IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第33話「ただいま」

 

 

「………うん。やれる」

 

銀の福音…でいいのか?初見の時とかなり外見が違っているが、箒達が戦っていた事から考えてたぶんそれで良いんだろう。

その銀の福音が放ったレーザーを無効化した、左手に装備された白式と同じくらいの大きさがある巨大な盾。≪雪華≫のずっしりとした重量とその性能を感じながら、俺は後ろに居る箒を守る様にして≪雪華≫を構えて次の攻撃に備える。

 

「一夏…なのか?え…でも…何故?やけどは…?すごい重傷だったのに…」

 

信じなれないと言った表情でふらふらと此方へ近づいて来る箒。そんな箒に俺はニカリと微笑んでグッと親指を立ててみせる。

 

「ああ!何か知らんが起きたら治ってた!」

 

しかもパワーアップまでしてるしな。まさか俺ってサ○ヤ人?

しかし何故だろう。このやり取りは既にされてしまった感があるのは…。

 

「そんなわけ………あ、本当だ」

「な?」

 

ぺたぺたと俺の身体を触れて確認すると、本当に怪我が無い事を知り更に信じられないと驚く。まあ俺自身も目覚めた時は驚いたけどさ。……しかし、どうでもいいがそのペタペタ触るのはくすぐったいから止めてくれ。

 

「本当…に…怪我、治って……良かった……」

「おいおい、何で泣くんだよ?」

 

今まで我慢をしていたのか、箒の瞳からはボロボロと涙が零れ。箒は必死で拭ってそれを止めようとするが全然止まる様子が無かった。

 

「だってっ…私の所為で一夏を傷つけてっ…ミコトも私がもっと速く駆けつけていればあんなボロボロにならなくて…っ!」

 

…そうか、辛かったんだな。本当は泣きたくてもそれが許されなくて、自分を押し殺し続けて…。

 

「箒、下がってろ」

「………いちか?」

 

泣きじゃくる箒に俺は何も言わずただ優しく頭を撫でてやる。

俺も同じだ。箒と同じ気持ちだ。箒に辛い思いをさせて、ミコトをあんなにボロボロにして、結局何も守れてはいなかった…。もっと俺が強ければ誰も傷つかずに済んだのに、俺が守れてさえいればこんな事にはならなかったのに……だから―――。

 

「もう、やらせない。誰も傷つけさせやしない。俺が―――守る!」

 

その叫びに応えるかの様に、巨大な盾が、何層にも重ねられた強固な盾が、機動音を鳴り響かせた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第33話「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

陽が沈み始め、茜色に染まる海の上に白と銀は対峙する。

…そう言えば、前回は戦闘らしい戦闘なんてしていなかったよな。これが初戦闘って訳だ。でも、撃墜された時とは違う。それに、あちらさんもそれは同じらしい。一体何がどうなってあんなに変わったのやら…。

 

「お互いに初見同士だ。公平だろ?――――正々堂々、正面からぶっ潰す!」

 

≪雪片弐型≫を右手だけで構え、斬りかかる。

だが、触手の壁に阻まれ。本体である銀の福音には接近できず、カウンターを避ける為に離脱を余儀なくされてしまう。

 

「やり辛いな。一対一の筈なのに物量で負けるとか訳が分からん」

 

ブルー・ティアーズもタイプとしてはアレと同じなんだろうけど、数が圧倒的に違い過ぎるだろ。

俺が心の中でそんな愚痴を零していると、今度は銀の福音が複数の触手による、レーザーを一斉射撃を仕掛けてくる。

 

レーザーの弾幕。回避は難しいか…なら―――。

 

≪雪華≫を正面に構え、奴の攻撃を真正面から迎え撃つ。

 

「一夏っ!?何をやっている!逃げろっ!」

「………いいや、やれるさ」

 

あの高出力レーザーの雨を避けようとせず迎え撃つのは自殺行為に等しい。けど、この盾が俺の決意の現れだと言うのなら―――。

 

「この程度の攻撃…受け止めてみやがれえええええっ!!」

 

キュィィィインツ!

 

機械音を響かせ、≪雪華≫は強い光を発し出しそれが光の膜となり盾全体に広がって、レーザーの弾雨を遮断した。此方の損害は無し。奴のレーザーを見事に防いだのだ。

 

『――――』

 

しかし、銀の福音の攻撃は終わらない。レーザーが駄目ならと触手を伸ばし物理攻撃を仕掛けてきた。だが、俺はそれをまた正面から迎え撃つ。

 

「無駄だあああああっ!」

 

迫って来た無数の触手がパチンッと音を立ててエネルギーの障壁によって弾かれる。これもまた無傷。

そう、≪雪華≫実弾もエネルギーも完全に無効化するシールド。当然エネルギー消費も激しいが、接近戦特化のこの機体にあらゆる攻撃を無効化するこの盾は最高の相性なのだ。なんて事はない、ダメージを気にせず真正面から突っ込んで斬れば良いのだから。エネルギーの消費削減も考慮しての何層にも重ねられた強固な物理シールドもある。正に鉄壁と言えるだろう。

 

―――それに、これにはまだ隠された性能がある。

 

俺自身はそれは知らない。でも、白式がそう訴え掛けてくるんだ。『こう使え』と…。さっきだっての攻撃だって、その声があったから恐れも無くレーザーの雨に立ち向かう事が出来た。

…そして、その性能も直ぐに知る事になる。銀の福音が前回の戦闘で見せた全方位砲撃の準備態勢と思われるあの回転の動作を見せたのだ。

 

「っ! まずい!」

 

グルンと銀の福音が回転し、触手もそれに巻かれて回転すると、全方位に対して嵐の様なエネルギーの弾雨が放たれる。

それはつまり、ダメージが回復しきっていない箒達にも攻撃が及ぶと言う事だ。しかし、俺の身は一つ。皆を守りきるには……。そう思った時だ。ハイパーセンサーから電子音が響いたのは―――。

 

―――雪華、全方位展開シールドモードへ切り替え。防衛開始。

 

その電子音が響くと同時に、雪華の多重層の盾が分離し宙に浮かぶと、それぞれが箒達の許へと駆けつけて箒達に降り注ぐレーザーの雨を受け止めた。

これは、ブルー・ティアーズと同じ…それも、あの一つ一つに分離前と同様の性能があるのか…。

 

「こ、これは…」

「アタシ達を守ったの…?」

「BT兵器?わたくしのブルー・ティアーズと同じ…いえ、攻撃が目的ではなく防御を目的とした…」

 

…なるほど、ますます俺の決意そのままみたいだな。これなら『皆を守る』事が出来る!

 

しかし、あれだけの数の攻撃を防ぐとなるとそれだけエネルギーは消費する。現にもうエネルギー残量がヤバイ数値になっている。これは受け続けていると直ぐにエネルギーが底を尽きてしまいそうだ。これは短期決戦に持ち込むしかないだろう。なんて事はない。いつも通りにすれば良い。俺はいつも一撃に賭けてギリギリの戦いをして来たんだから。

 

―――雪華、通常モードへ切り替え。

 

分離した雪華が戻ってくると、元の多重層の盾へと戻る。

 

「んじゃ………いくか!」

 

右手に雪片、左手に雪華、それぞれ攻と守の光を放ち、再度俺は銀の福音へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 篠ノ之箒

 

 

これで…良いのか?

 

確かに一夏が駆けつけてくれたのは嬉しい。身体が熱くなって心臓がとても高鳴っているのが分かる。

…でも、それで良いのか?私が願ったのは何だったのだ?

 

「私は…私が望んだ事は…」

 

ともに戦いたい。一夏達と肩を並べて、友達を守りたい。

 

そうだ。私は大切な者を守りたいからこの力を望んだ。だと言うのに今の私は何だ?今もこうして一夏に守られて…。結局、何も変わってはいないではないか。

 

「守り…たい。守りたい!」

 

守られているばかりでは嫌なのだ。誰かが傷つくのをただ見ているだけなのは嫌なのだ。守りたい。一夏と―――一緒に!

 

強く、強く願った。

そして、その願いに応えるかのように、紅椿の展開装甲から紅い光に混じって黄金の粒子が溢れ出す。

 

「これは…!?」

 

ハイパーセンサーからの情報で、機体のエネルギーの数値が急激に回復していくのが分かる。

 

―――『絢爛舞踏』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築……完了。

 

項目に書かれているのは単一仕様能力≪ワンオフ・アビリティー≫の文字だった。

 

…そうか。まだ、戦えるのだな?紅椿。

 

その問いに、紅椿は更に強く光を輝かせる事で応える。

 

「そうか。ならば―――」

 

損害は酷く、既に満身創痍でとても戦闘が出来る状態ではないが、まだ私にもやれる事があるというのなら―――。

 

「―――行くぞ!紅椿!」

 

紅く黄金の光を纏った機体は夕暮れの空を裂く様に駆けていく。今度こそ誓いを果たすために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「だりゃあああああっ!!」

 

雪片弐型で道を阻む触手を斬り払う。

しかし、触手の修復速度が予想以上に速く。幾ら斬ってもすぐに再生されて、進んでは押し戻され、進んでは押し戻されを何度も繰り返していた。

 

「くそっ!鬱陶しいっ!」

 

これじゃあ焼け石に水だ。斬っても斬ってもキリが無い。

 

―――エネルギー残量30%。予測稼働時間、5分。

 

くそ!一気に決着をつけるつもりだったから無理に突っ込み過ぎて触手の攻撃を防ぎ過ぎたか!?

 

しかも俺よりも長時間戦闘をしている筈の銀の福音はまだエネルギーが尽きる様子も無い。一体、奴はどれ程のエネルギーを持っているのか。対して俺の機体は稼働限界が近づいて来ている。最初に感じていた余裕もじわじわと焦りに変わりつつあった。

 

「一夏!」

 

突然、背後から戦闘を見守っている筈の箒の声が聞こえてくる。

 

「箒!?馬鹿、下がってろ!お前の機体、もう戦える状態じゃ―――」

「分かってる!でも、私に出来るのはこれだけだから……受け取れ、一夏!」

 

箒はそう言うと、自らの手を伸ばして俺の白式に触れる。

その瞬間、全身に電流のような衝撃と炎の様な熱が奔り、一度視界が大きく揺れた。

 

「な―――んだ…?エネルギーが……回復!?ほ、箒、これは一体―――」

「今は考えるな!どのみち仕組みなんて分からん!」

 

Oh…。そこまではっきり言わなくても…。

しかし、そんな不確かなモノを俺に使ったのかね君は?いや、俺も現状似た様なものだけどもさ…。

 

――――エネルギー充填完了。ランスモードへ切り替え。強襲開始。

 

「――――なっ!?」

 

何やらハイパーセンサーが言い出したかと思えば、突然、雪片と雪華が強い光を放ち、甲高い音を鳴らして形を変え、二つが一つへと組み合わさっていく…。

そして、最終的に白式を覆う程の盾が…いや、違う。盾じゃない。これは―――。

 

「盾と剣が組み合わさって…」

「『突撃槍』…なのか、これは……?」

 

盾と剣が一つとなり、純白の槍が白式の手に握られていた。

柄には前方を覆う盾が存在し、槍の先端には雪片弐型が槍として姿を変えていた。それはまるで、騎士がもつ突撃槍その物だった。

突然の事に戸惑う俺と箒。しかし、そんな驚く間もなく、白式から俺の知らない情報が送られて来る。この突撃槍の使い方。雪華の真の力の使い方を…。

 

「……そうか。こう使うのか」

「一夏?」

 

つくづく俺にピッタリだと笑みを浮かべ、姿を変えた雪華を強く握り締めると、俺は槍の先端を銀の福音に向けて構え、加速の体勢を取った。

 

―――余計な考える必要なんてない。君が思う様に戦って、ね?

 

…ああ、ありがとよ!

 

何処からかあの少女の声が聞こえてくると、俺はその声に心の中で感謝する。

相手の行動を予測しながらとか、そんな事考えながら戦うなんて俺の性には合わない。ただ真っ直ぐに、目標に向かって突っ走る。それだけだ!

 

「……ハッ!?まさか、正面から!?む、無茶だ!?やめ―――」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

俺が何をしようとしているのかを気付いた箒は、それを無謀と考えて止めようとするが、その前に強化されて増えた大型四機のウイングスタスタ―と、雪華の装甲の一つ一つに存在するスラスターが吠え、白式と雪華は、文字通り弾丸となった――――。

 

「ぐっ、…がああああああああああああああああああっ!!!」

 

一瞬にして最大速度にまで達する白式。その全身に掛かるGは凄まじく、圧しかかるその痛みは相当の物だった。

しかし、俺はその痛みを歯を食い縛って耐え、咆哮を上げ、只管に目標へと突っ込む。迎撃する触手達を突き破りながら、飛んでくるレーザーを打消しながら、只管に真っ直ぐ、真っ直ぐに目標へと突き進む。

 

無駄だ!どんな攻撃をしたところで、雪華を止められやしないっ!

 

「教えてやるよ、銀の福音!お前の敗因はな!」

 

奴の敗因。それは、避けるのではなく触手で迎え撃った事。そして――――。

 

「その翼を飛ぶこと以外に使った事だあああああああああああっ!!!」

 

『――――!?』

 

触手の防衛網を突破した雪華の先端……≪零落白夜≫の刃が銀の福音の胴体に突きささる。けれど、俺は止まろうとはせず、更にブーストの出力を上げ、銀の福音ごと空を突き抜けた。

 

「お・ち・ろおおおおおおおおおおおおっ!」

 

海を越え陸へまで辿り着くと、そのまま山の岩肌に向かって速度を維持した状態で突っ込んだ。

砕け散る岩。激突した銀の福音の周辺は大きなクレーターとなり、銀の福音はその中心に沈む。そして、俺達を散々苦しめた銀色の悪魔は漸く機能を停止した―――。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…っ!」

 

Gの重圧から解放され、圧し潰されていた肺が酸素を求めて無理に呼吸をしようとして息が荒くなる。

ギリギリの勝利。正直、もう一度今のをやれと言われたら、機体ではなく身体の方が先にダウンしていただろう。そこまでしないと倒せないとは……。

 

「はぁ…はぁ…でも…」

 

俺はクレーターの中央を見る。そこにはアーマーを失い、ISスーツだけの状態となった操縦者が倒れていた。ただ気を失っているだけの様子で命にも別状は無いようだ。つまり―――。

 

ミコト…やったぞ…。

 

「俺達の……勝ちだっ!」

 

空を見上げる。

 

あれほどまでの青さを誇った空はもう既に無く、夕闇の朱色に世界は優しく包まれていた。

 

長い、長い一日が、漸く終わりを告げたのだった…。

 

 

 

 

 

「作戦完了―――か。しかし、随分とやられたものだな。これで自分達の未熟さを理解出来ただろう?」

 

『………』

 

出撃したと時と比べて、見るも無残にボロボロとなって帰還してきた俺達に千冬姉のキツイ言葉が出迎えてくれた。もうそんな優しい千冬姉の言葉が嬉しくて嬉しくて泣きそうである…。

けれど、厳しいだけではなかった。

 

「……だが、まぁ。良く無事に帰って来た。それだけは褒めてやろう」

 

厳しい表情が和らぎ、僅かではあるが優しさを感じさせる声でそう労わってくれたのだ。

それを聞いて、皆も沈んでいた表情がパァっと明るくなるのが分かる。勿論、俺も含めて。

 

「各自、診断を受けてから今日は休め。報告は明日でいい。では、解散―――」

「あ、あの!織斑先生!」

 

背を向けて立ち去ろうとした千冬姉に、箒が慌てて呼び止める。

 

「……何だ?」

「ミ、ミコトの様子は……どうなんでしょうか?」

 

箒の質問に、千冬姉と山田先生は目を合わせると、片方は溜息を吐き、片方は苦笑を浮かべた。

 

「もう、目を覚ましてますよ。本当なら絶対に安静なんですけど、少しなら話してもかまいませんから」

「…ふん、早く行ってやれ。寝ていろと言ってるのに『おかえり』って言ってやるんだと聞きやしない」

 

二人の言葉に、みるみる俺達の表情が歓喜の色に染まっていく。

無事だった。しかも俺達の事を待って居てくれてるらしい。それを聞いて、もう俺は居ても立っても居られなくなる。会いたい。今直ぐにミコトに会いたい。それで、『ただいま』って言いたかった。

 

「――――!は、はい!皆!行こうぜ!」

「ああ!」

「はい、行きましょう!」

 

 

二人の言葉を聞いてミコトが居る部屋に向かって走りだした俺に皆も続いていく。

 

 

「あ、こら~!廊下を走っちゃいけませ~ん!?」

「やれやれ……ふふっ」

 

 

ドタドタと騒がしく廊下を駆け抜ける。大切な友達が待つ部屋へと――――。

 

 

――――そして、部屋の襖を開け放つと、俺達は笑顔で迎えてくれた少女に大きな声でこう告げた。

 

 

『ミコト!ただいま!』

 

 

「…ん。おかえりなさい」

 

 

 

 


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