IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第42話「差し出された手は弾かれる」

 

「そう言えばミコト。何か授業中に呼び出されてたよな。何かあったのか?」

「ん。ひみつ」

 

午前の授業が終わっていつもの面々で学食で昼ご飯を食べていると、ふと俺は授業中に流れた呼び出しの放送を思い出しミコトに訊ねてみたのだが、ミコトはフルフルと首を左右に振って教えてはくれなかった。

ミコトが秘密事とは珍しい。生徒会室に呼び出されてたよな。と言う事は生徒会からの呼び出しか?そう言えば放送の声も若い女の人の声だったしやっぱりそうなんだろうか。どちらにせよ、ミコトが言いたくないなら深くは問わないでおこうと、話はそこでお終いにして自分の昼ご飯を食べることにした。うん。相変わらずこの学食のご飯は美味い!

 

「もご…もご…」

「あら?ミコトさん、今日は何時にも増して小食ですのね。どうかしましたの?」

 

―――と、急にセシリアがミコトのお昼ご飯を見てそんな事を言いだした。

俺はセシリアに言われてミコトの目の前に置かれているトレーを見ると、確かに少ないと思った。ミコトのお昼のメニューは何時もならサンドイッチセットなのだが、今日はサンドイッチの単品が2個とミルクだけ。気のせいか食べるのスピードも心なしかいつもより遅い気もする。調子でも悪いのか?そう皆は心配そうにミコトを見るのだが、逆にミコトはあうあうと焦った様子で顔を伏せて訳を語り出す。

 

「ケーキ食べたから、お腹空いて無い…」

「コラ、ミコトさん?お昼ご飯の前にお菓子を食べるのはいけませんといつも言っているでしょう?」

「うー…」

 

セシリアママに叱られてしょんぼりと身体を縮こまってしまうミコト見て、皆は「まあ、しょうがないよな」と苦笑。流石に非はミコトにあるので助けようとはせずにまるで親子の様な光景を暖かく見守りながら食事を続ける。すると、そこで突然ガタッ!と大きな音が学食に響いた。

 

「もごっ!?もごごごっ………え~っ!?ケーキ!?どういうこと~みこち~っ!?」

 

椅子を倒す勢いで立ち上がって訳の分からない事を言い出すのほほんさん。どういうことってお前がどういう事さ?というか口の中の食べ物が食べきれてないから。食べカスが飛んでるから。

 

「ちょっ!?ご飯粒飛ばさないでよ!きったないわねぇ!」

「そんなことはどうでもいいんだよー!みこちー、ケーキってどういうことなのー!?」

 

鈴がそう抗議するものほほんさんはそんなの関係ねぇ!と完全スルー。

 

「私とたっちゃんと虚の3人で食べた。美味しかった」

「きっとお客様用にとってあったケーキだぁ~!ずるいよ~!私も食べたかった~!ケーキケーキケーキー!!」

 

満足そうに語るミコトであったがそれがいけなかった。お菓子に関しては喰い意地がはってるのほほんさんにそんな話をしてしまっては、こうなる事は目に見えてただろうに。ほら見ろ、もう高校生だってのにまるで子供みたいに駄々を捏ねて…。

しかしあれだ。何でのほほんさんが生徒会室に保管されてあるケーキの事を知っているかは分からんが、「お客様用」ってことはつまりミコトのために用意してたケーキじゃないのか?

 

「もう、本音。あまり我儘言っちゃ駄目だよ?」

「うぅ~…ケーキィ…」

 

テーブルに突っ伏して未練がましい声を洩らすのほほんさん。そんなのほほんさんを見てミコトを除いたメンバーは何もそこまで落ち込まなくてもと呆れる。たかがケーキにそこまで拘れるのはある意味すごいが。

 

「ん。ごちそう、さま」

 

お昼ご飯を食べ終え両手を合わせて挨拶を済ませると、ミコトは早々と片付けを始めた。

珍しい。いつもなら皆が食べ終えるのを待ってるか、一番最後に食べ終えるのに、まるで今日は何か急いでるようにも見える。午後からも実習だからか?でも、ミコトの専用機は故障中だからあまり関係無いような…。

 

「む?ミコト、何をそんなに急いでいる?午後からもお前は見学だろう?我々と違ってISスーツに着替える必要はないからゆっくりすればいいじゃないか」

 

不思議に思ったラウラがそう言うのだが、ミコトはまたフルフルと首を振ってそれを拒絶する。うん?何か用事でもあるのか?

 

「―――あっ、もしかしてさっきの呼び出しと何か関係あるのか?」

「ん~……ん」

 

俺の問いに答えるべきかと少し悩んで見せたもののミコト肯定だと頷く。しかし此処でNOだと答えても今の反応でバレバレなんだけどな。ミコトはどうやら隠し事が出来ない性格らしい。

 

「では、また生徒会室か?」

「ん~ん、1年4組の教室」

「ふ、ふぇ!?」

 

1年4組?なんで4組何かにと俺も皆も疑問に思っていると、先程まで塞ぎ込んでいたのほほんさんが急に物凄い勢いで頭を起こしてミコトを見る。

 

「ほ、本音さん?どうかしましたの?」

「う、ううん!?な、何でもないよ~!?」

 

明らかに何でもないって様子じゃないんだが…。

 

「4組って何でまた?親しい友達っていたか?」

「ん。これからなる」

 

これからなる…か。何とも意味深で唐突な言葉だが、ミコトらしいと言えばらしいかもしれない。ミコトが言うこれからなる親しい友達という人物が誰の事なのか気にならなくもないが、きっとそれは話せないだろうから訊かないでおこう。

 

「そっか、まあ何かあったら相談しろよ?」

「ん」

 

俺の言葉にミコトは頷くと、トレーを持って返却口へトテトテと歩いて行ってしまい。俺達はその背中を見送った。

 

「……それにしても、4組ですか」

 

ミコトが去った後、セシリアが口を開く。

 

「4組ってあれよね?確か専用機が未完成っていう…」

「ん?ああ、そう言えばそんな話前にもしたな」

 

確か鈴がIS学園に来た日だったか。随分前の様な気がするけどほんの数ヶ月前の事なんだよな。そう感じないなんて我ながら濃い学園生活を送っているもんだと常々思うよ。

 

「うふふ、その方が関わっているのか、関わっていないのかは分からないにせよ。もしそうだとしたらもう答えを言っている様なものではないですか。本当、ミコトさんは可愛らしいですわね」

「ははっ、本当にな」

 

学園と言う閉鎖された空間の中で、更に教室まで教えてしまっては人物の特定なんてそう難しくもない。それを教えてしまうなんて本当にミコトは隠し事をするのに向いていないんだなと俺は思う。

 

「しかし、何故突然…」

「そうだな。それに生徒会とやらの呼び出しも気になる」

 

ミコトの人との交流は広い。一年からはマスコット的な存在で先輩達からは妹の様に可愛がられている。だから別に生徒会に知り合いがいても不思議じゃないが、授業中に呼び出されるというのは不自然ではある。

 

「何?また何か厄介事?(チラッ」

「かもしれませんわね(チラッ」

 

鈴とセシリアが何故か俺を見てくる。なんでさ?

 

「…何で俺を見る」

「いやね、トラブルメーカーが二人も居ると大変だなぁって」

「誰がトラブルメーカーだ!?」

「アンタよ」

「一夏さんですわね」

「うぐっ!?」

 

息のピッタリな二人に、俺はカエルが潰れる時に出す様な悲鳴をあげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第42話「差し出された手は弾かれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

「ん~…」

 

一夏達と別れて1年4組の教室の前へとやってきた私は、ポツンと入口のドアの前に立って『1年4組』と書かれたプレートを見上げていた。

 

「あれ?オリヴィアさん!」

「ん。ひさしぶり」

 

教室にの中に居た一人の女子生徒が私に気付いてわざわざ廊下まで出て来てくれる。

 

「うん!一学期ぶりだね!どうしたの今日は?昼休憩に此処に来るなんて珍しいね?」

「更識簪、いる?」

「え…」

 

笑顔だった女子生徒の表情が困惑へと変わる。

 

「さ、更識さん?居るけど彼女に何か用?」

「ん。大事な用事」

「そ、そっかぁ。更識さんならあそこにいるよ?」

 

そう言って女子生徒は教室の一番後ろの窓際の席を指差す。私はその指差す方を見るとそこには購買のパンを脇によけて、空中投影のディスプレイを凝視しながら只管にキーボードを叩くめがねを掛けた女の子が居た。

その子の周辺にはまるで見えない壁があるみたいに誰も寄りつこうとはしない。その壁を作っている本人が放つ人との関わりを拒もうとするオーラがあの一人ぼっちの空間を作り出していた。

 

あの子がたっちゃんの妹の更識簪…。

 

「……ん」

「あっ、オリヴィアさん!今は近づかない方が……あ~行っちゃった」

 

女子生徒の制止を無視して私は簪の席へ向かう。周りの人もこっちを見てざわざわしてるけど、気にしないでそのまま真っ直ぐ簪の席まで歩き席まで辿り着くと簪の正面に立つ。

 

「………」

「………」

 

無言で向かい合う私と簪。でも、簪は私を見向きもせず視線はディスプレイだけに向けられている。

カタカタカタカタと、キーボードを素早く打つ音が静まり返った教室に響く。

 

「………」

「………」

 

正面にずっと立っているのに意識はディプレイだけに向けられてこっちには無反応。仕方ないから私はじ~っと簪を見つめる。

髪はセミロングで、たっちゃんとは対照的に癖毛が内側に向いてる。容姿は何処かたっちゃんと似ていてやっぱり姉妹なんだなと思った。

 

「………」

「………」

 

―――そして、10分が経過…。

 

「………」

「…………はぁ」

 

ピタリとキーボードの打つ音が止む。

 

「……何か用?」

「おー?」

 

あ、やっと反応してくれた。

…あれ?私は何もしてないのに、それだけで達成感があるのはなんでだろう?

 

「……そこに立っていられると、気が散る……早く要件を伝えて…」

「私、ミコト・オリヴィア」

「………知ってる。あの子から良く聞かされてるから…それで、何?」

「ん。たっちゃんに頼まれて来た」

 

たっちゃんの名前が出た途端、教室の空気が凍るのが分かった。そして次の瞬間―――。

 

ガシャーンッ!

 

「いやああああああああっ!」

「お、お嬢様ああああああああ!?」

 

廊下の方から何かガラスが割れた様な音と共に訊いた事がある女の人の悲鳴が聞こえてきたような気がしたけど……気のせいかな?

 

「きゃあああっ!?誰かが窓突き破って飛び降りたわっ!?」

「きっとエリート同士の競争に耐えられなかったのね…」

「ほんとIS学園は地獄だわ…」

「お嬢様ああああああああ!?」

 

外がすっごく騒がしいけど何があったんだろ?それに、やっぱり訊き慣れた声が聞こえてくるし…。

 

「……帰って」

「う?」

 

まだ話もしてないのにいきなり帰れって言われちゃった…。解せぬ。

 

「……姉さんに言われて……来たんでしょう?……だったら……帰って…」

「どうして?」

「っ!………私は……私は姉さんの手なんか借りない……私だけで出来るのっ」

 

―――それが原因であの子に強いコンプレックスを抱かせているみたいなの…。

 

生徒会室でたっちゃんから聞いたの言葉。信じたくはなかったけど、あの言葉にはたっちゃんの勘違いじゃなかったんだ…。

だとしたら、それはとっても悲しいこと。たっちゃんは簪をとても大切に思ってるのにでもそれを伝えられなくて、簪はたっちゃんを拒絶して、どちらの思いも伝わらない…。

 

「だから帰って……私は忙しいの…」

「…どうして?」

「……はぁ……まだ何かあるの?」

 

簪はまだキーボードを打つ作業に戻ろうとしたけど、私がまた訊ねてくると溜息を吐いて此方を見る。

 

「どうして、たっちゃんが嫌いなの?」

「……貴女には……関係無いでしょう…?」

 

キッと眼つきを鋭くさせて私を睨んでくる簪。けれど、私はそれから視線を逸らさずに正面から受け止めて今自分が思っている事をそのままの形で伝える。

 

「たっちゃんは、貴女を大切に思ってる。だから私に、助けてあげてってお願いした」

「……私はそんなこと望んで無い」

「どうして?」

 

わからない。自分の事を大切に思ってくれているのに、それを受け入れない簪の気持ちが私にはわからない…。

一夏が私を助けてくれたら嬉しい。箒が私を助けてくれたら嬉しい。セシリアが、鈴が、シャルロットが、ラウラが、本音が私を助けてくれたら嬉しい。でも、簪はそれが嫌だと言う。わからない…。

 

「どうして、助けを拒むの?」

「そ、それは……そうしないといけないから……私が一人で完成させないといけないから…」

「どうして?」

 

もう一度、私は訊ねる。

 

「それ……は…」

「そうしないと、簪じゃなくなっちゃうから?」

「ち、違うっ……私は私…っ!…誰がなんて言おうと私は……『更識簪』なんだから!」

「ん。―――でも、簪自身がそう思ってない、よね?」

 

簪は簪。当たり前のことなのに簪はそうじゃないと思ってる。『更識簪』であろうとしてる。『更識簪』でないといけないと思ってる。

 

「だって、そうしないといけないなんて、誰も言ってない。そう思ってるのは――――」

「………っ!」

 

「貴女だけ」だと言葉を紡ごうとすると、パンッ!乾いた音が教室に響く。

ざわめき出す周りの人達。そして、その後に少し遅れてヒリヒリと私の頬に痛みが伝わって来た…。

 

「………貴女にっ……貴女に何が分かるのっ!?」

「………」

 

叩かれた頬に手を触れる。叩かれた所は熱を帯びていてじんじんと痛む。

 

キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…。

 

そこに、昼休憩の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。

すると、まるで止まっていた時が動き出したかのように、こっちを見ていた周りの人達は慌てて自分の席や教室へと戻って行く。

私も午後から授業があるから急いでアリーナへ向かわなくちゃいけない。頬に痛みを感じながら教室の出口に向かって歩いて行く。けれど、出口を潜ろうとする前にピタリと立ち止まって簪の方へと振り返る。そして―――。

 

「…またね」

 

―――と、最後にお別れの挨拶をしてから教室を後にした…。

 

 

 

 

 

 

「え?叩かれた?簪ちゃんに?」

「まぁ…」

 

午後の授業もまた生徒会室に呼び出された私は(今度は放送じゃなくて虚が直接私を呼びに来た)、虚が淹れてくれた紅茶を飲みながらさっきあった出来事を話すと、二人に驚いた顔をされてしまう。

 

「珍しいですね。あの方が他人に暴力を振われるだなんて」

「そうよねー。あの子、そういう非生産的な行動にはエネルギー使いたがらないはずなんだけど…。あと、虚ちゃん。何か冷やす物持って来てあげて。折角の白い肌がこんなに赤く腫れてちゃ台無しよ」

「かしこまりました」

 

…そうなんだ。普段はそんなことしないんだ…。

 

「…嫌われちゃった、かな」

 

いつもならしない行動をとった。ということは、それだけ簪を怒らせてしまったということ…。

 

「う~ん…。そんなことはないじゃない?」

「?」

「本当に嫌っているのならあの子は完全に無視するだろうし。それに、あの子がそれだけ感情的になるのは私も見たことないもの」

「でも、叩かれた…」

 

今も簪に叩かれた所は赤くなったままだし、ジンジン痛む。それが、どれだけ簪が怒っていたかを物語っていた。

 

「確かに今はあの子がミコトちゃんに向けている感情はマイナスかもしれないわ。でも、その分あの子の心の中には貴女が住み着いてしまっている、良くも悪くも…ね。ミコトちゃんの行動次第では今はマイナスでもこの先そのマイナスはプラスにだってなるかもしれない」

「………」

「嫌われたくないのなら行動あるべしってね。大丈夫よ。ミコトちゃんなら出来る。私はそう信じてるし、ミコトちゃんもこのままは嫌でしょ?」

「ん…」

 

そっと赤く腫れた自分の頬に手を触れる。

あの時の簪。すっごく私を睨んでた。きっとそれは傷つけてしまったから…。だから私は謝らないといけない、簪に…。

 

「なら行動あるのみ!あの子ってば押しに弱いタイプだからどんどんやっちゃいなさい」

「ん。がんばる」

「よろしい!―――ところで、放課後もあの子に会いに行くの?」

「とうぜん」

 

私はむんっと胸を張って頷いてみせる。

 

「ふふっ。そう、ならあの子はその時間帯は第二整備室にいると思うからそこに行ってみるといいわ。……ああそうだ、虚ちゃん。例の物も第二整備室に運んで貰う様に手配しておいて」

「はい、かしこまりました。その様に手配を」

「う?例の物…?」

 

たっちゃんが言う『例の物』と言うのが何の事か分からず首を傾けた。

 

「そっ、イカロス・フテロ用の予備パーツ♪(……と言っても、ある機体のジャンクパーツをイカロス・フテロに流用出来る様にしただけなんだけどね)」

「! 予備パーツあったんだ…」

 

クリスが家から送って来てくれたのかな?なら、修理は簡単に…。

 

「ええ。だけどイカロス・フテロを直すにはパーツが全然。そのうえ、あれだけの損傷だから…。修理より一から作り直した方が楽といえば楽なのかしら」

「ぶぅ~…」

 

私の考えてた事を先に否定されてぷくりと頬を膨らませる。

 

「膨れない膨れない。完成期間が早まるのは変わりないんだから~♪」

「むぅ…」

 

私の膨らんだ頬をたっちゃんはプニプニとつついて楽しそうに笑う。

 

「ところで、ミコトちゃんのこれからの計画を聞いちゃってもいいかしら?」

「計画?」

「ええ、計画。まさか二人だけで機体を完成させることが出来るだなんてミコトちゃんも思ってないでしょ?」

「ん」

 

簪と私が二人で頑張っても、機体を完成させるのは無理。それは分かりきってる。もともと私は開発に関われる程の技術は持ち合わせてないから、二人の内の一人としてカウントされない。戦力外通告と言っても良い。

 

「じゃあ、やっぱり整備科に協力してもらうの?」

「ん。でも、簪は誰も助けてくれなくて良いって言う…」

「そうでしょうね…。あの子ならそう言うでしょうね」

「ん。現に言われた………たっちゃん」

「うん?」

「なんで、簪は、一人で完成させようとする、の?」

 

完成させたいのなら、皆に手伝って貰えば直ぐなのに…。

 

「……たぶん、私がそうしたからでしょうね。それで意識しちゃってるんだと思う」

「たっちゃん、自分の専用機一人で完成させたんだ…すごい」

「あっ、訂正。まだ完成じゃないわよ?まだ稼働データ不足だし、実戦には出せるけど兵装はまだ未完成。でも、完成までもう少しかな?」

 

そう言って自信有り気にたっちゃんは語る。やっぱり、たっちゃんはすごい…。

 

「だけど、それが出来るのも元々7割方完成してたからなの。それに、薫子ちゃんには結構意見を貰ってたし、虚ちゃんにも手伝って貰ったから、一人で…とは少し違うかな?」

「優秀な、助っ人」

「ふふ、お褒めに預かり光栄ね」

 

虚を見て私はそう言うと、虚はくすりと笑って紅茶のお代わりを注いでくれる。

 

「……なら、それを伝えれば。簪は手伝うの認めてくれる、ね」

「それはどうかなぁ?」

「ええ、難しいかと…」

 

私の機体はキッパリと否定されてしまう。

 

「うー…どうして?」

「きっと、絶好のチャンスだと思われてしまうから。姉さんが出来なかった事を私が出来てしまえば姉さんを越えられるって」

「そうなってしまうと、余計ややこしくなってしまいますね…」

「ええ。少なくとも今それを伝えるのはダメ。お昼のことがあったばかりだしね。あの子もまだ頭に血が昇ってるままでしょうし。その、意地っ張りだから…」

「あのコンプレックスを如何にかしなければいけませんね…」

 

うーん。むずかしい…。

 

そもそも、私には二人が何を悩んでいるのかが分からない件について。

 

「まあ、これ以上好感度は下がらないからミコトちゃんの思う通りにやっちゃいなさい♪」

「オワタ」

 

というか、たっちゃんひどい…。

 

「お嬢様、その言い方は幾らなんでも…」

「あはは、冗談よ冗談。でも、思う通りにってのは本当。私が変にアドバイスしても逆効果だから…」

「………ん!」

 

そう言って、寂しそうにするたっちゃん。それ見て、私は頑張らなきゃと胸の内で意気込むのだった。

 

「よろしい。なら、そのお茶を飲んだら授業に戻りなさい。次の授業は教室でしょ?」

「ん。そうする――――あっ」

 

そう言えば、聞き忘れてた事がある。

 

「ねえ、たっちゃん」

「なぁに?」

 

部屋に来た時からずっと気になってたんだけど…―――。

 

「どうして、ボロボロ?」

「………」

 

首を傾げる私に制服のところどころが破れてボロボロな姿のたっちゃんは、引くついた笑顔を浮かべるだけで何も答えてはくれなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ミコトが生徒会室に来る前の話~

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「やっぱり一人だと無駄に広いよなぁ…」

 

午後もまた実習のため、アリーナにある俺専用のロッカールームで俺は一人ISスーツに着替えていた。

しかし、本当に無駄に広い。本来は大勢の生徒が使用する筈のロッカールームなのだが、男性と女性とで一緒に使用する訳にもいかずにこうしてガランとしていた。

 

「結局、ミコトの奴は戻って来なかったなぁ。といってもまあミコトは見学だからのんびり来ても遅刻しなければ良いんだろうけど―――」

 

そんな事を一人ぼやいていると、突然目の前が真っ暗になった。

 

「うおっ!?な、なんだぁ!?」

「だーれだ?」

 

背中から聞こえてくる声、そして目を覆う少しひんやりとした感触…ああ、そうか。この暗闇はこの声の主が手で俺の目を塞いでいるのか。

聞こえてくる声は同級生よりも大人びいていて、けれど、楽しさが滲み出しているような笑みも含んでいて、悪戯を楽しむ子供の様にも聞こえる。しかし何故だろう?俺はこの声を何処かで聞いたことがありる様な気がする。それもつい最近に…。

 

え~っと…何処で聞いたんだっけなぁ…?

 

「はい、時間切れ」

 

そう言って解放されると、声の主を確認しようと俺は振り向く。

 

「………誰?」

「んふふ♪」

 

振り向いた先に居たのは知らない女の子―――いや、リボンの色が二年生の物だ。すると彼女は俺の先輩にあたる人なんだろう。その先輩は困惑する俺を楽しそうな笑顔で眺めつつ、どこからか取り出した一つの扇子を口元へと持っていく。

改めて見てみると、可笑し……げふん、不思議な人だった。全体的に余裕を感じさせる態度。しかし嫌味ではなく、何処か人を落ち着かせる雰囲気がある。こういうのをカリスマと言うのだろうか?カッコいい。カッコいい筈なんだけど…。

 

「あの…」

「うん、なぁに?」

「……なんでそんなに服がボロボロなんですか?」

 

カッコ良くキメてるつもりなのかもしれないけど、制服がボロボロのせいで色々と台無しだった。

スカートは泥で汚れていて、服はガラスか何かで切ったのかの様に所々切れていて見るも無残。一体この人に何があったのか。というかそんな格好でなんでそんなに余裕そう振舞えるのかがわからない。

 

「………」

「………」

 

妙な沈黙がロッカールームに流れる。

 

「~~~~っ!////」

 

あ、何か顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出したぞ?

 

「…っ!(ダッ!」

「いや何か言えよっ!?」

 

謎の2年生はロッカールームを飛び出して何処かへ行ってしまった。一体何だったんだあれは…。

 

 

 

 

「―――てなことがあったので遅刻しました!」

「…そうか、遺言はそれだけか?」

「THE 理不尽!?」

 

 

 

 

 


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