IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第45話「新しい願い」

 

 

「ようこそ!我が城へ!」

 

そう言うと、楯無先輩はジャ~ン!と掛け声と共にドアを勢い良く開け放つ。

あの襲撃騒動から俺は楯無先輩に「事情説明」という建前で、生徒会室へ半ば強引に連れて来られた訳なのだが。生徒会室に入って出迎えてくれたのは、全校集会で司会を務めていた三つ編みで眼鏡を掛けた3年生の先輩と、この場所に居るのが最も似合いそうに無い人物。テーブルでケーキを食べているのほほんさんだった。

のほほんさんは部屋に入って来た俺と目が合うと、にぱ~っと笑って此方に手を振って来る。

 

「あ~!おりむーだぁ~!どうしたの~?こんな所にくるなんて珍しいね~?」

「本音。こんな所は余計」

「アイタッ。あははは~、しっぱいしっぱい~。おかえりなさ~い」

 

眼鏡の先輩が持っていたファイルに頭を叩かれて、のほほんさんは悪戯っ子がする笑みを浮かべてぺろっと舌を出す。

 

「おかえりなさい、会長」

「うん、ただいま。あら、本音ちゃん。今日は珍しくこっちに来てるんだ?」

 

楯無先輩の口ぶりからすると、のほほんさんは毎日生徒会に訪れている訳ではないらしい。見た限り生徒会室には3人しか居ない様だが、まさか役員はこれだけなのか?

だとしたら、3人だけで…いや、珍しくということは、のほほんさんはろくに生徒会の仕事をしていないと判断して、二人だけで仕事をこなしてることになる。何やってんの、のほほんさん。ケーキなんか食べてる場合じゃないだろ…。

 

「みこちーは~忙しそうだから~。まだお手伝い出来そうにないし~……ん~♪うまうま~♪」

 

俺の視線など気にもせず、そう言ってケーキをあ~んと大きく口を開けて頬張ると、幸せそうに両手で頬を押さえてだらしなく表情をとろけさせた。駄目だこりゃ…。

 

「…ん?今ミコトの名前が出なかったか?」

「う~ん、言ったよ~?」

「もしかして、のほほんさんはミコトが何をしてるのか知ってる?」

 

そう言えばこの間も、セシリアがミコトの頬の件ついて騒いでた時に一人だけ挙動がおかしかったし…。

 

「えへへ~♪ひみつ~♪」

 

けれど、のほほんさんはにんまりと笑われて誤魔化されてしまう。

……まあ、言いたくないなら無理に聞かないでおこう。それに、ミコトにああ言ってしまった手前、こういうのは良くない。こんなのミコトを信用して無いのと同じだもんな。

 

「よろしいよろしい♪女の子の秘密をしつこく聞こうとするいけない男の子には、おねーさんがお仕置きするところだったわ♪」

「は、はぁ…」

 

笑顔で握り拳を作る楯無先輩を見て。先程の襲撃してきた先輩方の返り討ちにあった姿が脳裏に過ぎる。良かった聞かなくて。そんな気は無かったとしても、紳士な自分に心から良くやったと拍手を送りたい。

 

「そ、それより、説明してくれるんですよね!?全校集会のこと!」

「モチロン。とりあえず座って座って。今お茶淹れさせてるからさ」

「あっ、どうも…」

 

気が付けば、3年生は何も言われてもいないのにすでにお茶の準備を始めていた。まるで楯無先輩が何を言おうとしているのか全て理解しているみたいだ。

理想的な主従の姿に俺は関しつつ、楯無先輩に椅子に座る様に促されて一番近くにあった椅子に腰を掛ける。

 

「まず、今回の件が起こった発端を説明しましょうか。キミ、部活動とかあまり関心とか無い方だよね?中学の頃も帰宅部だったみたいだし」

「はい、まあ…」

 

中学の頃はバイトで忙しかったし、IS学園に入学してからはずっとISの特訓で手一杯で部活動とかやっている余裕なんてなかった。

 

「それがいけなかったんだなぁ。織斑君が部活に入らないことで色々と苦情が寄せらていてね。生徒会はキミをどこかに入部させないとまずいことになっちゃったのよ」

「それで学園祭の投票決戦ですか…」

 

俺自身の意思など全く無視じゃないか。俺は俺で一生懸命頑張ってるって言うのに。

 

「さっきの襲撃もそれが原因かな?キミを景品にしちゃったから、一位を取れなさそうな運動部とか格闘系が実力行使に出たんでしょう。私を失脚させて景品キャンセル、ついでにキミを手に入れる、とかね?」

「なるほど…」

 

景品である俺の知らない場所で既に戦いが始まっていようとは…。流石はIS学園の上学年。千冬姉が言っていた『学園に染まる』とはこういう事だったか!常識は何処へ行った!?

 

「織斑君は学園の唯一の男の子ですもの、そうなるのも仕方ないわ。どうぞ」

 

丁度お茶が出来たらしく、いつの間にか用意されていたティーカップに、先輩は一つ一つお茶を注いでいく。

その仕草は非常に様になっていて、まるで本物の付き人のようだった。……って、付き人って言われてもあんまり褒め言葉にはならないよな。

 

「あ、ありがとうございます。えっと…?」

「布仏 虚よ。よろしくね、織斑君」

「布仏?布仏って……まさか?」

「そーだよー。この人はー私のお姉ちゃんー」

 

そう言ってのほほんさんは虚先輩の腰に抱き着く。何か随分と昔にこんな人形が流行ってたのをテレビで見たな…。

 

「こら、危ないから抱き着かないの」

「えへへ~」

 

零してしまわない様にティーポットを持ち上げながら腰に纏わりつくのほほんさんを叱る虚先輩。けれど「まったくもう…」と溜息を吐きつつも、抱き着かれた本人の表情は笑顔が浮かんでおり満更でもなさそうで、姉妹の仲が良いのは見ていて分かる。

 

「へぇ、姉妹で生徒会に入ってるのか」

「そうよ。生徒会長はさいきょうでないといけないけど、他のメンバーは定員数になるまで好きなだけ入れて良いの。だったら気ごころの知れた人間の方が良いでしょ?だから、幼馴染の二人を選んだの」

「私のお家は代々ねー。むか~しから更識家のお手伝いさんなんだよー。だから生徒会のお手伝いをするのはあたりまえなんだよ~」

「そんな事言って、本音は生徒会室に来てもお菓子を食べるか寝てばかりでしょう?」

 

どうやらのほほんさんは生徒会でものほほんのままならしい。なんかとっても安心した。

 

「え~?お手伝いしてるよ~。ケーキを運んだり~。ティータイムの茶請けを選んだり~、あと~賞味期限の危ないお菓子の在庫処分したり~♪」

「見事に食べ物関連だなおい…」

 

次から次へと挙げられる例の全てが食べ物に関連ことばかり。ここまでくるとその喰い意地に感心してしまう程だ。

……あっ、お菓子と言えば、昨日のほほんさんがケーキがどうのこうのって騒いでたな。その時、ミコトが二人の事を親しそうに呼んでいたのを覚えてる。もしかして、ミコトはよく此処に遊びに来てるのか?

 

「お菓子で思い出したんですけど、ミコトはよく此処に来るんですか?」

「ええ。最近は忙しいのか数は減ったけど、それでも週に3回は必ず遊びに来るわね。お菓子を食べに」

「なるほど、帰ったらミコトには説教が必要みたいですね」

「あら、意外と厳しいのね?」

 

意外そうな顔をする楯無先輩。

 

「当たり前ですよ。ミコトの奴、部屋に戻ってもお菓子を食べてるみたいですし」

「……本音?」

「あ、あはは~」

 

ギロリと虚先輩がのほほんさんを睨むと、のほほんさんは物凄い汗を流して引き攣った笑みを浮かべて視線を逸らした。

 

「ふむん、それは感心しないわね。ミコトちゃんをお母様から預かっている身としては」

「あれ?ミコトの親御さんをご存じなんですか?」

「んー、直接面識があるわけじゃないけどね。でも、任されちゃったから」

「任された?」

「うん。だから、生徒会長としてIS学園の生徒であるあの子を守る義務があるの」

 

義務、か…。本当にそれだけだろうか?

いや、楯無先輩を疑う訳じゃないんだけど。先輩の話を聞いていて何か俺と先輩とで解釈に違いがある様な気がするんだが…。本当に生徒会長としてだけなのか?

 

「本当にそれだけですか?」

「うん?勿論、私個人としてもあの子を守りたいって思ってるわよ?」

「いや、それだけじゃない様な気がして…」

「うふふ、気になる?」

 

悪戯な笑みを浮かべてずいっと顔を俺に近づけてくる。てか近い近い!顔めっちゃ近い!?

 

「えっ!?えっと…いや、まぁ……はい」

「そっか~♪でも、ひ・み・つ♪良い女には秘密が付き物なのよ?」

 

自分で言っちゃったよこの人。いや、実際美人だけどさ。人差し指を口に当ててウインクする姿にドキッとしちゃったけどさ。

 

「とまあ、話は逸れちゃったけど。キミだってミコトちゃんを守りたいわよね?『守られてばかり』じゃなくて」

「………」

 

笑顔で投げかけられた言葉にピクリと身体が反応する。

 

「私もいつでもあの子の傍に居る訳じゃない。だから、私が居ない時に君がミコトちゃんを守れるように、私がISも生身も特別に鍛えてあげようって話になるワケ。学園祭の件の詫びも兼ねて、ね」

「…さっきも言いましたけど、コーチは間に合ってますんで」

 

事実とはいえ、『守られてばかり』と面と向かって言われてしまい、ムッとなり少し反抗的な態度を取ってしまう俺だったが、そんな態度を取られても楯無先輩はその笑顔を崩さない。

 

「まあまあ、そう言わずに。遠慮しないでいいから」

「いや、遠慮とかじゃなくてですね…。大体、何で俺の指導にこだわるんですか?」

「え?何でって、キミが弱いからだよ」

 

…………うん?

 

一瞬、自分の耳を疑い何を言われたのか分からなかった。

けれど、楯無先輩を見ると。なに当たり前なこと言ってんの?と不思議そうな表情を浮かべていた。つまり先程、俺が耳にした言葉は幻聴じゃなかったと言う訳だ。なんと言う事をさらりと言うんだこの人は…。

 

「……これでも、自分なりに強くなってると思うんですが?」

「ううん、弱いよ。無茶苦茶弱い。そんなんじゃ、いつまで経ってもミコトちゃんに守って貰ってばかりだよ?」

 

「「………」」

 

無言で見つめ合う。片や笑顔、片や怒りの表情を浮かべて。とてもお茶会の雰囲気とは言い難い物だった。

 

「あ、あわわわ~…」

 

緊迫した空気にのほほんさんがうろたえ始めるが、そんな事は知った事じゃない。此処まで言われて、平然としていられるほど俺は出来た人間じゃない。俺はガタンと音をたてて椅子から立ち上がる。

 

「じゃあ勝負しましょう。俺が負けたら楯無先輩の言う事に従いますよ」

「うん、いいよ」

 

にこりと笑って楯無先輩は頷いた…。

 

 

 

 

 

 

 

第45話「新しい願い」

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

「イメージ…イメージ……う~ん…?」

 

夕陽の光に茜色に染まる校舎。私は簪と別れたあと、その茜色に染まる中庭の道を一人で歩き。ボソボソと同じ言葉を何度も何度も繰り返し呟いていた。

私が頭を悩ましているのは、当然簪が言っていた生まれ変わるあの子のイメージ。コンセプトとも言う。それについて悩んでいた。

 

「……どうしよう」

 

イメージと言われても、私もあの子もただ飛びたいだけ。他の子達のみたいに強くなりたい訳じゃない。だから、強化プランなんて本当は考える必要なんてないのに…。

 

「飛びたいだけ、飛びたいだけなのに…」

 

私は空を見上げる。茜色の空は何処まで続いていて、海に沈む夕陽はとても綺麗だった。

 

「んー……むずかしい」

 

一人で考えるのは少し無理かもしれない。誰かに相談するべき。そうするべき。ん。

でも、誰に相談しよう?簪はデータのまとめで忙しそうだったから駄目。一夏?箒?セシリア?鈴?シャルロット?ラウラ?本音?んー、でも皆も最近ISの特訓で忙しそう。

 

「やっぱり、ひとりで頑張る………う?」

 

通りかかった道場からバンッと何かを床に叩きつけた音が聞こえてくる。もう部活動は終わってる時間。ううん、そもそも今日はどの部活も作戦会議が如何とかで部活動なんてしていなかった筈。誰か残って練習しているんだろうか?気になって足を止めると、道場からは聞き慣れた人の声が聞こえてきた―――。

 

『でやあああっ!』

 

…一夏?

 

道場からは確かに一夏の声が。でも、その声からは何処か焦りの様なものが籠っていた。

どうしたのだろう?普段の生活で一夏がこんな声を出すなんて珍しい。私は中の状況を確かめようとドアの取っ手に手を伸ばすし―――取っ手に触れる寸前。この前本音に見せて貰った、格闘ゲームのプレイ時に出る打撃音が中から聞こえてきたと思ったら、その後に何かが落ちる音がして、それ以降中からは何も聞こえなくなってしまう。

 

「……なにごと?」

 

中から聞こえたとても現実じゃ出せそうにない奇怪音に首を傾げる。

…とりあえず中を見てみる、一夏が居るのは確か。私はそう思いドアの取っ手に手を掛けると、ガラリとドアを開けた。そこで私が見たものは……。

 

「あらん?ミコトちゃん、こんな所にご何か用?」

「えー……」

 

畳に沈む袴姿の一夏と、扇子をパタパタと扇いで涼しげな表情を浮かべているたっちゃんの姿だった。…なに、この状況?

 

「…たっちゃん、なにしてるの?」

「うん?ああ、これ?織斑君と勝負してたの」

「勝負…?」

 

畳に倒れ伏す一夏を見る。結果は言わずもがな。

 

「一夏。無謀…」

 

たっちゃん、学園で文字通り最強なのに…。

倒れてる一夏に近づいて、ぺたぺたとほっぺを叩いてみる。…駄目。完全に気を失ってる。

 

「う~ん。少しやり過ぎちゃったかなぁ」

「ん…」

 

少し困り顔のたっちゃんに私は頷く。何で勝負することになったのかは知らないけど、気絶させるのはどうかと思う…。

 

「ごめんごめん。お願いだからそう剥れないで。これにもちゃんとした理由があるのよ?」

「ぶぅ~…」

 

気を失っている一夏を抱き寄せて頭を自分の膝の上に乗せてあげる。固い畳の上で寝かせられるのは一夏が可哀そう。

 

「あらあら、織斑君ってば役得」

「たっちゃん、反省」

「あ、あはは……ごめんなさい、やり過ぎました」

 

ん。よろしい。

 

「でも、此処までするのにも訳があるのよ?『戦闘続行が不可能になるまで』が敗北条件だったから。こうでもしないと、織斑君ってば本当に立てなくなるまで向かってきそうだし」

「一夏は、頑張り屋だから。でも、何でこんなことに、なった、の?」

 

たっちゃんと一夏って、面識が無かった筈だよね…?

 

「うふふ、男の子にも意地があるってこと♪」

「?」

 

わけがわからない…。

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

「………ぅ…ん…?」

「あ、おきた」

 

後頭部に感じる柔らかな感触と鼻を擽る甘い香りに、意識がだんだんとハッキリしていき。瞼を開けるとそこにはミコトの顔のドアップがあった。

 

「…ミコ…ト…?」

「ん。おはよう」

 

おはようって…。ていうか、何でミコトが…いや、その前にこの後頭部に感じる柔らかい感触ってもしかして!?

後頭部の感触の正体に気付いた俺は慌てて起き上がろうとするが、ミコトに「駄目」と叱られて頭を押さえつけられてしまう。

 

「起きちゃ、駄目。寝てる」

「い、いや!ミコト、お前何してんだ!?」

「? ひざまくら?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

可愛らしく首を傾げながら「何でそんなこと訊くの?」と不思議そうな顔をして俺見下ろす。ええい、これだから天然は!?

 

「あら、お目覚めかしら?」

「楯無先輩…」

 

道場に入って来たのは袴姿から制服に着替えた楯無先輩だった。

 

「どう、気分は?」

「……何でこんな状況になったのか説明を要求したい気分です」

「良かったじゃない。美少女の膝枕よ?ミコトちゃんが来なかったらおねーさんがしてました。キミはどっちがお好みかな?」

 

そう言って楯無先輩はニヤニヤと笑みを浮かべながら、これ見よがしにスカートの端をつまみ上げてヒラヒラと揺らしさらけ出された太ももをアピールする。見えそうで見えないのが何とも………って、何を考えてるんだ俺は。

いかんいかん、完全に遊ばれている。こんな場面、箒達に見られたりなんかしたら…。

 

「何時まで待っても来ないから探しに来てみれば………一体これは何だ?」

「oh…」

「?」

 

今日のコーチ担当のラウラが最悪のタイミングで現れた。何でいつもこんなタイミングで出てくるんだお前等は…。

 

「ミコトに膝枕をさせて、女子のスカートのたくし上げの観賞か…良い御身分だな?『織斑一夏』」

 

久々のフルネーム。相当ご立腹のご様子だ。そりゃ、約束をすっぽかされて、親友に膝枕を強要させ(ラウラからはそう見えている)、見ず知らずの女子生徒のスカートをたくし上げているのを眺めている(俺の意思じゃない)ところを見たら怒るのも無理はない。てか、改めて思うと本当に酷いな。

ラウラの背後からはどす黒いオーラと共にゴゴゴゴゴ…と聞こえもしない筈の効果音が聞こえてくる。どうしよう、これは死んだかもしれん。

 

「皆を守れるくらいに強くなりたいと言うから特訓に付き合ってやっているというのに、失望したぞ一夏…」

 

絶対零度の眼で俺を見下し、腕の部分だけISの展開させてAICを発動。それと同時に斬り込んでくる。

しかし、それをミコトが俺とラウラの間に割り込んで阻止する。

 

「ラウラ、駄目」

「ミコト!何故止める!?」

「駄目」

 

そう吠えるラウラにミコトはふるふる首を振って一歩も退こうとしない。そこに楯無先輩が声を掛けたのだが―――。

 

「まあまあ、ラウラちゃんも落ち着いて」

「黙れ痴女っ!」

「痴女!?」

 

まさかの痴女呼ばわりにガビーン!とショックを受ける楯無先輩。

……まあ、そう解釈する人もいるかもな。あの場面で楯無先輩は笑顔でスカートをたくし上げてたし。

 

「よく見れば貴様は一夏が言っていたボロボロの生徒会長ではないか!やはり肌を露出させて性的快感に浸るHENTAIだったのだな!」

「物凄い誤解!?なに?私ってキミ達にそんな目で見られてたの!?」

 

いや、そこまで思ってないよ?変な人だとは思ってるけど…。あの時、なんでボロボロだったのか未だ謎だし…。

 

「たっちゃん、まだ暑いけど、薄着は風邪ひくから、やめたほうがいい」

「ミ、ミコトちゃんまで…」

 

だんだん混沌としてきたな。何時の間にか楯無先輩の露出癖の話題に切り替わってるし。てか、どうやって収拾させるつもりだこれ…。

 

「いやいやおかしいってば!何でこんな状況になってるワケ!?」

「自分で蒔いた種でしょうが…」

 

俺だってある意味、貴女の被害者ですよ。

しかし、予想外のアクシデントが起こるとホントにヘタレるなこの人。さっきまでの余裕は何処に行ったのやら。

 

「と、とにかく!勝負は私の勝ち!私が織斑君の専属コーチをする事に決まりました!拒否権はありません!」

 

ビシッ!と畳んだ扇子を俺に向けて突き出すと、強引に話題を逸らされてしまう。

 

「えぇ~…?」

「キミ、負けたよね?」

 

渋る俺だったが、楯無先輩の笑顔が放つ凄い気迫に圧されてコクコクと頷く。NOなんて言える訳が無い。あの気迫、千冬姉にも勝るとも劣らなかったぞ…。

 

「うむ、よろしい♪」

「ちょっと待て、私を無視して話を進めるな。一夏、専属コーチとはどういう事だ?」

 

話題を逸らされた上に置いてけぼりを喰らっていたラウラが会話に混ざってくる。

 

「私と勝負して私が勝ったら織斑君の特訓を見るって賭けをしてたの。それで、結果は私の勝ち」

「………コーチは我々で間に合っている」

 

自分の知らぬ間にお役目御免となっていた事にラウラは物凄く不満そうな表情を浮かべる。たぶん、セシリア達がこの場に居たら同じ反応を示した事だろう。皆、善意で俺の特訓に付き合ってくれているんだ。そう思うと罪悪感で胸が痛い…。

 

「君達個人の能力は高いよ。でも、それは他人に教えることには長けてない」

「…私の教導が間違っているとでも言いたいのか?」

「間違ってはいないよ?でも、君達の教え方は基礎が出来ていてそれを応用できる人向け。織斑君は基礎が全然できてない素人。小学生に高校生の勉強を教えても分からないでしょ?それと一緒」

「し、素人…」

 

酷い言われだが、言い返したくても先程惨敗したばかりでは何も言えん…。

一人落ち込む俺だったがそんな俺を他所にこの場の空気は更に悪化していく。ぶつかり合う二つの視線。一触即発の雰囲気。いつ喧嘩が始まっても可笑しくない状況だ。しかし、忘れてはいないだろうか?この場にはIS学園が誇る歩く緩和剤がいる事を。

 

「ラウラ、たっちゃん。喧嘩、駄目」

「ミコト…」

 

ミコトの介入により、緊迫していた空気は少しだけだが和らぐ。しかしミコトの攻撃はまだまだ止まらない。

 

「二人とも、一夏のためを思ってる。なのに喧嘩、駄目」

「ぐっ…むぅ…」

 

純真無垢な瞳で見つめられて流石のラウラも何も言えなくなってしまう。

嫌な空気が四散するのを感じて俺はホッと安堵すると、そこへ楯無先輩のぽんっ!と手を叩いて視線を自身に集めてからニコリと笑う。

 

「話は終わったかな?それじゃあ、時間も無いし行こうか」

「へ?何処に…?」

「第三アリーナよ」

 

俺とラウラは顔を見合わせる。

調子の良いと言うかなんと言うか…まるで、動き出したら止まらない暴走列車のようだ。俺とラウラは何を言っても無駄だと悟り諦めて溜息を吐いた…。

 

 

 

 

 

「あれ?一夏?」

「一夏さん?今日は第四アリーナで特訓ではなかったのですか?ラウラさんが探してましたわよ?」

 

第三アリーナに着くとそこには先客のシャルロットとセシリアが居た。休憩中なのだろうかISは展開されてはおらず、ISスーツの姿で此方へと小走りで近寄って来る。

 

「あら、ラウラさんもご一緒でしたの………そちらの方はどなたですの?」

 

笑顔で近寄って来たセシリアだったが、楯無先輩の姿を見るとムッとした表情を浮かべ、何者か訊ねてくる。

 

「例のボロボロの人だ」

「ああ、例の…」

 

先程の仕返しのつもりかラウラはそう説明すると、セシリアは楯無先輩をボロボロの人として脳内に記録してしまい、ちょっと距離をとりながらイタイ人を見るような目で楯無先輩を見る。

 

「ここでもボロボロの呪いが付きまとうのっ!?」

「ノリで行動するからそうなるんですよ」

 

予備の制服が無いんなら虚先輩に借りる手だってあったでしょうに。てか、ロッカールームに現れさえしなければ良かったんだ。

 

「セ、セシリア。生徒会長だよ」

「……そういえば、見たような顔ですわね」

 

楯無先輩を哀れに思いシャルロットがフォローに入って漸く認識を改めるが、それでも不機嫌なのは変わらない。

 

「ねえ、私の扱い酷くない?」

「…………」

 

少し涙目の楯無先輩がこちらを見るが俺は顔を逸らす。俺が全校生徒の前でボロボロ発言したせいなんだろうなぁ…。

 

「それで?その生徒会長さんが何のご用?わたくし達も暇ではないのですけど?」

「そこの生徒会長と勝負をして負けたら専属コーチになるのを認めると賭けをしたそうだ。我々に相談無く」

 

ラウラの説明を聞いた途端、セシリアだけでなくシャルロットまで機嫌が悪くなってしまう。

 

「………へぇ」

「……それで、結果は?」

「生徒会長が此処に居るのが答えだ」

 

「「「………」」」

 

セシリア、シャルロット、ラウラの無言で向けてくる視線が物凄く痛い…。

 

「ひどいよ一夏!僕達に何も言わずそんな約束するだなんて!」

「そうですわ!一夏さんはわたし達の指導に何かご不満でもありますの!?」

「い、いや……その…相談する間も無かったと言うか、勢いに乗せられたと言うか…」

 

二人に詰め寄られてたじたじな俺。そこへ立ち直った楯無先輩が助けに入るのだが…。

 

「まあ、みんな落ち着いて……」

 

「「「うるさいボロボロ!」」」

 

ブチッ…!

あれ?何処からか何かが切れた様な音が聞こえてきたような…。

 

「……オーケー、あなた達今すぐIS展開しなさい。ボッコボコにしてあげるから」

 

粒子の光が楯無先輩を覆う。これはIS展開時に発する光、俺がそう気付いた時にはもう楯無先輩の身体はISを完全に展開を終えていた。

他のISとは異なる独特の外観。アーマーの面積は全体的に狭く、小さい。それはミコトのイカロス・フテロに何処か似ていたが、イカロスとは違いその少ないアーマーをカバーするように、透明の液状のフィールドが形成されていて、まるで水のドレスのようだった。

イカロス・フテロと似た芸術品に近い美しさ。その美しさにぼーっと見惚れていた俺だったが、『あなた達』という言葉にハッとして恐る恐る訊ねてみる。

 

「あの、もしかして……俺も?」

「何言ってるのかな?当たり前じゃない」

 

大型のランスの先端を俺に突き付けて楯無先輩がにっこりと微笑む。けれど、眼は全然笑ってはいなかった。

そこからの事は思い出したくもない。四対一なのにも関わらず俺達は成す術も無く敗れ、身体とプライドもズタボロにされて、俺は『学園最強』の意味を改めて身をもって思い知らされたのだった…。

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

アリーナの上空を舞う五機のIS。私はその五機を何をする訳でもなくただぼーっと眺め、ぽつりと思った事を呟いた。

 

「……きれい…」

 

量産型とは違い色とりどりの色彩がそれぞれの機体を鮮やかに彩り、その五機が夜空をスラスターの光が軌跡を描く。それはまるで空アートの様にとても綺麗で、そして―――。

 

「いいなぁ…」

 

―――とても、羨ましかった…。

私も、あの中に加わりたい。皆と一緒に飛びたい。でも出来ない。なぜなら私の翼は今は無いから…。

 

「いいなぁ…」

 

もう一度呟く。空を飛ぶ一夏達を羨みながら。

けれど、そう思っているのは私だけじゃない。あの子だって同じなのだ。

 

「直さなきゃ…」

 

そう、直さなくちゃいけない。私の半身を、私の翼を。

 

―――ミコトもどんな機体にしたいかイメージを纏めておいてね。

 

「イメージ…」

 

簪の言葉に私は空で戦っている一夏達を見る。どの機体も良い子達ばかり。でも、違う。あの中には無い。どれも『私達』が求めてるものじゃない。私は一夏達から視線を外して小さく溜息を吐く。

 

「………ふぅ」

 

イカロス・フテロの生まれ変わる姿…。私はその姿に何を求めれば良いんだろう?

見上げれば夜空には星が輝いていた。

 

「星…」

 

星空は好き。でも、あの時キャンプで見た星空は今見ている星空よりもっと星が輝いていた。一夏と見たあの星空は今でも鮮明に覚えてる。もし、もしもあそこまで行けたなら、星はどれくらい綺麗なのだろう?きっと、これは一夏達と出会えなければ考えもしなかった。私は、此処に来るまで星空を見たことが無かったから。

 

「見てみたい…」

 

この空の向こう側を…。

 

「あ……」

 

この空のどこまでも、どこまでも飛んでいきたい、ただ飛べるだけで良い、それが私とこの子の願い。でも、気になってしまった。空の向こう側には何があるのだろうと…。行ってみたい。あの向こう側に…。

 

「……そっか」

 

どんな機体にしたいのか。考えてもみればそんなの最初から決まっていた。私とこの子はそれしか無いのだから。強化する必要があると言うのなら、少し欲張りになればいい。自分の夢を。それだけのことだった。

 

「私は…行ってみたい」

 

空の向こうに。宇宙に…。

 

「ん♪」

 

私は夜空を見上げて微笑む。

決まった。この子の生まれ変わるイメージが…。私の新しい翼の形が…。

 

「ぎゃああああっ!?超つえええええええ!?」

 

あっ、一夏が墜ちた…。

 

どうやら、最初の撃墜者は一夏のようだった。

 


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