IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第21話「醜悪な芽」

 

 

 

――――Side 凰 鈴音

 

 

「くっ!いい加減吹っ飛びなさいよっ!?」

 

これで何度目になるのだろう。並みの量産機のアーマーなら直撃すれば一撃で沈められる威力を誇る、甲龍の両肩に搭載されている第三世代型空間圧作用兵器・衝撃砲≪龍咆≫が最大出力で放たれるのは。

 

「―――同じことを繰り返すとは。芸が無いな?」

 

放たれた不可視の弾丸。でもアイツはそれに臆する事もなく、ただ冷笑を浮かべ右手を突き出すのみ。それだけ。たったそれだけで、戦車の装甲を紙切れの様に粉々に粉砕する衝撃砲が防がれてしまった…。

まただ。シールドとも、絶対防御とも違う正体不明の何かがあたしの衝撃砲を無効化している。

…一体何が?あの機体の特殊兵装?あたしの≪龍咆≫やセシリアの≪ブルー・ティアーズ≫と同じ様なドイツが開発した新兵器か何かだろうか?しかし、アレの正体がどうであれ。あたし達との相性は最悪で、手も足も出せずに抗う事の出来ないのが今の現状だ。

 

「相性が悪いとか悪くないとかそんなレベルじゃないでしょ!これ!?」

 

目の前で起こっている理不尽な事態にあたしは悪態づく。幾らなんでもこれは反則でしょ。こっちの攻撃が一切通用しないなんて。

射撃では無理か。そう判断して≪双天牙月≫を構えるがこれも通用するかどうか…。

 

「フッ、どうした?怖気づいたか?」

 

警戒してなかなか攻撃してこないあたしにラウラ・ボーデヴィッヒは馬鹿にした様に鼻で笑う。

…とことん癪に障る奴だ。人を見下すその態度。その目。その台詞。そして、ミコトの件についても。全てにおいて癪に障る。

 

…と言っても、どうしようも無いんだけど。

 

幾らアイツが憎かろうが怒ろうが勝機を見出す事なんて出来やしない。感情に任せて冷静さを失えばそれこそアイツの思う壺だ。感情や勢いに任せてだなんてあの馬鹿じゃあるまいし。

だったらどうする?衝撃砲の多様でエネルギーもそうだが、シールドエネルギーも心許無い状態だ。装甲も損傷が激しい。まさか二対一でこうまで押されるだなんて。あの見えない壁の所為でもあるがそれだけじゃない。悔しいけどアイツの実力は学園内で上位に位置するだろう。流石は軍人と言うだけはある。

 

あたしも一応軍属なんだけどなぁ…。

 

所詮あたしはIS専用のテストパイロットに過ぎない。正規の訓練を受けた訳じゃないから一般人より多少武芸の心得がある程度で所詮は軍の関係者でしかない。そしてアイツは骨の髄まで軍人。これがあたしとアイツの決定的な差…。

 

『セシリア。エネルギーはあとどれくらい?』

『3割と言った所でしょうか。シールドエネルギーも半分を切っています。…そう長くはもちませんわね』

 

プライベート・チャンネルから聞こえてくる苦虫を噛み潰したようなセシリアの声にあたしも同意する。このままジリ貧じゃああたしたちに勝ち目は無い。しかしどうすればいい?活路は何処かにある筈だ。完璧な存在なんてある筈が無い。あの鉄壁の守りにも必ず綻びがある筈だ。

問題は、それをどう見破るかだけど…。

 

『セシリア。アンタこの状況を打破する何かいい案は無い?』

『いきなりの無茶ぶりですわね。突然そんなことを言われたって何も思い浮かぶ筈ないでしょう?』

『こういう時くらいしかその頭役に立たないんだからしっかりしなさいよ『次席』』

『なぁっ!?喧嘩売ってますの!?アレが一体何なのか分からない状況で何を考えろというのです!材料が足りませんわよ材料が!』

 

まぁ、確かにセシリアの言う通りか。判断材料が無ければどんな名軍師でも策を練れはしない。戦いにおいて最も重要なのは情報なのだから。

 

「話し合いは終わったか?」

 

「「!?」」

 

まるで今の会話が聞こえていたかのようなアイツの台詞に心臓が跳ね上がる。まさか、プライベート・チャンネルを傍受したと言うのか?ありえない。そんな事…。

 

「な、何で…」

「ふん。別に通信を傍受した訳ではない。貴様らの表情の動きを見て通信をしていると予想しただけだ。しかし、やはり無能過ぎる。仮にも軍属だろうに。こんなにも容易く表情に出すとはな」

 

うっさいわね!あたしはあくまでテストパイロットであって軍人じゃないんだからそんなの当たり前じゃない!アンタみたいになりたくなんて無いわよ!

人を殺すのを何とも思わない。しかも殺しを楽しむあんな人間になんてなりたくも無い。軍に属している身でそんなのは甘えだと言うのは分かっている。でも、人としての最後の一線だけは超えたくなんて…無い!

意を決してアイツに向かって飛び込むと、その加速した勢いを≪双天牙月≫に乗せてアイツ目掛けて振り下ろした。しかし―――。

 

その渾身の思いで振り下ろされた≪双天牙月≫の切先も、指一本で受け止められてしまった…。

 

「愚かしい。接近戦に持ち込めば勝てるとでも思ったのか?長物を持った自分が有利だと?寧ろ逆だ。この間合いは私の間合い。私だけの独擅場だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの『停止結界』の前には全ての攻撃は無意味に等しい」

 

停止…結界…?

 

「鈴さんを放しなさいっ!」

「そんなに返して欲しければ返してやるさ。私もいらんからな」

「えっ?――――きゃあっ!?」

 

アイツの背後に回り込んでいたセシリアが『停止結界』とやらに捕まって動けなくなったあたしを助けようとアイツに照準を合わせてトリガーを引こうとしたその瞬間、止められていた≪双天牙月≫の刃を掴み、それごとあたしをセシリアの方へとぶん投げた。

 

「――――なんっ!?」

「ですってぇ!?」

 

ひっくり返る視界と強制的な浮遊感。そして瞬く間も無く襲ってくるのは強い衝撃と金属のぶつかる音だった…。

衝突しそのまま空中でもみくちゃになり地面へと墜落するあたしとセシリア。何たる醜態。またこんな情けない姿を他人に、しかもアイツに見られるだなんて…。

 

「あ、貴女はぁ…っ!」

「あたしの所為じゃないでしょうがぁっ。アンタが避けなさいよっ!…いたたぁ」

 

シールドで守られているとは言っても、痛みは直に伝わってくる。しかもこの程度の衝撃ならハイパーセンサーも命の危険なしと判断してシールド保護も最低限の出力でしか展開しなかったのだろう。無駄に痛い…。

…ていうかさぁ。さっきからアンタは何処に乗ってんのよ!?

現在、セシリアが尻餅付いているのはあたしの背中。まさに尻に敷かれている状態。

 

「さっさとあたしの上から退きなさいよっ!このデカ尻っ!」

「デカっ!?淑女に向かってなんて失礼な!?これでもお尻には自信があってよ!?」

 

何を言い出すんだコイツは…。流石に引くわよ…。

とにかくこの重い尻を退かせよう。このままでいるとあの馬鹿デカイ砲弾で二人まとめて吹き飛ばされてしまう。とりあえずこの尻は…。

 

「えいっ」

 

げしっ

 

「んきゃぁ!?何しますの!?」

 

鬱陶しいので蹴飛ばしとく。

 

「あたしは尻に敷かれて喜ぶ性癖は持ち合わせてないっての。しかも同性に」

「わ、わたくしだってありませんわよっ!?」

 

当たり前よ。あったら今後の関係を考えさせて貰うから。

邪魔な尻が居なくなったので置きあがって体勢を整え直す。本当なら今頃吹き飛ばされていても可笑しくないのだけど、そうでないのは完全に舐められているからか…。

 

「まったく…『御ふざけはここまでにして…直に止められて何か気付いた事はありますの?』

『アイツ、停止結界って言ってたわね。たぶんPICの応用兵器だと思うんだけど…』

『それはあまりこの現状を打破する情報ではありませんわね…。基本的に第3世代型ISじゃ貴女の≪龍咆≫のようにPICを応用して作られてますし…』

 

セシリアの言う通りで、あたしの≪龍咆≫だけでなく基本的に第3世代型ISの全てはPICの技術を応用して開発されている。それを今更言われても確かにだから何?って言う感じだ。活路を見出すにはこの情報はあまりにも無意味に等しい。

 

『…でも、きっと何かある筈』

『わかってますわ。必ずあの横っ面に一発いれて差し上げますわ』

『…アンタは中距離支援型でしょうに』

『最近、常識を捨てる事にしましたの♪』

 

周りに非常識が沢山いるからってそれは無いでしょうに…。あ、あたしもその仲間になるのかな?どうなんだろ?

 

「また不毛な話し合いか?残念だがもう付き合ってやるつもりは…無いっ!」

「っ!?散開!」

「言われずともっ!」

 

言葉なんかよりも先に身体が先に動く。そして数瞬遅れて先程まで自分達がいた地面が大きな衝撃音と共に爆ぜた。

 

―――速いっ!

 

自分の予想を流行るかに上回る弾速とその速度によって生じた余波にたらりと冷や汗を流す。あの馬鹿デカイ砲身…電磁投射砲≪レールガン≫か!

実弾での速度では≪龍咆≫のほうが速いだろう。しかし、厄介な代物には変わりは無い。あんなものまともに喰らったら、消耗したあたし達にはひとたまりも無い。一撃でも喰らえば即戦闘不能に陥る。

 

「セシリアっ!」

「ええ!撃たせる間なんて与えませんわっ!」

 

空中に浮遊した≪ブルー・ティアーズ≫は一斉にアイツ目掛けて飛びかかる。

翻弄するようにクルクルとアイツの周辺を巡廻する数基のビット。しかしアイツからは余裕の笑みは消えない。寧ろ人差し指をクイクイっと立てて挑発してくる。

 

「っ!いきなさい!ブルー・ティアーズ!」

「フッ…お前が逝け」

 

肩に搭載された刃が左右一対で射出され、ワイヤーで本体と接続されているソレは複雑な軌道を描き、まるで獲物を狩る蛇のように周囲を浮遊していたビット達を次々と串刺しにし、瞬く間にアイツの周囲に居たビット達は全て破壊されてしまう。

 

「―――――なっ」

 

あまりの出来事に目を剥くセシリア。だけどセシリアは気付いていない。まだアイツの攻撃が終わっていない事に。

唖然と空中で停止するセシリアにあたしは叫ぶ、

 

「馬鹿!セシリア!逃げなさいっ!」

「…え?」

 

あたしの警告にセシリアは遅れて反応を示すが、セシリアが逃れようとしたときには既に刃はセシリアの足を捕えていた。

ブレードとワイヤー。攻撃と拘束を目的とした兵装か。

 

「―――しまっ!?ガッ!?」

「そこから引きずり落としてやる」

 

捕えられたワイヤーに引き摺り込まれ、強制的に地面へと叩きつけられるセシリア。だが、また攻撃の手は止まない。レールガンが地面に叩きつけられて身動きのとれないセシリアを狙う…。

 

「させるかあああっ!!!」

「見事に釣られたな?」

「ッ!?駄目ですわ鈴さん!」

「―――――へ?」

 

何故か目前にあるのはレールガンの銃口。痛みなんて感じる暇も無い。次の瞬間頭の中で火花が散って、視界を真っ白な世界が覆い。気付いたらあたしは地面に大の字になって倒れていたのだから…。

 

多分…気を失ってたのは数秒かな?

ISの補助もある。長い時間気を失う事はないと思う。戦闘中気を失えばISの展開も解除されるだろうし…。それにしても随分と飛ばされたもんだ…。

首だけを動かして周りを見てみればアリーナの壁が自分の頭上にあり、先程まで自分が見ていた景色とは大分違っていた。それだけ遠く吹き飛ばされてたのだろう。たぶん100mは吹き飛ばされてる。

 

「――……ぐっ」

 

朦朧とする意識の中、ISの補助もあってなんとか上半身だけを起き上がらせる。

 

…あー、かなりきいたわね。全然身体が言う事きいてくれないわ。

 

身体が動く事を拒絶するかの様に鉛のように重いわ頭の中で鐘を鳴らされてるみたいでぐわんぐわんするわで相当のダメージを負ったみたいだ。このまま戦闘を続行するのは少しキツイかもしれない…。

 

――――警告!シールドエネルギー残量40。機体ダメージ致命的。各部に重大なシステムエラー。衝撃砲≪龍咆≫の使用不可能。戦闘継続―――可能。

 

「あ゛ー………」

 

ハイパーセンサーからを情報を見て、まだ動けるのが奇跡的だとは分かっているにしても、これはボロボロにも程があるとあたしは空を仰ぐ。

機体のステータスを見ればどの箇所も赤く表示され、何時壊れても可笑しくない状態だ。エネルギーも渇々で使える兵装も≪双天牙月≫のみ。ミコト風に言えば『オワタ』状態だ。

 

でも…。

 

「負けられるかっての…」

 

アイツはミコトを馬鹿にした。そして、アタシ達がミコトの友達であることを馬鹿にした。それを、許すことなんて出来やしない…。

 

「友達…か。あはは…」

 

―――いいじゃない。私だって選ぶ権利はあるでしょ?まだこの子を知った訳じゃないんだし急に友達になるってのも変な話じゃない。

 

「いつからだっけ…?」

 

思えば、こうして口に出したのは初めてだった気がする。そして、今まで口出さなかったのはそれが当り前の事で別に言わなくても良いと思えるくらいにミコトの存在があたしの中で大きくなっていたから…。

 

「………ははっ!」

 

地面に地面に≪双天牙月≫を突き立てそれを杖代わりにして大地を踏締め立ち上がる。

まだ動く。まだ立てる。まだ戦える!あたしはまだ戦える!

 

「…まだ動けるのか、しぶとい奴だ。これだから羽虫は鬱陶しくて敵わん」

 

言ってろ…。

面倒臭そうにするラウラに対して、あたしはニヤリと笑みで返すと≪双天牙月≫を大きく振りかぶり―――。

 

『セシリア…』

『鈴さん?』

『あたしが合図を送ったら撃ちなさいっ!』

『は?ち、ちょっと!?』

「だああああああああああああああありゃあああああああああああああっ!!!!」

 

ラウラに目掛けて全力で放り投げた。

 

「…つまらん攻撃だ」

 

回転しながら円を描いてアイツに向かって一直線に飛んでいく≪双天牙月≫それにラウラはつまらなそうに向かってくる攻撃を見ると。セシリアを拘束しているワイヤーを掴む。

 

「―――またあれを!?させませんわっ!」

「ふっ」

 

さっきのあたしみたいにまた放り投げるつもりだと気付いたセシリアはレーザーライフルを放つが、身体を横に逸らしただけで容易く回避される。

 

…あれ?そう言えばさっきも…もしかしたらあれって…。

 

「おとなしく、私の盾になれ」

「またしてもこんなっ!―――きゃあっ!?」

 

抵抗も虚しく、セシリアは≪双天牙月≫の射線上へと放り投げられてしまう。だが―――。

 

そんなの…あたしが考えてないとでも思ったのっ!?

 

「分かれろおおおおおおおっ!!」

 

―――その瞬間。あたしの叫びに応えるかのように。≪双天牙月≫が…。

 

パキンッ…

 

「何っ!?」

 

―――二つに分離した…。

 

分離して二つに分かれた≪双天牙月≫はセシリアに直撃することなく左右を通り抜け、曲線を描いてその名の通り獲物を喰らう牙となって双方からラウラを襲う。

 

「ちぃっ!こんな小細工っ!」

「セシリアッ!」

「この体勢から無茶をおっしゃいますわねっ!」

 

投げられた状態で無理やり身体を捻りレーザーライフル≪スターライトmkⅢ≫を構えて乱射。しかしその射撃は乱暴ながらも正確にラウラを捉えていた。

 

「くっ!?」

 

予想外の敵の援護に反応が遅れたラウラの装甲を、レーザーが撃ち砕く。しかし、まだ攻撃の手は止まない。あたしの牙はまだ獲物に喰らっていない!

 

「噛み砕けえええええええっ!」

「舐めるなぁっ!」

 

両手を伸ばし双方から迫ってくる刃を止めようとするラウラだったがそれをセシリアは許さない。まだレーザーは止んではいないのだから。

 

「そう何度もっ!」

「っ!?」

 

レーザーが雨の如くラウラに降り注ぎ停止結界の発動を妨害する。そして、あたしはそれを見て先ほどから『もしかして』が確信へと変わった。

やっぱりそうだ。レーザーでの攻撃は停止結界で防ごうとしない。セシリアの≪ブルー・ティアーズ≫を停止結界で止めずに破壊した時は、その方がアイツにとってこっちの戦力が減って都合が良いからだと思っていた。でも、さっきのセシリアの攻撃も受け止めずに避けた。前者は偶然で済まされるけど後者はどうも可笑しい。恐らく、エネルギー兵器での攻撃は停止結界じゃ防げないんだろう。

それと、たぶんもう一つ。あの停止結界には弱点がある。あたしの勘が正しければそれは―――。

 

「あの停止結界は…」

 

ザシュッ!

 

今までその装甲に触れることさえ出来なかった≪双天牙月≫の刃が―――。

 

「がっ!?」

 

「『停止させる対象に意識を集中させなければ停止出来ない』…そうでしょ?」

 

――――両肩の装甲を噛み砕いた。

 

「あはは…ざまぁみそけぷっ!?」

「あうちっ!?」

 

憎たらしいアイツに一撃与えた事で優越感に浸っていると、そう言えばセシリアが此方に向かって投げ飛ばされていた事をすっかり忘れてしまっており飛んできたセシリアに盛大に衝突。再びセシリアの下敷きに…。

 

「~~~ア・ン・タねぇっ!?」

「そこは貴女が受け止めるべきでしょうっ!?なにどや顔で突っ立ってますの!?」

「どや顔!?あたしそんな顔してたの!?」

 

たしかにアイツの苦痛に歪む顔を見てスカってしたのは認めるけどさ…。しかし何時まであたしの上に乗っかっているつもりだこの尻女。

まだ戦闘中だと言うのに口喧嘩を始めるあたし達。しかし…。

 

「貴様ら…よくも私のシュヴァルツェア・レーゲンに傷をつけたな…っ!」

 

地獄の底から這い出て来たような悪魔の声が静かにアリーナに響いた…。

その声にあたしもセシリアもげんなりとするが直ぐに表情を引き締めて立ち上がり再び戦闘態勢をとる。こんなの分かりきっていた事だ。

 

「…まぁ、あれで終わる訳無いわよね」

「それはそうでしょう」

 

あれで終わる筈が無い。あの程度でISが壊れるのならあたしは最初の一撃でもう既に戦闘不能になっている。一撃で敵を斬り伏せる。そんな非常識な事が出来るのは現状で白式の単一使用能力≪零落白夜≫だけだ。

 

「…で、どうするの?もうあたしは戦う余力はこれっぽっちも残って無いわよ?」

「わたくしだって貴女よりかはまし程度ですわよ…」

 

見ればセシリアの装甲もズタボロ。あたしが気を失っていたあの数秒の間にやられたのかしら?まぁワイヤーで拘束されてる状態じゃボコボコにされても仕方ないかもだけど。確かにその状態じゃ厳しいわね。さっきの乱発でエネルギーも底を尽きかけてるだろうし…。

あたしも唯一の攻撃手段である≪双天牙月≫はラウラの足元に突き刺さってる。流石に拾うのを待ってくれる程お人好しじゃないだろう。それに、今のアイツは何処か様子もおかしい。表情も、雰囲気も…。

 

「殺す…殺してやる…殺してやるぞ!」

 

…どう考えたってやばいでしょアレ。目が逝ってるし殺意も今まで無いくらいに絶賛発生中なんですけど…?

まともな精神を持ち合わせて無いとは前々から思っていたけど、どうも可笑しい。心でも患っているのアイツは?いやそんなレベルじゃないあれは。先程の冷静な態度とは一変した感情に身を任せるこの変わりよう。普通とは思えないわね…。

 

「ふざけるな…貴様ら如きに…私はあの人に…あの出来そこないじゃなく…奴がじゃない…私ガ…あのひとに…っ!」

 

一体、何がアイツをあそこまでさせるのか…。

あたしにはそれは分からない。唯言えるのはアレは異常だと言う事。あれは決意とか執念とかそんなんじゃない。そんな真っ当な物なんかじゃ決してない。あれは…呪いだ。

まるでとり憑かれたように、ラウラを操っている様にすらあたしには見えた。幽霊なんてそんな馬鹿馬鹿しい事有り得ないと思うけど…。

 

「わタ…ワタシハ―――」

 

…何か様子がおかしい。

 

「…鈴さん」

「分かってる」

 

セシリアもラウラの異変に気付いたようだ。いや、誰だってあれを見れば一目で様子がおかしい事ぐらい分かる。

焦点の定まらない視線。可笑しな言動。そして何より異常なのは先程から急激に上昇を続け始めているシュヴァルツェア・レーゲンのエネルギー反応。

…嫌な予感がする。

 

「セシリア!急いで離だ―――――」

 

離脱しよう。そう言おうとしたその瞬間だった。強い衝撃が身体を揺らし黒い影が視界を覆ったのは…。

 

――――…………………………あれ?なんであたし。飛んでるんだろ?

 

何が起こったのか分からなかった。気付けばあたしは宙を舞っていた。さっきまで隣にはセシリアがいた筈なのに…。

 

「鈴さんっ!?」

 

遠くからあたしを呼ぶセシリアの声がする…。

…ああ、何だ。ちゃんと近く居るじゃない。なんか声が遠く聞こえるけど…。ていうか何でアンタ逆さまなのよ?それになんでそんなに泣きそうな…あれ?あれれ?

なんであたしの手…真っ赤なんだろ?それより装甲は?これ、あたしの手だよね?あたしISを装着してたのになんでだろ…?

 

…あれ?目の前が何だか暗くなって…。

 

寒いよ…。

 

いち…か…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ???

 

 

「ふふ、どうやら芽が出たようね…」

 

私は楽しそうに嗤う。

 

「どうなるかしら?あれだけお膳立てしてあげたのだから何かしらの成果は出して貰いたいのだけど」

 

半ば押し付けの様な物なのだけどね?ふふ…。

まぁ、どう転ぼうが私にはどうでも良い事。私には損は無いし、死人が出てくれさえすればさぞ面白い事になるでしょうし…ね。

 

「…ふふふ」

 

さぁ、楽しい楽しいゲームの始まりよ?

 

 

 

 

 

 

 


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