女体化☆チーレム~変態スキルで学園無双!~   作:どるふべるぐ

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加筆完了!……したら異様に長くなった。
ま、まあいいか~アハハハハー……ごめんなさい<(_ _)>


『決闘!イケメン対おっぱい星人~開戦編~』

 うららかな春の陽気が心地良いお昼休み。授業から解放された学生たちが一時の自由を満喫する平和な時間に、突如学園中に流れた校内放送は、全生徒達にこの日最後から二番目の衝撃を与えた。

 

『やっほーマイスチューデント達。皆ご存じ学園長だよ。学園生活謳歌しているかな~? しているのなら大変結構。していないのなら残念至極。今日はそんなキミ達に、学園長からイベント開催のお知らせです。題して《決闘! イケメン対おっぱい星人》。本日午後四時より第一アリーナにおいて、みんな大好きクールイケメン生徒会書記・雨宮雪兎と、おっぱいのためなら大統領だってぶん殴る普通科二年・下司葛人の決闘を行います。見学可能入場無料。見たいけど部活があるという子はいいから抜けす出して来なさい。部長と顧問が許さなくとも学園長が許します。さあイケメンとおっぱい星人のタイマンが見たい子は放課後第一アリーナへ急いでね!』

 

 学園長独特のふわふわした口調で語られたその内容。

 ある者はエルフ耳を疑い、またある者は一つ目を丸くし、またまたある者は今日はエイプリルフールではないかと疑った。何とも大げさに思えるかもしれないが、実際その衝撃たるや、学園中を騒然とさせるのに三秒とかからなかったのである。

 

「おい聞いたか今の放送!」

「あの雪兎さんとタイマンってマジかよ!?」

「どこの馬鹿だよ死ぬ気か。――でも面白そうだな!」

「下司……聞いたこと無い名前だな?」

 

 敷地内に多数ある中庭の一つ。たむろしていた獣人の男子達が首をかしげれば、遠く離れた教室ではアンデッド系のゾンビ女子達がキャッキャと腐汁を飛び散らしつつ盛り上がる。

 

「あ、アタシ知ってる例の転校生でしょ!」

「それって噂の……」

「「雪兎様を押し倒したホモ!」」

「え、じゃあもしかしてその仕返しに決闘を?」

「私達の雪兎様を汚したホモが血祭りに……これは見に行くしかないわね!」

「アタシも行くわよ!」

「てあんたは部活でしょ」

「そんなの抜け出すわよ。学園長も許すって言ってたし」

「それもそうね。じゃあ放課後は皆で第一アリーナへ行くわよ!」

「おー!!」

 

 かくて決闘の知らせは人から人へそして人外へ、学園中の口から口へと駆け巡った。決闘などという物騒な物に何を物好きなと思うかもしれないが、元より奇想天外な騒動が日常茶飯事の学園に通う生徒達である。むしろこの程度の騒動なら積極的に楽しんでいくくらいでないと、精神的にやっていけないのだ。

 という訳で、下司葛人と雨宮雪兎、二人の私怨因縁から決まった決闘は本人たちのあずかり知らむ所で、あれよあれよという間に全生徒が注目する一大イベントとなったのである。

 

 

 〇 〇 〇

 

 

 遠い昔、青く煌めく大海原のど真ん中で。

 熱く照りつける南海の太陽の下、父ちゃんが言った言葉を俺は今でも覚えている。

 

「息子よ! 男が何かに挑む時、絶対に必要なものは二つのみだ。お前にそれが分かるか!」

「それくらいわかるよ。しっかり『準備』して、きちんと『計画』を立てる事だよね」

「いわんわそんなもの!(ゴンッ☆)」

「痛い!? なんで殴るのさ父ちゃん!?」

「いいか息子よ! 『準備』などいらん!『計画』など不要! 不可能に挑み、それに勝利するに必要なのはただ二つッ。――燃える『情熱(ハート)』と『筋肉(マッスル)』があれば、漢に出来ぬ事など何も無い!」

「でも父ちゃん。やっぱり無理だよぅ……」

「無理など無い! 挑戦は無理だと思った瞬間に『不可能』になるのだ! だが諦めずに挑み続ける限り可能性はある。夢と希望は潰えんのだ!」

「だからって……。やっぱりイカダで太平洋横断なんて無理だよぅ」

 

「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」

 

「誰に聞いてもそう思うよ! むしろ思わないのは父ちゃんだけだよ! だいたい、いきなり『手漕ぎボートで太平洋横断するのは男のロマン。と言うわけでやるぞ息子よ! 水も食料も特に無いけど心配するな。いざという時は気合と根性で何とでもなる!』ってなんのなのさ!? しかもボート買う金がないから手作りイカダでとか太平洋舐めてるの!? どう考えたっていや考えなくても無理に決まってるよおおおおおお(泣)」

「ええいキレるなジタバタするなイカダが揺れる!? 転覆したらどうするつもりだ!」

「元から少ない水も食料もとっくに無くなったよ! どうせこのままじゃジワジワ飢え死ぬんだ。いっそ転覆して一思いに楽になった方がましだよ!」

「馬鹿野郎!(ゴンッ☆)」

「また殴った!?」

 

「命を大切にしない奴は大っ嫌いだ!」

 

「父ちゃんにだけは言われたくないよ!!」

「ならば息子よ。今から俺が魚を獲ってきてやる! それならば飢え死にしなくて済むだろう」

「ってどうやって? 竿も網も無いんだよ?」

「ふっ、それがどうした。……言っただろう息子よ。燃える『情熱(ハート)』と『筋肉(マッスル)』さえあれば、漢に出来ぬ事など何も無いと! 見るがいい息子よ。この手ででっかいマグロを獲ってくる父の雄姿をーー!!(ザッパーン!)」

「素人に手づかみ漁は無理だよーー!? って……あぁ……話も聞かずにダイブしちゃった……」

「ただいま息子よ!(ザバーッ)」

「お帰り父ちゃんそして早!? 手ぶらだけど魚はどうなったのさ!?」

「うるさいそんなのどうでもいいから今すぐオールでイカダを漕げ!! でなけりゃ死ぬぞ!」

「死!? いったい何がどうしたのさ!?」

 

「潜ってみたら水中に人食い鮫の大群がいた」

 

『キシャアアアアア!』

「うわあああああああ!? 鮫が!? 鮫が海面からこんにちわあああああ!!」

「泣くな叫ぶな逃げるぞ息子よ! 人生楽ありゃ苦もあるさ。死ぬのが嫌ならさあ漕げ!」

『キシャシャシャーーーーーーク!!』

「うわあああん! だから『計画』と『準備』はちゃんとしようって言ったんだよおおおお(泣)!」

「泣くな息子よ涙をぬぐい前を向け! 人生はいつでもノープラン――それが漢の生き方だ!」

「馬鹿ああああああ人生無計画馬鹿ああああああああ(号泣)!!!!」

 

 ちなみに鮫との追いかけっこは、太平洋横断するまで続いた。

 

「――そして俺は学んだんだ。人生の挑戦において最も必要なのは『準備』と『計画』だってな……」

 

 うんホント、ノープランでぶっつけ本番とか碌なことにならないからなマジで。

 そんな事して何とかできるのは、チート性能の天才様か運のいい奴だけだ。ゆえに俺のような特別な才能も特に無い凡人は、何かやる時は地味でもコツコツ準備するのが大切なんだよなぁ。うん。

 

「つーわけで、だ……」

 

 そして父ちゃんとの思い出を苦笑まじりにしみじみと語り終えた俺――下司葛人は、拳を掲げ声を張り上げた。

 我が《普通科》の教室で、その表情に不平不満を浮かべ作業する――クラスメイト達に向かって

 

「だからお前らキリキリ働け手を休めるな俺の勝利のためにー!」

「「「「ふっざけんなああああああああああ!!」」」」

 

 答える声は怒りの叫び。

 空気を震わせ教室中に轟くその発生源は、もちろん怒りに顔を赤く染めたクラスメイト共だ。

 人間もいれば毛むくじゃらの獣人やら、触手に粘液のよくわからんイアイアな見た目の奴もいる。そんなバラエティー豊かな面々が席に座り、その机の上に並ぶのは細かい砂や黒い粉、そして和紙の乗った小皿類。こいつらはそれらを手に取り、捏ねたり混ぜたりして『ある物』を作っていた。――のだが、現在奴らは手を止め不満の声を上げてやがる。

 

「なんで私たちがお前なんかを手伝わないといけないアルか!」

「「「「そーだそーだ!」」」」

 

 艶やかな黒髪を怒りに逆立て、切れ長の瞳で睨みつける中国系の貧乳少女――あーたしかスイ・リーとかいう名前だったか……――に続き、声を揃えて抗議するクラス一同。

 まるで悪辣なブラック企業に対する社畜一斉蜂起の如き光景だなおい。

 ……ふむむ? 何でこうなってんだ?

 父ちゃんと別れた後に俺を引き取ったオヤジ曰く、『葛人君、難題で立ち止まったのなら一度原点に戻って考え直してみよう』という訳でいっちょここまでの流れを思い出してみっか。

 

 霧花さんの素晴らしき巨乳を前にして手を出さんという糞イケメン野郎――雪兎とのタイマンが決まった後、俺はさっそく準備をするため霧花さんに別れを告げて教室に向かった。途中、学園長による放送が流れ、それに仰天する普通科クラスの教室に、「放送は聞いたなマイフレンズ共! っつーわけでレッツ戦争準備だ! 皆の者武器を作れい!」とドアを蹴り開け俺参上!

 

 そして目を丸くするクラスメイト達には一切構うことなく、あれよあれよという間に材料の入った皿をそれぞれの机に並べた後、黒板にその武器の作り方を分かりやすいイラスト付きで説明ッ。「んじゃ汗水垂らして血を吐いてでも頑張ろー! たとえ過労死しても大丈夫ッ。俺はお前らの屍を越えて行く!」と友の死を無駄にしない友情宣言を決め、ブラック企業も顔負けの強制労働が始まったのである。

 

 ちなみに生徒の危機を救うべきクラスの担任教師は、昼休み終了直前に学園長に呼び出され『なるべく協力してあげてね❤』と笑顔の圧力を受けた結果、午後の授業を全て潰して生徒達を武器造りに専念させる事を決めたのだった。ありがとう学園長。やっぱりあの巨乳には愛と優しさが詰まっていたんだなぁ。

 

「もー我慢の限界アル! 何で貴重な午後の授業を潰してこんな事しなくちゃならないアルか! 納得できる説明をするアル!」

「え、だって俺ら友達だろ? だったら友人の大勝負を手助けするのはこれ当然ビバ友情!」

「な・に・が・友情アルか! そんなの冗談じゃ――」

 

 うんうるせえ❤

 

 所詮は貧乳。友情の何たるかが分からんのなら、ああいいともさ教えてやろう。

 リーが更に眉を吊り上げ罵ろうとしたその時、俺はおもむろに近くにいた女生徒をむんずと掴み引き寄せた。

 いきなりの事態にビクッと震えるのは、柔らかな白毛に覆われたふわふわの体。俺の腕の中で円らな黒目を驚きに丸くさせ、抱え込まれたその女子こそ、

 

「アイヤー!? ルゥちゃんが変態の魔の手に!?」

 

 俺と散々に凌辱もとい友情を確かめ合ったアザラシ妖精のルゥちゃんだ。

 

「なななっ、何ですか何なんですかいきなりぃ!? こ、今度は私に何をするつもりですかぁ……っ!」

「ぐくくく……。そう怯えんなよぉ。なにちょっと俺とクラスメイトとの絆が揺らいできてるっぽいから、ここらでいっちょ思い出してもらおうと思ってな。俺達の――友情をよぉ❤」

 

 何事かと困惑するルゥにニヤァリと笑みを向ける優しい俺。

 そして牙をむいた狼の様なその笑顔のまま大きく口を開け、抱き抱えたルゥの震える頭へと――がぶりんちょ!

 

「ひゃああっ!? またっ、また噛んだああ!? いやぁ……ガブガブしないでくださいぃ~!」

「ちょっ、いきなりルゥちゃんに何をするアルかーーーー!?」

「友達同士のスキンシップですが何かーー! 友達でない人が口を出さないでもらえますかねーー!」

「たたた助けてくだしゃいみなさぁ~~ん……っ(泣)!」

 

 教室に響き渡る絹を裂くような涙目アザラシの悲鳴!

 目の前で起こったアザラシ凌辱事件第二弾に愕然とするクラスメイト共!

 そして俺は苦虫百万匹を噛み潰したような顔で睨むリーに、フンドリィな笑顔で問い掛ける。さあ思い出すがいい。俺とお前たちの――友情ってやつを!

 

「俺達は何だーー!」

「「「「  友  達  で  す  ! 」」」」

 

 答える声はクラスの全員。

 溢れる怒りと殺意を押し殺し、意地とか誇りとか色んな物を犠牲にしてでもクラスメイトを救おうという悲壮な決意に満ちているような気もするけどそんなの気のせいだ。

 

「合言葉はーー!」

「「「「一人はみんなのために(ワン・フォー・オール)みんなは一人のために(オール・フォー・ワン)!」」」」

「ならちゃっちゃと作業に戻って友のために働けい!」

「「「「イエス・マイ・フレンド!!」」」」」」」

 

 一糸乱れず返事をし、すぐさま作業に戻るクラスメイト共。素晴らしきかな嗚呼友情。

 ただ、武器の材料を扱うその手や触手やらがプルプル震えたり、ギリギリと噛みしめた唇から血が垂れていたりしているが、まあ俺にとってはどうでもいい事さ。

 そんな末期の社畜の如きクラスメイト達の姿を満足げに見、俺がようやくルゥの頭から口を離した時、

 

「……葛人氏。頼まれていた雨宮雪兎氏の資料、集められるだけ集めてきたブヒよ」

 

 豚が話しかけてきた。

 そう豚だ。正確には学ランを着たぽっちゃり体形の体に、豚の顔が乗った二足歩行の豚男子だ。

 

「おうご苦労。…………へぇ。こりゃあまた……」

 

 こいつが差し出してきたのは紙の束。パソコンで作成したものをプリントアウトして作ったと思しき資料をパラパラと捲ってみれば、これが意外とよくできている。

 

「中々上手くまとめてあるな。この短時間にしちゃ上出来だ」

 

 スリーサイズから経歴、戦闘の記録まで。主に公開情報からだろうが、要点を的確にまとめ、ボリュームは少なくとも実用的で質の良い資料に仕上げている。

 流石は豚。犬より頭が良くキレイ好きな動物界のジェントルマン。試しに頼んでみたら見事に期待に応えてくれたぜ。

 

「なあお前の名前は?」

「オークの大倉(おおくら)ブヒ。……言っておくブヒが、小生はクラスメイトの安全のために協力しているのであって、別に葛人氏の味方になったわけでは――」

「良い物用意してくれた褒美に巨乳美女のちょいエロ盗撮写真をやるよ。あ、引き続き資料集めを頼むな。また良い物持ってきてくれたらもう一枚やるからよ」

「任せるブヒ心の友よ! 今すぐ最高精度の情報を持ってくるブヒ!」

 

 頼もしくサムズアップし、大倉は教室からダッシュで出て行った。

 頼りがいのある豚野郎だ。いいお友達になれる気がする。

 

「しっかし……調べれば調べるほどチートだなこいつ」

 

 なになに? 暴れた巨人を三秒でKO。吸血鬼と狼男の集団乱闘では全員を氷漬けに。学園で行われる各種トーナメントでは常に上位。魔術の成績は魔術系学科全生徒の中で第二位のガチ天才。当然女子にもモテモテでああああああ資料を眺めているだけでもムカッ腹がたってきたああああッ。

 自分とのあまりのスペック差に絶望よりも嫉妬で唸っていると、近くの席に座っていた大剣を背負った金髪の美乳ポニテ少女――十露(とろ)・シックスが首を傾げ、

 

「? 雪兎さんが使うのは魔術であって《チート》じゃないよ?」

「え? いやチートだろ。水分量無視して氷を出して斬ったり固めたりとか物理法則に喧嘩売ってるし」

「いやいやあれは魔術で《チート》じゃないから。物理法則には反してもちゃんと魔術法則には乗っ取ってるから」

「???」

 

 ……なにやら話がかみ合っていない気がする。

 まあいいや。どうせ魔術なんてファンタジーなもんを今から理解しようなんて出来ないんだから、ここで突っ込んでも余計に頭がこんがらがるだけだな。

 と、十露が不意に背負った大剣を手に持ち、それに向かって

 

「え、なに? 『どうせ説明してもこんな奴には理解できない』って酷いよそんな言い方は。いくら本当の事でも行ってはいけない事があるんだよっ」

 

 でも人に言われるとムカつくよね☆

 

「おうおう目の前で陰口ならぬ表口とは良い度胸だなこの勇者は。お礼に剣に特売品シール貼ってやる」

 

 思い立ったが有言実行。学ランのポッケから取り出したシール―—武器の材料を手に入れるついでに何となく買ったやつ――をべちこーんと貼ったった。

 

「いやああああ!? 私の勇者の剣が大安売りっぽくなったー!?」

「特売品を振り回す勇者とか新しすぎるww」

「ちょっ、これ取れない!? 剥がせないんだけどーー!?」

「ぐけけけ一度貼ったらそう簡単には剥がせないN●SAの技術を使った特別製だ。これからは《特売勇者》として頑張るんだな」

「何それカッコ悪い!? ねえ今すぐ剥がして! 剥がしてよ~~~!(泣)」

 

 特売シールを剥がそうと爪を立て、十露は必死に大剣の表面をカリカリしているけど剥がせるわけないんだなぁーぐっくっくっくっ♪

 と、その時、十露の足下が妖しく輝き謎の魔法陣が現れた。

 涙目で特売シール相手に悪戦苦闘していた十露は、神秘的な光を放つそれを見て慌てふためく。

 

「これって異世界への召喚陣!? こんな時に……ってちょっと待って! シールを剥がしたらすぐ行くから今は、今だけは駄目~~!?」

 

 勇者って大変だなぁ。

 ふむ……なら仕方ないな。災厄的自己中とか傍若無人野郎とか言われる俺でも、世界を救う使命があるのならそっちを優先させるくらいの優しさはあるのだ。

 本当は教室に残って馬車馬の如く働いてもらいたいけど、ここは見送ってやろう。

 

 だって俺達は――友達だからな。

 

「いつかお前が世界を救ったら――また会おうな」

「かっこいいセリフ付きの敬礼で見送らないで剥がしてよおおおおおお――――」

 

 そして、我らが勇者は魔法陣の輝きとともに異世界へと消えた。

 がんばれぼくらの特売勇者。君の戦いはまだこれからだ。

 

「……さて色々あったが、んじゃ作戦を考えるか」

 

 気を取り直し、手元の資料に目を向けようとすると、俺を見つめるリーと目が合った。

 俺の見えざる思考を暴こうとする、探偵の眼差しで、

 

「勝算はあるアルか?」

「まあ相手がなりふり構わず策を使ってくるんなら勝ち目はないが、堂々正面から来るってんならやりようはある」

「堂々正面から……ネ。それが本当である保証は?」

「タイマンするのが決まった時、霧花さんの前であいつを――雪兎を挑発したら奴は『堂々と戦う』って言いいやがった。ああいうプライドの高い奴は自分でした誓いは破らねえよ。まして……、惚れてる女の前で言った言葉はなぁ」

 

 気高く。尊く。真っ直ぐで――だからこそ、扱いやすい。

 例えどれほど強くとも、つけいる隙は、……いくらでもある。

 

「いいか、やりようだ。全部やりようなんだよ……。うん昔の人は良いこと言った」

 

『敵を確実に倒したければ、三倍の戦力を用意せよ』

 嗚呼まったくもってその通り。多対多の戦争も一対一の決闘も、戦力差が三倍あれば勝ちの目は『確実』だ。

 

「それさえ何とかすれば――勝てる」

「雨宮雪兎の戦闘力の三倍になる武器や作戦を四時までに用意する……そんな事が本当にできるアルか?」

 

 ほくそ笑む俺に、疑わしげに問うリー。

 その質問に俺は――思わずキョトンとしてしまった。

 

 

「――え? そんなの出来るわけねえじゃん」

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 そして放課後。

 学園に十あるアリーナのうち、主に戦闘訓練や競技に使われる第一アリーナ。イタリア・ローマの円形闘技場(コロッセオ)を思わせる外観のそこは、今、若者たちの熱気に包まれていた。

 男子女子、人も異形も様々な生徒達が学園中から集まりごった返す客席。アリーナの外には料理研究部や手芸部やらの露店や立ち並び、この機会に部費を稼ぎまくるべく、群衆達へ商魂たくましい笑顔で呼び込みをしている。空には誰が打ち上げたか花火の音が陽気に鳴り響き、アリーナ全体がちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。

 

「……先日は本当にありがとうござました。貴方の協力のおかげで『彼』を確保することができました。あらためてお礼を申し上げますわ」

 

 その客席の中でも最も見晴らしのいい場所に在るVIPルーム。

 前面ガラス張りの豪華な部屋には、テーブルと椅子、そしてそこにゆったりと腰かけスマートフォンに語りかける女性の姿があった。

 

「いえそんなお互い様ですわ。あなた方が捕まえた表社会に対応できない超常存在達。その中でも、新たに教育を受ける意思がある者を我々『学園』に引き渡す。あなた方は本当に我々の良きパートナーですのよ――総理大臣さん」

 

 微笑を浮かべる、艶やかな唇。ウェーブのかかったふわりとした金髪。眼鏡の奥で妖しく輝く、底の見えぬ虎眼石の瞳。

 彼女――その名も素性も謎に包まれ、ただ《学園長》とだけ呼ばれる女性は、丁寧な口調で耳にあてたスマートフォンの向こう側に語りかける。

 

「……ええ。ええ。この御礼はいずれ……では失礼いたしますね。ごきげんよう」

 

 別れを告げ、通話を終えた学園長。品の良い微笑から一転、盛大な溜息をついた。

 

「っぷはぁぁ~~……疲れた~。お堅い口調っていうのはどうにも疲れるよね~」

 

 コキコキと肩を鳴らすグデっとした姿は、ぐーたらな家猫のよう。

 その傍らに控える白髪の女性――ダークスーツを隙無く着こなしたノインは、主のそんな姿に嘆かわし気な眼差しを向けた。

 

「大人としての人付き合いにおいて必須のスキルです。この程度でそうも疲れるようではこの先やっていけませんよ」

「うへぇ。大人なんてしんどいだけだな~ホント……。よくみんなやってられるよね尊敬するよ~」

「そういうあなただってアラサーのいい大人でしょう?」

「心はいつだってピッチピチのギャルですよーだ」

「精神年齢が低い事だけは伝わりました。それと『ギャル』はもう死語です」

「え、マヂで?」

 

「そっか~死語なのか~。若者文化はすぐに変わっていくな~」と感慨深げに呟く中年学園長。金の瞳を細め、眼下の光景――広大な客席を埋め尽くす観客達を見下ろした。

 

「それにしてもすっごい人だね~。いや~盛況せーきょー大盛況♪」

 

 はしゃぎ、わくわくした笑顔を交わす生徒達。学園最高権力者の瞳は、そんな下界の有象無象を楽し気に眺める。

 

「魔術系や化学系……、その他各学科の一般生徒が勢ぞろい」

「風紀委員会、報道部のような公認組織から、不良チーム等アンダーグラウンドの者達の姿も確認できます」

「で、来れなかった人も学園各所の中継モニターで鑑賞中かぁ」

「現生徒会メンバーの決闘です。くわえて出るのは次期生徒会長と目される雨宮雪兎。注目するのも当然かと」

「あははっそうだね~。うんうんたしかに――でも、それだけじゃないよ……」

 

 艶やかな唇が、吊り上がる。

 悪戯な猫のように。

 

「……みんな気になってるんだろうねぇ。あの子のこ・と・が」

 

 

 〇〇〇

 

 

『レッディースエーンジェントルメン! 学園中が注目する生徒会書記対噂の転校生の決闘。世紀の一戦はもう間もなくですー!』

 

 

 アリーナを賑わす満員の歓声。それをさらに盛り上げるように、高らかなアナウンスの声が響く。ごった返す客席に。中央の決闘用ステージに。

 アリーナ全体を見渡す実況席には、マイクを前に座る三人の少女の姿があった。

 その中の一人、興奮で首を長くしている(例えに非ず)ろくろ首の少女は、マイクへと華やかな声で、

 

『実況はこの私《実況同好会》の十季曜子(じつきようこ)がお送りしまーす。そして解説はなななんと――』

 

 その声に耳を澄ます観客達に、答える二つの澄んだ声。

 

『ごきげんよう。生徒会副会長の雨宮霧花よ』

『同じく。お兄様と同じ生徒会で会計を務めています、会計の雨宮雫花ですわ。皆さま、本日は(わたくし)が最も愛するお兄様のために集まって下さり感謝いたしますね』

『《学園》美少女ランキング不動のツートップにして現生徒会役員のお二人が解説に来てくれましたー!』

 

 アリーナの巨大スクリーンに笑顔を浮かべた二人が映し出された瞬間、大きな歓声が沸き上がった。

 艶やかな黒髪に青の瞳。女神像のように肉感的な肢体。椅子に腰かけ優雅に微笑むのは、雪兎の義姉である雨宮霧花(きりか)だ。

 その隣で華やかな笑みを浮かべるのは、妹の雫花(しずか)。

 小さな頭の両サイドでくくった、姉と同じ黒髪を揺らし、煌めく青の瞳はまもなく現れるだろう義兄の姿を今か今かと待ち焦がれている。

 艶やかな姉と可憐な妹。天上の二輪の花の如き姉妹の姿に、男子達から歓声が、女子達からは羨望の溜息が漏れた。

 

『さーて、今回の決闘で雨宮雪兎さんと戦う相手、転校生の下司葛人さんですが、今朝転校したばかりという事でほとんど情報がありません。お二人は彼に直接接触したという事ですが、彼の印象というのはー?』

 

 その質問に、霧花は上品な微笑で

 

『一言では言えないけどあえて言うのならアグレッシブな変態ね』

 

 雫花は華やかな笑顔で親指を下に向けた。

 

『生きていることを恥じて死ぬべき女の敵ですね』

『あっははー。これはまたとんでもないコメントですねー』

 

 だがそれも当然か。なにせ学園一のモテキャラである雨宮雪兎の唇を奪った下劣非道のホモ野郎なのだ。客席からも頷きと同意の声が上がる。

 実際、この場に来ているほとんどの者が期待しているのは、雪兎による葛人の公然フルボッコショーだった。

 

『とはいえ、大多数の生徒にとっては初のお目見えとなるこの対決。噂の転校生がどんな人物なのか学園中の注目が集まっており、アリーナはますます盛り上がってきています!』

 

 

 〇〇〇

 

 

 その光景が映し出されたモニターを、苛立たしげに見つめる者達がいた。

 

「ふん。我々の気も知らず暢気なものだ……」

 

 そこは、絶対の秩序が統べる空間だった。

 

 闇の中、円卓がある。

 その表面はモニターとなっていて、学園内の様々な情報が映し出されていた。

 そこを囲み、騎士の如く座す者達は、鋭い瞳でそれらを精査していた。

 モニターの無機質な明かりに照らされた壁の棚には、整然と並べられた資料。無駄を徹底的に排除し、機能性のみを追求した室内。そこにいる誰もが、乱れなく己が仕事に集中している。

 人も、物も、そして空気すら、何もかもが張りつめ、一糸乱れぬ秩序を成す。それは己自身こそが、《学園》そのものの秩序の守護者であるという言葉無き証明だ。

 騎士の如く清冽に。軍人の如く泰然と。揃いの浅葱色のコートを纏い、円卓に座す者達。

 その腕章に刻まれた文字は――《風紀委員会》

 それが、彼らの名だった。

 

「……生徒会書記・雨宮雪兎と転校生の決闘開始まで、もう間もなくです」

 

 張り詰めた静寂の中、声が流れる。

 読み上げるのは高等部一年の風紀委員。緊張の色を孕む報告に、この場の全員が静かに耳を傾ける。

 

「現在、学園生徒の大多数が第一アリーナとその付近に集結。大変な混雑となっています」

 

 円卓表面のモニターに、現在のアリーナ周辺の俯瞰映像が表示された。上空からドローンで撮影された詳細な映像に、全ての瞳が集中する。

 アリーナ周辺の混雑は、まさに人の荒海だ。

 群衆の波が揺らぎ、動き、時にぶつかり合う。咲き誇る無数の笑顔と歓声。その一方で起こる、小さな悲鳴や時には怒声。現場の風紀委員達が対処しようとするが、その間にも新たなトラブルがそこかしこで生じていた。

 

「迷子や盗難、不良生徒達の小競り合いなどのトラブルも僅かながら発生しており、これから更なる増加が予想されます。なお、現場からは人員の増員を要請する声も上がっている模様です」

 

 事態が想定を僅かに超えている事に、起こる騒めき。

 さて、どうしたものか。思案する者達の囁きが、闇を揺らした。

 

「……少々、予想より現場が混乱しているようだな」

「これほどに注目度が上がったのは、やはり昼間の一件が関係しているのでしょうね……」

「あの雨宮雪兎が男に襲われたあげく唇を奪われたとは……。いやはや長生きはするものですなぁ」

「で、その犯人であるところの転校生。……何者だ?」

 

 問いに応じて、画像が切り替わる。

 新たに映し出されたのは、少年の貌。

 どことなく野性的な印象を感じる顔立ちの中、その瞳に底知れぬ欲望を宿した少年が不遜に笑っていた。

 

「現在調査をしていますが、詳しくは不明です。学園のデータベースにも僅かなプロフィールくらいしかなく、念のためハッキングを試みてみたものの、それ以上のデータには最高レベルのブロックが掛けられアクセスができませんでした」

 

 不穏な報告に、多くの者が眉を顰める。

 

「一生徒にしては厳重過ぎる情報規制。何ともきな臭い………きな臭いですのぉ」

「よりにもよって《学園》そのものの情勢が不安定なこの時期に現れた、学園長自ら招いた謎の不穏分子か。……まったく、学園長は何を考えているのだ」

「それを言うなら生徒会の対応も問題でしょう。止めるどころか、よりにもよって騒ぎを大きくするような真似を……。もし生徒会長が生きていたならばこうはならなかったでしょうに……」

「ともあれ、あの学園長が絡んでいるともなればこの事態、一筋縄ではいきませんぞ」

 

 一同の脳裏によぎるのは、学園長の掴みどころのない笑み。

 虎眼石の瞳の奥に在るその心はようとして知れず、ただ怪しげな猫のように他者を翻弄するのだ。

 刻々と不穏な状況となっていくこの事態。騒めきは増し、緊張と困惑の囁きが場を満たしていく。

 そうして重くなっていく空気を、だがその時――

 

「――惑うでない」

 

 一つの声が、律した。

 

「学園長の思惑が何であろうと、我らには関係無き事……」

 

 それは静かで落ち着いた、だが獅子の如き力強さを宿した重厚な男声(バリトン)

 

「我らがすべきことはただ一つ――各々が全力を以って、この事態の収拾に努めるのみだ」

 

 緊張も不安もねじ伏せる、強大な意思。それが騒めき落ち着きを無くしつつあった場の空気を鎮め、一変させた。

 それを成した者。その声の主に、誰もが目を向ける。

 畏怖と尊敬を浮かべた瞳達が向かうは、円卓の最上位たる者が座る席。

 そこに泰然と腰かけた男の腕章には――《風紀委員長》と在った。

 

「失態は許されぬ。生徒会が弱体化した今、真に学園の秩序を守護するは我ら《風紀委員会》である。それをしかと心せよ……!」

 

 静かなるも、獅子の一喝にも似たその言葉。

 揺ぎ無き信念を宿したそれに、皆が力強く頷き、再び会議は動き出す。

 ただし今度は迷い無く、不安も緊張も秩序の守護者たる誇りを以てねじ伏せて。誰もが己が職責を果たすべく意見を交わし、最善の案を検討していく。

 その光景を静かに見つめていた風紀委員長の瞳が、ふとモニターに映し出された少年の不敵な笑みを映し、

 

 「――下司……葛人か」

 

 その名を呟く声は、獅子の唸りにも似ていた。

 

 

 ○ ○ ○

 

 

『さーていよいよ開始五分前となりました! 今控室にいるだろうお二人の登場をアリーナの皆が、いえ、学園の全てが待ち焦がれています!』

『というか早くいらっしゃって下さいお兄様ー! お兄様の姿を長時間見ていないと私は寂しくて死んでしまいますわーー!!』

『ちょっ落ち着いてください雫花さん!? もうすぐっ、もうすぐ登場するはずですから耳元で叫ばないでー!』

 

 スピーカーから響く実況の悲鳴が、氷室の如く冷たい控室の空気を揺らす。

 僕――雨宮雪兎は、瞳を閉じて椅子に掛け、ただ静かに開戦の時を待っていた。

 戦いにおいては決して熱くならず、静かに猛れ。激情に支配されることなかれ。心の芯は冷たく。ただただ澄んだ氷の如く在れ。

 幼い頃から武術の稽古で幾度となく言われた言葉。その教えを守るため、戦いの前には必ず精神統一をするのが僕のルーチンだ。

 一切の雑念を捨て、余計な激情を冷徹な理性で冷やし、不安や動揺を凍らせる。そうして己を澄んだ氷と成す。

 幾度も繰り返し、体に染みつかせたはずのそれ。だが、今は……。

 

 「…………くッ!!」

 

 集中、できない。どれほどに心を鎮めようとしても、ある男の顔が声が頭をよぎり、心乱されてしまう。

 

 「下司、葛人……ッ」

 

 僕の前に突然現れたその男は、僕の全てを逆なでした。

 顔も、声も、その言動も何もかもが……。

 苛立ちと共に思い出すのは、昼の再会の終わりの場面。

 この対決が決まった時、あいつは不快な笑みを浮かべ、こう言ったのだ……。

 

『――学園長。一ついいっすか』

『なにかな葛人くん?』

『その決闘っすけど『武器は何でもあり』にしてもらえませんかね?』

『へえ……』

『こいつ、魔法……っていうの? 氷の剣とかバンバン出してくるじゃないですか。普通人の俺としちゃ、まともにやったらまず勝てそうにないので武器使用の許可が欲しいっす』

『ふぅん。それってつまり……まともやらなかったら勝てるって事?』

『それはまぁ……試合までのお楽しみってことで』

『うわぁ悪いこと企んでる顔だぁ♪ うん。いいよ。武器の使用は一切制限しないから好きなのを使って好きなようにやっちゃって』

『ありがとうございます。その寛大な御心と巨乳に最大の感謝を。――っつーわけだ雪兎。俺はナイスな装備整えてゴイスーな作戦考えてくっから、お前も構わねえからド卑怯かつド汚い策でも練ってな。――惚れた女の前だからって格好つけることねえぜ。互いに汚くフェアにいこうや』

『――ッふざけるな!! 僕は栄光ある生徒会の一員だ。その誇りを汚すような真似ができるか!! たとえ貴様がどれほどに汚らわしい策を弄そうと、僕は僕にふさわしい戦いで正々堂々打ち破ってみせる!!』

 

 どこまでも、不快な男だ……ッ。

 

 誅さなければならない。絶対に。

 負けてはいけない。生徒会として、学園の秩序を乱す存在には。

 そうだ。そうでなければならない。それができなければ生徒会の一員として、いや……

 

『――テメェに霧花さんの恋人である資格は無え!!』

 

「――――ッッッ!!」

 

 知らず握りしめていた拳が、ギリリと唸る。

 抑えようとしてもしきれぬ想いが音となったそれを聞きながら、僕は椅子から立ち上がろうとした――その時、胸元に生じた冷たさを感じた。

 それは微かで、だが確かに、ざわめく胸の奥を鎮めるような冷たさ。それをもたらしたのは、常に首に掛けているペンダントだ。

 雪の結晶の形をあしらった銀細工のそれは、今は亡きあの人から贈られた、かけがえのない物。

 

 『いいか雪兎。お前は冷たいように見えて、でも本当は誰よりも熱い奴だ。……だからきっと、いつか許せない悪や倒すべき敵が現れたら、お前は考えるよりも先に真っ直ぐに激しく立ち向かうんだろうな』

 

 その澄んだ銀の輝きを眺めていると、ふと、かつて言われた言葉が脳裏に蘇った。

 

『……でもな、時にはその怒りを凍らせろ。それがたとえ正義からくるものだろうと、過ぎた激情は炎となって己を焼き殺すからな』

 

 

 ああ、そうだ。そうだった……。

 思い出すと同時に、胸のざわめきが鎮まっていく。冷静さを失わせようとしていた怒りの熱が、ペンダントに冷やされて消えていくを感じる。

 

「……ありがとう。征ってくるよ」

 

 大事な事を思い出させてくれたペンダントへと小さく礼をつぶやき、僕は決闘の場であるステージへと続く扉に足を踏み出す。

 内なる激情を凍らせ、生徒会の一員としての誇りと――そして、このペンダントをくれた今は亡きあの人への誓いを胸に。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ゲートを抜けると、そこは決戦場だった。

 アリーナ中央に造られた円形のステージ。逃げる事も、身を隠す事も許されぬ、ただ己が実力のみで闘う事が許された場所。

 胸を張り、悠然とした足取りでそこへと進む雪兎を、万雷の如き歓声が出迎えた。

 夕陽を浴びて煌めく、青みがかった白銀の髪。怜悧なまでに整った美貌。兎のような赤い瞳に宿すは、生徒会としての誇りと戦意。

 その姿に観客達――とくに女子達の黄色い歓声が爆発する。

 

「「「「キャーーーー雪兎様ーーーーー❤」」」」

 

 だがそんな声をも掻き消すほどに轟くのは

 

『ぅお兄さまああああああああああああ❤❤!!』

 

 真性ブラコンの咆哮だ!

 

『凄い! 凄い歓声です特に女子! っていうかちょーっと雫花さん落ち着いてください声を抑えて!?』

『抑えろ!? お兄様への愛を抑えろとおっしゃるのですか!? そんなの無理に決まっているでしょう!』

『いーえ愛はそのままでいいので声だけ下げてもらえればていうかホントに耳が痛く――』

『きゃあああああああお兄すわまあああああああああああ❤❤❤』

『耳がーーーーーーーー!?』

 

 伸ばした首をガクガク痙攣させ絶叫する実況の声。

 そんな外野の悲喜劇に雪兎は心動かされること無く、ただステージの上で静かに待つ。

 己が倒すべき相手、その登場を。

 そして――

 

「――来たか」

 

 歓声が、止んだ。

 一瞬で。まるで全ての音が凍り付いたかのように。

 アリーナ全てを覆い尽くす声無き沈黙の後に、沸き起こったのは――

 

「来た」「来たな」「ああ来やがった」「あいつだ」「あいつがそうだ」「あいつが……」

 

 

 

「――ああ来たぜ。雪兎ォ」

 

 

 

「「「「噂のゲスホモ野郎だッッッッ!!!!」」」」

 

 嵐の如き、罵声。

 

「死ね腐れホモ!」「雪兎様の唇奪うとかチョーシこてんじゃないわよホモ!」「そーよそーよ!」「お前の罪を数えて死ね!」「お前に明日を生きる資格はねえから死ね!」『っていうか私ですら触れた事のないお兄様の唇をおおお怨怨! 羨まけしからんですわあああああ嗚呼あああ!!!!』

 

 無数の罵倒とブーイングの多重奏が、向かいのゲートから現れた只一人に向かって降りそそぐ。

 それを一身に浴びて、だがその少年は不遜な笑みを崩さない。

 万雷のブーイングを受け止め、罵声の豪雨を浴びてもなお、ふてぶてしいまでに堂々とした足取りでステージへと上がり、対峙する。

 

 ――下司 葛人。

 

 己が倒すべきその男を、雪兎は鋭い赤の眼差しで迎えた。

 

「遅かったな。もしや逃げたのかと思ったぞ」

「そりゃ待たせて悪かったな。ちょっとテメェを倒すための装備整えんのに手間取ったんだよ」

「……なるほど。で、それがその装備か?」

 

 目を向けるのは、葛人が背負った麻の袋。袋の口を結んだ紐を肩に掛け、サンドバッグのように背負うそれには何が入っているのか、大きく膨らんでいる。

 

「おうおう聞いて驚け見てもっと驚け。こいつが対イケメンホモ用びっくりどっきり武器だ」

「準備は万端か。……ふん。無駄な事を」

「そういうテメェの方は手ぶらか? 随分余裕なこって」

「手ぶらではない。僕の武器は自前で出せる。――いくらでもな」

 

 鋭い声と同時、その白い掌に冷気が宿る。

 凍り付く大気。掌に生まれた小さな氷片が、冷たく透き通る氷の剣となった。

 

「そしてこれは根拠無き余裕ではない。――確固たる自信だ」

 

 言葉と共に、その切っ先を向ける。

 夕陽を浴びて煌めく、氷のプライドを宿す刃。

 

「下劣なケダモノとはいえ、貴様も学園の生徒だ。加減を誤り殺さんよう、この氷剣のみで相手をしてやる。……だが容赦はせん。――本気で征くぞ」

「上等。だったらこっちは本気かつ――全力『以上』で征くぜ」

 

 というか単に全力『だけ』でやっても勝てないし。

 などという内心などおくびにも出さず、葛人もまた、戦意を燃やし睨み返す。

 高まる緊張に、空気が震える。それは今にも始まらんとする、闘いの前震。

 

『さて、両者ステージに上がり、いよいよ決闘の準備が整いました! 魔術戦闘科のエースである雨宮雪兎さんに、普通科の通常人である下司葛人さんがどう出るのかが注目されていますが、見たところ彼の武器は袋に入った何かのようですね……?』

『ズボンのベルトにも幾つか小袋が吊られているようね。それ以外には見たところ何も持っていないように見えるわ。……剣も銃も無く、あるのは大小の袋だけ。……なんだか嫌な予感がするわね』

『それがなんですかお姉様! たとえ何を用意しようともお兄様の前では返り討ち。それで死んでも自業自得です! お兄様の唇を奪った罪は万死に値するのですから、いわばこれは決闘の体をとった公開処刑! さあお兄様、ヤッチマイナーーー!!』

「「「「殺ッチマイナーーー!!!!」」」」

 

 私怨爆発な雫花の声に乗じて、観客達も盛り上がる。

 興奮に高鳴っていく、皆の眼差し、息遣い、そして鼓動。誰もが待ち焦がれた、決闘の始まりを感じて!

 

『でーはこれより、生徒会書記・《魔術戦闘科》雨宮雪兎対《普通科》下司葛人の決闘を始めたいと思います。開始の合図は学園長――お願いします!』

 

 実況席を映していた巨大スクリーンの映像が切り替わり、学園長の掴み所のない笑顔が映される。

 

『はいはーい呼ばれて飛び出て学園長です。……ではまず、決闘開始の前にルールを説明するわよ』

 

 学園長としての威厳を保つためか、おちゃらけた口調を改め、細くしなやかな指を三つ立て、

 

『敗北条件は三つ。一、怪我もしくは気絶などによる戦闘不能。二、戦意喪失による降参。そして三、ステージからの転落。……まあようするに、相手をフルボッコKOかギブアップかステージから吹っ飛ばせば勝ちね』

 

 途中「全殺しはありですか~?」という質問に『99.9殺しまでならOKよ』と笑顔で返しつつ、

 

『それ以外については何でもあり。武器の使用制限は一切無し。物理・魔術・超能力その他問わずあらゆる技術・能力・武器の使用を許可します。そして戦闘においても目潰し金的等あらゆる攻撃を許可。学園には優秀な《医療科》の生徒達がいるから、死ななければ大抵の傷は治せます。だから心置きなく闘って下さいね』

 

 説明が終わる。

 全ての準備は整った。

 さあ、闘いの幕を上げよう。

 

『では二人とも。学び舎で鍛えた力と、学んだ知恵と、培った技を尽くし、学園生徒としての誇りを胸に――』

 

 雪兎が静かに片足を踏み出し、前傾姿勢をとる。葛人は背負った袋を下ろし、その口部分を手に持ち構えた。

 

『――決闘開始!』

 

 

 

 ダンッッッッ!!!

 

 

 

 瞬間、ステージを震わす轟音。

 それは踏み出した足に氷属性の魔力を込めた雪兎の踏み込みによる――絶対零度の足音。

 ステージに凍結した足跡を刻み、雪兎が疾走する。

 それはまさに雪原を吹く一迅の疾風。討つべき敵、葛人めがけて駆け抜け繰り出さんとするは――必殺の斬撃!

 

『って早!? 最初からクライマックスですか雪兎さーん!?』

『なるほどねえ。何をしてくるか分からない相手に対して、最速の一撃で決めるというわけね雪兎君』

『たとえ何を用意しようとも使わせる前に倒せば意味が無い! 流石ですお兄様!!』

 

 対して葛人は、その手に握った袋――何が入っているのか丸く膨らんだそれをバットのように構え、迫る雪兎に向かって突き出した。

 そのポーズはまさしく――ホームラン予告。

 

『え?』

『あら?』

『ちょっww』

 

 そして更に、葛人はその袋を大きく横に振りかぶる。

 それは格好だけなら伝説の《ホームラン王》ベーブルースを彷彿とさせる、無駄に雄々しく、謎の自信に満ちたバッティングフォーム。

 この時、それを見る者全ての心が一つとなった。

 

 

 

「「「「馬鹿だコイツ!?」」」」

 

 

『馬鹿ですかー!?』

『お馬鹿なのね』

『馬鹿すぎるですわww』

 

 然り。馬鹿だ。大馬鹿だ。

 速度が違う。力が違う。技術も勢いも何もかも、全てにおいて常人を上回る雪兎の一撃を、たかが袋で止めようというのか。

 いや、この際袋の中身はどうでもいい。仮にそこに彼を一撃で倒しうる何かが入っていたとしても――それを当てさせてもらえるとでも思っているのか?

 

『そんなわけないでしょう。魔力で強化されたお兄様の身体速度に、たかが通常の肉体が繰り出す攻撃が追いつけるわけありませんわ。攻撃が届くその前に、お兄様の刃があなたを捉えますのよ!』

 

 故に下策。即ち必敗。

 誰もが一瞬後の決着――葛人の無様な敗北を確信する中、氷剣を手に疾走する雪兎とそれを迎え撃たんとする葛人。二人の距離は限りなくゼロへと近づき、そして……ッ

 

 ――鈍い、だが高らかな激突音が結果を告げた。

 

 重い衝撃に吹き飛ばされ、『彼』は床へと叩きつけられそうになる。

 幸い空中で身を捻り着地。ステージ外への落下は免れ、痛みに顔を歪めながら立ち上がるも、見開かれたその瞳は驚愕と困惑に染まっていた。

 そして、それを成した者は――

 

「なあ、聞かせてくれよ……」

 

 獰猛な獣の笑みを浮かべて

 

 

 

「ねえねえ今どんな気持ちー?(笑)」

 

 

 

 下司葛人は、問いかけた。

 たった今、自分が袋のフルスイングで殴り飛ばした――

 

「き、さまぁ……ッッッ」

 

 ――雨宮雪兎へと。

 

「「『『『ええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?』』』」」

 

 

 全 員 驚 愕 。

 

 

 そしてアリーナに――否、学園全てに驚愕の絶叫が轟く。

 何が起こったのかもわからぬまま叫ぶ観客達。一方、それをしてやったりと――まるでとっておきの悪戯を成功させた悪童のような笑みで眺める葛人。

 そんな彼が持つ袋がその時、独りでに激しく揺れ出した。どうやら激突のショックでパニックに陥ったらしい『中身』が激しく暴れているようだ。

 

「うっわヤベ」

 

 それを抑えつけながらも、葛人はたまらず

 

「イケメンぶっ飛ばすのって超ー気ッ持ちいいや❤」

 

 

 決闘の初っ端で観客の度肝を抜いた一撃の感想を、最高にゲスい笑顔で呟くのだった。

  

 




半年以上ぶりに投稿完了。
お久しぶりですいやマジで。
忘れていたわけではないですよ。ただ進まなかっただけです万年スランプだから。
とりあえずあと二話くらいで第一章が終わるので、それまではこの作品に専念したいと思います。なるべく早めに……次の週くらいに投稿できるよう頑張りますので、どうかしばしお待ちください。でわ
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