「…………あァ?」
「いやいやいや、こっちを睨むなよサソリの旦那。こりゃオイラの爆弾の煙じゃねーって、うん」
血で描かれたおどろおどろしい文様から、ぼふんと派手な音を立てて煙が上がる。
そして次の瞬間、誰も居なかった筈のそこには、見覚えのない2人の男が立っていた。
呆けていたのは、一瞬のこと。
突然現れた彼らから目を離さずに、すぐさま武器であるアンテナと携帯を取り出す。が、そんなあからさまな警戒を見せるシャルナークの行動を気にした様子も無いくせに、その一挙一動には微塵の隙も見当たらない。その独特の雰囲気や様子から、黒衣を纏ったその2人はかなりの実力者であることが見て取れた。
全く、何て面倒くさそうなものを呼んでくれたんだ。相変わらず面白そうな表情を浮かべる背後のクロロを庇うようにして戦闘態勢に入ったシャルナークは、内心思い切り彼への文句をぶちまけたい気分になった。
そんな事態に陥る、ほんの数分前。
例の怪しげな本を読み終えたクロロは、やはり愉しげな顔でぱたんとそれを閉じる。その気配を察したシャルナークが振り返ると、彼の上司は床に何やら怪しげな模様を描きだしている最中だった。……血文字で。
「ってちょっと、何やってんの?!」
「異世界人とやらを呼び出す陣を描いている。本来は墨でも描けるそうだが、血液の方が成功率は高いそうだ」
さらりと返ってきたオカルトチックな言葉に、予想外な光景に対してぎょっと目をむいていたシャルナークは、思わず体の力を抜く。この人傍から見ればただの電波だな、とこっそり思ってしまったことも大きい。
「……スミって、あのジャポンで使われるインク?それジャポン語だったんだ…………っていうか、だからってそんな怖いことしないでくれる? 廃墟とはいえ、一応ここアジトなんだけど」
「俺たちの中に、そんなことを気にするような可愛げのある性格の奴がいたか?」
「確かにそうだけどさあ」
怖くはないけど、悪趣味に変わりはないでしょ。やだよ俺、生活空間にそんな訳分かんない禍々しい模様があるの。もっともではあるが納得しにくいクロロの言葉に、シャルナークはぶちぶちと苦情を綴る。ただし小声で。
一方そんな部下の声自体を聴きとってはいても知ったこっちゃないクロロは、いよいよ鼻歌でも歌い出しそうなテンションで、最後の一画を描き終えた。これで何も起こらなかったら八つ当たりされるの俺だよなあ……と、嫌なタイミングでアジトから出払っている仲間たちを恨むシャルナークを余所に、彼は例の陣へとオーラを流し込んだ。
そして状況は、冒頭へと戻る。
短いですね。すみません。