IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第25話「よろしい。ならば買い物だ」

 

放課後の鍛錬を終え寮の自室に戻ると、私はルームメイトがまだ帰って来ていないのを確認してから今着ている制服を脱ぎ自室に備え付けてあるシャワー室に入り蛇口をひねる。

 

「………ふぅ」

 

シャワーから出てくるお湯が鍛錬で掻いた汗を流していく。その心地良さに私は目を細めた。

やはり、鍛錬の後のシャワーと言うのは良い物だ。疲れた時に入る風呂もまた格別だが、やはり私は鍛錬の後のシャワーが好きだ。頑張った自分へのご褒美にも思えてくる。

 

「頑張った自分への…か」

 

ぽつりと、言葉を溢す。

 

―――色々とがんばらないとな。

 

あの時の、一夏の言葉が脳裏に蘇る。『頑張る』あの時の言葉には言葉にとおり色々な意味が含まれていたのだろう。強くなるのは当然の事、そしてそれ以外にも…。

 

―――ミコトが一番望んでるのは箒が友達で有り続けてくれることだ。勿論、友達なら友達を守るのは当然だろうさ。でも、守るってのは色々あるんじゃないか?

 

「色々…か」

 

あの馬鹿者め。言うだけいって何も具体案は出してくれなかったではないか。無論、それは自分自身で考えなければならないのは私とて分かっている。私もこれから時間を掛けて自分なりに考えていくつもりだ。あの後だって考えはしたんだ。だが…。

 

「結局、考え付くのは…」

 

自分の掌に視線を落とし、ぎゅっと握りしめる。

私には、結局これしかないのだ。ずっと、一夏の繋がりを信じて振って来たこの『剣』しか私は誇る物は何も…。

 

「なら、行き着く先は結局これしかないのか…」

 

本来ならこんな手段はとりたくは無かった。クラスの皆にはあの人とは関係無いと公言した手前、気が引ける以前にあんまりな自分勝手さに己に嫌気がさしさえした。それでも。それでも私は…。

蛇口を閉めシャワー室を出ると、髪の水気を取り、タオルを身体を巻きベッドに腰を落とし携帯を手に取ると、鋭くそれを睨みつけた。

 

「本当はかけたくは無いのだが…」

 

本当に。可能ならばあの人に電話なんてかけたくは無い。というか関わりたくも無い。今後関わるのはこれっきりにしたいと言う程に…。

親族に向けるべき感情では無い。それは分かっている。だが、私にとってあの人は家族と言うよりも…。

 

「…っ!ええい!」

 

意を決して携帯のボタンを押す。スピーカから響いて来るコール音。

そして、その音が数回響いてから電話を掛けた相手は喧しい声で応えるのだった。

 

『やあやあやあ!久しぶりだねぇ!ずっとず――――っと待ってたよ!』

 

耳を突く能天気で甲高い声に顔を顰める。

 

「―――。…姉さん」

『うんうんうん!言わなくても用件は分かってるよ理解してるよ!箒ちゃんのことなら!』

「………」

 

まただ。いつもこの人は私の話を聞かない。自由気ままで、自分勝手で…。

思わす怒鳴りたくもなったがそれをぐっと我慢する。姉の気分を害する可能性もあるし、どっちにしろこの人にこちらの意思など通じる筈も無いのだから無意味なのだ。

 

『欲しいんだよね?君だけのオンリーワン、代用無きもの、篠ノ之箒の専用機が。モチロン用意してあるよ。最高性能にして規格外仕様。そして、白と並び立つもの。その機体の名前は

 

『紅椿』―――』

 

「紅椿…」

 

無意識に、自分の専用機になるであろうその名を復唱する。

 

『うんうん!もう直ぐ箒ちゃんの誕生日だしね!誕生日プレゼントだよ♪』

「誕生日…」

 

そう言えばもう7月。もうすぐ私の誕生日だ…。

 

『でねでね!この機体の凄い所はね―――』

「………」

 

携帯電話の向こう側で何やら姉が熱く語っている様だがそれは私の耳には届いていない。私が今気にしているのは別の事で、もっと大切な事だった。

 

あいつは…覚えてくれているのだろうか?

 

そんな、不安と期待が含まれた疑問を心の中で抱いていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

第25話「よろしい。ならば買い物だ」

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

「もきゅもきゅ……ごくん」

 

ん。ミルクにサンドイッチは至高。今日はお休みだからゆっくり味わって食べる。

 

「おっ、ミコト。今日は早いんだな。感心感心」

「あむあむ……ん?」

 

一夏が朝ごはんを持ってこっちに来た。今日も和食。一夏はいつも朝ごはんは和食。おみそ汁とまっしろなご飯が好きって言ってたけど私は少し苦手。

 

「ごくん……一夏は少し遅い?」

「休みの日だからなぁ。部活に入ってる訳でもないし朝はゆっくりしたいだろ」

 

ん。その気持ち分かるかも。お布団気持ちいいから。

でも最近暑いからいつもより早く起きちゃった。

 

「ん。本音も今日はいつもよりゆっくり寝てる」

「ははは、のほほんさんらしいな」

 

うん。本音、生徒会室に居ても寝てる。夜更かししないで寝てればいいのに…。

昨日も夜遅くまでパソコンでねっとさーふぃんしてた。たぶん、私が寝た後もしてたんだと思う。寝たのは何時なんだろう?

 

「むー…ちゃんと睡眠を取らないと身体に悪いってクリスが言ってた」

 

特に私の場合は正しい生活バランスを保たないと身体の状態が保てなくなるってクリスから言われた。よく、わからないけど…。

 

「そうか、クリスさんがなー。まぁ、その通りかもな。ちゃんと睡眠を取らないと寿命が減るとか聞いたことがあるし」

「! 今度から本音を寝かせる。ぜったい」

 

本音は大切な友達。ずっと元気でいてほしい。

 

「おう。頑張れ」

「ん。がんばる」

 

ぎゅって両手を握り締めて意気込む。いま、私の両肩に本音の運命がたくされた…気がする。

 

「のほほんさんはまぁ平常運転としてだ。休日にしては結構起きてきてるな?皆部活って訳じゃなさそうだし。いつもならこの時間帯結構がら空きだろ?」

 

一夏は味噌汁を啜りながら周りを見渡す。私もそれを真似して周りを見る。…確かに一夏の言う通りで今日は少しううん。いつものお休みの朝より多い気がする。なんでだろ?

 

「来週から臨海学校だからじゃないかな?」

「シャルロット…」

 

一夏に続いてシャルロットも来た。朝起きた時は居なかったけど。何処いってたの?

 

「おはよう」

「うん。おはようミコト。一夏もおはよう。もう起きてたんだ?」

「せっかくの休みだし、ダラダラ時間を潰すのも勿体ないしな」

 

ん。私は空を眺めてる予定。とっても有意義。

 

「でだシャルロット。今の状況と来週の臨海学校が何の関係があるんだ?」

「それはあるでしょ。臨海学校の準備とかしないといけないし。皆街に買い物に行く予定なんだよきっと」

「買い物…歯ブラシやタオルとかか?」

「何でそうなるのかな…いや、それもあるかもだけど…」

 

「「?」」

 

シャルロットの言いたい事がよくわからない。配られたプリントに持って行く物で書いてあったよ?歯ブラシ。

 

「臨海学校と言ったら海でしょもう。皆水着を買う予定なの!」

 

「「お~…何で?」」

 

私と一夏は揃って首を傾げる。

 

「この二人は…女の子は皆そうなの!ていうかミコト一夏以上に無頓着すぎ!」

「???」

 

シャルロットが何を言いたいのか本当にわからない。

 

「いやだって。水着なんて皆一緒だろ?そんな新しいの買わなくたってさ」

「男の子と一緒にしないで下さい!」

「oh…」

 

水着。あったかな…?

確か真耶にどうするの?って聞かれて、それを本音に話したら本音が用意してくれるって言ってた気がする。おーだーめいど?だったかな?ん。じゃあ別に私は買わなくていい。

 

「しかし買い物か…丁度良いや。俺も街に出ようかな」

「一夏も水着買うの?」

「ミコトよ。それは本気で言っているのかね?」

「? 違うの?」

「本気なのか…。まぁミコトだからな…」

 

一夏も良く分からない事言う。私は私。当たり前。

 

「何か買う物あるの?」

「まあな。買ってやらないと後が怖いし。それに、久しぶりだしな」

「久しぶり?」

「ま、気にすんな。こっちの話だよ」

「…まぁ、一夏がそう言うなら」

 

んー…。少し気になる。でも一夏が言いたくないのなら聞かない。

 

「おう。シャルロットはどうするんだ?なんなら一緒に行くか?」

「ええ!?い、一緒にっ!?一夏と!?」

 

うぅ…急に大きな声出さないでほしい。耳がきーんってなってる…。

 

「あ、ああ。一人で街を歩くのは寂しいしな」

「本当!?行くよ!絶対に!」

「そ、そうか…。あ、ミコトはどうするんだ?」

「ん?んー………」

 

行きたい。でも…。

 

「…いい。本音が起きるの待つ」

 

起きた時に誰も居なかったら本音はきっと寂しいと思うから。

 

「そうか、じゃあまた今度な」

「ん。約束」

「ああ、約束だ」

「……ん♪」

「それじゃシャルロット。朝飯食べたらさっそく行こうぜ」

「うん♪…ミコトありがとね?」

「?」

 

…何で感謝されるんだろ?私何かしたかな?

 

「何でミコトに感謝するんだ?」

「う、ううん!?何でも無いよ!?気にしないで!?」

「? まぁ、言いたくないなら良いけどさ」

 

そう言って一夏は食事を再開してお魚を箸で摘まんで口の中に運ぶ。私はこの一個で最後。うまうま。

 

「もきゅもきゅ…んく。ごちそうさまでした」

 

朝ごはんを食べ終わったから私は空になった皿が載ったトレーを持って席を立つ。もう本音は起きたかな?片づけて部屋に帰らないと…。

 

「あれ?もう部屋に戻るのか?」

「ん。本音が起きてるかもしれないから」

 

起きて無くてもそろそろ起こしてあげないと。朝ごはんの時間過ぎちゃう。

 

「そうか。じゃあまたな」

「またね。ミコト」

「ん。またね…」

 

一夏達とさよならして私は部屋に戻った。

 

 

 

 

「ただいま。本音起きてる?」

「ぐぅ………」

 

部屋に戻って来たけどまだ本音は寝てるみたい。どうしよう?朝ごはんの時間終わっちゃう。起こした方が良いよね?

 

ゆさゆさ…

 

「本音、起きる。朝」

「むにゅ~…今日はお休みだよぉ~…もっと寝かせてぇ~…」

 

掛け布団を被って丸くなる本音。むぅ…。

 

「朝ごはん。食べられなくなる」

「いいよぅ…お昼と一緒にするからぁ…」

 

む。朝ごはんはちゃんと食べないといけないってクリスも真耶も言ってた。それはゆずれない。

 

「ダメ。起きる」

「うぅ~…昨日は遅くまでネットしてたんだよぉ~…寝かせてよぉ~…」

「ダメ。皆起きてる。本音も起きる」

「他所は他所、うちはうち。だよぉ~…」

 

最強の呪文を使ってきた。手ごわい…。

 

「皆買い物に行くって。本音は良いの?」

「…………買い物?」

 

本音がピクリと反応してもそもそと布団から顔を出してくる。

 

「買い物って?」

「臨海学校があるから皆街に行くってシャルロットが言ってた」

「臨海学校…買い物……………あーーーーーーっ!?」

 

ガバッと起き上がるのと一緒に急に大きな声をあげる本音。

 

「びっくりした…」

 

急に起き上がるんだもん。

 

「そうだよそうだったよー!来週から臨海学校だったんだー!すっかり忘れてたー!」

 

ドタバタ!

 

ちゃんと真耶が昨日のSHRで言ってたのに…。

そんな私の気持ちも知らない本音は慌ててパジャマを脱ぎ散らかしてクローゼットから自分のお洋服をこれじゃないこれでもないとぽいぽい放り投げていく。…後でお片付け大変そう。シャルロットが帰ってきたら怒るだろうなぁ。

 

「あうあうあうー!出遅れた出遅れたー!別に競争とかしてないけど出遅れたー!」

「……あー…」

 

次々と宙を舞う色とりどりのお洋服達。部屋の床はあっと言う間にお洋服で埋め尽くされ身動き取れない状態になっちゃった。これどうしよう…。シャルロットの激怒は必至…。

 

「持って行くお菓子も厳選して買わなきゃだしー!水着も受け取りに行かなきゃだしー!あーもー!何で忘れてたかなー!?」

 

そう言えば私も荷物の準備をしてない。あとでしとかなきゃ…あっ、真耶がしてくれてもう荷物は先に送ってくれてたんだった。真耶も先にあっちにいってるんだっけ?

…海。こっちに来る途中に海の上通って見たことはあるけど触ったこと無い。普通の水とは違うんだよね?

 

「みこちー!みこちー!」

「ん?」

 

お洋服を着替え終えた本音が床のお洋服を蹴飛ばしているのを気にも止めずにこっちにやってきて私の手を握ってくる。

 

「街にいくよ!」

「? どうして?」

 

いきなりの本音の提案に私は首を傾げた。

 

「臨海学校の準備だよー!みこちーにー見せたい物があるのだー!」

 

みせたいもの…。

 

「………ん」

 

少し考えて私は頷く。よくわからないけど、本音が街に行きたいって言うなら私も一緒に行く。

 

「よーし!それじゃあ、レッツGOだよー!」

「おー」

 

そういえば学園の外に出るのひさしぶり。ん。たのしみ。

ノリノリで部屋を出る私と本音。でもそんな私達の歩みは一歩目にして止まってしまう。

 

「あら?ミコトさんに本音さんではありませんの。今からお出掛けですの?」

 

廊下に出てすぐにセシリアと鈴に遭遇。凄いタイミング。びっくり。

 

「ん。おはよう」

 

朝の挨拶は大事。ちゃんと二人に挨拶をする。

 

「ふふ、おはようございます」

「ハイおはよう。相変わらず仲が良いわねアンタ達」

 

ん。本音は友達だから。でもセシリアと鈴も友達。

 

「もちろんなのだー♪二人も仲良いよねー?」

「いやアタシは偶然廊下で一緒になっただけだから」

「そうですわ。いっつも一緒に居る様な言い方はやめて下さいな」

「…でも仲良いよ?」

 

最近、いつも一緒に居るもん。

 

「「仲良くない(ですわ)!」」

「ん。息もピッタリ」

「だねー」

 

照れ隠し…なのかな?仲が良いのは悪い事じゃないのに何で照れるんだろ?不思議…。

 

「だから別に……こほん!ま、まぁ、それはそれとして。ミコトさん達もお出かけで?」

「そーだよー♪街にお出かけするんだー♪」

「あらそうなんですの?そう言えばミコトさんは久しぶりの外出でしたわね?」

「ん。すごく楽しみ。本音と出掛けるの久しぶりだから」

「みこちー…えへ、えへへへぇ…」

「…本音。顔がヤバイから。凄くだれてるから。人に見せられない状態になってるから」

「おおう!?危ない危ない…溶けちゃうところだったよー。ホント、みこちーは私に対して常にクリティカル攻撃だねー。私のハートがダイレクトアタックだよー」

 

本音が何を言ってるのかわからない。

 

「セシリア達はどうするの?」

「わたくしですか?わたくしは別段欲しい物はありませんし…」

「アタシも。水着も買っちゃってるし街行ってもする事ないわね」

 

そっか、一緒に行こうって誘おうと思ったけど。残念…。

 

「…りんりんは大丈夫なの?傷、残ってるよねー?」

「え?…ああ大丈夫。隠れる様に水着選んだから。それにそんな目立つ傷跡じゃないしね。いやー現代医療の進歩は偉大だわ」

「そっかー、それなら安心だよー。あっ、でもでも!りんりんは胸が小さいからビキニとかそういう露出が多いのは選ばないよねー!」

「OK。その喧嘩買ったわ。表でろ」

「やめなさいな、はしたない…」

 

笑ってるのに凄く怖い鈴をセシリアが抑える。

 

「くっ、悪気が無いぶん質が悪いわね。天然って怖いわ…」

「ほえー?」

 

…天然?資源のことかな?それとも災害?ん。自然って怖いよね。気まぐれだし。天候の状態でイカロスの性能も変わっちゃうから。

 

「はいはいもう良いわよ。疲れるし…。それよりもさ、アンタ達一夏知らない?さっき部屋に行ってみたんだけど留守みたいなのよね。食堂にも居なかったし」

「えー?わたしは知らないよー?」

 

…ん?一夏?

 

「そっか。何処にいったんだろアイツ」

「困りましたわね…」

 

二人とも困ってる。何か大事な用事でもあるのかな?

 

「わたし、一夏が何処にいったか知ってる」

「本当ですのミコトさん!?」

「でかしたわチビすけ!正直アンタが知ってるとか予想外だったけど。それで?一夏は何処に行ったの?」

「ん。シャルロットと一緒に街に行った」

 

「「………え?」」

 

二人が固まる。

 

「あの…今なんと?」

「? 一夏はシャルロットと一緒に街に行ったって言った」

 

うー。いったいった言いにくい…。

 

「ぬぅわぁんですってぇえええええええっ!?」

 

おおふ…。

耳が。セシリアの奇声で耳がマッハであぶない…。

 

「出遅れた出遅れた出遅れた出遅れた出遅れた出遅れた…」

 

鈴もよくわからないけどあぶない…。

近づいちゃいけないオーラ?みたいなのが出てる。

 

「くっ!油断してましたわ!まさかシャルロットさんに出し抜かれるとは!?」

「…ダシ?」

 

カツオだしコンブだしetc…。

 

「うん♪みこちーそれ違う♪」

「………ん」

 

違うんだ…。

 

「急がなければ!今ならまだ追い付ける筈!行きますわよ鈴さん!何時までも塞ぎこんでるんじゃありませんわ!」

「ブツブツ……ハッ!?そ、そうね!後をつけなきゃ!」

「後をつけるんであって合流するわけじゃないんだ。うん、まぁらしいといえばらしいよ二人とも…」

 

尾行…あっ!良い物がある。

私は慌てて部屋に戻りある物を持って来る。

 

「みこちー?どうしたのー…って、何で段ボール?」

 

部屋から私が持って来たのはだんぼーる。しかも『愛○みかん』って書かれてある上質のだんぼーる。これがあればどんな場所でも自然に溶け込めるあの蛇のひとならきっとよだれを垂らして欲しがるほどのレアな優れもの。

 

「ダンボールはスニーキングミッションの必需品って蛇のひとが言ってた」

「あの人が言うなら絶対だねー♪」

「訳が分かりませんわ!?何故ダンボールが必要になるんですの!?どう使うおつもりで!?」

 

セシリア何で分からないの?これ常識。そう思いながら私は段ボールをかぶった。うん。完璧。

 

「かぶる(ドヤ」

「かぶるんですの!?」

「何でかぶるのよ…」

 

何で?何でってそれは…。

 

「わからない。でもこの箱を見ていたら無性に被りたくなった。ううん、被らなければならないという使命感を感じた、と言う方が正しいかもしれない 」

 

「「し、使命感?」」

 

「ん。そしてこうして被ってみると、これが妙に落ち着く。うまく言えないけど、いるべきところにいる安心感というか、人間はこうあるべきだとう確信に満ちた安らぎのようなものを感じる」

 

狭くて暗い所は嫌いだけど、段ボールは何故か落ち着く。ダンボール。それはリリンの生み出した文化の極み。

 

「駄目だこの子はやく何とかしないと…」

「ほ、ほほほ本音さん!?貴女がしっかりしないからミコトさんがこんな風になってしまいましたのよ!?」

「…え?私の所為なの?」

 

むぅー…皆うるさい。もうみっしょんは始まってる…。

 

「こちらミコト。これよりみっしょんを開始する」

「よろしい。ならば買い物だ」

 

ガポッとダンボールをかぶる本音。ん。さすが本音は分かってる。

 

ごーごー…。

 

「「わけがわからないよ!?」」

 

えー…。

 

結局、ダンボールは取り上げられちゃった。なんで…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑 一夏

 

 

「気持ち良いくらいに晴れたなぁー」

「だね。でもちょっと日差しが辛いかな?」

 

週末の日曜日。天気は快晴でこれ以上に無いお出掛け日和だ。

来週から始まる臨海学校もこれくらいの天気だといいな。折角の海を前にして雨というのは流石にテンション下がるし。

 

「おいおい。真夏はこんなもんじゃないぞ?これ位で音を上げてどうすんだよ」

「そ、そうなの?話には聞いてはいたけど日本の夏は暑いんだね」

 

海外になんて言った事が無い俺には良く分からんけども。まぁ、IS学園は海の近く…と言うかその上にあるからそう熱くは無いかもしれないけどな。冷房完備で天国な学園から一歩外に出れば地獄だが。

 

「四季がここまではっきりしてる国も珍しいね。衣替えとか大変そう」

「ああそうだな。特に俺は千冬姉の服も出さないといけないから更に大変だ」

「し、主夫なんだね一夏は…」

 

言わないでくれ。しかし何で私生活はこうまでずぼらなんだ我が姉は…。弟だからって俺は男だぞ?男に自分の服を用意させるのはどうかと思う。

 

「嫁の貰い手があるのか心配な今日この頃」

「あの人に釣り合う男の人ってそうは居ないよね…」

 

なにしろ『最強』だからな。おい、マジで貰い手はいるのか?

 

「「…………はぁ」」

 

暫しの沈黙の後、俺とシャルロットの溜息が重なる。たぶん、同じ事を考えて、同じ結論に至ったのだろう。

 

「そ、そんなことより!ほら!買い物買い物!折角街まで来たんだしさ!」

「あ、ああ!そうだな!さーて何処に行こうかなぁ!」

 

全力で話題を逸らす俺達。人それを現実逃避と言う。

 

「僕、水着を見に行きたいな。女物の水着は持って来て無かったし」

 

そりゃそうだ。男として転校してきたのに女物の水着なんて用意してる訳無い様な。

 

「それじゃあ、駅前のショッピングモールに行こうぜ。あそこなら何でも揃ってるし」

 

駅舎を含み地下街全てと繋がっているショッピングモール『レゾナス』。食べ物は欧・中・和。衣服は量販店から海外の一流ブランドまで。そしてその他にも各種レジャーも用意された死角なしの完璧なショッピングモールなのだ。たぶんIS学園が影響してるんだろうけど無駄に凄いなあのショッピングモール。

 

「僕はこの辺の地理は詳しくないしそこは一夏にお任せするよ」

「よし。なら決まりだな。ほら、行こうぜ!」

 

俺はシャルロットの手を引いて歩き出す。朝の電車は混むだろうから早めに電車に乗り込まないと。

 

「い、一夏!?」

「ん?どうした?」

 

急にシャルロットが顔を真っ赤にして奇妙な声をあげるので俺は足を止めた。

 

「て、てててて手!一夏!手!」

「手?」

 

俺はシャルロットの手を繋いでいる自分の手へと視線の降ろす。ふむ、何もおかしな点は無いが?

 

「…手が如何したのか?あっ、悪い。汚れてたか俺の手?」

「え?あ、ううん!?そんなんじゃないよ!?」

 

悪い事したと思い手を離そうとすると、今度は逆にシャルロットが逃がすまいとガッチリと俺の手を握って来て、ブンブンと慌てた様子で首を左右に振る。…そんな凄い勢いで首振ると頭が落っこちるぞ?

 

「そ、そうか?なら良いけどさ…」

 

俺は手を離そうと腕を振ってみる。しかしシャルロットに掴まれているので離れる様子も無い。しっかりと拘束されています。

 

手を解こうにも物凄い力で握られてて離せない、だと…!?

 

どんだけ俺を疑ってるんですかシャルロットさんや。そんなに強く握らなくても逃げないって。俺だって街に行って買う物があるんだから。

 

「…あのさ、シャルロット?何で手を掴んでるんだ?」

「え?何言ってるの一夏。握って来たのは一夏の方じゃない♪」

 

そうだね。最初はそうだったね。でも、今は違うよね!?

もう一度腕を振ってみる。しかし拘束された手は解けない。どういう事だこれ…。

 

「えーっと…」

「どうしたの一夏?早く行こうよ!」

「…………そうだな」

 

何か釈然としないが、時間も勿体ないし手を繋いでれば逸れる心配も無いからこれはこれで良しとしよう。それに…。

 

「ふふふ♪」

 

シャルロットも何か楽しそうだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 布仏 本音

 

 

「コチラ本音。対象≪ターゲット≫は手を繋いだ状態で駅に移動中。オーバー」

「ん。引き続きたーげっとを追跡せよ。おーばー」

 

物陰から顔を出しいちゃつく二人の様子を眺めながら紙パックのジュースを通信機に見立てて通信の真似ごとをする私とみこちー。

 

あははー♪他人の色恋を見ていて楽しいねー♪まぁ、セシりん達はそうでもないみたいだけどー。

 

今向けている視線を頭上へと上げると、そこには私とみこちーの様に顔を出し、ハイライトの無い瞳でおりむー達を眺めているセシりんとりんりんが居た。

…うん。色恋沙汰になると女は変貌するねー。おりむー。いつか刺されるよー?

 

「……あのさぁ」

「……なんですの?」

「……あれ、手ぇ握ってない?」

「……握ってますわね」

 

りんりんの問いに、セシりんが笑っている筈なのに一切感情を感じさせない冷たい笑みでそう答える。すると、そうセシりんが答えた途端、りんりんの持っていたペットボトル(中身あり)が、音を立ててりんりんの尋常じゃない握力によって握りつぶされる。流石代表候補生、パネェ…。

 

「そっか、やっぱりそっか。あたしの見間違いでもなく、白昼夢でもなく、やっぱりそっか。―――よし、殺そう」

 

ペットボトルを握りつぶしたその拳は、いつの間にかISが部分展開していて戦闘モードに入っていた。…というか、これは暴走モードかな?とうとう私もテレビ出演かな?ニュースで『あんなにいい子だったのにまさかこんな事になるなんて…』とか『いつかはこうなるとは思ってたんです』とか言うのかな?どっちにしてこの場が惨劇の現場になるのは秒読み段階だよね。おりむー、安らかに眠ってね?

 

「…何をしているんだ?お前達は」

「「!?」」

「むー!この声は!」

 

いきなり背後から声をかけられ、驚いて振り向く二人に対し、二人とは違って私は聞き覚えのあるその憎たらしい声に嫌そうな表情を浮かべて背後へと振り向く。

そして、そこの立っていたのは案の定。みこちーの命を狙い、りんりんを怪我させた相手―――ラウラだった。

 

「あ、あんたっ!?何でこんな所に居るのよっ!?」

「『警護対象』の近くでISの反応を察知したら急いで駆け付けるのは当たり前だろう。…しかし、街の真ん中で何をしているんだお前は」

 

本日の『お前が言うな』入りましたー。ていうか、警護対象って誰の事かなー?ねー、誰の事かなー?私の嫉妬心がオーバーヒートしてるよー?んー?

唯でさえ、私は戦闘能力は皆無に等しい。それに対してこの子は戦闘のプロで高い戦闘能力を有している。これが嫉妬せずして何とする。

 

「貴女がそれを言いますの?」

 

鋭い視線で睨み。セシりんはそう問う。しかし、ラウラただ目を瞑って静かに返す。

 

「その件については既に謝罪した。あれでまだ足りないと言うのなら好きなだけ頭を下げるが?なんなら、此処で土下座しても良い」

 

そう言ってラウラが膝を着こうとするが、慌ててセシりんはそれを止める。こんな街中でそんな目立つ事をされたら逆にいい迷惑だ。

 

「や、やめなさいな!それに、わたくしが言っているのはそういうことじゃないですわ!」

「ふむ、そうか。まぁやるなというのならそれに従おう。それより良いのか?お前達の監視対象は既に行ってしまったぞ?」

 

「「――――はっ!?」」

 

バッと二人が振り向いた先にはもう既におりむー達の姿は無く、ただ人波が流れているだけだった。

 

「…一夏とシャルロットならもう駅に入ったよ?」

 

固まる二人にみこちーがそう告げる。何故今まで黙っていたのか。二人はそう言いたそうな表情をしてたけど今はそれどころでは無い。

 

「お、追いかけますわよ!鈴さん!」

「もち!」

 

慌てて駆け出す二人。それに私とみこちーも続……ちょっと待とうかー?

私は足を止めて後ろをピッタリ着いて来るラウラに振り向く。

 

「何で付いて来るのかなー?」

「折角接触したのだ。一緒に居た方が警護しやすいだろう?」

 

当たり前だと言わんばかりのデカイ態度に私の不快感がマッハなんだけど?

勿論断ろうとしたんだけど、そう私が言う前になんとみこちーが割って入ってラウラの同行を了承してしまったのだ。なんてこったい。

 

「ん。ラウラも一緒にお出掛けする。きっと楽しい」

「…そうか。そうだな。私も…楽しいよ」

 

…むー!何かなこのラヴ空間はー!?

 

みこちーにそう言われ、頬をほんのり赤く染めて照れくさそうにしているラウラを見て。私はぷくぅと頬を膨らませる。私が蚊帳の外なんですがどういう事?説明を要求するー!

 

「みこちー!置いてかれるよー!?早く行こうよー!」

「ん」

 

急かす私にみこちーは短く頷き、先に行ったセシりん達を追う。それに私とラウラも続いた。そして小さく、本当にみこちーに聞こえないくらいに小さい声で呟いた…。

 

「…負けないんだから」

「む?………フッ」

 

私の呟きにラウラは此方を見ると、じっと私の顔を見てぽつりと笑みを溢すとまた前をてこてこと走るみこちーの背へと戻した。その笑みに私はまたむっとするけど、その何かを想う優しい笑みはどうしても嫌いにはなれなかった…。

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑 一夏

 

 

駅に到着すればもうそこは店の中ってのがこのショッピングモールの良い所だ。しかも、市のどの駅からもこの駅にアクセスできるから移動の際にもとても便利と言える。

 

「そりゃ、これだけ人が集まるよなぁ…」

 

これだけの整った設備。なら、休日のこの日に人が集まるのも当然と言えば当然か。だから人でごった返しているこの駅のホームの光景も当たり前と言えるだろう。

 

「あはは…人混みの中を移動するだけでも大変そうだね」

 

目の前の光景にまだ着いたばかりだと言うのに疲れた笑みを浮かべるシャルロット。俺は昔から弾や鈴と一緒に遊んで回ってたりしてたからこういうのは何度も経験済みだしそうでもないが。

 

「逸れたら合流出来そうにないな。シャルロット、手を離すなよ?」

「…うん♪」

 

きゅっと握り返される右手の感覚を確認すると、シャルロットの手を引いて人混みの中へと歩き出した。

 

「わぷっ…本当に凄い人混み。目的地を絞って移動しないと大変じゃない?」

「…来る日を間違えたか?しかたない。色々回りたかったけど場所を絞るか。まずは水着売り場で良いよな?」

「うん。僕はそれで良いよ?」

 

んじゃ、人を掻き分けて進むとしましょうかね。確か水着売り場は2階だったか。この時期、あそこが一番込んでそうだよなぁ。考える事は皆同じってな。

 

 

 

 

 

 

――――Side 布仏 本音

 

 

こちら本音。唯今、異常事態発生中!メーデー!メーデー!

 

「みこちー!応答しろみこちー!」

 

紙パック片手に人混みの中みこちーの名を呼ぶ私。けれど、みこちーの反応は無く目の前では人の波が流れるだけである。

 

「本音さん馬鹿な事言ってる場合ではないでしょう!?と、とりあえず迷子センターに連絡を!?」

「あー…完全にはぐれたわこれ…」

「何たる失態…」

 

うわーん!みこちー!どこなのー!?

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑 一夏

 

 

やっとこさ水着売り場へと到着。まさかこんなに苦労するとは思わなんだ。

 

「もう帰りたい」

「だーめ!僕は水着買わないといけないし、一夏も買う物があるんでしょ?」

 

くっ!事前に用意していなかった俺が憎い!よりにもよってこんな混んでる日に買い物をする羽目になるとは!

 

「ほらほら、落ち込んでないで」

「やれやれ。手早く済ませるか…」

「残念♪女の子の買い物は時間が掛かるんだよ?」

「ジーザス…」

 

神は死んだ…。

 

ピンポンパンポーン♪

 

『迷子のお知らせをします―――』

 

ん?迷子のお知らせか。まぁ、こんなに人が多ければ親と逸れても仕方が無いよな。

 

「迷子かぁ、親御さん心配してるだろうね」

「そうだな」

 

はやく見つかるといい。最初は、そんな他人事みたいに放送に耳を傾けていた俺達だったが…。

 

『IS学園からお越しのミコト・オリヴィア様。IS学園からお越しのミコト・オリヴィア様。お連れ様がお待ちです。一階、サービスセンターまでお越しください。繰り返しご連絡いたします―――』

 

「「ぶふっ!?」」

 

まさかの身内の名前が放送され、シャルロットと一緒に盛大に噴き出してしまった。

 

「ミコト!?今、ミコトって言ってたよな!?」

「う、うん。確かにそう聞こえたよ?こっちに来てたんだねミコトも…」

 

俺達について来ちゃったのか?いや、ミコトが呼び出されているって事は他の誰かと一緒に来たって事だよな。たぶん、のほほんさん辺りだと思うけど…。

 

「………行ってみる?サービスセンター」

「放っておく訳にもいかないし、行くしかないだろ…」

 

一旦買い物を中断し、俺とシャルロットはサービスセンターへと向かう事になった。はてさて、誰が待っている事やら。

 

 

 

 

「―――で、まさかの勢揃いか。流石にこれは予想外だわ」

 

サービスセンターに着いてみれば、箒を除くいつものメンバーが勢揃いでミコトがやってくるのを待っていた。ラウラと一緒に居るの意外だったけど。

 

「あ!おりむー!ねぇねぇ!みこちー見なかった!?」

 

俺達を見た途端、のほほんさんが不安で一杯な表情を浮かべて俺に飛びついて来る。しかし残念だが俺にのほほんさんが期待している言葉はかけてあげられそうにない。

 

「悪い、見てないよ」

「…そっかー」

 

がっくりと肩を落とすのほほんさん。

 

「だ、大丈夫だって。モール内に居るのは確かなんだし、放送聞いてれば此処に来る…筈…」

 

そう言い掛けて、今までのミコトの行動を振り返ってみる。入学式をすっぽかし、最初のHRも遅刻、授業中も自由気ままに空中浮遊…。

 

「………駄目かもしれない」

「いやそこは断言しようよ。余計に不安にさせてどうするの?」

 

シャルロットよ。お前は途中からやって来たから知らないからそんな事が言えるんだ…。ミコトの行動を予測するなんて誰も出来やしないって…。

 

「ですが、一夏さんの言う事も一理ありますわ。此処は誰か一人此処に残って、他の皆で探した方がよろしいんではなくて?……あと、一夏さんには後でお話があるのでそのつもりで」

「そうね。待っていてもどうせあのちびっ子が来るわけもないし。……あたしも話があるから逃げんじゃないわよ?一夏」

 

俺が一体何をした…?

 

「じゃあ誰が残るか決めないとね。勿論私は探しに行くからー!」

「無論、私も捜索に加わる」

「わ、わたくしも探しますわよ?ミコトさんを一人にさせておくと何を仕出かすか分かりませんし」

「んー。あたしも探すわ。ここでじっとしてるのは居心地悪いし」

「僕も探すよ。この前の事件もあるし心配だから」

「じゃあ俺も……っておい!」

 

はいはいと全員が手を上げて立候補する。

誰一人残る気はねぇのかよ!?

 

「いや、流石に一人は残らないとまずいだろ。係の人も困るしもしかしたらミコトが来るかもしれないだから」

「だからと言って私は譲る気は無いぞ?そもそも私は最初から一人で探すつもりだったのだ。それをお前達が…」

「貴女まで逸れたら面倒でしょう!?それくらい考えなさいな!」

「むぅ…」

 

セシリアの尤もな意見にラウラは押し黙る。

 

「なら公平にジャンケンで決めましょ。それなら誰も文句ないわよね?」

「…仕方ありませんわね」

「ぶー…」

 

パンと手を叩いて鈴がジャンケンで誰が残るかを決めようと提案すると、渋々ではあるがこの場に居た全員がその意見に賛成した。

 

「ならばこの勝負、私の全てを賭けて勝ちを取らせて貰おう!」

 

そう高らかに宣言し眼帯を外すラウラ。眼帯から覗かせた瞳は片方の眼とは違い、金色に美しく輝かせていた。

 

「何で眼帯を外すんだ?」

「この左目、ヴォーダン・オージェは脳への視覚信号の伝達速度を飛躍的に高速化させる。つまり、相手の手を見て直前に自分の手を変える事可能なのだ」

 

ハ○ター×ハ○ターかよ。

 

「厨二病乙…てかずっこ!?」

「そんなの認められる筈がありませんわ!?禁止です禁止!」

「何故だ?使える物を使っているだけだろう?」

「そーいう問題じゃなーい!」

 

ぎゃーぎゃーぎゃー!

 

折角決まりそうになったのにまた言い争いが始まってしまう。

 

「あーあ…」

「振り出しに戻っちゃったね…」

「駄目だこりゃ」

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

人、人、人、ヒト…。何処を見渡しても人だらけ。でも…。

 

「皆…いない…」

 

いない。人は一杯いるのに、セシリア達はいない…。

どうしよう。気付いた時には皆とはぐれてた。迷った…。

 

「…あがー」

 

どうすればいいか分からず途方に暮れる。確かに、遭難した場合。無暗に動くのは逆に危険だって『知識』にはあった。でも、これってそう何なのかな…?周りにはいっぱい人がいるのに?

 

「んー?」

 

首を捻る。どれが正解なんだろう?やっぱり動かない方が良いのかな?

 

ピンポンパンポーン♪

 

『迷子のお知らせをします。IS学園からお越しのミコト・オリヴィア様。IS学園からお越しのミコト・オリヴィア様。お連れ様がお待ちです。一階、サービスセンターまでお越しください。繰り返しご連絡いたします―――』

 

「…呼ばれた」

 

皆もそこに居るのかな?でもサービスセンターって何処だろう?ココ、すっごく広いから分かり辛い…。

 

「うー…」

 

動いたらもっと迷いそう。それに、あの人波の中を移動する自信は私には無い。こんなに人がいるところなんて初めてだし…。

 

「あらあら、可愛らしい女の子が一人で立ち尽くしちゃってどうしたの?」

「う?」

 

知らない女の人の声。とても澄んでいて綺麗な声…。

誰だろう?私はそう思い後ろを振り返る。するとそこにはとっても綺麗な金髪の女の人が私を見下ろして微笑んでいた。

 

「もしかして、デートをすっぽかされたのかしら?」

「…で~と?」

 

異性の男性とお出掛けしたりする事だっけ…?でも、セシリア達は女だから違う。ん。だから答えは否定。

 

「…違う」

「あら、なら迷子かしら?」

 

迷子…ん。それが正しい。肯定。

 

「…ん」

 

私は小さく頷く。

 

「あらあら、困ったわねぇ」

「ん。困った」

 

このままセシリア達と合流出来ないのは本当に困る。どうしよう…。

 

「サービスセンター。何処か知ってる?」

「あら、さっきの放送は貴女の事なの?」

「ん。きっとそこに皆いると思う」

「そうなの。なら私が案内してあげるわ」

「…いいの?」

 

私はこの女の人を知らないし、この人も私の事は知らないのに…。

 

「ええ。私、困っている女の子を見てると放っておけない性格なの」

「ん。じゃあ、しょうがないね」

「ふふふ♪ええ、そうね。しょうがないわね」

 

そう微笑むと、女の人は私の手を取り人混みの中へと進んで行く。

 

「それじゃあ、行きましょう?」

 

私はまだ返事をしていないのにもう歩き出してる。たぶん、断っても意味無いんだろうな。

 

「…通り雨みたい」

 

ぽつりと、思った事を溢す。こちらの意思とは関係なしに急に降りだして通り過ぎていく勝手な雨。この女に人はそんな雨に似てる気がする。

 

「よく言われるわ」

「言われるんだ」

「でも、貴女も人の事言えないんじゃないかしら?」

「う?」

 

私…雨なの?

 

「自覚なしか。ふふ、面白いわね貴女」

「…そうかな?」

 

私は面白いとは思わないけど。致命的にぼきゃぶらりーが欠けてるから。

 

「面白いわよ。『同じ』あの子とは大違い。やっぱり育て方によるのかしら?……いけない。操者の方は処分する予定だったのだけど、余計な欲が出てきちゃったわね」

「?」

 

言葉の意味が分からず私は首を傾げる。同じあの子?誰のこと?

 

「こちらの話だから気にしないで。でもそうね…貴女が学園を止めて私の職場で働くって言うのなら教えてあげても良いわよ?」

「いや」

 

きっぱりと即答する。皆がいる学園を止めるだなんて私には考えられない。それに、クリスとの約束を破るのはやだ。

 

「あら残念。フラれちゃったわね」

 

残念そうには見えない。でも、今の言葉も冗談を言った様にも聞こえなかった。この人、よく分からない…。

 

「…ほんと、雨みたい」

「スコールとでも呼んでちょうだい。小鳥ちゃん」

 

名前って大事。でも、そのまま過ぎると思う。

 

「私、ミコト」

「うふふ…よろしくね。ミコトちゃん」

 

 

 

 

「スコールも買い物に来たの?」

「そうね。今日は品定めってところかしら?」

「そうなんだ」

 

サービスセンターへ向かう道すがらお話を楽しむ私とスコール。そうなんだ。スコールもお買い物に来たんだ。なら、邪魔して悪いことしたな…。

 

「ごめんね?お買い物してたのに…」

「謝らないの。言ったでしょ?困っている女の子を見てると放っておけない性格だって」

「ん。…ありがとう」

「うふふふ…………本当、惜しいわね」

「ん?何か言った?」

 

綺麗な笑みを浮かべた後、何か小さく呟いたのを聞いたけどスコールは笑顔のまま首を左右に振る。

 

「いいえ?何も?」

 

んー…私の聞き間違いかな?

 

「―――あら、もう着いたみたいね。あそこがサービスセンターよ。後はもう一人で大丈夫ね?」

「? 最後まで一緒に行ってくれないの?」

 

送ってくれたお礼もしてないのに…。

 

「私もこれで忙しい身なの。それじゃあね。ミコトちゃん」

 

そっか…。じゃあ、止めちゃ駄目だよね?

 

「…ん。スコール?」

「何?」

「またね?」

「………」

 

また会えることを願って。『バイバイ』じゃなくて『またね』と私は言う。そんな言葉を告げた私に、スコールはきょとんとしたけどすぐにまたあの綺麗な笑顔を浮かべて「ええ、またね」と返して人混みの中へと消えて行った…。

 

「………ん」

 

スコールの姿が見えなくなるのを確認し、くるりと向きを変えてサービスセンターの入口を潜る。すると、私が入った途端、本音達が私に抱き着く形で出迎えてくれた。

 

「わぷっ?」

「みこちー!よ゛がっだよ゛おおおぉーーっ!」

「心配したんですのよ!?もう!……何事も無くて本当に良かった…」

「ったく!あんたは小さいんだからうろちょろしちゃ駄目でしょ?」

「放送を聞いた時はビックリしたようもう」

「まったく……心配したぞ。馬鹿者」

「今度からはちゃんと逸れない様にするんだぞ?分かったか?」

 

皆が何か凄い勢いで次から次へと声をかけられる。最初は、怒ってるような不安そうなそんな感じだったけれど。でも、それもだんだんと安心したように笑顔へ変わっていく。

 

「………」

 

―――貴女が学園を止めて私の職場で働くって言うのなら教えてあげても良いわよ?

 

「…ん。やっぱり駄目」

 

皆を見てもう一度そう思う。だって…―――。

 

―――此処が、もう一つの私の居場所だから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side スコール

 

 

「………惜しいわね」

 

友達にもみくちゃにされている白い少女の微笑ましい光景を遠くから眺めながら、そうぽつりと溢す。

本当に、本当に惜しい人材だ。ISの才能は勿論のこと。人格は幼くもあるが、寧ろそれが逆にいい。つまりそれは私好みに染め上げられると言う事なのだから。もし、組織に加える事が出来たなら、彼女は組織に多大な利益を与えてくれる事だろう。

 

「ま、有り得ないでしょうけど」

 

彼女は私と同じだ。誰にも縛られ無い自由な存在。組織なんて檻に入れられる筈も無い。

 

―――なら…。

 

「その翼だけでも、もがせて貰うわよ?ミコトちゃん…」

 

貴女の翼。張りぼての翼をね…。

 

「うふふ、『またね』。ミコトちゃん」

 

次に会う時は貴女のその翼を…。

 

 

 

 


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