IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第23話「事件のあと/複雑な心」

 

「え、えーっとですねぇ。皆さん昨日第三アリーナで事故が発生したのは知ってますよね?その事故を理由にトーナメントは中止になってしまいました」

 

『えーーーー!?』

 

朝のHR。日に日に窶れて行く山田先生から告げられた『トーナメント中止』のお知らせにクラス全員が騒然となった。

今回の行事は各国からお偉いさん方が来る学園側としてもとても大切な物だ。そして前回のクラス対抗も中止に続いて今回もと言うのは学園が創立して以来初めての事らしい。

 

…まぁ、襲撃者が来て行事が中止なんて普通ありえないよなぁ。

 

クラスが騒然としている中、俺は冷めた様子で頬杖をつきながらそんなことを考えていた。我ながら慣れてしまったものである。

まぁ、それは置いておくとして。他の生徒からしてみれば堪ったものじゃない。部活動の時間や自由時間を削ってまで自主練に励んだ生徒だって少なくはないのだ。それなのに中止となっては落ち込む所か今後の学習態度にも影響がでかねない。

 

「設備が壊れてしまって仕方が無いんですよぅ…」

「他のアリーナを使えばいいじゃないですかー!」

 

確かにな。第三があるのなら第一・第二も勿論ある訳だ。それを使えばいい。

 

「怪我人も出てますし…あ、怪我人の名前は伏せておきますね。プライバシー保護のために」

 

怪我人と言うのは鈴の事だ。と言っても、医療技術の凄まじい進歩のおかげか本人はとても元気で一週間もすれば復帰できるらしい。今朝、携帯を確認してみるとメールで『病院食まずい。ラーメン食べたい』と送ってきやがってた。病人がラーメンを喰おうとするなよと。

 

ヴーッ!ヴーッ!

 

と、そこにタイミングよくポケットの携帯が震えだした。

む?また鈴からメールだ。えーっと、なになに?『担当者が見舞いにきたなう(;ω;』………これから授業だし携帯の電源切っとかないとな、うん。

 

すまん、鈴。俺にはどうにもできない。

 

『ぶーぶーぶー!』

 

山田先生の必死な説明も虚しく教室にブーイングの嵐が吹き荒れ、そんな状況に山田先生は涙目になってしまう…。

 

「うぅ…私だって辛いんですよぉ?織斑先生に後始末だとか言って書類の手続きや偉い人との対応やら押しつけられてぇ…ぐすん」

 

『(う、うわぁ…)』

 

今にも泣き出しそうな山田先生を見て静まり返るクラスメイト達。流石と言うべきか。最早恒例となりつつあるため、このクラス引き際を理解している。……いや別に褒められたものじゃないしそれはそれでどうかと思うけどな?嫌な言い方をすれば『生かさず殺さず』だしこれ。

 

「いやぁ!同情の目で私を見ないで下さい!同情するなら休暇を下さい!いえ!休暇なんて贅沢言いません!睡眠時間を下さい!びええええええん!」

「ちょっ!?まやまやが乱心したー!?」

「殿中でござる!殿中でござるぞ!?」

「皆!取り押さえて!?」

「離して下さい!私は自由になるんですっ!」

「窓の方に逝ってナニするつもりですか!?絶対に放しませんからねっ!?」

 

ぎゃーぎゃーぎゃー!

 

騒ぎ出すクラスメイト達。もう皆からは事件の関心は薄れ、目の前の副担任の事でそれどころではなくなってしまったのだった。

 

「おー…」

「ははは、なんだかなぁ…」

 

クラスメイト達に取り押さえられる山田先生。その様子を最前席のミコトは何なのか理解していない表情で興味深そうにそれを眺め、俺はそんなミコトを見て苦笑を浮かべ昨日の事を思い出す。

 

 

 

 

あの騒動の後、俺達は鈴の運ばれた病室で、ミコトを除いたあの場に居た全員で千冬姉からあの事件の真相を聞いた。真相と言っても、本当に触れる程度で今回の事件の根の部分までは話しては貰えず、真実は闇の中。

『Berserkersystem』。それによる洗脳。ラウラもまた利用されたにすぎないと言う事。唯これだけだった。俺達が知る事が出来たのは…。

 

「洗脳されていた。だから許せと織斑先生は言うんですの!?」

 

御淑やかさなど微塵も感じさせない今の感情をそのままに出したセシリアの怒鳴り声が茜色に染まった病室に響く。

 

「そんな事は一言も言っていないだろう?私は事実を述べただけだ。それを聞いてお前達がどうこうするかなど私の管轄外だ好きにしろ。ただし、面倒は起こすなよ?此方とてもう今回ので手一杯だ」

 

完全な中立な立場である教師らしい言葉を千冬姉は返す。

 

「ただしこれだけは言っておく。お前達の一方的な感情でオリヴィアの行動を制限するな。これは絶対だ。いいな?」

「…どういう事ですかー?」

 

のほほんさんがいつもの間伸びした声で、しかし表情は真剣そのもので千冬姉に質問する。

 

「オリヴィアの意思を無視するなと言う意味だ。そもそもこれはオリヴィアの問題だ。あいつのやりたいようにさせろ」

「無関係の人間は黙ってろって事?…あたし、大怪我負わされたんですけど?」

「自業自得だろう?お前はISを玩具か何かと勘違いしていないか?引き金を引いた以上その責任はお前の責任だ」

「………」

 

鈴は不満げに口を閉じそれっきり何も言わなくなる。

 

「で、ですが!命を狙われたのですよ!ミコトさんは!?そんな輩を放置するなんて…そもそも!どうしてこの学園に居られますの!?本来なら強制送還させるべきでしょう!?」

「本人にちゃんと確認した訳ではないが、奴も学園に残りたそうなのでな。ならば、学園はボーデヴィッヒを保護するだけだ。現に同じ様に保護されている奴も居るしな」

「そ、それは…」

 

自分の事だと自覚しているシャルロットは気まずそうに顔を伏せる。自分が此処に居られるのは学園のおかげだ。つまりラウラがこの学園の生徒で有り続ける事を拒絶すれば、傍から見れば自分の事を棚に上げてと思われるだろう。

 

「あの子の処遇は置いておくとしてー。Berserkersystemでしたっけー?それってもともとあった感情を増幅もしくは捻じ曲げる物なんですよねー?ということはですよ、あの子は少なからずみこちーを憎んでいたって事ですよねー?先生はみこちーの行動を制限するなって言いましたけど、もしそんな危険な子にみこちーが近づこうとしたら止めちゃいけないって言うんですかー?」

「そう言う事だ」

 

信じられない。そんなの飢えた肉食獣が居る檻の中に兎を放り込む様な物じゃないか。

 

「…問題を起こすなと言っているのに矛盾してませんか?」

 

箒の言う通りだ。千冬姉の言う事は明らかに矛盾している。これ以上トラブルを起こすなと言うのなら、ラウラを学園から追放とまではいかないにしても、ミコトとラウラは隔離するべきだ。接触をさせようものなら確実にトラブルが起きるのは目に見えている。

 

「矛盾はしていないさ。問題など起きはしないだろうからな」

「何を根拠に!?」

「私が起きないと言っている。それで信用出来んか?」

「出来るわけありません!ミコトの命を狙った奴なんですよ!?」

 

箒は眉間に皺を寄せテーブルを殴り声を荒げて反発する。

俺も、俺達も箒と同じ意見だ。理由はどうあれミコトの命を狙った奴を信用するなんて出来ない。

 

「…それがオリヴィアの望まない事でもか?」

「ミコトが…?」

 

何でミコトが…。だって、自分の命を狙われたんだぞ?鈴が傷つけられたんだぞ?そんなの…有り得ないだろ?

 

「まぁ良いさ。とにかく私は言ったからな。オリヴィアをお前達の感情で縛るなよ?」

「先生ー」

 

立ち去ろうとする千冬姉をのほほんさんが呼び止める。

 

「…何だ?」

「こうするのもみこちーのため?」

「………」

 

千冬姉は何も答えずに病室を去り、俺達はその背中を黙って見送る事しか出来なかった…。

 

 

 

 

あの後も色々と考えたが千冬姉が何をしたいのか結局分からず仕舞い。のほほんさんは何やら納得してたようなしてないような複雑な表情を浮かべてたが、その理由を聞いても笑って誤魔化されてるだけだった。そんなこんなで頭を悩ませて眠れない夜が明け。いつもと変わらない…と言うには目の前の光景は悲惨で気の毒だが、相変わらずの騒がしい一日が始まる。

 

―――…と、思っていた。

 

ガラッ!

 

急に教室のドアが大きな音を立てて開く。その途端、騒がしかった教室が一瞬にして静まり返り、クラスメイト達の視線は入口へと集中する。その視線の先に立っていたのは…。

 

「………」

 

銀髪の少女。昨日俺たちと激戦を繰り広げたラウラ・ボーデヴィッヒだった…。

 

「あいつ…!」

 

敵意を隠そうともしない俺の視線にラウラは真っ向から受け止めると、ちらりとミコトの方を見て何故か深呼吸をした後に俺の方へ一直線にやってくると俺が座る席の前で立ち止まった。

 

「………」

「な、なんだよ?」

 

ゴゴゴゴ…。

 

何やら背景に擬音を背負って凄い迫力で睨んで来るので負けじと睨み返す。すると、ラウラは口を開き―――。

 

「ご………」

「ご?」

 

ご…何だ?

 

「ご…ごめんなさい…」

 

「…………………………は?」

 

「はい?」

「え?」

「なん、だと…?」

「…どうしてー?」

 

フリーズした思考が再起動すると同時に間抜けな声がポカンと開いた口から零れた。

他の皆も言葉は違えど同じ反応。信じられないと言った面持ちだ。満足そうに頷くミコトを除いてはだが…。

 

「ん♪」

「~~~~っ!」

 

ラウラは自分に集まる視線に顔を真っ赤にして早歩きで自分の席へ行き席へ着くと、それっきり顔を伏せて面を上げる事はなかった。

何がなんだかさっぱり分からない。ただ俺が今言える事はただ一つ。

 

「…どうしてこうなった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第24話「事件のあと/複雑な心」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Side 布仏本音

 

 

「どうしてこうなった♪どうしてこうなった♪」

「お、落ち着けのほほんさん。とりあえずその変な踊りは止めろ!?」

「そうだよ。周りから注目を浴びて恥ずかしいよ…」

 

これが踊らずしていられないよおりむー!デュノッち!私の滾るリビドーが私に訴え掛けてくるんだよ!とにかく踊れって!感情に任せて!

 

「本音さんは放っておくとして、一体どうしたと言うんですの?昨日の今日であの変わり様は…」

 

酷いよー。放置しないでよー。

セシりん冷たい。私がこんなにメダパニ状態なのに無視するなんて。ありえないよ。白状だよ。ぷんぷんだよ。

 

「驚くのはそれだけじゃないぞ…ほら」

 

おりむーが携帯を取り出して画面をこっちに向けてくると私達は画面を覗き込む。携帯の内容はこうだった。

 

『あの銀髪が病室に乗り込んできて謝罪してきたんだけど!?何これ!?どういう事!?』

 

りんりんの方にも来てたんだー。

これはますます訳が分からなくなってきたなぁ。一体どういう心境の変化なんだろー?

 

「鈴の所にも来ていたのか。本当にどうなっているんだ?洗脳と言うのは人格や性格まで捻じ曲げるものなのか?」

「どうでしょうか…。ですが、織斑先生の話ではミコトさんを憎んでいたのは確かなのでしょう?でなければ殺…こほん。危害を加えるなんて有り得ませんし」

「なら、どうやったらあんなになるんだよ?」

 

そう言っておりむーは指差す。指の先にあるのは…。

 

「ど、どうだ謝ったぞ!?これで満足だろう!?」

「ん。悪いことしたら『ごめんなさい』する。ラウラ、いい子」

「ふ、ふん!」

 

なんか仲良さそうに話してるみこちーとあの子だった。

 

「むー!むーむーむー!」

「だから落ち着けって…」

 

これが落ち着いていられるかー!

 

納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得出来る訳ない!!

 

―――オリヴィアをお前達の感情で縛るなよ?

 

…むーーーー!!!

 

卑怯だ。こんな事言われたら逆らえる筈ないのに。みこちーを縛る事なんて私が出来る筈なのじゃないかー…。

もう一度みこちーを見る。とても、とても楽しそうにしていた。それを邪魔するなんて私には出来ない。それは、友達がする事じゃない。あの子の事はお姉ちゃんから聞いてる。きっと似た様な境遇で引かれ合う物もきっとあるんだと思う。二人にしか分からない事もあるんだと思う。でも…。

 

なんだろう…この気持ち。

 

この、胸の辺りあるもやもやした物。これはきっと嫉妬と何だと思う。でも何で?みこちーとあの子が仲良くしてるから?でもおかしい。セシりんやデュノっちがみこちーと仲良くしてる時はこんな気持ちにはならなかったのに…。

何が違うの?セシりん達とあの子との違いは何?やってる事はセシりん達と同じなのにこの感情の原因は…あ―――。

 

そして私は漸くそれに気付く。

 

知ってるんだ。あの子は…。

 

この中で私だけが知っている事をあの子は知っている。だからだ。みこちーと私だけの秘密がそうで無くなったから。だから私はあの子に…。

 

嫌な女だ。私…。

 

一人優越感に浸ってたんだ。知らない内に。私が一番みこちーの事を理解してるんだって。でも、あの子が現れた事でそうじゃなくなった事で私は不機嫌になってるんだ。お気に入りの玩具を独占しようとするみっともない子供みたいに…。

 

「………」

 

罪悪感に苛まれ先程までの怒りは何処かへ行ってしまった。残っているのは自分がまさかこんな人間だったのかという事実とその嫌悪感のみ…。

 

「どうかしたの?急に大人しくなって」

「なんでもないよー。あははー」

「? 忙しない方ですわね。怒ったり急に大人しくなったり」

「あははー。ごめんねー?」

 

本当の事なんて言える筈が無い。自分の醜い部分を晒す事なんて勇気は私には無いよ…。

でも、きっとその内ばれる時は来るんだろうね。そう遠くない未来にきっと…。その時、私達は今の関係で居られるのかな?みこちーって言う核でなりたってるこのグループは…。

 

…止めよう。こんなこと考えるのは。

 

暗い事ばかり考えてると笑えなくなっちゃう。私は笑ってなくちゃいけない。みこちーが笑って居られるように笑ってなくちゃいけないんだ。

 

「…のほほんさん?」

「なーにー?」

 

心の内を見せない様に、悟られない様に、いつもの変わらない笑顔をおりむーに振り撒く。

 

「あ、いや…何でも無い」

「変なおりむーだねー。そんな事よりそんな事より!今はみこちーの事だよー。どうするのー?」

「うむ。織斑先生に言われた矢先、あれを邪魔するのはやめておいた方が良いだろう。しばらくは様子見で良いのではないか?」

「…ですわね。とても遺憾ではありますが」

「だねだね♪みこちーを縛りたくないし先生の言うとお「こ、こら!?眼帯を外そうとするな!」り…」

 

「うー。だって綺麗な目見たい」

「き、綺麗!?……ハッ!?いやいやいや!これには事情があるのだ!?外したままだと生活に支障が出てだな!?」

「むー…」

「いや不満そうにされても…だから外そうとするな!?眼帯にさわるなー!?」

 

…うん。ム・リ♪

 

もう何て言うか。色々と我慢の限界だった。

 

「ぶぅー!何なんだよーあれはー!?」

 

ズビシっ!と二人を指差す。今も絶賛仲良しタイム中だよ妬むぞこんちくしょー!

何かなアレ!?ぎこちなく必死にみこちーと話そうとして!アピールか?アピールのつもりなのかー!?

 

「い、いや。それは俺だって知りた「ありえないよありえないよ!何が如何してああなったー!?」話を聞いて下さいよ本当に…」

 

お話?そんなの聞いてる暇なんて無いよ。いやそんなことよりOHANASIしてこよう。うんそうしよう。

 

「突撃します!」

「いやするな!?ちょ!?すげえ力だ!?こんな小さい体の何処にそんな力を隠してるんだよ!?皆!手伝え!押さえろ!」

「お、落ち着きなさいな!?本音さん!?」

「うぅ…皆の視線が…」

「何故私がこの様な目に…」

 

はーなーせー!!!みとめたくなーい!みとめたくなーい!

 

 

 

 

 

…一方その頃鈴は。

 

 

「いやー病室は平和だわぁ」

 

一人優雅に茶を呑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

―――Side 織斑一夏

 

 

「つ、疲れたぁ…」

 

今日一日の学生としての務めを終え、上着を床に放り投げるとそのまま俺はベッドにダイブして身を沈める。

昨日の事件に続いて今日のアレは正直精神的に辛過ぎる。本当に疲れた…。こういう肉体的じゃなく精神的な疲労感は入学当初以来だ。

 

「何だってんだよ一体…」

 

今日一日。ラウラの様子を見ていたがこれと言っておかしな点は無く、以前の様な触れただけで怪我しそうな険悪な雰囲気は感じられなかった。いや、おかしな点と言えばあるにはあった。ずっとミコトにべったりだったという点だ。以前のラウラでは想像も出来ない事だ。…そのおかげでのほほんさんを抑えるのに苦労したけど。

 

「…もしかして、これから毎日これ?」

 

死んだな。俺…。

正直入学当初の方がずっと楽だわ。

 

「ふわぁ…少し寝よ」

 

30分くらい寝てそのあと飯食ってシャワー浴びてまた寝よ…。

 

コンコン…

 

「…んぁ?」

 

ドアを叩く軽い音が眠りかけていた俺の意識をまた現実へと引き戻す。

 

「誰だよ…はーい!」

 

眠りを妨げられて若干苛立ちつつもベッドから身を起こして入口へと向かい、ノックに応じてドアを開く。すると、ドアの向こう側に立っていたのは気まずそうな表情を浮かべた箒だった。

 

「箒?どうしたんだ?何か用事か?」

「いや、その…う、うむ」

 

何だ?ハッキリしないな。

 

「まぁ、立ち話もなんだし中に入れよ」

「う、うむ」

 

そう促すと、箒はぎこちなく頷き。身体をかちんこちんにしながら部屋へ入る。…おいおい。足と手が同時に出てるぞ。何だか知らんがリラックスしろよ。まぁ指摘するのも可哀そうなので言わないが。

結局、最後まで手足同時出し歩行で椅子に辿り着きちょこんと着席。

 

「…で?何があったんだ?」

「あ…いや…その…そ、そうだ!今日は大変だったな!うむ!」

 

そうだって…明らかに今思いついたよな。それ。

 

「ああ。ラウラの変わりようだけでも大混乱なのにのほほんさんの暴走で更に大変だったな」

「ははは…おかげで人前で醜態を晒してしまったよ…」

 

ちょ…そんな暗い顔されてもフォローできねぇよ…。

 

「し、しかしすげぇ変わり様だったな!ラウラの奴!何がどうなってああなったんだか!」

「始終ミコトにべったりだったな。今までの奴からは想像も出来ん。しかし逆に私達がミコトの傍に居ると奴は近づいて来なかった」

「あー…そう言えばそうかもな」

 

思い返してみるとそうかもしれない。殆どべったりだったから気付かなかったな。何か意味があるのか?それともやっぱり気まずいと思ってるんだろうな。あれだけの事をしたんだし。まぁ、俺達もいきなり話しかけられても反応に困るが…。

ミコトの件。鈴の怪我の件。意識しない訳が無い。いきなり謝られてはいそれで仲良くしましょうなんて出来る訳が無いんだ。例え狙われたミコト本人が許したとしてもやっぱり俺にはそう簡単に許せそうにない。

 

「…なぁ、箒はどう思ってるんだ?」

「む?いきなり何だ?」

 

ああ、言葉が足りなかったか。

 

「ラウラの事だよ」

「ボーデヴィッヒの?そう、だな…。やはり許せるかと言えば嘘になる。いや、今でも憎いと思う気持ちが強い」

 

やっぱりそうか…。

 

「だが…それ以上に自分が憎い」

「え?」

 

流石に今の質問でその返答は予想外だった。自分が憎い?どういう事だ?

 

「あの時、私はただ一夏達が戦っているのを見ているしかなかった。友達が必死で戦っているのに、自分だけ安全な場所で戦わず見ているだけだった…」

「いや、それはしょうがないだろ。だって…」

 

あの場面で箒が出てきたって。そう言おうとしてすぐにそれを止める。その言葉はあまりにも残酷だ。

 

「だからだ。だから憎いのだ。無力な自分が…」

「…それだったらのほほんさんだって」

「本音は身を挺してミコトを守っただろう?」

「………」

 

あの公園の時か。その時に壊れた髪留めの代わりは、今も誇らしそうにのほほんさんの髪留めの役割を果たしている。

 

「セシリアも、鈴もミコトを馬鹿にされて怒り戦って負傷した、私だけが何もしていない。私だけ…」

「…何かしないと友達の資格は無いってのか?ミコトがそれを望んでるって?」

「そんな訳が無い!」

「だろうな。ミコトが一番望んでるのは箒が友達で有り続けてくれることだ。勿論、友達なら友達を守るのは当然だろうさ。でも、守るってのは色々あるんじゃないか?」

「………」

 

まぁ、これは俺にも言える事なんだろうけどな。今回の件で改めてそう思い知らされたよ。

 

―――オリヴィアをお前達の感情で縛るなよ?

 

そう言う事、なんだろうなぁ…。

 

「色々とがんばらないとな」

「…うむ」

 

努力をしよう。強くなるだけじゃない。アイツを、ラウラを認める努力をしよう。時間は掛かるだろう。凄く、とても凄い時間を費やすと思う。でも…。

 

何時までも喧嘩してたんじゃ。ミコトが悲しむからな。

 

臨海学校も近い。それを機に少しだけでも仲良くする努力はしてみよう。努力は…してみよう。あ゛ー始める前から気が重いぞこれは…。

 

「はぁ…って、そう言えば結局何の用事だったんだ?用事ってこの事じゃないんだろ?」

「ほぇ!?」

 

ほぇって…また奇怪な声だな。

 

「ば、ばれてたのか?」

「余裕で」

「な、何でこういう時だけ勘が働くんだ!」

 

ものすっごい失礼な奴だなお前…。

人が気を掛けてあげた途端これだ。泣けるぜ。

 

「それで?何だよ?出来れば早く言ってくれ。眠いんだよ俺」

「む。私の要件より睡眠の方が大事なのか?」

「内容によるだろ」

 

これでお茶っ葉が切れたんでくれとかだった流石に怒るぞ。回りくど過ぎるだろうが。

 

「ふ、ふん!一夏。先月のあの約束を覚えているか?」

「約束?…ああ、あれか。トーナメントで優勝したらってやつな」

 

そう言えばそんな約束してたな。

 

「あ、ああ。しかし…その。トーナメントは中止になってしまったから…その…」

「付き合っても良いぞ」

「……………………なんだと?」

「だから、付き合っても良いって」

「な、何故だ!?私は優勝してないぞ!?」

「い、いや…別にそんな大層なことしなくても買い物くらい付き合ってやるよ」

 

ぴしりと、箒の表情が固まる。

 

「買い…物…?」

「え?違うのか?」

「………この………」

「へ…?」

 

何か俺不味い事言ったか?何か箒の様子が可笑しい―――。

 

「馬鹿者ーーーーー!!!!」

「ぐはあああああああああっ!?」

 

ちょっ…おま…何故…?あ、でも眠るには丁度い…い…か…。

 

「死ね!女の敵っ!」

 

何か箒が俺を罵倒してる様にも聞こえたがそんなの俺の耳には届いていなかった…。

 

 

 

 


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