Pull trigger in the world   作:寿 悠里

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ワールドトリガー始めました。
楽しんでいただくとありがたいです。


第1話 黛 千聖

 

 

◆三門市のとあるラーメン店◆

 

 

2人の青年が向かい合わせの席でラーメンを食べている。一人はサングラスを額に上げた茶髪の青年。そしてもう一人は両耳に黒いピアスをしている金髪青年だ。

 

「はぁぁー…ホントめんどうなんだけど。遠征任務とか…」

 

目のつく金髪に端麗な容姿の青年黛千聖(まゆずみちさと)はダルさ全開でぼやく。

 

「あはは、仕方ないだろお前らはボーダーの中でも有数の部隊なんだからな」

 

そう答えるのは向かいに千聖の向かいの席に座っている迅悠一(じんゆういち)だ。彼ら2人は共に近界民(ネイバー)に対抗する組織である界境防衛機関「ボーダー」に所属する隊員である。

 

「てか迅さん、どうにかして俺の隊…いや俺だけでも遠征メンバーから外れることって出来ないすか?」

 

「んっー無理じゃないか。城戸(きど)さんがお前を遠征部隊から外すわけないだろ」

 

「…やっぱりそうすよね…冬島(ふゆしま)さんに遠征行くのやめませんか言ってみっかなー」

 

冬島とは千聖が所属する冬島隊の隊長である冬島慎次(ふゆしましんじ)のことであり、冬島隊はA級隊員による精鋭部隊。A級部隊の中でもランキング2位というトップクラスの部隊として位置づけられている。

 

「あんま冬島さんを困らせんなよー千聖。…ったく、お前は遠征任務のたびにそうやって駄々をこねるよな」

 

「そりゃそうすよ。実際行きたくないんだし、三門市(こっち)にいて防衛任務してたほうがまだマシですね。てか迅さんだって俺とあんま変わんないでしょ」

 

「それは違うぞ千聖。おれは実力派エリートだからな。与えられた任務は迅速かつ完璧にこなすからいいんだよ」

 

「またそれすか。相変わらずすね迅さんは」

 

千聖と迅の付き合いは古く4年半前の第一次近界民侵攻によってボーダーの存在が公になる前からボーダーに所属していた隊員である。2人の関係は単純に言うとライバルであり、同じポジションということもあり、昔から互いに切磋琢磨してきた。当時から千聖は任務に関してはめんどくさいとぼやいていたが、こと戦闘となると当時から圧倒的な実力を発揮し近界民(ネイバー)を撃退していたため現在ではボーダーの後輩隊員で千聖を慕う隊員も少なくない。

 

「しゃーないすね。冬島さんに迷惑かけたくないし、当真や真木も遠征任務には何気に熱心なんで…めんどうだけど行ってきますよ」

 

「ああ、そうしとけ」

 

「俺がいない間になんかおもしろいことあったら遠征から帰ってきたら教えてください。久々に玉狛にも遊びに行きたいんで…主に小南をイジリに」

 

迅は千聖と違い本部所属の隊員でなく玉狛支部という支部に所属しているため、本部にはあまり顔を出さない。

 

「わかったよ。お前が帰ってきた時は多分三門市(こっち)も最高に楽しいことになってるさ。おれのサイドエフェクト(・・・・・・・・)がそう言っている」

 

「はは、それは楽しみすね。遠征から帰ってきてからの楽しみが一つ増えましたね」

 

「ところで千聖…"アレ"はそろそろ完成したのか?」

 

「"アレ"すか。ええ、昨日完成しましたよ。でもまだ、テストが完了してないんで、実戦で使用できるのは遠征から戻ってからになりそうすね」

 

「ほぉ、そいつは楽しみだな」

 

そんな話をしてる間に2人はラーメンを食べ終え、千聖は席を立つ。

 

「じゃあ俺はバイクなんで先に本部に戻りますよ。明日の準備とかいろいろあるんで…これ俺の分の代金です」

 

「おうっ、サンキュウな」

 

「そこはウソでも"俺が奢るぞ"って言ってくださいよ」

 

「あっはは、無理な期待はするもんじゃないぞ千聖」

 

その言葉に呆れた千聖はそのまま迅を残して店を出る。店を出ると前に停めていたバイクに乗り、本部へと戻っていった。

 

 

 

 

◆ボーダー本部基地◆

 

 

本部基地に到着した千聖は冬島隊の作戦室(オペレーションルーム)へと向かっていた。

 

「黛先輩」

 

「ん?おお、双葉(ふたば)かどうした?」

 

千聖に声をかけたのは千聖と同じA級隊員であり、A級6位加古(かこ)隊の攻撃手(アタッカー)である黒江双葉(くろえふたば)であった。

 

「いえ、特に用事があったわけではありませんが、お見かけしたので挨拶をしました…ご迷惑でしたか?」

 

「んなわけないだろ。逆に暇すぎて退屈してんだ、声かけてくれありがとな」

 

そう言って千聖は黒江の頭を撫でる。突然のことに黒江はいつものクールな表情から一転し顔を真っ赤に染める。普段の彼女はあまり感情を表に出さないが、千聖にだけは別だ。

 

「…やめてください。そんな子供扱いするみたいに」

 

「俺からしたら13歳は十分子供だ。でも双葉…お前は本当に強くなったな」

 

「…黛先輩」

 

千聖と黒江が出会ったのは丁度1年前。千聖が防衛任務中に近界民(ネイバー)に襲われていた黒江を助けたのが最初の出会いであった。その姿に憧れた黒江はその後すぐにボーダーの入隊試験を受けボーダー隊員となる。元々のトリオン器官の強さからか入隊後からその才能をいかんなく発揮し瞬く間にA級隊員となっていった。入隊後に再会した千聖には同じ攻撃手(アタッカー)というポジションで(メイン)トリガーも同じであるため、黒江の方から千聖へ教えを請うこともよくある。実際に黒江が異例の速さでA級隊員へと上り詰めたのも千聖の指導が少なからず影響している。その中で黒江の千聖への思いも尊敬から好意へと変わっていていった。

 

「…また稽古をつけてください」

 

「んーそれはもちろんいいんだけど、明日から遠征任務だし戻ってきたらな」

 

「…そうなんですか」

 

千聖は寂しそうな表情で自分を見つめる黒江の頭を再度撫でる。

 

「んな顔すんな。すぐ帰ってくるさ。それじゃあな双葉、加古(かこ)さんにもよろしく」

 

「…はい」

 

黒江と別れた千聖は再度作戦室(オペレーションルーム)へと向かった。

 

 

 

 

◆冬島隊作戦室(オペレーションルーム)

 

 

作戦室(オペレーションルーム)へと入るとそこには、冬島隊狙撃手(スナイパー)当真勇(とうまいさみ)がソファーで昼寝をしていた。当真は千聖と同じ18歳でありながら、ボーダーの狙撃手(スナイパー)個人(ソロ)ランク1位であり、個人(ソロ)総合ランクでも4位に入るボーダートップクラスの隊員でもある。

 

「おい当真、起きろ!」

 

千聖はソファーを蹴飛ばし当真を起こす。

 

「痛って!?んだよ誰だ?…なんだ黛じゃねぇか」

 

「なんだ…じゃねぇよ。冬島さんと真木はどこだ?」

 

「真木は学校じゃねぇか?隊長は確か鬼怒田(きぬた)さんたちと会議があるとかでいねぇよ」

 

冬島隊は四人一組(フォーマンセル)部隊(チーム)構成であり、隊長の冬島は特殊工作兵(トラッパー)という他の部隊(チーム)にあまりないポジションについてる。冬島は元々エンジニアとしてボーダーに入ったため、よく開発室と組んでトリオンを使用した(トラップ)を開発している。その冬島が開発したトリオン(トラップ)を駆使したトリッキーな戦術にボーダートップクラスの戦闘員である千聖、当真そしてオペレーターである真木理佐(まきりさ)を加えた4人がA級2位冬島隊の隊員たちである。

 

「明日から遠征任務だって言うのに学校って相変わらず真面目だな真木は」

 

「おいおい、それじゃあまるで俺らが不真面目みたいになるじゃねぇか」

 

「バーカ、俺らの任務態度見て誰が真面目だって言うんだ」

 

「…そういやそうだったな」

 

この2人の任務に対する態度はお世辞にも真面目とは言い難い、任務に対して積極的ではない千聖、ゲーム感覚で任務を行い実践重視で訓練にあまり参加しない当真。そんな2人がなぜボーダー上層部から黙認されているのか…それはひとえにこの2人の圧倒的な実力にある。

 

「それよも…冬島さんがいないならここにいる意味もないか…おい当真、冬島さんが戻ってきたら連絡をくれ。俺はラウンジでコーヒーでも飲んでる」

 

「へいへい…いってらしゃい」

 

もう一度昼寝をするつもりなのか作戦室(オペレーションルーム)を出る千聖を見送る当真はすでにアイマスクを着用していた。

 

作戦室(オペレーションルーム)を後にした千聖は冬島が戻ってくるまで暇をつぶすためラウンジへと向かっていた。

 

 

 

 

◆ボーダー本部基地内 ラウンジ◆

 

 

ラウンジに到着し、誰か知り合いがいないか見渡していると、千聖は一つのテーブルで一人見知った顔を見つけたのか近付いて声をかける。

 

風間(かざま)さん」

 

「…黛か」

 

「ここいいすか?」

 

「ああ、かまわない」

 

千聖が声をかけたのはA級3位風間(かざま)隊隊長の風間蒼也(かざまそうや)であった。

 

「めずらしいすね。風間さんが一人でここにいるなんて。いつも歌川(うたがわ)菊池原(きくちはら)が一緒のイメージだったんで」

 

歌川と菊池原とは風間隊の隊員であると歌川遼(うたがわりょう)菊池原士郎(きくちはらしろう)のことであり、2人とも風間のことをとても慕っているため本部内で行動を共にしていることが多い。

 

「別に四六時中一緒にいるわけではない。あいつらは今作戦室(オペレーションルーム)で三上と一緒に遠征時の作戦を立てている」

 

「風間さんも一緒じゃなくていいんですか?」

 

「戦闘の作戦を立てるのにいつも俺を頼っていてはダメだとは思わないか。あいつらもA級隊員だ、それぐらいは自分たちでやれてくれなければ俺が困る」

 

人に慕われるということには必ず理由がある。千聖は風間の場合は人を見る能力に関してはボーダー内でも抜きんでていると思っている。風間隊の戦闘員である歌川と菊池原も風間がスカウトした隊員であり、事実A級3位の位置にいるためその実力も折り紙つきである。風間自身常に冷静沈着であり戦場下に於いてもその冷静さを失わない点も千聖が風間をすごいと思う要因の一つでもある。

 

「風間隊はなんかまとまりがあっていいすね。冬島隊(うち)なんて個性派の隊員が多いから多分冬島さんも苦労してるんじゃないですか?」

 

「そう思うんだったらお前も少しは任務に積極的なったらどうだ?当真も実戦任務には熱心だからな」

 

「たしかにそうなんですけど、ここ最近は"アレ"の開発に夢中になりすぎて…」

 

風間は千聖の言葉に眉毛をピクリと動かせる。

 

「ほう…ついに完成したのか?」

 

「はい。つい昨日完成しました。でも性能がかなりピーキーなんで多分俺しか使用できないし本部の規格(レギュレーション)にも沿ってないからランク戦にも使えないですけどね。だから遠征から戻ってきたら城戸さんに実戦任務では使わせて貰えるように頼んでみるつもりです」

 

「そうか…お前の隊は他の部隊(チーム)とはスタイルが異質だからな。おそらく城戸司令の許可も下りるだろう」

 

「そうだといいすけどね。…ところで風間さん」

 

「なんだ?」

 

急に千聖が真面目な顔になったのか風間も身構える。

 

「……明日からの遠征ってどこいくんすか?」

 

 

 

 

風間は無言で千聖の頭を殴った。あまりにも馬鹿馬鹿しい質問につい腹が立ったからである。

 

「いってぇー!!…何するんすか風間さん」

 

「お前のあまりにもアホさ加減に反射的に手が出た」

 

千聖が遠征任務に乗り気ではなかったことは風間も知っていたがここまで任務に対して無頓着だとは思ってもいなかった。

 

「しょうがないじゃないすか…で?結局どこに行くんですか?」

 

「…メノエイデスだ。覚えとけバカが」

 

「ふむ…メノエイデス」

 

その時千聖の通信端末と風間の通信端末が同時になり、準備が整ったとの連絡が入る。

 

「お互いここまですね。それじゃあ明日また」

 

「そうだな」

 

その会話を最後に千聖と風間は互いの作戦室(オペレーションルーム)へと戻っていく。

 

千聖が冬島隊の作戦室(オペレーションルーム)へと戻ると自分以外の隊員が勢ぞろいしており、冬島から明日からの遠征について軽く打ち合わせた後解散となった。

 

 

 

 

そして次の日、遠征部隊(トップチーム)である太刀川(たちかわ)隊、冬島(ふゆしま)隊、風間(かざま)隊の3(チーム)は遠征艇で一同メノエイデスへと出発した。

 

 

しかし、この時千聖は知らなかった。遠征から戻ってきた時にボーダー内でとんでもない事態が起きていることを。

 

 

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