IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第53話「それぞれの日常 2」

 

 

「一夏。今度の日曜日、一緒に街いく」

 

ある日の夜、ミコトが俺と楯無先輩が居る部屋にやって来たかと思ったら、突然そんな事を言い出した。

 

「またいきなりだな…」

 

ミコトの前振りの無い急な発言は今に始まった事じゃないので、俺は苦笑しつつ中腰にしゃがんで視線の高さをミコトに合わせてやると、とりあえず何で急にそんな事を言い出したのかを訊ねる。

 

「街に行くのは別に構わないけど、一体何しに行くんだ?」

「一夏の誕生日プレゼント、買う」

「あらま、これは予想外」

 

ベッドに腰を掛けてこちらの様子を観察していた楯無先輩が、開かれた扇子で口元を隠して驚く。もちろん俺もだ。まさか面と向かって言われるとは思わなんだ。

 

「……あのな、ミコト。そう言うのは普通プレゼントをあげる人には秘密にしとくもんだ」

「? どうして?一緒にいかないと、欲しいものわからない」

 

心底不思議そうに首を傾げてミコトは言う。

確かに効率とかそういうのを考えれば、ミコトの言うことも間違ってはいないんだろうけど…。そう言うのも含めてプレゼント選びの醍醐味だと俺は思うぞ?貰う本人が偉そうに言うのも何様だって話だから口にはしないけど。

 

「ねえ、ミコトちゃん」

「ん?」

 

なんと言えばいいのか俺が困っていると、楯無先輩は俺の横をすり抜けてミコトの前にしゃがみ、にこりと笑顔で話しかけた。

 

「ミコトちゃんは、買い物をするときにどんな事を考えながら買い物をするのかしら?」

「んー……このお菓子、おいしそう?」

 

安心と安定の食いしん坊なミコトの回答に、俺はズッコこけそうになるのをなんとか耐える。お前の買い物はお菓子オンリーなのか…。

 

「ふふっ、そうね。このお菓子美味しそうだなーっとか、どんな味するんだろーっとか、そう言うのを楽しむのも買い物の楽しみ方の一つ。でもこれってね、プレゼントも同じなのよ?」

「同じ?」

「うん、同じ。だから一夏くんもね、ミコトちゃん達がくれるプレゼントはどんなものなんだろーって、楽しみにしてるの」

「ほんと?一夏?」

「え?ああ、うん?もちろんだ」

 

いきなり話を振られて、その流れに乗せられて思わず肯定してしまう。

本当はこの歳でプレゼントを楽しみにしてるってのはないけど、俺なんかの為にプレゼントを用意しようって考えてくれるのは嬉しいとは思う。

 

「……そうなんだ」

 

そう呟きうんうんと何度も頷き、私は学習したと少し得意げに表情を浮かべるミコト。果たしてどのように認識したのか、とても不安なのだが…。

 

「そ・れ・に、自分が一生懸命考えて選んだプレゼントで、喜んでもらえたら嬉しいじゃない?」

「んー……ん♪」

 

ミコトは暫し考えた後、頭の中で思い描いたビジョンに、えへへ~♪と満面の笑み。どうやら頭の中の俺はプレゼントを貰えてとても喜んでいたようだ。一体何を貰ったのか気になるところである。

 

「だったら、一夏くんには誕生日までプレゼントを内緒にして、素敵なプレゼントを送って驚かせちゃいましょ、ね?」

「ん!一夏が喜ぶプレゼント、用意する!」

「はは、楽しみにしてるよ」

 

張り切るミコトにそうエールを送ると、ぐしぐし頭を撫でてやった。

…さて、となると他の皆も週末は街に出掛けるってことになるんだよな?俺も一緒に行く訳にもいかないし…。一人で何をして休日暇を潰すとしますかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第53話「それぞれの日常 2」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side セシリア・オルコット

 

 

「街に出たのは夏休み以来でしたかしら?季節が変わると街の雰囲気も変わるものですわね」

「ん」

 

週末、ミコトさんの急な提案で一夏さんの誕生日プレゼントを買う為に、街へとやって来たわたくし達。

夏の時と比べ肌寒くなると、どうしても肌の露出は少なくなり、まるで木々の紅葉のように、街に溢れる人々の服装が季節の移り変わりを教えてくれます。あれだけあった夏の活気も今はもう感じられず、今は何処か忙しない雰囲気が街に漂っていました。

 

「それにしても、わたくしの国とは大違いですわ」

「む、そう言えば西洋人は日本人より体温が高いと耳にした事があるな。気候も日本と違って安定しないと聞いたが?」

 

その呟きに箒さんが反応します。

 

「はい。一日のうちに四季がある、と言われる程ですから」

 

その所為でしょうか。日本といった気候が安定した国から訪れた方達は、環境に慣れず体調を崩すことが多いとよく聞きます。わたくし自身、日本に来た当初は日本の環境になれるのは苦労しましたから、きっとその方達はもっと苦労したのでしょうね。

 

「体温が高いというのもあながち嘘ではありませんけど、もちろん個人差はありましてよ?わたくしは冷え性ですし」

「むぅ…(冷え性の人って胸が大きい人が多いらしいわね…)」

 

…何やら鈴さんの視線がきつくなったのは気のせいでしょうか?

 

「地域の差は如何しても出てくるよね。フランスでも四季はあるけど、日本と比べて湿度が低いし……って、何で地理の勉強になってるの?」

「し、知らない…」

 

まあ、原因は間違いなくわたくしですわよね。

こんな所で集まってする話ではありませんし、この話題はここまでといたしましょう。

 

「……しかし、会長は遅いな」

 

今まで話に混ざらなかったラウラさんが、駅前に建てられた時計のオブジェを見て少し苛立った様子で、タンタンと靴先で地面を鳴らしながらそう溢す。時計の針は約束の集合時間の10分程過ぎた所を指していました。今まで喋らなかったのは、じっと時計と睨めっこしていたからでしょうか?本当、変なところで可愛いですわね。

 

「完璧主義っぽいから遅刻するなんて意外ね」

 

鈴さんの言う通り、あの人がこう言った約束を破るのは予想外ではありました。わたくしのイメージでは約束の時間5分前にはちゃんと集合してそうな方だと思っていたのですけど…。

 

「ん~…たぶんキャノンボール・ファストの影響だと思う。急な延期だったから生徒会も色々と忙しいのかも。ほら、IS学園ってそう言うの生徒に一任してる部分ってあるし」

「なるほど、学園祭のあの騒動もそうですわね。普通の学校じゃあまず許されませんわよ…」

 

その滅茶苦茶な行事に参加していた自分を棚に上げて、と言われそうですが、此処に居る殆どがわたくしと同類ですので問題無いでしょう。

 

「ふ~ん。だったら、何で生徒会役員であるコイツが此処に居るのかしらね?」

 

何故かこの場に居る生徒会役員である筈の本音さんに全員の視線が集まります。

 

…そう言われてみれば、何で本音さんはここに居るんでしょうね?

 

「にゃはは~♪私は~かんちゃんの従者だから~♪」

「え、えぇ…!?わ、私の所為にしないで…」

 

簡単に主を売りましたわこの子。末恐ろしいですわ…。

 

ほら、簪さんも急に自分へと振られて驚いてびくりと身体を跳ねらせてるじゃないですか。それにしても、ぷるぷる震えるその様は、まるで怯える子犬の様ですわね。

そんな妙な主従関係を眺めていると、そこに改札口を抜けてこちらへ一直線に駆けてくる足音が。

 

「や!お待たせ!ごめんね~、生徒会の仕事がごたついちゃって」

 

そう申し訳なさそうに手を合わせて謝罪しながら登場したのは、約束の時間とは少し遅れてやって来た会長さん。随分と急いでここまで来た様子ですけど、表情は涼しげでまったく息は乱れた様子がないのは流石と言うべきでしょうか?

 

「遅い!」

 

ダンっ!と地面を蹴って不機嫌なのを隠そうとせず、遅れてきた会長さんを怒鳴り散らすラウラさん。

 

「ほんっとーにごめん!その分、埋め合わせはするから!」

 

そう言って深々と頭を下げる会長さん。

 

「ねえ、ラウラ。その辺で許してあげなよ。楯無先輩だってきっと急な仕事で大変だったんだろうし…」

「そうね。仕事ほっぽり出してこっちに来るよりだいぶ好感がもてるわ」

「むぅ…」

 

それでも、ムスッとした顔をして納得のいかなそうなラウラさん。

 

「もう、ラウラさん。何時までも剥れていないで」

「うるさい…」

 

わたくしがそう言っても、ラウラさんはぷいっと顔を逸らしてしまいます。困りましたわね…。

 

「ラウっちは~、みこち~と遊ぶ時間が減るのが嫌だったんだよね~?」

「ん?」

「なぁっ!?ほ、本音!?」

「あらまあ」

 

本音さんに図星を突かれ可笑しな声を上げ、一瞬で顔を真っ赤に染める微笑ましいラウラさんの姿を見て、わたくしは頬に手を当ててくすくすと笑みを溢します。

 

「わ、笑うなぁ!」

「うふふ、照れなくてもよろしいのに」

「照れてないっ!集まったんならもう行くぞ!時間は有限なんだっ!」

 

ラウラさんはそう言うと、居心地の悪いこの場から逃げるようにして、ずんずんと一人で先に行ってしまいます。

 

「ああっ!待ってよラウラー!」

「アンタもチビなんだから、人混みに紛れたら見失っちゃうでしょうが!」

「まったく、街に出る度これなのか…?」

 

慌ててシャルロットさん達もその後を追いかけて、わたくしとミコトさん、それに更識家の人達を置いて先に行ってしまうのでした。

 

「あららーラウっち達行っちゃったねー」

「ふぅ、ラウラさんも仕方がありませんわね。わたくし達も追いかけましょう」

「お~♪」

「たっちゃん。虚は?」

「虚ちゃんは今日はお留守番するって、プレゼントは何にするか聞いて来てるから大丈夫♪」

「…やっぱり、無理してるじゃないの?」

「そんなことナイナイ!簪ちゃんってば心配性ねぇ」

「……なら、良いんだけど…」

 

不安げにそう訊ねた簪さんに、会長さんは大丈夫だと笑顔で手を振って答えると、簪さんは納得はしていない様子でしたが、それ以上は何も言おうとはしませんでした。

嘘を言っている様には見えませんが、簪さんにはそう見えなかったのでしょう。もともと、何を考えているのかよく分からない人ですし、疑うのは仕方のないこと。それに、姉妹だからこそ分かるものがあるのかもしれません。

 

「ほらほら!ぼさっとしてると置いてかれちゃうよ!いこ!」

「あっ、お、お姉ちゃん!?そんな急に手引っ張らないで……ああっ!?」

 

ラウラさん達に続いて、更識姉妹も行ってしまいます。

 

「……わたくし達も行きましょうか?」

「ん」

「そうだね~」

 

ぎゅっ…。

 

二人は頷くと、わたくしを挟む様に両側に立って、わたくしの手を握ってきます。

 

「え、えっと…?」

 

突然の事で戸惑うわたくし。ミコトさんは分かりますけど、本音さんが手を握って来るだなんて驚きましたわ。

 

「えへへ~♪学園祭の時もおりむーと同じことしたんだよね~♪」

「ね~♪」

 

ミコトさんも楽しそうに本音さんの口調を真似します。

そんなことがあったんですの…。微笑ましくもあり、羨ましくもありますわね。

 

「……それにしても、歩き辛いですわね。これ」

 

本音さんは大丈夫ですが、ミコトさんとは身長差があって如何しても身体が傾いた状態になってしまうので、とても歩くのに適した体勢とは言い難いですわね。

 

「え~?でも楽しいよ~?」

「よ~?」

「……まあ、良いですけど」

 

何だかんだ言って、満更でも無い自分が居るのも事実ですしね……。

小さく溜息を溢したあと口元に笑み浮かべると、わたくしは二人に手を引かれて街道を歩き出すのでした。

 

 

 

 

 

「そうですか。そちらはそちらで買い物をするという事でよろしいんですのね?」

 

わたくしは溜息混じりにそう訊ねると、携帯電話のスピーカーから聞こえてくるシャルロットさんの申し訳無さそうな声が返って来きます。

 

『うん。また合流するのに時間使うの勿体ないしさ。それぞれ店を見て回ってプレゼントを選ぶのはどうかなって』

 

「……仕方が無いですわね。そうしましょう」

 

『じゃあ、4時にまた駅前で集合ってことで!あっ、楯無先輩には僕から伝えておくから』

 

用件を伝え終えシャルロットさんは通話を切ると、スピーカーからはツーツーと言う寂しい音だけが残る。

 

「ハァ…まったく」

 

通話を終えわたくしは大きな溜息つく。

こうなるんじゃないかとは思ってはいましたけど…。結局、毎度の事のように逸れてしまったという訳ですわね。

 

「セシり~ん、どうだった~?」

「各グループで回ることになりましたわ。4時にまた合流しようとのことらしいです」

「そっかー、皆と回りたかったけど仕方ないねー」

 

ラウラさんには少し悪いことをしてしまいましたわね…。

 

「本当にあの人達は……。いつも暴走ばかりで計画性と言う物がありませんわ」

「(……人の事言えないよねー)」

 

…? 何か視線を感じるのですが気のせいでしょうか?

 

「ね。何処、行くの?」

「―――と、そうでしたわ。とりあえず適当にお店を見て回しましょうか。その内プレゼントも見つかるでしょうし」

「ん」

 

そう頷いてミコトさんは、電話中だった為に離していた手をもう一度、もはや定位置となったわたくしの右手へと手を伸ばしてきます。

…本音を言わせてもらえれば歩き辛いので遠慮して頂きたいのですけど、だからと言って繋いで来た手を払い除けるのは良心の呵責に苛まれると言いますか…。

 

「……行きましょうか」

「ん♪」

 

ま、諦めるしかないんですけどね…。

 

なんというか、もう今更って感じもありますし、気を取り直して本来の目的を果たすと致しましょう。

 

「ねぇ~どの店からいくの~?」

「そうですわねぇ…」

 

丁度近くにあったショッピングモールの案内板へ視線をを移す。

まず最初にわたくし達が居る現在位置を確認。その次に一番自分達から近いプレゼントを選ぶのに良さそうなお店を探していきます。この辺りはお洋服を売っているお店が集中しているようですわね。

 

「お洋服は除外したい方がよろしいですよね。服のサイズもそうですけど、好みに合わない服を貰っても一夏さんも困ってしまうでしょうし」

「食べ物、ダメ?」

 

ミコトさんはわたくしの手を引いて、すぐそこにあったお菓子が売ってあるお店を指差します。

 

「ミコトさん?こういうのは、形に残るものが良いのですよ?」

「ん…むずかしい」

「うふふ、お祝い事によってはお菓子の詰め合わせも贈ることはありますけどね。でも今回は誕生日ケーキがありますし、それ以外のものにしましょう?」

「ん」

 

そうして、ミコトさんの手を引いて…。

 

「セシり~ん。私は~?」

「はいはい…」

 

……訂正。ミコトさんと本音さんの手を引いて、お店を見て回るためにまた歩き出します。

 

 

 

 

―――そしてあれから2時間が経過して…。

 

CDショップ、本屋、バッグ、小物、一通りプレゼントが買えそうなお店は回って見たものの、どうもミコトさんはそのお店から気に入ったものが見つからなかったらしく、わたくし達はもう途中でプレゼントは買ってしまったなかで、ミコトさんだけがまだプレゼントを買えないままでいました…。

そして、プレゼントも決まらず、何の成果も得ないまま時間は経過していき…。

 

「ねーねー、もう夕方だよー?」

「んー…」

 

気付けばもう空は茜色に染まり、陽が沈みはじめようとする時間。けれど、ミコトさんはまだプレゼントを決まってはいませんでした。時間的に考えて回れるのはこれが最後でしょう。

 

「そうですわね……では、このお店を最後にしましょうか」

 

決められなければまた今度こそ皆と相談して決めれば良い。そう思いながらわたくしが立ち止まって視線を向けたお店はというと……。

 

「おーアクセサリーショップだねー」

「銀色…キラキラ…」

 

それは、男性向けのアクセサリーの専門店。

男性が好む様なデザインのシルバーのネックレスやブレスレット等が沢山並べられた店内を、ミコトさんは物珍しそうに見まわして、ボソリと率直な感想を洩らします。

 

「ほら、ミコトさん。あまり時間は無いのですから早くプレゼントを決めてしまいなさいな」

「ん。本音」

「あいあいさ~♪」

「店内で走ると他の人達に迷惑になりますから…って、行っちゃいましたわね」

 

わたくしが止める間も無く、ミコトさんと本音さんは店内へと駆けて行ってしまいました。はぁ……二人にも困ったものですわね。

 

さて、わたくしも適当に店内を見て回ることにしましょうか。

 

「それにしても、さすが専門店なだけあって種類が豊富ですわね」

 

こうして見て回ってみると、様々な種類のアクセサリーを取り扱っているのがわかります。ネックレス、ブレスレット、指輪、ピアス、専門店なだけあって見事な品揃えだと感心します。どれもわたくしの趣味とは懸け離れてはいますけど。

 

「……あら?これは…」

 

ふと、立ち止まって、とあるネックレスに目が止まる。

他のアクセサリーとは違って、男性向けのカッコいいというような感じのデザインでは無く、どちらかと言えば女の子向けの花をデザインをしたアクセサリーでしたから一際目立ったのでしょう。それに…これはライラックの花でしょうか?枝に複数の花が集う様に咲いていますからきっとそれで間違いないと思いますが、ネックレスにしては少し大きいというか、ゴツゴツし過ぎはしませんの?

 

「すみません、これはなんですの?」

 

気になって近くで商品を整理していた男性店員に

 

「あっ、それですか?やっぱり目立ちますよね?間違って取り寄せちゃった奴なんですよ。何でも『友情』をモチーフにしたアクセサリーで……ほら、これ花が枝から一つ一つ分離するんですよ」

 

そう言って、店員さんは枝から一つ花をとって見せます。

 

「なるほど…よくあるカップルのあれですか。ハートが二つに別れる感じの」

 

そんなもの一夏さんにプレゼントしたら、箒さん達に睨まれること必至ですわね。流石にそれはフェアじゃありませんのでしませんが…。

でも…でも、いつか一夏さんとそういうアクセサリーを付ける仲に……うふふ♪

 

「そうです。それの友達バージョンですね。でも、友達同士でだなんて今時そんなことする若者なんていませんし……あの、聞いてます?」

「……あっ!?そ、そうなんですの?お、おほほほ!」

 

いけませんわ。軽くトリップしていました…。

 

「その所為でまったく売れなくて、今じゃ店の飾り状態ですよ。困ったもんです」

「まあ、大変ですのね…」

 

お店としても売れない物を何時までも並べておきたくないでしょうし…。けれど、ここは男性向けのお店でしかもアクセサリーの仕様がそれだと、今後も絶対売れる事は無いでしょう。

わたくし自身も買う気は無かったので、店員さんに買う気があると誤解されたくなかったので、早々に話を終わらせるつもりだったのですが…。

 

「友達…」

 

突然、背後からミコトさんがひょこりと現れる。

友達と言う単語に反応したのでしょうか?食い入るようにじっとそのアクセサリーを見つめて、そこから動こうとしません。そして、しばらく考え込む仕草を見せた後―――。

 

「……ん、決めた。これにする」

 

ミコトさんはそう呟き、ネックレスを手に取りました。それを見た店員さんは驚いてミコトさんに訊ねます。

 

「えっ、ご購入なさるんですか?」

「ん」

 

その質問に対しミコトさんは肯定と頷く。

 

「ええっと……じゃあお会計をしますんでこちらへ」

「ん」

 

戸惑いながらも店員さんはお会計を済ませる為にレジへ誘導すると、ミコトさんもその店員さんの後ろを素直についていきます。 

 

「これは誰かへのプレゼントですか?」

「ん」

「あ、はい。ではラッピング致しますね。ネックレスが一点で40000円になります」

 

一夏さんが聞いたら卒倒しそうな値段ですが、ミコトさんは平然とお財布から一万円札を4枚取り出して店員さんに渡す。

 

「ん」

「丁度頂きます。これがお買い上げのお品です。毎度ありがとうございました」

 

プレゼント入った袋を受け取ると、ミコトさんはそれを大事そうに胸に抱えて、ニコニコ笑顔でこちらに戻って来ました。

 

「ただいま」

「はい、おかえりなさい。プレゼントはそれでいいんですの?」

「ん」

 

わたくしと問い掛けにミコトさんは自信有り気に頷きます。

男性の方向けのプレゼントとは言い難いのですけど、ミコトさんが悩んだ末にこれが良いと決めたのなら、きっとそれで良いのでしょう。わたくしからは何も言う事はありません。

 

「そうですか……ところで、本音さんは何処に行きましたの?」

「ん?」

 

どうやらミコトさんも存じない様です。一体、本音さんは何処に……。

 

「いつもニコニコ~貴女の隣で~だらけるのほほん~布仏本音~だよ~♪」

「………」

 

タイミングを見計らったかのように現れた本音さんの登場文句に軽く頭痛を覚えつつ、無言でぺしっ!と本音さんのおでこを叩く。

 

「あにゃ~!?いたいぃ~…」

「少しはそのだらしない生活態度を改めようとする努力をしなさいな」

「いや~でも~これは私の個性だから~」

 

悪びれもせず笑って堂々と言える辺り流石と言うかなんと言うか…。

 

「はぁ……馬鹿言ってないで行きますわよ?もう約束の時間まで余裕はないんですから」

「りょうか~い!……あっ、あそこのクレープおいしそ~う!ちょっと買ってくrふぁあああ~~っ!?」

「お、おー……」

「うふふ♪わたくしがたった今言った事を聞いていまして?」

 

まったく笑っていない笑顔で本音さんの両頬を引っぱる。涙目で悲鳴をあげながら私の手から逃れようとジタバタを暴れますが、そんなことで解放なんてしません。

 

「いひゃいよぉ~!だって~だってぇ~!おなか空いたんだも~ん!?」

「ですから!時間が無いって言ってるでしょう!それに、こんな時間にそんなもの食べたら夕食が食べられなくなってしまいますわよ?」

「晩御飯の量減らせばにゃ゛にゃ゛にゃ゛にゃ゛っ!?」

「偏食はもっといけません!」

 

頬から頭へ手を移動してグリグリと拳に力を込める。

 

「あだだだだだ~っ!や~め~てぇ~…」

 

すれ違う人々の視線を集めながら、本音さんは痛みから解放してくれるよう哀願してきます。

すると、そこにミコトさんがやって来て、わたくしのお洋服の端を掴んで、もの欲しそうにじ~っとわたくしを見上げて来たのです。

 

「……セシリア。私も、食べたい」

「ミコトさんもですの?駄目ですよ、ミコトさんは唯でさえ小食なんですから」

「一つを、3人で食べれば、問題ない。ん」

 

ぐっ!と親指を立てて、むふーと自信満々な表情で告げるミコトさん。

 

「はぁ…仕方がありませんわね。それなら夕食が食べられなくなる心配は無いでしょうし…」

「扱いの違いにー全わたしが泣いたー…」

 

「ミコトさんはまだ理屈が通っているから良いんです」

「むぅ~…不満ありありだけどぉ~…ま、いっかー♪それじゃあー買ってくるねー♪」

 

わたくしの拘束から解放された本音さんは、ほんの数秒前まで不満そうだった表情から笑顔にコロリと表情を変えて、鼻歌を歌いながらのったのったと、ゆったりとしたスキップでクレープ屋さんへと向かって行きました。

 

なんと言うか……ラピッド・スイッチも驚きの凄まじい切り替え速度ですわ…。

 

そんな風にわたくし呆れていると、もう本音さんはクレープ屋の店員さんに注文し終わっていて、クレープが出来るのを待っている本音さんがわたくしの視線に気付いて長い袖をブンブンと揺らして此方に手を振り、それを見たミコトさんも手を振り返します。そのミコトさんの横顔はとても無邪気で楽しそうでした。

 

「むふぅ~♪」

「ふふ、嬉しそうにして、クレープがそんなに食べたかったんですの?」

「んーんー、ちがう」

 

ですが、ふるふると首を振ってミコトさんはそれを否定。

 

「あら?違うんですの?」

 

ミコトさんの反応に少し意外で驚いてしまう。

本音さんと同じでミコトさんにデザートが大好きですから、てっきりクレープが食べられるのを喜んでいるのだと思っていたのですけど…。

 

「では、何故?」

「ん。最近、セシリアもラウラも、特訓ばかりだから。一緒にいられるのが、嬉しい。ラウラ、いないけど……でも、嬉しい」

「あ……」

 

ミコトさんの言葉を聞いて、自分の愚かしさに漸く気付く。

わたくしもラウラさんも最近は訓練ばかりに時間を割いて、ミコトさん達との時間が以前と比べて減ってしまったのは、間違いなくわたくし達が原因。自身を磨くために時間を費やす、それは候補だとしても国を代表する者として当然のこと。それをわたくしも間違いだとは思ってはいません。ですが……。

 

「……ミコトさん。聞いていただけますか?」

「? ん」

 

これだけは言いたい。これは義務とかそういうものためだけじゃないと言う事を……。

 

「ミコトさんは学園祭でサイレント・ゼフィルスと戦いましたわよね?」

「う?サイレント・ゼフィルス?」

「わたくしのブルー・ティアーズに似た武装を持った蒼い機体です」

「……おー」

 

ミコトさんは暫く黙った後、ぽんっと手を叩く。どうやら思い出してくれたようですわね。

 

「どう、思いました?」

「?」

 

何のこと?と、不思議そうな顔で私を見上げます。

 

「あの襲撃者と戦って思ったこと……何かありませんか?」

「んんー……グネグネ?」

 

グ、グネグネ……恐らくビームの軌道操作のことでしょうけど、他に言い方があるでしょうに…。

 

「そ、そうですね。そのグネグネなのですが、実はわたくしのブルー・ティアーズも同じ事が出来ますの………操縦者の実力がなければ不可能ですけど」

「セシリアは?」

「………出来ません」

 

嫌味とかそういう物を含まない純粋なミコトさんの疑問に、わたくしは自分の未熟を恥じながら事実を答えました…。

 

「機体を強奪されたうえ、技量も賊に劣るなど祖国の…いえ、オルコット家の恥。その恥辱に甘んじることがわたくしには耐え難かった……」

「………」

 

ミコトさんは私の話を何も言わずじっと私を見つめて耳を傾けてくれます。

 

「ですから、強くなりたかった。例えそれが、ミコトさん達の時間を削ってでも…」

「……ん」

 

ミコトさんは頷きます。でもその声はやはり悲しそうで……でも、ミコトさんにはそれがわたくしの譲れないことだとわかっているから、だからわたくしに迷惑をかけたくないからと我儘して…。

 

「ミコトさん…それだけじゃないんです」

「?」

 

貴女を悲しませている私が言う事じゃない。それは分かってはいます。でも、これだけは言っておきたい。それが押し付けの自己満足でも、この気持ちだけは伝えたい…。

 

「守りたいんです。貴女を…いいえ、ミコトさんを含めた友達を…」

 

専用機持ちの中で機体の相性の問題もありますが、わたくしの勝率は最も低いのが現実。これでは守る以前に、もしもの事態が発生した時に皆さんの足を引っ張ってしまうでしょう。

ですが、機体の欠点を埋めようと実弾兵装を要請をしても、本国は承諾してはくれませんでした。なら、今使える武器を極めるしかない。そう、あの襲撃者が駆るサイレント・ゼフィルスの様に…。

 

「ビームの軌道操作。それは相手からしてみればとてつもない脅威です。一直線でのビームもその弾速ゆえに回避が難しいというのに、それに追尾が加わればほぼ回避不可能な攻撃となるでしょう」

「おー……?」

 

…尤も、目の前でわたくしの話の内容をあまり分かっていないこの少女は、その不可能をたった一発の被弾で見切って簡単に避けてみせたのですが。

 

「セシリアも、あのグネグネ、したいの?」

「したいのではなく、出来るようにならねばならないのです。それで漸く、わたくしはスタートラインに立てるのですから…」

「守る、ため?」

「……はい。恩着せがましいのは重々承知していますわ。ですが…」

「いい、よ」

 

弁明の言を述べようとすると、それはミコトさんによって遮られた。

 

「…え?」

「セシリア、がんばってる。私達のために、がんばってる。すごくうれしい。だから、いい」

 

右手に感じる温もり。いつの間にか私の手は小さな手に握り締められていました。その手の主は私を見上げて無垢な笑顔でそう語りかけて来ます。手に伝わる温もりと同じ暖かな言葉。まるで、その言葉の一つ一つにミコトさんの気持ちが籠っているかのようでした。

 

「わ、我儘も同然なのですよ?押し付けの善意なんですよ?」

「だったら、私がしてること、私が言ってること、全部わがまま、だから……」

 

ミコトさんの笑顔が微かに曇る。けれど、ミコトさんは笑顔のまま言葉を続けます。

 

「だから、セシリアは、それでいい。悪くない。わたしのせいで、セシリアのしたい事が出来ないのは、やっ」

「ミコトさん……」

「自分のために、がんばる」

「……ありがとうございます」

 

わたくしの意を汲んでくれて、本当に……。

 

きっと、ラウラさんもこの言葉を聞いたら、きっとわたくしと同じ想いを抱くことでしょう。

どんなに正当な理由や言葉を並べても、結局はわたくしもラウラさんも、先の騒動で自分の未熟さに焦った末での暴走。他人の気持ちを考慮していなければ、それは自己満足でしか無い。それを分かっていながら、わたくし達は正そうとはしなかった。なのに彼女は…。

 

「むぅ…ありがとされる理由、ない」

「ふふっ」

 

感謝を述べたわたくしにミコトさんは少し不満そうでしたが、わたくしはそんなミコトさんを見て微笑ましく思いながら、膨れるミコトさんの頭をそっと撫でるのでした。

 

「ミコトさん……わたくし、頑張りますから」

「ん。がんばって、セシリア」

 

嗚呼…本当にわたくしときたら……。ミコトさんを守ると言っておきながら、そのミコトさんに背中を押されるだなんて…。ならば、このセシリア・オルコット。全身全霊をもって必ずその笑顔に応えてみせましょう。

 

「はい♪……しかし遅いですわね、本音さん」

「ん。本音、お菓子にこだわるから」

 

ああ、作り置きでは無く出来たてをオーダーしたと…。まったく、時間が無いとあれ程言いましたのに困った方ですわ。仕方がありません。電話でシャルロットさんに連絡を入れておきましょう。

そう思い携帯を取り出そうとしたところ、後方から聞こえてきた若い男性の声によりそれは妨害されてしまいます。

 

「ねえねえ、そこのカーノジョっ♪」

 

声を掛けられ振り向くと、そこには見るからに『遊び人』といった風体の男性が二人。その男性二人はわたくしの大っ嫌いなタイプをそのまま体現していて、わたくしは顔を顰めます。

 

「……何か?」

 

見るからに嫌そうなのを隠そうともせず、わたくしは素っ気無い態度で彼等に応じますが、彼等はそれを気にしていないのか、それとも気付いていないのか、馴れ馴れしく話しかけて来ます。

 

「今日ヒマ?今ヒマ?どっか遊びに行こうよ~」

 

はぁ……せっかくいい気分で買い物をしていましたのに台無しですわ。

 

俗に言うナンパと言う奴でしょう。『見た目』だけが良いとこれだから…。

 

「……友達と一緒に来ていますので」

「へぇ!友達と来てるんだ。ならそのお友達と一緒にさ………あん?」

「ん?」

 

 

男性の一人が漸く私の側に立っていたミコトさんに気付く。

 

「(妹か何かか?うざってぇなぁ…)……あーごめん。おねーさんな、おにーさん達と用事があるんだわ。だから向こう行ってろ、な?」

「あうっ」

 

ドンッ…。

 

男性にとっては軽く押したつもりなのでしょう。ですが、小さい身体のミコトさんを突き飛ばすには十分で、ミコトさんは当たった男性の手にバランスを崩し、尻餅をついてしまいます。

 

「ミコトさんっ!?……っ!貴方たちっ!」

「あー、ごめんね?悪気があったわけじゃないんだー」

 

突き飛ばされたミコトさんに慌てて駈け寄り、怪我が無いか確認してからキッ!とミコトさんを突き飛ばした男を睨む。けれど、その男達はヘラヘラと癪に障る笑みを浮かべて悪びれる様子もない。

 

っ!この……!

 

もう我慢ならない。誠意をもって詫びるのなら、ミコトさんの前ですし平手打ち程度で済ませてあげようと思いましたが、骨の二三本は―――。

 

―――と、次の瞬間…。

 

「ミコトおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「へ?……ぶふぉあ!?」

 

何処からともなく現れた何かがミコトさんを突き飛ばした男をドロップキックで蹴り飛ばし、男は綺麗な放物線を描いて空高く吹き飛んだ。

 

「なあっ!?お、おい!?どうs「みこちーになにすんだああああああああ!」がりっ!?」

 

突然吹き飛んだ相方に男は驚いた声を上げますが、すぐにそれはまた新たに現れた影によって悲鳴へと変わります。二つ目の影が驚いて立ち尽くすもう片方の男の顔面を蹴り飛ばし、二人は揃って宙を舞う。

 

………はい?

 

わたくしも男と同様に突然の出来事について行けず、きょとんとしながらソレ目で追った。

突然現れた二つの影。その一つは先程までそこのクレープ屋の前に居た筈の本音さん。そしてもう一つは、ミコトさんの危機に駆け付けたとでも言うのでしょうか?別行動していてこの場には居ない筈のラウラさんでした。

 

「お前等を真っ赤なサンタクロースにしてやろうっ!」

「ミッコミコにしてやんよおおおおおおおっ!」

「ちょっまっぎゃああああああっ!?」

「あばばばばばばばっ!」

 

蹴り飛ばされて倒れた男達にゲシゲシと一片の容赦のない蹴りが降り注ぎ、夕焼けの空に男二人の悲鳴が木霊するのでした。

追伸。あれから少しして、通報を聞いて駆けつけて来た警察の方がボロボロになった男性二人を発見。その場に居た通行人に事情を聞いて、女性側の正当防衛と判断。騒ぎの原因となった男性二人を回収して、騒動はそれで終了となりました。……え?お咎め?悪いのはあちらでしょう?それに、警察が来る前にわたくし達は早々にお暇しましたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は昼過ぎにまで戻り、場面は更識姉妹へ切り替わる。

 

――――Side 更識楯無

 

 

ミコトちゃん達と『わざと』逸れた私と簪ちゃんは、日曜の人混みで溢れるショツピングモールの道を歩いていた。

 

「そういえば、簪ちゃんと一緒に出掛けるなんて何時ぶりかしらね?」

「ずっと……前、かな…?」

「そうね。私が更識家当主として本格的に訓練が始まってから、姉妹らしい時間なんて全然なくなっちゃったから」

 

街道を姉妹で並んで歩く。一般家庭では当たり前な光景かもしれないけれど、ウチではそうじゃない。更識は社会の暗部に深く関わる家系。そんな家がごく一般の家庭と同じ生活が遅れる訳が無い。

私は次期当主、『楯無』の名を継ぐために、幼い頃から厳しい教育を受けてきた。その所為で姉妹としての交流も少なく、『楯無』を継いでからはその少ない時間も消えて、私達姉妹が顔を合わせる事は殆どなくなってしまった。その結果、気まずい姉妹関係が出来上がってしまったと言う訳だ。

 

「……仕方ないよ。お姉ちゃんは更識家の当主だもん」

「分かってるよ、そんなこと。私が更識家の長女として生まれた時から、ね」

 

小さい時から、ずっと、ずっとそう教えられてきたんだから。それについて何の不満も後悔もない。でも、最近ではそう思えない自分がいる……。

 

「……でも、こういう家族らしい時間が無くなるのは嫌かな?」

「えっ?」

 

私が言葉がそんなに意外だったのかな?簪ちゃんは驚いた表情で私を見た。

 

「お姉ちゃん…何かあったの?」

「う~ん、心境の変化って奴かな?責任を言い訳にするのは止めにしないとなって……あっ、もちろん自分の責務を疎かにするつもりは無いけどね」

 

責任から逃れるのはそれこそ私の背を追ってきた妹を裏切ることになるから。だから、私は『楯無』であり続けなければならない。更識家当主として、そして簪ちゃんの姉として。

 

「……ミコトちゃんのおかげだね。あの子が居なければ、こうして簪ちゃんと一緒に並んで街を歩く事なんて出来なかったと思う」

「その話をするためにわざと逸れる様な真似をしたの…?」

「バレてた?」

「ばれるよ…」

 

ぺろっと舌を出して可愛らしくウインクすると、簪ちゃんは呆れた様子で溜息を溢す。

 

「あとで皆に謝らないと…」

「大丈夫大丈夫♪最初に逸れたのはラウラちゃん達だし♪」

「ハァ…(自分から進んで逸れたことが問題なのをどうして分からないんだろう…)」

「もー、さっきから溜息ばかりだなぁ。幸せが逃げちゃうぞ?」

「誰の所為だと思ってるの…?」

 

誰だろうねー?お姉ちゃんわかんなーい。

 

「そ・れ・よ・り・さ♪お姉ちゃんに何か言う事あるんじゃないのかな~?」

「えっ…何かって……何を?」

「あん、つめたい。『打鉄弐式』、もうすぐ完成なんでしょ?」

「!? ど、どうして……?」

 

おー驚いてる驚いてる。

 

「IS学園で私に届かない情報は無いよ?ま、機体の詳細までは知らされて無いけど」

「そ、そう……」

 

ほっと安心した様子を見せる簪ちゃん。もう、それじゃあ隠し事をしているのがバレバレだよ?

 

「で、あるんでしょ?私に伝える事が」

「う、うん…」

 

本当は簪ちゃんから言ってくるのを待つべき何だろうけど、簪ちゃんは臆病だからきっと言い出せない。だからここはお姉ちゃんとして背中を押してあげよう。たぶん、これが簪ちゃんに私が出来る最後の事だから。これが済めばきっと簪ちゃんは、『私』に惑わされて道に迷うことなく一人で歩き出せると思うから。

スゥ…ハァ…と深く深呼吸をして簪ちゃんは少し間を置いて、覚悟を決めると真剣な表情で私と向き合った。

 

「……姉さん。日本代表候補生、更識簪。ISでの決闘を申し込みます」

「IS学園生徒会長として、更識家当主として、その決闘お受けします」

 

茜色に染まる街道。私達を避けて流れる人混み。それはまるで、向き合う私達がいる場所だけ世界から切り離されているかのようだった…。

 

 

 

 

 

 

 


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