IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第26話「ペンギン、大地に立つ」

 

 

ついに臨海学校当日、天気に恵まれ空は気持ちいほどの快晴。まさに臨海学校日和だ。心地良い日差しに照らされながら、わいわいと騒いでいるクラスの女子の楽しそうな声が満ちるバスは目的地へと向かって走っていた。

 

「…9」

「はいそれダウト」

「ぐっ…!」

 

鈴に指摘され、俺は小さく呻き声を上げトランプをぺらりと捲る。トランプの数字は『7』。

 

「はい、召し上がれ♪」

「ご愁傷様ですわ。一夏さん」

「うがあああああ!?」

 

どっさりと溜まりに溜まった山が俺の手元に渡ってくる。これは完全に終わった…

長時間のバスの移動。流石に暇だと言う事で今に至る。何と言う集中フルボッコ。さっきから俺ばっかり狙われているのは気のせいではない筈だ。まぁ、前の番がミコトだからと言うのもある。『うー…8がない』って言われたら誰がダウトって言えるだろうか?俺は言えないしこのメンバーで言える奴はまず居ない。つまり、言い損ねた『ダウト』と言う言葉はミコトの次に回ってくる俺にへと向けられてしまう訳だ。何たる理不尽か…。

 

「理不尽過ぎる!席替えを要求する!」

 

『だが断る』

 

俺の要求は皆の一寸もズレぬ返答によって却下された。何これいじめか?いじめ、カッコ悪い…。

 

「息合いすぎだろお前ら!?」

「誰がハズレだと分かりきっている席に座ると思う?」

 

実に正論だが箒よ。それをミコトの前で言う事か?まぁ、当の本人は全然理解していない様子だけど。

 

「あ、あははは…まぁまぁ一夏。落ち着いて、ね?」

「だー!やめだやめ!このゲームは俺にとって無理ゲー過ぎる!」

「たかがトランプで何熱くなってんのよ…。じゃあ何する?大富豪やババ抜き、もうひと通りやっちゃったわよ?」

「それでおりむー全部ボロ負けしたよねー」

「一夏。トランプにがて?」

「ぐぅ!」

 

痛い。特にミコトの言葉が一番痛い!

ちくしょう、このエリート共め。トランプがこんな頭を使うゲームだとは思わなかったぞ…。俺が呑気に手札を選んでいる時にこいつ等はほくそ笑みながら知略を廻らせてたに違いない。なんて恐ろしい奴らなんだ。

 

「さてと、一夏を苛めるのはここまでにして―――」

 

苛めって言った!今、苛めって言った!

 

「―――ほら、外見てみなさいよ」

「あら、着いたみたいですわね」

 

丁度、長いトンネルを抜けるところで窓から見える景色は暗闇から一変して、日の光を反射してキラキラと輝く青い海が窓の景色を色鮮やかに染め上げる。

 

「トンネルを抜ければ何とやらか」

「それは雪国だろう…」

 

何やらカッコ良い台詞を言う俺に対し、呆れ顔の箒が鋭いツッコミを入れてくる。

人がカッコ良く決めてるのに横槍入れないでくれますか箒さんや。俺が可哀そうな奴に見えてしまうじゃないか…。

 

「海だー!みこちー!みてみてー!海だよ海ー!う~み~!」

「はいはい。分かったから落ち着きなさいって…」

「あははは!う~み~!ほらほらみこちーも!」

「う~み~」

「……駄目だこりゃ」

「あはは…」

「落ち着いて景色も楽しめませんわ…」

 

そして、人の感情と言う物は伝染する物。のほほんさんの雄叫びを合図に他の女子達も興奮し、瞬く間にバスの中は騒然となり、ついには千冬姉も我慢の限界に…。

 

「うるさいぞ貴様ら!バスの中で叫ぶな!」

 

『はーーーーい…』

 

「やれやれ…」

 

千冬姉の怒声により静まり返った生徒達を見て、ラウラは呆れて溜息を溢すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第26話「ペンギン、大地に立つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから程なくして目的地である旅館に到着。旅館の従業員の人達に挨拶を済ませて各生徒に割り当てられた部屋に自分の荷物を置きに行っている訳だが…。

 

「俺の部屋…どこ?」

 

そう、その肝心の部屋を俺は知らされていないのだ。しおりには問題を起こさない為か俺の部屋について何にも書かれていない。では俺はどうしろと?俺は旅館の廊下のど真ん中にぽつんとと立ち尽くすしかなかった。

 

「…一夏?どうしたの?」

 

振り向けば、そこには大きなリュックを背負ったミコトが立っていた。

 

「皆、海いく。一夏、行かないの?」

 

臨海学校初日は終日自由時間。なら、目の前に海があると言うのに泳がないという選択は無い。勿論、俺だって泳ぎたい気持ちで一杯だが…。

 

「いや、そうしたいのもやまやまなんだけどな。その肝心の部屋がどこにあるのか分からないんだよ」

「真耶、言ってた。一夏には専用の部屋が用意されてる」

「それは俺も聞いてるんだけど何処にあるかは教えて貰ってないんだよ」

「んー…困った」

「そうだな。困った」

 

二人で揃って腕を組みうーんと唸っていると、そこへやってきたのは千冬姉だった。

 

「織斑、此処に居たのか。お前の部屋はこっちだ。ついてこい」

 

ついてこいと促され、先導する千冬姉の背中を追う。そしてミコトもそんな俺の後をちょこちょことついて来る。どうやら俺の部屋に興味があるらしい。わざわざ海を我慢してまで見に行く様な物じゃないと思うが、別に嫌でも無いし千冬姉も放置してるからそのままにしておこう。

 

「ここだ」

 

おっと、どうやら着いたらしい。俺は千冬姉が立ち止まったドアへ目をやる。そして、ドアに張られてある紙の文字に目を丸くするのだった。

 

「『教員室』って書かれてるんだけど…?」

 

そう、紙に書かれている文字は『教員室』。文字通り教員の部屋だ。

 

「見ての通りだ。最初はお前に伝えた通りお前専用の個室を用意する筈だったんだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押し掛けてくるだろうということになってだな」

 

疲れた溜息を吐いて、千冬姉は言葉を続ける。

 

「結果、私と同室になったわけだ。これなら女子もおいそれと近づかないだろう」

「はぁ、そりゃそうだ…」

 

虎穴に入らずんば虎児を得ず。俺なんかに会う為に鬼の寝床に突入する勇者なんて居る筈―――。

 

「一夏の部屋。遊びに行っちゃいけない?」

 

―――居たよ…。

 

何も邪な物を感じさせない純真無垢な瞳でミコトは千冬姉を見る。千冬姉もミコトが他の女子とは『遊ぶ』意味合いが違うのを理解しているんだろう、他の女子なら駄目と即答するだろが、ミコトに対してはそうはならなかった。

 

「就寝時間までだぞ?あと、旅館の方達に迷惑にならない様に騒ぐな。それが約束できるなら遊びに来ても良い」

「ん。約束、守る」

「そうか。なら良し」

「ん!」

 

許可が下りたのがきっと嬉しかったんだろう。ミコトの返事が先程より若干大きく聞こえた。

 

「さて、私はこれから仕事だ。お前達は好きに遊んでくるといい」

「それじゃあさっそく海にでもいって来るよ」

「羽目を外し過ぎん様にな」

「うっす」

「ん」

 

千冬姉の注意に返事をすると荷物を部屋の隅に置き、水着やタオルをリュックサックに詰め込んで、ミコトと一緒に海へと向かった。

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「おー…」

 

三人の間に漂う神妙な空気。ちなみに3人と言うのは更衣室へ向かう途中に箒とばったり出くわして丁度良いからそのまま一緒に更衣室に向かっていたからなのだが、今はそんな事はどうでも良い。今大事なのはこの場をこんな状況にしている原因だ。その原因と言うのは3人の視線が集中している…。

 

「…ウサミミ?」

 

ミコトがぽつりと呟く。そうだ。その原因と言うのは道端に生えた『ウサミミ』。バニーさんが付けてるアレだ。普通なら…というか常識的に考えて地面に生えている様な物じゃない。だが、俺にはこんな事をしそうな人物を一人だけ心当たりがあった。

 

『あの人』だよなぁ…。

 

ご丁寧に『引っ張って下さい』と書いてある張り紙。意図的な物なのは明らか。そして『ウサミミ』…。

俺はちらりと箒を見る。

 

「なぁ、これって―――」

「知らん。私に訊くな。関係無い」

 

俺が言いきる前に即否定。箒のこの反応。つまりそう言う事だ。これは…。

その才能は天井無し。天才の中の天才。自称一日を三十五時間生きる女。ISの開発者。そして、箒の実の姉。篠ノ之――――。

 

「束。何で地面に埋まってるの?」

 

「「―――なっ!?」」

 

しゃがんでつんつんと地面に生えているウサミミをつつくミコトの言葉に俺と箒は驚く。ミコトは束さんを知っている?いや、有名人だから知らないのも可笑しくもないが、今のミコトの反応はそう言うのではなく親しい間柄に使う様なそんな感じの話し方だった。

 

「ミコト。姉さんの事知っているのか!?」

「ん?束。イカロス直してくれた」

「まじか…」

 

一体何処で接点が…。ますます謎に包まれた奴だなミコトは…。

ミコトと束さんの関係も気になるが、とにかく見の前のこれを何とかしよう。放置して他の人が巻き込まれたら洒落にならんし。

 

「ミコト、あんまりそれに触るな。あの人の事だ。どんな仕掛けがあるか分からん」

 

突然ドカン!とか、あの人ならやりかねないからな…。

 

「? ん…」

「よし。いい子だ」

 

俺の言う事に素直に従いウサミミから離れるミコトと入れ替わって、恐る恐る俺はウサミミへと近づいて行く。傍から見たら絶対変に思われるよな俺…。

 

「えーと…抜くぞ?」

「好きにしろ。私には関係ない」

 

そう言って箒は去って行ってしまう。一体どうしてあんなに束さんを嫌っているんだ?箒の奴転校してからの事は何も話さないしなぁ…。

箒も気になるがコレを放置して後を追うのも色々と不安だし。とりあえず目の前のこれを引き抜こう。そう俺は頭の中で決断すると、ウサミミを掴んで思いっ切り引っ張る。

 

すぽっ!

 

「のわっ!?」

 

てっきり地中に束さんが埋まってるのかと思って勢いよく引っ張ったんだが、そんな事は無かった。引っこ抜かれたのはウサミミだけで勢い余った俺は盛大にすっ転ぶ。

 

「…おー、フェイク?」

 

転んだ俺をミコトは上から覗きこみ、こてんと首を傾げる。

 

「そうきたか…」

 

相変わらずの様だあの人は…。

しかし、単なる悪戯であの人が終わる筈が無い。常人なら此処で終わるだろうがあの人ならきっと他にも…―――。

 

キィィィィィン…。

 

「…う?」

「ほら来た!」

 

何かが高速で向かってくるような音。間違いない。このタイミングで来るなんてあの人しか――――。

 

ドゴーーーンッ!

 

謎の飛行物体が物凄い音を立てて地面に突き刺さった。しかもその突き刺さった物体の見た目というのがまた奇天烈なものだった。

 

「に、にんじん?」

「…食べきれるかな?」

 

俺はそう漏らし。ミコトはまた的外れな疑問を漏らしていた。

何と言うか。突き刺さっているのは絵に描いたデフォルメのにんじんだ。当然食べれない。

 

「な、なんじゃこりゃあっ!?」

「あっはっはっ!引っ掛かったね、いっくん!」

 

ぱかっと真っ二つに割れたにんじんの中から笑い声と共に不思議な国のアリスよろしくな可愛らしい服装で登場したのはやはりこの人。ISの開発者。天才。篠ノ之束さんだった。しかしこの人は普通に登場するということが出来ないのだろうか?そしてこの服装。センスもアレだが、少し年齢を考えた方が…。

 

「やー、前はほら、ミサイルで飛んでたら危うく何処かの偵察機に撃墜されそうになったからね。私は学習する生き物なんだよ。ぶいぶい!」

 

どんな日常送ってんだよ…。

 

「束。久しぶり」

 

唖然としている俺を他所に、ミコトが束さんに近づいて挨拶をする。

 

「お?おー!おーおーおー!チビちーちゃんじゃないかー!元気してたかなー?」

 

チビちーちゃん…。ああ、確かに千冬姉に似てるからな。

 

「ん。元気」

「うんうん。それはいいことだ~。人生あっと言う間だから元気に過ごさないとね~。それでチビちーちゃん。箒ちゃんは一緒じゃないのかな?さっきまで一緒に居たよね?」

 

何処で見てたんだ。と聞いても無駄なんだろうなぁ。束さんだし…。『束さんだから!』で済まされて終わりだ。

 

「アッチ、行った」

「おー!そっか!ありがとねチビちーちゃん!じゃあねいっくん。また後で!」

 

ミコトが箒が去っていった方向を教えると、束さんはその方向へ走り去ってしまう。まるで嵐の様な人だ…。

 

「あれー?なんかこっちからすごい音が聞こえたよ^?…って、あー!おりむーにみこちーだ~!」

 

束さんが去った後、入れ替わる様にしてのほほんさんがてっこてっことスローリーな速度で此方へと手を振りながらやって来た。

 

「……あれ?何、この空気…」

「………行くか」

「ん」

「え?あれれ?何かな?なんで私だけぼっちなの~?」

 

今来たばかりののほほんさんは状況について聞けてない様子だったが、俺とミコトは敢えてスルーして何事も無かったかのように更衣室へ向かうのだった。

 

触らぬ神に祟りなしってな。

 

「あ、あれれ~?なになに~?」

 

 

 

 

 

ミコトとのほほんさんと更衣室前で分かれた俺は、俺専用に割り当てられた更衣室で水着に着替えて一足先にいざ海へ。

 

「おー、来た時も思ったけどすげぇキレーな海だなぁ。都会じゃこんな綺麗な海そうはないぞ」

 

しかも都会じゃあ海や浜辺は人で埋め尽くされて泳ぐ所じゃないからなぁ。今も浜辺は女子達で溢れてはいるがそれでも全然マシだ。浜辺は広いし、浜辺に居るのは学園の女子だけだから遊ぶには十分余裕がある。女子だって肌を焼いてる子も居れば、ビーチバレーをしている子、泳いでいる子など、皆自由に楽しそうに遊んでいた。

これは負けてはいられないな。俺も遊ぶか。そう思った俺はとりあえず準備運動から始める。足が攣って溺れるとか格好悪いしな。

 

「いっちにー、さんっしー…」

 

腕を伸ばして足を伸ばして背筋を伸ばして―――。

 

「おっす!一夏~っ!やっぱり一夏も海に来てたんだ!」

「いてっ!?」

 

俺の背中を叩いて現れたのは鈴だった。

少しじんじんと背中に痛みを感じながら一旦準備運動を止めて後ろへと振り向く。そこには赤と黄色のワンピースを着た鈴が立っていた。露出が少ないワンピースを選んだのはきっとお腹の傷跡の所為か。目立たないにしてもきっと女の子として傷のある肌をあまり見られたくないんだろう。いくらそう言うのに鈍感な俺でもそれくらいは分かるつもりだ。

 

「あのなぁ、上半身は裸なんだから叩くなよ。痛いだろ」

 

手形出来てないだろうな?出来てたら流石に恥ずかしいぞ。

 

「情けないわねぇ。このくらいウジウジ言ってんじゃないわよ。男でしょ?」

 

理不尽過ぎる。女尊男卑の影響が此処まで…。

 

「おやめなさいな。一夏さんは貴女と違って野蛮な方ではないんですのよ?」

「やっほ~!おまたせ~!おりむ~!」

「……むむ!」

 

ぼ~ん!

ぼぼぼ~ん!

 

遅れてやってくるセシリアとのほほんさん。ちなみに今の効果音が何なのか、どっちがどの効果音かは言わないでおく。それに触れると後ろでまるで親の仇の様にソレを睨んでいるツインテールの鬼に殺されかねない。

ちなみに二人が着ている水着は、セシリアは青のビキニと腰に巻いたパレオが本人の雰囲気とマッチしてとても優雅な感じ。それと、のほほんさんは…。

 

「………何だ?それ?水着か?」

 

のほほんさんが来ているのはキツネ?の着ぐるみだった。何時ぞやの怪談事件でミコトが着ていた奴のバージョン違いか?

 

「当たり前だよー!メイドイン布仏!世界で一個だけの私専用の水着だよー♪」

 

自慢するようにぴょんぴょんと跳ねるのほほんさん。彼女が跳ねる度に布越しでも分かる程の大きく主張している胸が…ごほんっ!何でも無い。まぁ、幾つあってものほほんさんくらいしか着ないだろうけどな。てかオーダーメイドかよ。なんて無駄遣いな…。

 

「そ、そう言えば、俺の記憶が確かならミコトの水着を用意したのってのほほんさんだよな?だとしたらミコトも…」

「も・ち・ろ・ん♪みこちーも同じタイプの水着だよー♪お揃いだねー♪」

 

そうだね。色鮮やかな水着で埋め尽くされるビーチでさぞ目立つ事だろうね。ビーチの視線を独占だ。

 

「…それで?肝心のミコトはどうしたの?」

「そういえば姿が見えないな。一緒に更衣室に入っただろ?一緒に来てないのか?」

 

確かに着替えるのに手こずりそうだが、のほほんさんはこうして今此処に居るし、のほほんさんがミコトを置いて先に来ると言うのも考え辛いんだけど。

 

「えっとねー。織斑先生に捕まっちゃってねー?」

「え゛っ」

 

 

 

 

…その頃

 

 

「………」

「………」

 

じっと見つめ合う千冬とミコト。互いに無表情ではあるが、しかし互いに退けぬ物を賭けて対峙していた。

 

「…それは何だ?」

「水着」

 

ミコトの簡潔な返答に暫し黙るともう一度千冬は同じ質問を繰り返す。

 

「…それは何だ?」

「ペンギンの水着」

 

今度は水着の詳細を付け加えたが千冬の求めた返答とは違っていたのか、彼女は頭を抱える。

 

「…他に水着は無いのか?流石にそれは無いだろう」

「や」

 

千冬の言葉にミコトは即座に拒否する。

 

「………頼む。他のを着てくれ。学校指定の水着も、ISスーツもあるだろう?な?」

「や」

 

千冬はそう提案するも、またもや即座に拒否される。

 

「………っ!頼む!同じ顔のお前がそんな姿を人前に晒したらこっちまで恥ずかしいんだ!パジャマは布仏ぐらいしか見ないが浜辺には一年女子全員がいるのだぞ!?」

「や」

「~~~~~~~~っ!!!!!!」

「や」

 

…この無駄な攻防戦はまだ続きそうである。

 

……………。

 

 

 

「何やってんだよ。あの二人は……ん?あそこに居るのはラウラか?」

「………そのようですわね」

 

二人の奇怪な行動に呆れていると、視界の端でぽつんと一人立ち尽くしているラウラを発見。気になったので声をかけてみる事にした。

 

「おーい!ラウラー!」

「む?織斑か。どうした?」

 

声をかけられ此方へやってくるラウラ。ふむ、学校指定の水着…いわゆるスクール水着か。地味だけど、色素の薄いラウラと黒色は似合ってるな。

 

「いや、一人でぽつんと立ってるから気になってな」

「そうか。訓練で海に来た事はあるがこういう風に遊びが目的で来たのは初めてなのでな。何をすればいいのか分からんのだ」

「何をって…泳げばいいじゃない」

 

戸惑うラウラにアドバイスしたのは、意外にもラウラに怪我を負わされた鈴だった。

 

「凰…。怪我は良いのか?」

「ふん。アンタに心配される事じゃないわよ。ま、自分の未熟さの所為でもあるしね。ISが兵器だって事を身を持って再確認出来たって事で良いんじゃない?」

 

す、素直じゃねぇ…。怪我させた張本人に言われても素直になれないのは分かるけども…。

 

「………そうか」

 

そうは言われても気まずいんだろうな。現にこうして怪我を隠す様な水着を見せられたら…。

 

「………見回りに行ってくる」

「おいおいおい!?せっかく海に来たんだから遊んでけよ!?」

 

くるりと背を向けて逃げる様に去ろうとするラウラを、俺は慌てて引き止める。罪滅ぼしのつもりなのだろうか。あの事件以降ラウラはIS学園内でミコトの警護や見回り等をする様になっていた。そしてどうやら此処でもそれをするつもりらしい。せっかく海に来たのに幾らなんでもそれは勿体なさ過ぎる。

 

「織斑。此処はIS学園の外だ。事前に学園が調べてはいるがそれも完全とは言えない」

 

流石は現役の軍人。一般人の俺には反論しようが無いくらいに正論だ。だけど、これだけは譲れない。

 

「…あのな?ラウラ。確かにお前は軍人なのかもしれないし、お前の言う事も正しいのかもしれないけどさ。ここでは俺達は生徒なんだ。なら、そう言うのは先生に任せておけばいい。それに、織斑先生が信用できないのか?」

「む…。それは卑怯だぞ、織斑」

 

流石に千冬姉が信用できないと言うのには抵抗があるのか。少しむっと困ったような表情を浮かべるラウラ。何だよ、女の子らしい顔も出来るんじゃないか。

 

「………わかった。私の負けだ。お前に従おう」

「そうか。分かってくれて嬉しいよ」

 

此処まで来たんだ。皆で楽しまないと損だもんな。それに、ラウラとの溝を埋めるせっかくのチャンス。無駄には出来ない。如何にかしてセシリア達の感情を良い方に傾けないと…。

 

「ところで、教官で思い出したのだが。更衣室の前でミコトと教官は何を口論していたのだ?」

「俺に聞くなよ…」

 

むしろ俺が聞きたいよ…。

 

「あ、一夏!やっと見つけた!」

 

名を呼ばれて振り返ればそこにはシャルロットが。

 

「もう、何処にも居ないから探したよ…っと―――」

 

此方へとやって来たシャルロットがラウラと目が合いピタリと動きを止めた。一瞬、シャルロットは予想外の人物に戸惑ってはいたが直ぐに笑顔を作り。

 

「…ボーデヴィッヒさんも来てたんだ。少し意外かな?」

 

そう笑い掛けた。…とても固い笑みだ。俺やミコト、友達に向ける感情のある笑みとは違う。まるで、笑顔を描いた仮面を被った様な…そんな温もりを感じさせない笑みだ。やっぱり、シャルロットもラウラの事を許しては無いんだな…。メンバーの中じゃラウラへ対する感情はわりとマシな方だと思ってたけど…。

実際、俺自身もまだ壁のような物があるのを自覚している。普通に話せているように見えても何処か距離を置いている様なそんな感じになっているんだ。きっと、今のシャルロットの態度だって無意識な物なんだと思う。それだけ、あの事件の事が尾を引いているのかもしれない…。

 

…なんとかしないとなぁ。

 

「…やはり、そう思うか?」

「え?あ、うん…。ボーデヴィッヒさんは固そうなイメージがあるから…」

 

思いもよらない切り返しにまた戸惑いを見せるシャルロット。まさかこんな気弱な反応を見せてくるとは思わなかったのだろう。

 

「…やはり私が此処に居ては皆の気分を害す可能性がある。私は見回りをすることにする」

「お、おい!?ラウラ!」

 

再び去ろうとするラウラに俺は慌てて手を伸ばすが、その伸ばされた手は簡単に避けられてしまい届く事は無かった。

 

「ラウラ!…っ!シャルロット!」

「ご、ごめん。まさかこんなことになるなんて…」

 

悪気が無かったにしても流石にこれはあんまりだ。俺はシャルロットをキツく睨むとシャルロットはしゅんと縮こまる。すこしキツ過ぎたかとも思ったが今は謝ってる暇は無い。ラウラを追かけないと…。

するとそこへ、ナイスなタイミングで救世主が現れた。

 

「…ラウラ?海で遊ばないの?」

「!……ミコト…」

 

背後から聞こえてくる幼さの残る少女の声。ミコトだ。対ラウラ最終兵器が来てく――――ぇ?。

振り向いてソレを見た途端俺はピシリと音を立てて固まる…。

 

「ちょ、アンタ…」

「あらあらまぁまぁ!なんて可愛らしい」

「あぁ、やっぱりそれで来るんだ…」

「ミコト…お前、それ…」

 

硬直から解けた俺はふるふると揺る手でミコトの着ている水着を指さす。水着が着ている水着。それは…――――。

 

「ん?『ペンギン』」

 

どど~ん!

 

あの怪談騒動の原因となったペンギンぱじゃまとまったく瓜二つの着ぐるみ…いや、水着?だった…。

 

「いやペンギンなのは見れば分かるけどさ…」

 

俺が聞きたいのはそう言うのではなくて。いや分かっちゃいた。分かっちゃいたさ。のほほんさんが用意すればこうなるって事ぐらい。でも実際に見たらそんな覚悟吹き飛んだよ。それぐらい衝撃的だよ。……いやいやいや!それどころじゃ無かった!今はラウラの事だよ!?

 

「ミコト!ラウラを止めてくれ!」

「?」

 

急に止めてくれと言われて何の事かさっぱりわからんと言いた気にミコトは首を傾げる。言葉が足りなかったか。反省。

 

「ラウラが皆と一緒に海で遊ばないって言い出すんだ。ミコト、ラウラを説得してくれないか?」

「む。仲間はずれ、ダメ。ん。私にまかせる」

 

ぺんぎんが胸を張ってポン!と胸を叩くとペタペタと音を立てながらラウラへと歩いて行く。

 

「(まんまペンギンね…)」

「(ペンギンですわね…)」

「(かわいいなぁ…)」

「(はぅ~!みこちーかぁいいかぁいいかぁいいねぇ~!)」

 

…何故だろう。見学者の中からとても危険な邪念を感じる。

 

「ラウラ。あそぼ?」

「織斑達と遊んでくるといい。いつもそうしているだろう?」

「ん。…でも、ラウラが楽しくないのは、や」

「そんな事は無い。お前が楽しければ、それで私は良い」

 

本当にミコト第一に考えるよなぁ。それはのほほんさんも一緒だけど。

 

「ラウラが居ない。私、楽しくない」

「それは…卑怯だ…。どうして織斑も、お前も…」

 

おお、ミコトが優勢だ。

 

「ラウラ。いこ?」

「うっ…」

 

そう言ってミコトはラウラの手を握り引っ張る。たじたじなラウラ。効果は抜群だ!…何を言ってるんだ俺は。

 

「いこ?」

「………………分かった」

 

長い葛藤の末、ラウラはついに折れてしまう。いや、ミコト相手に良くもった方だと思うぞ?俺だったらそんなに抵抗できる自信ない。

 

「おう。おかえり」

「………むぅ」

 

ミコトに引っ張られて戻って来たラウラを俺は少し意地悪な笑みで迎えると、ラウラは不満そうな表情を浮かべていた。遊ばないって言った矢先に戻って来たんじゃ居心地が悪い気持ちも分からないでも無い。

 

「ほ、ほらほら、ラウラも何時までもむくれてないで遊ぼう?」

 

フォローに入ったのは先程の事を気に病んでの事かシャルロットだった。そして、鈴も面倒臭気にそれに続く。

 

「どうでもいいけど遊ぶなら遊ぶでさっさしてくれない?時間は有限なんだから」

「………仕方ありませんわね。ミコトさんと鈴さんがそう言うのでしたらわたくしに反論する権限はありませんもの」

 

此処で反発したら空気を読まないにも程あると判断したのかセシリアも渋々了承。残るは…。

ちらりと最後の関門を見る。

 

「ぶぅ~………」

 

頬を風船の様に膨らませて、全身で『いやです!一緒に遊びたくありません!』とアピールしているのほほんさん。うむ。見るからにラスボスです。事件の事を除いてものほほんさんはラウラに何か対抗心を燃やしてるからなぁ。これは一筋縄じゃいかない―――。

 

「本音。あそぼ?」

「うん!よろこんでー!」

 

どてーん!

 

ミコトに声をかけられてコロッと態度を変えるのほほんさんに対して、ミコトとラウラを除いた全員が盛大にすっころぶ。

 

「ん?」

「あれー?皆のどうしたのー?」

 

それはこっちの台詞だ!

 

「いやいやいや!どうしたの?はわたくし達の台詞ですわよ!?一体全体どういう気の変わり様ですの!?」

「えー?だって、みこちーが一緒に遊ばないと楽しくないって言うんだもん。ならしょうがないよね!」

「ときどき、アンタがよくわからないわ…」

 

なんというミコト至上主義。ミコトのためなら自分の感情なんて二の次ってか。でも何だろう。ラウラはまぁ罪滅ぼしとかそういうのかもしれないけど、のほほんさんは友達だからとかそれ以外にも何か強い使命感とかそういうのを感じる様な…。

 

「ま、まぁ、喧嘩にならなくて良かったじゃないか。………ところでさ、さっきから気になってたんだけど二人のその水着は海に入って大丈夫なのか?水を含んで動きにくきなったりしないか?」

 

のほほんさんとミコトの水着を見てずーっと気になってたんだよな。明らかに泳ぐのを意識して作られて無いよな。それ…。

 

「それなら大丈夫だよー!特殊な素材の生地で作ってるし私は泳がないしねー」

「のほほんさんはそれで良いとして…ミコトは?」

「それも問題ナーイ!ぽちっとなー!」

「…んっ」

 

のほほんさんがミコトの胸の辺りを押す。…今、ミコトの声が少し色ぽかったような――――。

 

「あ、おりむー。もし、いま私と同じ事をみこちーにしたらもぐからー」

「何を!?」

「ナニをー」

 

咄嗟に股間を守る。お、恐ろしい子…。

 

まぁ、それはともかく。おそらく胸の辺りにスイッチか何かがあるのだろう。のほほんさんが胸の辺りを押した途端、ぷしゅーっ!と空気が抜ける時の様なそんな音がミコトのペンギンから発し出した。そして次第にぷくぷくとペンギンのお腹が膨れ上がり。空気音が止まった時にはあら不思議。ふっくらに膨らんだペンギンがって―――!

 

「なんじゃこりゃあっ!?」

「訊いて驚け!私特製浮き袋機能なのだー!これさえあれば沈まないよ!」

 

どんなもんだと大きな胸を張るのほほんさん。まさかの手作りとは二重の意味で驚きである。

 

「おー…」

 

ぷよぷよと膨らんだ自分のお腹をつつくミコト。感触が気に入ったのかご満悦な表情だ。そして、今度はその膨らんだお腹のままぺたぺたと浜辺を歩き出した。

 

ぺたぺたぺた………コテ

 

「あぅ…」

 

『(あ、転んだ…)』

 

どうやら膨らんだお腹が邪魔で移動をするのは難しいらしい。なんていうか。なんていうか…。

 

「もう完全にペンギンですわね。特にあの歩き方とか…」

「こう、一生懸命に歩く様とかね…」

「可愛いなぁ、もう…」

「………良い物だな」

「はぅー!おもちかえりぃー!」

 

極一部の人間がヤベェ…。海と言う開放的な空間が奴を暴走させてやがる!

 

「ん~!…ん~!」

 

倒れた状態でジタバタと暴れ出すミコト。そうか。膨らんだ状態だと足が短いから起き上がれないんだ。こりゃあ助けてあげた方が良いな。俺はそう思い駈け寄ろうとすると、浜辺に少し強めの風が吹いた―――。

 

「「あ………」」

 

コロコロコロコロ………どぼーん!

 

風に吹かれ、ボールの様にころころと浜辺を転がり始めたミコトは、そのまま海へと着水。そのままゆらりゆらりと沖の方へ流されて――――っておい!?

 

「誰か助けろよ!?」

 

自分の事は棚に上げてとはまさにこの事である。

 

「―――ハッ!?あまりにギャグ過ぎてスルーしてしまいましたわ!?」

「まずい!まずいって!もうあんな沖にまで流されちゃってるし!?」

「あわわわ!?」

「み~こ~ち~!?」

 

慌てて次々と海へ飛び込み始める俺達メンバー。しかし、そんな俺達に反して流されている当の本人はと言うと…。

 

「………お~」

「…何やら目を輝かせているな」

 

眼帯を外して流されていくミコトを眺めながらラウラがそう困惑する表情でそう呟く。だと思ったよ畜生!

俺達が必死に救出しようと全力でミコトへと向かって泳いでみせるが、思いの他沖は波の流れが速く、だんだんとミコトとの距離は近づくどころか離されてしまう。そして、事態が危うく感じだした周りの生徒達もそれぞれの遊びの手を止めてミコト救出作戦に参加。長い救出劇の末、ミコトは無事に回収されるのだった。

 

「ん。楽しかった。また海に行きたい」

 

『もう勘弁して!!』

 

「えう?」

 




ミコト水着イメージ画像


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