛けるなとか言ってるけど常にミコトを気に留めてる様だしあまりミコトにちょっかい出すのはおすすめしない。それに、先輩や職員にもファンが居るみたいだし…。

 

「まっ、一夏がそう言うんだったら今度ゆっくり話してみるわ」

「おう」

「あの柔らかいほっぺがどれだけ伸びるか実験しちゃる」

「それはやめとけ…」

 

セシリアどころか箒も激怒するぞ?いやマジで…。

 

「そう言えば、肝心のそのちびっ子は何処に行ったの?」

「ああ、ミコトならきっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10話「ミコトの放課後」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

「最近、体調は悪くなったりしてないか?」

「ん」

 

私が居るのは職員室。コーヒーの臭いでいっぱいであまり好きじゃない。私の目の前で椅子座っている千冬の机はいつも紙や本でごちゃごちゃしてる。忙しいのは分かるけど整理すべき。

 

「そうか。体調に悪くなったら直ぐに私か山田君に言うんだぞ?」

「ん」

 

千冬は怖いけど私を見ててくれる。もしかしたら真耶より私を見ててくれてるかもしれない。だから怖いけど好き。でも少しは優しくしてくれたら嬉しい。真耶や他の先生は優しくしてくれるのに…。

 

「…学校は楽しいか?」

「うん」

 

学校、楽しい。色んな人と話せる。自由に外に出られる。ともだちがいる。一夏が居る。箒が居る。本音が居る。セシリアが居る。だから、楽しい。

 

「そうか」

 

千冬が笑った。千冬はたまにしか笑わないけど、笑う時はいつも優しく見える。

 

「一夏と友達になったんだってな?」

「ん。一夏、箒、本音、セシリア。ともだち」

「良かったな」

「ん。クリスに自慢する」

 

クリス、驚く。えへへ、楽しみ。

 

「………」

「千冬?」

 

何だか怒ってる?ううん。違う。悲しそう…。

 

「…織斑先生だ。今は放課後だが此処は職員室だ。先生と呼べ」

「ん」

「はい、だ。まったく…」

 

どしりと椅子に身体を預ける千冬。何だか疲れてるみたいだけど大丈夫かな?心配…。

 

「今日はもう良いぞ。また来週体調の報告に来るように」

「ん。おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

おやすみの挨拶をして私は職員室を出る。これからどうしよう?用事は終わったけどまだ夕食まで時間はある。お散歩しようかな?

ん…。何処行こうかな?一夏は箒達と特訓するって言ってた。邪魔しちゃいけない。んー…。

 

お空を眺めるのも良いけど…。

 

いつもならお空を眺めてる。でも、今日は誰かとお話したい気分。どうしようかな…。

 

「ん。決めた」

 

行先を決めると、くるりと方向転換して階段を昇る。本音に会いに行こう。たぶん生徒会室でお菓子食べてる。

 

「お菓子♪お菓子♪お菓…ぁ」

 

―――お菓子ばかり食べてちゃダメだぞ?

 

一夏が言ってた事を思い出してぴたりと足を止めて考える。どうしよう?お菓子駄目って言われた。お昼もいっぱいお団子食べちゃった…。

 

「……本音に会いに行くだけにする」

「あ♪ミコトちゃん!部活でクッキー焼いたんだけど、食べる?」

「ぅ…今日はいい」

 

決心したその直前に誘惑がやって来た。クッキーの良い匂い。とても美味しそう…。でも、だめ。

 

「そっか。でも食べたくなったらいつでも家庭科室に来てね?御馳走するから♪」

「ん。またね」

 

先輩のお姉さんに手を振ってさよならする。でも、その後も色んなお姉さんに声を掛けられてお菓子を勧められた。何で…?

 

「ミコトちゃん!飴玉食べる?」

「キャー!ミコトちゃ~ん!」

「お菓子あるよ~?いる~?」

「あぅ…食べちゃ、ダメ」

 

我慢。我慢…。

 

そう自分に言い聞かせながら廊下を歩く。途中で何度も誘惑に負けそうになったけど頑張った。一夏は私を褒めるべき。

そんなこんなで生徒会室に着いた。

 

「おじゃまします」

「あら?」

「おやおや?これは珍しいお客さんだね♪」

「たっちゃん。虚。こんばんわ」

 

生徒会室に入ったらたっちゃんと虚がお出迎えしてくれた。たっちゃんはこの学園最強の生徒会長。私をおにごっこで捕まえた二人目の人。いつも会うとくすぐったりしてくる。虚は本音のお姉さん。めがねでくーる。あと優しい。でも本音には厳しい。

 

「こんばんわ。ミコトちゃん」

「はいこんばんわ♪何か御用?」

「本音」

「ああ、本音ちゃんに用事?あそこで寝てるわよ?」

「ぐぅ~…」

 

ピッと扇子で指した方を見たらそこにはテーブルにぐてーとしてぐーすか寝てる本音が居た。

 

「本音。寝てる…」

 

どうしよう?起こしたら悪い…。

 

「まったく、この子は…」

「んー…。起こしても良いと思うけど?」

 

私は首を振る。駄目。本音、気持ち良さそう。

 

「なら、この子が起きるまで此処でゆっくりしていけば?」

「そうですね。わざわざ御足労して頂いたのですから是非そうして下さい」

 

と、虚は言うといつの間にかココアの入ったティーカップを持って来てくれてた。いつも頼んでいないのに持って来てくれる虚はとてもすごく気がきいてる。

 

「ん。おじゃまする」

「く~!可愛い奴め!このこのっ!」

「くすぐったい…たっちゃん」

 

がばっと私に抱き着いて来るたっちゃん。ん。たっちゃんはくすぐり上手。

 

「どう?IS学園に入学してみて。学園生活を楽しんでる?」

「ん。毎日楽しい」

 

たっちゃんに抱きかかえられた状態で、今日二度目の質問に私は頷く。

 

「そっか♪生徒会長として嬉しい限りね♪」

「充実な学園生活を楽しんでおられる様でなによりですね」

「ん。でも、それはたっちゃんや虚。千冬達のおかげ」

「こらこら~。あんまりお姉さんを煽てると攫っちゃうぞ~?」

「もう、お嬢様」

「?」

 

…私を攫ってどうするんだろう?たっちゃんは時々、よく分からないことを言う。

 

「そう言えば、もうすぐクラス対抗ね。確かミコトちゃんのクラス代表はあの噂の織斑一夏くんだったかしら?」

「ん。だから一夏は特訓中」

 

今頃きっと箒達とアリーナで頑張ってる。

 

「おぉ~。青春してるわねぇ~」

「努力する事は良い事ですよね」

「ん」

 

がんばる事は悪い事じゃない。がんばればいずれ必ず良い事がある。クリスはそう言っていた。何もせず、最初から無理だってあきらめるのが一番いけない事だって。

 

「それでそれで?ミコトちゃんから見てその織斑くんのISの才能はどんな感じなの?」

「私はそう言うのは分からない」

「あらそんな事言っちゃう?武器使用ならともかくとして、機動戦のみのキャノンボール・ファストでは私に勝ち越してるミコトちゃんが?」

「むぅ…」

 

わからないものはわからない…。

 

「会長。あまりミコトちゃんを困らせないで下さい」

「あはは、ごめんごめん♪だってミコトちゃんの反応見てると飽きないんだもん♪」

「まったく…」

「それにしても、クラス対抗かぁ…どうするんだろね。あの子は…」

「あの子…?」

 

誰の事だろう?

 

「え?ああ、こっちの話♪ミコトちゃんは気にしなくても良いわ」

「ん。…たっちゃん」

「何かな?」

「困った時は言う。私はたっちゃんにいっぱい貰ってる。次は私が返す番」

「…ええ。その時が来たらお願いしちゃおっかな?」

「ん。任せる」

 

胸を張って頷く。たっちゃんが困った時は私が助けてあげる。約束。

 

「ふわぁ~…お昼いっぱい食べたからねむいよぉ~…」

 

丁度たっちゃんとの話が終わり。良いタイミングで本音が目を覚ます。ん。本音の気持ちは良く分かる。私も少し眠い。

 

「…あれ?みこちー?どうしてここにいるの~?」

「おはよう。でも、もう夕方」

「あ…ほんとだぁー…」

 

お空はもう赤く染まってお日様がもう沈もうとしてる。たぶん、あと一時間もしない内に日が暮れて夜になると思う。カラスが鳴くからかえろ?

 

「ミコトちゃん。ずっと貴女が起きるの待ってたのよ?」

「えぇ~!?ごめんねー?みこちー」

「気にしない」

 

ぼーっとしてるの好きだから。空を眺めてるとなおいい。ずっといい。でも、今日はもう帰る。

 

「本音。寮に戻る」

「そだねー。かえろっか…うぅ、寝起きはくらくらするよぉ」

「ん。虚。ココアごちそうさま」

 

虚から貰ったココアを飲み干すと私はティーカップを虚に返してお礼を言う。ん。とても美味しかった。またごちそうになる。

 

「お粗末さまでした。また何時でも来て下さいね?」

「ばいばい♪ミコトちゃん」

「ん。また今度来る」

 

二人は忙しいからあまりお邪魔出来ないけど…。

 

私は二人にさよならすると、本音の手を引いて生徒会室を出る。

 

「ごめんねーみこちー。待ったよねぇ?」

「だいじょうぶ。たいくつじゃなかった」

 

一人だったら寂しかったけど、たっちゃんや虚が居てくれたから寂しくも無かった。だから気にしない。

 

「ほんとー?」

「ん」

 

顔を覗きこんでくる本音に私は頷く。

 

「ありがとね。みこちー」

「?…ん」

 

お礼を言われる事なんて何もしてないのに。変な本音。

校舎を出るともう空は茜色から藍色へと染まり始めていた。もう夕食の時間だし早く戻らないと。

 

「おぉ~。夕陽が街に沈んで綺麗だねぇ」

「ん」

 

夕陽と街が重なって、まるで街自身が輝いてるみたい。凄く綺麗…。

 

空は時と場所で姿を変える。太陽もそう。だから見ていて飽きない。そして何処までも広くて遠くて届かないから憧れる。いつかあの場所に届きたいって。今の私は、届いたのかな?ねえ、イカロス・フテロ。

 

「おっ!いたいた!おーい!」

「一夏?」

「あ、おりむーだぁ」

 

アリーナの方から一夏が手を振ってこっちに歩いてくる。特訓は終わったのかな?

 

「な?俺の言った通り空を見てただろ?」

「はいはい。何でそう自慢げに言うのよ…」

 

ん?何の話?

 

私が一夏の言っている事が分からなくて首を傾げる。

 

「えっとな。ミコトはいつも暇さえあれば空を見てるだろ?だからグランドか屋上に行けばミコトは見つかるって言ってたんだよ」

 

ん。間違ってない。

 

「残念でしたおりむー。さっきまではみこちーは生徒会室にいたんだー。今空を見てたのはたまたまおりむ―が立ち止まってるところで声を掛けただけー」

「あれ?そうなのか?」

「ん」

 

今日はもう帰る予定だったから。

 

「なぁんだ。見つかったのは唯のまぐれじゃない」

「私に用事?」

 

今の言い方だと、私を探してるみたいだった。

 

「えっとな。用があるのは俺じゃなくてだな」

「アタシよ」

 

凰 鈴音?

 

「むむっ…」

 

一夏を押し退けて前に出てくる凰 鈴音。それに対して本音が何だか警戒してる。仲悪いのかな?凰 鈴音は一夏のおさななじみだから本音とは喧嘩して欲しくないな…。

 

「なに?」

「これで本当に最後。もう一度聞くわ。アンタは何?」

「ちょっとちょっとぉ!少ししつこいんじゃないかなー?」

 

ぷくーと膨れる本音。でも私は本音の袖を引っ張って本音を引き止める。

 

「…みこちー?」

 

首を振って本音に下がってとお願いする。これはこたえないといけないから。ゆずれないから。

 

「ミコト・オリヴィア」

 

何度問われようと、この事実は変わらない。変わるつもりも無い。この名前はクリスが私にくれたもの。私であることの証明。私が私である限り。ミコト・オリヴィアはミコト・オリヴィアであり続ける。ずっと…。

 

「…そう」

「………」

「………」

 

私と凰 鈴音。それに私達の居るこの場に沈黙が流れる。まるで時が止まった様に…そして、その停止を崩したのは凰 鈴音のほうだった。凰 鈴音はすっと私に手を伸ばすと…。

 

ふにー…

 

「ふにゅ!?」

 

私のほっぺをぐにーって引っ張って来た。とってもイタイ。

 

「にゅーっ!?」

「何これ!やわらかーい♪マシュマロみたい。まるで赤ちゃんの肌ね!」

 

赤ちゃんの肌はあながち間違ってない。でも引っ張るのはやめて。のびて戻らなくなっちゃう!

 

「ふにゅー!にゅうー!」

「あわわ!?みこちー!?このー!なにをするだー!?」

「お、おい鈴!嫌がってるだろ?止めてやれって!」

「ぷっ、今日はこの辺で勘弁しといてあげるわ」

 

ぱっと手をほっぺから放されるとヒリヒリするほっぺを擦る。何を勘弁されるんだろう。すっごく不服。私何もしてないのに…。

 

「う~…」

「あたしの事は鈴って呼びなさい。あたしもミコトって呼ぶから」

「う?」

 

突然の申し出にきょとんとしてしまう。どう言う事?引っ張ったり名前を呼べって言ったりよく分からない。鈴は苦手…。

 

「あ、でも友達については保留ね」

「なんだよそりゃ…」

「いいじゃない。私だって選ぶ権利はあるでしょ?まだこの子を知った訳じゃないんだし急に友達になるってのも変な話じゃない」

「俺と箒は直ぐに友達になったぞ?」

 

ん。一夏と箒はすぐに友達になってくれた。

 

「アンタがおかしいのよ。…それで?なんか文句ある?」

「ミコト?」

「ん…ない」

 

少し残念だけど、ともだちになって貰えるように私が頑張ればいいんだ。ん。頑張る。

 

「むむむ~…みこちーが良いのなら私はかまわないけどさぁ」

「そっ、なら寮に戻りましょ。もう真っ暗だしお腹も空いたわ」

「だな。もう腹がペコペコだ…」

 

運動するとお腹空く。一夏が頑張った証拠。きっとごはんも美味しいと思う。

 

「箒も部屋で待ってる。早く帰る」

 

いつまでも待たせたら箒に悪い。

 

「そうだな」

「え?箒も部屋で…?」

「ん。箒は一夏と同じ部屋」

「あ゛…ミコト、それを言っちゃ…」

「…どういうこと?一夏?」

 

…なにか、鈴の様子がおかしい気がする。

 

「いや、俺の入学が特殊だったから、学園も部屋を準備できなくてだな…その…」

「それって、あの子と寝食を共にしてるって事よね…?」

「そ、そういうことだな…い、いやー、箒で助かったよ。これが見ず知らずの相手だったら緊張して寝不足に―――」

「……だったら、いいわけね?」

「うん?どうした?」

「だから!幼馴染ならいいわけね!?」

「うおっ!?」

「っ!?」

 

急に大きな声を出さないで欲しい。びっくりする…。

 

「わかった。わかったわ。ええ、ええ、よくわかりましたとも」

 

何がわかったんだろう?鈴は何度も何度も頷いている。今の会話で何か悩む事でもあったかな?

 

「一夏!」

「お、おう!」

「幼馴染が二人いる事を覚えておきなさいよ!」

「別に言われなくても忘れてないが…」

「うっさい!この馬鹿っ!」

「ぐほぉっ!?」

 

一夏…凄く綺麗に飛んだ。IS無しで飛べるなんて一夏は凄い。

 

「じゃあ後でね!逃げるんじゃないわよ!」

 

ずんずんと大きな足音を立てながら寮へと入っていく鈴。まるで怪獣みたい。でも何で怒ってたんだろう?どうしてだろうね?一夏。

 

「わ、わけわかんねぇ…」

「ん」

 

私もそう思う。

 

「…これはおりむーが悪いよー」

 

え?どうして?よく分からない。

 

首を捻る私に本音は「みこちーにはまだ早いよー」と頭を撫でてくる。本当によく分からない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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