IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第二章「思い出」
プロローグ


 

キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…。

 

本日の授業の終了を知らせる鐘の音が教室に響き渡ると、それを聞いた生徒達はまだ教師が授業の終わりを告げていないと言うのにざわざわと騒ぎ出し、それを見た男性教師はやれやれと頭を掻いて肩を竦めた。

 

「おいお~い。まだ終わってないぞ~?あー、今月末は学年別トーナメントがあるのは皆知っているよな?放課後は基本自由だから遊んだりなんなりするのは勝手だけどな、負けて恥ずかしい思いをしたくなければ自主練に励む様に、授業で分からない事があれば俺に質問しに来い、以上。解散!」

『ありがとうございました~!』

 

生徒達の挨拶を聞いてから、男性教師は早々に教材を纏めて教室を出る。

この時期は手続きやらなんやらで忙しい。ましてや大きな学園行事前だ。各国からのお偉い方が客人として訪れる為に客人リストの確認、当日の打ち合わせ、緊急時の対応等など、話し合う事が山ほどあるのだ。

 

「毎年毎年きっついよなぁ~…」

 

廊下を若干急ぐようにして歩きながら男性教師は職員室へと向かう。

教師側になってからその忙しさを思い知る。あの頃は生徒側だったがこうして教師側に立つと先生達には本当に色々迷惑掛けたんだなと、男性教師は申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで一杯になる。事実、彼が在学中の年はIS学園が設立して一番事件が多発した時期であり、教師陣は過労で倒れそうになった時期でもある。

 

「先生ー!待って待ってーっ!」

 

女子生徒に呼ぶ止められ、男性教師は急いでいた歩みを止めて女子生徒の方へ振り返った。

 

「ん?―――ああ、黛か。どうした?」

 

男性教師を呼んでいたのは彼の受け持っていたクラスの生徒だった。

黛と呼ばれた女子生徒は彼の許まで小走りで駆けてくると、走って息を切らしていた呼吸を整えてからニコリを笑顔を浮かべて彼を見上げる。

 

「はい!実は先生に質問がありまして!」

「質問?授業で分からない部分でもあったか?」

 

だとしたら教室を出る前に聞きに来れば良かっただろうにと、男性教師は少し困った顔をして黛を見る。廊下では立ち話になってしまい黒板もなにも無い為、どうしても口だけの説明になってしまう。物を教えるのには適した場所とはとても言い難い。質問しに来いと言った以上その言葉を偽るつもりは無いが、生徒の期待に100%応えられるか彼には自信が無かった。そんな心配をする彼であったが、女子生徒は「いやいや違いますよ」と両手をブンブンと振って否定する。

 

「授業の質問じゃなくてですね。この学園のOBである先生に質問がありまして♪」

「俺に質問?」

 

黛の言葉に彼は怪訝そうな表情を浮かべる。

彼自身特殊な為に質問されるのは良くあるの事なのだが、彼女が『学園のOB』と言っている様に彼自身に質問がある訳では無いらしい。しかしだからこそ彼は不思議に思った。彼女はOBである先生にと言ったが、基本この学園の職員達はIS学園の卒業生などで構成されている。つまり、この学園の教師全員がOBな訳だ。その大勢居るOBの中で彼を選んだのは何か理由でもあるのだろうか?

 

「あ、正確には『10年前IS学園の生徒だったOB』ですね」

「ああ、成程な」

 

それなら納得だと男性教師は言う。

確かにそれなら人数も限られてくるし、その中で彼を…しかも担任である彼を選ぶのは別段不思議でもない。

 

「で、何が聞きたいんだ?」

「えっとですね。今度新聞部で一年生だけで記事を書く事になったんですよ。誰が一番面白い記事を掛けるか競う形で。だから良いネタないかな~って♪」

 

それでかと彼はまた納得したと苦笑する。

この男性教師自体ネタの塊だ。ネタを絞り取ろうと思えば幾らでも絞りとれる事だろう。実際、在学中も此処に教員として務めるようになってからも新聞部の取材は絶える事は無かった。彼自身もう慣れたものである。諦めとも言えるが。

 

「そう言えば黛は新聞部だったか。しかし姉妹揃って新聞部とは、そういう家系なのかお前の家は?」

「あはは♪かもしれないですね」

 

そう、彼の教え子である黛は10年前に新聞部に所属していた黛 薫子の妹なのだ。そしてその彼女の姉も雑誌「インフィニット・ストライプス」の副編集長を務めている。もはや黛の血がそうさせているとしか思えないレベルだ。

 

「けど俺に取材しようと思うのは皆同じなんじゃないか?自分で言うのも何だが、ネタが服を着て歩いてる様なもんだぞ俺?」

「自分で言いますか。まあその通りなんですけどね?でも、残念ながら今回は先生の取材じゃないんです。言ったじゃないですか『10年前IS学園の生徒だったOB』って」

「そう言えばそうだったな」

 

彼自身についてに取材をしたいと言うのなら、『10年前IS学園の生徒だったOB』なんて回りくどい言い方なんてしない筈。しかし分からない。彼女は自分に何を聞きたいのだろう?『10年前IS学園の生徒だったOB』それは彼に当てはまる。10年前にIS学園で起こった何かを取材したいのだろうか?

 

「グラウンドの外れにある石碑はご存知ですか?」

「…………っ!」

 

石碑と言う言葉を聞いた途端、彼はピクリと表情を強張らせたが、直ぐに表情を和らげて彼女の質問に答える。

 

「……ああ、知ってるぞ?あの石碑が如何したんだ?」

「私、あの石碑の事を調べて記事にしようと思ってるんです!皆もあの石碑の事気になってるみたいなんで、注目をされるかなって」

「………そうか」

 

少し複雑そうに男性教師は笑うと、近くにあった窓から彼女が言うグランドの外れにある石碑を眺める。

学園を見守る様に存在しているそれは、とても質素で飾り気のない石碑で。けれど、お供えされている花はとある人物が毎日のように変えられているため、萎びた様子は無くとても奇麗に咲き誇っていた。

 

「何処まで調べたんだ?あの石碑について」

「それが全然。立てられた時期は石碑に書かれた年号で分かるんですけど…」

 

残念そうに語る黛に男性教師は「だろうな」と呟いてから窓を開けて渕に手を置くと、頭上に広がる青空を見上げた。何の変哲の無い空を、何時までも変わる事の無い筈の空を懐かしむ様に…。

 

―――私も…星になれたらいいのにな。そしたら、ずっと皆といられる。

 

(ああ、俺は、俺達は此処にいるぞ?■■■…)

 

それは、彼女との約束の言葉。彼と、彼女達が此処に留まる理由…。

 

「…………あれはな、お墓なんだよ。俺の、俺達の友達のな」

「え?お墓ですか?でもあれには名前なんて…」

「書けないんだよ。『アイツ』は存在しない筈の人間だから」

 

そう、だからこそあの墓には名前は記されていないのだ。居ない筈人間の名前なんて書きようが無いから…。

 

「えっと…?」

 

訳が分からないと言った様子で首を傾げる黛に彼は苦笑を溢す。

 

「どうしようもない、抗いようの無い力に捩じ伏せられる。そんなもんなんだよ大人の世界ってのはな。悔しくても、どんなに未練でも、餓鬼が幾ら騒いだところでどうしようもないんだ」

「…………」

 

そう悟った様に語る彼だったが、その瞳を見れば未だ悔いが残っているのは明らかだった。けれど、それでもどうしようもないと彼は言う。自身に言い聞かせるように何度も…。

 

「だから、この話を記事にするのはやめとけ?委員会から圧力を掛けられるのがオチだ」

「……やっぱり、このネタを選んで正解でした。私、この話を絶対に記事にします!」

「は……?」

 

黛の発言に対し、男性教師は訳が分からないと言った様子で彼女を見る。止めておけと言うのに何を言い出すのだろうこの生徒はと。

 

「私、子供だから大人の事情とか難しい事は分かりません。確かに名前を伝えられないかもしれません。でも!そんな人が此処に居たんだって知って貰える事は出来ると思うんです!」

「黛……」

 

そう熱心に、真っ直ぐな意志を持って語る黛の姿に、男性教師はいつかの自分を見ている様で眩しそうに目を細めた。

あの頃に居た生徒達はもう卒業し、そしていずれ彼も退職してこの学園から居なくなる。そうすれば『彼女』の存在は時の流れと共に忘れ去られてしまうのだ。どうしようもない、それは仕方の無い事だ。しかし、目の前の教え子は言う『語り継ごう』と。名を語る事を許されない少女の存在を。それが嬉しくて、泣きそうになる程に嬉しくて。だから…。

 

「……名前は教えられないぞ?詳しく話せない事も結構ある。それでもいいのか?」

 

彼は語る事にした。名を明かせぬ少女の事を。誰よりも空を愛した少女の物語を…。

本来ならそれは許されない事だ。委員会の意思に逆らう行為。査問に掛けられる可能性もある。だが、彼はそれでも語る。

 

「はい!お願いします!」

「……そうか、分かった。『アイツ』と出会ったのは入学式のHRの時――――」

 

10年前、何が起こったのかを…――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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