IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

44 / 77
幕間「夏休み」
第35話「期末テストからにげられない」


 

激闘の臨海学校から帰って来て一週間程の時間が過ぎた。

 

ミコトの体調ももうすっかり良くなり、今では授業も問題無く受ける事が出来るまで回復した。実習の授業は念の為、病み上がりの身体を考慮して二学期まで見学させると千冬姉から訊かされた。大破したイカロス・フテロも如何にかしないとならないと頭を悩ませてたな。

何か「あの馬鹿に頼らないで済む用な方法はない物か…」とかぶつぶつ言ってたけど。『あの馬鹿』ってあの人だよなぁ。千冬姉が頭を悩ませる存在なんてかなり限られるし。

千冬姉の話では第三世代型ISは現状全てが試験機であり、第二世代型ISとは違い量産化が進んで無い為に予備パーツなどが非常に少なく修理にもコストが掛かるのだが、ミコトの機体イカロス・フテロはとなる事情と特殊な機体なために予備パーツが無いに等しく、パーツを受注するのではなく自作するしかないとの事。そりゃ直せるのは束さんくらいしかいないよなぁ…。

 

まあ、色々な問題を残しはしたが何はともあれ『銀の福音の原因不明の暴走事件』は解決した―――と言っていいのだろう。少なくとも俺達にはもうやれる事はない。

もう7月の中旬。あと数日もすれば待ちに待った夏休み―――――。

 

――――そう思っていた時期もありました。HRで山田先生のあの言葉を訊くまでは……。

 

「皆さん、夏休み前ではしゃいでいるかもしれませんが、今週末から3日掛けて行う期末テストの事を覚えていますね?」

「…………………え゛?」

 

そう、色々な事がいっぺんに起きた所為で頭からスッポリと抜け落ちていたのだ。『期末試験』と言う存在を……。

 

「一年生は木曜日と金曜日に筆記試験。土曜日に実技試験を行いますので頑張ってくださいね。―――あっ!もし赤点を取ったりしたら夏休みに学校に来てもらいますからそのつもりで」

 

不味いまずいまずいまずいまずいまずいまずいマズイマズイマズイ……。

 

試験勉強?んな事してる訳無いだろ言わせんな恥ずかしい。

そもそも基礎科目とISの専門科目と同時に押し込むのが無茶なのだ。他の生徒なら別にどうってことないのかもしれないが俺は正式に試験を受けて合格したエリートじゃないっての!――――やめよう。そんなことぐちぐち言ったところで何の解決にもならない。

 

「何とか…何とかしなければっ!」

 

でないと、俺の夏休みが無くなってしまう。となれば、俺がすべき行動は一つだ。

学校が終わった後、俺は夏休みを補習尽くしと言う悲惨な結果を阻止するための行動に移る為にある人物の部屋にへと向かうのだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第35話「期末テストからにげられない」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「勉強教えてくださいっ!」

「おー…?」

 

放課後、ミコトとのほほんさんの部屋へとやって来た俺は最初の一言目に土下座と言うアクションと同時にそんな言葉をミコトに対して送ったのだった。

本当ならHRの話を聞いた途端その場でミコトに土下座してお願いしたかったが、人目のある場所で土下座するのは俺の残り少ないプライドが許さなかった。まあ、結局やっている事は同じなのでそんなもの無いに等しいのだが…。

 

「宙返り前転を加えたローリング土下座。おりむー、プロか……」

「? 一夏、土下座のプロ?」

「断じて違うっ!」

 

土下座のプロとか全然嬉しくない。土下座代行とかそんな職業でもない限り需要無いだろそれ。いや、あってもなりたくないよそんな職業。―――と、いかん。それどころじゃなかった。

 

「後生だミコト!このままじゃ夏休みがなくなっちまう!」

「………?」

「えー?なんでー?」

 

もう再度頭を下げる俺だったが、二人は承諾とも拒否とも違う反応を見せた。これには俺も予想外。まさか不思議がられるとは思わなんだ。

 

「なんでって、そりゃあ期末テストで赤点をとりそうでヤバイからだろ?」

 

今までの会話でそれくらいわかると思うんだが…。

 

「? 授業の内容そのまま書けばいい」

「だよねー?わたしも上位は無理でも赤点の心配はないかなー?」

 

何おかしなこと言ってるの?的な顔して俺を見てくる二人。多分、二人には俺の言葉の意味が理解できていないらしい。

おのれ優等生め、俺とは根本的に認識が違うというのか!それが出来れば苦労しないってのにさすがエリート、凡人の気持ちなんて全然理解出来てない!涙が出てくるぜ…ちくしょう。

 

「ん…でも、わたし教えるの苦手」

「……そーだねー。みこちーに教わるのは止した方が良いと思うなー?素直に教科書開いた方が正解だよー」

 

無理強いは出来ないか。ミコトも困ってるようだしな。口足らずなミコトにはやっぱり厳しい内容だったか…。むう、しかし学年主席から勉強を見て貰えれば期末テストなんて余裕だと思ったんだけどなぁ。考えが甘かったと言うより、甘え過ぎたかもな…。

よく考えれば試験前なんだ。皆、勉強に専念したい筈だ。

 

「希望は薄いが自力で頑張ってみるかぁ……はぁ…」

「まぁまぁ、おりむー。そう悲観的に考えなくても大丈夫だよー」

 

床に手を着き溜息をつく俺だったが、そんな俺にのほほんさんはポンポンと肩を叩いて微笑みかけてくる。その口ぶりからは何か良い案でもあるのだろうか?

でも、のほほんさんの浮かべている笑顔は落ち込んでいる俺を励ますというよりも悪戯を思い付いた子供の笑みのそれに似ていた。本当に大丈夫なのか…?

 

「?……ど、どういうことだ?」

「わたしに良い考えがあるー♪」

 

……いやな予感しかしない。

 

 

 

 

 

「「「「勉強会?」」」」

 

夕食時に食堂に集まっていた代表候補生メンバー改め、箒を加えた専用機持ちメンバーがそう口を揃える。

皆の視線の先にあるのは提案者であるのほほんさんだ。のほほんさんはニコニコと笑顔を浮かべて頷く。

 

「そうだよー♪今週末期末テストだしさー♪」

「ん。皆でお勉強」

 

ばさばさと長い袖を揺らして、楽しそうに説明するのほほんさんとミコト。しかし、皆はどうも乗り気じゃないと言った感じでのほほんさんとは正反対の反応を見せた。

 

「それはまた急ですわね…。しかし何でまた突然そんなことを?」

「……て言うか必要あんの?」

 

グサッ!

 

「ぐふぅ!?」

 

鈴の言葉が胸に突き刺さる。

今まさに必要としている本人にその言葉はあんまりと言うものだ。

 

「む?どうした一夏?捕虜が拷問時に出す悲鳴のような声を出して」

「なんで例えがそんなにグロテスクなのさ…。とりあえず一夏の反応を見て状況は把握できたよ、うん」

 

呻き声を上げて力無くテーブルに突っ伏する俺の反応を見て、何故のほほんさんが勉強会をしようと言い出したのか理解するとシャルロットはため息混じりの苦笑をこぼされてしまう。シャルロットから向けられてくる視線は妙に生温かい。

そして、シャルロット同様に俺に気付いた箒達は「あ~そういうことか」と言った感じで呆れた表情を浮かべる。

 

「はぁ…成程、そう言う事か」

「アンタねぇ…。何やってんのよまったく」

「一夏さん?常日頃から勉学に励まないからそう言う事になるのですよ?」

 

酷い言われ様である。

そして周りの反応を見て漸く気付いたのか、ラウラがポンと手を叩く。

 

「……ふむ、状況は理解した。つまり学力が足りず補習確定の一夏に特に補習の心配の無い私達が勉強を見てやれば良いのだな?そして補習を阻止しろと」

「うん。説明ありがとう。その通りなんだけどもう少し言い方があるよね?俺のガラスのハートが微塵に砕け散りそうなんだけど?と言うか砕けたよ…」

 

何この人どストレートに語ってくれてんの?言葉の一つ一つが鋭く急所を的確に貫いて俺の心は立ち直れないくらいにボロボロだよ。

 

「………」

「しょ、しょうがないよね!うん!テストの科目多すぎだもんね!?」

 

更に落ち込む俺を見かねてフォローに入るシャルロットだったが、同じ条件で赤点の心配の無いどころか高得点狙えそうな人間が言っても全然フォローになってない。

 

「………何かスイマセン。馬鹿でスイマセン」

「何故そんなに卑屈になる…」

「今日のおりむーのメンタルの弱さは異常だねー…」

「一夏、だいじょうぶ…?」

 

うるせいやい。お前らに俺の気持ちが分かる訳ないやい…。

 

「はぁ…やれやれですわね。分かりました。協力致しますわ。一夏さんの頼みですもの。断る理由はありませんわね」

「そうだね。僕なんかで良ければ喜んで勉強見てあげるよ」

「ほ、本当か!?」

 

勉強を見てくれると聞いた途端、ガバッと伏せていた頭を勢いよく持ち上げた。

 

「しょうがないわね~。何か奢りなさいよ?」

「まったく、世話の焼ける…」

「私は構わんぞ?寧ろ積極的に参加させて貰おう。一夏が補習を受けてしまう事になれば、皆で遊ぶ時間が減るからな」

「ん。私もがんばる。一夏もがんばろ?」

 

おお…皆の背後から後光が見える…。ありがたや、ありがたや…。

 

一時はもう駄目かと思ったが何とか希望が見えてきた。後は俺の頑張り次第だろう。皆の心遣いに報いる為にも頑張らなきゃな!

――――そう綺麗な友情で終わる筈だった。けれど、それで終わらないのがのほほんクオリティー。俺が感じた嫌な予感は的中し、最後の最後で爆弾を投下してくれやがりました。

 

「じゃあ夜におりむーの部屋に集合ねー。―――パジャマで♪」

 

し~ん…。

 

「「「「……………はぁ!?」」」」

 

 

世界が数秒間ほど停止し、そして時が動き出した途端、俺を含めた4名を除いた残りメンバーが一斉に声を上げる。

ん?何で俺は驚かないのかって?あのな、毎日寮で女子の目のやり場に困る無防備な姿を見せられてるんだぜ?もう今更感があって驚きはしないって。

 

「な、なな何を言い出すんですの本音さん!?」

「えー?何か問題でもあるのー?」

「大アリです!淑女が夜男性の部屋に寝間着姿で入るなどはしたないですわ!」

 

うむ。セシリアの言う事は尤もなんだけどさ…。

チラリと隣に視線を向ける。

 

「……(私は一月ほど一夏と同じ部屋で過ごしたのだが…)」

「あ、あはは…(は、はしたない…)」

 

案の定、二名程微妙な顔をしていたがここは敢えてスルーしておこう。

 

「なんでー?お勉強するだけだよー?全然はしたなくないよー?寧ろお勉強するから良い事だよー。セシりんも前に言ってたよね?学生の本分は学業だってー♪」

「ぐぬぬぬ…都合のいい時にだけその台詞を…っ!」

 

俺の知らないところでそんな事言っていたのかセシリアの奴。まあ優等生のセシリアらしい台詞ではあるよな。

 

「むー、何が不満なのー?パジャマだよパ・ジャ・マ♪………おりむーもイチコロだよ?(ヒソッ」

「そ、それは…一夏さんにわたくし以外の方の寝間着姿を見て欲しくないからなわけでゴニョゴニョ……」

 

二人で何かひそひそと話をしているが声が小さすぎて此処からじゃ聞き取れない。とりあえずのほほんさんがまた何か企んでいるということは確かだろう。だってのほほんさんの浮かべてる笑顔がとても黒いんだもの…。

 

「だったら他の子達よりも大胆なパジャマを着ちゃえばおりむーをメロメロに――――

 

ゴンッ!

 

――――にゃあ!?」

 

のほほんさんの頭に拳骨が落ちる。のほほんさんに拳骨を落としたのは鈴だった。

 

「何馬鹿な事言ってんのよアンタは!」

「い~た~い~よ~ぅ……」

 

お~お~、あんなに大きなたんこぶ作って…。

たんこぶの大きさと音からしてかなり強く殴られたみたいだけど、一体何を言ったんだのほほんさんは…。

 

「うぅ~…なにすんの~?」

「自業自得」

 

のほほんさんが非難がましい顔で訴えるも鈴はズバリと切り捨てられてしまう。口は災いのもとって奴だな。何言ったか知らんけど。

 

「えーっと…そもそも何でパジャマになる必要があるの?」

 

シャルロットのもっともな意見に皆もうんうんと頷いている。

 

「その方が面白いから―――」

「てい」

 

パシンッ!

 

言葉を言い終える前にシャルロットが容赦無く頭を叩く。まあそんなこったろうと思ったよ。

 

「う゛ぅ~……でもでも~、普通にやってても時間が足りないよ~?だから夜遅くまで勉強しないとー」

「それが何でパジャマと関係が?」

「夜遅くまで勉強してそのままおりむーのお部屋でおやすみー♪」

「「「「ええっ!?」」」」

 

またしても声を揃えて驚く箒達。

まさかのお泊まりか。…ん?同じ寮に居るのにお泊りって言うのは可笑しくないか?

 

「な、何を馬鹿なっ!不純だ不純っ!そもそも女子生徒は特別な用事が無ければ一夏の部屋に立ち入ってならぬと織斑先生から厳しく言われているだろう!?」

「勉強する事がなんで不純なのかなー?」

「ぐっ……」

 

にやにやと小悪魔な笑みを浮かべるのほほんさんに対し、箒は言葉を詰まらせて何も言い返せなくなる。

パジャマはどうであれ、勉強については別に間違っては無いからなぁ。パジャマはどうであれ。

 

「はぁ……駄目だわ。何を言ってもこの子が意志を枉げるところが想像出来ない」

「何故そこまで拘るのかが謎ですわね…」

「えへへ~♪―――アイタ!?」

 

またも頭を叩かれてしまうのほほんさん。

 

「……褒めてないからね?」

「ぶぅ~…」

 

シャルロットのツッコミに叩かれた頭を擦り不満そうに頬を膨らませてブーブーと鳴くのほほんさんであった。

 

「―――で?結局どうするわけ?」

「どうあっても止めるつもりはないのでしょう?……はぁ」

「どうしてこうなった…」

「ぼ、僕に聞かれても…」

 

 

 

どうやらパジャマ姿での勉強会は決定したも同然の様だ。というより、あきらめたと言った方が正しいかもしれない。皆もうどうにでもなれって顔をしている。

今回の件で分かった事。ノリで生きるのほほんさんは止められない。普段はのったりゆったりな子なのにこういう時の行動力は凄まじい物である。

 

そんな微妙な空気が漂う俺達をよそに、置いてけぼりを喰らっていた二人はと言うと…。

 

「ぱじゃま…?寝ちゃうの…?」

「むぅ、私は寝間着など持っていないのだが…」

 

そんな少しズレた反応を示していたのだった。この温度差は一体何なのだろう…。

 

 

 

 

こうして、俺は試験当日まで勉強会をする事となった。

夏休みを潰されるまいと言う必死の努力もあって、テストの結果は少ない時間で勉強したにしてはなかなか良い点数で終わり、なんとか補習を逃れる事に成功。パジャマ姿を恥じらう箒達に囲まれて勉強するという微妙な空気が漂う空間で重圧に耐えながら勉強したかいがあった言う物である。

 

……いや、ホントに頑張ったよ。皆何でか普段より露出が多いパジャマで来るんだからな。

 

なんというか、その…目のやり場に困る。

まあそのおかげで皆を見ない様に勉強に没頭出来たから結果オーライとも言えるが、精神力の消費が半端ない。勉強が終わっての疲労感と言ったらもう…。

 

唯一の救いは、ミコトやのほほんさんと言った天然組はいつも通りのパジャマ姿だったということくらいだ。ミコトはあの怪談騒動の原因となったペンギンパジャマで、寝間着などないと言っていたラウラは、のほほんさんに貰ったのほほんさんやミコトと同じタイプの着ぐるみパジャマ?を勉強会で着ていた。でもそっちはそっちでシャルロットが壊れて大変だったなぁ…。あの時はもう勉強会どころじゃなかった。なんとか、釈然としないといった感じの表情を浮かべたラウラをシャルロットの膝の上でに座らせて勉強させるということで鎮める事は出来たが―――いや、アレは鎮めると言うか意識が何処かに飛んでたな。シャルロットの頭の中はきっと始終お花畑だったことだろう

 

………思い返してみると本当に酷い勉強会だった。もうこう言うのは御免だ。怠けるのは良くない補習復習はきっちりやろうと心に決める俺なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ 後日談

 

 

「本音。疑問に思っていたのだが…」

「ふにゃー…なぁに~?」

 

期末テストが終わり、弛んだ雰囲気が漂う教室でクーラから送られてくる風でぐんにゃりと机に寝そべり涼んでいた本音に私はふと疑問に思っていた事を訊ねてみた。

 

「パジャマでの勉強会が断られる可能性を考えなかったのか?」

「あははー♪そんなのあり得ないよー♪」

「? 何故だ?」

 

やけに自信満々に答える本音を見て更に興味が増した。一体、その自信は何なのだろう。

 

「考えてもみなよー。もし、自分達の中で一人だけパジャマ姿の女の子が居るとするね?じゃあ男の子の視線は必然的にその子に向いちゃうよねー♪出し抜くチャンスを見逃す子なんてあの中にはいないよー♪仮にパジャマ無しで勉強会をしても今回と同じ状況になってただろうねー♪」

「ふむ…………わからん」

 

出し抜くとはどういう事なのだろうか?今度クラリッサに訊いてみる必要があるな…。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。