IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第20話「激突」

「あら?一夏さん達はまだ夕食を済ませていらっしゃらないんですの?」

 

本国からのIS開発担当者に呼び出され、折角の土曜日の午後を潰されたわたくしはようやくIS学園に戻ってくると、急な用事だったために昼食も抜いていたのでまず一番に食堂へと訪れていた。するとどうだろう。一夏さんはまだ食堂に訪れていないと言うではないか。これは嬉しい情報。午後はずっと一夏さんと会っていないので夕食時くらいは一緒に居たいと言うのは惚れてしまった女としては当然の事だろう。

 

「みたいだよ?皆、食堂では見て無いって言ってるし部屋に居るんじゃない?」

 

一夏さんは学園内で唯一の男性…最近では二人に増えたがそれでも十分に目立つ。それで誰も食堂で見ていないとなればそれはもう決定的。是非とも夕食を誘って共にしなければ!

ふんっと意気込み食堂の出口へとUターンするわたくしに先程まで話していたクラスメイトの方は頭上に「?」を浮かべてわたくしを見送るのでした。

 

「うふふ♪一夏さん。待っていて下さいませ♪」

 

今わたくしがお迎えに向かいますわ~♪

 

舞う様に軽やかな足取りで寮の廊下を進むわたくし。そんなわたくしの前にうんざりとした表情を浮かべた鈴さんが食堂に向かう途中だろうか?のろのろと疲れた様な足取りで歩いて来ていた。

確か、鈴さんもわたくしと同じで本国の人間に呼び出されてたんでしたわよね?

成程、鈴さんも散々小言を言われてきたようだ。わたくしも『修理費の負担が大きい』だとか『もっとデータサンプルを寄越せ』だとか、此方の都合など全く無視した小言ばかり言われましたから。あの方の気持ちは良く分かりますわ。

 

「鈴さん。今お戻りに?」

「ん?…ああ、セシリア。アンタ先に戻ってたんだ。…うん。ちょうど今戻ってきたとこ。まったく、あの頭でっかち。こっちの都合も知らないで無理難題押し付けてくれちゃってさぁ。だから彼氏も出来ないで毎年独り身なのよったく…」

 

…これはまた随分と言われてきたようですわね。

 

後半から担当の方の悪口が始まったので敢えて聞き流しておく。付き合ってたら物凄い時間がかかりそうでしたから。

 

「随分とお疲れのご様子で…。これから夕食を誘いに一夏さんの部屋に向かうのですがご一緒にいかが?」

 

本来なら鈴さんとはライバル同士で夕食を共にしよう何て思いもしないのだろうが、目の前の疲れ切った彼女を見て同情したのか、それとも同じ境遇の者同士通じる物があったのか。何故か自然とそれが当たり前のようにわたくしは彼女を夕食に誘っていたのでした。

 

「あー…今回はパス。お昼抜いてるから正直キツイのよ。先に食堂行って食べてるわ」

「そうですの。まぁご自愛なさいな」

「んー…お先ぃ…」

 

ふらふらと呪詛を唱えながら食堂へ去っていく鈴さん。本当に大丈夫でしょうか…?

 

「まぁ、死にはしないでしょう。代表候補生がそんな事では務まりませんわ」

 

そんなことより早く一夏さんの部屋に向かうとしましょう。入れ違いにでもなったら面倒ですわ。唯でさえ空腹の上疲れた体に鞭を打っているのですから、無駄足というのは御免ですもの。

歩みを速くして一夏さんの部屋へ急ぐ。それにしても本当に疲れている様だ。心なしか足だっていつもより重く感じる。今日は食事を済ませたら早めに休む事にしよう。本当に本国の頭の固い方達の所為で踏んだり蹴ったりだ。せめて一夏さんと夕食を共にしないと本当に今日一日を無駄にしてしまう。

そんな事を考えている内に目的地に到着。一夏さんの部屋のドアの前に立つと一旦深呼吸をしてからドアノブに手を掛け―――。

 

「一夏さん。いらっしゃいますか?夕食を取られてないと他の方達から聞いたのですけど、よろしかったらご一緒にどうでしょう………か?」

 

扉を開ける瞬間に視界に飛び込んで来た部屋の中で繰り広げられている光景を目にして、わたくしは音を立てて固まってしまった…。

 

…ナンデスノコレハ?

 

え?なに?どういう状況ですの?デュノアさんがミコトさんを抱きしめて。つまりそういうことですの?そういうことですのね?ええわかりましたわ。わかりましたとも。ならわたくしがするべき事はひとつですわね。

 

悪い虫は駆除してしまいましょう♪

 

「………………………………………ブルー・ティアーズ」

 

気が付けばごく自然に、まるで呼吸をするかの様にわたくしはわたくしの半身であるブルー・ティアーズを展開していた。その展開し終わるまでにかかった時間は一秒も満たない今までの最短記録。しかし、本来なら自身の成長を意味している喜ばしい筈のそれも、今のわたくしにとってはどうでも良い事であり、わたくしはライフルを静かに構えて不埒者の頭に照準を合わせた。

戦車の装甲も貫く威力を持つこのスターライトmkIII。生身の人間に当たれば一溜まりも無い。当たった後に色んな物が弾けて部屋がスプラッタな事にはなりそうですが…。まぁ、小さな事ですわね。

 

せめてもの慈悲ですわ。痛みも感じる暇も無く一瞬で―――。

 

「お、落ち着けセシリア!?流石にそれはまずい!?」

 

羽交い絞めでわたくしが引き金を引こうとするのを阻害する一夏さんですがそんなものではISを装着したわたくしを止められる筈がありません。

 

「放して下さいな一夏さん。今、わたくし何かに目覚めそうですの。きっと単一仕様能力か何かが目覚めようとしているんですわ…」

 

そう、今のわたくしは最強。もう何も怖くありませんわ!

 

「それ違うから!目覚めちゃいけない何かが目覚めようとしてるから!?」

「あ、あわわわわ…」

 

あらあら子犬のように震えて。安心なさいな痛くしませんから。

 

「何々?何の騒ぎ…って!?セシリア!?アンタ何してんのよ!?」

 

鈴さん。先に食堂で夕食を摂るのではありませんでしたの?…ああ、どうやら済ませて部屋に帰る所でしたのね。表情に疲れは残っていますけど空腹感は満たされている様ですし。

 

「邪魔しないで下さいます?今、ミコトさんに纏わりつく害虫を排除する最中ですから」

「なに訳の分からない事言って……え?何この状況?」

 

わたくしが知りたいですわよ。

 

結局、この騒ぎが寮中に広まってしまい。寮中の生徒達が騒ぎを聞きつけ集まり収拾がつかなくなり、不埒者の処刑は保留となってしまいました。

―――…まぁ、本来保留なんてありえないのですけど、それ以上に重大ことが発覚してしまったから仕方ありませんわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第20話「激突」

 

 

 

 

 

 

 

 

簡潔に言う。シャルルが女だって事がばれた。以上。

…いや、ふざけるなとか手抜きって言われそうだけども、あの状況で秘密を突き通すってのは無理がある。寮中の女子がこの部屋に集まって来た上にその時のシャルルは男装していないから隠し様がなかったのだ。

その結果、結局廊下に群がっていた女子達には帰って頂いてセシリア達にこうして事情を説明している訳なのだが…。

 

「成程、そういうことでしたの♪オホホホ♪」

「そうならそうって言ってくれればいいのに~♪」

 

ミコトを抱きしめてモフモフしながら二人は満面の笑みでそんな事を言って下さいますが、こちらの弁解を聞かずに問答無用だったじゃないですか。ていうか、笑って済ますなよ本当に…。

しかし文句を言う勇気は俺には無く、セシリア達の前でシャルルと仲良く並んで床に正座している。

 

「そんな呑気な事言ってる場合じゃないでしょ。結構重大な事よこれは」

 

誠に御尤もな意見。ミコトの事でもそうだったが、鈴は軍属なだけに今回の件の重大さが理解出来ているらしい。無論セシリアも分かってはいるだろうけど…。

ちらりとセシリアを見ると、視線が合った途端にさっと視線を逸らしてミコトをモフる作業を再開する。さっきの件でシリアスになりたくてもなれないらしい。だったら最初からするなよと。

 

「…いきなり呼び出されて

話が読めないんだが?私のざるそば返せ」

 

いきなり訳も分からず呼び出されて状況に全く付いて行けてない箒。自分が何でこの部屋に居るのかすらも理解していない様だ。そのうえ、夕食を取り上げられた所為で未練がましいオーラを放っているが此処に居る全員がスルー。箒、今お前は怒っていい。

 

「簡単に言えば、デュノアは実は女だったって話よ」

 

本当に簡単だな。しかし鈴よ。そんなこと言ったら箒が…。

 

「…ほう。一夏、少しツラを貸せ」

 

ほら!こう言った事になるだろ!?漸くさっきの物騒な雰囲気からおさらばしたと思ったのにまた振り出しかよ!?

 

「その件については同意だけど、それは後にしましょ。今はデュノアの事が先決。これからどうするか決めなくちゃ」

 

どうするかって…。

 

「まさか!シャルルが女だって事バラすのかよっ!?」

「あれだけの騒ぎ起こしておいて何言ってるのよ。隠し通せるわけないでしょうが」

 

確かに鈴の言う通りだ。シャルルが女だって説明したのはこの場に居る人間だけだが、あれだけの人数に見られているんだ。無理な言い訳で説得してあの場から解散させたといっても、説明中に胸を隠す様にしていたシャルルに疑問を抱いた生徒だってきっといるに違いない。

だけど、だからって…。

 

「だ、だからってバラす必要はないだろ?俺達が黙ってれば別に…」

「学園側に黙っている時間が長いぶんだけ自分の立場を危うくするわよ?早ければ早い方が良い。その分弁解が出来るってものよ」

「鈴さんのおっしゃる通りですわね。黙っていてもなんの得はございませんわよ。むしろ自分の首を絞めるだけですわ」

「…っ」

 

学園を敵に回すのは避けたい。二人はそう意見を述べる。おそらくミコトの件も踏まえての考えだろう。ラウラの事もあるのにこれ以上の問題は避けたいと二人は思っているらしい。しかし俺はその考えが気に喰わなかった。確かにシャルルはこのメンバーの中では一番付き合いは短いかもしれない。ほんの一週間程度だ。でも、俺にとっては大切な友達なんだ。切り捨てるなんて考えは嫌だ。

すると、俺の考えている事が顔に出ていたのだろうか。セシリアは苦笑して言葉を捕捉した。

 

「ご安心を。何もデュノアさんを追い出そうと言う事ではありませんのよ?」

「…え?」

 

どういう事だ?今の話の内容からしてシャルルを学園に居られなくなるって事だと思うだけど。

 

「ふふ、やはり勘違いをしてましたのね一夏さん。わたくしだってデュノアさんの友人でしてよ?そんな見捨てる様な真似いたしませんわ」

「「(さっき貴女に殺されかけたんですが…?)」」

 

俺とシャルルは心の中でそうぼやいたが決して口には出さなかった。

 

「個人情報を改竄されてたとはいえ、正式な手続きのもとにIS学園に転入してきたのですからこの学園に留まる事は何ら問題はないと思いますわ。別に試験やISの適応値に不正は無いのでしょう?」

「え?う、うん。ちゃんと編入試験は受けたし、ISの適応値も学園が測定したから…」

「なら、学園側としても優秀な人材は大歓迎でしょう。優秀な生徒がいるだけそれだけ有益なデータも得られるのですから。まぁ、何かしらのペナルティはあるかもしれませんが…」

「あと、デュノア社の信頼はガタ落ちでしょうね。でもデュノアには関係のない事なのでしょう?」

「…うん。そうだね」

 

シャルルは表情を曇らせたものの、後悔といったものは感じさせられなかった。さっき俺と二人っきりで話した時も言っていたが本当に実家がどうなろうとシャルルにはどうでも良いのだろう。もしかしたらこれはシャルルなりの復讐…いや、こんな事を考えるのはやめよう。

 

「そ、なら問題ないわね。明後日にでも職員室に行って千冬さんにでも暴露しちゃいなさい。あの人なら悪い様にはしないでしょ」

 

確かに千冬姉は厳しいけど生徒からの信頼は厚いからな。

無論、それは千冬姉がモンド・グロッソで優勝して、女子からの憧れだからではない。それもあるだろうが、教師としての面の方が強い。千冬姉は一度面倒見ると決めたからには相手がそれを拒絶しない限り最後まで面倒を見るという考え方を持っているからだ。表も裏も無い教師としての態度の結果、今の生徒達の信頼がある。

 

「あはー。でもまやまや可哀そうかも。転校生が同時に転校してきて手続きとか大変なのにー」

 

のほほんさんの言葉に、ミコトを除いた全員が「確かに」と頷く。そう言えば俺みたいな異例の場合、書類作成とか手続きもかなり面倒だって千冬姉が言ってたなぁ。涙目でてんやわんやしている山田先生の姿が頭に浮かんで申し訳なくて頭が下がる。

 

「真耶。最近お仕事忙しいって言ってた」

 

そう言えば書類整理とかそう言う面倒な仕事は山田先生に押し付けてるって千冬姉が言ってたな。止めを刺す事にならなければ良いんだが…。

 

「過労で倒れなければいいのだがな…」

「ん。がんばったねっていいこいいこしてあげる。そしたら真耶元気になる」

 

もう何も問うまい。そうだ、これは日常的な風景。日常的な風景なんだ……………もうやだこの学園。

 

「まぁ山田先生の尊い犠牲は置いておくとして」

 

置いとくのか。それはそれで酷いな。

 

「もうあたし部屋に戻っていい?今日は色々あってクタクタなのよ」

 

げんなりと疲れた表情を見せる鈴。

 

「そう言えばセシリアと鈴は本国の人に呼び出されたんだっけ。何かあったのか?」

「別に何も。ただ一言で言うんだったら婚期を逃しそうな女の愚痴に付き合わされただけ…」

「わたくしも似た様なものですわね」

「うわぁ…」

 

よく分からんが途轍もなく面倒そうで関わりたくないのは理解出来たよ。

 

「ふ、二人とも疲れてるみたいだし。今日はもう話はお終いにしようぜ?」

「何を言っている。まだ重要な話が残っているだろ」

「へ?」

 

がしっと肩を掴んでくる箒の手。気が付けばもう一方の肩も鈴によって掴まれていた。

 

「そういえばそうだったわね」

「一夏さん。少しお付き合い頂けるかしら?」

「ちょ、え?まっ…」

 

退路を塞ぐかのように入口の前に立ち塞がるセシリア。何と言う包囲陣だ。逃げ場が無い。何でお前らはこういう時に限って連携がうまいんd―――――。

 

「みこちーは部屋に戻ってようねー♪」

「? ん」

「デュノっちも私達の部屋にしばらくお泊まりだよー」

「え、でも一夏が…」

「男の子と一緒の部屋はまずいでしょー?あと、おりむーはこれから強制おねむだからいいのー」

「え、ええっ!?それってどういう…い、一夏ー!?」

 

ずるずると引き摺られていくシャルルは俺の名を叫ぶが俺は何も反応しない。何故なら―――。

 

「…………(返事が無い。ただの屍のようだ」

 

とうの昔に俺の意識なんてこっちの世界に留まっている訳が無いのだから…。

 

 

 

 

 

「(…し、しかし不味い事になりましたわ。まさかデュノアさんが女性の方だったなんて…学年別トーナメントの障害がまた一つ増えてしまいましたわね)」

 

一夏のお仕置きを終えて部屋に戻ると、思いもよらぬ乱入者の登場に一人焦るセシリアなのであった。しかしこの少女。一夏と箒だけの約束をちゃっかり自分にも成立させて漁夫の利を得る気満々である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

暗い。暗い夜空の下、私は誰も居ない屋上から光を灯す一つの窓を、奴の部屋の窓を唯じっと睨み見下ろしていた。

市街地から切り離されたメガフロートに建設されているIS学園の夜はあの遠くの方でチカチカと鬱陶しく光を放つ市街地と比べると暗い。しかし私にとってこの暗闇は心地良くもあった。何故なら私は生れた時から闇と共にあったのだから。闇によって育まれ、影の中で生まれた。それが私ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、か…」

 

自分の名前だと言うのにそうだと言う実感が湧かない。どちらかと言えば『記号』。そう、私にとって何の意味も持たない『記号』だ。この名前は。誰にこの名を呼ばれても、自分が呼ばれている様に思えなかった。雑音が聞こえるその程度でしかなかった。何故ならこの名は『記号』でしか無いから…。

けれど、唯一例外はある。教官に―――織斑千冬に呼ばれるときだけはその名は『記号』ではなく特別な何かになった様な気がして、そのたびに私はからっぽの心が満たされる様なそんな感覚を感じていた。

 

あの人の存在が…その強さが、私の目標であり、存在理由…。

 

それは、闇の殻に籠る私にとってまさに光の様な存在だった。出会ったとき一目でその強さに震えた。恐怖と感動と、歓喜に。心が震えた。身体が熱くなった。そして願った。

 

―――ああ、こうなりたい。

 

これに私もなりたい、と。これが、何も持たない私の初めての願いだった。空っぽだった場所が急激に埋まり、そしてそれが私にとっての全てとなった。自らの師であり、絶対的な力であり、理想の姿。唯一自らが重ね合わせてみたいと感じた存在。ならばそれが完全な存在でない事が許せない…。

 

織斑一夏。教官に汚点を残させた張本人。そして…。

 

あの人の模造品である奴を…出来そこないである奴を…殺し―――。

 

ザザッ―――。

 

「…………?」

 

ふと、私の中で疑問の様な物が残る。

 

何故…何故私は奴を憎むのだったか…。奴の存在があの人に対する侮辱だから…。そう、そうだ。だから私は奴を…。いや待て。どうしてそうなる?だって奴は所詮あの人の遺伝子を使って作られた別のξё!se$#■■ザザッー――――。

 

「ぐっ…!?」

 

急に頭の中でノイズが奔り頭が割れる様な激しい痛みで思考が停止する。

何だ?この痛みは…?まるで、何かを考えようとするとそれを邪魔してきているようnξRoё!$#■■ザザッー――――。

 

「ぎ…がぁ!?」

 

―――せ!(’#”UY$'#AAFD}*=|~Q#*coSDA=MZCXCZA=”JM-#'(QkoroSSSアLSD02QJnsend+;A--■--A0L2'Jas+m!&bbbnc=)!――――

 

脳を鷲掴みされた様な激痛に立っていられなくなりその場に膝を着く。

 

「ぐっ…ぐああああああああああ゛っ!?」

 

CZA=”JM-#'(QSろせ■--A0L2'JaUY$'#AAFD}*殺#”UY$'#AAFD}nd+;A--■--Kろせ!A0L2'Jas+m!&bbbnc=)殺せ!cn――――

 

ノイズに混じり何か声が私に訴え掛けてくる。まるで呪いのように、何度も、何度も、何度も…。

 

CZA=”JM-#'(QSKオろせ!コロセ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!―――。

 

殺す?誰を…?

 

その疑問に答える様に頭の中の声に言葉が追加される。

 

ミコト・オリヴィアを殺せ!あの人を侮辱する存在を殺せ!

 

「ミコト・オリヴィアを…殺す?……なzぐあっ!?」

 

何故?そんな疑問を持とうとすればまた激しい痛みが頭を奔る。そしてまた何度も何度もあの声が響く…。

 

殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺s…――――。

 

「…………ぁ――――」

 

まるで頭の中が書き変えられていく感覚。そしてだんだん思考が薄れていき頭の中で繰り返される声が聞けなくなる頃にはもう私は何も考えてはいなかった。いや、自分が先程まで何を考えていたかすら覚えていなかった。覚えているのは機会があれば奴を狙撃しようという理由で屋上に出て来たという事だけ。そして奴の部屋の窓を見てみれば既に灯は消えてカーテンが閉められていた後だった…。

 

「? ………機会を逃したか」

 

違和感の残る本来なら有り得ない筈の自分の失態に疑問を感じながらも、私はまだ冷える夜の風に吹かれて屋上を後にするのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

週の初めの月曜日、朝のホームルームにシャルルの姿は無かった。俺は昨晩から別れてそれっきりだが、のほほんさんも朝早くから職員室に行ったっきりシャルルとは会っていないらしい。大丈夫とは思うがとても心配だ。

 

「み、みなさ~ん…おはようございま…す…」

 

『(う、うわぁ…)』

 

教室に入ってきた干からびたミイラの様になった山田先生を見てクラスの全員が唖然として言葉を失ってしまう。一体、何があったらあんな変わり果てた姿になれるんだ…。

 

「一週間…たった一週間ですよ?やっと昨日手続きとか全部終わったと思ったのにまた転入手続きって…何ですか?実は女の子でしたって…」

 

やばい。これは重症だ…。

一人ぶつぶつと愚痴を溢し始めた山田先生が放つどよどよとしたオーラにクラスの全員が引いてしまっている。しかし流石はIS学園の教師と言った所か、そんな今直ぐに病院に連れて行った方が良い状態のまま話の続きを始めた。

 

「今日はですねぇ…みなさんに転校生を紹介します。まぁ転校生と言いますが既に紹介は済んでるんですけどね、ふふふふ…」

 

先生、その力の無い笑みはやめて下さい…。

 

「じゃあ、入ってくださぃ…」

「失礼します」

 

弱りきった山田先生の声に促され、一人の少女が教室の中へと入ってくる。そして入ってきた人物に教室中がざわめきだした。無理もない。何故なら、昨日まで男子生徒として学園に通っていたシャルルが女子の制服を来て教室に入って来たのだから。

 

「『シャルロット』・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

初めて聞くシャルロットと言う名前。そうか。それが本当のシャルルの…いや、シャルロットの名前なのか。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。ふふふ…寮の部屋割り組むの大変なのになぁ…もう嫌だよぉ…嗚呼、空が霞んで見えます…」

 

…もう、手遅れかもしれない。

 

「え?デュノア君って女……?」

「やっぱりそうだったんだぁ。昨晩ので何か変だなぁって思ってたんだよねぇ」

「男装して転校か…何だか似た様な漫画読んだ事あるかも…なんだったかなぁ」

「どうでもいいわよそんな事。嗚呼、私の初恋がぁ…」

 

驚きや嘆きのざわめきがヒートアップしていく教室。しかしそんな騒がしい教室にパンパンと手を叩いて山田先生が黙らせる。

 

「はいはい皆さんお静かに~…一番叫びたいのも泣きたいのも私ですよ~…」

 

『…………』

 

本来ならこんな細々そとした声にこのヒートアップした女子達を止められる筈もないが今は違う。哀愁漂う山田先生の表情を見て黙らずにいられる奴はいるだろうか?いや、いない。そんな奴人間じゃねぇ。お前の血は何色だと問いたい。

…しかし、何事にも例外はいるものだ。

 

「山田先生。生徒達の前で情けない姿を晒すのは控えろとあれ程言っているだろう」

 

遅れて教室へとやって来た千冬姉が弱った山田先生に容赦のない言葉を投げかける。

 

「…そう言うんだったら手伝って下さいよぉ」

「事務処理は君の担当だろう?役割分担で決めたじゃないか。私は忠告もしたぞ。今年は例年通りだとおもうなよ、と」

「…ぐすん…うぅ…」

 

『(お、鬼だ…)』

 

ニヤリと口の端を吊り上げてまるで悪魔を連想させる笑みを浮かべる千冬姉に、山田先生は力無く崩れ落ち涙を零し、俺達は自分の担任の恐ろしさに改めて恐怖するのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side セシリア・オルコット

 

 

現在の時間は放課後。教室から誰にも気づかれない様こっそりと抜け出したわたくしは第三アリーナにやってきていた。

 

「デュノアさんという強敵が現れた今、優勝を狙う為にはさらに特訓を重ねなければなりませんわ!」

 

唯でさえ今年の一年生は、例年と比べて代表候補生が多いと言われている。なら、トーナメントが激しい戦いになるのはまず避けられないだろう。実力が劣ればすぐに弱者は蹴落とされる。自分が他者より劣っているとは思わない。しかし、実際にわたくしはこのIS学園に来て一度敗れている。素人同然であるはずのあの方に…。

 

もう、わたくしは負けられないのですわ!

 

そう、負けられない。わたくしのプライドに賭けて。そして、優勝した暁には…。

 

「…ふふふふ♪」

 

夢の様な未来を思い描きにへらぁ、とだらしなく緩みまくりな笑みを浮かべてしまうわたくし。

 

「…ハッ!?いけないですわ。わたくしとした事が!こんなところ誰かに見られたり何てしたら…」

「………(゚д゚)」

 

正面には何故かタイミングを見計らったかのように鈴さんが立っており。わたくしと鈴さんは互いに身体が硬直した状態で視線が交わった。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

片や自分の恥ずかしい所を見られてしまい、片や友人のアレな場面をみてしまい。何とも言えない気まずい沈黙が二人の間に流れる…。

 

「………」

「………サッ(゚д゚;)」

 

鈴さんがわたくしから逃げる様に視線を逸らす。

 

「ちょっ!?何で視線を逸らすんですの!?」

「え、いや、その……」

「こっちをみて話して下さいな!」

「いや、それは無理(キッパリ」

「何でこういう時だけキッパリと言い切りますの!?」

「気持ち悪い笑顔を直視しろっての?無理言わないでよ」

「今は笑ってませんわ!」

「気持ち悪いのは自分でも認めるのね…」

「ぐっ…」

 

確かに、自分でもだらしないとは思いましたわ。ですが!気持ち悪いとは思って無くてよ!?

 

「それで?何をそんなに嬉しそう?にしてたの?アンタの奇行は別に珍しくもないけど」

「わたくしを何だと思っていますの!?わたくしはただ今月末の学年別トーナメントに優勝して一夏さんと―――はっ!?」

 

慌てて口を塞ぐが時既に遅し。鈴さんを見てみればジト目で疑うような眼差しをわたくしに向けて来ていた。

 

「へぇ…一夏と何だって?」

「な、何でもありませんわ。オ、オホホホ…ちょ、首!首締ま゛っでまずから!」

「吐け♪」

 

その小柄とも言える身体から想像も出来ない物凄い力で襟元を締められ身長差はそれなりにある筈なのに足がプランプランと吊るされてしまう。更にそのうえ虚ろな瞳で迫られたわたくしには白状する事以外にこの状況から脱する術は残されてはいなかった…。

 

 

 

 

「綺麗な小川の向こうでお父様とお母様が手を振っている夢を見ましたわ…」

「それは良かったわね」

 

全然良くありませんわよ。仲睦ましい二人を見て複雑な気分になりましたわ…。

 

「それにしてもトーナメントに優勝すれば一夏と付き合えるんだ。ふふ♪良いこと聞いちゃった♪あのおばさんのご機嫌取りにある程度本気でやるつもりではあったけど、これは全力で優勝を狙わなきゃね♪」

「お、お待ちなさいな!これはあくまで一夏さんと箒さんの間で交わされた約束であってですね!」

「優勝賞品を横取りしようとしてた奴の言う台詞じゃないわね、それ」

 

う゛、それを言われると図星なだけに何も言い返せなくなりますわね。

 

「ゆ、優勝は譲らなくてよ?」

「上等、返り討ちにしてあげるわよ」

「むっ…言ってくれますわね。わたくしを甘く見ていなくて?その言葉そのまま貴女にお返しいたしますわ」

 

「「………」」

 

わたくし達の間に火花が散る。

 

「……丁度良いわ。ここはアリーナだし、どちらが上かこの際はっきりさせとく?わざわざトーナメント当日まで待つ必要なんてないし」

「あら、珍しく意見が合いましたわね。丁度わたくしも同じことを考えてましたの」

 

気付けば互いにISを展開し終えており、いつでも戦闘が始められる状態で対峙していた…。

 

「ふふ、そう言えばこうして戦うのは初めてでしたわね?」

「そうね。放課後のアリーナじゃ人が多くて戦えたもんじゃないし。それに、候補生同士の戦闘は色々と問題があるしね」

 

候補生同士の戦闘が禁止されているという訳ではない。しかし戦闘の際にもし致命的な損傷が発生した場合、それが国際問題に発展しかねないのだ。だからこそ、問題事を避けるために学園行事以外での候補生同士の戦闘はなるべく控える様に学園側から指示されている。

 

「では―――」

 

いきますわよ、と言い掛けた時。突如わたくしの声を遮って超音速の砲弾がわたくし達の間の地面に着弾した。

 

「「!?」」

 

ハンパ―センサーからの警告に、緊急回避行動をとると、わたくしと鈴さんは揃って砲弾が飛んできた方向を睨んだ。そこにあるのはあの漆黒の機体が佇んでいた…。

機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』、登録操縦者―――。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

表情が憎しみに歪む。わたくしの大切な友達の命を狙う存在。許せざる存在…。

 

「…どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

連結した≪双天牙月≫を肩に置き鈴さんはいきなりの襲撃者にそう訊ねる。口ではまるで友人と話しかける様な明るさを感じさせてはいるが、衝撃砲は既に発射準備の体勢で、彼女から発せられる敵意は私の肌にぴりぴりと伝わってきていた。かくいうわたくしも既に殺る気マンマンな訳ですが。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。…ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

予告も無しの砲撃に続いていきなりの挑発に、わたくしも鈴さんもプツンと何かが切れた。それと同時に何とか衝突するのを踏みとどまっていた理性もこの瞬間吹き飛ぶ。

OK。そんなに痛い目に遭いたいのでしたらお望み通りにしてさしあげますわ。別に学園生活が送れられなくなって本国に送り返される程の怪我を負わせてもよろしいですわよね?ISは兵器なのですからそれくらいの大怪我をするのは珍しい事ではないでしょう?

 

「何?やるの?わざわざドイツからやって来てまでボコられたいなんて大したマゾっぷりね?」

「あらあら鈴さん?こちらの方は暴力の事しか頭にない蛮族なのですからそんな事をおっしゃったら失礼ですわよ?」

「はっ、口だけは達者だな。ふたりがかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬ貴様達にはその無駄に動く口はお似合いかもしれんがな」

 

…ふふ。

怒りを通り越して笑みが浮かぶ。

 

「ああ、ああ、わかった。わかったわよ。スクラップがお望みな訳ね。―――セシリア、どっちが先やるかジャンケンしよ」

「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでも良いのですが―――」

「はっ!ふたりがかりで来たらどうだ?雑魚が群れても所詮は雑魚だ。お人形遊びに夢中な餓鬼に私が負けるものか」

 

ブツン…。

 

切れた。いや、そんな生易しい物では無い。堪忍袋の緒は遠の昔に切れているのだから。今切れたのは人としての理性。人が人である為の理性だ。それが切れてしまえばそれはもう衝動にただ身を任せるだけの獣になり下がるだけだ。現に今のわたくしが考えているのは―――。

 

―――嗚呼…もう…何と言うか…殺してしまいたい。

 

と、目の前のアレをめちゃくちゃにしてしまいたいと言う殺意だけ…。

彼女が言う『人形』と言う意味。わたくしには何となくだがその意味が理解出来ていた。たぶん、一夏さんや箒さんそれに本音さんは分かってはいないかもしれないだろうが、わたくしや鈴さんは世間の黒い部分もこの目で見て来たから。だから、彼女の言う言葉の意味は理解出来た。けど…それが何?ミコトさんは『人形』なんかじゃない。わたくしの大切な友達だ。決して彼女が言う『人形』何かじゃないのだ。

 

「―――セシリアごめん。あれ、アタシに譲ってくれない?大丈夫。アンタの分までボコってあげるから」

「あらあらあら、面白い事をおっしゃるのね鈴さん。痛めつけるだけでは済ませませんわ。もう二度とISに乗れない身体にして差し上げませんと」

 

腕の1本や2本3本や4本…五体満足でこの学園から出られるとは思わない事ですわ…。

 

「とっとと来い」

 

「「上等!」」

 

その瞬間、三色の色が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「一夏。今日も特訓するよね?」

「ああ、もちろんだ。ミコトもいいよな?」

「ん。だいじょうぶ。今日も一夏と鬼ごっこする

「あはは…そうだな。一緒に鬼ごっこしような…」

 

楽しんでるのはミコトだけで鬼である俺にとってはものすっごいハードなトレーニングなんだけども…。

しかしミコトが喜んでくれて自分自身も鍛えられて一石二鳥と考えよう。

 

「あはは!なんだか一夏。休日の子供の遊びに付き合わされるパパみたい」

「むぅ、そんなに老けてないぞ」

 

ぴちぴちの15歳になんという言い草だ。……ぴちぴちは死語か…?

 

「そ、それで僕がミコトのママに…」

 

―――そこはわたくしの立ち位置でしてよ?

 

「…ビクゥッ!?」

「どした?」

「う、ううん。なんでもない…?」

「? そうか…」

 

にしては顔が真っ青だけど。本当に大丈夫か?」

 

 

「一夏。アリーナに行くのか?」

 

俺達に話し掛けて来たのは箒だった。竹刀袋も持っていないから今日は部活は休みなのか?まぁ幽霊部員状態だから気分で顔を出してるんだろうけど。

 

「おう。今日は部活はいかないのか?」

「ああ、今日はISの特訓をしようと思ってな。い、一緒に付いて行っても良いか?」

「目的地は一緒なんだから聞く必要ないだろ?」

「そ、そうか。うむ!そうだな!うむうむ!ほら!さっさと行くぞ!今日は第三アリーナが空いてるそうだからそこを使おう!」

 

…なんで急に元気になるんだ?

まぁ、急いでに行くのにこしたことは無い。幾ら空いているとは言っても時間が経てば人も増えるだろうし。早めに言って少しでも広くアリーナを使いたいもんな。

 

「お、おりむー!大変だよー!?」

 

と、そんな時。のほほんさんが慌てた様子で教室へ飛び込んで来た。

 

「ど、どうしたんだよ?そんなに慌てて?」

「た、たいへんなんだよー!第三アリーナでセシりんとりんりんの二人がアイツとISで私闘してるんだよー!?」

 

「「「なっ!?」」」

 

のほほんさんの口から告げられたのは、とんでもない事態だった…。

 

 


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