IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~    作:金髪のグゥレイトゥ!

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第59話「きみがいない」

 

 

「…成程、状況は大体把握した。よりにもよってこんな日に、こんな下衆なやり方で仕掛けてくるとはな」

 

楯無先輩から連絡を受けてすぐさま駆けつけて来た千冬姉は事態の説明を要求すると、その内容にどんな状況でも俺達に前では教師として冷静に振る舞っていた千冬姉がその体面を抜きに怒りを露わにさせる。

 

「申し訳ありません教官。私の責任です…」

「………」

 

目元を涙で腫らしたままの状態でラウラは深く頭を下げた。

決してラウラが悪い訳じゃない。責められるべきは俺で、ラウラじゃない。千冬姉もそれは理解している。しかし今のラウラにそんな言葉を投げかけたところで、逆にラウラを気を負わせてしまうだろうと千冬姉は何も言わなかった。

 

「オリヴィアは今どうしている?」

「今は客間で休ませてる。箒達が看てくれてるよ」

「そうか」

 

俺の言葉に簡潔に応えると客間へと歩き出し、俺とラウラもその後に続いた。

 

「入るぞ」

「あ…千冬さ……織斑先生」

 

千冬姉が客間に入るとミコトを看ていた全員の視線が入り口へと集まる。この場の誰もがその表情を悲しみに染めて、あれだけ楽しそうにしていた皆の笑顔は今はもう無い。

そんな皆の目にした後、その後ろで布団に横たわり虚ろな目で天井を見つめるミコトを見て、千冬姉は一瞬悲しそうに表情を歪めたがすぐに教師としてと仮面を被り直す。

 

「……更識楯無は如何した?」

「織斑先生に連絡を入れた後に、わたくし達にこの場を任せて虚先輩を連れて学園に戻りました」

 

専用機持ちの代表候補生がこれだけ集まる場所。安全面ではこれ以上の場所は無い。だから楯無先輩はこの場を俺達に任せて自分の務めを果たしに学園へ戻ったのだろう。

 

「そうか。妥当な判断だな。身体的な外傷は無かったとはいえ、また何時オリヴィアに接触して来るかわからん状況で学園外に居るのは危険だ。車を手配するので直ぐ学園に戻るぞ」

「……はい」

 

皆が力無く頷く。皆それぞれ言いたい事は色々あるだろうけど、ミコトの事でショックが大き過ぎてその余裕が無いのだろう。それに、ミコトの目の前でミコトの母親の話をするのはあまりにも愚行の極みだ。

 

「織斑、ちょっと来い」

「え?あ、ああ…」

 

千冬姉に顎でしゃくられ廊下に連れ出される。

ドアを閉め皆から見えなくなるのと同時に、千冬姉は俺の両肩に手を置き真剣な表情で俺に話しかけてきた。

 

「一夏、お前も自分を責めるな。誰も悪くないんだ」

「っ……」

 

やっぱり気付かれていた。そりゃそうだ。俺が千冬姉に隠し事が出来る訳が無いし、そもそもこの状況で自分を偽れるほど俺は器用じゃない。

 

「でも、俺がミコトをあの場に一人にさせなければこんなことにはならなかったのに…」

 

千冬姉の慰めの言葉を俺は受け止めることが、認めることが出来なかった。

俺は一体何を腑抜ていた?今まで危険な目にたくさん遭ったっていうのに何で今日は大丈夫だなんて思った?市街地だから安全?んなワケが無い。俺は過去に誘拐を経験しているんだぞ!?

 

「くそっ…!」

 

壁を殴りたい衝動に駆られたが、すぐそこの部屋で休んでいるミコトの事を思い出し握り締めた拳を解く。

 

「悔やんだところで結果は変わらん。それよりもこれからの事を考えろ」

「………」

 

千冬姉の言葉が重く圧し掛かる。これからの事を考えるというのは勿論ミコトの事だ。

母と言う拠り所を失い心が折れてしまったミコト。それを立ち直らせる…。そんな事俺なんかが出来るのか?俺はミコトが母親の事をどれだけ大好きだったのか知っている。知っているからこそそれがどれだけ難しいのを俺は理解していた。

 

どうすればいい?どうすれば…。

 

どんな言葉を掛ければ良いのか分からない。両親の顔すら覚えていない俺にとって、母親を失ったミコトの苦しみを測り知る事なんて到底出来ない。そんな俺がミコトを救えるのか?そんな苦悩で頭を抱えながら俺は皆が居る部屋へ戻るのだった…。

 

 

 

 

 

「……そうだ。結果は変わらない。どんなに悔やんだところで、結果は変えられない…」

 

一人だけになった廊下に未練に満ちた千冬の呟きは誰に聞かれる事も無く消えた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第59話「きみがいない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

あの誕生日から一夜が明け、いつも通りに学校が始まる。しかし、学園内の雰囲気は普段とは異なった。

 

「ねぇ、ミコトさんが倒れたってホント?」

「らしいよ。朝食もいつもは織斑君達と一緒に食べてるのに今日は居なかったらしいし…」

「大丈夫かなぁ?ミコトちゃん身体弱いみたいだから心配だよぉ…」

「………」

 

廊下を擦れ違う女子生徒の会話の内容は全てミコトに関するものばかり。学園と言う封鎖された環境に女性の噂好きな習性が加われば、ミコトの体調不良の噂は学園全体に広まるのにそう時間は掛からなかった。

 

「……それだけじゃないよな」

 

教室だけじゃない。学園全体の雰囲気が重く暗い。生徒も、教師も、従業員も、すれ違う人達全員の表情は暗く影を落としていた。それはそれだけミコトが皆に好かれていたという証明であり、噂があっという間に広まったのもその人望があってこそなのだろう。けれど、その所為で今朝からずっと事情を知らない生徒からのミコトの体調ついて質問攻めで俺は精神的にまいっていた。

教師から厳しく見舞いも禁じられているのもあって、生徒の皆が必要以上に心配するのは無理も無い。友達として当然の反応だ。だから皆の気持ちも良く分かる。分かるんだけど…。

 

俺だって訳がわからねぇよ…。

 

「はぁ………」

 

疲れた溜息を吐く。心身ともにくたくたで胃もキリキリする。体調は最悪のコンディションと言えよう。とても弱音を吐ける立場じゃないが…。

 

きっと皆も同じなんだろうな…。

 

ガラリと音を立てて教室のドアを開く。そして俺の目に入ったのは、自分達の席でまるで飴玉に群がる蟻の如く集まるクラスメイトに囲まれたいつもの面々で、俺はやっぱりかと頭を抱える。

事情を知る箒達も俺と同じで朝から質問攻めに遭っており表情は疲労の色が濃い。楯無先輩や虚先輩はいつも通りに振舞っている。部屋に戻った様子も無かったのを考えて、きっと昨日の夜から寝ずにあちこちを駆け回っていたに違いないのに、それを表情には一切出してはいない。本当に凄い人だ。

 

「……あっ!織斑くんが来たよ!」

「ねえねえ織斑君!ミコトちゃんのことなんだけど…」

 

教室に来た早々クラスメイト達に取り囲まれてしまう。またか…。俺は胸の内で疲れた溜息を吐いた。

 

「ただの疲労で体調が崩れて寝込んでるだけだって。そんなに心配する事じゃないよ」

「でもでも!お見舞いも行くのもダメって変じゃない?」

「だよね。そう言えば臨海学校の時もそうだったようね…。もしかして、重い病気とかじゃないよね?心配だなぁ…」

「ミコトは身体が弱いからさ。なるべく身体に負担を掛けない様にってことなんだと思う。ほら、ミコトって人気者だから大勢に押し掛けられたらさ…な?」

 

嘘だ。本当は今のミコトを何も知らない人達に見せる訳にはいかなかったからだ。ミコトが休んだだけでこの状況だ。もし今のミコトの様子を知られたらどうなる?学園全体は更に混乱する事だろう。だから真実も言えないしミコトに会わせる訳にはいかない。……だけど、心からミコトを心配している人に嘘を吐くのは、やはり罪悪感で心が痛んだ。

その後も質問攻めは続いたが、HRの時間になり千冬姉が教室に入ってくると、蜘蛛の子を散らす様にクラスメイト達はそれぞれ自分の席に戻りお開きとなり、ミコトが抜けたクラスはいつも通りに授業が始まるのだった。

 

 

 

 

 

「………はぁ、どいつもこいつも授業に身が入らないようだな」

 

何処か上の空で授業にまったく集中できていない生徒達に対し千冬姉は溜息を吐くと、まだ授業が始まって数分程しか経過していないと言うのに突然授業を止め教科書を閉じてしまう。

 

「まったく…。どうしてかは理由は分かりきっているので問わないが…」

 

バンッ!

 

持ち上げられた教科書が教卓へ乱暴に叩き付けられ、生徒達はその音に驚きビクッと身体を強張らせた。

 

「今は授業中だ。授業に集中しろ」

 

千冬姉の冷淡な言葉が容赦無く俺達に向けられる。

いつもならこれで生徒は静まり返って話は終わり…の筈なのだが、今回に限ってはそうはならなかった。一人の生徒が千冬姉の威圧に耐え勇気を振り絞り声を大きく張り上げたのだ。

 

「……っ、せ、先生!ミコトちゃ…オリヴィアさんはどうしちゃったんですか!?大丈夫なんですか!?」

「そ、そうですよ!なんでお見舞いも行っちゃ駄目なんですか!?これって何かおかしいですよ!」

「本当に体調崩しただけなんですか!?何か別の理由があるんじゃないですか!?」

 

一人言い出せばもう止まらない。喋れないでいた生徒も後に続けと次々に疑問の声が上がって、教室は忽ちに騒然となる。しかし―――。

 

バンッ!!

 

もう一度、今度は先程よりも大きな音が教室に響いて、教室は一瞬で静まり返った。

 

「面会は禁ずる。話はこれで終わりだ。授業を再開する」

「……っ」

 

それはあまりにも一方的で、有無言わさぬ物言いで話は強制的に終わらされると、このクラスの誰もが納得していない様子のまま授業は再開された。

さっきまでの時とは違い一見生徒達は授業に集中している様に見えるが、その表情はどの生徒も不満の色が濃く『ただ授業を受けている』という形だけの姿勢で、とても真面目に授業を受けているとは言い難かった。あんな横暴なやり方ではこうなるのは分かりきっていたことなのに…。

不満は蓄積されていく。この状況が長く続けばいずれ爆発するのはそう遠くないかもしれない。

 

入学した時も居心地が悪かったけど…これはそれ以上にキツイな……。

 

あの時は違う居心地の悪さ。入学当初は好奇の目に晒されていた為に居心地が悪かったが今回は違う。教室に漂うに重苦しい空気。それはあの時には無いもので、その息苦しさにキリキリと胃が痛んだ。

 

これが今日一日ずっと続くのかよ……。

 

今日一日。本当に今日だけなのだろうか?もしかしたらミコトが元に戻らない限り、ずっとこの環境が続くのかもしれないんじゃないのか?そんな不安を抱きながら授業は過ぎていく…。

 

 

 

 

 

午前の授業が終わり昼休憩の時間になる。

いつものなら昼食を摂りながら雑談を楽しむ生徒達で賑わう食堂も今日は静かで、沈んだ空気が食堂全体を漂っていた。そんな食堂でミコトや時間があれば寮に戻ってミコトに会いに行ってるのほほんさんを除いた、いつものメンバーで昼食を摂っているのだが…。

 

『………』

 

誰も喋ろうともせず、無言の食事のなかカチャカチャと食器の音だけが響いていた。

 

…不味い。

 

俺は堪らず顔を顰める。好物の鯖の味噌煮を食べてる筈なのに、舌の味覚が伝えてくる口の中の物のはまるで別のものを食べているかのように不味く感じた。

食事と言うものはその時の気分で味も大きく変わるものだ。この食堂に漂う雰囲気。そして自分達が置かれている状況から考えればどんな料理も不味く感じるのは当然と言えるだろう。そして、それは俺だけじゃない。同じテーブルで食事を摂っている皆も表情は暗く食事の手も止まっている。いつもなら、ミコトやのほほんさんが行儀悪く食べている所をセシリアが叱ったりして、それを他の皆が微笑ましく眺めながら食べてる筈のこの時間は、ミコトはこの場に居ないというたったそれだけで、こんなにも苦痛な時間へと変貌してしまった…。

 

「……あたし、つぎ移動教室だから先に戻るね」

 

鈴はそう言うと手に持っていた箸を置きまだ残っているラーメンの器を持って席を立つ。

 

「え?お、おい。全然食べてないじゃないか」

「……ごめん。今は食欲無いの」

「あっ……」

 

慌てて呼び止めるも、顔色の悪い顔を半分だけ此方に向けて沈んだ声で謝ると鈴は行ってしまう。それは明らかな拒絶だった。鈴が去り気まずい空気だけがこの場に残る。

しばらくの間途方に暮れる。こんなこと皆と一緒に過ごす様になってから一度も無かったから。何か…何かが壊れていくような気がして…。

 

―――悔やんだところで結果は変わらん。それよりもこれからの事を考えろ。

 

「………」

 

昨晩千冬姉に言われた言葉の解を俺は未だ出せてはいない。俺はこれから何をすべきなのか、どうすればいいのか。ミコトを立ち直らせる。それは分かりきった事だ。だけどその方法が分からない。どんな言葉を投げかけたところで、その言葉は『形』も『中身』も無い。俺にはそう風にしか思えなかった。なら、このまま時間がミコトの心をの傷を癒してくれるのを待つしかないのか?このまま何もせずに…?

 

「一夏。あまりゆっくり食べていると次の授業に遅れてしまう…」

「!……あ、ああ、分かってる」

 

箒に言い辛そうに促され俺はハッとすると止まっていた食事を再開する。けれど口に含んだ鯖はやっぱり美味しくなくて俺は顔を顰めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 布仏本音

 

 

流れる時間。授業の風景。それは内容からすればいつもと変わらないものだけれど、誰もが胸のあたりにポカリと開いた虚無感を抱いていた。いつもそこに居る筈の存在が居ない。生活の一部となった物が欠けてしまえばそれだけ違和感を感じずにはいられないのは当然と言える。

例えるのなら色が違うのだ。目に見える風景の色が。昨日まで見ていた色鮮やかな世界が色褪せて見えてしまう。それはまるで違う世界に来てしまったのかと思ってしまう程に…。

 

「みこちー…」

 

昼食という長い休憩時間を利用して、私は寮の部屋に戻って来ていた。

 

「……みこちー。お昼ご飯持って来たよー。ほら、みこちーが大好きなサンドイッチだよー?」

「………」

「ほらー一緒に食べよー?みこちーも朝から何も食べてないよねー?」

「………」

 

…返事は返って来ない。

昨日のあの夜からずっとこうだ。何かをする訳でも無く、ベッドから上半身だけを起こしてまるで死人のように生気の感じられない虚ろな瞳で窓から見える空をただ眺め続けてるみこちー。私はそんなみこちーに名前を呼んであげる事しか出来なくて、無力な自分が歯がゆくて…。

 

「……ごめんねぇ…」

 

あの時、私はラウっちに約束した。『みこちーの心は私が守る』と…。のに関わらず今のみこちーはどうなってる?みこちーの心は…?

 

「ぐすっ……ごめん…ねぇ……」

 

無音の部屋に私の謝罪の言葉と鼻の啜る音が響く。

床に膝をつきベッドにか俺込んでみこちーの膝に顔を埋め、何度も、何度も謝った。その声はみこちーには届いてないのを分かっているのに…。

 

 

…結局、みこちーと言葉を交わす事すら出来ずに昼休憩は終わってしまう。

校舎から寮の距離は少し遠いため予鈴が鳴る前に寮から出なければ午後の授業には間に合わない。予鈴が鳴る少し前に後ろ髪を引かれる思いで私は部屋を出たると、部屋を出たすぐ外でバタリとかんちゃんと鉢合わせた。

 

「あっ……本音…」

「かんちゃん…」

 

部屋から出てきた私に驚いてから私の今の表情を見て心配そうな表情を浮かべるかんちゃん。きっと今来たんじゃなくて前から廊下で待っていたんだと思う。

 

「みこちー。笑ってくれないの……」

「本音…」

 

顔を伏せて力の無く弱々しい声でぼそぼそと呟く私を見て、かんちゃんは痛ましいものを見る様に表情を歪める。日頃の私をよく知っているかんちゃんだからこそ、こんな私を見てそう感じてしまうのは仕方の無いことなのかもしれない。本当なら従者として主にそんな想いをさせるのはいけないことなのかもしれないけど、そこまで気を配れる程わたしには余裕は無かった。

 

「いつもならね…朝寝坊しそうになった私を起こしてくれるの……朝ごはんを一緒に食べて、今だって何時もなら一緒にお昼ご飯食べてる筈なのに……」

「……うん」

 

弱った心は胸に押し込んでいた弱音を次々と吐き出していく。かんちゃんだって辛いのは一緒なのに…。

みこちーの傍で笑っているのが私の役割。でも何時かは真実を知る私も笑えなくなる日が来る。みこちーが○○○しまったら私は笑えなくなる。それはそう遠くない未来で避けられない現実。でも、まだ…まだその時じゃない筈なのに…!

 

笑えない……笑えないよ…。

 

「みこちー……みこちーが何言っても反応してくれないの…!」

「っ、本音…!」

 

伏せていた涙でぐしゃぐしゃになっている顔を上げた途端、強い力に私の身体は引っ張られる。ぽすんと顔に当たる柔らかな感触。気付けば私はかんちゃんに抱き寄せられぎゅっと力強く抱きしめられていた。

私を抱きしめるかんちゃんの腕は小さく震え私の耳元で囁く。

 

「大丈夫……大丈夫だよ。ミコトは優しい子だもの…」

「かんちゃん……」

 

かんちゃんはみこちーの事を知らされてはいない。つい最近まで人と接するのが苦手だったかんちゃんに対するおじょーさまなりの配慮なんだと思う。事実を知って皆の前で自分を装うなんてかんちゃんにはたぶん無理だから…。そんな事実を知らないかんちゃんの言葉が罪悪感で私の胸を抉る。

 

「本音が泣いてるのに、皆が悲しんでるのに、優しいミコトが放っておける訳ないよ。だからミコトは大丈夫。絶対に元気になる」

「ひっぐ……ぐすっ…」

「だから泣かないで。本音が泣いてるとミコトもきっと悲しむよ?」

 

私の頭を撫でながら耳もとで優しく語りかけてくる。大丈夫だと何度も何度も繰り返して…。

 

違う。違うんだよ。かんちゃん……。

 

繰り返し呟かれる度に罪悪感が積もっていく。かんちゃんからしてみれば、私の行いはみこちーの回復を信じて疑わないかんちゃんに対する裏切りでしかない。そして改めて思い知らされる。自分に課せられた責任の重さに…。

大好きな友達が苦しんでるのに笑ってなきゃいけない。皆に事実を悟られない様に笑ってなければいけない。……笑っている事しか出来ない。

 

「ごめんね……」

 

かんちゃんの腕の中でぼそりと呟かれた謝罪の言葉は、予鈴のチャイムに掻き消されかんちゃんの耳に届くことは無かった…。

 

 

 

 

 

 


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