IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第22話「Berserker system ―B―」

「…わからない」

 

襲ってくる黒い暴風。私はその風に乗ってくるりと避けながら、如何してかあの時の言葉を思い出していた。

 

―――贋作が…この顔…いや、お前の様な存在があること自体が許されない。

 

あの子はどうして私が嫌いなのだろう?わからない。わからない…。

あの子は『私の事を知っている』。私がどういう存在かを知っている。でも、どうしても私を嫌う理由がわからない。

 

「…どうして?」

 

どうして私を嫌うの?

答えは返って来ない。向かってくるのは尖った爪だけ。私はそれは避ける。痛いのは嫌い。怖いのも嫌い。あの子も好きじゃない。鈴をいじめたから。でも…目の前に居る黒い奴。嫌な感じがして怖い奴。アレは、あの子じゃない。

 

じゃあ…あの子は何処に居るの?

 

目の前に居るのはあの子だ。でも、違う…。

 

「…わからない」

 

分からない事だらけ。頭ぐるぐる…。

 

『ミコト…オリヴィアーッ!!!』

 

私の名前を呼び続けるあの子を見る。顔は装甲で覆われて表情は見えない。でも、私には泣いている様に見えた。振り下ろされる腕はまるで助けを求めて手を此方に伸ばして来てる様…。

 

「…苦しいの?」

『ア゛アアアアアアァアアアアァァァァッ!!』

 

どうしてかは分からない。ただまた分からない事が増えただけ。

何だろう?何なんだろう?

ぐるぐるぐるぐる頭の中が回ってる。

 

「お話すればわかるのかな?」

 

そういえば、あの子と一度もお話してない。一夏達が危ないからってさせてくれなかった。私はあの子のこと何にも知らない。

 

「…お話ししたい」

 

クリスは話さないと伝わらない事だってあるって言ってた。だったらお話ししてみたい。あの子と…。

そしたら分かるかもしれない。このもやもやの原因が。

 

「ん…でも」

 

それにはまずやらないといけない事がある。これは大事。とても大事なこと。

 

「鈴に『ごめんなさい』させる。ん」

 

喧嘩をしたら『ごめんなさい』しないといけないから…―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第23話「Berserker system ―B―」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Side シャルロット・デュノア

 

 

「スゥー…ハァー…」

 

鋼鉄の腕を自身の胸に当て、深く深呼吸をして気を落ち着かせる。

次なんて無い。失敗すれば全て終わりの一回限りの大勝負。自分から言い出したものの緊張しない筈も無い。さっきから心臓がバクバク鳴ってるし、脳裏には失敗した場合の悲惨な光景がチラついている。

 

「落ち着け…落ち着け…。大丈夫。作戦通りにすれば問題無いから…」

 

何度も自分にそう言い聞かせて自分の出番が来るのを待つ。タイミングは一瞬。ミコトがギリギリまでラウラを引き付けラウラに大振りの攻撃を行わせる。そして、その大きな隙を突いて僕が背後に回り込みラウラに取り付き動きを封じる。あとは一夏に任せれば良い。

 

「大丈夫…」

 

僕は余所見をしているラウラを捕まえれば良い。それだけだ。

 

「………っ」

 

手が震えてる…っ。

 

それだけ…そんな一言で済ませれる筈がなかった。アレがそう簡単に捕まってくれるとは思えない。あの鋭い爪は勿論の事、あの怪力で抵抗されればこちらも唯では済まないだろう。無傷でアレを捕まえるのはまず無理だ。つまり、どう足掻こうともそれ相応の代償を支払う事になる。

リヴァイヴは防御特化機ではないがそれなりに防御力は優れている。そう易々と装甲を破られるとは思えないけど…。

 

ははっ…大見得切っておいて情けないなぁ。今更になって臆病風吹かせるだなんて…。

 

「シャルロット?大丈夫か?」

「一夏…」

 

一夏の気遣う声が聞こえる。横に振り向けば心配そうにしている一夏の顔がそこにあった。

…何故だろう。一夏の顔を見た途端、何だか押しつぶされそうな重圧がスッと軽くなった様な気がした。僕の正体を知っても庇ってくれようとしてくれた一夏。そんな彼が傍に居てくれるとなんだかとても安心出来た。そんな彼は未だ僕を心配そうに見ている。僕はそんな彼を見て苦笑すると、先程の弱気を振り払って一夏に力強い笑顔を向けて大きく頷く。

 

「…うん!大丈夫!始めよう!」

「ああ!ミコト!頼む!」

 

『………ん!』

 

一夏の声にミコトがコクリと頷き、大きく旋回してラウラへと進路を変えて翼を羽ばたかせ始めた。

 

『っ!?ガアアアアアアアアッ!』

 

逃げの戦法からまったく逆の行動に一瞬戸惑いを見せたもののすぐさま襲い掛かるラウラ。しかし―――。

 

「くるり…」

 

腕を振った風圧に乗り宙でくるり回転し攻撃を回避。そのままミコトはラウラの頭上を通り過ぎる。

その瞬間。確かに攻撃の後に隙が出来た。出来たのだが…。

 

…浅い!

 

ミコトの突然の行動に警戒したのか、攻撃する際の踏み込みが浅すぎる。今飛びこめば確実に体勢を立て直されて返り討ちに遭うだろう。狙うならもっと、もっと大振りで大きな隙が出来た時。

 

「ミコト!もっと引きつけて!ギリギリまで!」

 

自分でも無茶を言ってる事くらい分かってる。でもこうでもしないと…。

申し訳無い気持ちで一杯になっていると、そんな僕に返って来たのは批難では無く自信に満ちた声だった。

 

『ん。やってみる。大丈夫、問題無い。私とイカロスは墜ちないから』

『グッ!ウ゛ウウウゥッ!…ガアアアアッ!!!」

 

ミコトはそう告げて翼を大きく広げる。己を誇示するように。しかしそれが癇に障ったのか、ラウラは悠々と空を舞うミコト目掛けて地面を深く抉って飛び上がるとその鋭い爪を陽の光で輝かせて大きく振りかぶった。後の事を考えない全ての力を前面に出しきった渾身の一撃。もし当たりでもすれば唯では済まされないだろう。しかしそれは、自分達にとっては絶好の―――。

 

「! 今だ!」

 

―――チャンスだった。

振り下ろされた爪。しかしそれはまたもひらりとかわされ行き場の無くなった勢いはそのまま前面に押し出されラウラは盛大にバランスを崩す。その絶好のチャンスを僕は見逃す筈が無い。『瞬時加速』を用いて一瞬で間合いを詰めラウラに取り付いた。

 

『――――っ!?アアアアァッ!!』

「くぅ!?なんて馬鹿力っ!それにこれって!?」

 

拘束から逃れようと驚異的な怪力で暴れるラウラを放すまいと必死でしがみ付く。

我武者羅にただ振り回されているだけ。それだけの筈なのにリヴァイヴの装甲は掠った爪の先に触れただけで物凄い速度で削られて行き、更にはその装甲すらも貫き絶対防御にまで達しようとしていた。

それだけの攻撃力をあの爪は有しているのか。それともあの馬鹿力がそれを可能としているのか。それとも両方か。どちらにしても異常だ。このままでは…。

 

…本当に長くもたない!

 

「一夏!」

「おう!白式!出し惜しみなく全部出しきれえええええええっ!!!」

 

一夏の叫びに応じ雪片弐型の刀身が『零落白夜』の発動と共に強い光を発して輝き始める。今ある全てを籠めた輝きを握り締め、一夏はこちらに向かって吶喊してくる。

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

 

咆哮と共に振り下ろされる雪片弐型。動けないラウラ。何も抵抗出来ずその漆黒の装甲は切り裂かれた。それで僕は確信した。勝った、と。でも…―――。

 

『―――――…』

 

確かに一夏の刃は届いた。ラウラの装甲を切り裂き機能も確かに停止させたのだ。それは僕も確認した。でも…。

 

―――この機体はまだ動いている。

 

「う、うそ…」

 

本能が危険を察したのか僕は思わずラウラから離れる。すると、機能停止した筈の機体の中から黒くおぞましい何かが蠢いているのを見た…。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Side ???

 

「強制的に第二形態移行?」

 

オータムが首を傾げる。

 

「そう、まだ実験段階なのだけれど。データ収拾のためにプログラムに組み込んでおいたの」

 

唯、本当にまだ実験段階で本当に作動するかも怪しい状態だ。更にアレが作動している状態で起動すればどうなるか分からない。と言うのが開発担当者達からの意見だった。

本来、第二形態移行と言うのは、IS全ての経験を蓄積することでIS自らが考え操縦者に合わせて変化するもの。感情を捻じ曲げられた操縦者が暴走した状態でそれを行えばどうなるか…。私の予想では膨張と変化を繰り返し、形を留める事が出来ず醜い存在へと変わり果てると考えているのだが。どちらにせよデータは欲しい所である。

 

「えげつない…」

「あら?そんな事言う口はどの口かしら?」

「むぐ~!?」

 

生意気な口をきくオータムを自分自身の口で塞ぐと、私はそのままベッドに押し倒し第二ラウンドを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――Side 織斑 一夏

 

 

何だ?何が起こってるんだ?

 

シールドエネルギーを完全に使い果たした俺はISを強制的に解除され、生身の状態でアリーナに立ち尽くし、膨張し膨れ上がった10mはあるであろう蠢くソレを見上げていた…。

くろ。黒。黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒。黒に埋め尽くされた何かが目の前で蠢いている。斬り口から覗かせていたラウラもその黒に覆われまた姿が見えなくなってしまった。しかし、さっきまでとは違い今はもう人の形ですらもう無い。うねうねと触手のような物体に覆われた黒い塊。それが今のアレの姿だ。異形。まさにその言葉がアレには相応しいだろう。もうあれは人が乗るためのISとは別の何かに変わり果てていた…。

 

「ホント、何なんだよ一体…」

 

暴走に次ぐ暴走。獣から今度は巨大な怪獣か?もう訳が分からなくなって――――。

 

「一夏!何ぼさっとしてるの!?逃げてっ!!」

「…え?」

 

シャルロットの警告に漸く俺は自分が今は丸腰の状態だって事を思い出した。しかし、その時にはもう物凄い物量を持った黒い塊が目の前に迫っていたんだった。

視界が黒で埋め尽くされた時俺はふと思った。俺死んだなっと…。

 

―――だが、そうはならなかった。

 

ふわっ…

 

ISを見に纏っている時とは違う浮遊感を感じると、俺はいつの間にか青い空を見上げていた。

風に乗った甘い香りが鼻を擽る。そしてやっと俺は現状を理解し苦笑を浮かべてこう思う。嗚呼、また助けられたのか、と――――。

 

「わりぃ。ミコト」

「ん」

 

ミコトは小さく頷き地上へと視線を向ける。視線の先にあるのは当然あの黒い塊。

 

「何なんだ?アレ…」

「わからない。でも放っておいたらダメ」

 

んな事は分かりきっている。あんなものを放置したらどれだけの被害が及ぶか分かったものじゃない。

 

…でも、どうにか出来るのか?

 

完全に戦う力が残っていない俺と、ラウラを無理に拘束してボロボロの状態のシャルロット、そして攻撃の手段を持ち合わせていないミコト。このメンバーでどうやって…。

幾ら無い頭をフルに稼働させても、何度考えなおしても、導き出される答えは『戦力不足』。この場での最良の選択は今直ぐに離脱する事だろう。もう意地を張っている場合じゃない。俺達に戦える力なんてもう殆ど残されていないんだから。

…でも、俺達が此処から逃げればどうなる?アレがアリーナの外に出ればどうなる?そんなの考えるまでも無かった。箒達はまだ戻って来ない。俺達だけで此処を抑えるしかなかった。

 

 

 

 

ありったけの弾丸を目の前に聳え立つ黒い塊にぶちまける。黒い塊に沈む弾丸。しかしその銃痕も瞬く間に黒に埋め尽くされ無かったものされてしまう。

『自己修復能力』。ISに備わっている機能の一つではあるが、こんな速度での修復はまずありえない。この正体不明の暴走はこんな事すらも可能にしてしまうものなのか?

 

『…駄目。幾ら撃ち込んでもすぐに再生しちゃう。これじゃ弾の無駄だよ』

 

触手の脅威が及ばぬ離れた場所から射撃していたシャルロットが一旦手を止める。無暗矢鱈に攻撃を続けるのは非効率的だと判断したのだろう。地上からプライベート・チャンネルでそうぼやいてきた。

そりゃあれだけ撃って無傷だってんだからやる気無くなるよな…。

 

「だからってこれしか方法が無いだろ。俺もISは使えないしミコトは武器なんて持ってないんだから」

 

シールドエネルギーが底を尽きて強制解除された俺はミコトの腕の中で見てるだけしか出来ない。今この場で唯一戦える事が出来るのはシャルロットしかいない。そしてシャルロットの武装は銃器がメインだ。一つだけ例外はあるのだが、それもある理由で使用出来ないでいた。

 

『『|盾殺し≪シールド・ピアース≫』を使えばあの分厚い壁を貫く事は出来るかもしれないけど、あの触手が邪魔して近づけない。ダメージを無視して強行突破しようにも損傷が激しいから辿り着ける前に落とされるだろうね…』

 

またミコトを囮にしてと言う案が出たがそれも直ぐに駄目になった。あの触手、無差別に攻撃するため近づけば誰であろうと構わず攻撃してくるのだ。あの触手攻撃の嵐の中を進んで飛んでいけるのはミコトくらいなものだ。

 

『仮に射程距離まで辿り着けたとしても多分無理。シールド・ピアースじゃ決定打にはならないと思う。壁は貫けてもコア…ラウラまでは届かない。絶望的なまでに火力不足。そもそもアレに絶対防御はあるのかな。あるとしたらもうお手上げだね。あの壁を突破して絶対防御も突破しないといけないだなんてもう一夏の『零落白夜』だけしか無理だよ』

 

分厚い壁を突破しても絶対防御があるかもしれない、か。だとしたら本当にお手上げだな。

 

『ラウラをISから引き剥がさないとアレは何時までも自己再生をし続けるよ。地道に削るってのはやめておいた方が良いかも』

「一体何処からそんなエネルギーが生まれてくるんだか…」

『さぁ?光合成でもしてるんじゃない?』

 

見た目が植物っぽいもんな…。

 

半ば投げやりになっているのかそんな馬鹿な会話を始め出す俺とシャルロット。しかし、そんな俺達のハイパーセンサーにまた一段と間の抜けた声が響いた。

 

『戻って来たら触手プレイの最中だったでござるの巻きー。なになにー?何なのこの状況ー?』

 

「…のほほんさんか?」

 

『そだよー。管制室の通信機を使って話し掛けてるんだー。えっとね!りんりんは大丈夫だよ!手術は無事終了。容態は安定してて今は眠ってるー!』

 

「!? ほ、本当か!?」

 

『うん!もちのロンだよー!』

 

「良かったね。一夏」

「ああ!本当にな!ミコト!鈴、無事だってよ!」

「ん。良かった」

 

のほほんさんの話を聞いて皆表情を明るくする。戦っている最中、皆それだけが気に掛かっていた。本当に無事で良かった…。

 

『ところでこれどんな状況ー?みこちー。かくかくしかじかー?』

 

「まるまるうまうま」

 

『成程ー。さらに暴走して此処までに到るってわけだねー?』

 

通じた…だと!?

 

『まぁ、アリーナの監視カメラの映像を見ただけなんだけどねー』

 

それなら聞くなよと言いたいがこの少女に言っても無駄なんだろうなぁ…。

 

『本音。ふざけている場合じゃないだろう!?』

 

新たに加わる声。これは箒の声か?

 

「箒もそこに居るのか?」

 

『う、うむ。無事か?一夏』

 

「何とかな。ミコトが居なけりゃ今ごろミンチになってたけど」

 

こう触手に潰されてグチャっと…。

 

『なぁ!?また無茶をしたのかお前は!?』

 

「おうふ…」

「う゛ー…」

 

箒の怒鳴り声に耳がキーンとなり視界が揺れた。もうちょっと声抑えてくれ頼むから。ミコトなんてハイパーセンサーが調整してくれてるとは言っても聴覚が何倍にも上がってるんだからそんな大声を出されたらやばい。ほら、目がぐるぐる回してるだろ。あーあ可哀そうに…。

 

『お前はいつもいつも…少しは心配するこっちの身にもなれ!大体お前は…』

 

「あー…のほほんさん。先生を呼んできてくれたんじゃなかったのか?」

 

説教が長引きそうなので話を逸らす。というか今はそれ所じゃないっての、真下じゃ化け物が絶賛活動中なんだぞ。

 

『連れて来たよー?一人だけだけど』

 

一人だけ?おいおいおい。いくらIS学園が誇る教師でもアレを一人で相手にするのは無理だろ!?それに、何で此処に居ないんだ?連れて来たって言うんなら此処に現れている筈なのに。

 

『一体どういう事?説明してよ。監視カメラを通して映像を見てたならアレがそれだけ危険なものか分かる筈だよね?』

 

流石のシャルロットも学園側の予想外の対応に困惑してのほほんさんに訊ねる。しかし、その疑問に答えたのは別の人物だった。

 

『それは私が説明する』

 

「千冬姉!?」

 

箒達が呼んで来た先生ってのは千冬姉だったのか。確かに千冬姉なら一人だけでも対処できそうではあるけど…。でも、何で此処にじゃなく管制室に居るんだ?

 

『先生と呼べ。いい加減この台詞にも飽きて来たぞ』

『天丼も過ぎると白けちゃうよー?おりむー』

 

もうシリアスな空気も白けちゃったよ…。

 

『ふざけるのはこれが終わってからにしろ。…話を戻すぞ。この事態に学園側は一切手を出さない。自分達でなんとかしろ』

『…え?』

 

「な、何言いだすんだよ!?」

 

『そうです!アレの異常さが分からないんですか!?生徒で対処出来るレベルじゃありませんよ!』

 

千冬姉のとんでもない発言にすぐさま俺とシャルロットは喰いつく。自分達で何とかしろだなんて、消耗しきった俺達に出来る訳が無い。

 

『…言い方を変えよう。手を出せない、だ。並みの火力ではアレの壁は通らん。やり様は幾らでもあるがそれでは効率が悪すぎる。だからお前達に任せる事にした』

 

他にも理由があるがなと最後に小さく呟いていたがそれを誰も気には止めはしなかった。いや、それどころじゃ無かった。

 

『並みの火力…やっぱり『零落白夜』ですか?』

 

シャルロットと同じ考えな訳か。でもそれは…。

 

「無理だよ。白式のシールドエネルギーはもう底を尽きてるんだぜ?」

 

『なら別の所から持ってこい』

 

無茶をおっしゃる…。

 

「いや、無理言うなよ…」

「無理じゃないよ。一夏」

 

いつの間にか此方へやって来ていたシャルロットはそう言うと隣に並んでくる。

 

「…出来るのか?」

「うん。可能だよ。他のISじゃ無理だろうけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

 

『説明は不要か。手間が省けて助かる』

 

そう言うのは教師である千冬姉がするべきだと思うけどな。

 

「でも問題がある。どうやってアレに近づくんです?僕のエネルギーを使っても精々部分的にしかISは展開できません。その状態で近づこうとすれば即触手の餌食ですよ?」

「だよなぁ…」

 

あの触手の中を丸腰同然の状態で走って近づこうなんて自殺行為でしかない。

 

『それなら運んで貰えばいいだろう。最高の足なら既にそこに居る事だしな』

 

「まさか…」

 

シャルロットは千冬姉の言葉にはっとしてミコトの方を見ると俺もシャルロットの視線を追う様な形でミコトを見てミコトに視線が集まる状態となる。

 

「…ん?」

 

視線が自分に集まっている事に不思議そうに首を傾げるミコト。

『最高の足』。成程、確かにこれ以上に無い程に適任だろう。

 

『オリヴィア。織斑を抱えた状態であそこまで連れて行けるか?』

 

「んー………ん。大丈夫」

 

千冬姉の問いにミコトは考える仕草をして小さく頷いて見せた。本当、こいつの凄さをとことん思い知らされる。アレの中を飛べるのかよ…。

 

「でも、武器を出した状態じゃダメ。重たい」

 

『ふむ。ならば待機状態で接近し直前で展開するしかないか。…織斑。少しでも展開が遅れればお終いだぞ?いいな?』

 

作戦の要である筈の俺を置いてけぼりにしてどんどんと話が進んで行く。拒否権も拒否するつもりも最初からないにしてもこれはあんまりだろうに。

 

でもまぁ…やるしかないよな。

 

アレをどうにか出来るのが俺しかいないっていうのならしかたがない。いや寧ろ望む所だ。俺のこの手で決着をつけれる。これほど嬉しい事は無い。

 

「ああ!任せてくれよ千冬姉!」

 

『…さっさとゲテモノを掻っ捌いてあの馬鹿を引きずり出して来い。お前達には言いたい事が山ほどあるのだからな』

 

こんな事態になっても嘗ての教え子の心配をするのか。千冬姉らしいと言えばらしいけど俺達にとっては複雑な気分だ。アイツが来なければこんな事態にはならなかったっていうのに…。

 

『不満そうだな織斑?』

 

「…正直に言えば」

 

『気持ちは分からないでもないがな。こんな事態になったのは全てで無いにしてもあの馬鹿が原因ではある。『捻じ曲げられた』にしても少なからずそう言う考えを持っていたのは確かのようだしな』

 

「捻じ曲げられた?」

 

聞いていて全然良いイメージの湧かない言葉だ。捻じ曲げられた…か。もしかしたらあの暴走に関係しているのかもしれない。

 

『…それについて触れる程度には教えてやってもいいだろう。だからさっさと終わらせて戻って来い』

 

全ては話せないのか。そう思いはしたが口には出さなかった。千冬姉にも色々あるのだろう。少なくとも餓鬼の俺には到底理解出来ない事が…。

 

『い、一夏!…無茶するな。必ず帰ってくるんだぞっ!?」

『みこちーもだよー?もう誰も怪我するのは嫌だからねー?』

 

「ん」

「おう!心配すんな!…シャルロット!よろしく頼む!」

「OK。じゃあ、始めるよ」

 

シャルロットはリヴァイヴから伸びたケーブルを篭手状態の白式に繋げる。

 

「接続確認。リヴァイヴのコア・バイパスを開放。エネルギー流出を許可。…うん。問題は無いみたいだね。一夏、そっちからもバイパスを開放して」

「わかった」

 

シャルロットに従い指示通りにするとそれと同時にエネルギーが流れ込んでくる。枯渇したエネルギーが満たされる感覚を感じながら、それと同時に俺は何処か懐かしい感覚を受け止めていた。

 

これは…初めてISを動かした時と同じ感じだ…。

 

まるでずっと昔から知っている様な不思議な一体感と懐かしさ。これは一体…。

 

「? どうかしたの?」

「…いや、何でも無い」

 

…とりあえず、この不思議な感覚については置いておこう。そんなことよりも今は目の前のことだ。

 

「そう、ならいいんだけど…。―――よし、完了。よっと…!リヴァイヴのエネルギーは残量全部渡したよ」

 

それを証明するようにシャルロットのリヴァイヴが光の粒子となって消え去り、ISが無くなった事で重力法則に従い地上へと落ちそうになるのをミコトに掴まる事でそれを防いだ。

 

「ふぅ…あぶないあぶない。一夏、白式の一極限定にして。それで『零落白夜』が使えるようになる筈だから」

「ああ、ありがとな。シャルロット」

 

これでまた俺は戦える。待機状態の篭手に視線を落とし満たされたエネルギーを感じながらそれを喜んだ。

 

「ふふ、どういたしまして。それじゃ、僕の役目は此処までだね。ミコト、降ろして貰えるかな?」

「ん」

 

ミコトは頷き安全な観客席へ着地するとゆっくりとシャルロット地上へ降ろす。

 

「よいしょっ!…ありがとね。ミコト」

「ん。シャルロットはあぶないからさがってて」

「そうするよ。一夏。勝ってね、絶対」

「当然だ!」

 

俺はニカリと笑い力強く頷いた。皆に此処まで応援されて期待を裏切れる筈が無い。

俺達は空高く舞い上がる。今度はさっきとは違う。逃げる為じゃなく戦う為に、だ。

 

「んじゃ、よろしく頼むぞ。ミコト」

「任せる。一夏をしっかり送り届ける」

 

相変わらずの無愛想で返してくるが今はとても心強い。そのいつも通りの態度が気を楽にしてくれる。

 

大した奴だよ本当に…。

 

アレを前にしていつも通りに居られるんだから。

 

「―――…よし!行け!ミコト!」

「ん!」

 

俺の言葉を合図にミコトは黒い塊へと突っ込んだ。

四方八方から襲ってくる触手をひらりひらりと掻い潜り、前へ前へ進んで行く。

 

これがミコトから見た世界なのか…。

 

ミコトの腕の中で俺は唖然とそれを眺めていた。俺が白式に乗って攻撃を避けるのとは違う。いやそもそも目の前の光景は避けるという表現が当て嵌まらなかった。

あれは避けているんじゃない。身を任せているんだ。風に…。

 

…見るだけと体験するのとじゃ全然違う!

 

この言葉に言い表せない不思議な感覚。白式では再現するのは到底無理な機動。これがイカロス・フテロ。これがミコト・オリヴィア…。

 

「…凄いな」

 

率直な感想。でもそれしか言いようが無かった。そして心躍ずにいられなかった。これがミコトが飛んでいる世界なのか、と…。

そしてその世界は終わりを告げる。もう目的地へ到達しようとしていたのだ。

 

「一夏。いく」

「おう!来い!白式ぃいいいいいいいっ!!!!」

 

俺はミコトの腕から飛び降りて自分の相棒の名を叫んだ。

俺の呼ぶ声に応えて光の粒子が俺の右手を覆い装甲と雪片弐型が形成される。シャルロットの言う通り一部しか展開されない。だが、十分だった。もう間合いは十分に近づいてある。必要なのは―――。

 

―――雪片弐型が光を発する。今度こそ最後の、本当に最後の力を振り絞った輝き…。

 

「これで…終わりだああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 

一閃。全てを籠めて振り下ろされた刃は厚い壁を斬り裂きパカリと開かれた切り口から気を失ったラウラが現れた。俺はすかさず変わり果てた機体から引き剥がすと、最早ISとは名ばかりの操縦者を失った黒い塊は光の粒子となって消えて行く…。

 

「終わった、な…」

「ん。おつかれさま」

 

空中でミコトに拾われ空に消えていく光を眺めながらそう呟くと、笑顔のミコトがそう労わりの言葉を掛けてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

「クローン計画?」

 

その存在を知ったのは半年ほど前の事だった。

 

「はっ、ギリシャで秘密裏に行われている計画だとか。ですが、成果は見込めずという理由で計画は打ち切り。クローンを研究していた施設も既に証拠隠滅のため存在しません」

「だろうな」

 

国際条約で禁止されているクローンの研究。その証拠を残す程その国も馬鹿じゃないだろう。

 

「それで?誰のクローンを製作していたのだ?」

 

クラリッサに訊ねる。国が極秘で動いてまで開発しようとしていたクローン体。興味が無いと言えば嘘になる。ほんのちょっとした好奇心。そのつもりだった。その名を聞くまでは…。

 

「…織斑千冬です」

「なっ……!?」

 

その名を聞いた瞬間、全身の血液が凍りつく様な感覚を覚えた。そして、すぐさまそれは怒りと共に沸騰する。

 

「…っ!」

 

しかし、その感情を私は抑え込む。

 

「隊長。お気持ちはご察しします。ですが…」

「…分かっている」

 

クローンとて所詮は模造品。あの人とは全く別の存在だ。怒りを向けるにしてもそれはクローンでは無くそれを作った人間に向けるべきだろう。何より私も似た様な境遇だ。そのクローンにどうこう言ってもその言葉は全て自分に返ってくる事になる。

 

「そうだ。私だって変わらないのだ…」

 

あの人になりたいと願う私と何ら変わりない。

縛られた存在。そうある様に作られた存在。その時はそう思っていた。しかし実際は違っていた。アイツに会うまでは。ミコト・オリヴィアに会うまでは…。

 

そして、それから半年が経った。丁度その頃だろうか。上官が入れ替わったのは。その頃から記憶が曖昧になったのは…。

 

 

 

 

 

 

「ぁ………」

 

光に照らされているのを感じ目を覚ますと、私は見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた…。

 

「ここ、は…?…グッ!」

 

身を起こそうとすると身体の彼方此方が悲鳴を上げ、またベッドへ身を任せる。

何だこの全身の痛みは?何処だ此処は?何で私は此処で寝ている?疑問は尽きる事は無かった。しかし…。

 

「…妙にスッキリとした気分だ」

 

身体はこんなにも痛むと言うのに心の方は安らかだ。まるで悪い夢から覚めた様な…。

 

「気がついたか」

 

この声は…。そうだ。あの人の声だ。私が敬愛する師の…。

 

「教官…」

「先生と呼べ。まったく、うちの問題児はどいつもこいつも…」

 

問題児というのは誰の事なのかは聞かないでおく。それよりも私には気になる事があった。

 

「何が…あったのですか?」

 

上半身を起こす。少し動かすだけで全身に痛みが走った。けれど私はその痛みに耐え教官と向き合いまっすぐに見つめる。

 

「その質問に答えるためにはまず聞かなければならない事がある。…何処まで覚えている?」

 

何処まで覚えている…か。

 

「本国を発つ後からはもう…」

 

正確にはそれより少し前から記憶は曖昧になり始めていた。日本に来てからはまるで覚えていない。いや、覚えていないというのは間違いか。頭の中にあるのはこんな事があった様な気がするが覚えていない。まるで夢から醒めて時間が経つと思えだせなくなる。そんな感じだ。

 

「成程な。では最初から話すとしよう。お前が日本に来て何をしでかしたのかを…」

 

 

 

 

「私がそんな事を…それに、暴走…?」

 

信じられないという気持ちではあったが何処かで否定出来ないでいる自分がいた。

 

「…良い様に利用された訳ですか」

 

悔しさで声を震わせてそう漏らす。

私の出生。ミコト・オリヴィアに対して抱いていた感情。それを利用された。そう言う事なのだろう…。

 

「………」

 

教官は何も言わない。その沈黙は肯定を意味していた。

 

「『Berserker system』。あれは操縦者をパーツとする物だ。操縦者と共に成長するISの本来のあり方とは相容れないシステムだ。しかしISの能力向上に大きく関わる物がそのシステムにはあった」

「感情の昂り、ですね。感情を捻じ曲げ強制的に能力を向上させる。あの暴走は暴走ではなく、なるべくしてなった訳ですか」

 

Berserker≪狂戦士≫。まさにその名の通りだ。

微かに残っている記憶。その記憶の中でもあの時の私は破壊する事しか考えていなかった。本能の成すがままに…。

 

「…私はこれからどうなるのですか?」

 

学園内での無断の私闘。そのうえ他国の代表候補生に重症を負わせてしまった。許される筈が無い。恐らく私は国にとって不要な存在として切り捨てられるだろう。今度こそ失敗作として…。

 

「その件だがな。安心しろ。お前にお咎めは無い」

「……………は?」

 

一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。あれだけのことを仕出かしたというのにお咎めは無い?そんな馬鹿な事があってたまるものか。

 

「な、何故…」

 

信じられない。私はあの国のやり方を知っている。私の様な不利益な存在は即刻処分されても可笑しくない筈なのに…。

 

「ああ、何。『何も無かった事にしてやるからそっちも何も無かった事にしろ』と言ってやったら簡単に了承してくれたよ。事を荒立てさせず、そのうえ施設の修理費や賠償金を払わないで済んだ方があっちとしても得と判断したのだろう」

「で、ですが!中国の方は黙っていない筈です!」

 

大事な人材に怪我を負わされてあの国が黙っている筈も無い。唯でさえあの国はそう言う話にはうるさいと言うのに。

 

「それも問題無い。とある事情で破壊されたISコアがあってな。それをくれてやったら喜んで許してくれたよ」

 

た、確かに破損しているとはいえISコア。研究材料にも使えるだろうしもし修理が出来たのなら新たにISコアが得られる事になる。中国としたら喉から手が出る程欲しいだろう。

 

「よ、良いのですか?勝手にそのような交渉を…」

「かまわん。…アレは正規で開発されたものでもないしな」

「は?」

「気にするな。忘れろ」

「は、はぁ…」

 

有無言わさずの気迫に負けて頷く。何かとんでもない事を口にしていた様な気がしたが…。気のせいか?

 

しかし、今の話を聞くからにどうやら本当に私にお咎めは無いらしい。教官が根回ししてくれたのだろう。これほど嬉しい事は無い。けれど、その心遣いを受け取る訳にはいかなかった…。

 

「…やはり、そう言う訳にはいきません」

「…何故だ?」

「私は彼等を傷つけてしまった。私が居る事で問題も起きるでしょう。此処に居る資格はありません。ですから…」

「知るか。そんな餓鬼の都合は餓鬼同士で解決しろ。一々私を巻き込むな。面倒臭い」

「な―――」

 

何を言い出すんだこの人は…。

此処までしておいて後は勝手にしろなどとそれはあまりにもあんまりだ。スパルタにも程がある。

 

「ではな。こっちは後始末や何やらで色々忙しいんだ。後は餓鬼同士好きにしろ。…もう入っていいぞ」

 

『ん…』

 

ドア越しに聞こえる幼い少女の声。そして、ドアが開くと教官と入れ替わる様な形でその声の主が白い髪を揺らして入って来たのだ。

 

「ミコト…オリヴィア…」

「ん」

 

自分の名を呼ばれて少女は頷く。

…何を考えている?自分を殺そうとした相手に態々一人で会いに来るとは。こいつには危機感と言う物は無いのか?

 

「…何の用だ?恨み事でも言いに来たのか?貴様の友人を傷つけたのだからな。さぞ恨んでいるのだろう?」

 

ギロリと私の目の前に立つミコト・オリヴィアを睨みつけてそう悪態づくと、少女は私の問いを否定するように間の伸びた声を出しながらふるふると首を振る。

 

「んーん…」

「~~~~っ!では何だ!?」

 

どうも調子が狂う。あの人と同じ顔でこんな反応をされたら。

 

「聞きたい事、あったから…」

 

聞きたい事…?私に?

 

「…その聞きたい事とは?」

「ん。何で、私のこと嫌い?」

「――――!?」

 

あまりにも直球過ぎるそして突拍子の無い質問に私は言葉を失う。

 

「…何故そのような事を聞く?」

「ん…。気になったから」

 

気になったからと言ってその嫌っている本人に面と向かってソレを聞くのか?やはりこいつはやり辛い…。

 

「………私は教官を、織斑千冬を敬愛している。そんな人のクローンであるお前が憎いのは当然だろう?」

 

何を分かりきった事をと吐き捨てる。しかし、目の前の少女は不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

「?…何で?」

 

何でって…。

 

「貴様が贋作だからだ!失敗作だからだ!お前の存在があの人を侮辱しているからだ!」

 

声を荒げて少女の存在を否定する。けれど、この言葉は私にとっても…―――。

 

「違う」

「っ!?何が違う!?」

 

まただ。またこいつは…。

 

「私は『織斑千冬』じゃない」

 

こいつは――――!

 

「私は『ミコト・オリヴィア』。クリス・オリヴィアの娘。誰にも否定はさせない」

 

無表情で、しかし意志も籠った声でそう少女は宣言した。自分は誰でも無い。自分は自分なのだと。クローンでありながら…。

 

「っ!…嫌いだ。嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ…貴様など大嫌いだ!」

 

作られた存在の癖に。私と同じ癖に。どうして…どうして!

 

「だい…きら…い…だ…」

 

…違う。そうじゃない。そんなんじゃない。分かってる。分かってるんだ。自分でもそうじゃなって事くらい…。

 

「私は………」

 

―――嗚呼…そうだ…。

 

私は、こいつが嫌いなんかじゃない。ましてや憎いとも思ってはいなかった。私はこいつが…。

 

「私は………お前が………羨ましかったっ!」

 

あの人と同じだからと言う理由じゃない。

自分と同じで戦う為に生まれてきた存在。人形。その筈なのに一人の人間として確立できていたのが羨ましかった…。

 

どうして?どうしてだ!?同じ目的で生まれて来ている筈なのにどうして違う!?

 

「どうして…貴様は…何が違うんだ…私と貴様はっ!?」

 

同じ筈なのに…何故。どうして…。

子供のように見っともなく泣き叫ぶ。シーツが涙で汚れようがお構い無しだ。ただ、感情に任せて全てを吐き出す。

 

「違う。私もあなたも。違う。同じ人なんて居ない。みんな違う」

「違わ…ない…違うもの…かっ」

 

少女は否定する。しかし私もそれを否定する。だが、また少女は首を振ってそれを否定するのだった。

 

「んーん。違う。ここ、違う」

 

そう言って少女は胸に手を当てる。

 

「ここ、違う。心、違う」

「心…」

「泣くのも笑うのも怒るのも。それはあなたがそう思ったから。そう感じたから。それはあなた自身の物。他の人とは違う」

 

そう言うと少女は私の頬に手を伸ばすと指で涙を拭ってそれを私に見せる。

 

「こうして泣いてるのも。それはあなたが、ラウラ・ボーデヴィッヒが悲しんだから」

「わたしが…」

「私を羨ましがる必要なんてない。だって、あなたはラウラ・ボーデヴィッヒでしょう?」

 

少女は微笑む。その笑顔はあの人とは同じ顔なのに、まったく別の物だった…。

 

「う、うああ…あああっ」

「ん。泣いていい。それもあなただから」

 

少女は私を抱きしめる。泣く子をあやす母親のように…。

卑怯だ。そんな事言われたら、そんな事をされたら堪えられなくなるじゃないか。

 

「ああああああああっ!うあああああああああああああああっ!」

 

夕陽で茜色に染まる部屋に私の泣き声だけが響いていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やれやれ。世話の焼ける」

 

千冬はドア越しから聞こえる少女の泣き声を聞いて笑みを溢し、静かにこの場を立ち去るのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後の暴走体のイメージはバイオ5のウロボロスもしくはもののけ姫の祟り神で

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