女体化☆チーレム~変態スキルで学園無双!~   作:どるふべるぐ

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前話に葛人の戦闘準備エピソード加筆しましたので未読の方は先にそちらをご覧ください。


『決闘!イケメン対おっぱい星人~おっぱい星人は二度死ぬ編~』

『雨宮雪兎の戦闘力の三倍になる武器や作戦を四時までに用意する……そんな事が本当にできるアルか?』

 

『――え? そんなの出来るわけねえじゃん』

 

 下司葛人が、雨宮雪兎を殴り飛ばす。

 そのありえない光景を、客席に座るクラスメイト達と共に目にした時、スイ・リーの脳裏に蘇ったのは、困惑するリーに葛人が言った言葉だった。

 

『決闘開始までのこの短時間でどーやって強くなれってんだよ。仮にスゲエ武器を手に入れられたとしても、ぶっつけ本番で使いこなせるはずねえだろ。まして小手先の作戦で奴との戦力差を覆せるはずねえよ。俺は不可能を可能にできるヒーローじゃねえっての』

 

 ならば……この光景は何なのだ?

 

 呆然と、リーは……いや、アリーナの客席を埋め尽くす全ての者の瞳がそれを見る。訳も分からず、驚愕を浮かべて。目の前で起こった事が何なのか、誰もが理解できなかったから。

 

 なんだ? 何だ何だ何だ何が起こった?

 

 いけない。驚愕が思考を阻害する。判断を狂わせる。

 落ち着け。落ち着け。まずは状況を整理しよう。

 事件内容は、葛人が雪兎を殴り飛ばした事。凶器は何かが入った袋。犯行方法はそれを大きく横にスイングしてぶつけた……ただそれだけ。

 

「――いや、おかしいアル……」

 

 パワーこそあったが、速度は目で追えるものだったし、軌道もごく単純。

 それをあの雨宮雪兎が、魔術はもとより剣技においても最上位の戦士である彼の動体視力が捉えられぬはずはない。それに、速度においては確かに氷剣が上回っていた。

 ならばそもそも――なぜ、葛人は袋を当てられたのだ?

 再び、思考の迷宮に迷い込む。探す答えは違和感の闇の中。光すら見えぬ無明の底を手探りするような感覚で、手掛かりを探していく……けど、見つからない。

 なんだ。何かを見落としている。けど一体何を? 何を? 何をなにをナニヲなにを何を――――

 

『――現在(めのまえ)に手掛かりがニャいのならば、記憶の宮殿(じぶんのなか)を覗いてみることだヨ。ユーが観察し記憶した過去に、手掛かりは必ずある。どれほど巧妙に隠れた謎も、探偵の目を逃れることは出来ニャいのだからネ』

 

「――――ッ!?」

 

 思い出した。

 かつて己に探偵の術を教えてくれた師の言葉と、それに導かれるように甦った己が記憶の中に在ったその場面を。

 それは、雪兎と葛人が互いの武器をぶつけ合う瞬間。

 雪兎が振るった氷の剣が、袋よりも早く葛人を斬りつけようとしたその時――

 

「氷剣が、ほんの一瞬止まった」

 

 そう。本当に僅か。ゼロコンマ以下の僅かな一瞬。氷剣が小さく震え、勢いを失ったのだ。

 まるで、何かに驚愕し動揺したかのように。

 そして、止まったそのわずかな間に葛人の袋が追いつき、殴り飛ばされたのだ。

 だが、何故? ……何が、あの雨宮雪兎を止めた?

 

「一体……何をしたアルか……下司葛人」

 

 漏らした重い呟きに、答える声は無い。

 故に見つめ、観察し、推理しよう。

 誰もが驚愕し混乱する観客席で、リーはステージ上で睨み合う二人を見つめる。

 冷徹に、精細に、倫理と知性で全ての謎を暴く――探偵の眼差しで。

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 その瞬間、僕――雨宮雪兎は確かに勝利を確信した。

 冷気を放ち、虚空を切り裂く氷の(サーベル)。鍛えた肉体と剣技を以て眼前の敵――下司葛人へと繰り出すのは、手加減容赦一切無い斬撃。

 殺さぬよう峰打ちにするものの骨の二・三本は折れるかもしれんが、学園の秩序を乱した罰と思ってもらおう。

 半円を描き迫る袋が届くまで約一秒、対して僕の刃は――後ゼロコンマ五秒で届く!

 

(――勝った!)

 

 勝利を確信し、一撃で打ち据えようとした――瞬間

 

 

 

「やややめてお願い殺さないで下さああああいっ!?」

 

 

 

 迫る袋が発した甲高い悲鳴。

 

「なッ――!?」

 

 そのあり得ぬ事態に、僕は思わず剣を止めた。――止めてしまった。

 それは一瞬の、だが致命的な隙。

 驚愕と混乱に硬直した次の瞬間、袋が激突する。

 体重を乗せたフルスイングの衝撃。直撃と同時、咄嗟に袋の進行方向へと床を蹴り衝撃を逃がそうとするも、勢いを殺しきれず吹き飛ばされた。

 

「くッ……!!」

 

 中空で半ば反射的に身を捻りなんとか両足で着地。叩きつけられることを防ぐも、衝撃に脳が揺れた事によって膝から力が抜け、僕はその場に膝をついてしまう。

 身体が震える。肉体的な痛みよりも遥かに強い、精神的なショックに。

 今のはまさか……!? いや、そんな。だが確かに声が……ッ!? 

 

「なあ、聞かせてくれよ……」

 

 予想外の事態に愕然とする僕を、嘲り笑う声。

 俯いていた顔を上げる。目を向けた先では、ゲスの笑顔が見下ろしていた。

 

「ねえねえ今どんな気持ちー?(笑)」

 

 全神経を全力で逆なでするその台詞に、驚愕を上回る怒りが込み上げる。

 僕は立ち上がり、葛人を睨みつけた。

 

「き、さまぁ……ッッッ」

 

 震えるほどの怒りが、体の底から溢れ出て声となる。

 だが葛人は茶化すような笑みを崩さず――その時、奴が握る袋が内側から激しく揺れ、暴れ出した。

 

「うっわヤベ」

 

 慌てて抑え込もうとしながらも、その顔は爽快な笑顔で――

 

「イケメンぶっ飛ばすのって超ー気ッ持ちいいや❤」

 

 怒りに噛み締めた奥歯が、軋みを上げた。

 一方、袋はなおも暴れ続け、もはや抑えがきかなくなっている。

 そして、ついに――

 

 ――ビリッ!

 

 内部からの激しい動きに耐え切れず裂け目が生じ、袋が一気に破れた。

 そして、中に閉じ込められていたモノが、ついにその姿を現す。

 

「――っぷはああ~!! や、やっと出られたぁ……」

 

 白い毛に覆われた、丸く柔らかな体と円らな黒目。

 愛らしい見た目とは裏腹に、どことなく幸薄そうなオーラ漂うその生き物は――

 ……どこかで見た事がある気がする。だが、どこだ?

 己が記憶を探ろうとした瞬間、観客席の一部――たしか葛人と同じ普通科の者達――から驚愕の声が上がった。

 

「「「ルゥちゃあああああああああああああんっ!?」」」

 

 思い出した。生徒名簿で見ていた。たしか普通科に所属している、アザラシ妖精のルゥだ。

 

「ちょっ、なんでルゥちゃんが!?」「そういえばさっきから姿が見えなかったけど……」「え、誰あのアザラシ?」「普通科の生徒?」「可愛い」「モフモフしたい」「でも顔色悪くね?」「毛むくじゃらなのに何で顔色分かるのよ」「いやオーラというか雰囲気が」「確かに」「てかこれってもしかして……人質?」「「「……………………」」」

「「「ルゥちゃん逃げてええええええええええ!!」」」

 

 突然のアザラシ登場に騒然とする観客達。その視線を一身に受けるルゥは、葛人に後肢の付け根を掴まれながら、ゼェゼェと荒い息をつきガクガクブルブル震えている。

 

「し、死ぬかと思いましたあぁぁぁ」

「おいおい落ち着けよ。たかがちょいとばかし死にかけたくらいじゃねぇか。俺達の戦いはまだこれからだぜ」

「いや『これからだぜ』って何ですか!? いきなり袋に押し込められたと思ったら振り回されて……、私もうびっくりして、ホントに怖かったんですからねぇぇ!」

 

 キレ気味の涙目で抗議するルゥ。対して、葛人は爽やかな笑みで

 

「怖いのは俺も一緒だ。けど二人ならどんな恐怖も乗り越えられる。……だろ?」

「爽やかに言っても騙されませんよ! というかその言い方だと、まるで私がすすんで一緒にいるみたいじゃないですか! 冗談じゃありませんよ今すぐ離してくださいーー!!」

「ええい落ち着け観念しろやっ! なぁにお前にバトルしろと言ってるわけじゃねえよ。ただ俺に身を任せて、ちょっくらブンブン振り回されてりゃいい簡単なお仕事だ」

「絶・対・嫌ですううううううう!!」

 

 詐欺師か悪魔めいた笑顔で言いくるめようとする葛人と、それを全力で拒否するルゥ。コミカルにも見えるそのやり取りに、だが僕は笑うことなどできない。できるはずが、ない。

 

「貴様……。なんだ、それは……ッ」

 

 声が震える。湧き上がる不快感と、そして怒りに。

 

「これはアザラシ妖精のルゥちゃん。俺の頼もしいお友達だ」

 

「ねー❤」とほざく姿に僕の中で、何かがブチッと切れる音がした。

 

「ふざけるなッ!! 貴様、それはどう見ても人質だろう!」

『いやいや葛人君~。何でもありとは言ったけど、さすがに人質は駄目だよ~』

 

 怒りのままに糾弾すると、VIP席から眺める学園長の声も続く。

 観客席からもブーイングが起こり、アリーナ中の非難の眼差しが葛人に降り注いだ。

 それに対して葛人は

 

「え? いやこれ人質じゃねえよ。――ただの《武器》だ」

「――なに?」

 

 一切悪びれぬ、あっけらかんとした返答。

 斜め上の答えに、一瞬誰もがポカンとした。

 が、

 

「「「いや何言ってんだお前!?」」」

 

 誰も納得するはずがない。むしろ更に怒りを爆発させるだけだ。

 

「人質とっといてしらばっくれる気かゲス!」「今更誤魔化せるわけないでしょゲス!」「女の子人質にするとかそれでも男かゲス!」「人質反対! 今すぐ解放しろゲス!」「我々動物愛護同好会は断固として抗議するゲス!」「ゲース!」「ゲス!」「ゲスーー!」

 

 

 

「うるっせええええええええええええッッッ!!」

 

 

 

 無数の罵声と無尽の罵倒。だが、葛人の一喝がその全てを吹き飛ばした。

 その大きさと迫力に観衆は息をのみ、気圧される。

 

「人質だぁ? この俺様が大事なお友達を人質にする訳ねえだろ。――いいか? 人質ってのはなぁ。『交渉』する時、生命と身体の安全を条件にして『要求』を突きつけるため拘束された奴の事。それが『人質』だ。……で、俺は何か『要求』してるか?」

 

 客席全てに見せつけるように、後肢の付け根を握ったルゥをグイッと突き出す葛人。

 自信たっぷりにふてぶてしく、だがどこまでも堂々と、

 

「してねえよなぁ。ついでにこれからも一切するつもりはないぜ。つーわけで『交渉』してない以上、前提条件が崩れたこいつは人質とは言えねえなあ。ああちなみに協力していないから『仲間』でもない。……じゃあ質問だ。人質でも仲間でもないこいつはなんだ?」

 

 暴論だ。筋も何もあったものではない。だがその言葉には、道理も常識も力ずくで捻じ曲げねじ伏せる力が在った。

 ゆえに誰も言い返せない。言語の力技で無理やりに論破されていく。

 

「答えられねえのなら教えてやる。――『武器』だ」

 

 ――沈黙が、下りた。

 

『……なるほどなるほど。これはしてやられちゃったねえ』

 

 誰もが押し黙った静寂。それを破ったのは、スピーカーから流れる学園長の声。

 感心したような苦笑が、今や誰もが硬直したアリーナに響く。

 

『それが《武器》なら、私は何も言えないや。うん、ルール上限りなく黒に近いグレーだけど――黒じゃあないからね』

「――ッ!?」

 

 そうだ。学園長は試合開始の時、全ての武器の使用制限を解除した。魔術・超能力その他問わず、あらゆる武器の使用を許可している。それはつまり――

 

『《武器》として扱うのなら何でもあり。いやぁ見事に引っ掛けられちゃったよ。まさか決闘で――《生物兵器》を使うとはね~』

 

 ――やられた。葛人が自ら全武器使用の許可を申し出た時、すでに奴の思惑に嵌められたのだ。ただ単に強力な武器を用意するためのものと思っていた。だが、違った……。

 

「俺はこいつの身の安全なんざ一切考慮しねえし、雪兎、お前も構う事はねえからどんどん打ち込んで来い。まさか文句はねえだろ? 学園長も認めたしなぁ。反則(クロ)じゃねえって」

「………ッッッ」

 

 悪辣な笑みを浮かべ挑発する葛人に、だが僕は何も言い返すことができない。

 学園長が正式に許可した以上、それは合法だ。例えどれほど卑劣で下衆の極みの様な所業であろうと、全ては全武器使用のルールに則っている。そう、全ては――

 

「オヤジ曰く『美しさが罪ならば、なお罪深いのはそれを愛でぬ事だ』。霧花さんの乳を前にして手を出さないなんてのは乳に対する冒涜だ。俺は乳が好きだ大好きだ。だからこそ、それを冒涜するテメェをおっぱい星人として許しちゃおけねえだからブッ倒す! テメェもそんな俺がムカつくんならああいいぜ。さあ正々堂々血沸き踊る、男の喧嘩ってのをしようじゃねえか! ……ま、テメェが来ないってんなら――」」

 

 ――下司葛人が仕組んだ、作戦(ルール)のままに。

 

「こっちからいッくぜええええええ!!」

 

 葛人が雄々しく叫び、アザラシで殴りかかってきた。

 大上段から振り下ろされたアザラシ――ルゥは、大気を裂く音と「うにゃあああああ!?」という悲鳴をデュエットさせ僕に迫る。

 咄嗟に氷剣を掲げ、それを受けようとした……が、それではルゥにダメージが――

 

「くそ……ッ」

 

 剣をルゥの軌道から逸らし、受けることから回避に変更。素早く右へステップし、ルゥを間一髪で避ける。ブォンと言う音と共に耳元をかすめたルゥは、ステージの床に「ぶべっ!?」っと叩きつけられた。……氷剣にぶつかるよりはダメージが少ないはずだと信じよう。

 

「貴様……ッ自分のクラスメイトを……ッ」

「勝つためならお友達だろうと武器にする! それが俺のジャスティス!」

 

 義憤をこめて睨みつける。だが奴は反省するどころか悪びれもせず、戯言交じりに再びルゥを振り上げた。横薙ぎのそれをバックステップで避ける。だが葛人はすぐさまルゥを構え直し叩きつけてきた。振り上げ。振り下ろし。横薙ぎそして時には頭突き。繰り出される連続攻撃が怒涛の如く襲い掛かる。

 僕はそれを身を逸らし、時にはステップすることで避け続けた。無論、隙あらば氷剣で斬りかかろうとはするのだが、振り回されるルゥの体が邪魔でなかなか攻撃出来ない。

 

「武器の打ち合いは避けて回避に徹するってか。さすがは生徒会書記様。不利になろうが生徒を傷つけようとしない心がけは立派だが……おかげで動きが鈍って闘りやすいぜ!」

「この卑怯者め!」

「ハッハーww そうとも俺は卑怯者でついでにゲスだそれがどうした。父ちゃんはろくでなしでオヤジは糞蟲。それに育てられた俺がゲス野郎なのはあたりまえだっての!」

「開き直るなゲスが!」

 

 罵るも、だからといって状況は好転しない。

 ルゥが邪魔で攻撃できない。一見、出鱈目に振り回しているように思える攻撃も、その軌道は葛人の急所をルゥの体で巧みに隠し、同時に防御も行うものだ。

 

「くそ……ッ!!」

 

 人質でないと言いつつ、しっかり盾に使ってくる。

 厭らしい。やりにくい。苛立ちが思考をかき乱す。剣術が生かせない。全力を……出せないッ!

 

 ……無論、魔術を使えばいくら卑怯な策を使おうともただの通常人など一撃で倒せる。

 だがそれは、氷剣のみで相手をするという宣言に反するものだ。

 できるはずがない。いや、してはならない。生徒会の名の下に誓った事を反故にするなど――あの人に託された、生徒会の名を汚す事だから。

 だが、このままでは……ッ。

 焦燥と苛立ちに乱れていく思考。――その時、僕は記憶の底から蘇った懐かしい声を聴いた。

 

『――いいか雪兎。窮地にこそ冷静でいろ。焦りも動揺も、余計な思考などいらない。ただ相手を倒す、それのみを考えていれば――活路は必ず見えてくる』

 

 ――――ッ。

 ……そうだ。冷静さを取り戻せ。苛立ちも動揺も一旦忘れ、凍らせてしまえ。ただ冷徹に、相手を倒す事のみを考えろ。そうすれば……――見えた!

 葛人がルゥの体を振り回すことで作る肉の防御。そこに生じた僅かな、だが確かな隙が!

 

「そこだッ!!」

 

 鋭く叫び、氷剣を突き出す。

 窮地を貫くべく放った起死回生の刺突は、攻防一体で振るわれるルゥの体をミリ単位で掠め、傷つけることなく通過し宙を奔る。己を貫かんと迫る刃に目を見開く――葛人の顔面へと!

 そして鋭く凍る剣先が、葛人を貫く――瞬間、葛人が咄嗟に顔を逸らせた事で狙いが外れ、その頬を浅く斬るのみで終わった。

 結果、与えられたのは小さな傷だけ。だがそれは、僕の剣が確かに届いたという証だ。

 

 そうだ。僕は雨宮雪兎、栄光ある生徒会の一員だ。

 ならば、どんな下衆が相手だろうと臆さず、どれほどに卑劣な手段を使われようと惑わず、己が力と技を以て誇り高く勝利するのみ。かつて誰よりもそれを体現していた、あの人のように!

 思い出した誇りと戦意。それを胸に、僕は打倒すべき相手――葛人を睨む。

 対して奴が浮かべたのは、血のしたたる頬を歪めた――余裕の笑みだった。

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 凍える刃が掠め、冷たく痛む頬。それを歪め、俺は余裕の笑みを作る。

 ふっ、良い一撃だ。そうこなくちゃ面白くねえ!――ってな感じの好戦的スマイルは我ながら上手くできてると思うんだ。

 つーわけで、……心の中では正直になっていいよね。うん駄目って言われようが叫んじゃうよ今の気持ち。だって何事も我慢は良くないからね。オヤジも『外面は繕っても心の中では正直に』って言ってし。では、いっせーの……

 

 だあああああああああああくっそヤバかったああああああ!!!!!!

 

 つーか死ぬっ!? 今の刺突とか後ゼロンマ一秒遅れてたら死なないにしても片目串刺しだったぞ!! ふっざけんなよなにミリ単位の僅かな隙をついてんの!? こっちはアザラシ振り回しつつ盾にするのに必死こいてんのに空気読めよ! 少しでもルゥの体で俺の急所が隠れる様に立ち回ったり努力してるってのに馬鹿なのアホなのチートなの!? ってかあああああクッソやっぱコイツ強えなチクショー!!

 

 え? 余裕? そんなもん最初からねえよ!

 弱い奴が弱みを見せたらその時点で付け入られるから強がってんの! ハッタリは男の最後から三番目の武器だ文句あっか!

 だってこいつは資料を見た限りでも俺の10倍は強いし。魔法抜きの戦闘技術だけでも軽く5倍近く差があるだろうし。あ、我ながら戦力差ぜつぼー的だわ。

 

 いやさ、理想的には決闘開始と同時に一撃必殺で仕留めるはずだったんだよ。

 できる限り挑発し、いかにも何か企んでますよ~と思わせることで初撃を誘う事には成功。あとは袋に詰めたルゥの悲鳴をベストなタイミングで聞かせ隙を作ってからのカウンターアタック。これも成功。最後は衝撃で上手く意識を失ってくれれば俺の勝ち! 

 ……となるはずが、あろうことか野郎、直撃の瞬間にルゥの進行方向に合わせて床を蹴ることで上手く衝撃を逃がした挙句、空中で体勢を立て直しダウン回避しやがった。たぶんあれ半ば無意識のアクションだぜ。

 

 という訳で開始早々最大のチャンスを逃した俺は、現在外面だけは余裕ぶりながら、実は必死に攻撃しているのです。でも当たらない。華麗にステップしつつ最小の動きで回避とか戦闘センスの差にヘコむからやめろやマジで。

 おまけに

 

「もう一撃っ!!」

 

 澄んだ声から放たれた斬り上げを、上体を逸らし回避する。

 何とか当たらなかったものの、斬られ凍結した髪が宙を舞った。

 

「ハッ、惜しかったなあ雪兎っ」

「まだだ!!」

 

 瞬間、天へと駆け上っていた氷剣が反転。地へと墜ちる斬り下ろしとなった。

 逆Vの字を描く連撃が、凍える殺意を纏って俺に迫りってぎゃーーー!?

 

「ギッリギリで回避いいいいいいッッッ!!」

「ちっ……しぶといな」

 

 っぶねー!? 危,ねー!

 野郎こっちの動きに徐々に慣れてきてやかる。隙をついての攻撃も精度と数が上がって、致命打をもらうのも時間の問題。

 まあつまりは、このままじゃどう頑張ってもまともにやったら勝てないんだわ。

 

 「フッ、見えてきたぞ――貴様の動きが!」

 

 新たな斬撃が繰り出される。今度の狙いは肩。上体を横にずらし避けようとするも、腕を少し深く切られた。これが何度目の回避かは知らん。だが徐々に増えていく傷は、その深さを増していっている。時間は無い。短期決戦で決めなければ――やられる。

 けどやられてたまるかってんだ!。

 

 心の中で叫び、俺は後ろに飛びのいた。回避運動の直後に無理矢理やったので体勢はズタボロ。体の正面ががら空きだ。

 当然雪兎はこの好機を逃すまいと追撃をかける。繰り出そうとするは、床を蹴りダッシュの勢いを乗せた斬撃――瞬間、俺は腰に吊った小袋の中に片手を突っ込み、取り出した物体(ボール)、今まで隠していたもう一つの『武器』を投げつけた!

 

「チミに決めたああああ!!」

 

 それは一見して、大きめのビー玉ほどの赤い玉。

 斬りかかるため床を蹴った直後の、捨て身の誘いで作った回避不能のタイミングを狙い投げつけ――たら雪兎は迷うこと無く切り払う事を選択しやがった。少しは迷えよ可愛くないな! なんて心の叫びを嘲笑う様に、奴は迫る赤い玉を斬りつけ――

 

 BON!!!!

 

 鼓膜を打つ爆発音と、小さな爆炎。小爆発したそれに雪兎は目を見張った。

 爆発が目くらましとなり隙が生まれ、驚き硬直した雪兎を、すかさずルゥでぶっ叩く。

 

「へにゃぶっ!?」

「くっ!?」

 

 デュエットする二つの声。

 雪兎の右半身に当たった一撃は、だが奴を倒れさせるまでには至らない。まだ体勢が安定して無い状態からの攻撃だったからか、思ったより威力が弱かったようだ。

 が、武器の方はしっかり役に立ったぜ。

 

「なんだ、今のは……ッ!?」

 

 僅かに焦げた前髪と、その向こうで驚愕する瞳。

 それをもたらした武器の名は――

 

 「――《癇癪玉(かんしゃくだま)》。昔懐かしの危険玩具だよ」

 

 火薬と金剛砂を混ぜたものを和紙に包んで玉状にした、《クラッカーボール》とも呼ばれる物。衝撃によって発火・爆発するそれは、その危険性ゆえ販売中止になった禁じられた玩具だ。

 あ、ちなみに

 

 

 

 「火傷・火災等の怪我・事故を起こす危険がありますので、素人は絶対に自作しないで下さい☆」

 

 

 

 危険な火遊びダメ・ゼッタイ。お兄さんとの約束だゾ☆

「「「テッメー俺らに何やらせてんだああああ!!」」」とかいうクラスメイトの怒声が客席から聞こえてきたけど気にしない。今は目の前の戦いに集中だ。

 

「ほれおかわりだ!」

 

 すかさず新たな癇癪玉を取り出し投げつける。

 

 「要らんっ!!」

 

 対して雪兎、今度は切り払わず右に素早くステップし回避。

 はいその対応適切です。避けられた玉は背後で床に接触しその衝撃で爆発。小さくとも確かな爆炎は、作る時火薬を増して威力を上げているから当たればそれなりのダメージを負う。故に下手に接触し爆発させるより回避した方が正解。……なんだけど、一度で適切な対処されるのはムカつくわー。

 

 「だったら――」

 

 そっちが『そう』来るのなら、俺は『こう』するぜ。

 俺は腰に吊った袋をまとめて掴み、

 

「――避けられんようにしてやるよっと!」

 

 中身を辺りにぶちまけた。

 

 「なにっ!?」

 

 宙に投げ出した袋から飛び散った多数の癇癪玉は床に落ち、ステージ上に転がり拡散する。白い床に散らばった癇癪玉の赤の色で、ステージは赤い水玉模様に彩られた。

 なんということでしょう! 簡素で味気ないステージが、(おれ)の手で迂闊に踏んだらドカンと弾ける愉快なプチ地雷原へと劇的にビフォーアフターしました!

 

「雪兎、テメェの為にリフォームした特製ステージ。これで華麗にステップ踏めるんなら――踏んでみろや!」

 

 叫び、ルゥを挑発とセットでフルスイング。今度はしっかり体勢を整え、全身の捻りを乗せた全力で!

 流石の雪兎も足元の癇癪玉が邪魔で身動き出来ず、やむなく腕でガードし受ける。

 轟く激突音、感じる確かな手ごたえ。この期に及んでも剣で受けないのは感心だが、それで衝撃は防ぎきれまい。案の定、その唇からは僅かに苦しげな声が漏れた。

 

「重い、な……ッ!」

 「だろ? これが友情の重さってやつだ!」

 

 俺とルゥの友情タッグは伊達じゃねえ。ちなみに今やズタボロのルゥは「こんなの友情じゃありませんよおおおお!」とか泣き叫んでるが、俺には分かってるさ照れ隠しだってな「違いますこれガチですよおおおおおお(号泣)!」照れ隠し乙。

 涙を流して照れまくるルゥと共に、俺は圧倒的格上――雪兎に立ち向かう。

 

 こいつは強い。単純な実力差はおそらく10倍以上。剣技のみでも5倍は下回らないだろう。つまり本来の実力勝負なら、絶対に勝てない。だが……。

 圧倒的な戦力差、絶対に覆せないとしても――縮める事ならばできる。

『敵を確実に倒したければ三倍の戦力を用意せよ』

 それはつまり――三倍『以下』の戦力差なら、どんなに強い奴でも弱者に負ける可能性はあるってことだ。

『2.9倍』それが弱者が逆転勝利できる最低ラインなら、

 

「だったらその域まで、テメェの戦力を落とせばいい!」

 

 決闘開催が決まった時、挑発し本番で攻撃手段を限定させた。ルゥを武器にして動揺させ、戦意と剣筋を鈍らせた。最後にステージ上に癇癪玉を配置する事で移動を制限、動きを封じ――雪兎が発揮できる力を落とせるだけ落とした。後は戦力差が三倍以下になっていることを祈りつつ、気合と根性とついでに友情で、

 

「テメェをぶっ倒すだけだ雪兎おおおお!」

 

 そして叩く!

 叫んで叩く。睨んで叩く。

 情け容赦無く全力込めて「うにゃっ!? 痛っ!? やっ、そんなっ、何度もバンバンしゃれたら逝っちゃうううううう!!」泣き叫ぶアザラシでブッ叩く!!

 

「卑怯下劣何とでも言え! 罵倒侮蔑お好きにどうぞ! 正々堂々?格好良く? 贅沢は敵だ。名誉?称賛? 欲しがりません勝てるなら! これが俺の戦い方じゃーー!!」

「黙れ卑怯下劣のゲス野郎!」

「うっわ実際言われたらムカつくー!」

 

 罵倒と共に閃く雪兎の氷剣。

 攻撃の隙をついての斬撃が、お返しとばかりに俺の胸板を斬る。

 鋭い一撃にシャツが裂けて血が滲んだがそれがどうしたっ。だったらこっちは、やられた分だけやり返すだけだ!

 

「上ー等ーだッ! そのイケメン面ボッコボコにしてやんよ!」

「こっちこそ、その歪んだ性根を叩き直してやる!」

 

 叫びルゥをフルスイングする俺と、睨み氷剣で斬りかかる雪兎。

 俺達のタイマンは、爽やかさなんて微塵も無く罵り合いながら白熱していった。

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 アリーナのグラウンドに造られた特設ステージ。

 白いコンクリートの上で繰り広げられる二人の戦いに、今や誰もが見入っていた。

 下司葛人と雨宮雪兎の決闘。ほぼ全ての者達は、葛人が一方的にやられるフルボッコショーになると予想し、それを期待すらしていた。

 だが今、目の前で繰り広げられている光景はどうだ。

 

「イケメン殺す! 友情で殺す! 俺達の友情で死ね死ね雪兎ォ!」

「どの面さげて友情をほざくかゲスが! 友と思うなら今すぐその女生徒を解放しろ!」

「そうですよおお! いい加減放してくださいよおお! このままじゃわたし――」

「くらえ友情のフルスイング!」

「うにゃあああああ中身がっ!? 中身がでひゃううううううう!!」

「くっ、……待っていろ。今すぐこいつを倒して解放してやる!」

 

 互いに殆ど仁王立ち。片や氷剣、片やアザラシを握りしめ、一歩も引かずに対峙する。大気に轟く二人の叫び。その体から迸る闘気が熱く激しく燃え上がり、見る者に熱狂をもたらす。

 そこに在るのは、男と男の意地とプライドのぶつかり合いだった。

 泥臭く、非合理的で、どうしようもなく感情的。でも、だからこそ――

 

「すっげええええええ!!」

 

 どうしても、魅せられる。魅せられてしまう。

 

「何だよあの転校生意外とやるじゃん!」「雪兎さんが手加減しているからって言っても、まさかここまで渡り合うとはな……」「でもゲスい」「うんやり方はゲスいな」「でも……」「だからこそ……」「「すっげえ面白え!」」

 

 惹き込まれる。目が、離せない。

 

「雪兎様頑張ってーー!」「ホモなんかに負けないでーー!」「ああっ雪兎様があんなに叩かれて……」「それでも凛々しく戦うお姿が素敵ですーー!」「「「やっちゃって下さい雪兎様ーー!!」」」

 

 驚愕、好奇、そして興奮。二人が織り成す血沸き肉躍るエンターテイメントショーに、今やアリーナの観客ほぼ全てが魅せられていた。

 だが、その一方で――

 

「……気に入らない」

 

 沸き立つ歓声に混じる、吐き捨てるような呟き。

 雪兎と葛人の決闘に、誰もが目を輝かせている。そんな中、その少年だけは一人、不機嫌に眉をしかめ、表情に不快の色を浮かべていた。

 くすんだ灰色の髪。整ってはいるが、神経質そうな印象を感じさせるロシア系の顔立ち。かけた眼鏡の奥に光る瞳は鋭く、その眼差しは毒をもっている。

 纏うのは《超能力戦闘科》の制服。朝、雨宮雪兎に襲い掛かり、そして返り討ちにされた少年だ。

 

 あの後、敗北した彼は意識を失ったまま風紀委員に引き渡され、目覚めたのは風紀委員本部の懲罰房の中だった。幸い厳重注意とちょっとしたペナルティを言い渡された後に解放されたが、その心の中を満たしていたのは反省や後悔ではなく、雪兎への復讐心。

 たかが未覚醒者の魔術師風情に敗北した。それが彼の歪んだプライドを傷つけ、いずれ必ず目にもの見せてやると昏い決意を抱かせた。

 

 が、そんな決意なんぞ知るかヴォケが!! とでもいうような事件が起きた。

 『空から墜ちてきたホモによる公然べろちゅー事件』である。

 自分が貶めるべき雪兎の顔に、先に泥を塗られた。しかもどこの馬の骨とも知れぬホモにである。

 

 「気に入らない。ええまったく――どちらも気に入りませんねえ……ッ」

 

 呟く彼の昏く燃える瞳が、ステージ上の二人を捉える。

 どこまでも執拗に獲物を狙う、冷酷な毒蛇の如く。

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 叩く叩く叩く!

 

「ゼェ…ッ…ゼェ…っだークッソいい加減倒れろ雪兎! さっきから何回ブッ叩いてると思ってんだマゾかテメぇは!」

 

 斬る斬る斬る!

 

「ハァ…ッ…ハァ…貴様こそ、僕が何度斬りつけたか分かっているのか! 殺さんように加減する身にもなってみろ!」

「知・る・か・ヴォケ! テメェが俺を倒せねぇのが悪いんだろ文句は自分に言え!」

「貴様が言うなああああああああ!!」

 

 そして罵り合う! 

 荒い息を吐き、吹き出る汗を飛び散らせ。ばら撒いた癇癪玉のせいで迂闊に動けん俺達の戦いは、結果、互いに一歩も引かんド正面からのどつき合いとなっていた。

 

「お前が!(ゼェ…)倒れるまで!(ハァ…)殴るのを!(ヒィ…)やめない!(フゥ…)けどそろそろ疲れてきたからいい加減終わらせろ!」

 

 ルゥを振り回し何度も叩きつける。それを受ける雪兎は肌を上気させ肩で息をし、疲れが見えているものの倒れる気配は無い。むしろ赤い瞳に更なる闘志を燃やし、反撃に斬りつけてくる始末だ畜生。

 だってこいつ直撃の瞬間、重心を絶妙に移動させて衝撃の殆どを足から床に逃がしているもの! その上、体の芯も上手くずらしてくるからダメージ約半分以上が軽減。そりゃ倒れないよなファック!

 

「貴様こそ…ハァ…ッ…いい加減倒れたらどうだッ! もう何度斬ったか分からんぞ……。どれだけしぶといんだゴキブリか貴様は!」

「生憎こちとら父ちゃんの無茶にガキの頃から巻き込まれてきたおかげで身体だけは丈夫になってんだよ! あとゴキブリはオヤジの方だ!」

 

 怒鳴る俺の全身は切り傷まみれ。浅くとも無数に刻まれた斬撃の痕から滲む血で、今や学ランは真っ赤っかだ。

 我ながら見事な満身創痍。致命傷こそ無いが、血を失い過ぎれば貧血でいずれ意識を失っちまう。そうでなくとも息は上がり、全身に疲労が重りのように圧し掛かっているのだ。時間が無い。まともに戦える戦闘可能時間は――残りわずか。

 だったらその間に――終わらせるしかねえ!

 

 そうと決まればまずは攻撃の隙を突き、癇癪玉を踏まんよう注意しつつ素早く後退。

 十分な距離をとった後、この手で掴んだルゥに声をかける。

 

「……おいマイフレンド」

「な、なんでしゅかぁ~? (しくしく……)もう許して下さいよぅ。私これ以上されたら壊れちゃいますよぅ……」

「レイプ目になってるとこ悪いが、もう一撃だけ頑張ってくれ。……そうしたら終わりだからよ」

「ほ、本当ですか!? 嘘じゃないですよね? だったら頑張ります! 私なんでも頑張っちゃいますっ!」

「おうおう頼もしいな大変結構。じゃあちょいとお口を開けてくれ」

「はい? えーと……あ、あ~ん?」

「よしよしいい子だこれをお食べ❤」

 

 素直に小さな口を開けるルゥ。

 俺はニッコリ笑って――その口に特大の(ボール)をねじ込んだ。

 

「ふむあひゃあああああああ!?!?!?!?」

「あ、噛むと破裂するから咥えたままでいてね☆」

「ふみゃああああ!? ふみゃあああああああ!?」

 

 拳大の玉を咥えたまま号泣&絶叫するルゥ。

 突然距離を取った俺の動きを警戒していた雪兎は、愕然と目を見張る。

 

「なっ!? 貴様一体何を――」

「――するかは見てのお楽しみだ!」

 

 叫び、ルゥを力の限りスイング。ただし今度は、叩きつけるためではなく――

 

「こ・れ・ぞ・友情の生物兵器アザラシ爆弾だあああああ!」

 

 思いっきりぶん投げるために!

 遠心力を乗せたルゥの体が俺の手から砲弾の如く飛び出し「しにゅううううしんひゃううううう!?」涙と悲鳴をまき散らして雪兎へと迫る。

 だが衝突の直前、雪兎は咄嗟に横に飛びのきそれを回避。避けられたルゥはそのまま空しく床に落下。と同時に俺は床を蹴り――

 

 白煙が爆発した。

 

 炎は無く、だが凄まじい煙がルゥの口から噴出しステージを覆い尽くす。

 

「これは!? ……癇癪玉ではないな。 煙玉か!」

 

 体中の穴から煙を吹き出し、白目でビクンビクンしているルゥ。幸い癇癪玉の無い位置に落ちたため怪我はないようだ。その無残な姿に雪兎が顔をしかめた――瞬間、俺の拳がその横っ面をぶん殴った!

 

「がはっ!?」

 

 立ち込める煙に紛れた不意打ちの一撃。煙がステージを覆ったその瞬間にダッシュで距離を詰めブチ込んだ右拳から感じる、体の芯を捉えた確かな手ごたえ。

 

「反応できねえ不意打ちなら、お得意の衝撃軽減も出来ねえだろ!」

「く……ッ!」

 

 効いてる。だが、まだこれからだ!

 雪兎の左頬にめり込んだ右拳を離し、続けて左拳を振り上げる。狙うは奴の右頬。一切の手加減無く全力で拳を繰り出し――だが雪兎が掲げた氷剣の側面で防がれた。

 俺の拳を受け止める、冷たく硬い氷の刀身。

 

「僕の氷は、貴様の拳如きでは砕けんぞ!」

「ハッ、さすがに殴り壊せねえか。だったら――吹っ飛ばす!」

 

 叫び、氷剣に押し当てた拳に力を入れ――中に握り込んでいた癇癪玉を握りつぶした!

 

 爆 発 !!!!

 

 鼓膜をブチ破るような轟音。そして閃光と爆炎が二人の間で炸裂し、俺は衝撃に吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされながら、感じるのは炎に炙られた肌の熱さと左腕の激痛。くっそ痛いけど生きてる証拠だ。特に左腕とか指がひしゃげて肉が裂けたR‐15状態だが、その価値はあった。

 会心の笑みを浮かべ、俺は見る。爆発で煙が吹き飛ばされたステージに愕然と立つ――氷剣を失った雪兎の姿を。

 その手から弾き飛ばされた氷剣は黄昏の空に舞い上がり、砕け散った。もはや雪兎を守る物は何も無い。だが、

 

 

「小癪なア!」

 

 至近距離から炎に炙られ、髪と服を焦がされながらも、雪兎はすぐに次の氷剣を生み出そうとしていて――

 

「さッせねえよ!」

 

 俺は空中で身を捻り、床へと足を突き出す。力の限り全力で、そこに転がる複数の癇癪玉をまとめて踏みつけた。――瞬間、足裏で起こる爆発。足が千切れたかのような衝撃と痛みが襲い――俺の体を雪兎の下へと吹き飛ばす。

 

「うおおおおクッソ痛ええええええけど速ええええええ!!!!」

 

 爆発力で宙を駆け突撃する、文字通りの空中特攻。

 左腕は壊れた。今ので足もオシャカ。頼れる生物兵器ルゥちゃんはレイプ目でビクンビクンしてる。攻撃手段はほぼ失った。だから最後は、

 

「これで仕舞だ! 派手にぶちかますぜ雪兎おおおおおお!!」

 

 砲弾と化した俺の肉体そのものを――ぶつける!

 俺は加速する。この決闘の終幕に向けて。

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 奴が迫る。

 全身の傷から血をまき散らし、獰猛な笑みを浮かべ。

 意識を保っている事すら不思議な程の姿で、その瞳から燃え上がるような生の輝きを放ちながら。

 真っ直ぐに。迷い無く。全身全霊を以て宙を駆け、奴が――下司葛人が迫って来る。

 

 爆発力によって加速したその勢いと速度は、僕が氷剣を作る速さよりも上。剣を使っての防御は――間に合わない……ッ!

 今となっては回避も同じ。僕にできるのは、ただ激突の時を待つのみ。

 受けきれるか?――無理だ。

 意識を保てるか?――出来るかもしれない。だが、たとえ倒されずとも、あの勢いで激突されれば跳ね飛ばされる。おそらくは――ステージの外まで。

 

「――ッ!? まさか、それが狙いか!!」

 

 殴り合いで打ち倒す気などなかったのだ。ここまでの立ち回りも、泥臭い打ち合いも、体力を消耗させ隙を作るため。奴が狙っていたのは最初から――僕をステージの外へと吹き飛ばす事。

 

 負けるのか? 僕は?

 負けてしまうのか? 僕は?

 義姉さん達に必ず勝つと誓っておきながら、

 生徒会の誇りを背負い剣を執っておきながら、僕は――

 

 ――ちゃりん。

 

 小さな、だが澄んだ音。銀の光が、破れた懐から零れ落ちて、揺れる視界に映る。

 それは、雪の結晶のペンダント。あの人から託された、大切な――

 

 

 

『――じゃあな雪兎。……お前とはここでお別れだ。生徒会と霧花達はお前に託すよ』

 

 

 

 ―――ッッッ!!!!

 駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!!!!

 

 

『……ごめんな。結局全部お前に任せちまって。でもお前ならきっと出来るさ。何たってお前は、俺の自慢の――』

 

 

 駄 目 だ !

 

 

『……そんな顔するなよ。お前のせいじゃないさ。お前は何も悪くない。今学園が滅びかけてるのも、それを救うために俺が死ぬのも――生徒会長として力不足だった俺のせいさ』

 

 

 負けてはいけない負けてはいけない負けてはいけないんだ!

 

 

『このペンダントと一緒に受け取ってくれ。俺がやり遂げることが出来なかった全てを。やらなければならなかった何もかもを。お前に託す。……ごめんな雪兎』

 

 

 僕が負けたら、生徒会の名に傷がついたら。

 あの人の想いが、あの人の願いが、あの人に託された総てが、

 

 

『こんな――不甲斐無い兄貴でよ』

 

 

 ――兄さんの死が、無駄になるッッッ!

 

 そして、僕の総てが激情に染まった。

 

「う、おああああああああああああああ!!!」

 

 冷静であろうとした理性が、怒りに焼かれる。

 殺すまいとする自制が、殺してでも勝たねばという恐怖に凍り付く。

 思考をのみ込み心を染め上げ膨れ上がる、恐怖が怒りが悲しみがグチャグチャの激情となって――気が付けば、僕は掌を葛人に向け、

 

『――ッ!? やめなさい雪兎君!』

 

 己が魔力を撃ち放っていた。

 それは、白銀に染まり総てを凍らせる光の奔流。

 止めさせようとする義姉さんの声が響く。けど、もう遅い。

 これは魔術ではなくただ単純な魔力(エネルギー)の放出。魔力そのものを砲弾とするこれには、それゆえ術式の構築も詠唱も何も無く、一度放たれれば誰にも止められない。――たとえ僕自身でさえも。

 

 掌から放った氷属性の魔力が、何もかもを凍結させ葛人に迫る。

 空気中の水蒸気を、ステージの床を、霜と氷で覆い尽くし。激情に荒れ狂う、白銀の奔流となって――

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

「面白えッッッ!」

 

 視界を埋め尽くす、白銀の光。

 というかもはやビーム。

 触れてもいないのに既に寒い。押し寄せる冷気が肌に突き刺さり、体の内から凍てつくようだ。

 が、爆発の勢いに乗って宙を駆け、そこに突撃する俺の心はむしろ――熱く燃え上がるッ!

 

「ははっ! なんだよこりゃ避けらんねーって。テッメー俺を殺す気か! ――いいぜ上等だ。やってやるよ雪兎!」

 

 目の前の圧倒的な《力》。

 全てを凍らせる破壊と暴力の光の前に、俺の力なんてちっぽけなもんだ。

 敗北しかないのかもしれない。――が、それがどうした?

 しみったれた辛勝なんて願い下げだ。女々しい惜敗なんぞ糞くらえ。

 男と男の決闘(タイマン)だ。勝つにせよ負けるにせよ、終わりは華々しく戦って戦って戦って戦って――心も体も命すら、総てを燃やした大勝負で飾ってやるよ!

 

「俺の特攻――止められるなら止めてみやがれ!」

 

 叫び、俺は血塗れの足を動かす。

 狙いは床に転がる癇癪玉。それを踏みつけ爆発させ――さらに加速するために!

 

「いっくぜおらあああああああああああああ!!」

 

 全力で振り下ろした足裏が、その表面に触れて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つるん☆――と滑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?」

 

 ぐるんっ――と回る視界。

 

「あらら?」

 

 足が上に頭が下に。前のめりですってんころりん半回転。

 でもって視界に飛び込むのは、踏もうとしていたハズの癇癪玉。

 

「うそーん」

 

 嘘みたいだけどホントのハプニング。あまりにアホらしすぎて絶望よりもまず呆然。

 そして俺は顔面から癇癪玉に 激☆突 した。

 結果――

 

 

 BON!

 

 

 頭吹っ飛びました。

 

 まあ要するに……

 

 

 

 

 

 

 俺は死んじまっただ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 THE DEADEND

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GO TO NEXT!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――人は死んだら何処へ逝く?

 

 なんて質問を誰かにすれば、色々な答えが返ってくるだろう。

 天国。あるいは地獄。極楽。黄泉。ヴァルハラ。ニライカナイ。etc.

 

 ――では、人は死んだら誰に会う?

 

 神? 仏? ご先祖様? 天使? もしかして悪魔?

 やっぱり色々な答えが返ってくるだろうけど、それが本当かどうかは謎だ。

 結局のところ、死んだ後の事なんて死んでみなければわからないのだ。

 

 ……で、実際俺は死んでみたわけなのだが。

 

 

 

「――ま~たお前か坊主ぅ。ったく……こっちはやっと今日の仕事が終わって帰るとこだったんだぞぉ。手間かけさせんじゃねえよ」

 

 

 ごめん。ぜんっぜん状況が飲み込めないわ。

 とりあえず今いるのは真っ暗な空間。

 癇癪玉で滑って転んで爆死するという世にもアホらしい最期を迎えた次の瞬間には、気が付けば俺はここにいた。

 果てが在るのか無いのか、見当もつかない程の無窮の闇が遥か彼方まで広がる、見るからにこの世ならざる場所だ。

 

 そして目の前には

 

「ちゅうか一日に二度死ぬって何だぁ? いくら若いモンは無鉄砲なものっつっても、限度があるだろ馬鹿モンが。お前みたいなゲス野郎でも死んだら迷惑するもんがいるんだぞ。現に今の儂とかなぁ」

 

 おっさんが居た。

 うんおっさんだ。

 髭面でわりと強面のおっさんが、『I❤こんにゃく』とプリントされたTシャツ着て、高そうな椅子にどかっと腰かけながら俺に説教しているのである。

 うん意味が分からないよ。

 

「せっかくこれからハデスと冥界紳同士で飲みに行くかって時に急な残業入れやがってよぉ。……ったく、じゃあちゃっちゃと終わらせるぞぉ」

 

 ポカーンとする俺の前で、心の底からめんどくさそうに溜息をついたおっさん。

 ポリポリと良い感じに禿げ上がった頭を掻きつつ、太い指で俺にタブレット端末を差し出した。

 

「んじゃ、選べ」

 

 何を?

 

「能力だよ。いわゆる《チート能力》ってやつだ。それもらってちゃっちゃと帰れ」

 

 へ? いや、意味が分からんけど?

 

 

 

「だぁかぁらぁ、――チート能力やるからとっとと生き返れって言ってんだよ!」

 

 

 

 え、えー……。

 突然のわけわからん命令に困惑する俺に、ますますイラつくおっさん。

 あれ? というかナチュラルに心読まれてない?

 

「えーと……、つかぬことをお聞きしますが――おっさん誰よ?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 するとおっさんは答えた。

 さらりと。野太く重厚な、そして威厳のあるバリトンで。

 人智を超えた、己が存在の名を――

 

 

 

「おっさんじゃねえ―― 神様 だ」

 

 

 

 ……さいですかー。

 

  

 




約一ヶ月ぶりにこんにちは。来週中に投稿できたらいいなとかほざいてた作者は私です本当に申し訳ございませんでした。
加筆とかしてたら遅くなったんですよ。でもその分無駄に長くなりました。ここまで読んでくださったあなたは本当に偉いです神ですゴッドです読者様は神様です。
ちなみに最後に出てきた神様ですが、実在する神が元ネタです。冥府を統べるこんにゃく好きの神様ですね。葛人が学園に来る途中、一度死んだ時に生き返らせたのも彼です。この時は仕事が多忙だったため声だけで対応しました。けど今回は二回目でその上仕事が終わって手が空いていたので直接対応することに、心情的にはやっと仕事が終わったと思ったら残業が入った気分。それはもう苛立ちますよね。
さて、そんな神様の命令に対して葛人がどう答えるのか。いよいよ戦いが決着する次回をお待ちください。では
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